ヒーロー世界のポリスアクション!ベンディス オリジナル代表シリーズ!
今回はブライアン・マイケル・ベンディスとMichael Avon Oemingによる『Powers』。
2000年にImage Comicsで開始され、その後現在は終了しているマーベル傘下Icon Comicsに移籍し、更にDC’s Jinxworldへという経緯を経て、2020年までにトータル98話プラスグラフィックノベル1巻が出版されています。現在はDark Horse Comicsに版権が移行し、完全版という感じで再刊行中です。
最初はサブタイトルに「初期代表シリーズ」と書いていたのだけど、Oemingとのコンビで現在も続くこれは、やはり「オリジナル代表シリーズ」というのが適当かと改めました。ベンディスのオリジナル作でまずどれか、と問われればここから始めて、前後に広げて行けばいいのではないかというところかと思います。
また、この作品はTVシリーズ化もされ、日本でも観ている人も多いと思いますが、自分は観ていません。まず単純に時間的余裕がないことと、それを観てこちらに書くために評価など参照し、まあ日本では往々にしてありがちなふんぞり返った雑な言い草みたいなもんに出くわして無駄に腹立てんのいやだからという理由で。日本だけじゃないんだろうけど、映画や映像作品について安直傲慢に語りたがるだけのそういう部分にはホントもう近寄るのもやなんで。
まず単純にまとめると、これは特殊能力を持ち正体を隠したヒーローと、同様に正体を隠したヴィランが存在し戦いを繰り広げる世界での、能力を持たない警察官たちの物語。ポリス・アクション的なストーリーに、そういった世界観を載せたという感じかもしれない。
今回はその最初の1~6話「Who Killed Retro Girl?」を紹介して行きます。
先に書いたようにアメリカのコミックの中でもかなりのロングランだった大作であるし、大変魅力的なストーリーでもありできれば続けて紹介して行きたいぐらいのところはあるのだけど、とにかくまずかなりの量があるベンディスのオリジナル作品の全貌を把握しなければ、という状況ゆえ、今回はとりあえずのこういうシリーズですぐらいの紹介。可能であればいずれ第2回、3回と続きを追って行きたいシリーズです。
Powers / Who Killed Retro Girl?
■キャラクター
この作品、徹底してセリフのやり取りで進められるので、きちんと名前を呼ばれないキャラクターは姓名もはっきりしなかったり…。Cross警部はWikiで調べて名前がわかったが、今回の作中で呼ばれてるシーンはなかったと思う。少女Calistaにしても、Walkerが名前を呼ばないのでちゃんと書いてないところも多かったり。あと鑑識医は登場シーンそこそこ多いのだが、Docぐらいにしか呼ばれず結局名前わからなかった。
-
Christian Walker:
殺人課の刑事。パワーズに関わるある過去を持つ。 -
Deena Pilgrim:
転任してきた女性刑事。Walkerのパートナーとして捜査に当たる。 -
Cross警部:
Walker達の上司。 -
KUtter刑事:
Walkerの元相棒。事件捜査に関わりたがる。 -
鑑識医:
警察のやや気難しい鑑識医。 -
Calista Secor:
事件関連で身寄りが無くなった少女。Walkerが一時的に面倒を見ることとなる。 -
Retro Girl:
殺害された多くの市民に愛されたヒーロー。 -
Zora:
Retro Girlと共に戦い、親交も深かったヒーロー。 -
Triphammer:
自身で作成した特殊アーマーで戦うヒーロー。 -
Johnny Royalle:
巨万の富で護られるヴィランの親玉。
■Story
#1
物語は、主人公Walker刑事が、事件が進行中のアパートの前に到着するところから始まる。
アパートの前に停められた多数の警察車両。事件現場を立ち入り禁止にするテープで区切られた外には、多くの野次馬が集まっている。
Walkerを迎えた警部が、現在の状況を説明する。
犯人の男の名はFinch。このアパートに7歳の娘と住む女性と交際中で、その女性と口論になり二階の窓から放りだした後、その娘を人質という形でに部屋に立てこもっている。ちなみにその母親は、病院に運ばれた後姿を消した。
殺人課刑事であり、非番だったWalkerがここに呼ばれた理由は、そのFinchという男が交渉役として彼を指名したからとのこと。
Walkerはアパートに入る。犯人が立て籠もっている部屋のドアの前には、多くの武装した警官が待機している。
歩み寄り、ドア越しに部屋の中へ声を掛けるWalker。
「Finch?Walker刑事だ。なんで俺を呼んだんだ?俺はあんたを知ってるのか?」「Finchじゃねえ!Flinchだ!このマヌケが!」「なんだFlinchだったのか!すまないな、外のマヌケどもなんにもわかってないんだ」
『Powers Volume 1』より 画:Michael Avon Oeming
のっけから注釈みたいなのを入れるのもなんだと思うが、こちらの画像はホント出だしの2-3ページ。まず目に入るのはこの圧倒的なフキダシの量。読みにくいだの非常識だの言う前に、じっくり内容を読んでみれば、これが例えば刑事ドラマのような映像作品では、ごく普通ぐらいのやり取りであることがわかる。そういう自然な会話のやり取りをコミックという形で再現したいという考えからベンディスがこういった方法を使うのは、既に紹介した作画も自身で担当したデビュー作『Fire』の時点でも見られる。
これはこのページを開いた時点で読者が読むのを拒否してしまうという危険性を知った上での、コミックという形式に新たな表現を広げたいというベンディスの挑戦である。
ちなみにこれは映像という手段では簡単に出来得るものだが、小説というようなスタイルで考えれば、延々と改行しながらこういった短いやり取りを続ければ、量的な部分で想定されるシーンの時間経過に齟齬が出てしまい難しいことになると思われる。つまりこれはコミックという形式でのみ可能というような手法であることも指摘しておきたい。
とにかく子供を安全に外に出してくれ、それから話し合おう、と説得するWalker。
「あの女、俺の金を全部盗みやがった!おかげで俺の計画は台無しに…」
理解できない自分の言い分を主張し続けるFlinchと、子供の解放を第一にというWalkerの説得は平行線をたどる。
しばらくのFlinchの沈黙。
そして突如建物に爆発音が響き渡る!
ドアを破り、室内に駆け込むWalkerと警官隊。
天井に空いた大穴。Flinchの姿はない。尚もアパート内を捜索する。子供は無事に何事もなかったかのように、ピーナッツバターを舐めながら、テレビのアニメを観ていた。
Walkerと警官隊は、大穴の下に集まり、上を見上げる。
「なんてバカだ」「奴は他の出口を見つけたわけだな」「3時間前にこれができなかったのか?おかげで試合を見逃しちまったよ」上を見上げながら、呆れたようにつぶやく面々。
外に出る。
背中に背負った噴射装置で、天井を突き破り脱出したFlinchだったが、徐々に出力が落ち、降下して来る。
やがて落下するように着地し、地面に横たわるFlinch。そこにいくつもの銃が突きつけられる。
ストレッチャーに拘束され運ばれるFlinchに、walkerは噛みつくように問いかける。
「おい!お前なんなんだ?俺はお前みたいなやつに会ったこともないぞ?なんでこのふざけたゴタゴタに始末をつけるために俺を呼んだんだ?」
「Wolfeなんだ…。奴が言ってたんだ…。俺が奴の仲間とブレアグリーンを襲撃したとき…。もし事がどうしようもなくなった時には、あんた…、Christian Walkerを呼ぶって…」
「なぜだ?」
「奴は…、あんたが「パワーズ」の連中に…、優しいって…」
ここで出てくる「パワーズ」は、特殊能力や特殊装備などにより、スーパーヒーロー、スーパーヴィランとして活動する者たちの総称。このシリーズのタイトルでもある。ここでは特にに日本語に直すことなくパワーズのままで行きますので。
「いいだろう!Wolfeに言っとけ!奴の保釈請求の時、俺が聴聞会に行って、どのくらい優しいか見せてやるってな!」Flinchに掴みかかるWalkerだったが、救急隊員らに押しとどめられる。
「何やっとるんだ、Walker。マスコミがそこら中にいるのが見えんのか」Walkerに小言を言う警部。
そこにやって来た警官に、立て籠もり現場にいた少女の対応を押し付けられ、困惑するWalker。
少女を連れて署に戻ったWalker。
少女の扱いについてソーシャルサービスに電話をするが、話がかみ合わず埒が明かない。
その背景では、「パワーズ」が存在するこの街ならではの、警察署の風景が描かれる。警官の後ろに従って進むコスチュームの男女。事情聴取されるコスチュームの男。
きちんと食事をとってもいない様子の少女に、デスクの上にあったシリアルを用意する。
少女の話の端々に、年端も行かない子供には過酷な状況が垣間見え、Walkerは落胆しながら話を合わせる。
「テレビのマンガ観る?」「昔はね」「じゃああれを見たことある?」「背景がみんなきれいに描かれているけど人間だけ平ぺったくて変なの」「気が付かなかったな」「気が付かない?あれを見ると気持ち悪くなるの」「なんで人間も空みたいにきれいに塗らないのかな?」
画面に右側でWalkerと少女の会話が続く一方、左側では連行されてきたコスチュームの男が暴れ出し、警官に殴打され尋問室に押し込まれる。
それを見ていたWalkerに気付き、不敵な笑みを向けてくる同僚刑事Kutter。睨み返すWalker。
『Powers Volume 1』より 画:Michael Avon Oeming
少女と共に自分のブースに戻ったWalker。
少女はシリアルに手を付けないまま、呟く。「お母さんはあたしのために戻って来ない、そうだよね?」
「俺にはわからないな」
「気持ち悪いマンガめ」
ここで金髪ショートカットの女性が登場する。
クローズアップから、徐々にカメラが後退し、彼女がいる部屋の様子も見えてくる。
その間延々と話し続ける女性。その内容から、彼女が他の警察署からこの署に移って来た新任の刑事であることがだんだん見えてくる。
そして更にカメラが後退すると、彼女が話していた相手が、先の事件現場でWalkerと話していた警部であることがわかって来る。
このシリーズではWalkerの相棒として、主人公に次ぐぐらいのポジションとなるDeenaの初登場シーンであり、キャラクターを知るためにこの辺のセリフも紹介すべきなんだが、さすがに大変すぎるんで画像でごまかします。とにかくこんな感じです。
『Powers Volume 1』より 画:Michael Avon Oeming
Deenaが話している警部の部屋に、Walkerがドアを開けて顔を出す。
ソーシャルサービスが対応してくれない、あの子をどうすりゃいいんですか、とWalker。
ソーシャルサービスの方でも事件が起き、他の郡に頼んでいるところだが、それまではお前が面倒見てくれ、と警部。
「でも俺は事件を抱えてるんですよ」「これが現状だ」「俺には事件が…」「我々はみんな事件を抱えとる」
「でも俺は事件を抱えてるんですよ…」
勤務の間は、署の託児所に彼女を預けろ、と警部。
そこでDeenaが会話に割り込んでくる。「その子いくつなの?」「え?知らん…。6歳ぐらいかと思うが…」「訊くぐらいできるでしょ?」
改めて彼女の存在に気付くWalker。「すまない、君は…?」「Deena Pilgrim。こっちに配属になったばかりよ」「そうか、おめでとう。多分貧乏くじを引いたんだと思うが…」「いいえ、こちらへの転属を希望したの」「本気か?」「もちろん」
少しあっけにとられながら、改めて警部に向き直るWalker。「それで、託児所は何階なんですか?」
「3階だ。新しい相棒と一緒に行け」
「行きましょう」少し困り顔のWalkerに言うDeena。
Walkerのブースで彼が戻るのを待つ少女。
デスクの電話が鳴る。少し様子を見て、鳴りやまない電話の受話器を取る。「はい、殺人課4班。Calistaです」近くの署員の真似をして応答する少女。
戻ったWalkerが、少女の手から受話器を奪い応答する。「殺人課Walk…なんだと?」
愕然とするWalker。
「出動なの?」Deenaが問う。
「ああ、出動だ」無表情に答えるWalker。
住宅街の中の事件現場に到着するWalkerとDeena。周囲は野次馬が囲み、署員が整理に当たっている。
車を降り現場へ向かう。「通報者は?」「匿名の通報だ」Walkerの問いに現場の警官が答える。
「本当にそうなの?彼女がそんなことになるとは思えないけど?」「彼女だ」「似ているだけじゃ…?」「そうじゃない」「でも、なぜそう確信を持って言えるの?」「わかるだけだ」
そこには血まみれで横たわる、誰もが知っているヒーローRetro Girlの死体があった…。
『Powers Volume 1』より 画:Michael Avon Oeming
#2
かなり斬新な手法を駆使し、一見ちょっととっつきにくそうにさえ見えるが、ちゃんと乗れればテンポの良い会話のやり取りや、カメラワーク、独特のコマ運びで本当にカッコイイ新しいタイプの刑事コミックを見せてくれる第1話なんだが、かなり難易度が高くちゃんと伝えられたんだか不安…。
というところなのだが、第2話ではさらに斬新な手法をぶち込んでくるこの作者コンビ。第2話では全編にわたりページの下3分の1近くに、本編とは基本的に別に流れているテレビニュースが描かれている。上のメインパートでは言及されないヒーローRetro Girlのこれまでの説明にもなっているのだが、ちょっとややこしくなりすぎるんで、上部分で進行中の本編と関連の薄いところは省略ということになってしまうのだが、とりあえず下の画像の感じ。
『Powers Volume 1』より 画:Michael Avon Oeming
通常の警察手続きにより、証拠として保管されるRetro Girlの着衣や装備品。何と表現したらよいものかよくわからない物体、素材に困惑しながら、手続き手順に沿って証拠品ナンバーを付けられ、整理保管されて行く。
解剖台に乗せられるRetro Girlの遺体。鑑識医は刑事たちに向かい、そもそも通常の人間と同じであるかも疑わしいこういったケースでの鑑識で、君らが望むような捜査のための答えを渡せるかどうかは疑問だ、と半ば怒りながら語る。
鑑識セクションから署に戻るWalkerとDeena。これからどうするのか?と問うDeenaに、ファイルを洗って容疑者を探す、という通常の捜査手続きを答えるWalker。「俺たちは仕事をするだけだ」
エレベーターに乗ると、Kutter刑事が追いついてきて、新任のDeenaに笑えないジョークで絡んでくる。うんざりしながらエレベーターを降りる二人。
二人は警部の部屋へ行く。
「ひどいことに巻き込まれちまったってとこだろうな?」「どうすりゃよかったんです?電話を取らなきゃよかったんですか?」
「ちょうど昼飯に家に帰ったとこだった。8歳になる娘が大泣きしてな…」「このことで?」「昼食の間中、「お話」をしなきゃならなかった。生と死についてのお話だ…」
「この件が片付くまで、マスコミには近づくな。必要なことがあればこっちに言え」
二人が部屋を出ようとしたとき、警部のデスクの電話が鳴る。受話器を取り、話し始め、二人を制止する警部。
「何だと?いつだ?屋上にか?」
受話器を置き、上を指さしながら二人に向かって言う。「お客だ」
屋上に上がるWalkerとDeena。そこにはRetro Girlとチームとして戦うことの多かった女性ヒーロー、Zoraが待っていた。
「やあ、Zora」「まだ犯人は見つかっていないの?」「まだだ、だが必ず…」「本当に悔しいわ。Janisもこんな形で終わりたくはなかったはず」「分かっている」
Zoraと友人として話すWalkerの様子を訝るDeena。「Janis?それが彼女の本当の名前なの?」
「いいえ、彼女の本名はRetro Girlよ」口をはさんできたDeenaに突っぱねるように言い、再びWalkerに向かって話すZora。
「Johnny Royalleと話したの?」「まだ誰とも話してはいない」「そう。私が思いつく動機のある者と言えば…」
「何故あなたが自分で彼と話さないの?」とDeena。「できないの。私には彼に対する接近禁止命令が出されている」「君に対してか?」「私たちの多くに対してね」
『Powers Volume 1』より 画:Michael Avon Oeming
「最もショックなのは、あまりにも簡単に見える形でこれが起こったこと、そうじゃない?」
「私が言ってるのは、可能性やその類いのこと。あなたは私たちがいずれ虫のように力尽きると思っているでしょう」「俺たちの最後の時から、時々君はそう感じていたということか」
「そうね…」
「今では色々なことが変わってしまったのは分かってる。それでも私に電話してきてもいいのよ。ただ世間話のためでも」「ああ、わかってる」「じゃあ何故かけてこないの?」「ああ、そのうちに」
少し悲し気な表情を浮かべるWalker。Zoraは屋上から飛び立つ。「何か分かったことがあったら伝えるわ」
「彼女は知り合いなの?」と尋ねるDeena。Walkerは答えず、戻って行く。
途中の画像に見えるように、Zoraの登場後、ページ下のニュース報道部分ではシンクロするように、Retro Girlの功績などを紹介する中で、彼女と近かった人物としてZoraが、かつてこの局が行ったインタビュー映像で紹介される。まあ日本のテレビ報道なんかもこうなるだろうという感じ。
また、次のページでは同じテレビ報道部分で、彼らの会話に出てきたJohnny Royalleが、Retro Girlの重要な敵として、ヴィランをも組織する犯罪組織のリーダーとして紹介されている。
巨額の財により弁護士に護られた大物ヴィランが、ヒーローに接近禁止命令を取り付けるとか、リアルではありそう。
ZoraとWalkerの会話の謎の部分については、いずれ意味が明らかになります。
署内の託児所に立ち寄るWalkerとDeena。
少女は赤い布をヒーローのマント風に身につけ、他の子供達と一緒にヒーローごっこに興じている。
少女の様子に少し安堵するWalker。
Johnny Royalleの店、Royalle Clubにやって来たWalkerとDeena。
「あたし達ここに、普通に入ってくの?」「普通に入って行く」「ここについてのろくでもない話も読んだけど?」「そうだな」「あれ本当なの?」「かなりの部分はな」「そりゃあ素敵」
赤く照明された店内に入って行く。バー。いくつかのテーブル。奥にプールテーブル。
バーテンダーに話しかけるWalker。「なんなんだい?」「Johnnyを探してる」「何だ?第2回公演か?」「どういう意味?」
「お前ら少々遅かったってことだ」後ろからの声に振り向くと、三つ子のように同じ容貌の三人のスキンヘッドが憎悪に歪んだ表情で立っている。
「もう別のおまわりがボスを連れてった」
「何のために?」「質問のために」「与太話のために」「嫌がらせに」「結局嫌がらせだ」
「それで?あんたらどんな芸ができんの?」「その力でなんか企んでるの?」Deenaの問いに無言で睨み返す三人。
「誰がJohnnyを逮捕したの?」無言で睨み返す三人。
「教えてやるけど、あたしは一日のこの手のクソ対応の限度に達したとこなんだよ」「誰が彼を逮捕したんだ?」無言で睨み返す三人。
「その方がいいなら、こいつはしまっとこうじゃないの」拳銃を掲げるDeena。
素手で三人に殴りかかり、次々と打ち倒して行くDeena。それをやや呆れ顔で眺めるwalker。
「どうだい、あんたのパワー使いたくなってきたかい?それを警察官に使ったらどうなるかわかってんだろうね?」
一人をプールテーブルに投げつけ、キューで押さえ込むdeena。
「こうすりゃどうだい?」拳銃を出して男の頭に突きつけるDeena。「これで使用許可が出たんじゃないのかい!」
ニュース報道では、警察署前の取材班に何か動きがあった模様。カメラが激しく動く。
『Powers Volume 1』より 画:Michael Avon Oeming
「気分は良くなったか?」「ずいぶんね。じゃあもう一度丁寧に尋ねるわよ。あんたらのボスをダウンタウンに連れて行ったのは誰なの?」
WalkerとDeenaの背後の壁のテレビ画面が、下部分のニュース報道と同じ警察前の情景を映す。
連行されてきたJohnny Royalle。
そして、Kutter刑事が大写しとなる。
「現時点ではノーコメントです。通してもらえますか?ありがとう」
『Powers Volume 1』より 画:Michael Avon Oeming
#3
ここまで作品の雰囲気をなるべく正確に伝えたいという考えで、かなり量も多いセリフをあちこち拾って書いて来たのだが、結局のところかなり自分の趣味的にこのやり取り好きだからでやってるところも多いと気付いた。ちょっと長くなりすぎるんで、ここからもう少し省略していくつもりだが、小説映画などでも相当廃人的にこの手のジャンルのファンである者にそう思わせるぐらいのコミックなのだよこれは、ということは言っておきたい。
ということを、この第3話の最初から始まるkutter刑事のJohnny Royalleへの尋問シーンを端から書こうとして気付いた…。
Johnny Royalleに強硬に詰め寄るKutter刑事だったが、Johnnyは全く動じる様子がない。そして、私がこの警察に対して1億5千万ドルの訴訟を起こしたことを考慮し給え、と告げる。
尋問室のドアが開き、警部がWalkerとDeenaを連れて入って来る。
警部はKutterの抗議を無視し、Johnnyに無表情ながら丁寧な官僚的態度で謝罪し、彼を解放する。
「私はここで人生の41分を無駄にさせられたところだ」腕時計を示しながら、Kutterに言うJohnny。「41分だ」
尋問室を出ようとしたJohnnyは、Walkerに気付く。
「おやおや、ここにアイツがいたぞ」Johnnyは手をかざし、Walkerの顔の下半分を隠しながら言う。
「何か言いたいことはあるかね?マッチョ君」
「言いたいこと?そうだな、短いのがあるぞ」そしてWalkerは続ける。「包囲は迫ってる」
「ハハッ、そうかね」そしてJohnnyは、ドア口で煙のように消える。
独断専行で警察にも被害を及ぼしたKutterに怒る警部。Kutterは強硬に自身の考えを主張する。
Retro Girlは自分たちの事件だと責めるDeenaとWalker。
「今日は帰れ、Kutter」ドア口で命令する警部。
Kutterは不満気に部屋から出て行く。
WalkerとDeenaは、遺体安置所の解剖室へ行く。
解剖医がガスバーナーを使い、Retro Girlの遺体を開こうとしているのを見て、驚くDeena。
君がやってくれんかね、刑事?私は力が弱すぎるんだろうな。とメスを差し出す解剖医。
そして解剖医は、これから始めてみたらどうだ?と証拠品パッケージに入れられた物を示す。「彼女の左手人差し指の爪から見つかったものだ」
それは何だと問うWalkerに、解剖医は難解な専門用語を使い、延々と説明し始める。
さっぱりわからないDeenaがたまらず、「英語で話して!」と叫ぶ。
「赤い金属塗料だ」
赤い金属塗料の手掛かりから、WalkerとDeenaは赤い金属性の特殊アーマーを使うヒーロー、Triphammerを訪ねる。
背後の壁にタイプの違ういくつもの特殊アーマーが並び、正面の複数のモニターに多くの衛星からの映像が映し出される部屋で彼らを迎えるTriphammer。
「話す時間を作ってくれたことに感謝している。あなたは最近Retro Girlと交際があったか?」尋ねるWalker。
「交際?」
沈黙し答えを待つWalkerとDeena。
「それは君からの私に対する質問なのかね?」
「言ってる意味がわからないが?」とWalker。
「君が私に彼女と交際があったか、と尋ねているのかね?」Triphammerは重ねて言う。
「ああ、あったよ」と答えるTriphammer。
『Powers Volume 1』より 画:Michael Avon Oeming
ご覧のようにTriphammerの元ネタは明らかにアイアンマンだが、深読みするほどの意味もないだろう。
ここではまたここで使われているテクニックについて。
ページを同サイズのコマに分割し、同じ構図を重ねて行くというのは、アラン・ムーアや最近ではトム・キングも使用する手法だが、それぞれに使う意味は違っても、基本的にはセリフを中心に、そのシーンを作者の考えるリズムで読ませるという目的のもの。一見映画の長回しにも似て見えるが、ページを複数のコマに分割する形で見せるマンガ=コミックでは、そこに発生する読ませる/見せるリズムというものが重要になり、少し使い方は違うと思う。
ベンディスがここでやってるのは少し変形した同様の手法。この手法で一定のリズムを作り、セリフの間を作って行く形で読ませるというもの。
最初の方で言及したこの作品で多用される、吹き出しがコマを埋め尽くすような短いやり取りの往復でスピード感のある会話として読ませるのとは、また逆の方法。
こうやって見て行くとベンディスが、様々な手法を駆使することでどう読ませるかにいかにこだわって作品を作って行く作家なのかがわかる。あー、前の『Fire』からこれがベンディスの考えだということは明らかなんでそっちばっかり持ち上げてるけど、これらを実際に実現している作画Michael Avon Oemingもホントすごいよといつも思う。
結局当方もベンディスに「読まされ」てしまい、ついついやり取りを延々と書きそうになったので、途中で画像と説明を挟みました。後はもう少し短く書く。
そしてTriphammerは、Retro Girlと肉体関係もあったことを話す。約一年前。どういう経緯でそうなったか、どう関係が終わったか。
やや傲慢でプレイボーイ風のTriphammerの話し方に、Deenaは反感を持ち始める。
「今朝アンタどこにいたの?9時から12時の間」
「何故そんなことを聞く?」
「アンタの有名な”ヤッた女”の一人の死体の爪から、赤い金属塗料が見つかった」
沈黙するTriphammer。
Triphammerは、合衆国政府からの感謝状を見せ、自分が全人類にとって重要で、高潔な人物であるかを傲慢に話す。
そして並んだアーマーを示し、サンプルになるものはどれでも持って行き、早く自分をその容疑者リストから外せと言う。
路上で、屋台で買ったピザを食べながら事件について話すWalkerとDeena。
「あのTriphammerはひどい屑野郎だったわね」「まあな」「彼と知り合いなの?」「以前にな」「アンタ能力を持ってるの?」
「何だって?」
「アンタ能力を持ってるの?」
「空を飛んだり、殴って壁を壊すような能力か?」
「そう」
「持ってない」「本当に?」「持ってない」「本当に?」「持ってない」
いきなりWalkerの腹を蹴り飛ばすDeena。Walkerは吹っ飛び、路上に倒れる。
「おい!何するんだ、Deena?」
あっけにとられたような顔のDeena。
『Powers Volume 1』より 画:Michael Avon Oeming
「ごめんなさい…」
昔付き合ってた男が能力を持ってるみたいだったのに、何回聞いても否定するの…。そんな時友達から、デートした相手に同じようなことがあって、不意打ちをくらわしたら正体を現したって聞いて…。それでその彼を不意打ちで殴ったら小指を折ったということがあって…。
「だから俺は能力なんて持ってないって言っただろう」
これまでのZora、Johnny Royalle、Triphammerのやり取りから、Walkerもその仲間だと思ったというDeenaに、自分は過去の捜査の過程で何度も顔を合わせているだけだ、と説明するWalker。
少女を託児所から引き取り、Deenaと共に自分のアパートに帰るWalker。
少女を寝かしつけるのをDeenaに任せたWalkerだったが、Deenaは少女が彼にも来て欲しがっていると言う。少女の不幸な境遇を言葉少なに悲しみながら、Deenaは帰って行く。
「大丈夫か?」Walkerはベッドの中でもう眠たげな少女に話しかける。
「大丈夫。ねえ聞いてもいい?」「なんだ?」
「”Chaotic Chic”ってどういう意味?」
「何だって?聞いたような気がするな。どこで聞いたんだ?」
「覚えてない…。」
「”Chaotic Chic”?俺は何処でそれを聞いたんだ?」
少女を寝かせ、リビングに戻りRetro Girlの殺害現場写真を見るWalker。
それは彼女が倒れている後ろの壁に書かれていた。
“Kaotic Chic“
『Powers Volume 1』より 画:Michael Avon Oeming
#4
「あなたがこの事件について既に知っていることは了解しています。Retro Girlは死亡しました」
「事件現場には、何者かがスプレーペイントで”Kaotic Chic”という言葉を残しています」
「この”Kaotic Chic”という言葉に心当たりはありませんか?」
WalkerとDeenaは、事件現場の写真を手に手掛かりと思われる”Kaotic Chic”という言葉について、ヒーローたちに聞き込みをして回る。
だが、返ってくる答えは「わからない」というものばかり。
『Powers Volume 1』より 画:Michael Avon Oeming
二人はこの件について再びTriphammerに尋ねるが、返ってきた答えは同様のものだった。
だがそこでTriphammerは、Walkerに向かって、君に渡したいものがある、と言う。
「このRetoro Girlの騒ぎに関連して、少々過去を探っていた。これを君が持っていたいのではないかと思ってね」
そしてTriphammmerは、何かパネル様の物と思しき包みをWalkerに手渡す。
「証拠や手掛かりといったものじゃない。これはちょっとした君が持っていたいんじゃないかと思っただけのものだ。個人的に開けてくれたまえ」
外に出た二人。DeenaはWalkerがTriphammerから何を渡されたのか気になるが、Walkerが答える気がないのもわかっている。
「アンタまだあたしがぶっとばしたの怒ってる?」「俺はぶっとばされてない。ありゃ不意打ちだ」「まだ怒ってる」「そうじゃないと言ったろ」「そのプレゼント開けるの?」「個人的にな」
これからどうするの?と問うDeena。今手掛かりと思えるのは”Kaotic Chic”しかないから、それを追い続けるしかないと答えるWalker。
会話の最中に上空でヒーローとヴィランの戦いが繰り広げられる。ヒーローが敵をビルの壁面に叩きつけ、そして絡み合ったまま飛び去って行く。
さほど珍しくもない情景としてそれを眺め、会話に戻る二人。
今度は悪者の方に質問してみるべきじゃないか、と提案するdeena。
『Powers Volume 1』より 画:Michael Avon Oeming
片っ端から画像を引用してても、とは思うのだけど、こういう面白は外せない。地方によっても違うのかもしれないが、地震が日常となってる我々日本人のそれほど大きくない地震の時の反応を、地震がない国の人が見た時こんな感じかも。
そしてヴィラン達に聞き込みをする二人。返ってくる答えは同様のもの。だが収監中の一人がそれを知っていると話す。
「俺はその言葉のスプレーペイントを17か所の建物で見たよ」
カメラのような記憶力を持つ誇るその犯罪者は、それをいつどこで見たか話し始めるが、Deenaはそれを遮り書き留めるように言う。
「わかった、そうするよ。でも…」
「何か要求があるんなら言ってみろ」
「ああそいうわけじゃない。ここはそれほど厳しい施設じゃないし、残り3か月をのんびり過ごすだけだ。本を完成させる時間もとれるしね」
「だがあんたらが誰と話すべきなのかは、もちろん分かってるよな」
「誰だ?」
「俺が言わんとしている誰かは…」
「Wolfさ」
男の言葉に従い、収監中のWolfに会いに行く二人。27人を殺害した殺人鬼であるWolfは、厳重に拘束されパワーズの能力を押さえ込むDrainer装置が働く尋問室に連れて来られる。
沈黙。意味ありげだが無関係な呟き。
役に立たないと諦め、戻ろうとしたときにWolfが言う。
「君の同僚のKutter刑事にも役に立てず申し訳なかったと伝えてくれたまえ」
またしても独断で捜査に介入したKutterに、怒りも露わに詰め寄る二人。
「俺は手を貸してやろうと思っただけだ」
「お前の助けなど必要としていない。お前は捜査を妨害してるだけだ」
「そうか?どんな捜査だ?お前は一度でもパートナーに正直になったのか?」
「何の話?」怒りから戸惑いに変わるDeena。
そこに警部が割って入る。「いい加減にしろ!」
「彼女に話してやれよ、ヒーロー・コップ」警部に止められながらもWalkerに向かって言うKutter。
「どういうことなの?」とDeena。
「Kutter、次は停職じゃすまんぞ!」Kutterに指を突きつけ言う警部。
「終わりだ!二人とも仕事に戻れ!」警部の声に、不満気に立ち去るKutter。
「犯人を捕まえたのか?」困惑し問いた気なDeenaに向かって言う警部。
「まだです、でも…」「じゃあ仕事に戻れ」「やります、でも…」「仕事に戻れ!」自室に戻る警部。
「どういうことなの?」Walkerに詰め寄るDeena。だが、彼も無言で立ち去り、Deenaだけが残される。
途方に暮れるDeena。その時、Walkerのデスクの椅子の上に、Triphammerから渡された包みが放り出してあるのが目に入る。
周囲を窺い、包みを手にして開いてみるDeena。
中からはフォトフレームに収められたRetro Girlとマスクで顔の下半分を隠した男性のヒーローとのツーショット写真が出て来る。
写真を見つめるDeena。そして男性のヒーローがWalkerであることに気付く。
Deenaの前には、いつの間にか戻ったWalkerが怒りの目を向けて立っていた。
「お前本当にどうしようもないやつだな」
『Powers Volume 1』より 画:Michael Avon Oeming
#5
鑑識医と話すWalker。何も見つからない。事件が起こって二日。二日というのは殺人事件捜査にとっては永遠に等しい。落胆する二人。
自分の持っている手掛かりはこれだけだ、と”Kaotic Chic”の写真を取り出すWalker。使われているスプレーペイントもありふれたどこの店にもある物。その線から追跡することも不可能だ。
「公開捜査に踏み切る時だ」と言うWalker。
「いいわね、早速やりましょう」と、戸口に立っていたDeenaが言う。Deenaに声も掛けず去るWalker。
何があったかは知らんが、多分お前さんの失敗だな、と鑑識医。
「そうよ」そう言うDeenaの後ろでは、テレビでRetro Girlの死亡事件に関連する番組が流れている。
テレビではRetro Girlとクレオパトラの容貌の類似点を分析する、というような番組が流れている。新たな報道すべき情報もなくなっているのに、世の中の関心の高さに対応し、関連番組を流し続け視聴率を拾うお馴染みのパターン。
番組が中断され、スペシャルリポートの挿入がが告げられる。
画面に登場するWalkerとテレビのレポーター。
捜査の進捗を尋ねるレポーターに、それについては一切答えられませんとした後、Walkerはカメラに向かい、殺害現場に残された”Kaotic Chic”の落書きについての情報を広く求める旨を告げる。
レポーターは続けて、前日のJohnny Royalleの逮捕について質問して来る。
テレビ画面から警察署内部にシーンは切り替わる。
その件に関してコメントはないと放送前に話したはずだが、とWalker。リポーターは構わず今度は前日Zoraが現れた件について質問して来る。
警部が割って入り、ありがとう、我々は捜査に戻ります、と告げ中継を終わらせる。
その様子をと離れて見るDeenaと、小さなテレビが置かれている給湯スペースに佇むKutter。
なおもレポーターに付きまとわれながら、Kutterを通りすがりに睨みつけ、歩き去って行くWalker。
『Powers Volume 1』より 画:Michael Avon Oeming
デスクで電話で公開捜査についての段取りをするWalker。
歩み寄り、いつまでこういうのが続くの?と言うDeena。
パートナーを解消してもらう。お前は信用できない。お前は覗き屋だ。とWalker。
「じゃあ、正体を隠してたのは誰なの?」とDeena。
「あたしは正面からアンタに能力を持ってるのかと訊いた。アンタの答えはノー」
「あたしは正面からアンタに、連中との個人的関係について訊いた。アンタの答えは何もない」
「あたしをなんだと思ってるの?チンパンジー?あたしは刑事よ」
「あたしの仕事は人が知られたくないと思ってることを暴き出すことなのよ。それでアンタはあたしにそれ以外の選択肢を無くさせた」
周囲を窺うWalker。「ここではやめろ」
「いいえ、あたしは決着をつけたいのよ」
「ここではやめろ」
屋上に出たWalkerとdeena。
「なあ、俺はお前のことなんてよく知らないんだ。パートナーになったからって、俺自身の問題について全面的に信頼しなきゃならんのか?」「そうよ!あたしたちはパートナーだからね」
「ああ、そりゃお前から見ればそういうのは簡単だろうな」「そうよ」
「つまりはあたしたちには解決しなきゃならない事件がある。あたしが関心があるのはそれだけ。あたしたちの膝の上に落とされた、あるいはあたしたちが投げ込まれた、忌まわしいクソを解決すること」
「でもどうなってる?これは仕事で、常に仕事でしかない。アンタはあたしに嘘ついて、あたしの基準じゃそれはクールじゃない」
「あたしはアンタにもっと期待してた」
「俺はこの事件にうんざりしてるんだ」
「何?」
「俺はこれをお前とやりたくないんだ」
ドアに向かって歩き出すWalker。
「待ってよ、アンタこのまま行っちゃうつもり?」「今はこんなことをしていたくない。事件を…」
「アンタあたしがどうやってここに配属されたか知ってる?」
「今はこんなことをしていたくない」ドアに手を掛けるWalker。だがDeenaはその背に向かって話し続ける。
「あたし、副長官の息子をドラッグがらみの厄介事から救い出したんだ。その手柄に報酬をもらえた。あたしは副長官に55分署殺人課のWalkerと働かせてくれって言ったんだ」
ドアの前に立ち、Deenaに背を向けたままのWalker。
「それはあたしがアンタのこれまでの活躍の数々を聞いて来たから。それらを聞く度にいつも思ってた、あたしもそこにいたいって。あたしはアンタと働きたかった」
「あたしはそれ以前のアンタに何があったかなんて、全然知らない。あたしはただアンタと一緒に働きたかっただけなんだ」
ドアノブに手を掛けるWalker。その手が降りる。そして何かに気付いたように空を見上げる。
その空を波紋のように広がる光を航跡に残しながら、何らかのスーパーヒーローが飛行して行く。
「それで…、何があったの?なんでアンタはもうあそこにいないの?」「できないからだ」
「なぜ?」
「わからない。ただできないからだ」
「いつから?」
「四年前からだ」
「それから何も?アンタは能力を持ってたのに?」
「何もだ。すべてなくなった」
「俺はまだ…人並み以上の力はある。だがそれが…、俺が単純に大男だからなのか、それ以上なのかはわからない…」
「何が起きたのか話したい?嫌ならいいけど」
それはJohnny Royalle一味が引き起こした一連の事件の中でのことだった。
それがどういった経緯で起こったのかはもう憶えていない。その場には俺の他に、Triphammer、Zora、Retro Girlもいて、勢ぞろいした悪玉と対峙していた。
俺が闘っていたのはSsazzだった。以前に奴を倒したことはあった。だが、その時奴は何らかの強化でパワーアップしていた。
俺は闘いを終わらせることだけを考え、必死に闘った。その時、アドレナリンのバーストだか何かは知らんが、俺は急激にパワーアップした。
俺はこれで勝てると思った!…だが、次の瞬間、全ての力が消えた。闘いのさなかに…。
俺はSsazzから自分を守る術もなく、殺されるところだった。そこでRetro Girlが俺を救ってくれた。
それが最後だ…。以来俺は彼女に会うこともなかった。
『Powers Volume 1』より 画:Michael Avon Oeming
「そして、力がなければ、俺はそっちには属さない只の凡人だ。それで俺はこの仕事をやってる」
「能力を持ってないってことが、自分に普通にできることができない理由にはならないからな」
「それで俺にとってパートナーを組むのが難しいって理由は、前に組んでた奴がな…」
「あのマヌケ面ね」
「ああ…、あいつはそれを自分の腹に収めてることもできない奴でな」
「そして、この事件は…。俺はこれを単純に解決したいだけじゃない。俺は彼女に借りがあるんだ」
「俺は彼女に借りがあり、そのために必死になってる。だが未だに進展がない。こいつが俺を苦しめてる」
「犯人は見つけて欲しがってる。犯人はみんなに知られたがってる。これはこの手の事件のお決まりよ、わかってるでしょ」
「奴はまだその辺にいて、あたしたちに何かを伝えたがってる」
沈痛な顔で俯き続けるWalker。
「アンタはあたしに近くをうろついて欲しくない。それなら仕方ないと思う。でも、ちょっと待ってよ」
「なんであたしに傍にいて欲しくないなんて思えるのかね。あたし結構イケてると思うんだけどね」
「でさあ、あたしってずっとこのヘソ出しシャツでキメてるんだけどさ。これってアピール薄い?」
Deenaが歩み寄り、目を合わせる二人。
「よし、やるか」
「イエイ!これで仲良しね」
「そうだな。だがこれを仕事に持ち込むなよ」
「リョーカイっ」
Walkerの腰の通信機から呼び出し音が鳴る。
『Powers Volume 1』より 画:Michael Avon Oeming
ちょっと長くなりすぎると思いつつ、このパートは丁寧に書いとかんと思ったり、画像を使い過ぎてんだがと思いつつ、このシーンはやっぱり見せなければと思ったり。
映画の長回し的スタイルで表情の小さい変化とセリフで伝えるBendis/Oemingの演出はホント上手い。
前後してしまうんだが、その前の赤黒白のページ。この画と文章二分割スタイルは、Darwyn Cookeのパーカーや、ブルベイカー/フィリップスのようなクライム傾向の作品でよく使われる手法なのだけど、なんか考えてみると誰が最初以前にもっとクラシックな作品に元があるのでは、という気もしてくる。今後の研究的課題として。
テレビでの呼びかけにより現れた情報提供者の一人からの話を、署の取調室でWalkerとDeenaが聞く。
彼はスーパーヒーロー達のアンチという立場で、Webのチャットルームで彼らへの鬱憤を吐き出しているグループの一員だということ。
その男によると、その中の一人John Jackson Stevensという男が、しばらく前から、警察でヴィラン拘束のために使用している装置”Drainer”を、設計図をインターネットから見つけ、自作していると吹聴していたということ。
「なぜ君はこれにそのStevensが関係していると思ったのかね?」
「”Kaotic Chic”っていうのは、俺たちのクラブだかその類いとあんたらが思うやつの名前なんだ」
「例のマント野郎どもがドタバタをやらかす度に、俺らは壁にそれを書いて来た。あれは俺らの仕業だ」
「みんなにこのクソ騒ぎがどれだけ起こってるか知らせるために」
「でも俺たちはあいつにあんまり暴力的な方向にのめり込むなって言ってたんだ」
「あいつはお前らにも目にもの見せてやる、って言ってた」
「俺はあいつに手に入れた設計図のことは忘れろって言ったんだ」
Walker、DeenaはSWATチームと共に、John Jackson Stevensの家を急襲する。
だが、そこにStevensの姿はなかった。
“Drainer”の緑のライトに照らされた部屋。何らかの装置を研究・製作していたように見えるデスクの様子。
壁に掛けられたヒーロー達が一堂に会したパネルの中で、Retro Girlの顔の上に大きくバツが殴り書きされていた。
署に車で戻るWalkerとDeena。悔しがるDeenaに、あそこで張り込みをするのは俺たちの仕事じゃないと言うwalker。
車から降りようとすると、その前に署の託児所にいるはずの少女Calistaが立ち、何かを見つめている。
そこに駆け付けて来た託児所の職員。昼寝の時間に急に一人で飛び出して行ったのだと言う。
Walkerも少女に近付き、そこで彼女が何を見つめているのかに気付く。
そこには”Kaotic Chic”と大きく書かれた壁の前に、スプレー缶を持って立つ男の姿があった。
『Powers Volume 1』より 画:Michael Avon Oeming
#6
その男 -John Jackson Stevensはその場で逮捕され、報道はにわかに活気づく。
そして取調室。
Stevensと向かい合うWalkerとDeena。Stevensは取調室を照らす天井の緑のライトを見つめている。
「”Drainer”を見たのは初めてだよ。いいな」
「君の自宅にもあっただろう。逮捕時にも君はそれを所持していた」
「ああ、でもそれは自家製だ。これは本物だ。写真でしか持たことがなかった。素晴らしい」
Retro Girlの殺害について自白するつもりはあるか、と問うDeena。Stevensは弁護士を呼んでくれ、と答える。
「あんたについてみんなが言ってることは本当なのか?」逆にWalkerに問いかけてくるStevens。
「何の話だ?」
「あんたがDiamondって話。あんたはあちら側の一員だった」
「Webじゃそこら中で言ってるぜ」
「あんたそっち界隈じゃ、すっかり「本日の有名人(Celebre du Jour)」だな」
「アンタはどうなの?」とDeena。「パワーズ?それがアンタがやった理由?」
「パワーズだって?それがあれば僕もあっち側に居たさ」
そこで警部がドアを開け、二人を外に呼ぶ。
『Powers Volume 1』より 画:Michael Avon Oeming
ここに来てやっと緑のライトが能力者を拘束するための”Drainer”と言うやつだと気付き、戻って修正したり…。
#5のJohn Jackson Stevensの部屋と、あとほとんど省略しちゃった#4の収監中のヴィランWolfを尋問するシーンで出てくる。
この作品の徹底してセリフのやり取りで進行し、説明的なカコミも一切使用しないスタイルではわかりにくいんだが、自分はそれがかなり気に入ってるので文句付ける気はない。私自身の不覚です。
あと「本日の有名人(Celebre du Jour)」については、わざわざフランス語で言ってるのでなんか元ネタがあるのかもしれないんだがわからなかった。これが出た2000年ぐらいだと一般常識だったんだろうか?いや、別にバンドデシネ読みたくてやっと辞書を持った幼児ぐらいになって来たフランス語読解力を自慢する意図では…。
取調室のマジックミラーを挟んだ隣の部屋。警部とKutterが待っている。
KutterがStevensの部屋から押収した、彼の日記を見せる。まだ全体に目を通したわけではないが、犯行当日の日付のものもある。
更にStevensの作ったRetro Girlの顔を合成したポルノ写真。
取調室での様子から、Stevensが女性が苦手という印象を持ったWalkerは、Deenaにそこを利用しろと話す。
取調室に戻るWalkerとDeena。彼の日記を持っているのに気付いたStevensは動揺を見せる。
日記を読み上げるWalker。「連中が彼女について報道するたび、奴らは彼女を貶める。連中が彼女の名を口にするたび、彼女の魂が削り取られる。インディアンは写真が彼らの魂を盗むと言った。彼らが正しいと想像してみろ。世界は彼女の魂に手を出す権利などない。自分が彼女の注意を引くことさえできれば」
「アンタ、女の子の注意を引いたことあるの?」DeenaはStevensに迫る。
そして押収品の彼が作成した合成ポルノをテーブルに並べる。
「クソッ、それは僕の個人的な所蔵品だ」
「そうね、アンタほとんどこれと結婚してたんでしょうね」
「お前自分がさぞ賢いと思ってんだろうな!お前なんかただの女子だよ」
「彼女はお前なんか嫌いだったはずだ」
「そうね、彼女に聞ければよかったんだけどね。でも…」
「話せ、なぜ彼女を…」「いいや、あんたらみたいなもんに話すつもりはない」「あたしたちじゃないなら」「誰にだ?」
「僕が語るべき人々は山ほどいるよ」
そしてそのまま、嘲笑を浮かべたまま黙り込むStevens。
「君は能力を持ってない。それで、どうした?」
「君は自作のDrainerで彼女を行動不能にし、喉を切った」
沈黙するStevens。
「でも、アンタはどうやって彼女を見つけたの?」
沈黙するStevens。
「やっぱりただのまぐれ当たりだったみたいね」
「まぐれなんかじゃない!」たまらず話し始めるstevens。
「僕はその時のためにお前なんかには想像できないほど注力してきたんだ。運命だ!知らないのか!?」
「アンタは彼女をレイプできなくて殺した。斬新ね」
「お前は僕がこの全てを彼女とセックスしたくてやったと思ってるのか?」
「僕は世界のためにやったんだ」
「考えてみろよ。もしエルヴィス・プレスリーが、まだ普通に生きてたらどうなってると思う?」
「きっと彼はジョークになってるさ。デカいデブの笑いもの。テレビショッピング屋」
「ジム・モリソンなら?ジャニス・ジョプリンなら?」
「ラウンジの演し物や、深夜トークショーの独り言ジョークってところだろうな」
「あの、50年代のパルプヒーロー、Brandon McQueenみたいに…」
「この街のために彼がやったこと全て、それが今じゃジョークだ。反面教師だと」
「僕は彼女をそんな目に遭わせることはできなかった」
「お前らなんかに…。お前らなんか彼女の足元にも及ばない」
「見ろよ、僕がやったことを」そして憑かれたような表情で語り始めるStevens。
僕は彼女を保存した。
彼女は今や、神だ。不死。不可侵。
この街は彼女があったそのままに彼女を崇める。
不死だ。
そして今、人々は彼女を得た。
彼女を得たんだ。
「お前らが僕をどう思うかなんて微塵も意味はないんだ」
「僕は法廷に引き出されるだろうが、闘うつもりもない」
「僕は自分がやったことも、その理由もわかっている。世界は僕の声を聴くだろう」
「世界は僕の言葉を聞き、そして僕に感謝するだろう」
言葉も無くし、Stevensを見るWalker、Deena。そしてマジックミラー越しの警部とKutter。
「さあ、弁護士を呼んでくれ」
留置場に搬送すべく、手錠をかけたStevensを連れ駐車場に行くWalker、Deena、警部、Kutterともう一人の刑事。
異変を感じ、天井を見上げる刑事たち。次の瞬間、周囲は強烈な光に包まれる。
そして、駐車場の屋根、天井を円形に貫通した空間に、全身をアーマーに包んだTriphammmerがホバリングし、彼らを見下ろす。
「Triphammer、やめろ。もう片付いたんだ」WalkerがTriphammerに呼びかける。
Triphammmerは無言のまま、ウェポンを起動し、Stevensのみを射殺する。更に熱線に切り替え、Stevensの死体を完全に焼却、灰に変える。
『Powers Volume 1』より 画:Michael Avon Oeming
その場にいた警官たちは一斉に銃を抜き、Triphammerを撃つ。
「やめたまえ。銃を撃つのはやめるんだ。私は君らのいずれかが流れ弾により負傷することなど望んでいない」
そう言うTriphammerのアーマーは銃弾を受け付けず、ただ跳弾となり周囲を破壊するばかり。
「駄目だ!こんなやり方は間違ってる!」叫ぶWalker。
「Christian、私は君たちの署をモニターし続けてきた。君なら私の行動を理解できるだろう。私はこの事態を、名誉を持って終われる形で対処した」
「裁判は見世物となるだろう。そんなものには意味などない」
「それはそんなものを得るに値しない者に、名声を与えるだけのものだ」
「そしてそれはその無価値な虫けらの狂人に、奴の望むものを与えるだけのものだ。人々が彼を知ること。彼の名を知ることなどという」
「それは私にとっては許しがたいことなのだ」
「そんなことは起こらない。これはこうして終わる。こいつはその罪により死を迎えた」
「これは今日この場で終わったのだ」
「こんなやり方は間違ってる!あんたに正義はない!」叫ぶWalker。「正義などないんだ!」
「君がこれをそのまま通すことができないのは分かっている。そこでその手間を省いてやろう」
「君が私を探しに来た時、それは敵わないものとなるだろう。君は二度と私を見つけることはできない」
「私は消える。私がこの国に戻ることはない。これは君たちにとっての私の最後の行動となる」
再び、その場は強烈な光に包まれ、Triphammerは姿を消す。
テレビ画面。警部が記者会見で事件の経緯を話している。
Triphammerは警察が到着したときには既に姿を消していた。彼の行方については不明で、捜査はFBIその他関係局の手に移った。
事件の詳細については、容疑者John Jackson Stevensが殺害される前の供述により、解明されている。
これにより、Retro Girl殺害事件の捜査は終了となる。
リモコンが操作され、テレビは消音となり映像のみが映される。
Walkerのアパート。彼がテレビに向かってソファに座る前で、少女Calistaがテーブルの上で絵を描いている。
「これで全て終わった。明日にはお前が新しく住んで学校に通う場所を探しに行けるぞ」Calistaに言うWalker。
「じゃあ”Kaotic Chic”のことは終わったんだね」
「ああ、全部終わった」
「よかった」
Calistaの様子をしばらく見つめるWalker。そして口を開く。
「Calista、なんであの言葉のことがわかったんだ?今朝は建物の外で何をしてたんだ?」
「ちゃんと終わってよかった。夢で見た通りだった」
「夢だって?」
「うん、あたし夢を見たんだ。夢に出て来た女の子が話をしてくれた。古い昔話みたいに…。」
「むかしむかし、一人の女の子がいました…。それで、その子は一番の女の子になる、お姫様みたいな、って話」
「めでたしめでたし、とか関係なく、一番の女の子」
「それで時々、女の子が一番であることを止めようとする誰かが現れるんだって」
「でも彼女は言ってた」
「彼女はいつもそこから進む方法を見つけるんだって」
「おじさんが言葉の意味を見つければ…。壁に書かれた言葉…。それであたしが彼女を助けられるって」
「なんであたしなの?ってきいた」
「それはそういうことになってるからだって。物事はいつもそういう風になるんだって」
「おじさんにもそのことは話したことがあるって言ってた」
「でも、忘れてって言ったからたぶん憶えてないだろうって」
「あたしたちに起きるあらゆることは、理由があって起こるんだって」
「それがあたしがおじさんと一緒にいることになった理由。おじさんがやったすべてのことの理由」
「おじさんはいい人で、あたしのことを心配するだろうって言ってた」
「でも、あたしが親切にしなくていいって言えば、そうしないだろうって」
「あたしのことは心配しないでいいよ、Christian」
テレビ画面はChaykin公園で行われている、Retro Girlを送るキャンドルの灯による通夜の模様の中継に切り替わる。
[数百人の市民が彼女への敬意のために訪れています。喪失の悲しみが数百の人々を動かしました]
[共通の悲しみ]
[繋がり]
[我々もしばしの沈黙を持って、彼らに加わります]
『Powers Volume 1』より 画:Michael Avon Oeming
キャンドルを手に、夜空を見上げる人々。
月。
その前を今はこの街から消えた二人のヒーローが飛んで行く。
『Powers Volume 1』より 画:Michael Avon Oeming
2000年代に入り、アメリカのコミックでは優れたクライム作品が次々と現れた。Brian Azzarello/Eduardo Rissoの『100 Bullets』、ブルベイカー/フィリップスの『Criminal』、Jason Aaron/R. M. Guéraの『Scalped』。
そして、このBrian Michael Bendis/Michael Avon Oemingによる『Powers』も、それらと肩を並べるクライム・コミックの傑作である。いや、これはもう廃人レベルのハードボイルドバカとして断言するよ。
最初にも書いたけど、このシリーズについてはヒーロー・ワールドをベースにしたその中の警察というよりは、ポリスアクションのストーリーの中にそういう要素を入れた、という見方の方がわかりやすいと考える。
この最初のシリーズである「Who Killed Retro Girl?」の結末も、ヒーロー・コミック的な方向より、クライム、ポリスアクション的という方向のものだ。
昔に本店のどっかでちょっと書いたのだけど、ベンディスという人は何かリアリティというものを重心というような形で持っている作家だと思う。
その資質により、こういう設定でも小手先のパロディや、なんちゃってギャグにぶれることなく、いとも簡単に見えるほど、ヒーローが存在する世界での警察というストーリーをリアルに作り上げて行く。
ベンディスはこのシリーズの開始とほぼ同時期に、マーベルでのキャリアを始めるわけだが、そちらでの成功もこういった資質によるところが多いのではないかと思う。
また、この作品におけるTriphammerの描かれ方などから、ガース・エニス『ザ・ボーイズ』的な方向を連想される向きもあるのかもしれないが、少なくともベンディスにエニスのようなコスチューム・ヒーローに対する反感的なものはないのは、その後のマーベルでの活躍を見れば明らかだろう。なんか言うまでもないか。
なんかTriphammerの最初の言動や最後の行動は、深読みするほどでもなく彼のRetro Girlへの想いや、それに由来するWalkerへの対抗意識があったのかも、と今更気付く。いや、当方恋愛探知力最低レベルだから…。
そして、やはりこの作品で注目したいのは、ストーリー説明の合間でも散々言ってきたような、挑戦的とも言えるような数々の斬新な表現。
画面を埋め尽くすような大量のフキダシや、ページを15分割するような小さいコマ割りなど、コミック=マンガの一般的な見せ方に反するような手法を使いながら、その中で従来は難しかったようなリアルでスピード感のあるセリフが交わされる。
デビュー作『Fire』から、新しい物語には新しい表現スタイルが必要だと挑んできたベンディスの、初期のある到達点がこのシリーズなのだろうと思う。
そしてベンディスは、ここからさらに先へと進む。
2000年代マーベルで、あれだけの功績を残してしまえば、もうそれで充分のようにさえ思えるが、ブライアン・マイケル・ベンディスとは現代アメリカのオリジナルコミックシーンにおいても、最重要ぐらいに位置する作家なのだな、と再認識する。
現在まで書き継がれているこの『Powers』シリーズ全体について少し簡単に。
まず第1期となるVol.1が、Image Comicsより2000-2004年に全37話。
続いてマーベル内Icon Comicsに移行し、Vol.2が2004-2008年に全30話。
そして引き続きIcon ComicsよりVol.3が、2009-2012年に全11話。
続いて同じくIcon ComicsよりPowers: The Bureauと題されたシリーズが、2013-2014年に全12話。
そして2015年からはVol.4が開始されるが、#8を出した後Icon Comicsが終了し、その後ベンディスがDCに移籍しそこでのJinxworldにて#7、#8と、中断していた続くストーリーを『Powers: The Best Ever』というグラフィックノベルとして出版している。
現在のところシリーズは2020年の『Powers: The Best Ever』でストップしているが、その後ベンディスのJinxworldはDark Horse Comicsへと移籍し、シリーズ全作が改めて新装版として出版されている。シリーズ新作もいずれDark Horseにて再開されるものと思われる。
今回の「Who Killed Retro Girl?」は現在Dark Horseから出版の『Powers Volume 1』に収録されている。『Powers Volume 1』にはVol.1 #1-11が収録されており、「Who Killed Retro Girl?」に続く#7はウォーレン・エリスが登場するワンショット、#8-11は全4話の「Roleplay」で、ヒーローのコスプレをしていた大学生グループの連続殺人事件をWalkerとDeenaが捜査して行くストーリー。
Brian Michael Bendis オリジナル作品著作リスト
とにかくこういうの無いと始まらんだろうと思い、ベンディスのオリジナル作品のみの著作リストを作成してみました。まだとりあえず年代順に並べただけで、まだまだ詳細な改良が必要なのだが。他の作家でもやってかなきゃならないことだし、とりあえずはプロトタイプぐらいのところで。
タイトル | 作画 | 出版社 | |
---|---|---|---|
1993 | Fire | Brian Michael Bendis | Caliber Comics |
1994 | A.K.A. Goldfish | Brian Michael Bendis | Caliber Comics |
1996 | Jinx | Brian Michael Bendis | Caliber Comics/Image Comics |
1999 | Fortune and Glory | Brian Michael Bendis | Oni Press |
2000 | Powers | Michael Avon Oeming | Image Comics/Icon Comics/DC’s Jinxworld |
2010 | Scarlet | Alex Maleev | Icon Comics/DC’s Jinxworld |
2011 | Brilliant | Mark Bagley | Icon Comics |
2011 | Takio | Michael Avon Oeming | Icon Comics |
2014 | The United States of Murder Inc. | Michael Avon Oeming | Icon Comics/DC’s Jinxworld/Dark Horse Comics |
2018 | Pearl | Michael Gaydos/Jessica Schrufer | DC’s Jinxworld/Dark Horse Comics |
2018 | Cover | David Mack | DC’s Jinxworld |
2021 | Joy Operations | Stephen Byrne | Dark Horse Comics |
2022 | The Ones | Jacob Edgar | Dark Horse Comics |
2022 | Phenomena | André Lima Araújo | Abrams ComicArts |
2023 | Masterpiece | Alex Maleev | Dark Horse Comics |
一番左は、今のところ開始年ぐらいのところか。色々出版社を移ったりでややこしいので。ここからもっと詳しいのを作成して行く予定。
ベンディス作品、次は比較的近年のシリーズということで、DC’s Jinxworldで始まり、Dark Horse Comicsにて継続されている『Pearl』をやって、そこから前後色々埋めてく感じでやって行ければと思っています。いずれは『Powers』の続きもやって行きたいのだけど、いつになるやら…。
作者について
■Michael Avon Oeming
結構キャリアも長いアーティストなんだけど、意外とWikiとかちゃんとまとめられてなかったり…。出身、生年等情報なし。アメリカ人であることは確か。デビュー前の経歴などもわからないのだが、1994年のDCの『Judge Dredd』が最初らしい。多分1970年代生まれかと。
『Powers』以前では、1998年に映画化もされた『Bulletproof Monk』(ストーリー:Brett Lewis)の作画を手掛けている(映画も同名、邦題はバレット モンク)。
アーティストのみではなく、ストーリーライターとしても多くの作品を手掛けている。特に北欧神話には関心が高いらしい。その他、2010年代にはValve Corporationで『Left 4 Dead』などのゲームにも関わったということ。
代表作はベンディスとの『Powers』、『The United States of Murder Inc.』などの他、Bryan J. L. Glassとの『The Mice Templar』(Image Comics:2007-2015)など。近年はJames Tynion IVの『Blue Book』シリーズの作画も手掛けている。なんかUFOなどの超常現象実話シリーズ的なものらしい。
今回の『Powers』は、アーティストMichael Avon Oemingの力に依るところも大変多いとは思っているのだが、どうも当方のオリジナル作品としてのベンディスをもっと押して行かなければ気持ちも大きく、あんまりOemingへの言及もできず申し訳なく思っている。Oemingに関してはJames Tynion IVとの『Blue Book』もかなり気になっているので、そっちでの近いうちの登場もあるかと思いますので。
やっと終わった…。本当はヒックマン『The Nightly News』と『Black Hammer』第6回とこの『Powers』を4月中にやるつもりだったんだが、結局2か月…。とにかくこれについては早くやらなければとか、これについては時間がかかっても仕方ないとかあるのだけど、なるべく多くの作品を紹介して行きたいという方向でも頑張って行かねば、と日々思っております。
Powers
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