Scalped 第1回 / Jason Aaron + R.M. Guera

インディアン居留地を舞台とした伝説のノワール・コミック!「俺が丸腰の奴を後ろから撃ったことがないと思ってるのか?」

今回はJason Aaron/R.M. Gueraによる『Scalped』。2007年から2012年に全60話でVertigoより発行されたインディアン居留地を舞台としたノワール・コミックです。
言わずと知れたぐらいの伝説的名作ではあるのだけど、まあ当然のように日本では未訳。かなり多い登場人物を中心に、ある程度話が見えるぐらいまでのところを紹介しようと思うのだけど、それでも2回か3回ぐらいはかかってしまうかな、というところの今回がとりあえずの第1回です。

現代のアメリカ、サウスダコタの架空のインディアン居留地を舞台としたこの作品ですが、最初の企画としては1970年代にDCのウェスタンコミック誌『Weird Western Tales』に登場したキャラクターScalphunterのリランチというところから始まったそうです。そこから企画を進めるうちに構想が拡大し、全く別のオリジナル作品として立ち上げられたのがこの作品。
Jason Aaronによると、プロットの一部は1975年に二人のFBI捜査官を射殺した罪状で逮捕されたネイティブ・アメリカン活動家のLeonard Peltierからインスパイアされたものであるということ。その辺までうまく紹介できるかな?
この作品はTPB版で序文を書いているジェイソン・スターを始めとして、ハードボイルド・クライム作家の多くからもノワール作品として高く評価されています。

作画はユーゴスラヴィア出身のアーティストR.M. Gueraですが、大体全体の3分の2ぐらいか?もう少し多いか?というところで、主にサイドストーリー的な部分に切り替わるあたりで他のアーティストによっても描かれています。主なところはDavide Furnoで、クロアチア出身の異色アーティストDanijel Žeželjによる作画もあります。

Scalped 第1回 Indian Country

■キャラクター

  • Dashiell Bad Horse:
    本作の主人公。13歳の時Prairie Rose居留地から出奔し、15年ぶりに戻って来る。

  • Lincoln Red Crow:
    Prairie Roseインディアン居留地の表と裏のリーダー。

  • Gina Bad Horse:
    Dashiellの母親。古くからのネイティブアメリカン活動家。

  • Carol Ellroy:
    Red Crowの娘。Dashiellとは幼馴染の関係にある。

  • Uday “Shunka” Sartana:
    Red Crowの腹心。主に荒仕事を担当する。

  • Franklin Falls Down:
    居留地警察で唯一の腐敗していない警官。

  • Dino Poor Bear:
    居留地に住む若者。犯罪の使い走りなどで日銭を稼いでいる。

  • Britt “Diesel” Fillenworth:
    Gina Bad Horseの愛人で、ボディーガードの白人の男。

  • Baylis Earl Nitz:
    Red Crowの逮捕起訴に執念を燃やし、そのためには手段も択ばないFBI捜査官

  • Arthur J. “Catcher” Pendergrass:
    居留地内を馬を連れて動き、そこで起こる様々な出来事を陰からのぞく謎の男。

■Story

#1 Indian Country Part1

サウスダコタ州Prairie Roseインディアン居留地。
偉大なるスー族が死ぬために訪れる土地。

「風の中のあの匂いがわかるか、Festus?」路地裏に座り込んだ男が、傍らの自分の馬に話しかける。
「Wakinwaynが俺に話した通りに事が起こる…。雷の中で言ってた通りに…」
「俺たちがとんでもなくでかいクソの嵐の中に放り込まれるんじゃなきゃ、それこそ驚きってもんだぜ」
建物の横の路地から馬を引いて出てくる男。BADLANDS CAFEの看板が掲げられたその建物の前には、数台の車が無造作に駐められている。
一面暗闇に包まれた荒野の中に建つその店の前だけが、煌々と眩い光に照らされている。

「お前今なんて言った?」
顔のあちこちにピアスを付けた大男が言う。
カウンターのスツールに腰かけた男が答える。
「8月真夏の死んだ犬のケツより臭えのは、俺かお前らPrairieニガーどもなのか?って言ったんだよ」
「俺としちゃあ、このバーベキューを平らげる間、お前らが群れごと店の外で待っててくれりゃあ助かるんだがね」
ピアスの大男を囲む店内の男たちは全員立ち上がり、カウンターの男に銃を向けている。
「なんだこりゃ?なんかのクソふざけた自殺プランなんか?」集団の中で唯一腰を下ろしたままのピアスの大男が問う。「お前、俺たちが誰かわかってんのか?」
「フットボールマスコットのゆるキャラ軍団かい?俺の知ったことかよ」
ピアスの大男の後ろから、一人の男が顔を寄せて言う。「Shunka、こいつだ。今週に入ってから居留地のそこら中で俺らにちょっかいを出してる野郎だ」

「そうなのか?もっとでかい奴かと思ってたぜ」とピアスの大男-Shunkaは言う。
カウンターの男はスツールから降り、ジャケットを脱ぐ。「あの野郎、とにかくクソすばしっこい。5人の男をウジのたかった糞のように躱すのを見たよ」後ろの男が言う。
腰に差していたヌンチャクを手に取るカウンターの男。「よかろう、聞いてる通り、ボスRed Crowはまだ奴に話があるらしい」とShunka。
「聞こえてるか?そこの」Shunkaはカウンターの男に声を掛ける。
「ボスからは、お前さんを見つけても殺さず連れて来いって話になってる」
「お前が少々故障品になっててもボスは気にしねえと思うがな」
「なら前戯は省略と行こうじゃないか、お嬢さん方」ヌンチャクを構えるカウンターの男。
「お前らアホママっ子軍団のどいつが最初にジーザスに泣きつくことになるかなあ?」そして待ち構える男たちに向かい歩きだす。
そして男は、店内の集団に向かいヌンチャクを振って暴れ出す。

『Scalped Vol. 1: Indian Country』より 画:R. M. Guera

「Wachin ksapa yo -気が付いたか。あいつが誰だか知ってるだろう、Festus?」
店の横の路地にいた男 -“Catcher”が窓から店内の乱闘を見ながら馬に語り掛ける。
「ここらであいつの姿を見かけるのは15年ぶりになるか」
「だが、あいつがDashiell Bad Horseじゃなきゃあ、お前のケツにキスしてやってもいいぜ」
「Unshimalam ye oyate -お慈悲だぜ、Festus。俺ぁ急にクソ素面になり過ぎちまった」
“Catcher”は馬に乗り、その場を去って行く。

Arthur J. “Catcher” Pendergrass:

序盤から居留地内で起こる様々な出来事を陰からのぞく現時点では謎の男。
実は”Catcher”という通称すらある程度話が進むまでは読者の前に明らかにされないぐらいなのだが、ちょっとわかりにくくなることが予想されるために早めに出しておく。何しろこの人他者とほとんど接触がなく、馬としか話さないから。
序盤は傍観者ぐらいにしか見えないが、物語が進むにつれ重要人物としての正体を現してくる。

Catcherのセリフの中に出てくるのは、ネイティブアメリカン スー族の言語。今後も出てくるそれらについてはShadowrun: DenverというサイトのSioux Language (mini dictionary)を参照して頑張るけど、分からないのも多い…。

Badlands Cafeでの乱闘の後、暴れていた男 -Dashiell Bad Horseは後ろ手に手錠を掛けられ、準備中の「Crazy Horse Cazino」へと連れて来られる。
「言っておくがな、小僧。どこかの死にたがりの厄介者が、そこら中で俺の手下を挑発して暴れてるのは知っていた」
「そして、それが何なのかと確信もないまま考えてる間…」
「それがお前だとは考えてもみなかったのは確かだ」
あちこちに博物館のようにインディアンの遺物が飾られた豪華な部屋で、Bad Horseは男が後ろに座るデスクの前で両手を椅子に繋がれて座っている。その椅子を2匹の番犬が囲む。
デスクの手前中央には、血の付いたナイフが突き立てられている。
「俺の仲良し兵隊どもが、15対1の多勢でやっと勝てるボンクラの雑種どもだったにしろ」
「お前が革張りクソ野郎ぐらいにタフに成長したにしろだ、ミスターBad Horse」
「俺はまあまあってとこだと思うがな」椅子にぐったりと座ったまま答えるBad Horse。

「お前は昔馴染みのRed Crow”叔父さん”がコケにしていい相手じゃないぐらいのことは憶えてると思ったがな」
デスクの後ろの男、Red Crowはマッチを擦り、葉巻に火を点ける。
「俺は多分しばらく冬眠してたんだろうな、坊主」
「だが俺はまだ少々のことについて、少々のことを知ってる」
「例えば、俺はお前のお袋さんが大言壮語のビッチだと知ってる」
「あいつが後ろから乗られるときはいつも、髪を引っ張られるのが好きなのを知ってる」
「俺は、お前が13の時この居留地を逃げ出し、最後に訊いた話じゃお前の親父同様の正真正銘の役立たずのクズへの道をまっしぐらだったってことも知ってる」
「だが最も重要なことはだ、俺はまだデカいナイフで額から首の後ろまでを切開し」
Red Crowは葉巻に火を点けたマッチを放り、それは床の上に広がる血の中に落ち、小さな音を立てて消える。デスクの横で頭皮を剥がれて死んでいる男の、頭の下に広がる血の中で。
「誰かの腐れ頭皮を剥ぐ方法を知っていることだ」

「いつもレブンワースの彼女の許へ帰りたがってる昔ながらのRed Crowだな」Bad Horseが言う。
「お前はここらのもんとは久しく疎遠になっとる。だから知らんのだろうがな。俺はもはや司法関係のトラブルを多くは抱えとらん」
「お前はOglala部族評議会の会長と面会しとるんだぞ」

同様に、部族警察の保安官、Prairie Rose実行委員会の会長、ハイウェイ安全プログラムの最高責任者…。
そしてこの新品カジノの常務取締役だ。
だが、そんなもんがお前みたいな正真正銘のクソ転がし野郎にゃ、何の意味もない、そうだろう?
「お前が知る必要があるのはな、坊主、ここらじゃ俺は、父と子とクソ聖霊をひとまとめにしたもんだってことだ」

「このナイフが見えるか?」デスクに突き立てられたナイフを前に言うRed Crow。
「見逃す方が難しいな」
「このナイフは200歳だ。腸チフスより多くの命を奪っとる」
「あんた俺の頭の皮を剥ぐんだろ、酋長。あんたの切り取り仕事だ」
「多分俺はイロコイのようにやるべきなんだろうな。手始めにお前の指を縦にスライスして。俺がそうすべきでないまともな理由を一つ上げてみろ」

「なあ、俺はあんたのギャングたちとまずいやり方で関わった。俺の悪癖でね。だが俺は通りがかっただけなんだよ、酋長。暑さの中に出る前に一休みしてただけなんだよ」Bad Horseは言う。「逃がしてくれたら平和に出て行くさ」
「俺にもう少しましな考えがある」Red Crowは言う。「どうも俺の手の者たちは、昨今このカジノに対し抗議行動を起こしてる見当違いの馬鹿ども相手に手薄になって来とるようでな」
「お前のような気質の奴は役に立つ。加えて、お前は純血種だ。俺は雑種どもの馬鹿げた死にはうんざりしとるんだ」
「あんた俺をおちょくってるのかい?」
「選択があると思い込め、坊主。これを人生の好機と考えるんだ。結局のところ…」

Lincoln Red Crow:

Prairie Roseインディアン居留地の表と裏のリーダー。”Chief”はやはり”酋長”と訳すのが適当かと。
現在はカジノのオープンを間近に控えているが、セリフの中にあるように反対者も多い。その過去や主人公であるBad Horseとの関係・因縁も次第に明らかになって来る。

ここでちょっとまとめて注釈。
「イロコイ」=「イロコイ連邦」はニューヨーク州オンタリオ湖南岸とカナダにまたがった保留地を持つ6つのインディアン部族により構成される部族国家集団。その成立は14世紀に遡り、敵部族に苛烈な拷問を行う風習があったことでも知られている。
その前の「レブンワースの彼女の許へ帰りたがってる」は、多分なんかの歌詞の類いじゃないかと思うんだが、元がわからなかった…。
セリフの中に時々現れる「雑種(Half-Breeds)」は、ネイティブアメリカンと多人種の混血のことで、それに対してBad Horseは「純血(Full-Blood)」と呼ばれている。居留地内にこういった形の差別意識があることも、作品を読む上で憶えておく必要あり。
また、インディアンという呼称については、一応作中の表現に合わせるという形で使っているので、その辺はご了承ください。この作品がその呼称が差別的と思われていなかったような古い時代に作られたものではないことは一応言っておく。

「結局のところ、お前のような退化したクソ猿野郎が警官になるなんてチャンス、他にないだろう?」
3日後
Bad Horseは保安官補の姿で、ショットガンを抱え、強制捜査突入現場に待機していた。
傍らに立つShunkaが、待機中の警官隊に指示を出している。「お前ら仲良し部隊は手順は分かってるな。最初の三人が戦闘で突入し、次の三人が後ろを一掃する」
「Bad Horse、お前は後ろに下がって道を開けとけ」
「邪魔をするあらゆる生きてるもんにハンマーを振り下ろすのを躊躇うな。あとでいくらでも正当化できる」Shunkaは待機している全員に告げる。「俺たちは俺のやり方で動く」
「クソくらえだ!」それらを無視し、いきなりドアを蹴り破るBad Horse。

単独で突入するBad Horse。近くで驚いている男をショットガンの台尻で殴りつける。
家の中には数人の裸の男女。「床に伏せろ!全員だ!とっとと動け!」怒鳴りつけるBad Horse。
殴られた男が壁にかかっていた斧を手に取り、Bad Horseに襲い掛かる。
それを躱し、男の顔を壁に叩きつける。「銃はどこだ、狼煙か?こっちは問うだけだ」
「俺の狙いがお前ほどへなちょこだか賭けるか、ブタ面野郎!そのケツを床につけろ!」ショットガンを突きつけ吠えるBad Horse。

『Scalped Vol. 1: Indian Country』より 画:R. M. Guera

30分後。
逮捕者が手錠を掛けられ連行される捜査現場に、カジノ反対運動のリーダーであるGinaが、愛人の巨漢Dieselを連れて現れる。
「何事なの?この人たちは何の容疑で逮捕されたの、Shunka?」現場を仕切るShunkaに詰め寄るGina。
「このあんたのところの”人たち”は、大量のC-4爆薬と無登録の重火器を長期間にわたり隠し持ってた」答えるShunka。
連行される男に話しかけるGina。「これは出鱈目だわ、そうでしょう?」
「目を開けよ、Gina。署名運動じゃ勝てない」苦々しげに言う男。「これはクソッタレ戦争なんだよ」
「あいつの言うとおりだ」とDiesel。Ginaは黙りなさい、と制する。

「Ho-Po! Oo-oohey Optate! -選択の時よ!必要なのは銃じゃない。あなた方には何度もそう言ってきたはずよ」銃を手に様子を見守る保安官事務所の男たちに向かって訴えるGina。
「あなたたちは酋長Red Crowにあなたたちを居留地から追い払うための口実を与えているだけなのよ!」
「私たちは昔からの方法による真実に留まることで、この戦いに勝つことができる。」
「Red Crowは私たちをドラッグとギャンブルで堕落させたがっている。でも彼の強欲は、彼を破滅へと導くわ。わかるでしょう、私たちに必要なのは…」
その時、Ginaは歩いて来る保安官事務所の制服を着たDashiell Bad Horseに気付く。

Dashiellに駆け寄り、平手打ちを浴びせるGina。「この馬鹿者!」
「Dashiell、この恩知らずのろくでなし!あんたには本当にむかつく!Wahtela-sni sica, wanayah un-sni!」Dashiellを打ち続けるGina。
Ginaを押しのけるDashiell。「いかれた雌犬野郎!お前は法の執行官に手を上げたんだぞ!俺がお前をここで逮捕しない理由が一つでもあるなら言ってみろ!」

Gina Bad Horse:

Dashiellの母親。
古くからのネイティブアメリカン活動家で、現在はRed Crowによるカジノ計画の反対勢力の先鋒として抗議活動を行っている。
Dashiellの父親である夫は、早くに母子を捨て居留地の外に去っており、Dashiellを一人で育てた。Red Crowとの浅からぬ因縁も、次第に明らかになって来る。
早くもセリフの中にわからないスー族の言語による文章が…。

だがその時、Dashiellの背後に忍び寄ったDieselが彼の首にナイフを当てる。
Dashiellも腰の銃を抜き、背後のDieselの頭に突きつける。
周囲を囲む男達も二人に向かいそれぞれの銃を構える。
その中にGinaが割り込んでくる。「駄目よ!やめなさい!」
Dashiellの首からナイフを離すDiesel。Ginaはその腕を掴み引いて行く「彼にそんな価値はないわ」

Britt “Diesel” Fillenworth:

Gina Bad Horseの愛人で、ボディーガードの白人の男。
現時点では正体不明で、画像を選ぶのもやや苦労するぐらいなのだが、後に重要キャラクターとして動き始める。この初登場時点でそれなりに暴力に長けた人物であることは示される。

「あれがここの燃えるケツの雌馬だ」ShunkaがDashiellに言う。「30年前にはお前さんの口にもそいつを味わわせてたと俺は思うんだがね」
「知らんな、Shunka。俺には冷血クソ女にしか見えんが」
「ああ、Bad Horse、お前にはわかってんだろうが俺の見るところ…」
「あれはお前のお袋さんだろう」

Uday “Shunka” Sartana:

Red Crowの腹心。彼に代わり現場を取り仕切る。
Red Crowには忠実な男で常に彼と組織の利益のために動くが、強硬な行動を求め反発することもある。
ある個人的な秘密を抱えており、後にそれが彼の行動に深く関わってくることとなる。

「お前あのブランケットヤッホーのマヌケ連中の掲げてるもんが信じられるか?」
「自分達を「伝統主義者」とか称して、俺がみんなを裏切ったと糾弾してるんだ」
「奴らのうち何人がサンダンスのピアッシングの儀式に出たことがあるんだよ?」準備中のカジノの入り口付近でDashiellに向かって話すRed Crow。
「そんなことを話すためにここに来たのかよ、Red Crow」Dashiellは言う。
「俺はお前の仕事の最初の週が順調か見に寄ったのさ」
「ヌンチャクを返してもらえりゃ、もっといい仕事ができるんだがな」カジノのゲート前に集まった抗議集団を見ながら言うDashiell。
「車に乗れ、話がある」

あばら家と廃棄された車が散らばる居留地の中の未舗装道路を、Red Crowの運転する車が走り出す。
「聞いたところによると、昨夜お前のところの家族喧嘩があったそうだな。お前がママのケツを車の横に押し付けたってのは本当か?」Red Crowが話す。
「そういうことらしいな」とDashiell。
「なるほど、それじゃあお前のビールを買ってやろうじゃないか」
車は荒廃したマーケット地区へとたどり着く。
-White Heaven, Nebraska
人口:28
年間ビール販売数:400万缶

店内。「それで?現金か?ツケか?」レジの男が前に立つ若い女性に訪ねる。
「フードスタンプ」火のついていない煙草をくわえた女が答える。
昼間から酒を飲んでいる男たちが座り込む店の前に進むRed CrowとDashiell。「やれやれ、どうやら福祉小切手が届いたようだな。ここらの保安官に会うまで待ってろ。あいつは本当に…」
話ながらRed Crowが店に入ろうとしたところで、中から先ほどの若い女性が出てくる。
「何だよ、クソ食らってくたばれ酋長かよ」女性はRed Crowと目も合わせないまま中指を立て吐き捨てるように言い、彼らを押しのけて出て行く。

「俺が知ってる奴じゃないのか?」店のガラス越しに女を見ながら言うDashiell。
「ああそうだな。12歳の頃お前はあいつに首ったけだった。大昔の話だ」Red Crowは背を向けたまま答える。
「あの頃のCarolは男どもをブラックロードに引っ張り込むタイプのマンコだったからな」
買い物袋を抱えながら駐車場の自分の車へと向かうCarol。
「あいつWasichu -白人なんぞと結婚までしやがった。信じられるか」
「彼女、あんたの娘だろう?」

「あいつは売女の嘘吐きだ」Red Crowは吐き捨てるように言う。「お前に少しでも分別があるなら…」
Dashiellの頭にフラッシュバックする昔のCarol。水辺の木に寄り掛かり蠱惑的な笑みを浮かべこちらを見つめる。「おしっこしてるところ見せてあげるよ、Dash。あんたが先に見せてくれたらね」
「あいつには近づくな」

Carol Ellroy:

Red Crowの娘。
Dashiellと同年代で幼馴染の関係にある。父親との関係は険悪。Elloyは結婚した白人男性の姓。
父親に向ける憎悪の理由など、彼女の過去も物語の展開と共に明らかにされて行く。

『Scalped Vol. 1: Indian Country』より 画:R. M. Guera

荒野を走り、戻って行く車の中でRed CrowはDashiellに向かって話す。
「昔々の話だ、Dashiell。俺はお前の母親同様の純朴なガキだった」
「お前が生まれる前の話だ。俺たちはHotamitaneos、またはドッグソルジャーソサエティって組織を作って活動していた」

「74年。俺たちはワシントンDCのインディアン事務局を三日間にわたり占拠した」
叫び、抗議するネイティブアメリカンの若者たち。
「俺たちは壁に主張をスプレーし、アメリカ国旗を焼いた」
「驚いたことにだ、居留地の生活水準が一夜にして改善されることはなかった」
突入する警官隊に制圧、殴打されるネイティブアメリカンの若者たち。
「75年。数人の連邦捜査官が俺たちの地を警告なしに横切り、偶発的に少々の流れ弾を受けた」
地面に倒れ命乞いする男に、銃を手にした人影が歩み寄る。「Hecheto aloe -こいつで終わりだ」
「クソ世界の終わりだと思ったさ」
銃が発射され、男を撃ち抜く。
「だがまだ俺たちはここにいる。いまだに忘れられたまま。いまだにアメリカの中心で第三世界民族として」
死体を残し、歩き去って行く男たち。

「Wakan Tankaの恵みにより、このカジノは全てを変える」
「昔々、Wasichus -白人たちは俺たちの聖なる黒い丘から10億の黄金を盗み去った。だが今タダ乗りは終わった」
「ここからは白人どもは自分のデビットカード持参で来ることになったのさ」
「言っておくがな、酋長」Dashiellは横で運転するRed Crowに言う。「俺はあんたの下で働き、あんたのために連中を殴る。だが俺はあんたのクソ部族の一員じゃない」
「俺はこれまでどんなラコタ(スー族)与太にもケチをつけたことはないし、今もそんなことはどうでもいい。パウワウやレインダンスやあんたの古き良き、悪しき日々の哀しい逸話にもな」
「あんたのためのニュース速報があるぜ。インディアン戦争は終結し、あんたらは大敗した」
「そしてあんたは偉大なる精霊を呑み込んで、ケツから噴射できるようになったとさ」
「ハッ!ブラボー、ミスターBad horse。幻滅世界へようこそだ」Red Crowは笑顔で応える。
「ようこそ我が家へ」

一週間後。
深夜。居留地のはずれの道を車が走って来る。乗っているのはFBI捜査官Baylis Earl Nitzと部下の捜査官。
「よし、Newsome捜査官。君がLincoln Red Crowについて調べたことを話してくれたまえ」と部下の捜査官に言うNitz。
「近隣三つの郡の中でも最も強力な犯罪者です。覚醒剤の移送、不法銃器、組織的売春などが、凶悪犯罪者集団である彼自身の私的軍隊により動かされています。そしてこの居留地全体を中世の王のように支配しています」
「”伝えられるところによると”、小僧、それらは証明できないとのことだ。ようこそインディアンの国へ」助手席で雑誌を広げながら言うNitz。

「Nitz捜査官、今夜の件についてですが…。これは友好的なものでしょうか?それとも敵対的な?」部下の捜査官が尋ねる。
「ライトを消して、そこの岩に向かってゆっくり進め」問いには答えず、指示を出すNitz。
「実用的な見分け方としてだな、小僧、そいつの肌が赤かったらそれはお前のオトモダチじゃない」
「お前は俺の指示に従ってりゃいい。俺はこれにお前が直立歩行を始める前から関わってる。俺はRed Crowを追い続けて30年になるんだ」
「そして今、遂に俺は求める天使を手に入れた。この人殺しの人間の屑を跪かせるための」
車はその岩へと近づいて行く。

「車を停めろ。あれだ」
Nitzが指す先には駐められたピックアップトラックの横に立つ、ショットガンを手にした人影。
「周囲の安全を確認しろ、Newsome捜査官」人影に向かい銃を構え、指示を出すNitz。
「俺たちはこの会合を本当に友好的に行わなきゃならん。お前と俺と…」車のヘッドライトが灯され、人影を照らし出す。
そこに立ち、こちらに向かいショットガンを構えているのはDashiell Bad Horseだった。
「FBI特別捜査官、Dashiell Bad Horseとでな」

『Scalped Vol. 1: Indian Country』より 画:R. M. Guera

Dashiell Bad Horse:

本作の主人公。
13歳の時居留地から出奔し、15年ぶりに戻り腕を買われて保安官補となる。
実はその正体は、FBIの潜入捜査官だった。

#2 Indian Country Part2

FBI捜査官Nitzと、潜入捜査官Dashiellとの深夜の秘密会合現場。
Nitzの部下は、Dashiellが捜査官であることが信じられず、銃を降ろさない。Dashiellは、そいつに撃たせてみろよ、と苛立たし気に挑発する。
銃を降ろしにやけて煙草に火を点け、歩み寄って行くNitz。「どうした、Bad Horse?新しい仕事の最初の週はきつかったのか?」
「クソくらえだ、人でなし野郎。俺は最初っから俺はこのクソから切り離されてないって言ってただろうが!」吐き捨てるように言うDashiell。

Baylis Earl Nitz:

Red Crowの逮捕起訴に執念を燃やすFBI捜査官。
そのためには手段も択ばない冷酷、冷笑的な男。その原因は過去のある事件にあるのだが、語られるのは少し先。
登場する並みいる悪党たちにも引けを取らないほど性格の歪んだ人物。同行した捜査官を”Newsome”と呼んでいるのだが、もしかすると名前ではなく”新米”なのかも?

「このデタラメな大ウソはいずれ俺を殺すぞ!」
そしてDashiellは、この一週間について話し始める。
5日前
Dashiellは居留地内の覚醒剤密造所の手入れに当たっていた。
コンクリートブロックの壁がむき出しの倉庫のような場所。男たちが座っている前のテーブルや、壁の棚には薬品や器具が並ぶ。
Dashiellにショットガンを突きつけられた上半身裸の大男は、彼に向かいあらゆる罵倒語を駆使した威嚇を吐き続ける。
壁に男を押し付け、後ろ手に手錠を掛けようとするDashiell。

その様子を見てDashiellに軽口をたたいていた、手入れに駆り出されたRed Crowの部下の一人が、油断を突かれ薬品の瓶を顔面に投げつけられる。
顔を焼かれ絶叫を上げる男。
Dashiellが騒ぎに振り向いた隙に、手錠を掛けられようとしていた男は近くにあったフライパンで彼を殴り、出口に向かって走る。
追いすがり逃げる男に向かってショットガンを撃つDashiell。
男は肩を撃たれ倒れる。
薬品を投げかけ逃げたもう一人を撃つDashiell。
腰を撃たれた男はドアを突き破り、建物の外に転げ出る。

『Scalped Vol. 1: Indian Country』より 画:R. M. Guera

撃たれた男は、建物に向かって覚醒剤密造用の材料を運んできた若者の前に倒れる。
驚いて立ち竦む若者に、続いてドアから出て来たDashiellがショットガンを突きつける。
自分はこの連中とは会ったばかりで、一味ではないと必死に説明する若者。
Dashiellに名前を聞かれ、Dino Poor Bearと答える。
他の密造所の近くをうろついていたら、生まれてきたことを後悔することになるぞ、と脅しDinoを見逃すDashiell。

Dino Poor Bear:

居留地に住む若者。
組織などに属してはいないが、職もなくその場の金のため様々な悪事で使い走りとして使われる。彼自身の家庭の事情なども後に語られて行くが、様々な登場人物との関わりなどでも物語の重要人物の一人。

覚醒剤密造所の摘発現場の前で、取材にやって来たニュースのレポーターたちに演説するRed Crow。
これを居留地の貧困が産み出したものと訴え、自身の新たなカジノを始めとする施策がこの状況を改善すると力説する。

その背後で怪我人たちが救急車へ運ばれるが、薬品を投げた男はShunkaと部下に引き摺られて行く。
ポンプハンドルでぶちのめし、こいつの女の居所を吐かせろ。Shunkaは部下に指示する。そしてこいつを生きたまま埋めるときに思い出させろ。
「女が死ぬとき俺が面に小便をかけてやることをな」

現場に保安官事務所の警官Falls Downがパトロールカーで到着する。
Falls DownはRed Crowの前に置かれた押収物のドラッグが積まれた手押し車に歩み寄る。
押収物の回収に来ただけだ。とRed Crowに告げるFalls Down。
「あんたの部下に押収した証拠品を任せておくと、ドラッグ関連が紛失することが多いのでね」
そして自分のパトロールカーに手押し車を押して行く。

FBI捜査官NitzとDashiellの深夜の会合地点。
「このFalls Downは、居留地で唯一Red Crowに買われていない警官なのか」
「そのようだな」Dashiellが答える。
それで大酋長はそれについてどうしてる?と問うNitz。
「俺が見るところでは、それほど脅威には感じてないようだ」

覚醒剤密造所の摘発現場。
お前がどう思ってるかはわかっている。険悪な表情でFalls Downを見るShunkaに言うRed Crow。だがその考えはとどめとけ。
「あの馬鹿者がどれほど死にたがってるかわかるまでな」

Franklin Falls Down:

居留地の保安官事務所で唯一Red Crowに買われていない警官。
主人公Dashiell Bad Horseを含め、善良でもなく頭がおかしいレベルの悪党ばかりのこの作品全体で、唯一の正常な人間ぐらいのポジション。

4日前
夜。酔っ払い運転同士の衝突事故の処理に当たっているFalls Down。そこにDashiellが現れる。
「Red Crowが俺を殺すためにお前を寄こしたなら、ずいぶんとなめられたもんだな」とFaslls Down。
「俺にあんたを殺す理由があるとは思わんがね。少なくとも今のところは」とDashiell。

帰って来てみてどうだ、と問うFalls Downに、母親との最悪な再会をぼやくDashiell。
ずいぶん疲れてるようだが、なるべく眠った方がいいぞ、とDashiellの様子を見て言うFalls Down。
Deadwoodから東の覚醒剤密造所を全て叩けとRed Crowにせっつかれてる、と疲れた表情で言うDashiell。
「どうやら、お前さんが予定した通りには事が運んでないようだな」Falls Downは言う。
「何のことだ?」と聞き返すDashiell。
「インディアンごっこさ」

FBI捜査官NitzとDashiellの深夜の会合地点。
「奴の言うとおりだ、Nitz。こんなのうまく行くわけがない」Nitzに訴えるDashiell。「俺は既にボコボコにされ、撃たれて、殺されかけてるんだ」
「俺はここで何をやるべきなのかわからない」
「俺にはバックアップもない。何もない」
「俺はここに一人で放り出されてるんだ」

3日前
居留地内のShunkaと部下たちがたむろするプールバー。Dashiellは隅でジュークボックスを眺めている。
「あんたあたしを傷付けたんだ。わかってんの?」
振り向くDashiell。「お前だよ。そこのハゲ」
そこに立っていたのはCarolだった。
酒屋の前でRed Crowと共にすれ違った時には、そのまま通り過ぎたが、彼女もDashiellには気付いていたことを話す。

「憶えてるよ、Carol」Dashiellは言う。
「そう?あんたがあたしを置いてここから逃げ出して、あたしをどんなに傷付けたかも覚えてるのかい?」
「お袋が俺を外に出したんだ」
「ビッチがあんたをしばらく外に出した…」
「で、あんたはそっちが気に入っちまったんだ」
「哀れな小っちゃい恋人をこの居留地の豚小屋に残して」
「俺は13だったんだぞ」

『Scalped Vol. 1: Indian Country』より 画:R. M. Guera

Dashiellをなじり、嘲るように絡むCarol。
ジュークボックスの上に座り、足を開く。
店主がやって来て、Carolと口論になる横で、Dashiellの腰の通信機が、彼を酔っ払いの喧嘩が撃ち合いに拡大した騒ぎに呼び出す。
それらの様子を横目で眺めるShunka。

Carol Ellroy:

CarolがDashiellと、かつて知り合い以上の関係であり、Dashiellが居留地を去り見捨てられたことを恨みに思っていることがここで描かれる。
また、酋長Red Crowの娘であっても、居留地の中ではあまりよく見られていない様子もうかがえる。Dashiellが母の指示で居留地を出たことが断片的に語られるが、その真相が明らかにされるのはまだ先。

2日前
夜。準備中のカジノの、Red Crowの執務室。
「妙だな、今日部族評議会の会合が予定されていた覚えはないんだが」
Red Crowは訪れた三人の部族評議会メンバーの男たちに向かって言う。
我々は評議会に報告されていない様々な件について心配している。評議会の男たちは話す。「例えば、Gina Bad Horseの息子を居留地警察に雇ったことを、いつ我々に話すつもりだったかということだ」
奴は腕っぷしで雇っただけだ、と言うRed Crow。
評議会メンバーは、若い頃ネイティブアメリカン活動家の一員だったRed Crowが、Gina Badhorseを筆頭とする反対運動に対し軟化しているのではないか、それはこの一つの表われではないのか、懸念を示す。
お前らはもっと重要な心配することが他にあるんじゃないのか?お前らの従兄弟を居留地の良い職に就けるというようなな。Red Crowはやって来た面々に言う。
お前が酋長でいられるのは、俺たちの力であることを忘れるな。言い捨て、評議会メンバーは帰って行く。

「連中の言うとおりです。あんたは少なくともBad Horseについては知ってるんでしょうが」彼らが帰った後、ShunkaはRed Crowに進言する。
俺に言わせりゃ、あの野郎はクソッタレカウボーイ過ぎる。「あいつは何にも、誰にも尊敬を払わない。あんたにさえもだ」
「あんたは奴にFalls Downを見張るように命じたんでしょう」
「だが奴には他の誰かを見張る方が重要なようだ」Shunkaは続ける。「例えばあんたの娘とか」
Red Crowは無言で窓の外の闇を見つめる。

Lincoln Red Crow:

居留地内で警察力を始めとして圧倒的な権力を持つように見えるRed Crowだが、それも盤石ではないことが示される。彼がかつてはGina Bad Horseと同じ活動家であったことも、地元の権力者からの懸念の一端となっている。
ShunkaのDashiellへの不信、また昔からの知り合いゆえ簡単にRed Crowが登用したことへの不満はこの初期段階から火種として燻ぶり、やがて大きな動きとなって行く。

『Scalped Vol. 1: Indian Country』より 画:R. M. Guera

「あなたがいつこの哀れな私に連絡をくれるのかと思っていましたよ。私は見捨てられたんじゃないかと思い始めていたところですよ。幸運なことに、忍耐は私に最後に残った美徳でしてね」
テーブルの上で分解、整備点検されている多くの銃器。
四人の男がテーブルに向かいそれぞれに多くの銃器の整備を行っている。その奥の椅子に座った男が携帯で誰かと通話している。
「ええ、その紳士は知っています。いいえ、それは問題にならないでしょう」
「間違いありませんとも。私の愛しい賑やかな堕ちた天使たちについてはご存じでしょう。常に様々な疾風怒濤に臨んでいます」
作業している男たちの顔には、それぞれに大きな火傷の跡がある。

「少々の消耗が全てです。保証いたします。ですが心配頂けたことには感謝します」
電話で話す男の顔面は、過去の火傷で全体的に皮膚が焼けただれ失われている。
「我々が過去の事情により公の場に姿を現したがらない傾向にあるのは事実ですがね」
「ですが、あなたからのお誘いは断れませんなあ」
「それらが肉体への危害を加える機会からの富を提供するものであることを考慮すれば。依然、我々が過去より最も愛することでありますゆえ」

「俺は奴を”痛めつける”ことを求めてるんじゃない、Lister」
電話の相手はRed Crowだった。「俺は彼に死んでもらいたい」
「そして今回は、あんたが全部燃やすことは避けてもらいたいと思っている」

Lister:

暴力行為、殺人などに特化した仕事を請け負うギャング一味Leonardファミリーのボス。彼らの一味は全て顔面などに火傷を負っているが、その事情については詳しくは語られない。
ここで、Red Crowよりある人物の殺害を請け負うこととなる。

FBI捜査官NitzとDashiellの深夜の会合地点。
「万事休すだ。Red Crowに見抜かれてる」Dashiellは言う。
「だがお前まだここにいるじゃないか、そうだろう?」「辛うじてな」
「もしRed Crowがお前を殺すつもりなら、とっくに死んでるだろう。神経過敏になり過ぎなんだよ」
そう言うNitzの部下の捜査官を殴りつけるDashiell。NitzがDashiellを抑える。
「俺は嵌められたんならすぐにわかる!お前ら屑野郎はそこにさえいなかったんだ」
「俺たちは大虐殺現場に歩いて入って行ったんだ」

18時間前
高台の上から双眼鏡で、下にある倉庫のような建物の様子を窺う、Falls DownとDashiellの二人。
お前の悪たれ保安官補仲間はどうしたんだ?Falls Downは言う。「ボスRed Crowは、俺たち二人だけであの覚醒剤密造所を襲わせるつもりなのか?」
「クソくらえだ。ただとっととやって終わらせるだけだ」
二人はそれぞれのパトロールカーから、装備、武器、弾薬を用意し、倉庫へ向かう。

「続けて行けよ、小僧。いつかお前の願いが叶う日が来ると、俺は確信してるよ」Falls Downは言う。「俺はその時近くにいないことを望むがな」
「どんな願いだ、そりゃ?」塀の陰から中を窺いながら問うDashiell。
「降り注ぐ弾丸の中で果てるとか、光の旅団の最後の告発とかいう類いだよ」身体を低くして近寄りながら言うFalls Down。
「言っとくがな、小僧。俺はお前を一目見てわかったぜ」
「ここではない外の何処かに輝くクソ栄光ってやつがある」
「お前の名前がそこら中に書かれたやつがな」

倉庫の入口へ歩み寄って行く二人。
中にはLister配下の殺し屋たちが待ち構えている。
全ての銃口が、入口へと向けられる。

『Scalped Vol. 1: Indian Country』より 画:R. M. Guera

#3 Indian Country Conclusion

倉庫入り口扉の両サイドに立つDashiellとFalls Down。
「用意はいいか?」と小声でささやくFalls Down。
その時、Dashiellの頭には、過去のある情景が浮かんでいた。

雪の積もる冬のある日、幼いDashiellは母に手を引かれ連れて行かれる。
そこでは居留地内に住むある男が何らかの犯罪で捕まり、保安官たちに囲まれていた。周囲には見物人も集まっている中、男の親族らしき女性が座り込み悲嘆に暮れている。
「目を開けるのよ、Dashiell。私はあなたにこれを見てもらいたい」母が言う。
だが、幼いDashiellは頑なに目を閉じる。「いやだ、お母さん、見たくないよ!」
「Wakan Tankaは見ているわ。あなたがこれを見ることは重要なの」
目の上に手を被せ目の前の情景を拒むDashiellを説得する母。「駄目よ、Dash、これはあなた自身のためなの。目を開けなさい!」周囲の見物人たちから笑い声が上がる。
「ああ、どうも俺が怖がらせちまってるようだな。そいつがちんけな虫けらなのは気の毒なこった」捕まっている男が嘲るように言う。
「見るのよ、Dash、しっかりと見るの。決して忘れないように。そしてこの夜のことを残りの人生ずっと憶えておくのよ」
そしてDashiellは目を開く。

「あなたが銃を手にするときはいつも」母は言う。
Dashiellの前には頭を撃たれ命を失った男が、壁にもたれていた。
男の頭の後ろの壁に飛び散る血。

『Scalped Vol. 1: Indian Country』より 画:R. M. Guera

「集中しろ、Bad Horse。今日は撃たれるような目には遭いたくないんだ」
少し上の空のようなDashiellに、念を押すように言うFalls Down。
「3で行くぞ、1…」入り口扉に向かいショットガンを構える二人。

「母さん、もう見たくないよ」
「しっかり見ておくのよ、Dash、これをあなたの頭に焼き付けられるまで」
雪の降り続ける樹の上から、フクロウたちが彼らを見つめていた。

「2…」
入り口の横に立てかけられたトーテムポールが目に入る。
そこに彫られたフクロウが彼らを見つめる。

「3!」ドアを蹴り開けるFalls Down。
「駄目だ!待て!」同時にDashiellが叫ぶ。

一斉に入り口めがけ撃ち始めるLister配下の殺し屋たち。
その場に倒れるFalls down。Dashiellは床に伏せ、そのまま室内の遮蔽物へ転がり込む。
逃げるDashiellを追って撃ち続ける殺し屋たち。
Dashiellはテーブルの陰を回り込み、両手に拳銃を構え、タイミングを計り殺し屋たちの側面に跳び上がる。
至近距離で撃ち合うDashiellと四人の男たち。
Dashiellは殺し屋たちを打ち倒し、生き延びる。

『Scalped Vol. 1: Indian Country』より 画:R. M. Guera

しばらくの後、遅れて現れた保安官補たちが現場の処理に当たる。
救急車へ運ばれるFalls Down。「ハハハ…。今日は撃たれたくないって言ってただろう…」
「Red Crowが俺たちをハメたんだと思うか?」Dashiellはストレッチャーの上のFalls Downに言う。
「ハ…、疑う余地も無かろう…。唯一の疑問はだ…」Falls Downは痛みに顔を歪めながら続ける。「お前さんがこれをどうするか、ってことだ…」

FBI捜査官NitzとDashiellの深夜の会合地点。
「それでお前はどうしたんだ、Bad Horse?」Nitzは言う。
「頼むから、イカレワイルドバンチになっちまって、この仕込みを全部Red Crowにぶちまけたなんて言わないでくれよ?」
「俺は誰にも、何もやっちゃいねえ、Nitz。クソ名誉にかけてな」

「俺はあの屑野郎と話しに行かなきゃならなかっただけだ」
7時間前
Prairie Rose居留地部族本部。建物の中に進んで行くDashiell。
「Red Crow酋長はその中か?」扉の前に立つ屈強な二人の護衛に声を掛けるDashiell。
酋長は忙しい、後にしろ。嘲るようにDashiellを押しとどめる二人の護衛。

部屋の中では部族会議が終了したところだった。Red Crowがテーブルに着いた面々に閉会を告げる。
ドアを開け、議場に入って来るDashiell。ドアの外では、二人の護衛が床に這いつくばり身をよじっている。
会議の出席者たちが立ち上がり、それぞれに歓談を始める中、DashiellはRed Crowに背後から歩み寄る。
「当たってんのは俺のチンポじゃないぜ、酋長」Dashiellは、Red Crowの首に銃口を押し付けながら言う。
「ほう、そりゃ安心した」「俺が引き金を引くべきじゃない理由を話してくれ」「わからんな。一緒に考えてみようじゃないか」Red Crowは会議の書類を眺めながら言う。

「余計なことはいい。お前は俺をハメた。イカサマ野郎」
「お前とオフィサーFalls Downが、今朝Leonardファミリーの根城でトラブルに会ったことは聞いとる。お前らの無事を祈っとったとこだよ」
「俺を試すのはやめろ、酋長。俺が丸腰の奴を後ろから撃ったことがないと思ってるのか?」
「うぬぼれるな、Bad Horse。俺がそう望めば、お前はもう死んでる。お前本気で今ここにまともな状態で立ってられると思ってるのか?」

彼らの前の議場の中では、出席者たちが残り、それぞれに歓談を続けている。
「誰がお前らをハメたか知りたきゃ、この部屋の中を見まわしてみることだな」
「お前がぶっ潰して回ってる覚醒剤密造所は、この居留地の中で何年も続けられてきたもんだ。この部屋の中にいる感謝されるべき正直で洗練された評議会メンバーによってな」
「阿呆クリスチャンはクソ売り切れだ、諸君」

「小僧、俺はお前を気に入ってる。だがものには限度ってもんがあるぞ。わかったら銃を降ろせ」
「そしてお前がまたこんなことをするほどの阿呆なら、すぐに引き金を引くことだな」
Red Crowは立ち上がり、Dashiellと面と向かう。「そして撃ち損なうな」
「Leonardファミリーの納屋にいた焼け焦げ野郎どもに、俺がどのくらい撃ち損なったか聞いてみりゃあいいだろう」そしてDashiellは背を向け、去って行く。

部族本部を出るDashiell。そこに外で待っていた彼の母Ginaが歩み寄って来る。
「聞いたんだけど…、あなた…」躊躇いがちに話しかけてくるGina。
そこにDashiellの腰の通信機から、家庭内の揉め事への対処を求める呼び出しがかかる。
母を無視し、通信に応え、車を出すDashiell。

Gina Bad Horse:

息子Dashiellがかなり危険な目に遭ったことを聞きつけ、心配して駆けつける母Gina。先の居留地内の犯罪者の射殺という場面を無理やり幼いDashiellに見せる過去のくだり同様、母Gina Bad horseという人物を表す短いが重要な場面。
この作品においてDashiellと母の関係は、最も重要な物語の一つの柱である。

通報のあった現場へ行ったDashiell。妻を殴り家で暴れていた男を後ろ手に手錠をかけ、車に引き摺って行く。
暴れる男を車に叩きつけ、車内に放り込むDashiell。
「スゲエな、兄貴。そんな動き鉄拳5以来見たことがないぜ」
声を掛けてきたのは近くに住み見物に出て来たDino Poor Bearだった。「みんなあんたの噂をしてるぜ、ボス。みんなあんたが外でどこにいたんだろうって考えてる」
「またお前か」「俺だよ。俺、あんたがどこでそのキックアスムーヴを習ったんだろうって思ってさ。俺にも教えてくんない?」「断る」
俺に言ってくれりゃあ、何でも調達して来るぜ。親し気に話し続けるDino。玄関口で捕まった男を罵る妻。

その時、近くの道を暴走車が猛スピードで駆け抜けて行く。
逮捕者を乗せたまま、自分のパトロールカーで追跡にかかるDashiell。
追いすがり、暴走車を停止させる。運転していたのはCarolだった。

あんた気違いみたいに突っ走るわねえ、と煙草に火を点けるCarolに、チケットを切ればいいのか常識を叩き込めばいいのかわからねえ、と憤るDashiell。
だが、明らかに殴られた様子で顔の半分を腫れ上がらせるCarolを見て、言葉が止まる。「すまないわねえ、誰かが先にそれはやってくれたみたいよ」
「そいつはどこにいる?」「彼は時々嫉妬にイカレちゃうのよ。きっとあんたにも手ぇ出すわよ」「そりゃあ厄日になるだろうな。どこに行きゃあそいつが見つかるか言え」
「しばらく夫のことは忘れるっていうのはどう?」身を乗り出し、Dashiellのベルトを掴むCarol。
そしてDashiellにしがみつき、キスをする。
「キャンプファイアの傍でまた会いましょうね、カウボーイ」
気を削がれ、車で去って行くCarolを呆然と見送るDashiell。

『Scalped Vol. 1: Indian Country』より 画:R. M. Guera

深夜の準備中のカジノ。倉庫の銃撃戦で負傷しながら逮捕は逃れたLeonardファミリーのボスListerが、Red Crowの手下たちに付き添われながら入って来る。
「あんたに言うことがある、Lincoln。あのBad Horseという厄介なクソ野郎だ。あんたあいつをどこで見つけて来たんだ?」
Red CrowはListerに背を向け、スロットマシーンを試している。
「ああ、心配するな。俺が失敗したのは分かってるさ。だが一旦新しい連中を集め立て直し、きっちり方はつけるさ。誓ってな」
背を向け続けるRed Crow。
「おい、俺の手の者のうち三人は死体置き場、一人は喉を撃たれて刑務所病院送りなんだぞ!俺がこの結果をあんたより喜んでるわけなかろう!」
「俺はあのFalls Downの野郎を三回も撃ったんだぞ!そりゃあいささかぐらいのもんじゃないのか?」
「あんなもんには意味はない。奴は死んどらん」背を向けたままRed Crowは口を開く。
「俺はあのBad Horseが、お前ら一味を地獄送りにすることは疑ってなかった。だが、Falls Downは…。あいつについてはお前らがなんとかできると思ってんだがな」

「なあ、このクソは何なんだ、Red Crow?なんで俺をいたぶるためにここに引っ張り出したんだよ?」
「お互い知り合って、どのくらいになるかな、Lister?」
「石器時代からさ。ビリングズ以来だろ」
「それでその間、一緒にどれほどのクソをやらかしてきたかな?」
「山ほどさ」
「お前は俺の最も弱いところを見て来た。最も報復的なところを。様々な上昇と下降を。お前が俺の深く暗い秘密の部分全てを密かに抱えてる、と言う奴もいるだろう」
「いるだろうな」
「それで、それについてどう思う、Lister?」
「どう思うだと?」
「お前の有用性は終わったということだ」
Listerの背後にいたRed Crowの手下たちが彼の肩を掴む。
「待てよ…、待て!」男たちに引き摺られて行くLister。「カーペットを汚すなよ」背を向けたまま指示するRed Crow。

Lincoln Red Crow:

ここで徐々に見えてくるのは、Red Crowがカジノの操業開始などで表舞台に広く出るため、身辺の厄介事を整理しようと動いているということ。
この仕掛けの意図は、邪魔者であるFalls downを始末すると同時に、自身の暗い秘密を多く知っているLeonardファミリーのボスListerを消すことにあった。
先に話していたように、地元の有力者の権益も絡んでいる覚醒剤密造所の連続摘発も、この動きの一環である。

FBI捜査官NitzとDashiellの深夜の会合地点。
昨日のListerという奴の組織についての話を聞いたことがあるか?と尋ねるNitz。
「奴はRed Crowと長い付き合いがあり、多くの荒仕事を請け負ってきた。俺の考えるところじゃ、連中はFalls Downを始末するつもりで、お前はそこに居合わせちまったってことだ」
「あるいは、Red Crowはお前の気概を試し、どれほどのことができるかを見るためにお前を送り込んだんだろう」
「さらに考えればだ、奴はお前が奴の娘に近付き過ぎないように、少々の警告をしたのかもしれんな」
「奴の娘?」「Carol Ellroyだよ。聞いたことがないのか、ああ?」
「お前、俺がそんなマヌケだと思ってんのか、Bad Horse?俺がこのインディアンの地で25年、ただのアホラッキーで生き延びて来たと思ってんのか?」

「なあ、あんたやあの連中に起こったことについてどうこう言うつもりはないし、それも今や明らかだろう!Red Crowにそこら中に小便をまき散らせとけよ。俺は抜けるぞ!」Nitzに詰め寄るDashiell。
なぜあのバーミンガムの連中が、お前をいかれたピットブルだと言ってたか今の俺にはわかるよ。Nitzは言う。
「お前、あそこに帰りたいのか?アラバマのケツの穴に?レッドネックのコックファイターや生まれながらの淫売とじゃれ合って残りの人生を過ごしたいのか?」
「ああ、そうだよ」吐き捨てるように言うDashiell。
「いいぜ、お前がRed Crowの薄汚いメロンを皿に乗せて差し出したときにな。そうすりゃ、お前は俺の一切関知しない忘却の彼方へ逃げ去ることができるぜ!」
「だが今は泣き言を並べるのはやめて、お前の仕事をしろ!」
「それともお前、俺がお前をどうできるか忘れたのか?」顔を近づけて、囁くように言うNitz。「電話一本かけるだけで」

Dashiell Bad horse:

ここにおいて、Dashiellが正規のFBIエージェントではなく、どこかの良からぬ環境の場所にいたところをNitzによりリクルートされたらしい事情が見えてくる。また、NitzがDashiellの後ろ暗い秘密を握っており、それを彼を使うための脅迫材料としていることも。
それらが明らかにされるのはしばらく先の話となる。

Dashiellは車に乗り込み、その場を去る。
あんな傲慢なチンピラをどうやって局の仕事に使うんですか?Nitzに不満気に尋ねる、同行した捜査官。
「あのチンピラはただ傲慢なだけじゃない」Nitzは言う。「向こう見ずで強情、完全に制御不能だ」
「根深い怒りに突き動かされる社会病質者の境界ギリギリ。おまけに無意識下の死にたがり願望まで持ってる。あいつは起こるのが時間の問題の暴力メルトダウンだ。明らかに周囲の全てを危険にさらす」
「別の言い方をすればだ」Nitzはさらに言う。「奴はクソ完璧なのさ」
二人は乗って来た車に戻って行く。

岩山の上からその様子を眺めていた人影。
それは馬を連れた謎の男Catcherだった。
「どうやら、俺は正しかったようだな、Festus」
「お前さんが思ってるほど、俺はマヌケじゃなかったようだぜ」
「奴ら雷の者たちは、これまで俺に嘘をついたことがねえ。とんでもねえ」

Arthur J. “Catcher” Pendergrass:

Catcherについては、ここまでにも二回ほど同様に高所からDashiellの動向を観察しているシーンが出てくるのだが、ちょっと書ききれない感じで省略してしまっている。いずれもシーンの終わりにそれほど大きくないコマで、セリフも「Heh」ぐらい。Catcherは見ていた、ぐらいの感じか。
ここで最重要の秘密を知ったCatcherだが、居留地の様々な利害とも関わることなく、ネイティブ・アメリカンの最もスピリチュアルな部分と結びついているように見える彼がどう動いて行くのか?繰り返しになるが、序盤はあまりにも正体不明な人物だが、この作品の最重要キャラの一人としてその動向には常に注目すべし。

それぞれの方向へ去って行く車。遥か彼方に雷光が地面へ落ちる。
「クソ嵐だ」
「それが俺に見えているもんだ」
「忌々しいクソ嵐さ…」

『Scalped Vol. 1: Indian Country』より 画:R. M. Guera

以上、『Scalped』の最初のストーリーとなる「Indian Country」全三話。
まだTPB第1巻の『Scalped Vol. 1: Indian Country』の前半というところなのだが、今回はここまでで。
当方の予定では、第2巻『Scalped Vol. 2: Casino Boogie』の結末までということで、2回または3回ぐらいを考えていたのだが、このペースでは全4回になってしまうかも。
この作品においては多くのかなり癖の強いキャラクターと、それぞれの人間関係が最も重要と考えるので、それぞれのやり取り会話が重要になり、どうしても長くなってしまう。まあダーティーなセリフのやり取りを日本語化するのが大好きという私の特殊性癖もあるのかも。
なるべく多くの作品を紹介したいというところから、あちこち同時進行というやり方にはなっているのだが、この『Scalped』全3回Or4回は、なるべく集中して早期に完成させるつもりです。
第1回「Indian Country」は物語発端の状況、多くのキャラクターでかなり情報過多だったが、ここから様々な人物状況が徐々に深く掘り下げられて行くこととなる。第2回をお楽しみに。

作者について

こちらの作者チームについては、この第1回で『Scalped』まで、最後の回でその後という形で2回に分けてやって行きます。

■Jason Aaron

1973年、アラバマ州ジャスパー生まれ。作中、主人公Dashiell Bad HorseがFBIのアンダーカバーで故郷に戻る前、アラバマにいたことが触れられているが、明らかにあまり環境良さげに書かれていな彼自身の故郷がいかに描かれるかにも今後注目。…書く予定のところではそこまで届かないのかな?
映画『フルメタル・ジャケット』の原作となった小説『The Short-Timers(邦題:フルメタル・ジャケット)』の作者グスタフ・ハスフォード(1947-1993)を従兄弟に持ち、多く影響を受けたということ。グスタフ・ハスフォードという人もかなりいろいろあった作家なので一度調べてみるべし。
子供の頃よりコミックのストーリーライターを目指しており、アラバマ大学バーミングハム校を卒業後、2001年マーベルの才能発掘コンテストで『Wolverine』のシナリオで受賞。翌年にはコミックの形で出版される。だが、そのまますぐにプロ作家とはいかなかったようで、2006年にVertigoのブラインド・サブミッションに通り、そこから本格的にコミック作家への道を進むこととなる。ブラインド・サブミッションってよくわからないけど、多分作者名など出さない形での応募選考みたいなものかと思う。
ベトナム戦争を題材としたその作品『The Other Side』は全5話で出版され、翌年のアイズナー賞ミニシリーズ部門にもノミネートされる。やはり従兄弟グスタフ・ハスフォードの影響が感じられるような作品なのだろうか?ちょっとよく知らなかったのだけど、なるべく早くとりあえず読むぐらいはしておきたい。
そして次の作品として出されたのが『Scalped』。この作品の成り立ちについては冒頭に書いたような経緯いらしい。
そして、やはりアイズナー賞ノミネートぐらいの実績が効いて来たのか、2007年頃からは『Scalped』と並行してマーベル作品の仕事が始まってくる。2008年にはマーベルと、『Scalped』を例外とした形で専属契約を結ぶこととなる。『Scalped』と並行した時期に手掛けた主な作品は、『Wolverine』、『Black Panther』、『Ghost Rider』というところ。

ここで、Jason Aaronという作家を考える上で重要と思われるのは、彼はブライアン・マイケル・ベンディスや、エド・ブルベイカーといった作家同様に、非常に作家性の強いというような作品を書く一方で、彼らのように自ら作画も手掛けるというような形で出発するような、自身の世界を描くオリジナル作品への強い欲求は、少なくともその初期のキャリアを見る限りでは希薄に見えるということ。
これはたまたまそういうことができる環境になかっただけなのかもしれないけど。そして、彼の最初期の経歴、2001年のコンテスト受賞から、2006年のVertigoまでは、実際に考えると結構長い空白がある。
ここまでのキャリアを見ればわかるように、この『Scalped』はJason Aaronにとっては、ほとんど助走なしの事実上のデビュー2作目だったりする。だがストーリーの構成、コミックというフォーマットでのセリフ、モノローグの上手さといった面での、完成度の高さとしてはそれほどの新人の作品とは思えないほどだ。
この不明な空白期間に彼は何を考え、どのような試作を続けて来た結果としてこのような作品が生まれたのか?
ここで、一つ仮定的に想像されるのは、Jason Aaronは前出のオリジナル作品から出発した作家と違い、既存のキャラクターのシリーズの中でも自分の世界が描けるという思いを持った作家だったのかもしれないということ。グスタフ・ハスフォードというような作家を従兄弟に持ちそこからも影響を受け、それでも小説家という方向に進まずコミック作家を目指し続けたJason Aaronの中には、そういうものがあったからゆえではないのかな、というようなことを想像できるのかも。
そんなわけで、Jason Aaronの特に『Scalped』と同時進行ぐらいだったマーベル作品は、Jason Aaronという作家を知る上で結構重要なのではないかな、と持ってたあたりから少しずつ読み始めてる次第。どうしてもこっちで記事にできるほどの余裕はなく、バックグラウンド的に知っておくぐらいの感じなのでペースは遅いのだが。
やっぱり同じように並ぶように見えても作家には色々なタイプがあり、経歴を知るというのはそういう考え方ができる機会になるな、と改めて思う。Jason Aaronのその後については何回になるか未定だけど、最後の回にまた。

■R. M. Guéra

1959年、ユーゴスラビア出身。旧ユーゴスラビアと書くのが正しいのかな?本名Rajko Milošević。1991年ユーゴスラビア紛争以降は、スペイン、バルセロナに移住している。それ以前はGeraのペンネームを使っていたが、そこでスペイン風にGuéraに変更したそう。
1982年、Dragan Savićのシナリオによるセルジオ・レオーネ風ウェスタンElmer Jonesシリーズでデビュー。YU stripという日本のようなアンソロジータイプの雑誌らしい。以降ウェスタンタイプの作品を描き続け、スペイン、フランス、アメリカでも出版され広く知られるところとなる。
スペイン移住後は、スペインの作家Oscar Aibarとの共作で短編作品などを発表した後、広告デザインやアニメーションのストーリーボードといった方面にも仕事の幅を広げる。2002~03年にはフランスGlénatよりPatrick Cothiasのシナリオによる『Le Lièvre de Mars』シリーズを2作手掛ける。2004年にはオリジナルの海賊を主人公とした作品『Howard Blake』を同じくGlénatから。そして2007年からの『Scalped』に至る。
R. M. Guéraの作画については、どこを見ても素晴らしいとしか言いようのないものだが、注目点を挙げるとするなら、基本効果線、スピード線を使わないタイプの、人物の動き・構図で見せるアクションシーンのお手本ぐらいのところか。実際ただ立っているだけでも、「立っている」というアクションが描けるぐらいのアーティストだろう。R. M. Guéraのその後についても最後の回に。

Scalped

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