Warren版オリジナルヴァンピレラはこうして始まった。
今回より始まりますWarren版オリジナルヴァンピレラを紹介して行くその第1回です。Warren Publishingによる『Vampirella』誌は、1969年から1983年までに全112号が発行されました。その中からヴァンピレラを主人公としたシリーズを紹介して行きます。
当初自分の考えていた方向としては、Warren版からHarris Publications版、Dynamite Entertainment版に至る出版の経緯をまとめた後、現在のDynamite版のシリーズを中心にやって、Warren版についてはぼちぼち読んで紹介して行ければぐらいの予定だったのですが、そっちのDynamite版を読み進めて行くうち、過去のキャラクターがぞろぞろ出てくる展開となってきて、あー過去のもんに関してもぼちぼちではいかんなと思い直し、予定を変更しました。
今後ヴァンピレラについてはWarren版と、現行のDynamite版を並行して進めて行くという感じで、まずはWarren版の第1回から始めます。ちなみに過去シリーズとの関係となると、Harris版も無視はできないのですが、以前まとめた時に書いたように現在Dynamite Entertainmentから発行されているHarris版復刻シリーズ(Vampirella Masters Series)は、シリーズ全体が出版されているものではないため、関連があり復刻されているものについてはDynamite版を紹介する中で言及して行くという形になると思います。
で、Warren版オリジナルヴァンピレラについてですが、まとめの方でも書いた通りWarren版『Vampirella』誌はヴァンピレラのシリーズのみが掲載されているものではなく、そこからそれだけをピックアップして行くとなると、量的に自分が読んで行く方でも他の掲載作品を飛ばして行くということになり、本来自分はそういう読み方はしたくないのですが、これについては仕方ないかというところです。過去の作家やアーティストの皆さんには申し訳ないですが。
なお、Warren版ヴァンピレラについてはそのヴァンピレラシリーズのみをまとめた『Vampirella: The Essential Warren Years』というのがDynamiteより出版されており、それだけ読めばいいのかと思われるのだけど、Vol.1しか出てない上に、ちゃんと全部収録されているのかも不明というところなんで、そちらとも照らし合わせながらという形で進めて行きます。
Vampirella Warren版 第1回
まとめの方でも書いたのだが、そもそもヴァンピレラは、Warrenで先行して出版されていて人気だった月刊ホラーアンソロジーコミック誌『Creepy』、『Eerie』に続いて創刊された『Vampirella』誌で、両誌にもいた各話の最初で導入役のタモリ的な役割をするキャラクターとしてつくられたもの。
創刊号ではキャラクター紹介的に彼女を主人公とした作品が掲載されたが、その後は主にその役割で登場するのみだった。
だが彼女自身の人気が次第に高まって行き、更なる登場を望む声も多かったのだろうというところから、第8号よりヴァンピレラを主人公としたシリーズが始まって行くことになる。
現在Dynamiteからは、デジタル版で『Vampirella』誌各号も復刻販売されているのだが、数号をまとめたオムニバス形式で全15巻で出版されている『Vampirella Archives』の方がお手軽だったりもするので、当方では基本そちらの単位で、途中抜けも多い今回はそちらの『Vol.1』と『Vol.2』のヴァンピレラシリーズを紹介して行く。
Vampirella Archives Vol. 1
■Vampirella #1
Vampirella Of Draculon : Forrest J Ackerman/Tom Sutton (7P)
『Vampirella』誌創刊号巻頭を飾るのは、これからこの雑誌で案内役を務めるヴァンピレラを紹介する話。
Vampirellaの住む惑星Draculonには、人間の血液と同じ成分の水を摂取することで生きる種族が暮らしており、彼女もその一員。
彼女らは惑星の大地を流れるその水を養分として生きてきたが、二つの太陽からの日照りによる干ばつでそれが枯渇し始め、惑星Draculonは死に瀕していた。
そんな時、惑星に異星からの宇宙船が不時着したとの報せ。Vampirellaは早速翼を出し、空を飛んで様子を見に行く。
宇宙船の乗組員に警戒をさせないため、コウモリの姿に変身し近づく。だが乗組員は飛んでくるコウモリを見て、持っていた銃を発射する。
彼らの攻撃的な対応に怒ったVampirellaは、特殊能力で姿を消して忍び寄り、不意に彼らの上に現れ、首筋から血を吸う。
そしてVampirellaは、彼ら地球人の血液が自分達が養分としている水と同じ物だと知る。
宇宙船には他にも冷凍睡眠で眠っている多くの地球人がいた。ごちそうがやって来た、と大喜びするVampirella。
『Vampirella Archives Vol. 1』より 画:Tom Sutton
最初の話はヴァンピレラの設定などを考えたというForrest J Ackermanがストーリーを担当。作画のTom Suttonは『Vampirella』誌では割とお馴染みのアーティストで色々な作品を描いている。
ヴァンピレラのキャラクターデザインをしたのは、当時アンダーグラウンド・コミックなどでも活躍していた女性アーティストTrina Robbinsだが、この最初のTom Sutton作画の作品では、今でも知られる有名なコスチュームとは違っている。この創刊号ではカバーとカバー裏イラスト以外のヴァンピレラも格好はバラバラ。とりあえずこの時点でのアーティストの考えとしては、女性なんだから色々なファッションがあるのは当然ぐらいだったのかも。
キャラクターとしても、この時点ではそれぞれのストーリーの最初や最後に登場し、「怖いわよん♡」とかいう役として想定されていたので、そういう性格だが、続き物の主人公となると変わって来る。その辺については後述。
〇Neal Adams
ヴァンピレラだけやって行こうかと思ったが、やっぱパラパラ見てても目を惹くアーティストもいたりしてもったいないんで、できるだけ拾って行ければとも思う。
最初は第1号に登場するNeal Adams。言わずと知れたDCバットマンの作画などで有名なレジェンド中のコミックレジェンド。
鉛筆とパステルか何かのみによる作画は珍しいと最初思ったけど、よく考えたらDCの仕事って主にペンシラーだったんだろうし、お家にインクやペンがなく買ってきて描くのも面倒だったとかかも。いや、とにかくさすがの画ですがね。黒ベタ部分とかパステルの類いかと思ったけど6Bとかの鉛筆水平にぐらいでやったのかもね。
ストーリーはDon Glutという人で、海辺に住む男が海から現れたビキニ美女を助けたところ、彼女は悪漢に追われており、男は彼女を守るべく戦うが…、という話。
『Vampirella Archives Vol. 1』より 画:Neal Adams
■Vampirella #2
Down To Earth : Forrest J Ackerman/Mike Royer (8P)
創刊号の話のラストに、次号!ヴァンピレラが地球にやって来るぞ!という予告キャプションが入っているのだが、その通りにヴァンピレラが地球にやって来る。しかし、どういう手段でやって来たかは描かれず、さあ地球にやって来たわよ、という感じで普通に街中を歩いているところから始まる。
街中を例の姿で歩いていれば、当然注目も集まる。そこで、新聞スタンドの男が声を掛ける。
「なあ、あんたならこのコンテストに絶対勝てるぜ!」男の手にはホラーコミックの雑誌。
その雑誌が行う女性ホラーコスプレコンテストで優勝すれば、ハリウッド行きの航空券がもらえるという記事を読むヴァンピレラ。
早速その出版社に向かう。ここで、地球の建物を知らないヴァンピレラがエレベーターのドアを開け、自分の翼で目的階へ上がり、ドアをノックして開けてもらう、というちょっとしたギャグシーンが入る。
コンテストでは難なく優勝。名前を聞かれ「Bambi Rella」と偽名を使うヴァンピレラだったが、更に「Bambi Aurora」という芸名を提案される。
そしてハリウッドへ向かう航空機に乗り込むヴァンピレラ。しかし、その途上機は事故により墜落し、ヴァンピレラの行方は知れない…。
『Vampirella Archives Vol. 1』より 画:Mike Royer
ヴァンピレラの右の胸にコウモリ型のあざかタトゥーがあるの今気付いた。他では見かけないのでこの時の作画Mike Royerのアイデアで、そこ止まりだったんだろう。
この話の冒頭で、金髪のヴァンピレラの双子の姉妹を名乗る格好も同じ女性が案内役を務める。その後そんなキャラは登場しないので、この場限りの思い付きの2Pカラーキャラなんだろうな。ちなみに胸のコウモリは左にある。
●Evily
第2号の巻頭は先のヴァンピレラの話ではなくこちらの「Evily」。Evilyは森の奥に住む邪悪な魔女で、実はヴァンピレラの従姉妹。
このEvilyの話はこの第2号と第3号に登場する。最初の「Evily」では、森の奥の館に配下のモンスターを集め、女王然として君臨し悪事を企むが、最後に現れたヴァンピレラの計略によりその膨大な魔力の大半を失ってしまうという話。第3号の「Wicked Is Who Wicked Does」は、ヴァンピレラへの復讐を誓い館を出て放浪するうちに、野盗と出会いそのボスのジプシーの魔術師と対決する、というような話で、こちらにはヴァンピレラは登場しない。
『Vampirella Archives Vol. 1』「Evily」より 画:Jerry Grandenetti
ストーリーはBill Parenteという人で、Warrenの編集者で、こういうシナリオも『Vampirella』の他、『Creepy』、『Eerie』にも書いていたらしい。ちょっとこの2作については、なんか仰々しくてわかりにくいホラー的表現を駆使したテキスト量が無茶苦茶多く、正直あんまりついていけない感じだった。
このEvilyというキャラ、ヴァンピレラの従姉妹ということでウェブで見つけた海外のヴァンピレラWikiにもページがあったのだが、どうも登場はこの2作だけらしい。雑誌創刊時の試行錯誤の一つぐらいなんだろうけど、とりあえずはそういうのもあったぐらいに紹介しとく。
『Vampirella Archives Vol. 1』「Wicked Is Who Wicked Does」より 画:Tom Sutton
■Vampirella #3~#7
続く3号から7号までは、ヴァンピレラを主人公とする話は登場しない。だが、キャラとしては人気もあるしなるべく出して行きたいという感じで、なんかその話を紹介するためにだけ出てきたヴァンピレラが全身でやたら大きく描かれていて、なんだかヴァンピレラが主人公の話なのかと錯覚するぐらいのが出て来たりするようになる。
ここでは自分的に気になったアーティストを紹介しておく。
●Ernie Colón
プエルトリコ出身のアーティストで、児童書のイラストや、ヒーロー系コミックなど幅広く活動していた。80~90年代にはDC、マーベルの作品も多く手掛けていたよう。1931年生まれ、2019年没。
細めの時に無機質にも見える線が特徴。図形的だったりシュールな表現も多くみられる。『Vampirella』には4号から登場し、最初はDavid Siclair名義。1号で2作手掛けているときもあり、結構仕事も早かったのかも。
『Vampirella Archives Vol. 1』より 画:Ernie Colón (David Siclair)
●Jeff Jones (Jeffrey Catherine Jones)
5号から登場し、パラパラというぐらいで見ていてもその幻想的で美しいタッチが目を惹く。まあ調べてみれば、フランゼッタにも絶賛されたコミックより広いフィールドぐらいで有名な女性アーティスト。1944年生まれ、2011年没。まだ2作ぐらいしか見ていないんだが、どちらもストーリーもJonesが担当し、テキスト量が多いのが当たり前になってる誌面で、セリフも少なめな動きメインで描かれる感じで、そういう意味でも異彩を放っている。
『Vampirella Archives Vol. 1』より 画:Jeff Jones
コミックの形のものは5号からなのだが、実は4号のカバーをVaughn Bodéと共作という形で描いている。
ちょっともったいないが#3~#7のカバーは省略で仕方ないかと思ったんだけど、よく調べたりすると興味深いところも多いんで、以下に並べとく。
●Vampirella #3~#7 カバー
まず遡った最初から行くと、#1は言わずと知れたフランゼッタ。#2はBill Hughesという人。WarrenやDark Horseなどで、カバーでも活躍したアーティストらしいのだが、あまりよくわからなかった。
#3はVaughn BodéとLarry Toddの共作。#4がVaughn BodéとJeff Jonesの共作。
#5と#7はフランゼッタ。#6はKen Kelly。SF、ファンタジーなどのアートで結構活躍した人らしい。
#3と#4で共作しているVaughn Bodéは、よく知らなかったのだが、この時期の中でもかなり有名なアンダーグラウンドコミックアーティストで、ラルフ・バクシのアニメーション映画や、後のグラフィティアーティストに多大な影響を与えたという人。代表作である『Cheech Wizard』はFantagraphicsより電子書籍版も刊行されているが、現在手軽に見られるのはそれぐらい。
Larry Toddもこの時期の有名なアンダーグラウンドコミックアーティストだが、現在見られるのはImage Comicsから出ている代表作『Dr. Atomic』のワンショットぐらい。
ヴァンピレラのデザインをしたTrina Robbinsもそうだったが、この時期のWarrenはアンダーグラウンド・コミックシーンとも関係が深かったのだなという様子がうかがわれる。
それにしても、Jeff Jonesも含め、この時期のアンダーグラウンド系ってどんどん歴史に埋もれて忘れられて行ってるんだな、と色々調べているうちに実感したり。なんかもっとちゃんと腰を据えて探索して行かんとなと思う。
ところで余談になるが、「Jeff Jones Comics」ぐらいで検索してたら日本のアマゾンの著者ページがトップに出てくるんだが、なんか並んでるのが日本版DCの『ジャスティス・リーグ』とか。よくわからなくて少し見てたら、ジェフ・ジョーンズ=Geoff Johnsが日本のものだけ間違ってそうなってる様子。アマゾンのシステムよく知らんけど、なんでこんなことになるのかと思ったが、おそらくShoProの担当者かなんかが商品登録の時に間違って入力して、そのフォーム延々コピーして使ってみたいなことなんではないかな?いや、想像だけど。こういうのアマゾンに言った方がいいのかな?
パラパラ見たぐらいのところで目に付いたものだけでも、調べ始めるとそこそこ長くなってしまったな。これから本編ぐらいだというのに。やっぱ奥が深いね。とりあえず「Vampirella Archives Vol. 1」はここまでで、次からは「Vol. 2」収録作となります。
Vampirella Archives Vol. 2
■Vampirella #8
#8のカバーは、#6と同じKen Kelly。一応ヴァンピレラの中のワンシーンという感じになっている。
Who Serves The Cause Of Chaos? : Archie Goodwin/Tom Sutton (21P)
1号50ページぐらいのアンソロジー形式という雑誌形態から、一話は長くても10ページ前後ぐらいだろうと高をくくっていたのだが、ここでいきなりの21ページ。ここから『Vampirella』誌はトップに掲載されるヴァンピレラのストーリーがメインとなる形に変わって行くことになるのだと思う。
#2の「Down To Earth」は、結構思い付きっぽい話だったのだが、割と律義に搭乗した旅客機が事故で墜落し、ヴァンピレラが行方不明となったところから話が繋がってて行く。
墜落事故から唯一生き残ったヴァンピレラだったが、怪我を負い弱った身体で雪のロッキー山脈中を当てもなく彷徨う。
雪の中に立つ一軒の館を見つけ、斜面を転がり落ちるように近付いて行く。そこで力尽きた彼女が最後に見たのは、自分に手を伸ばす奇怪な獣人のようなモンスターの姿だった…。
次にヴァンピレラが目覚めた時、そこは館の中のベッドの中だった。傍らには白衣を着た石らしき男の姿。
男はこの館の持ち主のTyler Westron。都会からこの山奥の館に隠遁し、ここで療養所を営んでいるという。Tylerはヴァンピレラの意識混濁中の譫言と、治療のための検査から、彼女が異星人であることを既に知っており、研究の対象としての関心と、また一方で彼女の美貌にも惹かれ、回復まではここに留まるように言う。
館にはもう一人、看護婦であるLenoraが暮らしていた。部屋の外で彼女はTylerがヴァンピレラに向ける関心が気に入らず、早く追い出すように詰め寄る。Tylerの愛人のようにふるまうLenoraだが、首から下げた悪魔のようなデザインのペンダントを持ちながら、あなたは私に借りがあると話す様子は、何か別の意図があるようにも見える。
一方ミシガンの田舎の雨の降りしきる墓地では、盲目の老人Conrad Van Helsingとその息子Adamが、ヴァンピレラと同じ旅客機事故で亡くなり既に埋葬された類縁Kurtの墓を訪れていた。
ある権限を持って既に許可を取り付けてあるConradは、墓守に自分の兄弟の墓から遺体を掘り出させる。
父に代わり遺体を調べた息子Adamは、事故報告書で見た通り叔父の身体には血が無くなっており、更に首筋に噛み跡のような傷があるのを発見する。
持参した鞄から杭とハンマーを取り出し、兄弟の遺体へと打ち込むConrad。
彼ら一族は国からも認可を受けたヴァンパイアハンターだった。一族の者を手にかけたヴァンパイアを必ず見つけ出し、その手で滅することを誓う。
Tylerはヴァンピレラが吸血に頼らずに済むよう、人工ヘモグロビンによる血清を作り、彼女に渡す。
Tylerとヴァンピレラが親密気に接近しているところにLenoraが現れ、Tylerと口論になる。その間、ヴァンピレラは部屋を離れ、館内を散策する。
図書室を見つけ、そこで一冊の本を手にするヴァンピレラ。『The Crimson Chronicles』。その表紙にはLenoraが持っているペンダントと同じ図柄が描かれていた。
本の内容は禁断の神話。善と悪、秩序と混沌の闘い。そしてカオス・ゴッドと七体の悪魔のしもべは戦いに敗れ、存在外の空虚へと追放された。
「だがこれらの年代記は、それに殉ずる者により生き永らえ、そしてカオス・ゴッドと七体のしもべが力を取り戻し、再び闘いを始める日のために奉じられている」
その時、足音が聞こえヴァンピレラは書棚の影に身を隠す。
現れたのはLenora。『The Crimson Chronicles』を持ち、図書室を出て行く。
Lenoraは療養所の患者たち全員を集める。虚ろな目をした彼らは一様に首からLenoraのものと同じペンダントを下げ、片手にろうそくを持ちLenoraに続いて行く。行く先は地下室?
ヴァンピレラは、Lenaraがこの療養所を先ほどの本に記述されていた邪神を信仰するカルトの隠れ蓑として使っていたことを悟る。
地下室の柱の陰から集会の様子を窺うヴァンピレラ。その時、背後よりモンスターが襲い掛かる。最初に見た幻覚かと思っていたモンスター。
力を取り戻したヴァンピレラは、掴みかかるモンスターを投げ飛ばす。だが、それによりカルト集団に取り囲まれ、捕縛され祭壇に鎖で縛られる。
ヴァンピレラと、祭壇の横で同じく鎖で縛られているモンスターを生贄に、カオス・ゴッドの第2のしもべNuberusを存在外の空虚から儀式で召喚しようとするLenora。
ヴァンピレラに向かって振り上げられた剣が突き立てられようとしたとき、背後から現れた手がその剣を掴む。
ヴァンピレラを救ったのは医師Tylerだった。この女はNuberusの召還に必要だ、と怒るLenora。ならばお前が生贄になれ、とTylerはLenoraの胸に剣を突き立てる。
「でも、私はあなただけのために…、Eathan…?」そう言いながら息絶えるLenora。なぜLenoraがTylerをEathanと呼ぶのか訝るヴァンピレラ。
『Vampirella Archives Vol. 2』より 画:Tom Sutton
「なぜなら私はこの国のカオス教団の最初のリーダーである魔術師Eathan Shroudだからだ。私は、LenoraがTyler Westronの魂と交換することで、この世に甦ったのだ」
Nuberusの召還のためには、Tylerの物の他にもう一つ魂が必要だった。そしてヴァンピレラがその生贄として選ばれたが、それはLenoraへと代わった。
ヴァンピレラの美しさとその力に魅せられたTyler=Eathanは、彼女にLenoraと代わるパートナーとしてともにカオス教団に仕えることを要求する。
それを拒み、Tyler=Eathanを蹴り上げるヴァンピレラ。Eathanが取り落としたカオス教団の聖書である『The Crimson Chronicles』が、倒れた篝火の炎に包まれる。
怒りヴァンピレラに詰め寄るTyler=Eathan。その時、横に捕縛されていたモンスターが鎖を引きちぎり、Eathanを襲う。
そのモンスターこそが元はEathan Shroudであり、その魂を交換されたことによりTyler Westronが閉じ込められていた肉体だった。
Eathanを鎖で絞殺すモンスター=Tyler。一方その背後の壁では存在外の空虚への入り口が開き、Nuberusがそこから手を伸ばし始める。
Eathanの死と、『The Crimson Chronicles』の焼失で、Nuberusのこの世界への具現化は阻まれた。しかし、異界の悪魔はそこから手が届く限りの人間を食い尽くす!
ヴァンピレラを抱きかかえ、Nuberusの手から逃れ走るモンスター=Tyler。
安全な場所まで逃げ延び、炎を上げ続ける館を見つめるヴァンピレラとTyler。
だが、Tylerのその命も今や尽きんとしていた。
地球外から来た君なら、カオス教団の悪に立ち向かうことができるかもしれない、と言い残し息絶えるTyler。その姿は醜悪なモンスターから、元の人間へと戻って行く。
雪原の中立ち尽くし、悲しみに暮れるヴァンピレラ。
デンバーのホテルの一室。
Van Helsing親子は、航空会社より入手した、飛行機事故の残骸から遺体が見つからなかった四人の人物の写真を前にしていた。
盲目である父Conradはその心眼により、一枚の写真を選び出す。杭が突き立てられたのはまごうことなくヴァンピレラのものだった。
こうしてヴァンパイアハンターVan Helsing親子の追跡の旅が始まる…。
『Vampirella Archives Vol. 2』より 画:Tom Sutton
以上、ヴァンピレラの本格始動となる第1話。通常6~8ページでやるスタイルで21ページなので、かなり長くなってしまった。やや、先が思いやられるが…。
ここからヴァンピレラは逃亡するように各地を彷徨いながら、行く先々でカオス教団との争いに巻き込まれて行く一方、復讐を誓うVan Helsing親子から追跡されて行くというのがメインのストーリーの流れとなって行く。
ここから、当初MC用に設定されたイケイケキャラクターは変更され、追われながら逃亡を続ける孤独な女、といったイメージのものとなって行く。なんとなく当時ぐらいにヒットしていたテレビシリーズ『逃亡者』(1963-67年)みたいなイメージかな、と思ったりする。
ストーリーはArchie Goodwin。Warrenの編集者兼ストーリーライターとして、多くの作品を各誌で手掛けるが、後に1980年代以降のマーベルDCでも多くの作品を書き、どちらかと言うとそちらで記憶されている方が多い様子。
作画は第1号で最初のヴァンピレラを手掛けたTom Sutton。そちらではオリジナルがTrina Robbinsのデザインだったり、当初のMC用キャラクター設定だったりで、少し本来の自身のスタイルから浮いた感じのヴァンピレラを描いていたSuttonだったが、この作品では本来の自身の画風の中でエキゾティックな美女という感じで描かれている。
■Vampirella #9
#9のカバーは、この号に掲載されたWally Woodの作品のワンシーンが大きくフィーチャーされ、その前にやや小さく同じくこの号の掲載された作品「The Boy Who Loved Tree’s」をイメージしたBoris Vallejoのイラストが配置されている。
Boris Vallejo(ボリス・ヴァレホ)は、この時期から2000年代初頭までにかけての、多くのSF・ファンタジー系イラストで、日本でもよく知られたぐらいのペルー系アメリカ人アーティスト。詳しく知りたい人は日本語のWikiもあるのでそちらを見て下さい。
この号のカバーにフィーチャーされている2作品については後述。
The Testing ! : Archie Goodwin/Tom Sutton (12P)
ヴァンピレラ本格始動の第2話は、前話と同じくArchie GoodwinとTom Suttonによる。今回12ページだが、基本連続した連載作品などが他にない『Vampirella』誌ではその時の編集事情によりページ数が変動する模様。
Van Helsing親子は、焼失したTyler Westron邸に赴き、地元保安官らと共に事故現場を調査する。
焼け跡の中から保安官助手が、ページがほとんど焼け焦げてしまった一冊の本を発見する。『The Crimson Chronicles』。
ヴァンパイアハンターとして永く多くの超常・怪異事件に関わって来た父Conradは、カオス教団についても知識があった。
自分達が追っているヴァンパイアとカオス教団が接触したならば、追跡は更に急務のものとなると告げるConrad。
夜明け前。カンサス州チーニーの小さな町の路地裏に、一羽のコウモリが飛来する。
徘徊していた黒猫が興味を持って近付いて行くが、それが人の形に変わるのを見て、慌てて逃げ出す。
その人影は、コウモリの姿となりこの町へとやって来たヴァンピレラだった。
黒猫は塀を越え、裏道を抜け、木を登り枝伝いにある建物の二階の窓から室内に入り込む。
そしてその部屋にいた車椅子の老婆の膝に飛び乗る。
「あの女がここに来るのは分かっていた。いつか、ある日、間もなく彼女がここにやってくることは警告されていたのさ」老婆はヴァンピレラの到着を報告するためやって来た黒猫Jetに醜怪な笑みを向ける。
「あたしたち、主に仕える者たちが、栄誉を持って彼女を始末する時が来た」黒猫に語り掛ける老婆。そして息子Lennyを呼ぶ。
そして衣服もボロボロで、どこかゾンビを思わせる中年男Lennyが現れる。「母さん、ごめん。どうしても充分に休むことができなくて…。どうして休めないんだろう…?」
不平を言いながら現れた息子Lennyに苛立ちながら、お前は身体の不自由なあたしを助けるためにここにいるのに、と叱る老婆。「そして彼らのために。彼らが必要とするならば、それをやらなければならない。今この時に」
「それは俺が誰かを殺すってことだろう?彼らはいつも俺に殺させなきゃならないのかい?彼らは…」
「黙れ、Lenny!お前はカオス様があたしたちにしてくれたことを知っていながら、どうしてそんな疑問を口にできるんだい?あたしたちはそれに好き嫌いを言える立場になんぞいないんだよ」
そして夕暮れ近く、ヴァンピレラはこの地へ来た目的である建物の前に立つ。Jethryn Memorial図書館。
「『The Crimson Chronicles』ですか?それは非公開の蔵書ですね。Jethryn夫人の個人的許可なしにお見せすることはできません。今日はもう閉館時間ですので、また明日に…」厳しい顔の初老の受付係の女性は、ヴァンピレラにそう告げる。
「私は今それをお願いしたいの。私のために便宜を図ってくれることに問題はないわよね」ヴァンピレラは彼女の能力である精神操作を使いながら受付の女性に話しかけ、彼女はそれに従う。
能力を使ったことで疲弊を感じたヴァンピレラは、所持していた血清を飲む。24時間ごとにこれを飲むことにより、彼女は吸血への渇望を抑えられている。
そして彼女はここに至る経緯を回想する。干ばつにより彼女ら種族の糧である血液が流れる水源が枯渇した惑星Dorakulonを離れ、血を求めて地球にやって来たヴァンピレラ。
だがそこで出会ったTyler Westron博士が彼女への愛ゆえに造り上げた血清により、ヴァンピレラは人を襲わずにその生命を維持する手段を得た。その後、博士による血清の製作手順を記した書類は、あの火災現場でも奇跡的に無傷で発見された。
そしてヴァンピレラはTyler Westronの魂にも応えるため、世界の暗部で復活を図るカオス教団との闘いを決意する。
まずその手掛かりである彼らの聖典『The Crimson Chronicles』についての専門書店などをめぐる調査が、彼女をこのカンサス州チーニーへと導いたのだった。
えーと、ここで一つ注意。前話の話の流れでは、明らかにヴァンピレラのために血清を作ったのはTyler Westronの身体を乗っ取っていたカオス教団のリーダー魔術師Eathan Shroudなのだが、既に話の最後の時点でTyler Westronが作ったという形になっており、以後もそれが適用される。そこについてはストーリー担当のArchie Goodwinがいい話になる方向で確信犯的にいい加減にした、としか言いようがないのだが、今後ストーリーの中でも重要なファクターとなるこの血清についてはこれが適用され続けるので、もうあきらめて疑問に思ったりツッコんだりしないように。
「Jethryn夫人から許可が戴けました」受付の女性は戻って来てそう言うと、ヴァンピレラを『The Crimson Chronicles』が所蔵されている部屋へ案内する。
「『The Crimson Chronicles』は大変希少な書籍で、米国内でも存在が知られているのは数冊のみです。それゆえ、この部屋からの持ち出しも一切禁止されております。閲覧が終わりましたら、壁のブザーを押してお呼びください」受付の女性はそう言うと、部屋から出て外から鍵を掛ける。
『The Crimson Chronicles』を手に取るヴァンピレラ。背後の壁にかけられた肖像画の目が動き、彼女を追う。
隣の部屋には老婆-Jethryn夫人と息子Lennyが潜んでおり、肖像画の目の位置に合わせて空けられた覗き穴からLennyがヴァンピレラの様子を窺っていた。
ヴァンピレラの美しさに見とれるLennyに、彼女は教団にとって危険な存在で、始末しなければならないと念を押すJethryn夫人。
Jethryn夫人は廊下で受付の女性を呼び止め、読書室の女性については自分が対処するので、今日はもう戸締りをして帰ってよいと告げる。
『The Crimson Chronicles』を読み耽るヴァンピレラ。その背後から隠し扉から部屋に侵入したLennyが忍び寄る。
「抵抗しないでくれ!あんたを余計に痛めつけたくないんだ!あんたには俺を傷付けられない!」懇願するように言いながらヴァンピレラに掴み掛かるLenny。
ヴァンピレラはそれをはねのけ、Lennyと向かい合う。
「なんで聞いてくれないんだ!あんたには俺を傷付けられない!前の男は銃を持ってた。それでも同じことだったんだ!」Lennyは上着の前を開き、胸を見せる。そこには血も流れていないいくつもの空虚な弾痕があった。
「俺は死んでるんだ!教団の魔法が母さんのために俺を墓場から呼び戻した!だが俺はもう死んでいるんだ!」
ヴァンピレラは攻撃を続けるが、既に死体であるLennyには何の効果もない。諦めてコウモリに変身し、窓から逃げる。
雷雨の中、外に飛び出したヴァンピレラ。だが、コウモリ形態の彼女に黒猫Jetが襲い掛かる。
猫に対し不利なコウモリ形態から人間の姿の戻ろうとするヴァンピレラ。それを阻む黒猫の猛攻。
その時、ヴァンピレラは図書館の建物の屋上にJethryn夫人の姿を見る。豪雨の中トランス状態で屋上の車椅子に座るJethryn夫人。ヴァンピレラは彼女こそが魔女であり、Lenny、黒猫Jetに強力なパワーを供給していると悟る。
黒猫を振りほどき、建物をよじ登るヴァンピレラ。その時、屋上にLennyも現れる。
だがヴァンピレラはLennyより早くJethryn夫人に辿り着き、車椅子を蹴る。
屋上を滑るように後退する車椅子は、避雷針に突き当たる。そしてその避雷針に空からの落雷!
そして魔女Jethryn夫人は息絶える。
「これで…終わった…。やっと…休める…」
Lennyの身体はみるみるうちに崩れ、白骨となる。
そして、Jethryn夫人の魂は黒猫の中に捕らえられ、恐怖の鳴き声を上げながら豪雨の中を逃げ去って行く…。
『Vampirella Archives Vol. 2』より 画:Tom Sutton
やがて雨はやみ、深夜ヴァンピレラは『The Crimson Chronicles』を持ち、図書館を後にする。戦いはまだ始まったばかりだという思いを胸に…。
そんな彼女を物陰から密かに見つめる人影があった。遂にヴァンピレラの居所を突き止めたVan Helsing親子。
「彼女を追うのだ。彼女は何処かできっと休息するはず。それが我々の攻撃の時だ」
●Wally Wood
この号の表紙に大きくフィーチャーされているのが、Wally Woodの「The Curse」という作品。Wally Woodは、さらに遡る50年代頃からEC Comicsなどで活躍した作家/アーティストで、この時期には大物作家というようなポジションだったのだろう。小さい絵でも美しく正確な人体などのデッサン力や、滑らかな線、陰影のコントラストなど、この時期の平均的な作画水準から見ても「格上」の貫禄が感じられる。読んでみたいがどうしてもやや敷居が高かったEC Comicsあたり探って行く手がかりとなる様な作家を知ることができて、個人的には嬉しい。その後も個人出版などでも多くの作品を発表したアメリカのコミックレジェンドの一人ではあるのだが、1981年、健康、視力などの問題もあり悲観し、拳銃自殺という悲しい最期を迎えたそうである。
『Vampirella Archives Vol. 2』より 画:Wally Wood
●Barry Smith (Barry Windsor-Smith)
そして表紙でやや小さくなっちゃってるもうひとつがBarry Smithの「The Boy Who Loved Tree’s」。英国出身で70~80年代のマーベルなどで多くの作品を手掛けた有名なアーティストであるBarry Windsor-Smithは、日本でも知っている人も多いのかもしれない。71年のこの作品は、アメリカに渡ってからの初期のものだろう。まあこの緻密で美しいタッチのペン画はパラパラ見てるぐらいだって目に入って来る。Barry Smithについては『Vampirella』誌ではこれが唯一の作品。現在は70歳代となっているSmithだが、2021年にはグラフィックノベル『Monsters』を発表し、アイズナー各賞を受賞し話題となった。読んでみたいなと思ったけど、このくらいのはやや仰々しいアカデミック臭付きで日本でも翻訳されるかも。とりあえずもう少し待とう。
『Vampirella Archives Vol. 2』より 画:Barry Smith
●Alac Justice (Jack Katz)
この号には他にもJeff Jonesが1ページものを描いてたりと盛りだくさんなのだが、巻末にまたちょっと気になる感じの、70年代あたりの未来はみんなハゲディストピアタイプの作品が掲載されており、Alac Justiceという名前を探って行ったら、『The First Kingdom』で知られるアメリカの有名なコミック作家Jack Katzに辿り着いた。『The First Kingdom』は現在は今のところ電子書籍でも簡単に入手できる作品でもあり、早く読まなければとずっと思っているのだが…。
それにしても掘って行けば次々とお宝級が見つかり、なかなか進まん…。
『Vampirella Archives Vol. 2』より 画:Barry Smith
■Vampirella #10
#10のカバーは#2のカバーを描いたBill Hughes。
この号はヴァンピレラはお休み。だがいくつか注目アーティスト作品なども掲載されているので、簡単に。
ここでニール・アダムスが再登場。今回はSteve Englehartという人と連名になっていて、#1のときのような鉛筆画ではないので、この人がインカーなんだろう。
この人インクが使えなかったのか?と気になり少し調べてみたのだが、Wikiの職種欄的なところにはInkerとも書かれているんだが?
ただ、英語版のWikiは当然ながらかなり長大でまだ拾い読みぐらいしかできてないんだが、結構初期の頃は苦労していたようで、1960年代初頭ぐらいにDCコミックスに売り込みに行くがうまく行かず、Archie Comicsから始めたり、その後新聞マンガという方に進み、一時期はゴーストアーティストなんかもやってたらしい。
DCコミックスで本格的に書き始めるのも1960年代末ぐらいからで、この『Vampirella』も同時期ぐらいで、下積みからやっと頭を出してきたぐらいの頃のものだったのだろう。まだ俺はペンシラーしかやらないとか言えるほどの立場でもなかっただろうし、なんかその時の編集上の都合ぐらいのものだったのかぐらいにしか想像できないのだが。
このくらい有名な人になると知ってるようなつもりになってしまうけど、やっぱりもう少しちゃんと知っておかなければ、と改めて反省的に思う。とりあえずニール・アダムス、ジム・ステランコぐらいは必須。
この作品についてはストーリーはDenny O’Neal。あ、この人もこの後アダムスと組んで1970年代の『Batman』など書いてた特筆されるぐらいの作家らしい。サキュバス的な女性とボクサーの悲恋物語ホラーというような話。
『Vampirella Archives Vol. 2』より 画:Neal Adams,Steve Englehart
この号は前号に登場したWally Woodの作品も掲載されている他、巻頭はWoodのアシスタントから始めて、色々なWood関連のプロジェクトにも関わったRalph Reeseという人の作画の作品が掲載されている。もう少し深く掘り下げるべきなんだが、きりがないくらいなんでごめん。
■Vampirella #11
#11のカバーはフランゼッタ。
Carnivai of the Damned ! : Archie Goodwin/Tom Sutton (14P)
第3話となるこの作品も、引き続きArchie GoodwinとTom Sutton。えーとちょっと長くなりすぎてるんで、もうちょっと簡単なあらすじで書いて行きます。
前話の最後で遂にヴァンピレラを発見したVan Helsing親子。その後も追跡を続け、疲れたヴァンピレラが廃屋の納屋に潜り込み休むのを見届ける。
ヴァンピレラが寝込むのを待ち、ハンマーと杭を手に息子Adamを納屋へ忍び込ませるConrad。だが、Adamはヴァンピレラの美しさの前に、彼女に杭を打ち込むことができず逃げられてしまう。
ヴァンピレラは、荒野の中で開催されているカーニバル会場を見つけ潜り込む。だが、そこは期待したような活気も人気もなく、不気味な生気を失ったような人々により動かされていた。
その中で唯一、大きめのテントの中で二人の人物による会話が交わされていた。一人は主催者のAshton。もう一人は老手品師のPendragon。
PendragonはAshtonに対し、なぜこのカーニバルを続けるのか、なぜ自分を引き留めておくのかと弱々しく抗議している。だがAshtonは一切意に介さず、アルコールに溺れているPendragonにボトルを手渡し、その場を去る。
外で様子を窺っていたヴァンピレラはAshtonが去った後、テントに入りPendragonに追われているのでしばらく匿ってほしいと申し出る。
だが、Pendragonはヴァンピレラが持つ『The Crimson Chronicles』を見て驚愕する。それこそが主催者Ashtonが待ち望んでいたものだった。
彼にそれを持たせることだけはできないと、ヴァンピレラを追い出そうとするPendragon。
だがヴァンピレラは、その力が自分をここに引き寄せたものかもしれないが、自分はカオス教団に敵対する者だ、と告げる。
ヴァンピレラを追うVan Helsing親子も、ここに彼女が逃げ込んだに違いないと見てカーニバル会場に足を踏み入れる。
人気のない不気味なカーニバルの様子を訝りながら、今朝の状況にについて話す二人。
自分はもうこの追跡はやめるべきだと思うと話すAdam。Conradは、悪は倒されねばならないと強く訴える。
そこで二人はAshtonが呼び込みをしているミラーハウスの前を通りかかる。
Conradは自身の能力により、その中で何らかの超常的な力が動いているのを察知する。一方Adamはヴァンピレラの衣装はここで働くためのものかもしれないと考える。二人は入場券を買い、中に入って行く。
鏡の迷路の中、Adamはその中に13年前に起こった母親がヴァンパイアに襲われ、死亡する場面を目撃する。
必死に鏡を叩くAdam。そしてそのまま鏡の中に吸い込まれて行く。
Van Helsing親子のただならぬ叫び声を聞いたヴァンピレラは、そちらへ向かおうとするがPendragonに引き留められる。
このカーニバルで何が起こっているかを知るPendragonは、その総てをヴァンピレラに話す。
15年前、経営破綻寸前のカーニバルの興行主であり、Pendragonの友人だったAshtonは窮地から逃れる手段としてカオス教団にのめり込んで行く。
カオス・ゴッドの七体のしもべの一体Asmodeusを呼び戻す儀式を行うが、Ashtonは意識を乗っ取られそうになり苦しみ始める。
見かねたPendragonが『The Crimson Chronicles』を叩き落とし、炎に放り込むことで儀式は中断されたが、半分ほど引き出されたAsmodeusの力はAshtonを乗っ取り、そしてPendragonを支配下に置き、本当の力を取り戻すためこのカーニバルを使い魂を集め始める。
それに使われているのがミラーハウスで、その迷宮の鏡の中にはそれを見た者の過去の最もやり直しを希求する情景が映し出され、その者をを鏡の中に引き込んで行く。
Ashtonとの対決を決意したヴァンピレラは、血清を飲み力を蓄える。そして自分の持つ『The Crimson Chronicles』の中の悪魔を虚無に還す呪文でAsmodeusを打ち負かすとPendragonに言う。
そこにAshtonが現れる。今日の朝、近くに『The Crimson Chronicles』の存在を察知し、力を使いこのカーニバルに引き寄せたのだと話す。
Ashtonは既にヴァンピレラの意図もわかっていた。その力を使い彼女の頭に入り込み、逆に自らを解放する呪文を唱えさせる、と告げる。
ヴァンピレラとAshtonの精神力による闘いが始まる。
Asmodeusの力をもってしても、ヴァンピレラの異星人としての精神力を屈服させるのは困難だった。
そして遂にヴァンピレラはAshtonの精神攻撃を押し返し、虚無に還す呪文を唱える。
Ashtonの身体は燃え上がり、Asmodeusは虚無へと還って行く。
Asmodeusの力が消滅するに伴い、Adamを閉じ込めていた迷宮の力も消え、Conradの振るったハンマーにより鏡は割られ、彼は救い出される。
だがあたりは一面の火の海となり、親子には出口の方向もわからない。
そこにPendragonが現れ、自分が先導するので肩につかまれ、と叫ぶ。
無事脱出した三人。Pendragonに命を救ってもらった礼を言うAdam。
「だが君たちを救ったのは私ではない。私も別のものに導かれただけだ」
そう言うPendragonの視線の先には、夕暮れの空を何処かへ向け飛び去って行くコウモリの姿があった。
『Vampirella Archives Vol. 2』より 画:Tom Sutton
あんまり短くならなかった…。このスタイルで14ページとかだとこのくらいになってしまうのかな。
ここで初登場となるPendragonは、今後ヴァンピレラを助ける重要キャラとなります。
●L. M. Roca (Luis Martínez Roca)
この号でヴァンピレラのすぐ後に掲載されていて、この美しい画で目を惹くのがL. M. Rocaの「The Escape !」という作品。
スペイン出身のアーティストで、1950年代末から60年代にかけ、スペイン、イギリス、アルゼンチンなどで作品を発表した後、Warren『Vampirella』『Eerie』などでいくつかの作画を手掛ける。ヒーローものより女性を美しく描く方が得意で、その後はイタリアなどでポルノコミックの方に行ったとか。
大変魅力的な画なのだが、あんまり情報も見つからないぐらいで残念。
『Vampirella Archives Vol. 2』より 画:L. M. Roca
●Jerry Grandenetti
こちらはちょっと小さくて見えないとは思うけど、この号のカバーの右下に今号の目玉的な感じで書かれてるJerry Grandenetti作画の「The Green Plague」という作品。多分Jerry Grandenettiの作品はここまでにもあったと思うけど、どうしてもこういう画はスルーしがちになってしまう。過去の作品を見るときは、常にその時代の画の水準がどのくらいだったとか、どういう意図をもって描かれたかということを考慮しなければと思っているのだけど。例えば日本のマンガの知識が乏しい子供とかが押切蓮介の画を下手とか言ってたらイラっとするじゃん。それと同じこと。で、一応調べてみると、1950年代にはDCの戦争コミックなどを多く描き、ウィル・アイズナーとも仕事をしたとか輝かしい経歴も出て来たりするのだよね。
やっぱりここでやってる記事の性格上、全部の作品を扱うのは無理なんだけど、何とか可能な限り色々なアーティストをピックアップして行ければと思う。とりあえず60~70年代の作品を、画が下手、ホセ・ゴンザレス以外は興味ない的なぶん投げ方しても格好なんかつかないぜ、ぐらいのことは言っときたい。
『Vampirella Archives Vol. 2』より 画:Jerry Grandenetti
●Sanho Kim (金珊瑚(キム・サノ))
この号の最後には韓国出身の作家Sanho Kimの作品が掲載されている。1959年にベストセラーになった『Lifi the Fighter of Justice(原題:라이파이)』を出版し、60年代を通じ様々なジャンルの作品を発表後、1967年にアメリカに渡り、Charlton Comicsなどで、ホラー、カンフーものなどのジャンルで多くの作品を発表する。日本的には90年代韓国帰国後に出した『大朝鮮帝国史』であんまり評判良くないんだろうな。
こちらの「Dragon Woman」という作品は、朝鮮戦争時代を舞台とした伝奇的ホラー。
『Vampirella Archives Vol. 2』より 画:Sanho Kim
■Vampirella #12
こちらのカバーはスペイン出身のアーティストSanjulián(Manuel Pérez Clemente)。Warren系のカバーを多く手掛け、そちらが代表的な作品となっているよう。この号からしばらくSanjuliánのカバーが続く。
Death’s Dark Angel : Archie Goodwin/José González (18P)
さてここで、まあお待ちかねというところも多いんだろうホセ・ゴンザレスの登場。
1939年スペインバルセロナ出身。1960年にスペインのアートエージェンシーSelecciones Ilustradasに加わり、ロマンス物のコミックや、ピンナップイラストなどを手掛ける。Selecciones Ilustradasは1971年以降アメリカWarren Publishingと繋がり、同社の出版物に多くのスペイン出身アーティストを供給することとなる。その最初がゴンザレスだったということ。
ホセ・ゴンザレスはその後、アーティストとしてのみならず、ストーリーも含め多くのVampirella作品を手掛けることとなり、Vampirellaと言えばゴンザレスぐらいになって行く。
なんか英語版のWikiにはVampirellaのことしか書いてないんだが、フランス語の方によると1979年にはスペインに戻り、その後はエロティックなコミックなどを描いていたらしい。
少し調べてみたらいくつか画像など含め紹介しているところが見つかったんで、リンクだけ紹介しとく。いずれもスペインのコミックを紹介しているらしいtebeosferaというサイトなのだがスペイン語で内容等不明。
Chantal(シナリオ:Ignacio Molina)
Mamba(シナリオ:Antonio Segura)
逃亡を続けるヴァンピレラは、しばしの休息の場を求め、深夜墓地にもぐり込み、眠りについていた。
同じ墓地に二人の若者が塀を越え忍び込んでくる。地元の名家Wade家の霊廟にはお宝が眠っているとのうわさを聞きつけ、墓荒らしを企む者たち。
霊廟の扉をこじ開ける二人。だがそこには墓を護る、背に黒い翼を広げるミイラのような姿の悪魔が待ち受けていた。
彼の名はSkaar。七体のしもべほどの力はなく『The Crimson Chronicles』には言及のない下級悪魔だ。
慌てて逃げ出す二人だったが、難なく捕まりその手から生気を吸い取られ塵と化して行く。
休んでいた場所から騒ぎを聞いて現れたヴァンピレラ。
戦闘態勢に入るが、相手の魔術により意識を失う。
意識のないヴァンピレラの身体を抱き上げるSkaar。
『Vampirella Archives Vol. 2』より 画:José González
ここでカバーと同じ構図の画がタイトル部分に使われる。『Vampirella』誌のカバー画の入稿とか結構早かったのかなと思う。まあカラー四色が白黒ページより先に印刷とかは何処の国の印刷事情でも同様なのか?いずれにしても編集者がストーリーライターを兼ねているような体制故に可能なことだったのだろうな。
墓地を見下ろす邸宅の窓からその様子を眺めていた当主の老人W. W. Wade。
就寝前の薬を持って現れた主治医を払いのけ、部屋を出て外へと向かう。
寿命も残り少ないが、その財力に飽かせて永遠の生を求める老人の邸宅には、怪しげなまじない師の類いがたむろしている。Wadeの金に群がる者の中には、地元の保安官の姿も見られる。
墓地に現れたWadeは、Skaarを呼び寄せる。
SkaarはWadeの死後の魂と引き換えに、契約により彼の支配下にあった。
窓から様子を見ていたWadeは、Skaarが殺さずに捕らえたように見えたヴァンピレラについて詰問する。
人外の者であると感じた故に捕獲したと言うSkaarに、ただちに彼女を連れて来いと命ずるWade。
しばらくの後、Wadeは屋敷からまじない師たちを全員追い払い、保安官Floydにある命令を下す。
その頃、Van Helsing親子はヴァンピレラの行方を求め、近くのハイウェイを車で走行していた。
その車はFloyd保安官により停止され、保安官からWade邸への同行を要請される。
以前にWadeとは面識があり、彼に不快感を持っていた父Conradはそれを断るが、銃を突き付けられ強引に連行されることとなる。
地下室に鎖で繋がれたヴァンピレラ。力の弱っている彼女は鎖を千切ることもコウモリに変身することもできない。
そこに現れたSkaar。ヴァンピレラの頼みの綱である血清も処分したことを告げる。
Wadeの屋敷に連れてこられたVan Helsing親子。Wadeはヴァンピレラが吸血鬼である確証を得るため、伝手を使い専門家である彼らが近くにいることを突き止め、Floyd保安官に命じ屋敷に呼び寄せたのだった。
ヴァンピレラが閉じ込められた地下室に案内された親子は、直ちに彼女であることに気付く。
杭とハンマーを手にヴァンピレラに襲い掛かるConrad。だがWadeに杖で後ろから殴られ、意識を失う。
Wadeに向かったAdamも、杖に仕込まれた銃により肩を撃たれてその場に倒れる。
ヴァンピレラが吸血鬼であることを確信したWadeは、彼女に自分の血を吸い自らに永遠の生を与えることを迫る。
それを拒むヴァンピレラ。彼女が血への渇望に耐えられなくなるのは時間の問題だとして、Wadeは地下牢の鍵を掛けその場を去る。
Van Helsing親子と共に閉じ込められたヴァンピレラは、まだ意識のあるAdamにいずれは血への渇きに耐えられなくなる自分の傍にいるのは危険だと告げる。
以前に彼女を殺すのを躊躇い、君は他の吸血鬼と違うように思えると言うAdamに、ヴァンピレラは自らの出自とこれまでの経緯を話す。
納得したAdamだったが、傷の痛みと出血により意識を失う。
やがて血への渇きがヴァンピレラを襲い、その秘めたる力で鎖を引きちぎり自らを解放する。
本能的な欲望に駆られ、Adamに近寄り血を吸おうとするヴァンピレラ。だがそこで意識を取り戻したAdamの目を見て踏みとどまる。
だが、その時父Conradも目を覚まし、杭とハンマーを手にヴァンピレラへ襲い掛かる。
盲目ながらも鋭い勘を持つConradは、狭い地下牢内でヴァンピレラを追い詰めて行く。
その時、Van Helsing親子の始末を請け負った悪徳保安官Floydが牢の扉を開く。Conradの手にした杭は、Floydの胸へと打ち込まれる。
目の見えないConradはヴァンピレラを打ち倒したと信じる。Adamはそのまま父を連れ、血への飢えから同行を拒むヴァンピレラを残し、地下牢を去る。
『Vampirella Archives Vol. 2』より 画:José González
そこに現れたWade。再びヴァンピレラに自らの血を吸うように迫る。
拒むヴァンピレラだったが、飢えに耐え切れずWadeの首から血を吸う。
永遠の命を手に入れたと歓喜するWade。だが、地球の吸血鬼とは異なりその能力がないヴァンピレラにより、Wadeは血を吸い尽くされ息絶える。
負傷した身体を引き摺るように屋敷から逃げるVan Helsing親子にSkaarが襲い掛かる。だが、何かに気付いたように彼らを放置し、飛び去るSkaar。
地下牢のヴァンピレラの前に現れるSkaar。彼はWadeの死亡を察知し、こちらに現れたのだった。
身構えるヴァンピレラ。だがSkaarは、自分はWadeの魂を手に入れるために来ただけで、もはや争う意志はないと言う。
Skaarは最初からヴァンピレラが地球の吸血鬼とは異質であることに気付いていた。永遠の生を求めるWadeを騙し、その魂を手に入れるため彼女を利用したのだった。
Wadeの魂はそれほどカオスに重要なのか、と問うヴァンピレラ。
カオスにではない、私にとってだと答えるSkaar。
悪魔が解放され、安息を得るには、自身より邪悪な魂を入れ替えるしかない。その確信を得るため自分は長い年月Wadeに仕えていたのだ。
そしてSkaarは、最後に自分はSkaarになる以前はこのW. W. Wadeの父親だった、と告げ闇と影の中へと消えて行く。
Wadeの魂を抱き、存在しない空虚へと飛翔して行くSkaar。Wadeはそこで、自身の魂がSkaarと入れ替わる真の意味を悟り、引き返すことのできない絶望の中へと沈んで行く。
主のいなくなった屋敷の窓を開け、外を見晴らすヴァンピレラ。そこには既にVan Helsing親子の姿もない。
だが、どういう形にせよ彼らとは必ずまた遭遇することになるだろうと予感しながら、彼女はコウモリに姿を変え、夜闇に飛び立って行く。
以上、ホセ・ゴンザレス作画による『Vampirella』の第1回。
ここで登場するSkaarは、現行Dynamiteシリーズの過去キャラクター総登場バトル的な回で、前回登場のPendragonと並んでヴァンピレラサイドで戦ってたりしたのだが、それ以前に今後も登場するキャラクターになるのかは不明。ちょっと調べてみたが情報見つからなかった。
その他、この#12には、前述のJeff Jones「Quest」とWally Wood「To Kill A God」が掲載されている。
Jeff Jones、大変美しい画で作品集ぐらいあったら欲しいんだが、どうも見つかるのはイラスト画集的なものだけだったり。
Wally Wood以前の掲載作品と比べても結構な描き込みで、かなり気合の入った感じの作品。
『Vampirella Archives Vol. 2』より 画:Jeff Jones
『Vampirella Archives Vol. 2』より 画:Wally Wood
■Vampirella #13
前号に引き続き、このカバーもSanjulián。この号に掲載されている古代エジプトを舞台とした作品「The Silver Thief And The Pharoah’s Daughter」をイメージしたイラスト。
The Lurker In The Deep! : Archie Goodwin/José González (15P)
Conrad Van Helsingがドアを開けると、そこでは息子Adamが今にもヴァンピレラに誘惑され、血を吸われそうになっていた。
急ぎ二人を引き離すConrad。そしてヴァンピレラを滅さんと何度も胸に杭を打ち込む。
「父さん!」呼びかけるAdamの声に我に返る。そこは自宅の寝室のベッドの横だった。全ては夢だったのだ。
富豪Wadeの屋敷での事件で、目が見えないConradに彼がヴァンピレラを滅ぼしたと思わせ、追跡を終わらせ自宅へ父を連れ帰ったAdam。
だがConradはそのサイキックヴィジョンにより、Adamの嘘に気付き始めていた。
ヴァンピレラは外宇宙からの訪問者で、地球の吸血鬼とは異なる。彼女はあのカオス教団と闘う者だ、と父を説得しようとするAdam。
だが墜落した飛行機で彼らの一族の血を吸い絶命させたのは事実であり、血清の効果が切れれば危険な吸血鬼となる、と彼女を信用せず滅すべき存在だとするConrad。
平行線をたどる中、Adamは自分は彼女を愛してしまったのだ、と告げる。
何処かの海中。もはや原型も定かではない忘れられた遺跡がところどころ海底から顔をのぞかせている。
泳ぐ魚に飛び掛かり捕食する鮫。その鮫をこの世のものならざる奇怪な手が掴む。
醜怪な触手の先に付いた水かきをもつ鉤爪。遺跡の残骸の中に潜むその手の持ち主は、カオス神七体のしもべの中の一体、Demogorgan。
存在しない空虚から、この世界に侵入し始めた怪物は、さらに力を取り戻すため、生贄を待つ…。
メキシコ湾に面したテキサスシティの港に、富豪のプレイボーイJohnny Tritonのクルーザーが寄港する。選ばれた人物のみが招待されるという彼の船に乗ることを切望する女性は多い。
ヨットクラブに向かったTritonは、入り口の今夜のマジックショーの看板を見つめる。そこに書かれているのはマジシャンPendragonと、そしてヴァンピレラの名。
クラブ内に入るTriton。ステージではPendragonによるマジックが演じられている。近くのテーブルからは、よそでもっとましなマジックショーを観たぞ、というような不満の声が聞こえてくる。
そこでPendragonはアシスタントのヴァンピレラを紹介する。妖艶な姿の彼女の登場に店内の空気は一変する。
スポットライトの下で、煙に溶けるようにコウモリに変身するヴァンピレラ。客からは感嘆の声が上がる。
『Vampirella Archives Vol. 2』より 画:José González
楽屋へと戻ったヴァンピレラとPendragon。
逃亡に疲れた彼女に隠れ蓑を提供してくれたPendragonに感謝するヴァンピレラ。Pendragonは彼女には命を救われた借りがあると言う。
傍らに置かれた『The Crimson Chronicles』。由来を知るPendragonは、その本とカオス教団への不安を感じずにはいられない。
そこに現れたJohnny Triton。彼は二人に自分のクルーザーでのマジックショーの上演を依頼する。
深夜に出港するJohnny Tritonのクルーザー。
自分は泳げないので、船は信用しないと言うPendragonだったが、船室に用意された上物の酒を見つけて喜ぶ。
荷物と血清が無事積み込まれたのを確認するヴァンピレラだったが、荷物の下の海水だまりに首をかしげる。
そこへTritonからの会食への正体を伝える船員が現れる。どこか不気味な船員が去った跡には海水と海藻が残っていた。
出港から二日目の夕暮れ。乗客の間では船員がほとんど姿を見せないことへの疑問も聞こえるが、最大の関心はTritonのヴァンピレラへの執着だ。
今もデッキ上で彼女に近付くTritonに、ヴァンピレラは他にも美しい女性が大勢乗船しているのになぜ自分なのか、と問う。
そこでTritonは着ていたローブを開き、胸に彫られたタトゥーを見せる。それはカオス教団のシンボル。
驚くヴァンピレラに、君も気付いていたのではないか?と言うTriton。
ヨットクラブで見た時から何かを感じていたが、船員が彼女の荷物に『The Crimson Chronicles』を発見したことで、ヴァンピレラが彼らの一員であることを確信したと言うTriton。
そして、彼のキャビンで自らの秘密を話すTriton。
数年前、タンカーの下級船員だったTritonは、航海中の船の爆発から唯一人生き残り、死を目前に海を漂っていた。
絶望し、思いつく限りのものに祈りを捧げるTriton。そんな彼の前に現れたのがカオス神七体のしもべの中の一体、Demogorganだった。
そしてDemogorganは自分に全てを与えてくれた、この船も。Tritonは語る。
でも、その見返りは?と訊くヴァンピレラ。カオスとの契約には必ず見返りが必要なはずよ。
それはこのクルーズさ、と言うTriton。全ての乗客はDemogorganへの生贄となる。君は私と一緒にこのキャビンに居れば安全だ。
「Pendragon!」ヴァンピレラはTritonの制止も聞かず、キャビンから飛び出して行く。
その時、海中からDemogorganが姿を現す。そしてその醜怪な触手で次々と乗客たちを掴み、貪って行く。
いまにも襲い掛かられるところだったPendragonの危機に駆け付けるヴァンピレラ。
救命用の斧を掴み、それを振り触手と戦い始める。
そこに追いついて来たTriton。Demogorganに向かい、これは間違いだ。他の全ては君のものだが、彼女だけは私のものだ、と訴える。
しばしの沈黙。静止。そしてDemogorganは恐るべき唸りを上げ始める。
そして、煌びやかだった豪華なクルーザーはみるみる朽ち果て始め、廃船へと変貌しあらゆる場所から海水が侵入して来る。
更に船員たちの身体も崩れ、白骨へと変って行く。全てはDemogorganの魔法による幻だったのだ。
そしてDemogorganの触手がTritonの身体を掴む。
Demogorganは忠実ではあったが、恐ろしく嫉妬深い女主人でもあった。
そして彼女は全てと共に海中へと消えて行く。
『Vampirella Archives Vol. 2』より 画:José González
救命ボートにヴァンピレラを助け上げるPendragon。
「こんなボートどこで見つけたの?」
「優れたマジシャンは状況に合わせたトリックを最低一つは持ち合わせているものさ」
「そして先にも言ったように、私は船を信用してないんだ」
【エピローグ】:地元のニューイングランド大学での研究に戻ったConrad Van Helsing。
部屋の外の物音に、Adamか?と呼びかけるConrad。だが、それは家政婦のMrs. Griggsだった。
彼女は旅行に出るというAdamにこの仕事を任されたのだけど、聞いていませんか?と話す。そして彼が、机の上にあるテープレコーダーのテープを聞くようにとも話していた、と付け加える。
テープを聞いてみるConrad。そこではAdamの声が、自分はヴァンピレラを忘れることができず、彼女を追う、と告げていた。
怒りにレコーダーを殴りつけるConrad。そしてハンマーと杭を手に、必ずAdamより先にヴァンピレラを見つけ、彼女を滅すると誓う。
●Jose M. Bea
この号のカバーにフィーチャーされている「The Silver Thief And The Pharoah’s Daughter」の作画が、スペインのアーティストJose M. Bea。
1942年生まれで、15歳でゴンザレスのところでも出て来たスペインのアートエージェンシーSelecciones Ilustradasに加わり、1960年代に入ってからは英国のコミックで多くの作品を手掛ける。60年代後半からはしばらくコミックから離れていたようだが、1970年にスペインのコミックではかなり有名らしいBuru Lanから出版されたDraculaで復帰。そんな頃にSelecciones IlustradasとWarrenがつながりを深め、というような経緯らしい。
ご覧のように様々な線やら技法を組み合わせた独特の雰囲気を持った魅力的な作画。スペインのアーティスト、まだまだ奥深し。
『Vampirella Archives Vol. 2』より 画:Jose M. Bea
●Bill Dubay
さて、ここで衝撃のアーティスト登場!それがこの号で「The Frog Prince」を描いているBill Dubay。最初から書いているがこの『Vampirella』誌ではヴァンピレラメインのストーリー以外でも掲載されている各作品の最初にヴァンピレラが登場し前振りをする。この「The Frog Prince」でも同様なのだが、なんとこのヴァンピレラ、コスチュームから乳輪がはみ出しとる!このコスチュームの形態では絶対に乳輪を隠しきれない!という彼の強い思いを描いたものなのだろう。多分、日本で陰毛描写に強いこだわりを持ち美少女画を描き続ける、うるし原智志画伯と似たような方向性を持ったアーティストだったのだろう。
『Vampirella Archives Vol. 2』より 画:Bill Dubay
…とまあ、一個ぐらいネタあってもええやろ、ぐらいで入れたんだが、さらに調べてみたところ、この人本名William Bryan Dubayで、Warrenの編集者兼、ストーリーライター兼、アーティストと手広くやっていた人で、Bill Dubayも色々変えながら使っていた名前の一つ。Warrenの編集者としては、先頭に出たり下がったり、他社に行ったり戻ったりと色々あったようだが、Warren最後の編集者としても知られており、Warren倒産後の版権売却の際の不備で訴訟が起こったときには、結構矢面に立たされたらしい。なーんか結局、日本の一昔前の青年マンガ誌バブルの頃、ブイブイいわせてた「カリスマ編集者」みたいなやつだったのかも、と思って興味激減したのだが、今後もヴァンピレラやってくと避けて通れない人なのかもね。
■Vampirella #14
#14のカバーもSanjulián。この号に掲載されている「The Wedding Gift」というギリシャ神話をベースにした作品をイメージしたもの。一つ目巨人が描かれていて、私もああこれサイクロプスやなと認識できる程度の…、あ、これドラクエ知識か…。
Isle Of The Huntress ! : Archie Goodwin/José González (20P)
前号で乗っていた船が沈没し、ヴァンピレラはPendragonと共に救命ボートで脱出、というところからの続き。
二人は何処かの海岸に漂着する。島ではあるが、海岸から先ジャングルに覆われた様子から、人が住んでいるのかは窺い知れない。
pPendragonが湧水を見つけ喜んでいる一方で、ヴァンピレラは持っていた最後の血清を飲む。
血清の効果は24時間。新たな血清を作る場所が見つかるかわからない状況では、自分とともに行動するのは危険だ。ヴァンピレラは脅し、追い払うようにPendragonと別れる。
ジャングルを走り、泉を見つけて一息つくPendragon。
泉に顔を近づけると、自身の背後に恐ろし気なモンスターが映る。人狼?いまにも襲い掛からんとするその姿に悲鳴を上げるPendragon。
その声に引き寄せられたように人狼の背後から飛来するコウモリ。
それは空中でヴァンピレラへと姿を変え、上空から人狼に襲い掛かる。
『Vampirella Archives Vol. 2』より 画:José González
その島は、無人島ではなかった。島の一角に建てられた家の中で、男性、Jeanが今しがた聞こえた悲鳴に懸念を示す。
「聞こえたぞ。あれは何かを見つけたんだ」
同居する妻のVivienneは、多分小動物か何かよ、まだ早いのだからベッドに戻りなさい、と窓から外を窺うJeanに呼びかける。
こんな暑さの中寝てなどいられない、研究室に行かねば、俺にはやらなければならないことがある、とJean。
「何をやることがあるの?次のボートがマルティニークから、使用人募集の広告を見た者を連れて来るまでは、あれが最後の一人なんでしょう。できることはないわ」なぞの言葉を発するVivienne。
「なぜ君はあれが失敗だと言い切れるんだ?時々俺は、君があれを…、狩り、殺しをスポーツのように楽しみ始めてるような気がするんだが…」
「暑さのせいよ。それに疲れ…。休みましょう。暗くなる前に…」
だが、Jeanは更なる物音にも気付く。「まだ聞こえるぞ!唸り声、戦ってる音か?何かが起こっている」
そしてJeanはライフルを手にジャングルへと向かう。渋々ながらそれに従うVivienne。
そして二人は、泉のほとりの人狼の死体と、傍に座り込むPendragonを発見する。
「お前誰だ?どうやってここに来たんだ?これはお前がやったのか?」Pendragonを問い詰めるJean。
「私はPendragon。魔術師だがステージの上だけのものだ。この奇跡は私の力に依るものじゃないよ」
そう言って飛び去って行くコウモリを見上げるPendragon。二人も彼の視線を追う。
「コウモリ?このおじいちゃんボケてるんじゃないの?何にしても今重要なのは、今晩どうするかよ」とVivienne。
「こうなった以上は選択肢はない。これがPendragon氏であろうと誰だろうと、彼を使うしかない」
そう言うJeanに、彼は年を取り過ぎて弱すぎるわ、と抗議するように言うVivienne。
Pendragonは状況を全く理解できないまま、彼らに追い立てられて行く。
その時、異音に空を見上げると一機の軽飛行機が島の上空を飛行して来る。
トラブルが起きているとみられるエンジンがストップし、機は海岸への不時着を目指す。
翼を大破しながら着水する軽飛行機。そこから脱出し、二人の男が島に向かって歩いて来る。ひとりはもう一人に肩を貸され、やっとで引き摺られている様子。
そこに近づいて来るJean。「どうやら君の友人はもう死んでいるようだな」
友の遺体をその場に寝かせ、落胆した男はここに来た経緯を話す。
「彼は大学からの友人で、現在はチャーター機サービス会社を運営していた。私が消息を絶った船と、その生存者を探すのに協力してくれていたんだ」
「燃料が少なくなり、彼は戻ろうとしていたんだが、私がもう少し粘ってくれと頼み、そこでこの島を見つけて…」
「後は見た通りだ。すべて私の過失だ!」
「私がある女性をこれほど執着して探すようなことをしなければ、こんなことにはならなかったんだ。私の名はAdam Van Helsingといって…」
「君の名前などどうでもいい」Jeanはそう言うと、銃でAdamを殴りつける。
しばらくの後、一旦は戦いの場から飛び去ったヴァンピレラは、現れた人間が銃を持っていたことからPendragonの身を案じ、連れていかれたと思われる家へ様子を探りにやって来る。
家の中ではAdamがベッドに拘束されていた。これは何なんだ?私をどうするつもりだ?と叫ぶ意識を取り戻したAdam。
「運がよかったわね。こいつは素晴らしいわ。力もある」とVivienne。
「だが問題がある」と言うJean。「今晩中に注入薬を用意することはできなそうだ」
窓からその様子を覗いていたヴァンピレラ。「あれはAdam。Pendragonとの仕事から跡をたどってここに来たのね。でもあの連中は何をやっているの?」
家の中ではVivienneとJeanが言い争っていた。
「今晩中には無理ですって?私がもう待てないのは分かってるでしょう!」と言うVivienne。
「君がその度に狩りへの、そしてスリルと更なるチャレンジへの欲求を高めているのは分かっている。だが段階を急ぐことはできない。失敗を繰り返すことはしたくないのだ」とJean。
「ならその年寄りを放しなさい!」「彼を?そのままでか?しかし…」
「Jean、私を愛しているなら彼を放すのよ!私には誰かが必要なの!」そう言って研究室から出て行くVivienne。
Jeanは仕方なくPendragonを縛っていたロープを切る。そして生き延びたかったら全力で逃げろ、と告げる。
家から走り出て来たPendragonに、物陰に隠れていたヴァンピレラが声を掛け手招きする。
よかった、若いVan Helsingが捕まってるぞ、とPendragon。
様子は見ていたが把握できないヴァンピレラは、あの女がそれほど危険には見えなかったが、と疑問を口にする。
そこに響く恐ろし気な獣の唸り声。
そして人狼に変身したVivienneが、戸口から走り出てくる。
Pendragonに、隠れて!と声を掛け、ヴァンピレラは人狼に変身したVivienneの前に立つ。
そしてその場からVivienneを引き離すため、彼女に背を向けジャングルの奥へと走って行く。
それを追うVivienne。二人の姿はジャングルの中へと消えて行く。
家に残されたJeanとAdam。
「あんたの奥さんは人狼だったのか」
「そうだ、私はその治療法を研究している」
「それで私をそのための実験台に使うつもりか?」
「研究のため類似の症状を作り出す。望むらくはこれより成功したものを」そしてJeanはシーツを掛けてあったヴァンピレラに殺された人狼の遺体を見せる。
なぜこんなことを?と問うAdamに、Jeanは彼ら夫婦がここに至った経緯を話し始める。
生化学者としてキャリアを積み始めていたJeanは、パリでVivienneと出会い、二人は恋に落ちる。
だが、幸せは長くは続かず、Vivienneが白血病に冒されていることが発見される。
治癒の手立てを探すJeanがたどり着いたのが、カオス教団の聖書『The Crimson Chronicles』だった。
Vivienneの命を救い、その呪文も完全にコントロールできると思っていたJeanだったが、それは彼女の命を救った代償として、彼女を人狼へと変えてしまった。
以来彼らはこの無人島に移り住み、Vivienneを人間に戻すべく、生化学者としての経験を活かし、研究を続けている。
明け方、Vivienneは疲れ果てて帰って来る。
老人を見失い、その代わりに女が現れた。おそらくはVan Helsingが探している女だろう。女を追ったが捕まえることはできなかった。Vivienneは言う。
今晩こそは実験が成功する予感がする。女のことは忘れろ。Jeanはそう言い、Vivienneの肩を抱き、家へ入って行く。
逃走に疲れたヴァンピレラは、洞窟を見つけてそこに隠れ休息をとる。
眠るヴァンピレラ。その間に前日飲んだ血清の効果は衰え、夕刻彼女は捕食者として目覚める。
Jeanに肩を揺すられ目覚めるAdam Van helsing。
Jeanの手には、完成した黒い試薬を満たした注射器があった。Adamを眠らせ、体調を万全にした後、実験を開始したJean。
Jeanがその試薬をAdamの体内に注入しようと覆いかぶさったとき、隠れて様子を窺っていたPendragonが背後から忍び寄り、椅子を後頭部に叩きつける。
Pendragonに解放されたAdamは、まず研究所内を探し、Jeanが最後の手段に用意していたと思われる銃と銀の弾丸を発見する。弾丸は4発。
その時、戸口にVivienneが現れる。
人狼に変身し、襲い掛かるVivienneに3発の銃弾を放つAdam。
だが、銀の銃弾の効果はなく、そのまま彼らに向かって来る人狼。
外に逃げたAdamとPendragonの前を飛来して来る一羽のコウモリ。
それはヴァンピレラへと姿を変え、人狼Vivienneの前に立ち塞がる。
研究室で意識を取り戻すJean。
注射器を手にしたまま倒れた彼は、その一部が自らの体内に注入されたことに気付く。
満月に照らされた海岸で、ヴァンピレラと人狼Vivienneの死闘が始まる。
最後に立っていたのは、Vivienneの血を飲んだヴァンピレラだった。
またも吸血の本能に動かされた勝利に、ヴァンピレラは悲し気に顔を伏せる。
その時、半ば人狼へと変身した姿のJeanが現れ、ヴァンピレラに襲い掛かって行く。
背後からAdamが放った最後の1発の銃弾が、Jeanの身体を貫く。
今度は効果を発揮した銀の銃弾により、Jeanはその場に倒れる。
『Vampirella Archives Vol. 2』より 画:José González
わずかに残った力で妻の遺体ににじり寄るJean。「私は言っただろう…。今夜は成功すると…」
「弾丸は2発少なかった。あんた、前にこれで奥さんを殺そうとしたんだな」とAdam。
「狂った神以外の何者がVivienneを銀の弾丸で殺せない人狼にする?そして失敗した、遠い昔に…。」
「私がここで研究していたのは、彼女を殺し得るほど強力な獣を創り出すことだった」
「わかるだろう。私が探していた救済…、彼女が追い求めていたもの…、それは死だったんだ」
Jeanは、人間の姿に戻った妻Vivienneの手を握りしめ、息絶える。
遂にヴァンピレラへとたどり着いたAdam。
だが、彼の父は必ず彼女を滅するべく追跡を続けてくるだろう。
しかしその時には彼女を一人で立ち向かわせることはしない。Adam Van Helsingはそう約束する。
●Esteban Maroto
この号で「Wolf Hunt」という作品の作画を担当しているのが、スペイン・コミックの大物アーティストEsteban Maroto。いや、ここで調べて初めて知ったのだが…。
1942年スペイン マドリード生まれ。ちょっとよくわからないのだが、1955年頃だから13歳ぐらいでどこかのコミック関連のスタジオで下積み的なキャリアを始めたらしい。1960年代に入り、スペインでヒーローもののコミックを描き始め、その一つ「Cinco por infinito」は、1984年にニール・アダムスが設立したContinuity Comicsから『Zero Patrol』として出版されている。かなりアダムスによる改変はあるそうだが。
1970年代には自ら週刊コミック誌「Trinca」を立ち上げ、代表作である『Alma de Dragón』を発表。その他有名な『Red Sonja』の「メタル・ビキニ」をデザインしたのはこの人ともWikiに書いてあるんだが、どうもどの辺のことだかいまいちわからん。とにかく”ビキニアーマーの父”らしい?
他にも、前のJose M. Beaのところで出て来たスペインのコミックで有名なBuru LanのDraculaで、「Wolff」というシリーズ中でも有名らしいエピソードかストーリーアークを手掛けている。
そして1970年代には前述のSelecciones Ilustradasからの流れで米Warrenでの仕事を始め、この「Wolf Hunt」が最初の作品ということ。以降Warrenより出版の各誌で合計101作品を描いたそうである。中でも『Vampirella』誌が多いようなので、これから度々登場してくることになるのだろう。
ご覧のように、その画力や女性の美しさに於いて、ゴンザレスに全くぐらい引けを取らないアーティストで、ヴァンピレラと言えばEsteban Marotoとなってた可能性もあったのではないかとさえ思う。70年代頭ぐらいで女体にこういうトーンの貼り方するってかなり先進的だったんじゃないかな?
『Vampirella Archives Vol. 2』より 画:Esteban Maroto
●スペインのコミックについて
この辺に来てスペインの強力アーティストが続々登場してきたわけだが、ここでスペインのコミックについての理解に役立つ資料を紹介しときます。
Dynamiteから出てる、この『Masters Of Spanish Comic Book Art』についてはなんかいくつもあるヴァンピレラ関連の画集かなと思いちゃんと目を通してなかったのだが、なんだかんだ調べているうちに少し見てみたらこれスゴイ!結構詳しいスペインのコミックの歴史的なところから始まり、かなり多くのアーティストについて紹介している。これをちゃんと読めばある時点までのスペインのコミックについてはかなり把握できそう。
これについては何とか頑張って読んで、いつか何らかの形で紹介できればと思う。
こちらの『Spanish Fever』は2016年にFantagraphicsから英訳版が出たスペインコミックのアンソロジー。本国で出たやつを英訳という形で、一年ぐらいは誤差あるかも。
スペインのコミックシーンが、一旦壊滅ぐらいになった後、グラフィックノベルという形で復興してきた頃に組まれたアンソロジーで、日本でも翻訳が出たパコ・ロカの『皺』が話題になってた時期。
内容的にはオルタナティブ系という感じの作品が中心で、今回のヴァンピレラの話とはずれてしまうのだけど、それまでの歴史や、現在どうなっているかを知る上で大変意味深いし、そういう方向ではいい作品も多い。
先の『Masters Of Spanish Comic Book Art』からこっちというとかなり長い道のりになるけど、なんかそんな感じでスペインのコミックの歴史の輪郭ぐらいでもお伝えできたらいいっすね。
■Vampirella: The Essential Warren Years Vol. 1
最初に言っときながら、結構長い時間かかって書いてるうちに忘れかけてたんだが、最後にこれについて。
今回紹介した『Vampirella Archives』のVol. 1と2のヴァンピレラメインの作品については、本格的にストーリーが始まる前の最初の中途半端な2作を含め、すべてこちらにも収録されている。
しかしながら、なんか思ってたより各話が長く、ここまでで全体452ページの4分の一強ぐらい。まあどう考えてもヴァンピレラが全部収録とはなってないだろう。この後はピックアップした重要作を掲載して行くのか、ある程度まで続けて途切れるのかは、この先を読んでみなければわからん。前にも書いたけど、これ「Vol. 1」となってるけど、多分「Vol. 2」出ることないからね。
こちらについても今後も『Vampirella Archives』の続きを紹介しながら、ついでぐらいには続けて行く予定です。
というわけで、Vampirella Warren版 第1回ここで終了です。まあ長くなるなというのは分かってたけど、やっぱ想定以上になってしまったか。
しかしながら、あんまり実際のところがよくわかってなかったヴァンピレラのオリジナルについて、そこそこ詳しく伝えられたということのみならず、自分的にはかなり意義ある調査となった感じ。
まず初期あたりに関わりが多かったアメリカのアンダーグラウンドコミックシーンとか。ここについては現物見つかりにくく、この先探るのも難しそうではあるが。
そしてニール・アダムスの初期作品やら、結構下積み時代苦労したらしい様子とか。アダムスについてはホントもう少しちゃんと調べとかなきゃと思う。あと、アダムスについてEsteban Marotoのところで、アダムスが一時期やってたContinuity Comics説明が長くなるのでそのままスルーしちゃったけど、実は自分もそれ初めて知ったぐらいで、なんかもう現物もなくなってて全くわからないのだけど、アダムスについて調べる過程で何らかの方法で調べられればと思ったり。まあ多分頑張ればなんとかなるものだろうけどな。
そしてWally Woodみたいな、更に過去のコミックシーンに繋がるアーティストとか。
最後の方で勢力を強めてきた感じのスペインアーティスト群、この先も色々とスゴイの出てくるんだろうなと期待したり。
あと、ストーリーライターの方まであんまり手が回らなかったところはあるんだけど、例えばこの後Archie Goodwinなんかはマーベルでもかなり活躍するところとなり、もしかすると自分が少しこだわってる現在のスコット・スナイダーのやや散文的というようなナレーションの入れ方とかこの辺りにルーツがあるのかも、とも思ったり。それについては遡った前提としてジム・ステランコのコミックのデザインレイアウト革命的なものがあり、更にGoodwinとかに続いてトッド・マクファーレンとかが進化させてったんじゃないか、みたいな考えがあるのだけど、そこのところはもっと60~80年代ぐらいのものを大量に読んでいかなければとも思ったり。
あと、やっぱりヴァンピレラを元祖的位置づけをするのは乱暴かと思うが、結構そういうものとして決定的にしたとは言えると思うエロコスチュームという分野で、遂にニップレス前貼りアーマーへと進化した日本のRAN作『女神敗北 転生のヴァラノワ』を現在最前線と見ることでその系譜をたどる、というのも考えてたけどそこまで余力なかったり。
こうやって長いこと手が届かないぐらいだったものが、簡単手軽に読めるというのは本当に有り難いことだし、本店ハードボイルドの方でもいつも思うことだけど、クラシック作品を読むことは、新たな発見があったり、全体の歴史に新たな視点を与えてくれたりと大変意義深い。
でもな、コミックであれ、ハードボイルド小説であれそれらは生き物で、常に新しい作品が未来に向かって産み出されており、そこをきちんと見て行かなければ、まず認識の時点でそれは死んだも同然となってしまう。常に新しいものを見て行く過程の一つとしてその基盤である過去のものを同時に見て行きたいというのが、私のスタンスである。
そんなわけで、『Vampirella』については過去のWarren版と、現在のDynamite版を交互にやって行こうという予定で、次はDynamite版第1シリーズ前半という感じになる。と言ってもそのDynamite版も版権取得して開始されたのが2011年とかやや昔になり始めているのだがね。あっちもこっちも早く進めて行かなければ、という感じでいつも終わるのであった。
Vampirella:Warren Publishing
■Vampirella Archives
■その他
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