Black Hammer第2部 Black Hammer Reborn完結!
家族の消滅後、再びBlack Hammerとして復活し、僅かな手掛かりを追って上空から迫るもう一つのSpiral Cityへ飛んだLucy。
だが到着間もなくSkulldiggerと共にSpiral Asylumへと捕縛されてしまう。本物のDoc Andromedaを救い出す作戦だというSkulldigger。
そしてなす術もなく独房に閉じ込められたLucyを、再び現れたColonel Wierdが救い出す。
前巻『Volume 6: Reborn Part Two』では主にSkulldigger、Colonel Wierdの行動の背景に焦点が合わされていたが、この『Volume 7: Reborn Part Three』では作画もCaitlin Yarskyに戻り、Lucy=Black Hammerの物語が描かれて行きます。
今回にて完結するBlack Hammer Reborn。果たして登場人物たちの運命や如何に。
Black Hammer 第7回
Volume 7: Reborn Part Three
■キャラクター
Lucyの娘「Rosa」については、最初にそう呼ばれていたのでそう書いたのだけど、その後は「Rose」と多く呼ばれ愛称的なものだろうと思ってたのだが、「Rosa」の方は結局全然呼ばれなくなってしまった…。最初にそうしてしまったのでそれで通すのだけど、混乱する人がいたらごめんなさい…。
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Lucy Weber/Black Hammer:
20年引退していたが、家族を失った怒りにBlack Hammerに復活する。 -
Skulldigger:
Spiral Cityのヴィジランテ。腕力型で、場合によっては殺人も辞さない。 -
Doc Robinson/Doc Andromeda:
第2次大戦中ヒーローチームでDoc Andromedaとして活躍した科学者。 -
Sherlock Frankenstien:
Lucyの宇宙ではヴィランだったが、別の宇宙ではヒーローチームのリーダーを務めている。 -
Black Hammer:
別の宇宙のLucyの父であるBlack Hammer。 -
Lorraine Weber:
Lucyの母。 -
Colonel Wierd:
あらゆる時空間にランダム不連続につながるパラゾーンの住人。 -
Joseph:
Lucyの息子。 -
Inspector Insector:
Limboの私立探偵。以前Colonel Wierdを助けた。 -
Elliot:
Lucyの夫。過去にLightning Rodという名前で、短期間ヴィランをやっていた。 -
Rosa:
Lucyの娘。 -
Abraham Slam:
かつてのSpiral Cityのヒーロー。 -
Anti-God:
宇宙の破壊者。
■#9
独房を脱出したLucyとSkulldiggerは、看守たちを打ち倒しながらSpiral Asylum内を走る。
遂に目的の房に辿り着き、扉を開けるSkulldigger。そこには房の片隅に座り込むDoc Andromedaの姿があった。
再会を喜ぶLucyとAndromeda。積もる話は後だ、と階段へ向かって走るSkulldigger。
屋上へとたどり着いた三人。上空から迫るもう一つのSpiral Cityに慄くDoc Andromeda。もはや時間は残り少ない。
そしてそこへ、Lucyもかつて目にしたことがあるSkulldiggerのドクロ型飛行艇が現れる。
屋上に現れた追手を振り切り、三人は飛行艇に乗り込む。
三人の乗った飛行艇は、Skulldiggerの操縦により、この世界のDoc Andromedaの研究所へと向かう。
「何者がこの事態を引き起こしているにせよ、それが操作されているのはここだ」Doc Andromedaは言う。
三人を転倒させるほどの激しい地揺れが起きる。二つの世界が衝突し破壊されるまでもう残る時間は少ない。
Skulldiggerは研究所の扉を蹴り開ける。
中ではかつてLucyが自分の世界で見たものと同じ、Anti-Godを呼び起こすための巨大な装置が稼働していた。
一刻も早く装置を停止させようと近寄る彼らの背後から声が掛かる。「そう急ぐこともなかろう」
振り向いた背後に立っていたのは、こちらの世界のヒーローであるSherlock Frankenstienだった。
「何が起こっているのかはわからんが、その装置から離れるのだ」自身の武器である特殊銃を突きつけながら命ずるSherlock Frankenstien。
自分たちは同じ側だ、自分たちはこの事態を止めようとしているだけだ、とSherlockを説得しようとするLucy。
「彼は私たちの世界から来たDoc Andromedaよ。全てが逆になってる。彼はこれらを引き起こした悪のDoc Andromedaじゃないわ」
「本当かね?では説明してくれたまえ。彼が本当の君たちの世界のDoc Andromedaならば…」
「あれは誰なんだね?」
Sherlockの指さす先には、装置の操作コンソールの前で鎖に繋がれた、ボロボロの姿のDoc Andromedaがいた。
困惑するLucy。その横で彼女たちと同行していたDoc AndromedaがSherlockを殴りつける。
「なぜお前はいつも全てをぶち壊しにするんだ、Sherlock」
Doc Andromedaの首を締め上げるSkulldigger。「お前は誰だ?」
「誰だと思う?」嗤うAndromedaの顔がみるみる変わって行く。
「俺は火星から来た神をも恐れぬ戦士だ!」
そこに立っていたのは、こちらの世界ではヴィランであるBarbalienだった。
『Black Hammer Volume 7: Reborn Part Three』より 画:Caitlin Yarsky
あまり人の失敗をあげつらうようなことはしたくないのだが、このシーン少し混乱しやすくなっているので少し説明しておく。
Asylumから救出し、Lucy達と一緒にやって来たDoc Andromedaが偽物で、Sherlockを殴りSkulldiggerに締め上げられ、正体であるBarbalienに戻る。
中央のBarbalienをなるべく大きく描きたいという意図から、その説明となる上のコマが小さくなりすぎ混乱しやすくなってしまっている。
実際、カラーのDave Stewartも混乱して、その部分の3コマ目、Skulldiggerが締め上げるシーンで右下の服の部分をSherlockの服の色で塗ってしまっていたり。
普通に読むとちょっとあれ?となりかねないところなので、あくまでもそのための注意です。
「嘘をついてすまなかったな、Lucy。俺はお前を時間通りにここに連れてくる必要があったんでな」Skulldiggerを払いのけ言うBarbalien。
倒れた場所からBarbalienを特殊銃をで撃つSherlock。
Skulldiggerが鋼鉄のドクロで後頭部を殴り、Barbalienを昏倒させる。
「私にはもはや装置を停止することはできない。破壊するより方法がない」叫ぶ本物のDoc Andromeda。
「私を信用しようがしまいがもう時間がない。ハンマーを返して頂戴」Sherlockに向かって言うLucy。
「君が言っている通りの者であればいいがな」自身の収納空間にアクセスし、Lucyのハンマーを取り出し手渡すSherlock。
「何が起こってるのかなんて私にはほとんどわからない。でもただ一つわかっていることがある」
「私はまだBlack Hammerで、こんな無茶苦茶はもう沢山だってことよ!」
そしてLucyはBlack Hammerへと変身する。
「彼が私にやらせたんだ。装置を造り直させた。彼は世界を衝突させ、全てを破壊するつもりなんだ」頭を抱えるDoc Andromeda。
「誰が?この世界のBarbalienが?」Andromedaに詰め寄るLucy。
「違う。彼はただの兵隊だ。Lucy、君にはわからないのか?」
「それはこの世界の最強のヴィラン」
「Black Hammerだ!」
そしてこの世界のBlack Hammerが現れる。
それはLucyの世界では既に亡くなった、彼女の父親だった。
笑顔で近寄り彼女の手を取る父Black Hammerに、呆然とするLucy。
奴の言うことを聞いてはいかん、奴の話を信用するな!と叫ぶSherlock。
「これは何なの?あなたは何をしているの?」と問いかけるLucyだが、父の姿に涙を抑えることができない。
『Black Hammer Volume 7: Reborn Part Three』より 画:Caitlin Yarsky
そしてこの世界の、悪のBlack HammerであるLucyの父が、この世界の過去を話し始める。
この世界がAnti-Godの襲撃に遭った時、こちらではヴィランであったBlack HammerもSherlock Frankenstienらと共闘し、この世界の敵へと立ち向かう。
そしてAnti-Godを打ち倒したとき、こちらの世界のBlack Hammerは消えることなく生き残る。
だがその一方で、彼の妻と娘Lucyは、戦闘による破壊に巻き込まれ命を落としていた。
「だが、Doc Andromedaがパラヴァースを発見した。彼は現実の本当の姿を発見したのだ。全ての世界、終わりなき可能性。そして私はお前を再び見つけられると知った」
この世界の父の言葉に、怒りを湧きあがらせるLucy。
「あなたは私の父さんなんかじゃない。父さんは誰かを犠牲にするようなことは決してしなかったはず。それが私のためであっても」
「おそらくはそれが彼の弱さであり、彼が消えてしまった一方、私がここに存在し続けている理由なのだろう」
「私は世界をあるがままに見ている。もはや善も悪もありはしない」その場にいる全員に向かって言うこの世界のBlack Hammer。
「全ては嘘だ。我々は駒であり、そこから自由になる時が来たのだ」
「そして私はお前を観察していた。お前は弱くはない。やるべき時が来れば、それを実行できる者だ」Lucyに向かって言うBlack Hammer。
「何を…、何を言ってるの?」戸惑うLucy。
「私はお前を失った後、お前を見つけるために世界の壁を破った。そして今、お前も大切なものを失ったことを知っている。夫。子供達」
「お前がすべきことは、私と共に進むことだ」
「我々は共に、お前の家族を取り戻すことができるのだ」
■#10
「私と共に来るのだ、Lucy。パラヴァースを探し、お前の家族を見つけ、そして我等は一つになるのだ」Lucyを説得するBlack Hammer。
「でもそれは私の家族じゃない。どこか捻じれた別バージョンよ。あなたみたいな」
「私を見るんだ、Lucy。私は別の世界のものだろう。だが、それでも依然私はお前の父で在り得る。そしてお前は私の愛しい娘で在り得る。かつてそうであったように。そう在るべきだったように」
「もう沢山だ。ケリをつけようぜ!」
スカルチェーンを振りかざし、Black Hammerに襲い掛かるSkulldigger。
「お前になど関係ない!」難なくハンマーでチェーンを受け止めるBlack Hammer。
「これは家族の話だ!」Black HammerはSkulldiggerを壁に押し付け、腹にハンマーを叩き込む。
『Black Hammer Volume 7: Reborn Part Three』より 画:Caitlin Yarsky
「Digger!」Skulldiggerに駆け寄るDoc Andromeda。
「言ったろ?俺はストリートから離れるべきじゃなかったんだ…、Doc」瀕死の息で言うSkulldigger。
「化け物め!彼は死ぬぞ!」悲痛な叫びをあげるDoc Andromeda。
「それで?奴はこれまで何人殺してきたんだ?」Black Hammerは言う。「わからんのか?これには何の意味もないんだ。我々の間に違いなどないんだ」
「だがまず最初は、お前の子供達を見つけることからだ」
「どこに?どこに行けばいいの?」家族に会いたいという思いがLucyを揺らす。
「Lucy、駄目だ!」Black hammerに同行しようとするLucyを止めるDoc Andromeda。
「ごめんなさい、でももしチャンスがあるなら…」
研究所の屋根を突き破り、上空に上がったLucyとBlack Hammer。
「どこへ行くの?」と問うLucy。
「他にどこがある?家へ帰るのさ」上空で逆さまになっているLucyが来た世界を指さしながら、Black Hammerは言う。
Lucyの世界の、Lucyの母Lorraineのアパート。
「Lorraine」彼女の名を呼びながら、窓から現れるBlack Hammer。驚愕する母。
「そんな、ありえない…」「Lorraine、俺だよ」戸惑う母に歩み寄って来るBlack Hammer。その後ろで、Lucyも窓から入って来る。
「お母さん、聞いて。わけがわからないのは分かってる。でも私たちと一緒に来て欲しいの」
ここで、前回に紹介した『Black Hammer Volume 7: Reborn Part Two』収録の#5~8巻末に掲載されていたRich Tommaso作画による『Inspector Insector in Thee Case of The Electric Boy』のストーリーが繋がって行く。全4話の最終回には「Black Hammer Reborn #9へ続く」と書かれていたのだが、実際に続くのははこの#10。前回に少し書いたが、この『Black Hammer: Reborn』、アーティスティックな試みとして『Black Hammer Volume 7: Reborn Part Two』収録部分を他の作画チームに先行して依頼するなど、制作スケジュールが複雑になり、その結果としての混乱なので、勘弁してあげてね。
Colonel Wierdにより消滅させられた3人の家族のうち、息子Josephのみが何故かLimbo世界のバッタ探偵Inspector Insectorの前に現れる。その謎に挑むInsectorだったが、到着後まもなくLimbo世界の犯罪王Doctor ZeusによりJosephが攫われてしまう。ZeusはJosephがこの世界に現れると同時に発生した空間の歪みである扉を発見しており、それがLimbo世界から脱出するための出口で、そのカギを握るのがJosephとみなしたのだった。だがそこに誘拐者であるFumi-Gatorを下水道から追跡したInsectorが駆け付け、Zeusの配下との間で戦闘が始まる。乱戦のさなか、ZeusはJosephをその扉へと引き摺って行き、そこにJosephを押し込むのだった!というところからの続き。
ZeusとJosephの様子に気付き、急いで駆けつけるInspector Insector。だが間に合わず、Josephは空間の歪みへと吸い込まれて行く。
「やったぞ!扉が開いたぞ!」と駆け寄って来るDoctor Zeus。
「慌てるな、Zeus。お前は何処だろうとあの子の近寄ることはできん」拳銃でZeusを殴りつけるInsector。
「Slamwich、Goose、ここは任せたぞ。これがどこへ繋がっていようと、俺はあの子を一人で行かせるわけにはいかん」
そしてJosephに続き、その空間の歪みに飛び込んで行くInsector。そしてその後ろで、その入り口は消えて行く。
『Black Hammer Volume 7: Reborn Part Three』より 画:Caitlin Yarsky
研究所に残されたSherlock Frankenstien、Doc Andromeda、Skulldigger。
「助けてくれ、Sherlock。彼が死んでしまう!」装置を止めるべくコンソールで格闘しているSherlockに、Skulldiggerの傍らで悲痛な声を上げるAndromeda。
俺はもうほとんど死んでるんだ。奴を手伝って装置を止めろ。SkulldiggerはAndromedaの襟首を掴んで吐き捨てる。
「これは単純に停止することはできない。Black Hammerがフェイルセーフを取り除いてしまったんだ」コンソールの前のSherlockに言うAndromeda。
「ならばすべて破壊するまでだ!」手に持った特殊銃から装置に向けてビームを発射するSherlock。「Sherlock!いかん!待て!」
装置は内側に巻き込まれるように崩壊し、縮小、消滅して行く。
「何が起こったんだ?」「わからん…」
その時、その場所に次元の裂け目が開く。同じ研究所に立つ二人の男性。別の世界のヒーロー?
そして、空間に次々と裂け目が開き、様々な別の世界の様相を見せる。
「何らかの連鎖反応だ…」「止めるんだ!」「不可能だ、もう手遅れだ」
『Black Hammer Volume 7: Reborn Part Three』より 画:Caitlin Yarsky
そして、地面が大きく揺れる。
建物内にいるのは危険だと考え、重症のSkulldiggerを助けながら、三人は研究所から外に出る。
外では様々な世界の様々なspiral Cityが出現し、各方向から衝突へと向かっていた。
「パンドラだ…。我々は箱を開けてしまったのだ」Andromedaが絶望的な呟きをもらす。
『Black Hammer Volume 7: Reborn Part Three』より 画:Caitlin Yarsky
Lucyの母Lorraineのアパート。
「あんた誰?」母LorraineはBlack Hammerに向かって言う。
「俺はJoseph Weberだ。君のJosephではなく、同様の彼ということだが。多くの共通した記憶を持っている。我々の存在はパラレルだった」
「君…、私のLorraineは、Lucyと共に私の世界の大変動で命を落とした。だが今、俺は君を取り戻す方法を見つけたんだ」
「あんたは私のJoeには似ても似つかないがねえ。あんたの目…。あんたの目は死んでるよ」不信感を露わにBlack Hammerを睨み返すLorraine。
そしてLucyに向かって言う。「Lucy、こんな男を信じちゃダメだよ。こいつが父さんじゃないことぐらいわかってるだろ!」
「わかってる。でも…」母の怒りに押されながら答えるLucy。「もしRoseとElliottとJosephをもう一度見つけられるなら…」
「見つける?こいつが何を言おうとね、彼らは死んでしまったの。戻ってこないのよ!」Lucyに向かい厳しく言う母。
「あなたがこのスーパーヒーローナンセンスの類いが彼らを戻してくれると信じたいのは分かる。でも彼らは逝ってしまったの。それを受け入れるしかない」
「できないよ、お母さん。もう疲れちゃったよ。この全てに…。Black Hammerであることを辞めて、すべてうまく行っていたはずなのに…」
「でもみんな壊れてしまった…。私は…、私はみんなを取り戻したいだけなのよ」
泣き崩れるLucyを抱きしめる母Lorraine。
このシーンのお母さんは、本当に頼もしくてカッコイイ。…だが、このやり取りについては引っ掛かってる人も多いと思うので、私が代表してここで一旦ツッコミを入れておく。
Colonel Wierdにより家族が消滅させられた直後、Lucyはもう一つのSpiral Cityに飛び、そしてその後の展開となるわけなので、Lucyは家族の死の後母には会っておらず、この時点では母はその事実すら知っていないぐらいなのが本当なのではないかということ。
ミスというより、やや確信犯的な強引な展開。ではあるのだけど、まあ許してやってくれよ…。感動的なシーンになってるんだしさ。なんか今回、前にもこんなこと言ってる気が…。
あ、お前が余計なこと言わなきゃ気付かずに感動してたのに、という人いたらごめん…。
母娘の背後でBlack Hammerが言う。「ここに来たのは間違いだったな、Lucy。彼女は求めているものではなかった。行くぞ。他の者たちがいるはずだ。俺たちは探し続けなければならん」
「他の者ですって?彼女は私の本物のお母さんなのよ。あなたの理想に一致するお母さんを探し続けるなんて許されない!」
そこで轟音と共に建物が激しく揺れる。
「何が起こったの?」「わからないわ、お母さん」
窓から外を眺めるBlack Hammerが笑みを浮かべて言う。「始まったぞ」
外ではもう一つの世界の研究所の装置の破壊によって引き起こされた、無数の世界の衝突へと向かう動きが始まっていた。
「思っていたより早かったが、始まった。それは本当に引き起こされたのだ!」
「あなた何をやったの?」
「俺は全てを解き放ったと言っただろう。俺は全てを抹消し、それが成されたとき、我々は自由になるのだ」
「私の家族を見つけることは?全て噓だったの?私を利用していただけだったの?」
「違う。俺たちはまだこれから起こることから彼らを見つけ出し、救うことができる。Weberだけが、これを乗り越えられる。Black Hammerだけが」
「これを俺だけで成すことはできたんだ、Lucy。だが俺はお前と共にやることを選んだ。それでどうする?俺と共に進むか?それとも俺の前に立ち塞がるか?」
「私は私のやるべきことをやるわ!」
そしてLucyはハンマーを振り、Black Hammerを外に叩きだす。
「俺は本当に、今度は違う結果となることを望んでいたんだ」
「今度はですって?」建物の外の空中で向かい合うLucyとBlack Hammer。
「お前は自分が俺が最初に見つけたBlack Hammerだと思っていたのか?」Black Hammerの身体にプラズマが走る。
そして彼の周囲に、更に四つのハンマーが現れる。
「お前は違うと思っていた。お前の失ったもの、痛み。それは私と同じだった」
「だがお前を手に入れられないというなら…」ハンマーからのパワーにより壁に押し付けられるLucy。
「お前のハンマーだけでも貰って行くぞ!」
『Black Hammer Volume 7: Reborn Part Three』より 画:Caitlin Yarsky
どこかの田舎の農場の間を走る道。夜で人気はない。
空中に次元の裂け目が開き、そこからLimbo世界で同様のものに吸い込まれたLucyの息子、Josephが落下して来る。
尻もちをついて、立ち上がり、あたりを見回すJoseph。
すぐ近くに同様の裂け目が開き、そこからInspector Insectorが落ちてくる。
「どうなったの?ここはどこ?」「これはミステリーだな、少年」周囲を見回す二人。
そこに年代物のピックアップトラックが走って来る。「隠れた方がいい?」「もう遅いな」
その車から降りてきたのは、Josephの姉Roseと父Elliottだった。驚きながら再会を喜ぶ三人。
そしてもう一人、車から体格の良い初老の男が降りて来る。
それはかつてのSpiral Cityのヒーロー、Abraham Slamだった。
『Black Hammer Volume 7: Reborn Part Three』より 画:Caitlin Yarsky
■#11
話はやや時間を遡った時点から始まる。
Lucyの家の居間。Elliot、Rosa、Josephに光線銃を向けるColonel Wierd。
そして銃は発射され、三人は消滅する…。
次の瞬間、ElliotとRosaは、どことも知れない田舎の人気のない路上に、空中から落下する。
「Rosa、大丈夫か?」「ええ…、何が起こったの?父さん?」
そこで二人は一緒に撃たれたはずのJosephの姿が見当たらないことに気付く。
Josephの名を呼びながら周囲を探す二人。だがJosephはどこにもいない。
「母さんとColonel Wierdに何があったの?ここはどこなの?」とRosa。
わからないと答える父に、全ての原因はBlack Hammerを投げ出した母に原因があるのだろうと食って掛かるRosa。
言い争いになりそうになるが、まず最優先事項はJosephを探すことだと同意する二人。
少し離れた道の先に見える町。二人はとりあえずそこを目指して歩き始める。
町に着いた二人。RosaはTammy’s Dinerと看板に描かれた近くのダイナーで話を聞いてみようと提案する。
店に入った二人は、店主の中年女性Tammyに、まず11歳ぐらいの少年を見かけなかったか?と尋ねる。
「見てないわね、悪いけど。あなたたち大丈夫?」と答えるTammyに、ここはどこなのか?と尋ねる。
「ここはRockwoodだけど」
「Spiral Cityからどのくらい離れているの?」「Spiral City?それはお店か何か?」
「Spiral Cityよ。知ってるでしょう?The Cityよ?」
「ごめんなさい、分からないわ。この道の先にある警察署で聞いてみたらどうかしら?」
彼らのやり取りに、カウンターで食事をしている体格の良い初老の男が、様子を窺うように振り向く。
『Black Hammer Volume 7: Reborn Part Three』より 画:Caitlin Yarsky
「私の前の夫Earlが保安官なの。Tammyに言われてきたと言えば大丈夫よ」Tammyに送り出され、店を出る二人。
「あのクソ髭野郎はあたしたちをどこに送ったのよ!」苛立って汚い言葉で話すRosaをElliotがたしなめる。
再び言い争いになる二人の背後から、店から出て来たカウンターにいた初老の男が声を掛ける。
「君らがSpiral Cityについて話しているのが聞こえたのだがね」
「ええ、どのくらい離れているのかわかるかしら?あたしたち道に迷って…」とRosa。
その一方で、Elliotは男が何者なのか気付く。「なんてこった!あんたは…」
「すまんが何を言ってるのかわからんが…」
「Abraham Slam!あんたAbraham Slamだろう!」
AbrahamはElliotを胸ぐらを掴んで横の路地に引き込み厳しい表情で言う。「でかい声を出すな」
「お前が誰かは知らん。だがその名前をここでは口にするな。わかったな?」低い声で厳しく言うAbraham。
「Abe、僕はLucy Weberの夫だ」やっとのことで話すElliot。
その名前に驚愕するAbraham。
「Lucyか…。Lucyが君らをここに送ったんだな?」
「違うんだ、Colonel Wierdなんだ」「Wierdだと?」
Rosaはこれまでの経緯をかいつまんで話す。そして、弟のJosephも同様に何処かに送られたはずだと。
「なんてことだ」Abrahamは頭を抱える。「結局こうなってしまうんだ。俺たちがほんの数年、本当に幸せに暮らしたことを神は許さず、足元から全てを引っ張り出したということか」
その時、店からTammyが様子を見に現れる。自分の過去に関係する何らかの事態が起きたことを話すAbraham。
以前の農場のTammyは、あくまで部外者だったが、ここのTammyはAbraham達の事情を分かっており、Lucyの名前も知っている。
一体ここで何が起こってるんだ、説明してくれ、とElliot。
昔の農場の話についてどこまで知っているのかというAbrahamの問いに、Elliotは充分に、と答える。
「全てのゴタゴタが終わった後、WierdとDragonflyが俺たちを送ったのがここだ」
「何だって?彼女はあんたたちを農場に送り返したのか?あれはあんたたちの頭の中に彼女が投じた幻覚じゃなかったのか?」
「以前のはな。だが今度のは現実のものだ。Dragonflyは全ての力を使って、俺たちの知っている人々が住む本物のRockwoodを造り上げた。彼女は俺たちに本物の家をくれたんだ」
「何だって?つまりこれはパラレル・アースとかそういった類のものなのか?」
「違う。これはパラレル・アースなんかじゃない」
そしてAbrahamは現在自分たちがいるこの世界について説明し始める。
これは現実の世界だ。
演説をするヒットラー。
ここで起こったことは、俺たちの世界のものとほぼ同じだ。だがここは、何というか…、より現実的だ。
アポロの月着陸。
マーチン・ルーサー・キング。
ここにはLiberty Squadronは無い。パラ・ゾーンも無く、Black Hammerも、そしてAnti-Godもいない。
暗殺直前のケネディ大統領。
ベトナム戦争。
この世界にはスーパーヒーローは存在せず、存在したこともない。ただの映画やコミック・ブックの中のキャラクターなんだ。
打ち壊されるベルリンの壁。
911。燃え上がるワールドトレードセンター・ツインタワー。
俺には自分たちがいた世界が実際にはどこだったのかわからない。だがこれは…、これは現実的な世界なんだ。
オバマ大統領の就任。
『Black Hammer Volume 7: Reborn Part Three』より 画:Caitlin Yarsky
「だが…、Spiral Cityのことは?Lucyのことは?」
「ここではそれらはコミックブックの中の作り事なんだ。Tammyがネットで見つけて、アマゾンで注文した。良く出来てたよ」
とても信じられない話と、息子Josephへの心配で押しつぶされそうになるElliotを、まずは落ち着けとなだめるAbraham。
Tammyは、Josephについては前夫の保安官Earlに話しておくから、とりあえず自分たちの家へ行こうと促す。
Abrahamは二人を連れて、ピックアップで農場へ向かう。
Rosaに君はお母さんによく似ているな、と言うAbraham。そしてElliotにLucyと結婚したということは君もマスクを被っていたのか?と尋ねる。
「まあね…。いや、違うスーパーヒーローだったわけじゃない。僕は実はLightning Rodというヴィランだったんだ」
「ひどい名前ね」とRosa。
「90年代の話なんだぞ。でもお母さんと会ってすぐに辞めたんだ」
「Lightning Rod?どんなパワーだったのかあんまり知りたくない感じ」
「関係修復ってやつだな。それほど珍しいことじゃない」そしてAbrahamは自分の知っているヒーローとヴィランが惹かれ合ったいくつかのケースを話す。
「そしてもちろんGailとSherlockだ」とAbraham。
「Golden Gail?彼女もここにいるの?」驚くRosa。
「ああ、彼女もな。そしてそれが次に話しとかなきゃならんことに繋がる」
「Dragonflyがこの場所を作り、俺たちを送り込んだとき、俺たちが前のときよりうまく暮らしていけるよういくつかのことをしてくれた」
「それでだ、GailとSherlockはここにいる。だが彼女たちは以前のことを全く憶えていない」
「スーパーヒーローだったことも、何もかも。それで彼女たちは新たに出発できた。俺たちはそれを壊さない、分かってくれるな」
「あんたは彼女たちに嘘をついているのか?」とElliot。
「嘘だって?君は俺たちが前の農場にいた時のことを知らないからな…。BarbieとGail…、彼らは悲惨な思いをしていた。不幸のどん底だったんだ」悲しげな目で話すAbraham。
ちょっとここでお詫び。
実はこのやり取りの中で出てくるElliot=Lightning Rodの話には、もう少し前からの経緯があるのだが、そこを省略してしまっている。
まず前々回の『Black Hammer Volume 5: Reborn Part One』#4でLucyの家に現れたColonel Wierdが、Elliotに向かって「やあ、Lightning Rod、コスチュームはどうしたんだ?」と話しかけ、この#11の最初のところで、ElliotとRosaがRockwoodの路上に現れた後、Rosaがその件でElliotを問い詰め、Lightning Rodというコスチューム・ヴィランだったことを白状するという流れ。
よく考えれば、多分この先のストーリーでRosaがそのことを知っていることが前提条件として組み込まれてくる可能性は高いので、省略すべきではなかったのだが、まあ少しでも短くしようという考えから…。片っ端から書いて長くなりすぎるのも問題なんだけど、もう少しよく考えんと…、ごめん。
農場に到着したAbrahamとElliot、Rosa。Abrahamは車を降りながら彼らにGailとSherlockのことを念押しする。
車に駆け寄って来るGailとSherlock。年相応の子供になったGailは、Sherlockと共に作ったジャガイモカタパルトのことを楽しげに話す。
初めて見るElliotとRosaについて尋ねるGailに、Abrahamは、彼らは古い友人でしばらく家に滞在する、と説明する。
既に帰宅していたTammyが玄関口で彼らを迎える。警察署に寄り、保安官Earlに会って来たTammyに、ElliotはJosephの件を尋ねるが、現在のところ見つかった様子はないとのこと。
『Black Hammer Volume 7: Reborn Part Three』より 画:Caitlin Yarsky
その時、農場からの道の先から雷鳴に似た音が響く。
「父さん!きっと母さんよ!母さんが来たんだわ」音の方向を指さしながら言うRosa。
AbrahamはGailとSherlockに家に入っているように告げ、Elliot、Rosaと共にその場所にピックアップで向かう。
あれが母さんならJosephを見つける助けになってくれるぞ、と言うElliot。
「あれが何にしろだ、これ以上騒ぎを大きくしないと約束してくれ。俺たちは君の息子を見つけ、君らは静かに家に帰ってくれ」
自分たちの平穏な生活のために嘘をつき、彼らを厄介事のように扱うAbrahamに怒りを見せるElliot。
Rosaは父Elliotもこれまで自分の過去を隠し続けていたを非難する。
少し車内の空気が険悪になってきたところで、Rosaが前方を指さす。「見て!」
車の前の路上には、JosephとInspector Insectorが立っていた。
「やあ、俺の名はInsectorだ。ミステリーが俺の専門分野さ」快活に自己紹介するInsector。
どうやっても誤魔化しの効かないコミックブックからのキャラクターの登場に頭を抱えるAbraham。
「誰にも見られないようにしなくては。早くトラックに乗ってくれ!」Insectorを促すAbraham。
「ああ…、もう手遅れみたい」
その時、彼らの前に保安官事務所のパトロールカーが現れた…。
■#12
研究所から外に出て、様々な世界が衝突しようとしているのを目撃したSherlock Frankenstien、Doc Andromedaと、瀕死のSkulldiggerの三人。
「私はこんなことは滅多に言わないのだが、どうすればいいのか全く分からない。自分にこれを止めることができるとは思えないのだ」絶望的に言うSherlock。
「俺がこんな形でくたばるとはな。俺はストリートで朽ち果てるもんだと思ってたんだがな」か細い息で呟くSkulldigger。
その時、Sherlockが多くの世界がひしめき合う空を見上げて、声を上げる。
「Andromeda!何かが起こってるぞ!何かがこちらに向かっている!」
Sherlockの視線の先には、異次元の裂け目を抜け、こちらに向かって降下してくるロケットがあった。
…ここで一回だけ言い訳させて…。
「その時!」という表現ばかり使っているのは自分でも自覚してます…。どうしてもパッとビジュアル的に見せて展開を引っ張って行くコミック/マンガの手法の中で説明しようとすると、そういう表現が多くなってしまう。いやまあ、こっちの文章表現力の拙さで思いつかないってだけだろうけど…。ホント言い訳でしかないけど、自分も文章で飯食ってるようなプロではなくて、何とか上手く伝えようと頑張ってる程度の野良犬なんで…。またかよ、しょーがねえなあ、ぐらいの感じで温く勘弁してやってください。
彼らの前に着陸したロケットからタラップが降ろされ、乗っている者たちが降りて来る。
「恐らくBlack Hammerの新たなエージェントだ!気を付けろ!」ロケットに向かい特殊銃を構えながら言うSherlock。
「我々は…エージェント…ではない…」
そこから現れたのはAndromedaたちが知っている世界のColonel Wierdを先頭とした、様々な世界のWierd達だった。
「我々は…Wierdだ」
Wierdとの再会を喜ぶAndromeda。だがSherlockは彼らに向けた銃口を下ろすことなく言う。
「私にはあんたらがこの混沌に関係してるとしか思えんのだがね。あんたらのパラエネルギーとの繋がりから…」
「そうであったとしても…解決にはならない…。時間が…ない…。奴は…間もなく…現れる…」
「現れるだと?いつもながらあんたは混乱してるな」Sherlockは怒りを露わに続ける。「Black Hammerは既に来て、もう去った。災厄はなされた。マルチヴァースは開かれたんだ!」
「Black Hammerではない…。我々が…話しているのは…Black Hammerが…呼んだものだ…」
「Anti-God…。Anti-Godが…間もなく…戻って来る…」Wierd達が言う。
「これは…事実だ…。私は見た…。最終大変動が…始まろうと…している…」
「じゃあ、俺たちみんな死んだな」Skulldiggerが呟く。
「いいえ…、まだ負けたわけではない…軍隊よ…」「君らは…軍隊を…作るんだ…」Wierd達は言う。
「我々はそのためにどうすればいいんだ?」懐疑的に言うSherlock。
Wierd達の後ろからTalky-Walkyが現れ、話し始める「それは容易いことです、Sherlock。私はパラヴァースの地図を作って来ました。それはColonelの宇宙船の、私の”アーカイブ”コンピュータに収められています。それにより私たちは多くの地球から必要な共闘者を見つけ出すことができます」
その間も弱って行くSkulldigger。俺の街へ連れてってくれよ、か細い息でAndromedaに言う。
そんなSkulldiggerをWierd達が手を繋いで囲む。
「君は…死なない…、Skulldigger…。君のストリートでも…ここで…こんな形でも…」
「あんたらは何か俺が知らないことを知ってるのか?」彼らに言うSkulldigger。
「もちろんだ…」「我々は…君が知らない…多くのことを…知っている…」
オランウータンのWierdが、Skulldiggerの頭に手を置く。
とたんに苦しみだし、身体をよじるSkulldigger。
「あんたら彼を殺したのか!」その様子に慌てるAndromeda。
「違う…、これは…死ではなく…誕生の…痛みだ…」そう答えるWierd。
そしてSkulldiggerは、新たな姿、新たなパワーを得て立ち上がる。
「何だ…?あんたら俺に何をしたんだ?」
「我々は…君を…これから必要となる…形に変えた…Spacediggerだ!」
『Black Hammer Volume 7: Reborn Part Three』より 画:Caitlin Yarsky
Lucyと別宇宙のヴィランである父Black Hammerとの闘い。様々な世界のBlack Hammerからハンマーを奪った悪のBlack HammerにLucyは圧倒される。
「ハンマーだ、Lucy。お前が俺の側につかないというなら、お前のハンマーだけは頂いて行く」
「これは…私のハンマーじゃない…。父さんのものよ!」抗うLucy。
「そして、あなたのようなモンスターにこれを奪われるのを見る前に死ぬわ!」力を振り絞り、Black Hammerに一撃を返すLucy。
「俺はお前を殺すべきだった。他の者たちを殺したように」
「だができなかった。お前が私の失ったLucyにに過ぎていたからだ」ハンマーを握りしめるBlack Hammer。
「なぜお前は彼女のようにいられないんだ!」
ハンマーを振るBlack Hammer。Lucyはそれを自分のハンマーで受ける。
膨大な力の衝突による衝撃波がビル街を貫く!
「駄目だな、お前は殺せないよ、Lucy」力で押し負けたLucyは、ハンマーを手放す。
「だが俺はお前を救いもしない」そのハンマーを手にするBlack Hammer。
そしてLucyの変身が解け、力を失った彼女はそのまま高空から地面に向かって落下して行く。
「さらばだ。Lucy」
その時、新たな力を得たSkulldigger=Spacediggerが、空中を飛行し意識を失ったLucyを抱きとめる。
「急ぐんだ!すぐに出発しなければ!」
Doc AndromedaとLucyを抱えたSpacediggerは、Colonel Wierdの宇宙船に乗り込む。
Wierdの宇宙船は、Black Hammerの手の届かないパラゾーンへと移動する。
意識を失い寝かされていたLucyは、船内のベッドで目を覚ます。「Doc?」
「そうだ、私だ。大丈夫だ。気絶していただけですぐに良くなる」
周囲を見回し、自分がどこにいるか気付くLucy。「待って…。この宇宙船…。ここは…」
そこにColonel Wierdが入って来る。「やあ…、Lucy」
Wierdに掴みかかるLucy。
「殺してやるWierd!殺してやる!!」
Lucyを抑えるSherlockとSpacedigger。「放せ!」涙を流し暴れるLucy。
「大丈夫だ…。彼女を放したまえ…」起き上がって言うWierd。「起こるべくして…起こったことだ…。彼女は私を…殺さない…」
「なぜ私がお前を殺さないと思うの?お前は私の家族を殺したのよ!」
「違う…、Lucy…。私は彼らを…殺していない…。君に…頼まれたように…しただけだ…」
「私を信じ…手を取ってくれるなら…君を…連れて行く…」手を差し出すWierd。
「どこへ連れて行くつもり?」
「彼らのところへ…。外の…世界へ…」
「もうお前の心理ゲームは沢山よ!もし嘘を言っているなら…」
「私はかつて…君に嘘をついた…。Dragonflyと私で…きみたち全員に…。もうそんなことは…ない…」
「Ant-Godは?我々のミッションはどうなるんだ?」何処かへ消えようとしているWierdに、Sherlockが言う。
「Talky-Walkyが…すべて…把握している…」
そしてWierdとLucyの姿は、宇宙船から消える。
そして次の瞬間、WierdとLucyは農場を見渡す草原の中に立っていた。
「ここは…」
「そうだ…。農場だ…。ここが…彼らを送った場所だ…」
『Black Hammer Volume 7: Reborn Part Three』より 画:Caitlin Yarsky
「でも…農場はもう行けない場所じゃなかったの?これは過去なの?」目の前の光景に不信を抱くLucy。
「いや…、これは…現在だ…」
「でも、Dragonflyが農場を再構築したとき、私たちはもうそれに干渉しないはずじゃなかったの?」
「確かに…。Rockwoodとその住民の…再構築には…Dragonflyの…かなりの力が…使われた…」そしてWierdは続ける。「彼らが…安全であることは…保障する…」
「最初は…私は…この場所が何なのか…、彼女が彼らを…どこへ送ったのか…知らなかった…。だが…今は…理解している…。これは…現実の世界だ…。パラヴァースの…上の世界…。我々の物語の…上の世界なのだ…」
「ここが…これから起こることから…彼らを護れる…唯一の場所だ…」農場に入って来る道の先を指さすWierd。
「ここが…君が私に…彼らを送るよう…頼むことになる…場所だ…」
その道を古ぼけたピックアップトラックがやって来る。運転しているAbraham、助手席にはElliot、荷台にRosaとJosephが寄り添って座り、Insectorもそこに乗っている。
「そんな、そんなはずは!」死んだと思っていた家族たちの姿を目にして、驚愕するLucy。
「そう…なのだ…。彼らは…無事だ…」
「わけがわからないわ。いつ私があなたのこんなことを頼んだというの?」
「君は…その途上にある…。君が…全てを理解したときに…。選択だ…」
「選択ですって?何の選択なの?」突然の言葉に戸惑いながら聞き返すLucy。
「選択だ…。君の…人生全体が…導いて来た…ところへの…」
「Anti-Godは、戻りつつある…。第2の大変動を…その手に…」
「阻止するためには…君が必要だ…。我々には…Black Hammerが…必要なのだ…」
「もしくは…君はここに…留まることも…できる…。この農場に…家族と共に…それらの全てから…安全に…。我々の…世界が…死に行くときに…」
「私はもうBlack Hammerじゃない。あいつは私のハンマーと力を奪い取って行った」
「奪い取られたのは…ハンマー…以上のものだ…。ヒーローである…ということ…、Lucy…。君のお父さんは…常にそのことが…わかっていた…」
改めて、家族たちの無事に安堵し、笑顔を見せるLucy。
「Colonel…。時が来たら彼らをここに送って。私が何を言おうと関係なく。わかった?」
Lucyは、彼女がWierdにそう言うという未来を断ち切り、ここで全てを終わらせるようにWierdにそう告げる。
「私が…そうするのは…わかっているだろう…。それで…君は…、Lucy…?」
「私のこれまでの人生は狂ってた。小さな子供の時から。父さんを失ってから」
「私は今、子供達をそこから切り離す機会を得た。第2の機会よ」
「私はもうヒーローじゃないわ、Colonel。私は母よ。そして私は子供達を安全に守り続ける」
「それで…いいんだな…?私が去れば…君はその後はずっと…ここに居続ける…ことになる…。私が…戻ることは…ない…」
「それが一番だわ」
Lucyは背を向け、家族がいる農場の家に向かって歩き始める。「さようなら、Colonel」
去って行くLucyを見つめるWierd。
『Black Hammer Volume 7: Reborn Part Three』より 画:Caitlin Yarsky
Wierdは他の者たちが待つ自分の宇宙船に戻る。
「Colonel?Lucyはどうした?」一人だけで戻って来たWierdに問うSherlock。
「Lucy…?Lucyは…去った…。自身の…選択で…。Black hammerは…もう…いない」
「それが本当なら…、終わったな。我々は敗北した」目を伏せて言うDoc Andromeda。
「Colonel!急いで来てください!」操舵室のTalky-Walkyから通信が入る。
駆けつける一同。宇宙船の外の様子を窓から見ながら告げるTalky-Walky。「もう手遅れかもしれません…」
「そんな!そんなことが!」驚愕しながら言うAndromeda。
慄きながら言うSherlock。「だがそうなのだ、Doctor…」
大変動は始まってしまった。
『Black Hammer Volume 7: Reborn Part Three』より 画:Caitlin Yarsky
Black Hammer: Reborn – End –
というわけで『Black Hammer: Reborn』完結。
この後には続くシリーズとして『Black Hammer: The End』が全6話で出ており、こちらについてはTPBの発売が本年7月30日というぐらいで、まだ未読なのだが、とりあえずは『The End』というタイトルにはなっているがここで全体のストーリーの完結とはなっていないようだ。
そちらに向けて色々書くこともあるのだけど、まずはここでの意外な結末についてから。
主人公であるLucy Weberが、戦いを放棄して終わるという意外な結末。まあそこから続いて再起・再生という方向の話が描かれるようだが、この結末に至るこの『Black Hammer: Reborn』全体について、作者Jeff Lemireのこれまでの経歴から一つの考察ができる。私は、なにか作者のバックグラウンド的な部分を深読みしすぎるのはあまり正しくないと考えていて、結構ギリギリぐらいのラインかとも思うが、これはたぶん間違っていないと思う。
これはJeff Lemireの出世作であるDCの『Animal Man』への彼の思いがベースになっているのではないか、ということ。
『Animal Man』について簡単に説明すると、1965年にDCの『Strange Adventures』で登場し、初期に短いシリーズなどもあったがそのままほぼお蔵入り状態で、他の作品などに時々登場するぐらいのキャラクターとなっていた。それが1988年にグラント・モリソンのストーリーにより復活し、26話出版の後同じくイギリス出身のPeter Milliganや、『Hellblazer』の最初のストーリーライターであるJamie Delanoらにより数年続行された後終了し、また以前同様の時々ゲスト出演がある状態に戻っていた。それが2011年のDC全体のリランチThe New 52でJeff Lemireによりシリーズとして復活する。
Animal Manは妻と二人の子供を持つ家庭の父親というキャラクターで、Lemireの作家としての資質やテーマとの相性も良く、存分に力を発揮できたというところもあり彼の出世作となる。
だが、この作品の成功ということとは全く別に、キャラクターについて常に深く考えるLemireの中には、コミックのシリーズの主人公という立場から離れて平和に暮らしていた彼を、一家丸ごとにとんでもない災難に引っ張り出してしまったという思いがあり、それがこの『Black Hammer: Reborn』のストーリーへとつながったのではないかというのが私の考えである。うーん、それほど間違ってないと思うけどなあ。
そして、続行されるシリーズに向けて気になる点をいくつか。
第1部(当方による勝手な分類:Vol.1-Vol.4)の終盤近くでこの作品世界のメタ的な構造は暗示されていたが、ここに来て現実の世界と彼らの世界の関係がある意味明確化された。これが今後の展開にどうかかわって来るのか。#6で言及されるインターネットで見つけて注文したという彼らの世界を描いたコミックも、続くシリーズには何らかの形で登場することになるのだろう。
あと、#6の最後はElliot、RosaがJosephと一緒に来たInsectorを見つけたところにパトカーが来て終わり、その後の展開は描かれないまま、#7でLucyが無事に帰って来た彼らを目撃するという形になっているが、抜けている部分は続くシリーズの中で明かされるそちらのストーリーに関わるところなのかもしれない。
もっとも重要なポイントとして、Colonel Wierdが一連の自分の行動を、Lucy本人に頼まれたと言い、Lucyはここで全てを終わらせようという意図で、その意味のことをWierdに伝えるが、この先の展開で本当の意味でLucyがWierdにそれを頼む展開があるのでは、というところ。
そしてこちらが、『Black Hammer Volume 8: The End』のカバー。こちらは単話版の『Black Hammer: The End #6』のカバー画が使われている。
え…、記憶を無くしてるはずのGailまでいるんだが…。あんまり辛い話にならないといいけど。まあそこは心優しいJeff Lemireさんだからなあ。
タイトルは『The End』となっているが、えーと…、説明の中にFinalなんとか的な文言もないし、これで全編の終わりということにはならず、最終的にこんな感じにみんな戻って来て次に続くという感じになることが予想される。
2024年7月30日の発売で、こちらが読んで書くのも少し先になると思われるけど、この続きについてもこちらで紹介して行くつもりですので。
作画Caitlin Yarskyについては、前々回「Black Hammer 第5回」の方に書いたのでそちらを参照してください。
40代中年の母になったLucyとその周辺を、実感のある手触りというようなタッチで見事に描いた素晴らしい作画なのだが、あーえーと、決して欠点とかそういう類いではないのだけど、いやそのね、あくまで個人的意見なのだけど、Yarskyさん、少しハゲに厳しすぎないだろうか…?いや、Elliotの髪形とかさ、なんというかもう少し思いやり的なものが…、いやまあいいんですけどね…。
というところで、『Black Hammer』はひと段落、続きはしばらく先となるのだけど、まだまだ紹介すべきJeff Lemire作品は多く、『Descender』の続きや、『Black Hammer』スピンオフ『The World Of Black Hammer』の方や、あー『Animal Man』もアーティストTravel Foremanについても語る機会でもあるし、という感じで紹介せねばならない作品も大変多いのだが、ここで月刊(もはや月刊にもなってないが…)Jeff Lemireは一旦休み、このサイトを始めた時からやらねばならんと思っていた某作品に取り掛かります。
いや、もったい付けるほどのことではなく『Scalped』なのだけど。
こちらについては全60話を全部という形ではなく、キャラクターを中心に話をある程度までという形でやろうと思っているのだが、それでも全2回か3回になっちまうだろうな、というところ。少し短く書ける作品と同時進行しながら、なるべく早くまとめます。
今回は、冷蔵庫壊れて数日持って行かれたり、夏バテでややペースダウンとかもあるのだけど、なーんかいつまでたってもなかなか進まない「Invisibles 第2回」を少し頑張らねばとやってたところもあったり。それでもまだまだなのだけど…。なるべく多くの作品を紹介したいというのも本当に難しいと思いつつ、頑張って行かねば。
Black Hammer
■Black Hammer
■Black Hammer: Streets of Spiral
■Black Hammer/Justice League: Hammer of Justice!
■The Last Days of Black Hammer
■The World of Black Hammer
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