居留地の過去の殺人。彼らに何があったのか?「俺たちみんな今日ここで死ぬんだ」
ジェイソン・アーロン/R.M. Gueraによる『Scalped』(2007-2012)の第2回です。
表と裏のリーダーとして君臨するRed Crowによって動かされ、カジノ操業開始を目前に控えたPrairie Roseインディアン居留地に15年ぶりに戻って来た男Dashiell Bad Horse。旧知のRed Crowにより腕っぷしを買われ、居留地警察の保安官補として働き始めるが、実はRed Crow逮捕のため執念を燃やすFBI捜査官Nitzに送り込まれた覆面捜査官だった。
表舞台での成功、カジノの操業開始を控え、過去の暗い部分からの身辺整理を図るRed Crow。正体の発覚を恐れながらも、相反する破滅衝動・暴力衝動により暴走するDashiell Bad Horse。目的のためなら手段を択ばない冷酷・残虐なFBI捜査官Nitz。古くからのネイティブアメリカン活動家で、Red Crowとも因縁の深いDashiellの母、Gina Bad Horse。過去にはDashiellと関係があり、現在は荒んだ生活を送るRed Crowの娘、Carol Ellroy。謎の男Catcher。
第2章「Hoka Hey」(ネイティブアメリカンの言葉で「今日は死ぬのにいい日だ」の意)では、彼らとPrairie Roseの過去が掘り下げられて行きます。
あと、ジェイソン・アーロンについては、結構翻訳あるんで日本語表記でいいのか、と第1回の最後ぐらいで気付いたのだけど、全部直すのが面倒になってそのままにしました。ここからはこっちの表記で行きます。
Scalped 第2回 Hoka Hey
■キャラクター
-
Dashiell Bad Horse:
本作の主人公。13歳の時Prairie Rose居留地から出奔し、15年ぶりに戻って来る。 -
Lincoln Red Crow:
Prairie Roseインディアン居留地の表と裏のリーダー。 -
Gina Bad Horse:
Dashiellの母親。古くからのネイティブアメリカン活動家。 -
Carol Ellroy:
Red Crowの娘。Dashiellとは幼馴染の関係にある。 -
Uday “Shunka” Sartana:
Red Crowの腹心。主に荒仕事を担当する。 -
Dino Poor Bear:
居留地に住む若者。犯罪の使い走りなどで日銭を稼いでいる。 -
Baylis Earl Nitz:
Red Crowの逮捕起訴に執念を燃やし、そのためには手段も択ばないFBI捜査官 -
Arthur J. “Catcher” Pendergrass:
居留地内を馬を連れて動き、そこで起こる様々な出来事を陰からのぞく謎の男。
■Story
#4 Hoka Hey Part1
1975年 6月26日 サウスダコタ州Prairie Roseインディアン居留地。
「おい…、こいつ死んだみたいだぞ」血まみれで車に寄り掛かる男の様子をのぞき込んでいた男が言う。
「ああ、クソッ、こいつらどっちも死んでるぞ、Gina」
車に寄り掛かり死んでいる男の横には、地面に倒れ頭から血を流している男。
「Gina、こいつらどっちも死んじまった」
「俺たちゃどうすりゃいいんだ?」
近くの樹の根元にしゃがみ込み、嘔吐するGina Bad Horse。その横の地面には、拳銃が置かれている。
[繰り返す。州道407にて捜査官が複数のドッグソルジャー分子により銃撃を受けた]
路上に停止している車から通信が響く。フロントガラスに複数の弾痕。周囲にはGina Bad Horseを含む5人の若者が散らばっている。
[過激派インディアンは武装しており、危険と思われる]
[近隣の全ての捜査官は応答されたし]
「なんてこった、ここには連邦政府の人間が集まって来るぞ!FBIだぞ!俺たちがここで話してた!」死体を窺っていた男が狼狽えて話す。
「あいつはどこなの?」Ginaが言う。
「あの二人きっといかれてたんだ。ここにやって来るなり…」
「馬鹿野郎ッ!あのブタ頭のクズ畜生はどこにいるのよ!」なおも続ける男を遮り、Ginaが叫ぶ。
「撃つな!あたしは撃つなって言ったじゃない、畜生。これはあいつのせいよ」
「Red Crowはどこなの?」
『Scalped Vol. 1: Indian Country』より 画:R. M. Guera
現在 – 昨日 深夜 The Bad Lands
Gina Bad Horseの家。ソファで眠ってしまっているGina。見ていたアルバムが開いたままになっている。
「想い出の小道を散策してたってところかな」声に目覚めるGina。
慌てて起き上がり、銃を向ける。そこに立ちアルバムを眺めていたのはRed Crowだった。
「やあ、Gina。Dashiellは可愛い子だったよなあ」
「Red Crow!Hanta Yo!De Taku Yakha He?(出てけ!何のつもり?)」
「Wachin Ksapa Yo(聞け)」インディアン言語で言うGinaに、同じ言葉で応えるRed Crow。
「何だろうと用件を言って、とっとと出てって」
「俺はお前にもう手を引いてくれと言いに来たんだ。俺はもうこれ以上お前を庇うことはできん」
「ハ!今度はどんな蛇の油を行商に来たのかしらねえ。興味ないわ。その手の申し込みは何年も前に断ったから」
「聞いてくれ、Gina」
「このカジノには洒落にならん連中の、洒落にならん金が多く注ぎ込まれている。そして連中はお前とお前の抗議団体からの、連中の出資への妨害が長く続き過ぎたと思い始めとるんだ」
アルバムを多くの本が詰め込まれた本棚に戻すGina。
「これに俺が関わってなけりゃ、お前もう死んでるはずだ」
「大した話ね、Lincoln。あなた本当にあなたバージョンの”高貴な野蛮人”与太を信じ始めたんじゃないの?」
「あなたはいまだに昔ながらの安手のチンピラでしかないけどね。着てる物が良くなっただけよ」
「そしてお前は相変わらずものが見えておらん。辛辣な鬼婆め。俺は分別で話しに来たんだ。だがお前はひと跳びで、この居留地が射撃練習場になってた70年代に引き戻しちまう」
「あら、あなたその頃のこと憶えてたのね。もう忘れたかと思い始めていたところよ」「頼むぜ、Gina…」
「なあ、お前はよく闘った。だがカジノはあと9日で開かれる。何があろうともだ。そしてお前の安全は俺の手を離れたんだ」
「手を引いてくれ。頼む」
「あなたLawrence Belcourtのことを憶えているの?やってもいない二つの殺人でレブンワース刑務所で朽ち果てようとしている哀れな彼のことを?」
“Lawrence Belcourtを解放せよ”と書かれたチラシを突きつけて言うGina。1975年の現場で死体に狼狽えている男。
「そうは思えないわね。あなたみたいな大物は、こんな些末なことは憶えてもいないわ。Lawrenceや1975年のあの日、私たちが…」
「俺はあの日のことは忘れてはおらん!」叫びながら怒りの形相で詰め寄るRed Crow。
睨み合う二人。その中に様々な思いが交錯する。Ginaが先に目を逸らす。
「あなたに伝えておくわ。Lawrenceは最後の望みない主張に疲れ果てたところ。彼は公式には死ぬまで収監されることになっている」
「私は彼に会いに行くわ。カンサスに向けて明日出発する」
「だからあなたが羽を逆立てる必要なんてない…。私はここにはいなくて、あなたの愛しいカジノのオープニングに横槍を入れることはないから」
「よかろう。話すことは話した」背を向け、帰ろうとするRed Crow。
その背に呼びかけるGina。「私は戻って来るわよ、Lincoln。それは約束するわ」
「戻ってあなたが盗んだ全てのものを返すように訴え続ける。この居留地から。そして私から」
「俺はお前の息子を盗んだわけじゃないぞ、Gina。もしそのことを言ってるなら。そしてお前が俺の言うことを信じないなら…」
「本人に聞いてみるがいい」
Red CrowとGina Bad Horse:
ここで1対1で話すシーンでこの二人の因縁、愛憎の一端が垣間見えてくる。
冒頭の二人のFBI捜査官が殺される事件については、この作品の最も大きな謎として、その真相が少しずつ示されて行くこととなる。現時点ではその場にいたGinaが、犯人として逮捕収監されているLawrence Belcourtが無実であることを明言している。
前回の頭のところで書いたが、この物語のプロットの一部は1975年に二人のFBI捜査官を射殺した罪状で逮捕されたネイティブ・アメリカン活動家のLeonard Peltierからインスパイアされたものということ。
今日 AM:09:07
Ginaは居留地内を車で走っている。
車窓から立っている男に声を掛ける。「Dashiell Bad Horseを見なかった?」
「ああ…、さっきまでここにいたんだが」
男は保安官事務所の人間で、何らかの事件現場の前にいた。現場ではパトカーが家の中に突っ込み、その横には毛布を掛けられた二つの遺体が地面に寝かされている。
AM:09:48 ガソリンスタンドで従業員に話を聞くGina。あいつなら10分前にここを通って行ったぞ、と答える男。
AM:10:37 ポールダンサーが踊るステージのある店で、従業員に話を聞くGina。朝食の時に来たけどそれからは見てないわ、女性に対する礼儀を憶えてから来て欲しいわね、と従業員。
AM:11:42 トレーラーハウスの前で、怪我で片腕を吊った少女と話すGina。ここにいたよ、お父さんと話してた。これを忘れて行ったよ。血まみれのバールを差し出す少女。
PM:12:17 摘発された店から娼婦が並んで護送車に乗り込まされて行く現場。取り仕切るShunkaに話を聞くGina。「あんたのアホタレ息子がどこをうろついてるかなんて知らねえな、Gina。俺が思うにどこだろうとやつがいるところなら…」
「誰かが蹴飛ばされた面を修理してるだろうな」
PM:12:18 Dashiellは木の陰にパトカーを駐め、双眼鏡で少し離れた先の廃車と古タイヤが積まれた窪地の様子を見ている。
通信が入る。[118、Red crow保安官がオフィスへの出頭を要請している。Bad Horse聞いているか?]
「俺は忙しいと伝えろ」応えるDashiell。
彼が双眼鏡で見る先では、廃車の中でCarolが男に馬乗りになり交わっていた。
「俺の名前を呼んでくれ、ビッチ。名前を呼べよ!」「あんたの名前なんて知らないよ」
ことが終わり、廃車の中から出てくる二人。
金が入ったら旅行に行って、豪華なホテルに泊まって、美味いもんを食おうぜ、という男。なんでそんなことが起こるのよ、とCarol。
「カジノさ。それは俺たちみんなを金持ちにしてくれる。この部族全体を。お前の親父さんのお陰でな」
「そんなこと本当に信じてるなら…」なおも抱き寄せてくる男を押しのけながら言うCarol。「あんた親父のことが全くわかってないよ」
下着を上げながら去って行くCarol。
更に通信が入る。[118、もし逮捕に手間取ってるなら、応援を送るぞ]
「誰かを逮捕したなんて話はしてねえだろう」双眼鏡を覗きながら言うDashiell。
「いうことを聞かない子供の躾を手伝ってただけだ」一人残り、水道で股間を洗う男を見つめるDashiell。
「数分もかからん」トンファーを持って車を降りるDashiell。
PM:02:18 開業前の準備で忙しいカジノ。Dashiellが人をかき分けながら入って来る。
臨時雇いで床の掃除をしていたDino Poor Bearが声を掛ける。
「よう、あんたのおっ母さんがここに来て探してたぜ。ちょうどすれ違いになったみたいだな」
Dinoを無視して奥に進むSDashiell。後ろでDinoが口ばかりじゃなく手を動かせ、と怒られている。
「お前どこへ行ってたんだ?」執務室に入って来たDashiellに声を掛けるRed Crow。
「どこでもねえよ」
「”どこでもねえ”か。俺の娘のCarolの近くのどこかじゃないんだろうな?」
「それが俺を呼んだ理由か?あんたの売女の娘のことか?」
「違う。これは俺の9千7百万ドルのカジノと、お前が俺を助けてそれを護ることについてだ」話すRed Crowの横には、Dashiellを睨みつけるShunka。
「そのために呼んだ」
PM:05:32 草原。その中から裸のCarolが立ち上がる。
駐めた車の中から双眼鏡でその様子を見るDashiell。[118、緊急だ、応答しろ] 通信が入る。
服を着ながら少し離れた車に戻るCarol。裸で草原に寝た男が、もう少しゆっくりして行けよと声を掛ける。
「もっとあたしにいて欲しいんならさ、Chester、次はもっとコカインを持ってくるか、アンタのフニャチンを長持ちさせなよ」
車で走り去って行くCarol。裸のままビールを飲み続ける男。
通信が続く。[あんたのお袋さんがまたこっちに電話してきたぞ。以上]
PM:07:27 Dashiellを探し、再びカジノにやって来たGina。準備作業もひと段落し、閑散としたバーに入って行く。
すまないが、開店は来週になるよ。何か困ってのかい?一人準備作業を続けているバーテンダーが声を掛ける。
「私は…その…息子を探してるんだけど」「ここで働いてるのかい?名前は?」「Dash。Dashiell Bad Horse」
「Bad Horseだって?ハゲの奴だろ?強面の?ああ、彼ならここにいたよ。行き違いになったようだな」悲しげな目で見るGina。
「何か伝言はあるかい?彼が戻って来た時のために」
「そうね、息子に言っておいて」
「彼にただ…私が…」
Ginaの頭に去来する様々なDashiellの思い出。
赤ん坊のDashiell。
馬に乗る練習をするDashiell。
反抗期になり喧嘩をし、中指を突き立てるDashiell。
Dashiellの乗るパトカーに通信が入る。[118、あんたのお袋が今日5回も電話してきたぞ。彼女になんて言やあいいんだ?] 「聞きたくもないと言っとけ!」
抗議活動に拳を振り上げるGina。
Dashiellが追いすがる前で、手錠をかけられ連行されるGina。
幼いDashiellに無理やり居留地の男の処刑を見せるGina。
15年ぶりに居留地に戻り、Red Crow配下の保安官補となっているDashiellを平手打ちをするGina。
『Scalped Vol. 1: Indian Country』より 画:R. M. Guera
ここと次のシーンは現物を見ればさして混乱するものではないと思うが、文章だとわかりにくくなっているかもしれないので補足。
ここと次のページではDashiellとGinaの行動が交互に描かれることになるが、これは同時進行のものではないということ。
DashiellのシーンはPM:05:32からのもので、GinaのシーンはPM:07:27からのものという別の時制。なんかDashiellがCarolが去った後も同じところに2時間いたように見えかねんと思ったので一応。
双眼鏡を見ながらDashiellが言う。「あの女に何の用があろうともだ!」
バーテンダーに言うGina。「息子に私がここに来たことだけ伝えて」
双眼鏡から見える男が飲んでいたビールを投げ捨てる。「俺は忙しいんだ、と言っとけ!畜生!」
その場を去る前に付け加えるGina。「私が会いたがっていた、と伝えて」
トンファーを手に車から降りるDashiell。
哀し気にバーから去るGina。
「Ginaって誰?」
カジノ上階のRed Crowの私室。ベッドの上でRed Crowが呼んだ娼婦がそう尋ねる。
「何だって?」「あたしの名前はGingerよ。あたしのことGinaって、5回も呼んだよ」
カジノの外では、Dashiellを見つけられなかったGinaが、車に向かって歩いて行く。
帰って行くGingerに背を向け、ベッドに坐るRed Crow。
夜道を走って行くGinaの車。
「俺たちの誰もここから生きて出られないぞ、Gina」
「俺たちみんな今日ここで死ぬんだ」
1975年 6月26日。FBI捜査官が射殺された現場。
「奴ら俺たちを皆殺しにするんだ。わかってる」二体の死体を見ながら、狼狽えて話し続けるLawrence。
「落ち着いて、Lawrence。ここから抜け出せるようにするから。約束する」Lawrenceの肩に手をかけ話すGina。
「でも俺たちどうすりゃいいんだ?どうやって…」喋り続けるLawrence。
「逃げるんだ」後ろから声が掛かる。
「できる限り早く丘に向かって…」武器を持ちながらその場に立ち尽くす男たちの中から、Red Crowが歩み寄って来る。
「そして今日が俺たちの死ぬ日じゃないことを、Waka Tankaに祈るんだ」
周りを囲む男の一人、流れる鼻血を布で押さえている男が、その様子を眺め、そこから離れて行く。
「FBIは既に18号ハイウェイを封鎖してるはずだ」Red Crowは続ける。
「俺たちは素早く川を渡って、Mako Sica -荒れ地へと抜ける。急いだほうがいい。奴らすぐにこの場所にウジみたいに集まって来るぞ」
「Red Crow!このろくでなし!」Red Crowに向かって行くGina。
「この人たち死んでるのよ」「ああ、それがどうした?」「あんたのせいよ」「俺が撃ったかって訊いてるのか?」
「あたしは撃つなっていったのよ!こんなことにならずに済んだはず…。こんなことに…」手を震わせながらRed Crowに銃を向けるGina。
「もしもなんて考えてる時間はないだろう」Ginaの手首を押さえながら言うRed Crow。
「放せ、畜生!」
「奴らは死んだ。俺たちは生きている。重要なのはそれだけだろう」抗うGinaを抱き寄せながら言うRed Crow。
「お前は生きてるだろう、Gina?」
泣きながら、押しのける手を止めるGina。
二人はキスをする。
現在。窓から外を見つめるRed Crow。
車で走り去って行くGina。
暮れて行く道を走るGinaの車。
そして居留地の果てを示す道路標の横を抜け、外へと向かって行く。
その道路標の陰には、Dashiellがパトカーを駐め、中で眠っていた。
Ginaはそれに気付かないまま、居留地の外へと車を走らせて行く。
『Scalped Vol. 1: Indian Country』より 画:R. M. Guera
#5 Hoka Hey Part2
この話でも過去と現在が交互に語られ、少し分かりにくくなっているかもと思ったので、事前に注意。
この作品、割と無造作に現在を”Today”と書いて進めて行くので、ちょっと混乱するかもしれないが、この話の現在はカジノオープンの当日で、前話でRed Crowがあと9日でオープンすると言っていて、その翌日の様子が描かれていたので、この「#5 Hoka Hey Part2」は、前話「#4 Hoka Hey Part1」の約一週間後ということになる。
1975年 6月26日 キスをするRed CrowとGina。
鼻血を流していた男。
1978年 1月15日 「乾杯しようぜ」
「Red Crow、手を放してよ」ダイナーのテーブルに座ったGinaがRed Crowの手を払いのけようとする。
「おいおい、Gina、グラスを挙げろよ。乾杯だ」Red Crowが言う。
テーブルの向かいには、1975年の現場で鼻血を流していた男が、サングラスを掛けた無表情で、パイプをふかしている。
ダイナーの店内。テーブル席にはRed Crow、パイプをふかす男、Ginaと子供用の椅子に座る幼いDashiellがいる。
「良き時と真の友人」グラスを掲げながら笑顔で続けるRed Crow。「そして二つの殺人容疑を打ち払うために」
Rapid City サウスダコタ
「奴らFBIのクソどもには、使用された凶器も、目撃証言もない。何もないんだ!」
「奴らの唯一の望みは、俺たちが互いにいがみ合うことだけ。それでどうなった?」
「俺たちは真実に立っている。俺たちはクソ野郎どもを打ち負かした」
上機嫌で飲みながら、話し続けるRed Crow。
「そしてドッグソルジャーここにあり、今より永遠に。ヨーロッパの下水はその血管に流れていねえ!あ?誰が一緒に飲んでんだ?Ginaか?」
「Wadeがトイレから戻ったら、私たちは行くからね」迷惑気にRed Crowに言うGina。「あんたWade憶えてるの、Lincoln?Wade、私のボーイフレンド、私の子の父親よ?」
「Catcher、昔ながらの相棒、古き友か?」パイプをふかす男にグラスを向けるRed Crow。
パイプの男 -Catcherはインディアン語で答える。「Heceto aloe. Cante chante sica yaun sai ye. (もう充分だ。心に悲しみはない)」
「そうか、Dashiell、どうやら俺とお前だけみたいだな」幼いDashiellにグラスを向けるRed Crow。
「クソッ、どうやら俺独りで飲んでる見てえだな」わけもわからず見返すDashiell。「じゃあお前に乾杯だ」
『Scalped Vol. 1: Indian Country』より 画:R. M. Guera
「今日このクソの穴州で、これまででもっと偉大な法律茶番に参加した、オカマ裁判官と12人のクソ頭陪審員を祝してだ」同僚捜査官にやや牽制されながら入って来たNitzが、フラスクを掲げながら言う。
「おい、Nitz、そういきり立つなよ」
にやけて言うRed Crowに畳みかけるように続けるNitz。「そしてRobert M. BayerとSteve L. Berntson、俺が知る中でも、最も優れた連邦捜査官たちにだ」
「二人とも家族を大事にする男たちであり、敬虔なクリスチャンだった」
「二人とも、1975年6月16日に、犬のように撃ち殺された」
「そして神かけて言うが、彼らそれぞれがお前ら総てより10倍以上に価値ある人間だった」Red Crowのグラスに手を掛けて言うNitz。
「あるいは百匹の、その他のお前らのような役立たずの赤肌のクズどもよりもな」グラスの中身をRed Crowの顔にぶちまけるNitz。
「Shungka sapa!(この黒犬野郎!)」インディアン語で叫びながらNitzに掴みかかるRed Crow。同行した捜査官たちが取り押さえる。
「いい加減諦めろ、マヌケな屁こき野郎!」Nitzに吠えるRed Crow。
「おい、これは始まったばかりだぜ、Red Crow」カウンターにもたれて言うNitz。「お前らお仲間のLawrevce Belcourtを憶えてるだろう?」
「懐かしのLawrenceは数週間前、カンサスで逮捕された。未決の逮捕状で我々が拘束中だ」
「だが本日の結果を踏まえ、我々は彼を二つの殺人の単独容疑者として訴追を始める」
「馬鹿げてるわ、Nitz!Lawrenceはまだ子供よ。あの日銃を撃ってさえいないわ!」Dashiellを騒ぎから護りながら、抗議するGina。
「ああ、知ってるさ」嘲笑を浮かべながら言うNitz。「だが俺があのクズにひとたび証言すれば、奴はニクソン以来最悪の犯罪の黒幕に仕立て上げられちまうんだ」
「それでどうなると思う?次はお前らだ」
「あの日、お前ら三人のうち、実際に誰が引き金を引いたのかは知らんし、そんなことは大して気にしとらん。だが俺はお前ら全員を捕らえる」
「精々お前らのアホ飲み会やアホ午後の憩いを楽しんどくことだな。だがこのクソはまだここでは終わってないことは憶えておけよ」
「俺がこれをやり遂げるまではな。そして俺は必ずその方法を見つける」
ドアに向かうNitz。それを見つめるGinaとRed Crow。我関せずの体で背を向け続けるCatcher。
そしてそれらを無表情に見つめる幼いDashiell。
「それにどれほど時間が掛かろうとな」
今日:The Prairie Rose Indian Reservation、サウスダコタ
FBI捜査官Nitzは、道端の電柱に向かって立小便をしている。
捜査用のワゴン車から部下が報告する。「配置完了です、Nitz捜査官。全ては順調に進行中です。後はBad Horse捜査官の到着を待つのみです」
チャックを上げ、片手に持ったマグカップを掲げ、Nitzは言う。「お前に乾杯だ、クズ野郎。俺が忘れたと思うなよ」
「俺はまだこれをやり遂げる者だ」
カップの中身をアスファルトに空け、ワゴン車に戻るNitz。彼が小便をかけていたのは、Red Crowが中央で手を広げる、カジノのオープンを告げる広告看板だった。
Baylis Earl Nitz:
ここで、Red Crow逮捕に執着し始めるFBI捜査官Nitzの過去が描かれる。
酔って現れ暴言を吐き、その後の現在に至る手段を択ばない行動など、とても高潔な法の番人とは言えないNitzだが、視点を変えてこの過去のシーンを見れば、法の裁きを逃れ笑っている相手に怒りを燃やすというのは、様々な物語に現れる「正義」の姿だろう。Nitzの殺された二人の捜査官への思いは、しばらく後に描かれることとなる。
説明がないので少し分かりにくいと思われる部分を補足。1978年1月15日のRapid Cityのダイナーのシーンは、多分二人のFBI捜査官殺害容疑で、Gina、Red Crow、Catcherの三人が訴追されていて、この日裁判で無罪放免になった後のことと思われる。
第1回でやった「Indian Country」全3話の中で謎の人物として出て来たCatcerが、過去にはドッグソルジャーの一員としてGina、Red Crowと一緒に行動していたことが描かれる。…のだが、実は作中では第1回で書いた通り「Indian Country」の中では、Catcherは名前すら明かされていない。こうやって説明してしまうのも作者の意図に反するのかもしれないが、自分で読んだ経験からして色々見落としていて読み直してやっと気づいたり、と混乱する部分も多かったので、こちらの一存で少しなるべく分かりやすく説明しております。
ここでDashiellの父親であるWadeの名前が登場するが、姿は現さない。また、Nitzが話すLawrenceの逮捕も重要なポイントだが、セリフの中だけで少し分かりにくいかも。
以下、この時点で1976年6月16日の事件現場にいた人物を、一旦まとめときます。
-
Gina Bad Horse:
過去のGina。ネイティブアメリカン活動組織ドッグソルジャーソサエティのリーダー的立場だった。 -
Lincoln Red Crow:
過去のRed Crow。1976年6月の事件の時点では、Ginaと恋仲であった。 -
Lawrevce Belcourt:
ドッグソルジャーの一員として、事件の現場にはいたが、直接手を下していないにもかかわらず、逮捕され主犯として収監され続けられることとなる。 -
Arthur J. “Catcher” Pendergrass:
1976年の事件の現場で、彼一人が何らかの暴力の結果として鼻血を流しているが、真相は現時点では不明。
四時間後にオープン直前のカジノ。宣伝のためマスコミに公開され、取材陣が詰めかけている。
Red Crowにマイクを向けた記者たちが、豪華なカジノを褒め称えた後、質問を投げかけてくる。
「居留地住民の平均世帯年収が3000ドルの現状で、いかにしてカジノ建設に9千7百万ドルもの資金を注ぎ込めたのでしょうか?」
「アルコール依存症の人口比率が国内最大のこの居留地に、禁酒法を復活させるべしという世評にどうお答えになりますか?」
「さらにあなたが部族の予算から横領を働いているという声については如何でしょうか?」
葉巻に火を点け、悠々と答えるRed Crow。「よろしい、それらの世評について、正確にお答えしますが…」
「ふざけんな、クソ野郎!」罵声が飛び、続いてRed Crowの顔面が平手打ちされる。
乱入してきたのはCarolだった。直ちにShunkaらに取り押さえられるが、取材のカメラは回り続ける。
「あたしが誰とやろうと、やらなかろうと、あんたに文句付けられると思ってんのか!?」護衛に取り押さえられながら叫び続けるCarol。「あんたの手下を使って、あたしの相手を誰彼構わずぶちのめして…」
「そうすりゃ、あたしがあんたの娘に戻りたがると思ってんのか!?」
「あいつをすぐに連れ出せ」Shunkaに指示するRed Crow。
「聞いてんのか、馬鹿野郎!?奴に連絡しな!誰だか知らないけど、あたしを尾け回してる奴!あたしを尾けさせるのをやめろっ!」
「あいつを連れて帰れ…」苦々しい顔で見つめるRed Crow。
「…そしてBad Horseを連れて来い」
『Scalped Vol. 1: Indian Country』より 画:R. M. Guera
オープン前のカジノのレストラン。バーにDashiellが一人座り、バーテンが酒を注ぐ。
「知ってるかい、こんな風に男が昼の2時から飲んでるってのはさ。俺のプロの経験から言って、そいつは自分がやっちまった何かを忘れたがってるか、さもなきゃ何かやろうとしてることのための勇気を奮い起こそうとしてるんだ。こんなペースで飲み続けてちゃあ、どっちもできなくなるぜ」バーテンは言う。
「ボトルだけ置いてってくれよ」バーにうつむいたまま、Dashiellが言う。「それで俺のツケにしといてくれ。オフィサーBad Horse。Oglala民族の守護者」
「Bad Horseって言ったか?あんたのお袋さんが、一週間ぐらい前に来たんじゃなかったか?見たところ、お前さんとかなり必死に話したがってたようだが。俺の憶えてる限りじゃ」
「もしあのババアが俺と話したがってたなら、この世界にそんな機会なんていくらでもあったさ」
「1989年…、俺はOglalaミドルハイスクールの、Red Raidersのテイルバックだった。州のチャンピオンシップまで進んで、肩をはずしたままセカンドハーフで3回のタッチダウンを決めた」グラスを手に話し続けるDashiell。「その日俺の母親がどこにいたと思う?」
「ピュージェット湾上流でSkokomish族とNisqually族の鮭漁の権利について戦ってたんだ」
「次のシーズンはMohawk族の埋葬地だ」
「そして俺の13歳の誕生日、俺はテレビであの女がレッドスキンズの試合で逮捕されるのを見てた」
「で?あのババアが俺と話したがってたって、あんた言うのかい?」
「じゃあ、あいつにクソ15年遅すぎたなって言っといてくれよ」
「俺があの女とクソだめ居留地におさらばしたのは、13歳の時だ」Dashiellは言う。「以来、一度も振り返ることはなかった」
「そうか。そうだったんだろうな。でもあんたここにいるじゃないか?」黙って話を聞いていたバーテンが口を開く。
「なぜかってところを俺が考えるとしたら、あんたにゃお袋さん以上に気にかけてる女がいるってことなんじゃないのかい」バーテンは言う。「それがあんたをこの居留地に戻したんじゃないのかい?」
「そればかりじゃねえのさ」Dashiellは呟く。
「地獄に来るなんてあり得ねえ」
2001年 3月30日
バージニア州スタフォード郡クアンティコ、FBIアカデミー。
会議のテーブルについている男の一人が話す。「奴がクラスの上位5パーセントに入っていたとしても意味はない。奴が他の逃げ出し野郎同様のオカマだったとしても、関係ない。奴がメルヴィン・パーヴィスの生まれ変わりだったとしても、どうでもいい」
そして男は続ける。「Dashiell Bad Horseが、FBIの現場捜査官になることはあり得ない」
「実際に奴はクラスの上位5パーセントだがな」別の男が言う。
「素晴らしい。では奴をアラスカに送り、エスキモーの指紋を集めさせろ。私は奴はいらん」前の男が言う。
「大丈夫だ。俺が使うからな」Nitzが煙草を点けながら言う。「そしてもし奴を手に入れられないなら、俺は辞める。猶予期間なしで直ちに」
Nitzは更に続ける。「あんたら何を心配してるんだ?奴の母親が国内テロリスト組織の創立メンバーなことか?」
「馬鹿々々しい。なぜ俺が奴を欲しがってると思う?」
「奴は母親と10年以上会っとらん。奴が13の時、アーカンソーの親戚のところに送り出してから、ほとんど話すらしとらん」
「その後、奴は何をしてたんだ?」
「奴なりに忙しくしてたさ」
1992年 Bull Shoalsハイスクール アーカンソー州ブーン郡 フットボールチーム
1995年 アカデミー・オブ・ジークンドー・ファイティング・テクノロジー オクラホマ州タルサ
1997年 非認可ボクシングトーナメント ネヴァダ州リノ
1999年 コソボ
「それで?なぜ退役したんだ?なぜFBIに?」
「数多の善良なカウボーイと同様に、奴は自分の故郷の範囲内に属していたわけさ。ユーゴスラヴィアなんぞでトマホークミサイルの標的としてポイントされながら歩き回るよりもな」
「Bad Horseは核心、というものを求めてた。それで俺は、俺たちなら徹底的なやつを与えてやれると提案したのさ。」
「南部の奥地から始めさせた。レッドネックが犬の餌を朝飯に食らい、人が死ぬのを見物するために撃つような類のところだ」
「そして今奴の準備が整った、今奴は腹に嫌悪の小砂利を蓄えた…」
他の訓練生と共に、森の中を足を泥まみれにして走るDashiell。
「奴を俺に寄こせ」Nitzは言う。
「まだ昔の件に拘ってるのか、Baylis?」最初に発言した男が言う。「いつまで同じ木の周りで、同じサンボを追い続けるつもりだ?」
「それが真っ当に解決するまでだ、Terry」Nitzは言う。
「なぜ奴がこの仕事を受けると思う?君は奴をどの程度知ってるんだ?」別の男が、Nitzに尋ねる。
「俺はしばらく前から、奴には目をつけてたのさ」
過去のRapid Cityのダイナーの回想。GinaはDashiellを抱きかかえ、店から出て行くNitzらを睨んでいる。
「可愛い卵を産んだじゃねえか、Gina」Nitzは嘲笑を浮かべ、呟く。
「君は奴が既にBad Horseでないことも知ってるんだろう?奴はBradfordに改名している」
資料を見ながら男は続ける。「そしてインディアン居留地で働く意思はあるかの問いに、断固として拒否すると答えている」
「奴が自分の名前がカリーム・アブドゥル・クソジャバーだと言おうが関係ない。奴が人殺しインディアン売女の息子であることに変わりない」Nitzは言う。
「ああ、すまない、ネイティヴアメリカン売女だったな」
「そして、奴はやるさ。心の奥底ではそれをやることを待ちきれないんだからな」
「つまり、それら全てが奴が故郷に帰り、母親に自身の成長した姿を見せることができないことに起因しているならどうだ?」
「そして、奴がどんなに自分がインディアンであることを嫌っているか話すその奥底では、俺は断言するが…」
訓練風景。泥道を他の訓練生を大きく引き離し、先頭を走るDashiell。
「Dashiell Bad horseは、死ぬほどあの居留地に帰りたがっているのさ」
『Scalped Vol. 1: Indian Country』より 画:R. M. Guera
FBIでDashiell Bad Horseを潜入捜査官として送る決定がなされる、過去の4ページに渡るシーン。
コミックの形であるものを文章で説明しようとすると、どうしてもややこしくなってしまうのだけど、画像中の上が赤くなってる囲みは、回想的なシーンのコマの中に入る、会議中のNitzの発言の連続したものだったりする。文章的には連続するセリフとして書いた方がわかりやすいんだが、そうするとそのシーンの説明が?になるかもと思ったり。難しい…。
この作品の初期のあたり読んだのなんて結構前で、このDashiellが居留地に帰る前のことが描かれるのももう少し先だったように憶えてて前回そんな感じに書いてしまったかも…。すんません。
荒野に建つ家にやって来るDashiell。家の中ではCarolと二人の男が眠りこけている。
男の一人を踏みつけ、銃を向けるDashiell。「出て行け」
男たちは服を持って家から出て行く。なあ、あの女はあんたのもんだよ。
Carolが目を覚ます。「何?何なのよ?」
家の中を見回すDashiell。その背に向かって叫ぶCarol。
「お前か!お前があたしを付け回してたクソ野郎なんだね?」
「あんた何様のつもり?あたしのヤリトモダチを二人も病院送りにしやがって!バカ野郎!」
「奴らを亭主の座から入れ替えるのに長くかかるようには見えなかったがな、Carol」
「町の外だ。親父はあんたがこんなことやってんのも知らないんだろう?知ってたらただじゃすまないよね」家の中を歩くDashiellの袖を掴み言うCarol。
「これはあたしを一夫一婦制に矯正するっていう、あんたの個人的探究なんだろ?」嘲笑的に言うCarol。「すごいねえ、あたし感動したよ、ホントに」
「もうあたしの家から出てけよ!あんたを引き取ってもらうためにママに電話される前に!」
Carolの首を掴み、壁に押し付けるDashiell。
「あたしを殴りたいの?独創的ね」「俺はお前に消えてもらいたいんだよ」「おかしいわね。あたしが最後に知る限り、あたしの家に勝手に入ってきたのは、あんたなんだけどね」
Carolを放すDashiell。その背に向かって話すCarol。
「そもそもあんたこの居留地に戻って何してるのよ、Dash?」
「あんたがいなくなって15年、誰もあんたがどこにいるか知らなかった。あんたが何してるのかも知らなかった」
「そしてすごい偶然としか思えないタイミングで、あんたは何処かから現れた。ちょうどあの忌々しいカジノがオープンする直前に」
「馬鹿々々しい!あんた天使のつもり?」
「あたしを見て。あんたが何しようとしてるのか話してよ」胸をはだけながら言うCarol。
「お前に言うことはない」背を向けたまま言うDashiell。
Carolはその前に回り込み、身体を押し付ける。
「そうなの。じゃあなんであたしを尾け回してたの?」
「なんで今晩ここに来たの?」
「なんであんたのチンポそんなに硬くなってんの?」
「あんたはあたしを引っ叩きたい。あんたはあたしとヤリたい」
「どっちにしろ」
「とっととケリをつけましょうよ」
立ったままお互いの服をはぎ取り合う二人。
そして床に倒れ込み、また立ち上がりながら交わって行く。
夕暮れの薄暮で作られた家の中
暗い霧が戸口を覆う
カジノのオープニングセレモニー。
風船と羽根が飛び交うステージ上で、ダンサーを前に手を広げるRed Crow。
世界の六つの力
我等が捧げる一つの供物
我等の悲哀の中に、我等を再び見守り給え
我等が弱々しい声を前に送り出すとき
貴方が成し遂げた何物をも忘れない
床の上で激しく絡み合うDashiellとCarol。
今日、我等は絶望の中にいる者たちへ、声を送る
長く続く中心はもはやなく、聖なる樹は死んでいる
貴方の力のみが、偉大なる聖霊よ、我等を風に向かわせるのだろう
FBIの捜査用車両のドア口に腰かけ、外を眺めるNitz。
暗い雲のモカシンを履き、貴方は飛翔し我等の許を訪れる
床の上で抱き合い、見つめ合うDashiellとCarol。
悲哀の中に、それは終わる
暗闇の中に、それは始まる
『Scalped Vol. 1: Indian Country』より 画:R. M. Guera
荒野に人里離れて建てられたCatcherの家。
家の前の祈祷用の小屋からCatcherの声が聞こえる。
「祖父よ、偉大なる聖霊よ、我の弱々しい声を聞きとめられるであろう大地へ、身体を寄せ給え」
布を被り、身体に巻き付けたまま小屋から出てくるCatcher。
「雷の魂よ、我を見守り給え」
「貴方は陽の落ちる所へ向かう、我を見守り給え。貴方は白き巨人が力を持ち生きる場に在る、我を見守り給え」
「貴方は天国の奥深くに在る、我を見守り給え」
Catcherは布を落とし、裸で歩き続ける。
「遠い過去に在った者として、我は進むだろう。我の身体を戻し給え、我の声を戻し給え」
「我に柔らかな大地を進む力を与え給え」
自分の家の戸口に立つCatcher。
「我に黒き道を再び闊歩する力を与え給え」
Catcherは、多くの切り抜きが貼られた壁に向かう。
「Red Crowは、これらすべての年月の以前、正しかった、そうだろう?俺、奴、そしてGina…。俺たちは共に力強く立ち、敵を打ち負かした」
「そして今日、俺たちはどんな希望を持っている?」壁を覆う切り抜きに手を乗せ、話しかけるCatcher。「俺たちを引き離すことができない時に?」
裸のまま、帽子を被り家の奥に進むCatcher。
「これは俺にかかってる。俺だけが知っている…」
「雷が俺に見せた。もし俺たちの誰かが倒れただけで、全てが崩壊する」
グラスに酒を注ぐCatcher。「立ち上がる時だ、Catcher。老いぼれよ」
「最後にもう一度。Le mita cola (我が友)とドッグソルジャーの最後のために」
Catcherはグラスを掲げ、言う。「Hoka Key (今日は死ぬのにいい日だ)」
翌朝
荒野にドアを開けたまま駐められた車。
放り出されたハンドバッグ。財布。スカーフ。
そして、その先にGina Bad Horseが頭から血を流し倒れていた…。
『Scalped Vol. 1: Indian Country』より 画:R. M. Guera
斜字体で表記したところはナバホ族の夜の詠唱 (The Navajo Night Chant)というものらしい。出だしの部分を検索したところ、すぐにそれらしいのが見つかり、やったと思って安心したのだけど、その後の文章が全然違っていたり…。見つかったものとしてはHanksvilleというサイトのHouse Made of Dawnというページのもので、John Bierhorstという人が編集したFour Masterworks of American Indian Literatureという本からの引用で、翻訳はWashington Matthews。もう一つはLinda VallejoというサイトのThe Navajo Night ChantというタイトルのPDFのもの。前者がショートバージョン、後者がロングバージョンみたいに見えるが、内容は同じ感じ。これがポピュラーなオリジナル的なもので、地方部族によって違うとか、フリースタイル的に詠唱されるようなものなのか?やっぱりちゃんとネイティブアメリカン文化みたいなのをちゃんと勉強しないとわからない分野のように思えるのだが、とりあえずそこから次のシーンのCatcherの祈祷に繋がるThe Navajo Night Chantの一種であるのは間違いなさそうなので、そんな感じにした。
あとCatcherが出て来た祈祷用の小屋。ナバホ族の伝統的な建築スタイル、ホーガンという形のもののようだけど、祈祷用の小屋の正式名称とかありそうだけど、よくわからなかった…。
とりあえずやっとTPB1巻分が終わり、全4回の折り返し中間地点までという感じなのだが、このセリフは省略できないとかで、結局ほとんど書いてったり、色々説明しなきゃというところも多く結構大変…。
このシリーズの最重要ポイントとも言える、過去のFBI捜査官殺害事件について、まだ多くの謎を残したままだが描かれ、そしてGinaとRed Crowとの関係、DashiellとCarolの関係、更に最後には衝撃の展開となった第2回。TPB第2巻前半の第3回では、更にそれぞれの人物が深く掘り下げられて行きます。
Scalped
■Deluxe Edition
‘Cat Eat Cat’はamazon.co.jpを宣伝しリンクすることによってサイトが紹介料を獲得できる手段を提供することを目的に設定されたアフィリエイト宣伝プログラムである、Amazonアソシエイト・プログラムの参加者です。
コメント