居留地のカジノがオープン!その裏でネイティブアメリカンのアイデンティティにあがく者たち。「俺は本物のインディアンだ」
ジェイソン・アーロン/R.M. Gueraによる『Scalped』(2007-2012)の第3回です。
第1回、2回はTPB第1巻『Indian Country』でしたが、ここから第2巻『Casino Boogie』のストーリーになります。
1970年代に起こり、現在の居留地にも影を落とす、二人のFBI捜査官殺人事件。当事者であったRed Crow、Gina Bad Horse、そしてCatcher。もはやその解決というよりは、報復に執念を燃やすFBI捜査官Nitz。潜入捜査官として、15年ぶりに故郷に帰ったDashiell Bad Horseは、出口のない暴力衝動と破滅衝動により暴発寸前状態で彷徨し、居留地の同じ年月でどん底までに堕落したRed Crowの娘Carolと、命綱に縋りつくように結ばれる。
そして、居留地は遂にオープンしたカジノで沸き立って行くが…。
Scalped 第3回 Casino Boogie 前編
■キャラクター
-
Dashiell Bad Horse:
本作の主人公。13歳の時Prairie Rose居留地から出奔し、15年ぶりに戻って来る。 -
Lincoln Red Crow:
Prairie Roseインディアン居留地の表と裏のリーダー。 -
Britt “Diesel” Fillenworth:
Gina Bad Horseの愛人で、ボディーガードの白人の男。1/16のインディアンの血筋を持つ。 -
Carol Ellroy:
Red Crowの娘。Dashiellとは幼馴染の関係にある。 -
Uday “Shunka” Sartana:
Red Crowの腹心。主に荒仕事を担当する。 -
Todd Jigger:
インディアン事務局地域統括部長。伝統を受け継ぎ堕落しきった役人。 -
Johnny Tongue:
セント・ポールに地盤を置く犯罪組織Hmongsファミリーのリーダー。Red Crowのカジノへの出資者。 -
Arthur J. “Catcher” Pendergrass:
インディアンの神秘的な伝統と、自身のある思惑に従い謎の行動を起こし始める。かつてのドッグソルジャーソサエティーのメンバー。 -
Baylis Earl Nitz:
Red Crowの逮捕起訴に執念を燃やし、そのためには手段も択ばないFBI捜査官。
■Story
#6 The Man Who Fights The Bull
15年前
居留地出口近くのバス停。発車を待つバス。外にはGina Bad Horseが一人立っている。
「Hunkaschila (若い人)、ねえ、あそこであなたに手を振ってるのは誰なの?」バス内でDashiellの隣に座る、年配の女性が話しかけてくる。
「Dash、俺の名前はDash。それであれが母親なんじゃないかと嫌な気分になってる」バスの外に目を向けず答えるDashiell。
「あら、お母さんにとってはいつも、子供が家から出て行くのを見送るのは辛いものよ」
「俺の母さんについては別さ。彼女が俺を追い出すんだから」
「あなたは正しいことをしているのよ、Gina。正しいことを…」こちらを見ないDashiellに向かって手を振りながら、自分に言い聞かせるように呟くGina。
「母さんは俺をアーカンソーだかどっかにいる従兄弟のところに行かせるんだ。夏の間だけ厄介事を避けるために、って言ってる。自分でもそうならないって思いながらね」バスの中のDashiellは言う。
「俺はこのクソみたいな場所の全てが嫌いだ。だからあんたのケツを賭けたっていいぜ、一旦俺が外に出たら…」
Dashiellは、窓の外で手を振る母から目を背けながら言う。「俺は絶対に戻らない」
『Scalped Vol. 2: Casino Boogie』より 画:R. M. Guera
6週間前
深夜。Prairie Rose居留地入り口の看板の前に止まる車。「さあ着いたぜ、Dash。遂に帰って来た」
「一か月だぜ、Nitz」助手席に座るDashiellが、ハンドルを握るNitzに言う。「この事件に一か月でケリをつけてやる。そうしたらあんたは俺を解放するんだ」
「わかってるだろうな、Bad Horse捜査官。ドラッグ、銃器、売春、資金洗浄…。そんなもんは俺にとっちゃあ安物の寄せ集めだ」Nitzは言う。「俺が欲しいのは殺しだ。殺しを持って来い」
「お前は潜入し、Red Crowの信頼を得る…。そして手を血で汚したあいつを引っ張り出すんだ」
「俺にはあんたがくだらねえ個人的怨恨で、俺の命を危険にさらしてるようにしか思えないんだがな」Dashiellは言う。
「おい、お前はFBIに入ったことで、連中にお前がどれほどお利巧か見せびらかすことができるようになったんだろう?」
「そこらの二束三文の臓物と支給品チーズで育ったトレーラー暮らしの田舎者よりどれだけ優れてるかを」
「なあ、考えてみろよ、コチース」
「こいつはお前のチャンスなんだぜ」Dashiellに拳銃を差し出しながら言うNitz。
それを無視して車から降りるDashiell。「おい、待てよ」Nitzが呼び止める。
「こいつを忘れるなよ」Nitzの手にはヌンチャク。
そしてDashiellはPrairie Rose居留地へと進んで行く。
会話中に出て来たコチースは、19世紀に米国軍に抵抗し戦ったアパッチ族の酋長の名前。
ここから始まる第3章「Casino Boogie」全6話では、カジノのグランドオープンを現在時制にして、少し過去に遡ったりしながら各キャラクターが掘り下げられて行く。その最初がDashiell。
9日前
カジノの執務室で、Red Crowの前に座るDashiell。「お前は連中のタマのでかい痛みになってるぞ、Bad Horse」Red Crowが言う。
「お前は覚醒剤摘発でいい働きをしてくれとる。そこで更なるステップアップのための、チャンスをくれてやることにした」
「お前のお袋と乳繰り合ってるクズ野郎のことだ」
「お前ももう会ったと聞いているがな」
Dashiellが保安官補になった最初の日、ナイフと拳銃を突きつけ合うDashiellとDiesel。
「自称Diesel、”ディーゼルエンジン”と”インジュン”で韻を踏んどるわけだ。なかなか賢いじゃないか?」Red Crowは続ける。「このクズがヘルマンズのブルーリボンと同じぐらい白いことを除けばな」
「ただのチンポおっ勃てた暇人だろ、酋長」
「恐らくはな。だがお前の母親が居留地を出ている話を聞いた。奴は彼女の抗議集団騒ぎから、新たな段階の市民不服従を思いついとるらしい」
「連中はグランドオープニングに向けてやらかすようだ」ShunkaがRed Crowの話に補足する。
「それで、この差し出がましいチンケなインディアンなりすましのために、俺のカジノがびた一文失うようなことが起こらんよう、お前を当てにしとるということだ」
「その手のことにも使える所を見せてみろ。そのうち、ある日お前が目覚めたら新たな税区分にランクアップしとるかもしれんぞ」
Red Crowの言葉を背に、執務室を出て行くDashiell。
Dashiellが去ったことを確認した後、Red CrowはShunkaに話しかける。「わかったことを話せ、Shunka」
「Bad Horseが話したことは一通り信用できるようです。軍隊にもいたが、多くはあちこち放浪していた。それぞれ別の8つの州から逮捕状が出てるのも見つけました」Shunkaは言う。
「奴の話じゃここ数年は東部にいたと。モホークの連中とカナダでエクスタシーを捌いてたって話です。だが俺の信頼できる筋からは確認が取れてません」
「セント・ポールの友人に訊いてみることもできるがな…」Red Crowは言う。「だが俺は連中に助けを求めたくはない、この重要な局面ではな」
「よかろう、ミスターBad Horseからは、これまで通り目を離すな」Shunkaに指示するRed Crow。「奴はこの居留地がそれほどでかくないことを忘れとる。奴が何らかのクソに踏み込めば、遅かれ早かれ…」
「誰かが嗅ぎ付ける」
グランドオープンの夜 PM:7:18
Carolの家。DashiellとCarolは、床のマットレスの上に横たわる。
「まあ、これはいなくなってた間の補填になったわね」煙草を点けながら言うCarol。
「タマの感覚がねえ」とDashiell。
「心配すんなよ、まだちゃんとここにあるよ」Dashiellの股間を掴みながら言うCarol。
「行かなきゃならねえ」起き上がるDashiell。
「明日の同じ頃に来れる?」「はっきりはわからねえ。他にやらなきゃならんことがあるかもな。わかるだろ、仕事さ…」
「ええ、そうねえ」床に散らばった服を拾いながら出て行くDashiellに声を掛けるCarol。
Carolの家の前の道に駐めたパトカーのトランクを開け、その前で服を着るDashiell。通信機が鳴る。
双眼鏡を覗いている通話の相手が話し出す。「何やってんだ小僧!半時間も前から呼び出してたんだぞ!」
「お前の情報屋、絶対に雨みてえに当てにならねえ。俺たちが連中を見つけたぞ」
地面に伏せて離れた建物の様子を窺う、武装した保安官事務所の男たち。「例の白人小僧はまだ姿を現さねえ。だが奴の子分は全員集まってる」
「ハイウェイ12のJohn Russellの農場だ。Saginaw橋のすぐ南。急いで来い、小僧」
「聞け、Rock Medicine。俺が行くまで誰も何もするなよ。聞こえてるか?」準備をしながら言うDashiell。
Dashiellが使っているの警察の無線通信機だと思うのだが、どうも携帯のような使い方にも見える。とりあえず通信機ということにしときますが…。
少し前の会話に出て来た「ヘルマンズのブルーリボン」はアメリカの有名なマヨネーズブランド。
30分後
農場への突入が終わり、中にいた男たちは、保安官事務所の男たちに捕まり、壁に手をつかされ、後ろ手に手錠をを掛けられ車に乗せられたりしている。
「お前にゃ黙秘権があるぜ、ゴミ野郎」Rock Medicineが捕まえた男の顔を豚小屋の汚泥に押し付けながら言う。
「クソくらえ!ブタども!」隠れていた男が現れ、銃を乱射する。
男の隠れた小屋に走るDashiell。
そこは暗く入り組んだ鶏の飼育小屋だった。
慎重に進むDashiell。鶏の棚の陰に隠れる男。
Dashiellがスイッチを探り当て、小屋の灯りを点けようとしたとき、隠れていた男が撃ち始める。「死ね!クソ野郎!」
撃ち合いに巻き込まれ宙を舞う鶏の死骸。崩れる柱状の給餌用器。
撃ち合いが止み、男が恐る恐る見回すと、倒れた棚と給餌器の山の下からDashiellの靴が覗き、その前に銃が落ちていた。
勝利の笑みを浮かべ、そこに銃弾を撃ち込む男。
だがその時、陰からDashiellが現れもう一丁の銃を突きつける。
靴下だけの足で男を蹴り上げ、殴りかかるDashiell。
『Scalped Vol. 2: Casino Boogie』より 画:R. M. Guera
「鶏の糞だ」車のボンネットに座り煙草を吸うRock Medicineが言う。
「どこだ?言ってくれ」靴を片手に持ち、片足を上げたDashiellが尋ねる。
「違う、その鶏の糞じゃねえ」
「この鶏の糞だ。このチンケな作戦行動全体のことだ」苦々しげに言うRock Medicine。
「俺たちが捕まえたのは、錆びた旧式の豆鉄砲でマヌケな蜂起を企む1ダースほどの浮かれ野郎だ」
「あの若造どもが何を企んでようが、リンドバーグ誘拐事件みてえな御大層なもんじゃねえだろうな」
「何事件だって?」Dashiellが聞き返す。
「気にすんな」Rock Medicineが言う。「俺たちが捕らえられなかったのは首謀者のDieselだ。今頃は世界の果てに向かってると思うがな」
「いいや」Dashiellは言う。「あのキチガイ野郎がまだ何か企んでる方にあんたらのドーナツ代を賭けてもいいぜ」
「俺に任せてくれ。あの野郎には一発ケツを蹴り上げなきゃならん借りがある」
「それに、どうやら俺にも少々時間ができた見てえだしな」話しながら去って行くDashiell。
Rock Medicine:
古株の保安官補というところなのだと思う。メインのストーリーに関わる人物ではないのだけど、大変登場キャラクターの多いこの作品では、一応混乱ないくらいには憶えておいた方がいいかも。この後どのくらい出てくるのかイマイチ思い出せなかったりするのだが…。
リンドバーグ誘拐事件を例えに出すが、「最近の若いもん」であるDashiellには通じない…。
三時間後
手錠をかけたDieselを引き摺って、カジノの中をDashiell。双方とも血を流し、かなり争った様子が見られる。
「よう、えらく簡単だったじゃねえか、Diesel」Dashiellが言う。
「てめえはここで大間違いをしでかしてんだぞ、馬鹿野郎が」歯をむき出しながら言うDiesel。
「判事に言うんだな」DasiellはDieselを引いて、カジノの奥に進む。
カジノの中で携帯に向かって話すRed Crow。
「違う、聞けこのアホウ!あのチンカス野郎に一時間以内にここに来なきゃ、アタマをハンマーでかち割ると伝えるんだ!」
横にいたShunkaが、DashiellとDeiselに気付く。
床に座らせられたDiesel。その周りにRed Crowとその配下のボディーガードたちが集まって来る。
「紹介するぜ、こいつがDieselだ。Diesel、こいつらが連中さ」Dashiellが言う。
「お前、デブのPeteを知ってるな。ディーラーだ。これを持ってって22番に賭けろ。なんか欲しいもんでも買え」Red CrowがDashiellにカジノチップを渡しながら言う。
「こいつはどうするんだ?」「俺たちが歓待する、心配するな。よくやった、今夜は休みだ」
「だがあんた…」「帰れ、Dash」「わかったよ、だが…」
「帰れと言っとるんだ」Dashiellを睨みつけ、念を押すred Crow。
「風呂に入るんだな。お前家畜小屋ぐらい臭えぞ」去って行くDashiellに背を向けたまま付け加える。
いきなり三時間とんでしまうのだが、DashiellがDieselを捕らえる経緯は、次の次の話、Dieselメインで語られる「#8. The Way Of The Intercepting Fist」で描かれる。
カジノのトイレで、Dieselとの格闘の傷を洗うDashiell。
ハンドドライヤーで手を乾かすDashiell。トイレ内にドライヤーの音が響く。その中で、一人の男が個室の上の天井パネルをはずし、個室内に侵入する。
そして男 -CatcherがDashiellの背後に立つ。
「今晩は大変だったようだな、ああ?」
突然の背後からの声に驚愕するDashiell。
「あんたどっから現れたんだ?」
「偉大なる鷲、Wanblee Galeshkaより。お前も含む我ら総ての民と同様にな。迷える我が小さな兄弟よ」
「そりゃどうも。で、あんたは?」
「Maya owicha paka。お前この言い回しを知っとるか?簡単に訳せば”運命”。だがもっと正確に意味を言えば”お前を崖から押す者”だ」
「お前は俺をそう呼ぶこととなるだろう。かつて友人がいたころ、俺はCatcherと呼ばれていた」
「悪いんだが、何の話か分からんのだがね、おっさん」
「Tasunke-sicha sota、それがお前だろう?彼のバッドホースたち。Ikomiの先触れ。ペテン師の蜘蛛」
「今度は誰だって?」
「雷であるものたちがお前を見張り続けるように言った。それで俺はそうしておる。彼らはお前が偉大な指導者となると言っている。だが俺はそれは難しいと思っている」
「何にしても、お前は次に起こる事に気を引き締めてかからにゃならん。特にお前にとっては容易なことではないぞ」
「ここではお前のケツを常に見張っとけよ、小僧。誰も信用することはできない」トイレの奥に進みながら話し続けるCatcher。「Red Crowも、警官も評議会も」
「そして確実に信用できんのは、FBIだな」
最後の言葉に驚くDashiell。慌てて振り向くが、Catcherが入って行った個室には誰もいない。
『Scalped Vol. 2: Casino Boogie』より 画:R. M. Guera
トイレから出て、人をかき分けながらCatcherを捜すDashiell。「どけ!どけ、この野郎!」
そして通路の奥の荷物搬入用のドアに目を止める。
銃を手に、慎重にドアを開ける。その外は荷物搬入用の建物に挟まれた細い路地。そこにも誰の姿もない。
そこでDashiellの携帯が鳴り始める。
相手を確認し、電話を受けるDashiell。
「もしもし?ああ、話さなきゃならん。あそこで半時間後に会おう」
「いや、何もやってない。ちょっとルーレットのテーブルに寄っただけだ」
AM:1:08
荒野にぽつんと立つ辛うじて店と見えるような建物。道路からの入り口には”Badland Cafe”の看板が立てられている。
ウィンドブレーカーのフードを被り、顔を隠すようにした男が店に入って行く。
左にあるカウンターでは、店主がその上に新聞を広げて読んでいる。その前に突っ伏して眠っている男。
店の奥のテーブルで、Dashiellが食事をしている。
「座れよ、Mack」やって来た男に声を掛けるDashiell。
「クソッ、俺の名前を言うんじゃねえ!」「おい、落ち着けよ。バーントエンド食うか?」「腹は減ってねえ」「好きにしろ。俺は腹減ってるんだ」
「それでどうなってる?お前Dieselを捕まえたんだろ?」Mackが言う。
「まあな、俺は奴をきちんと捕まえたよ。人生最悪ぐらいの経験を経てな。だが捕まえた」「そりゃよかった」
「Red Crowの配下に引き渡した。それが奴を見た最後になっちまったようだがな」
「だが信じられるか?あのずるがしこい野郎、また逃げ出しやがった」食べながら話し続けるDashiell。
「お前にゃお友達のところに戻ってもらわなきゃならんな、Mack。奴がどこかに連絡するのに目を見張らせて…」
「待てよ!どういうことだ?奴が逃げたって?」慌てて口をはさむMack。
「何かが起こって、奴は逃げ出したってことだ。俺に訊くなよ。俺は便所にいたんだ」
「なんてこった、俺はもう死人だぞ。奴はいずれ俺の仕業だって気付く」頭を抱えるMack。
「おい、落ち着けよ。お前他の連中と一緒に逮捕されたんだろう?どうすりゃお前が密告したって他の奴らにわかるんだ?」
「それにどっちにしろ大した問題じゃねえだろ。お前らがリンドバーグ誘拐事件みたいなもんを企ててたわけじゃなかろうし」「何事件だって?」「気にすんな」
「俺たちの誰もどういう計画だったかわかってなかったんだ。ただ今晩カジノを襲うってことだけだ」Mackは言う。「あの白人野郎は俺たち全員をビビらせてる。俺たちは奴の言いなりだ。奴はぶっ壊れサイコ野郎だ」
「俺にはもうできねえ。命を危険にさらし、知ってる奴ら全員に嘘をつき…」Mackは苦しげに言う。
「あんた俺がどんな気持ちだかわからねえだろう」
「俺にはわからねえな」Dashiellは言う。「だがもし俺がそういう立場になったとしたら、これまで自分が関わって来たヤバいことが自分に跳ね返って来たんじゃないかと考えるがな」
「それが時にはお前を押しつぶしそうに思える嘘の重荷ってやつだろう」Dshiellの携帯が鳴り始める。
「そしてしばらくすりゃあ、お前は自分が本当はどっち側にいるのか忘れ始め、やがてそもそもそれが意味があるのかと思うようになるんだ」携帯の表示を見る。
“すべてのマヌケたちの王”から。Dashiellは、通話を受けずに切る。
「思うに、お前は自分が正しいことをやってると考えることで、自分を納得させられるんじゃないかね。それがそうじゃなかったとしてもさ」
「そしてお前は自分に言い聞かせられる、お前が引き摺り下ろした連中はそうなるもんだった、だがそうならない奴なんているのか?」
「実際のところ、一日の終わり、お前は自分にいささかの安心を与える唯一のものを見つけるのさ」持っていた金を出し、数えるDashiell。
「仕事がうまく行ったっていうささやかな満足をな」Mackの前に金を置くDashiell。
Mack:
Dashiellが居留地の保安官補という立場で使っているDieselのグループ内の情報屋。実際には同じ立場であるDashiell自身の苦悩が、相手に対する説得という形でにじみ出る。リンドバーグ誘拐事件については、この間にどっかで調べた様子…。
Dashiellが食っているバーントエンドはバーベキュー料理の一種。グルメスキル低すぎて日本的にどのくらいメジャー料理かわからないので一応。
道端に駐められたFBIのワゴン車。
「Bad Horseと電話は繋がったか?」「奴は電話に出ません」
「なら、死んでるか泥酔してるといいがな」煙草に火を点けながら言うNitz。
「奴にあらかじめ話しておくべきだったと思いませんか?」「何をだ?」「わかってるじゃないですか…。奴が居留地で唯一の潜入捜査官じゃないことですよ」「あいつはお利巧だからな。自力で見つけ出させようじゃないか」「恐れながら、私には賢明なやり方とは思えないのですが」
「恐れながら、Newsome捜査官、君はロバのチンポにやられることができるぞ」捜査用車両内の複数のモニターを見つめる部下の捜査官に言うNitz。
モニターには多くの隠しカメラからのカジノの様子が映し出されている。
「俺はあの阿呆に、Red Crowに自らの手を血に汚させて捕らえたいと話した。その意味するところはだ」
「もしそれが特別捜査官Bad Horseの血ということになったとしてもということだ」
「まあそれは結構な茶番だがな」
「だが、それにもかかわらず俺の目的には合致するはずだ」
Dashiellは、Mackが帰った後のBadland Cafeのテーブルで、食事を続けている。
『Scalped Vol. 2: Casino Boogie』より 画:R. M. Guera
#7 Down On The Killin’ Floor
55年前 インディアン寄宿学校。
「祈る準備はできたか?6番」
床に頭を抱えて蹲る少年。それを囲む棒を手にした二人の大人の男。
「あるいは、まだ続けるか?」棒を持つ男の一人が言う。
「Ohnzeh. Kangi Luta Emaciyapi 」インディアン語で自分の名前はRed Crowだと言う少年。
「そんな悪魔の戯言を話すな!」腹を蹴り上げられる少年Red Crow。
「これはお前のためなのだぞ、6番!」棒を振りながら言う寄宿学校の神父。
教室の中、生徒たちが立って見守る中で体罰を受ける少年Red Crow。
「我々はお前の中の人間を救うためにインディアンを殺さねばならん!いつになったらそれがわかるんだ?」神父は言う。
「それであんたらはいつになったらわかるんだい、神父さん…。あんたらは俺をジーザスに祈る様になんてできないんだ」少年Red Crowは言う。「あんたらは俺をいくらでも殴ることができる。でも俺はそれでもラコタ族なんだ」
「そして俺の名前は、まだRed Crowなんだ」
今日 PM:7:33
ステージ上で満面の笑顔で、ダンサーと並ぶRed Crow。
カジノのオープンを祝う大勢の客たち。
[ 屈従が美味いところを全て引き継ぐ ]
[ それが俺が奴らから学んだことだ。サディスティックなちんけなクソども。イエズス会 ]
[ 以来俺は、俺自身の正義のために戦っている。Boardroom(重役会議室)とBarroom(酒場)で。Federal Court(連邦裁判所)とFields of Fire(射界)で ]
[ 俺は上院議員とも、同房の犯罪者とも同じように向かい合った。そして誰に対しても引き下がったことはない ]
[ そして今夜、60年間俺自身を穴だらけの道と掃除ブラシの土地で犠牲にし続けた結果… ]
[ 今夜、遂に俺は真の勝利の瞬間を得る ]
オープニングセレモニーのステージから降りるRed Crow。
「一杯飲みたいな」
[ そして、どうしてWendell Short Bearについて考えることを辞めることができる? ]
執務室に戻り、グラスに酒を注ぐRed Crow。その背後でテレビからの報道番組が流れている。
「…が、ここPowwow GroundsにWendell Short Bearの回顧のため集まっています」
「…5年前の今夜失踪した、ラコタ族に愛され続けた長老で、長きにわたる部族の宝であった…」
「その際に部族長として選出されたLincoln Red Crowは、その失踪について徹底的な調査を行うと誓い…」
「しかしながら、手掛かりは以来全く見つかっておりません」
テレビを消し、Red Crowはオープニングに賑わうカジノに戻る。
[ 俺はWendell Short Bearが失踪した晩に一緒にいた ]
[ 俺たちは共に座り、彼の今後と、彼が部族の状況についていかに心配しているかを話していた ]
「議員、いかがですかな?お越しいただき感謝に堪えません」カジノで議員と握手を交わすRed Crow。
過去。工事現場で列を作って進む蟻たち。
[ そして、俺は彼の顔面を撃った ]
蟻たちの向かう、鉄骨と足場の底に放置された死体。
[ 彼が俺の最初の殺しではない ]
そして最後でもない
ドアを開いた奥で、後ろ手に縛られたまま殺されている女性。
[ それを誇るつもりはない ]
[ 楽しんでやったことは一度もない ]
壁にもたれ、首からあふれる血を必死に押さえる男。横でRed Crowが無表情に見つめる。
[ だが俺はそれのどれについても謝罪するつもりはない ]
[ 俺はいつもやらなければならないことをやっただけだ ]
現在。カジノの中を笑顔で歩くRed Crow。
[ やらなければ、俺は今ここにいなかった。俺たちみんなが ]
[ そしてこのカジノも… ]
このカジノはまだただの狂った夢だ
カジノの前。明るく照らされた道を、多くの車と人々がやって来る。
[ 今から5年後、連中は全員跪き、俺に感謝を捧げるだろう ]
[ これを止めようとしたものでさえ ]
フェンスの金網越しに見える、多くの車が駐められた駐車場。
[ そしてそのコストだと…? ]
フェンスの金網の向こうでは、みすぼらしい姿の子供たちがそれを眺める。
[ 誰も馬鹿々々しいコストなど気に掛けなくなるだろうさ ]
『Scalped Vol. 2: Casino Boogie』より 画:R. M. Guera
PM:8:27
倉庫への品物の搬入を監督するRed Crow。
[ ウーンデッド・ニーの虐殺から生き延びた15年後、俺の曽祖父はくだらないカウボーイブーツについての口論で、親友に撃ち殺された ]
[ ウィスキーとの関係について語る必要もないだろう ]
[ Trenches of the Western Frontを生き延びた俺の祖父は、ネブラスカ、ルーミスで泥酔し、どぶで3インチの泥水の中で溺れ死んだ ]
[ 俺の親父は俺の知る限り毎日サンダーバードを飲み続けていた。最期の日も含めてだ ]
[ 全てはそうなった。この居留地では115年に亘りアルコールの販売が違法であるにも関わらずだ ]
「これで全部です。ここにサインをお願いします」伝票を差し出してくる搬入業者。
サインするRed Crow。
[ 俺は考える、それらの祖先たちが何というだろうかと… ]
[ もし彼ら全員が今ここにいたとしたら ]
搬入され山積みにされた大量の酒の箱を見るRed Crow。
ウーンデッド・ニーの虐殺は、1890年にサウスダコタ州ウーンデッド・ニーで、ミネコンジュー族ほかのスー族インディアンのバンドに対して、米軍の第7騎兵隊が行った民族浄化。ほぼ300人のラコタ族が虐殺された。
Trenches of the Western Frontは、第一次大戦中の北フランスからベルギーにかけての防衛ライン。映画でも有名な「西部戦線」。
サンダーバードは1980~90年代にポピュラーだったアメリカのワイン。
あと、最初に出て来たインディアン寄宿学校は、19~20世紀にアメリカ、カナダで多く作られた、インディアンの子供達を親から引き離し同化教育するための施設学校。その実態は20世紀以降多くのドキュメンタリーなどで告発されている。
PM:10:18
“Private Party”として区切られ、前に見張りの男が立つ扉。
「我々インディアン事務局のものは、これを君に伝えねばならん、Red Crow酋長」扉の奥からの声。
「君はいかにパーティーを行うか熟知しているようだな」Red Crowが立つ前にいる男が話す。「フィレミニョンは美味だ。ワインの選び方は非の打ち所がない。そして君が楽しませてくれた郷土ダンサーたちは、まさに息を飲むほどだ」
グラスを片手にソファにふんぞり返る、太ったインディアン事務局の男。その前には着飾った女性がしゃがみ込み、男にフェラチオをしている。
「だが、この若い女性が私の一物から6万ドルを吸い出す以外にもだ…」
「まだ失われているものがあると私は考えるのだがね」
[ 過去に遡れば、インディアン役人どもは樽一杯の釣り針ほどに捻じ曲がっていた。そして地元への支払いより自身の金庫の貯えを増やす方に熱心だった ]
「ピーアへの帰りの旅はお気を付けて、Jigger。奥様にもよろしくお伝えください」内ポケットから封筒を出しながら言うRed Crow。
[ インディアン事務局、地域統括部長Todd Jiggerはその伝統を正しく受け継いでいる ]
「おいおい、そう辛辣になるなよ、酋長」Jiggerは言う。「私が融通したフェデラル・ファンドが無かったら、今頃何にもないただの荒れ地に立ってるだろうことぐらい、お互いに分かってるだろう」
「君のどこに問題があるか分かってるかね、酋長?」Jiggerは続ける。
「君はあまりにも多くの時間を、他人のために酷使されることを拒む、貧しく老いてうんざりした連中の一員として過ごしてきた」
「そして今、逆の立場になったがゆえに、自身をどう扱えばいいかわからなくなっとる」
「私は君の過去の話については全て聞いているよ」
「アビリーンの売女と、西メンフィスの二人の黒んぼについて。ビリングスのトイレの個室の中のホンキートンクについて。あの連邦捜査官の射殺について」
「そして、Wendell Short Bearとかいう名前のどこかのお節介な老いぼれについて」
「かつて説教師をそいつの聖書で殴って半殺しにしたとも聞いたが、本当かね?」
「君は生まれついての闘士なんだ、酋長。だが、周りを見てみ給え」
「君は勝ったんだよ」
部屋から出て行こうとドアに向かうRed Crowの背に語り掛けるJigger。
「こここそが君がずっと戦い続けてきたものだ」
乱交で荒み切った部屋の全容が描かれる。後ろから女にのしかかる男。酔いつぶれて失禁し意識を失った男。女性の股間に顔を埋め、意識を失っているような男。床に散らばる酒瓶。嘔吐物。
怒りを押さえ無言で部屋を出て行くRed Crow。そしてJiggerが言う。
「ようこそ、白人の世界へ」
Todd Jigger:
インディアン事務局、地域統括部長。伝統を受け継ぎ堕落しきった役人。
フェデラル・ファンドについては、簡単に日本語化するのがちょっと難しい。少し考えたんだが、そもそもこんな奴じゃなくてもっとまともな人に聞いた方がいいと思う…。まあアメリカの民間銀行が、連邦準備銀行に無利息で預け入れる準備金制度のことで、インディアン事務局というようなところがそれを振興のための資金みたいな名目で居留地のカジノ建設に融資できるよう融通したという話ぐらいのところと思うが…。
PM:11:08
カジノに戻ったRed Crow。「よし、報告しろ」従業員に向かって言う。
「数人の大学生がミニコンピューターを持ち込み、レーザーでルーレットでイカサマをしているのを捕まえました」
「セキュリティにより丁寧に出口に向かわせた間に、一人の学生が軽い骨折を負っているのが明らかとなりました」
「現在、その学生の父親がラピッド・シティの弁護士だつたということが問題になっています」
続いて横に並んでいた女性の従業員が話し始める。
「昨日が調理場の最初の給料日だったようで、コックの半分が出勤しておりません。出て来た残り半分は煮えたフクロウぐらいに酔っぱらっています」
「18人の顧客から食事が食べられたものでないという苦情。そしてトイレが二つ溢れ出しています」
「ショーの進行に関しては」男性の従業員が話し始める。「Merle Haggardのところの者たちが現金払いを要求しています」
「そして連中はまだ自分たちのバスが盗まれたことにも気づいていません」「クソが!まだあるのか?」「Gallagherがキャンセルしました」
問題の山に頭を抱え、執務室へ戻ると言うRed Crow。そこにShunkaが携帯を手に歩み寄って来る。
「何だ?今度は何だ?」苛立たし気に言うRed Crow。
「Hmongsからです」小声で言いながら携帯を差し出すShunka。
PM:11:13 ミネソタ州 セント・ポール
「ビッグRed!相棒!カジノビジネスはどうだい、酋長?」顔のあちこちにピアス、そして全身をタトゥーで覆われた男 -HmongsファミリーのリーダーJohnny Tongueが携帯に向かって話す。
「ああ、俺らはツイン・シティから離れられねえ、実際んとこな。日は違えどおんなじクソ、またクソ、わかんだろ」
「なあ、教えてくれよ、酋長。なんで従業員にいくら良くしてやっても、クズ野郎の中からいつも盗もうとするやつが出てくんだ?」
「そうそう、実際んとこ。いやいや、今対処してるとこだがな」
「なあ、俺は自分とこのちんけなごたごたでアンタを邪魔したわけじゃないんだぜ、親友。アンタがクソ忙しいのは分かってるからよ」
「だが、ちょうどテレビでアンタのカジノの周りでまだ例のアホ集団が、抗議で潰そうと走り回ってるのを見たんでな」
何処かの家の応接間のソファに座って通話しているJohnny Tongue。写真立てをを持ち、眺めながら話している。その奥では、彼の配下の同様に身体をタトゥーで覆われた四人の男が女性を押さえつけてレイプしている。
「こいつはまずいよな。こいつは俺を親友Red Crowについて心配させる」
「そんで俺のお母んは俺を、ただ座り込んで文句を並べるばかりで、クソに対して何のくそも起こさないクズ野郎に育てたわけじゃねえんだ、分かるな。」
Johnnyが見ていたのは、家族写真。そこには両親と二人の子供が家の前で笑顔で写っている。口をガムテープで塞がれレイプされているのは、その写真の中の妻。
「そういうわけで、ちょっとした援軍を送ってやったぜ、相棒」
「Mr. Brassを派遣した」
「…、おいあんた…、あんたMr. Brassって言ったか?」Johnnyの言葉に驚愕するRed Crow。
「唯一のな」携帯に向かって話すJohnny。「いいや、ああいう奴は絶対に引退なんかしねえ。奴の中ではいまだに1968年で、奴はクソラオスだかどっかに戻ってんのさ。で?なんかあるか?」
「あんたの申し出には本当に感謝しとる、Johnny。だが、それについての俺の考えは…」カジノの中で通話を続けるRed Crow。「わかった、そうだな。だが俺を信頼してくれ。俺たちで何とか出来る…。いや、それは単にだな…」
「奴を三日前に送り出した」Johnnyの横には殴られ口にガムテープを貼られた家の主人が座らされている。彼の前に写真立てを置くJohnny。
「アンタが俺の以前の寛大な行動に示したのとおんなじ誠実さを持って、奴を熱烈歓迎してくれるものと思ってるよ」
Johnny Tongue:
セント・ポールに地盤を置く犯罪組織Hmongsファミリーのリーダー。Red Crowのカジノへの出資者。
会話に出て来たMr. Brassは、自分が紹介予定の範囲ではまだ出てこないのだが、想像を絶するほどのサイコパスで、居留地で陰惨な事件を起こして行くことになる。
また、このHmongsファミリーとの関係もストーリーの中で大きな動きとなって行く。
無言で苦々しい表情で通話が切れるのを聞くRed crow。
「問題ですか?」問うShunka。
「クソHmongsめ。ボートからやっと降りたばかりのクズどもが」携帯をShunkaに投げ返すRed Crow。
「なんで俺が奴らの猿を引き取らねばならんのだ?」
「悪いことばかりじゃありませんぜ、ボス」下のフロアを見下ろしながら言うShunka。「今、あんた向けのいいニュースが届いたところだ」
「Bad Horseがホワイトボーイを捕まえました」
Red Crowと配下たちに囲まれ、床に座らされているDiesel。Shunkaがその頭を踏みつけている。
「なあ、Diesel」Red Crowが見下ろして言う。「もしお前が本当のところどんなイカレ騒ぎを起こそうとしてたんだか話すつもりがあるなら、今夜がお前にとって最適の時だぞ」
「それで、あんたが大失態をやらかしたいんなら、酋長。俺はここで待たせてもらうぜ」歯をむき出し嗤うDiesel。
「口の減らねえ白んぼだぜ。俺たちゃ口先ばかりのお喋り野郎にゃ用はねえ。神様の言う通りのお仕置きだ」Dieselの頭を床に踏みつけるShunka。
「ボス?」疲れたように目を押さえるRed Crowに声を掛けるShunka。
「奴を逮捕しろ」「はあ?何の罪状で?」「インディアンなりすまし罪でもなんでも構わん」「しかし…」
「今夜は駄目だ、Shunka。クソッ。今夜は誰も殺さん。奴をここから連れ出すだけだ」歩き去るRed Crow。
「俺はオフィスにいる」執務室のドアを開け、中に入ろうとする。
その時、隠れていたCatcherがRed Crowに襲い掛かる。左手のナイフをRed Crowの首に構え、左手には拳銃。
「素晴らしく豪勢なパーティーを開いたもんじゃないか、Linc。俺の予告なしの参加も許して欲しいもんだな」
「Catcher!何のつもりだ?!」身動き取れないまま言うRed Crow。
Red Crowの配下たちは驚愕し、それぞれに銃を抜き出す。
「お前の週末インディアンたちに矢を収めるように言った方がいいぞ、酋長」
「さもないと、誰かが目玉一個失う責任を負うことになる」
「旦那、あんた自分を無意味な死地に追い込んでるだけだぞ」Shunkaが言う。
「それが俺の人生なんでな、許せ」CatcherはRed Crowを捕まえたまま、背後のトイレに後退して行く。
「あんた本当にゾウムシ並みに脳みそが縮んじまったのか、ジジイ?俺たちは…」Catcherに向かって叫ぶShunka。床に寝たままその様子を窺うDiesel。
咄嗟にジャンプし、Shunkaの顔面に頭突きを叩き込むDiesel。
その間にCatcherはRed Crowをトイレに引き摺り込む。
振り返り、Dieselの様子に気付く男たち。
Catcherはトイレ入り口のドアノブの下に椅子を押し付け、ナイフでとめる。
倒れるShunka。Dieselは手錠のまま逃走する。
「Catcher…」
「理由を一つ言え、Linc」Catcherは、トイレの床に座り込んだRed Crowに言う。「まともな理由を一つ言え、俺が今ここでお前を殺してこのクソ御殿を灰燼に帰すべきでない理由を」
「お前こんなことしたいわけじゃないだろう」Red Crowは言う。
「いやいや、俺は長いことそう思っていたさ、お前さんにゃ想像もつかんほど深く」
「そしてそれは俺だけじゃない、他のみんなもだ。俺が不安に襲われたときやって来る彼ら」
「Catcher、とにかく…」「Delmar Hodge、R. W. Betts、Margette Hayward、Wendell Short Bear、全ての踏みにじられた魂たち」
彼が殺した者たちの名に、目を瞑り、苦痛の表情を浮かべるRed Crow。
「そして彼らの誰ひとりにも安らぎは訪れていない」
「お前が最後に全てのチップを現金化するまではな」
Red Crowに銃を向けるCatcher。
「だから俺はお前にここで、命乞いをしてもらいたい。お前にそれができると思うか?」
「お前はこれまでそれがされるのを見て来ただろう、そうじゃないか?」
『Scalped Vol. 2: Casino Boogie』より 画:R. M. Guera
そしてRed Crowの脳裏にこれまで手に掛けた者たち、命乞いをする者たちの姿が浮かぶ。
驚愕と恐怖の表情を浮かべ、手を差し伸ばす男の額に撃ち込まれる銃弾。
「やめてくれやめてくれ頼む…、俺には妻がいる、子供たちがいるんだ…」家族の写真を見せて命乞いをする男。
「待ってくれ!頼む!」首にナイフを押し当てられ叫ぶ男。
「神よ…、やめてくれ、頼む、勘弁してくれ…」死体の横に座り込み、腹からあふれる血を押さえながら言う男。
「ごめんなさい…、ごめんなさい…、お願いだからやめて…」顔から血を流しながら地べたに座り込み、命乞いする女。
頭皮をナイフで剥がれながら絶叫する男。
「祈れ、無信心の蛮人め!救われたければ心から祈るのだ」
そして、インディアン寄宿学校で神父たちに打たれ、涙を流す少年時代の自分の姿が浮かぶ。
「頼む…まだだ…」Catcherに向かって言うRed Crow。「俺は…、俺は始めたことをやり遂げなきゃならん」
「これが俺の全てだ…」
「立て、Red Crow。俺はここにお前を殺すために来たんじゃない」銃を降ろして言うCatcher。
「俺はお前に一つ尋ねるためにここに来たのだ」
トイレの入り口ドアに撃ち込まれる複数の銃弾。
銃を手に掛けこんでくるShunkaとRed Crowの配下たち。中ではRed Crowだけが奥の個室の前で座り込んでいる。
「奴はもう行った。お前らアホタレの誰か、俺が戻るのに手を貸せ」うつむいたまま言うRed Crow。
13分後
まだDieselに打たれた顔面をタオルで押さえるShunkaとすれ違うDashiell。その先にいるRed Crowと会う。
「お前どこにいたんだ?」「便所だよ。何があったんだ?」「白人小僧が逃げた」
「俺をおちょくってんのか?俺が今晩奴を引っ張って来るまで、どんだけ苦労したと思ってんだ?」呆れたように言うDashiell。
「もう一度奴を捕まえてきたら話せ」背を向け、執務室に向かうRed Crow。
「大筋で言やあ、俺は撃たれて、切られて、ほとんど猛牛に殺されかけた。それが全部チャラだってのかい?」
「よかろう、少なくともお前は白人小僧が何やら計画してたことを止め…」Red Crowの言葉が途中で止まる。
執務室の中はめちゃめちゃに破壊されていた。
無残に破壊された室内を見回す二人。
壁には”Diesel Was Here”の文字。犬の死体が床に放り出されている。
「犬まで殺さんでもいいだろうに」苦々し気に呟くRed Crow。
「ろくでもない夜だったようだな。でも、明るい面を見りゃあ、あんた外でまだ大金稼いでるじゃねえか」少し同情気味に言うDashiell。
カジノのスロットマシンで、客の一人が大当たりを当てる。溢れ出す大量のコインの音が、虚しく響き渡る。
「なあ…」「出て行け」何か言いかけたDashiellを突っぱねるように言うRed Crow。
そして破壊された部屋の片隅に座り込む。
AM:1:13
深夜になっても賑わいの衰えないカジノ。
[ あの梅毒、ギニアのクソ野郎、コロンブスが到着して以来、白人は俺たちの海岸に断りもなく集い始めた ]
[ 奴等は俺たちラコタ族からBlack Hill、聖なるPaha sapaを奪い、そこから十億の黄金を掘り出した ]
[ 奴等はバッファローの群れと、彼らが歩き回っていた草原を奪った ]
[ 奴等はかつて偉大だった民族から誇りと尊厳を奪い、悲嘆のみを返した ]
Red Crowの配下が執務室のドアをノックするが、応答はない。その後ろには掃除用具を用意したDino Poor Bear。
[ だが今夜、その総てが終わった ]
荒らされた部屋。ガラスを割られたインディアンの遺物を飾ったキャビネット。
[ 数百年に及び、奪われ、屈辱を受け、牛のように虐殺された後… ]
Red Crowの居留地における数々の功績を称えるトロフィー、賞状。
[ 過去に対してクソ親切を返すというやり方が始まる ]
憎悪の表情で男の首を絞める若きRed crow。
[ そして俺たちは今、賠償金を受け取る、ホワイトアメリカの… ]
[ クソ5セント銅貨を一度に一枚。俺たちに必要なら ]
頭を掴んだ男の首を後ろから切る中年世代のRed Crow。
[ そしてひとたび俺たちが自分たちにとって何が正当かを主張するなら、その道筋で俺が撃ち、刺し、頭の皮を剥ぎ、吊るして埋めた全ての者たちが… ]
[ 全ての哀れな奴らの死が無駄ではなくなる ]
工事現場で冷酷に目の前の男を撃ち殺す、ごく最近のRed Crow。
そしてあまりにも長い時を経て、初めて…
俺の夢が、再び俺の後悔を追い越すはずだ。
破壊された部屋の中で一人座り、両手で顔を覆うRed Crow。
『Scalped Vol. 2: Casino Boogie』より 画:R. M. Guera
#8 The Way Of The Intercepting Fist
26年前 西テキサス Kickapoo Tribal School 荒野に建つ平屋建ての学校。
「消防士、だと思います」
教室の中では、教師が生徒たちの将来の夢について尋ねている。
「いい選択ですね、Nathan。Kevinは?」「海洋生物学者です」「Juzanは?」「えっと、芸術家か獣医…、出来れば両方」
「Brittは?Britt Fillenworth?」
ノートに描かれた落書き。インディアンが手裏剣と刀を持った忍者を打ち倒している。
「Britt!落書きをやめて、授業に集中しなさい!質問は将来何になりたいかですよ?」教師は落書きをしている金髪の少年Brittを注意する。
Britt少年は落書きの手を止めず答える。「ああ、それは簡単だよ、先生」
「俺は超ヤバイインディアン戦士になるんだ」
8日前
カジノオープンの日に、Dashiellら保安官事務所の者たちに強襲されることになる農場に、居留地の男たちが集まっている。
「それで…、俺達ここで何するのか知ってる奴はいねえのか?」男の一人が言う。
「俺は集まるようにっていうメッセージを受け取っただけだ。カジノのグランドオープニングに対して何かやるんだろ」男の一人が答える。
「Gina Bad Horseはどこなんだ?」実はDashiellの情報屋であるMackが言う。
農場の敷地に入って来る無骨な四駆のピックアップトラック。
農場の倉庫の中では男たちが話を続けている。
「Ginaは昨日町から出たぞ。数週間戻らないって聞いたぞ」「そうかよ、じゃあこの会合、誰が呼びかけたんだ?」
倉庫の前に駐まるピックアップ。プレートには”DIESEL”の文字。
「ウム、思うに、俺は死の陰の谷を歩むとも、いかなる悪も恐れない…」
ポーチから摘まみ上げたドラッグを一錠。ビールの空き缶を握り潰す。拳銃を拾い上げブーツに差し込む。噛み煙草を口に含む。
そしてDieselはピックアップから降りる。
「俺がこの鶏の糞谷が目にした最悪のマザーファッカーであるがゆえに」
Dieselは、男たちが集まる農場の倉庫へと向かう。
「疑問に思ってる奴がいるなら、俺がこの会合を呼びかけた」男たちに向かって歩きながら言うDiesel。
「そして、お前らがここにいるってことは、お前らが俺と同じくらいあのクソ野郎Red Crowを嫌ってるってことだ」
「お前らは皆俺を知ってるだろう。お前らはこのDieselが伝統主義者たちと歩み続けてきたことを知ってるだろう」
「伝統のパウワウを護り、抗議プラカードを作り、その他Gina Bad Horseが俺たちに望むことをやって来た」
「だがそれは何も成し遂げなかった、そうだろう?Red Crowは依然、ここの連中を恐れさせるために全てに小便をまき散らし、そして全てを自分のポケットに入れることを可能にしてる」男たちに向かって言うDiesel。
「俺は行動を一段階上げるときだって言ってるんだよ」
「そりゃあどういう意味だ?」男の一人が言う。
「それは俺らが奴のクソッタレカジノからかっぱらうってことさ」
「そういう話は気に入らねえな」問いかけた男が言う。「それに俺は白人小僧の命令を聞くつもりはねえ」
「なんつった?」Dieselが険悪な表情で聞き返す。
「俺は…」話しかけた男をDieselが近くにあったカウベルで殴りつける。
「俺は!十六分の一!キカプーだ!クズ野郎!」叫びながら何度も殴りつけるDiesel。
「他に俺の人種的正統性に疑問のあるやつはいるか?」
怯えた目で無言で見つめる者。目を逸らす者。
「いねえんだな?」噛み煙草の唾液を吐きながら言うDeisel。「よし、じゃあ仕事の話と行こうか」
「俺たちはグランドオープニングをぶち壊しに行く」
今日、PM:8:45
カジノの屋上。紙袋を手にした手がドアを開ける。「ああ、俺だ。手に入れたぜ」
屋上に現れた男は、手にした紙袋の中身を覗きながら、携帯に向かって話す。
「ああ、両方だ。いや、今見てるところだ。確実なところは分からねえが、俺には本物に見えるがな」
「いや、俺のちょっとした再創造のオーシャンズ・イレブンは、まだ姿も見えねえな。誰か密告したのかもしれん」屋上を歩きながら話す男。
「居留地警察は農場をしばらく前に手入れした。実際のところ、ありゃあ全て俺が事を起こすための牽制だったんだがな」
「ここのセキュリティなんて冗談みてえなもんさ。Red Crowの執務室からこれを手に入れるなんて簡単だったぜ」
「そこにいる間にちょっとした模様替えまで出来たぐらいさ」
屋上に現れた男 -Deiselが携帯に向かって話す。
「いや、いくらかのマヌケな雑種以外には致命的なもんはねえな」屋上からカジノ前の賑わいを見下ろしながら、Dieselは話し続ける。「いいや、犬みてえな雑種だ」
「なあ、気にすんなよ。あんたにゃしばらく後に会って…」
そこでDieselは背後の壁の陰から歩み寄って来る人影に気付く。持っていた紙袋を腹に隠す。「実際のところは数分遅れそうだがな」
「お前、自分が忍び寄るのは下手糞だってわかってんだろう、Bad Horse。お前の足音なんて1マイル先からでも聞こえるぜ」振り向きながら言うDiesel。
「ああ、お前が俺を待っててくれたことにゃあ感謝してるぜ」歩み寄りながらDashiellが言う。
「で?これがお前さんが言ってた、俺たちにゃあ二つのやり方があるってやつかい?易しいのと、難しいのと」噛み煙草を口に含みながら、Diesalが言う。
「いいや、これは俺がお前を徹底的にぶちのめす、ってやり方だ」拳を構えながら言うDashiell。「何だろうとお前の好きなように呼べばいいさ」
Dashiellのパンチとキックを躱し、腕を掴むDiesel。
腕をひねり上げながらDashiellを押さえ込む。
「お前以前に膝をやっちまったそうだな。数年前にフットボールで。そう思うがね」
Dieselから逃れ、背からヌンチャクを出すDashiell。
「お前どこでカラテを習ったんだい?通信教育かよ?」嘲るように言うDiesel。
Dasiellのヌンチャクを躱すDiesel。そして腕を掴む。
DieselはDasiellの顔面にパンチをくらわせ、ヌンチャクを奪い取る。
「お前は何度か手も骨折してる。お前の気性の問題だな、賭けてもいいぜ」倒れたDashiellに、Dieselが言う。
「壁を殴り過ぎたか、そうだろう?あるいは喧嘩っ早過ぎたか?今でもそうだな」
「それがお前をもたつかせてるんだよ」Dieselは、屋上の縁からヌンチャクを投げ捨てる。
「ちなみにお前さん鳥がお前の上に特大の糞をしたような臭いがするぜ」屋上の縁近くで向かい合う二人。
「ああ、それでお前は喋り過ぎだ」突進するDashiell。
Dieselのパンチを躱し、反対の腕を取る。背後に回り込み、腕をひねり上げる。
「おいおい、これはなかなかのお楽しみだが、脱線しすぎる前にお前が俺について知っておくべきことがあるんだぜ」笑みを浮かべながら言うDiesel。
「何がどうだろうと構わねえと言ってやるぜ」Dieselを締め上げるDashiell。
「いいだろう、それなら…」Dieselは首を後ろに向け、Dashiellの目に噛み煙草の唾を吹きかける。
顔を背け、屋上の縁から足を踏み外すDashiell。それに引かれるDiesel。二人は屋上から落下する。
『Scalped Vol. 2: Casino Boogie』より 画:R. M. Guera
26年前
「おう、こりゃすごいぞ」掘り出し、掌に載せた古い矢尻を見て喜ぶBritt少年。
そこに現れた四人の少年が、Brittに声を掛ける。「おい!お前なんでこんなところ掘ってんだ、馬鹿野郎?ここは俺たちのナワバリだって言っただろうが」
「ああ、この矢尻を見つけたんだ。コマンチのだと思う。多分レッドリバーの戦いか、それとも…」意に介さず矢尻に夢中になって話すBritt。
「そもそもなんでお前そんなちんけなゴミクズ好きなんだ、Fillenworth?」少年の一人が言う。
「俺がキカプーの偉大な戦士になるからさ。テカムセやクアナ・パーカーと一緒に戦った俺の祖先みたいな」
「あほらしい!お前はキカプーじゃねえ。お前はインディアンじゃねえ」Brittを囲み、嘲る少年たち。
「やめろ…、そんなこと言うな…」
「で?さもなきゃどうなんだ?」
少年の一人に殴りかかり、四人がかりで殴られるBritt。その後ろにKickapoo Mation Casino予定地の看板。
今日、PM:9:18
Dashiellは一階下の張り出しに落ちる。「ううう…、クソッ」
「どうしたんだ?」「あの壊れる音聞こえたか?」聞こえてくる声に、周囲、下を見回すDashiell。
「あれはどうも…」インディアンの扮装で馬に乗っているショーに出演する男が、馬から引き摺る降ろされる。
その馬に乗り、逃亡し始めるDiesel。Dashiellはそれを追い、非常階段を飛び降りる。「畜生」
「なあ、あの白人俺の馬盗んだぞ」地面に座り込む男と、その周囲で呆然とする男たちの前を足早に過ぎるDashiell。
45分後
ロデオ会場の駐車場まで逃げ、一息ついたDieselは再び携帯で話す。「ああ、やっと奴を撒いたと思うぜ」
「なあどうなんだ?そろそろアンタと会う頃合いだと…」
その時、駐車場へ大型のバスが入って来る。「ああ、畜生、待ってくれ」
カジノのショー関係芸人のバスを運転し、突っ込んできたのはDashiell。「道を開けろ!どけっ!」
ハンドルを握るDashiellの手の中で、携帯が鳴る。“すべてのマヌケたちの王” -Nitzから。
FBIの監視盗聴用ワゴンの中では、Nitzが携帯に向かって話す。「Bad Horse、どこにいるんだ」
「あんたの旦那は問題ないぜ、Mrs. Brody。彼は釣りをしてて、いくらかのシマスズキを釣り上げたところだ。俺たちゃそれを夕飯に持ってくつもりだ。そんなに遅くはならねえぜ。俺たちはまだ何も見ていない。以上、通信終了」運転しながら話すDashiell。
Dashiellが話している「Mrs. Brody」は、少し調べたのだけど時期的に2001年の『キャッツ&ドッグス』というコメディー映画のキャラクターかと思うのだけど、いまいち確証がない。『Hetty Feather』っていうテレビドラマシリーズの方がそれらしい気がするんだけど、20015年からの放送でこの『Scalped』終わった後だし…。とにかくなんかその手のものから引っ張った出鱈目を言ったぐらいに解釈してください。
あと、前話PM:11時頃にRed Crowが従業員から報告を受ける、カジノで現在起こっている問題の中に入ってた芸人たちのバスが盗まれたというのがこれで、実は犯人はDashiellだったというわけ。
バスは駐車場の中で横転し、退路を塞がれたDieselは、駐車中の車の屋根を馬で渡り逃げようとする。
Dashiellは横転したバスから這い出し、Dieselを追う。
足場が悪くもたつくDieselに追いつきタックル。そして二人はロデオのフィールドに落ちる。
腰からナイフを抜き出すDashiell。
足に隠したナイフを抜き出すDiesel。「お前のお袋さんは、お前は問題を抱えてるって言ってたが、俺にゃあお前の突撃自殺願望は全く理解できねえな」
「お前のお喋りは聞き飽きたぜ。お前がそういった口を叩けないようにさせてもらう」Dashiellは言う。
ナイフを構えて向き合う二人。遠巻きに見つめるピエロや係員、観客。そしてフィールドにはロデオ用の牛。
「おい、こりゃイカレてる…」言いかけたDieselに切りつけるDashiell。
「どこに行けると思ってんだ、マレット野郎」
「わかったよ、阿呆め。お前本物のパーティーをやりてえんだな」切り返すDiesel。「クソが!じゃあ全力Bocephusモードで応えてやろうじゃねえか!」
ナイフで切り合う二人。そこに興奮した牛が突っ込んでくる。
牛をよけながら切り合う二人。
ナイフをくぐってDieselの放ったパンチで、Dashiellは地面に打ち倒される。
「クソど素人が!」
そして再びDashiellの顔面を殴る。
「お前、この俺を倒せると、本気で思い込んでたんだろう、Bad Horse」柵に掴まり立ち上がろうとするDashiellに、嘲るように言うDiesel。
「その通りだな、Diesel。お前はマジで強え」柵に掴まりながら言うDashiell。
「お前はカンフーでも、ナイフの闘いでも、その他でも俺より優れてるんだろう」
「多分チンポも俺よりでけえんだろう」
「だがな、それでもまだ一つ、ちっぽけで青臭いところだが、俺がお前に勝ってるところがある」背を向けて去ろうとしているDieselに続けるDashiell。
「そして、それについちゃあお前はどうすることもできねえんだ。わかるか?」
そしてDashiellは立ち上がって言う。
「俺は本物のインディアンだ」
Dieselの顔が怒りに歪む。
「いいだろう、カッコつけ野郎…」向き直り再びナイフを構えるDiesel。
だが、頭に血が上り過ぎた彼は、周囲の状況が目に入らなくなっていた。突進してきた牛に突き上げられ、宙に上がるDiesel。
そして倒れたDieselを、なおも踏みつける牛。ピエロと係員が駆け寄り牛を引き離す。
「もしまだ死んでねえなら、マヌケ野郎、お前を逮捕する」倒れたDieselに歩み寄り、手錠を出すDashiell。
そして後ろ手に手錠をかけ、Dieselを引っ立てて行く。
迫力満点の「見世物」に喝采を送る会場の観客たち。
『Scalped Vol. 2: Casino Boogie』より 画:R. M. Guera
26年前
寂れたガソリンスタンドに走って行くBritt少年。Fillenworth Filling Stationの看板が出ている。
「母さん!どうしたと思う?」話しかけながら店に入って行くBritt。
「俺、すげえ矢尻を見つけたんだぜ…」笑顔で店の奥の住居に進んで行く。そこで家にスーツ姿の男たちが来ていることに気付く。「母さん…?」
男の一人が話している。「Fillenworthさん、我々の現在の状況を踏まえ、ご理解ください。評議会は我々の部族住民の資格について、再検討せざるを得なくなっているのです」
「そして、他部族同様に我々も現在、血の濃さをその要件の一つにしなければなりません」
部屋の中で椅子に座り泣いているBrittの母。「戯言だわ!強欲なあんたたちがもっと多くカジノのお金を手に入れるためなんでしょう?」
「Fillenworthさん、お願いします…」「あたしたちはここに生まれた時から住んでるのよ。今になって、あたしたちに居場所はないって言うの?」
「我々が話しているのは、奥さん、あなたの息子さんBrittは、部族住民として要求されるキカプーの血筋の最低基準を満たしていないということです」
男は官僚的、冷淡に続ける。「言い換えれば、我々の思う限り…」
「彼はインディアンではありません」
呆然と立ち尽くすBritt。
今日、AM:1:00
居留地の中の住宅地らしきところを歩くDiesel。
「遅れたのは分かってるぜ。そのことについてはBad Horseに感謝でもするんだな。あのバカ野郎俺を殺しかけたんだぞ」建物の戸口の陰に立ち煙草を吸う人物に話しかけるDiesel。
「居留地中を追いかけ回し、俺を猛牛に踏みつぶさせ、挙句にRed Crowの暴力団どもに引き渡しやがった」
「俺は運よく逃げ出せただけだ」苦々しげに言うDiesel。「そろそろ奴に、俺たちはここでみんな同じチームらしきとこにいるってことを分からせるべきなんじゃねえか?」
「お前はBad HorseをBad Horseのままでいさせりゃいい。それよりむしろ、お前の任務が破綻しないように維持することを考えろ」陰に潜んでいる人物が言う。「ちなみに…」
「こいつだ」Dieselは紙袋を差し出す。「これが全ての厄介事に見合えばいいと願うがね。俺にゃあどう使うのかさっぱりわからんが」
「自分が俺の正義側にいたいんなら、余計なことは話さんことだな、坊主」男は言う。
「おいおい、ただこの袋の中身を見て、俺がこの居留地で最悪のインディアンじゃねえなと思っただけさ」
「よし、これを見るところ」
「そのまま続けろ、Fillenworth捜査官」
袋の中を覗きながら、笑顔を浮かべ言うFBI捜査官Nitz。
『Scalped Vol. 2: Casino Boogie』より 画:R. M. Guera
というところで、Casino Boogie前半3話が終了。それぞれの視点で前後し、少し分かりにくいかと思ったので、少々蛇足かもしれんけど、現在時制カジノオープンの日のタイムテーブルを整理して作ってみました。
Red Crow | Dashiell | Diesel | |
---|---|---|---|
PM:7時 | カジノのオープニング。 | 7:18 Carolの家を出てRock Medicineからの連絡を受ける。 30分後 Dieselの配下が集まる農場を強制捜査、一団を逮捕。 |
|
PM:8時 | 8:27 カジノへの酒の搬入に立ち会う。 | Red Crowの執務室に侵入し、あるものを盗み、部屋を荒らす。 | |
8:45 Dieselが屋上に現れ、待ち伏せていたDashiellと戦いになる。 | |||
PM:9時 | 9:18 二人とも屋上から落下し、Dieselが馬で逃走する。 | ||
PM:10時 | 10:18 特別室にいるインディアン事務局地域統括部長Todd Jiggerと会う。 | 45分後 近くのロデオ会場まで逃げ延びたDieselに、Dashiellが盗んだバスで追いつき、ロデオ会場で死闘。猛牛にはねられたDieselを逮捕する。 | |
PM:11時 | 11:08 カジノの従業員から起こっている問題の報告を受ける。 | ||
11:13 犯罪組織HmongsファミリーのリーダーJohnny Tongueと電話で話す。 | |||
Dashiellが逮捕したDieselを連れて現れる。 | |||
突如現れたCatcherに、ナイフを突きつけられてトイレに監禁され、話をする。 | Catcherが現れた混乱に乗じ、逃走。 | ||
ドアを破って来た部下たちに救出されるが、既にCatcherは姿を消している。 | トイレの天井から現れたCatcherから謎の警告をされる。 | ||
戻って来たDashiellと合流したRed Crowが、Dieselに荒らされた執務室を発見する | |||
PM:12時 | |||
AM:1時 | 1:13 荒らされた執務室に座り込み続ける。 | 1:08 Badland Cafeで食事をしながら情報屋のMackと会う。 | 1:00 FBI捜査官Nitzと会う。 |
明かされて行くそれぞれのキャラクターの秘密と、ネイティブアメリカンとしての苦悩。次回、とりあえずこちらでは最終回になっちゃう第4回、Casino Boogie後編では、新たに三人の人物に焦点を当てた物語が描かれて行くこととなります。
Scalped
■Deluxe Edition
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