Coin-Op Comics Anthology: 1997-2017 / Peter Hoey, Maria Hoey

クラシックタイプのグラフィックによる、遊び満載のエクスペリメンタルコミック!

今回はPeter Hoey、Maria Hoeyの兄妹作家による『Coin-Op Comics Anthology: 1997-2017』。2018年に現在IDW PublishingのインプリントであるTop Shelf Productionsより出版されています。現在この作品はKindle Unlimitedで読めます。

というところなんだが、…説明サブタイトル下手過ぎ!なんかエクスペリメンタルコミックみたいな言葉、基本的には使いたくないんだが、結局自分のボキャブラリーというかキャパ的にはそんな説明になってしまう…。なんかそうやって構えられるようなとっつきにくさをなるべく避けたいところなんだがな。
まあ自分の至らなさをぼやいてても始まらんので、もう少し詳しい作品説明。
こちらの作品集には、2008~2016年の間にNo.1からNo.6まで全6冊が出版された、それぞれ25~30ページぐらいのコミックアンソロジー『Coin-Op』全巻と、それ以前にまた別のコミックアンソロジーBlab誌に1998~2006年の間に掲載された作品が収録されている。Blab誌については後述。
『Coin-Op』はアンソロジーと言っても、基本PeterとMaria Hoey兄妹二人による短いコミック作品が複数掲載されているという形。この作品集ではNo.6からNo.1へと新から旧に遡る形で掲載されている。
というところで大体大枠のところは説明できたんで、ここから個別の収録作品について紹介して行きます。

Coin-Op Comics Anthology: 1997-2017

No.1については、「The Nest Egg」というサイレントの一つの話が掲載されているが、それ以降については、続き物というわけではないが同じタイプのシリーズ的作品になっていたりもするので、その辺で分けて説明して行くのが良いかと思う。

Saltz and Pepz

『Coin-Op Comics Anthology: 1997-2017』より 画:Peter Hoey, Maria Hoey

このアンソロジーの中で唯一固定キャラを立てたシリーズ。少しレトロな時代のアメリカ、主に都市部を舞台とした、SaltzとPepzという二人(?)の犬の浮浪者を主人公としたユーモアとペーソスといった感じのコミック。時々不思議な世界に入り込んで行ったりする。
画像はNo.2の初登場のもので、ここでは1ページのストーリーが間に別の作品を挟みながら4回に分けて語られる。バスの中で眠ってしまったSaltzを起こすPepz。だが公共のバスに浮浪犬が乗っていることを不快に思った乗客たちに追い出され、とぼとぼ歩いていると雨も降って来る。そこでバスの乗客から掏り取った金でホットドックを買い、雨宿りをするが、今度はPepzが眠り始めて…、という話。

物乞いなどをしていて追い出され、歩いているうちに雨に降られて、というのが大体のパターン。No.3ではそのパターンで雨を避けて劇場の裏口から潜り込むが、そこで不思議な世界に入り込んで行く。

『Coin-Op Comics Anthology: 1997-2017』より 画:Peter Hoey, Maria Hoey

一つの風景の中で様々なストーリーが展開するもの

なんか項目としてサブタイトルつけようとすると説明的になっていまいちしまらないんだが…。
1ページに一つの情景を描き、それを12等分のコマに分割し、それぞれの中で個別の物語が展開して行くというもの。まあ現物見ればすぐわかるんだが。

『Coin-Op Comics Anthology: 1997-2017』より 画:Peter Hoey, Maria Hoey

こちらは「The Windy Parade」という6ページの作品の前半3ページ。ページの上下が切れてしまっているので見えないところもあるが、大体の感じは分かってもらえると思う。
まず中央には強風の中でパレードが行われ、両サイドの歩道には多くの見物客が集まっている。
左上あんまり見えない2コマはある男の個人事務所で、厄介者の甥が自作のグラフィックノベルの原稿を持ってくる。
右上、ほとんど見えないんだが、通行止めのところにやって来たタクシーが警備ともめる。右上端のコマには屋上でパラソルの下のテーブルに三人組。
右中には、ジョークを話している三羽の鳩。
右下ではビルの中の一室で、女性がテーブルの準備をしている。
その下、右下2番目のコマでは、掏摸らしき男が通行人のポケットに見える財布を狙っている。といった感じ。

The Interoffice Memo

No.5と6に掲載されているシリーズ。キャラクターが同一なのかは不明。
広いフロアにデスクが多く並べられたような、よくある大企業のオフィスで働くオフィスワーカーの男が、連絡事項などで他のセクションに向かいオフィス内を移動しているうちに、奇妙な世界に入り込んで行くという展開。

静かな火曜日の朝、彼はメモを受け取る。
それはシステム管理部門のオフィスへ報告に向かえというものだった。緊急に。
彼は細かく仕切られたオフィス内の通路を歩き、エレベーターへと向かう。
エレベーターを待っていると、ライフジャケットを着た男が現れ、階下行きのボタンを押す。
ライフジャケットの男の階下へ向かうエレベーターが先に到着し、ドアが開く。
エレベーターのドアの向こうは海が広がっていた。
ライフジャケットの男は、ロープをたぐりボートを引き寄せ、それに乗り込む。
そしてエレベーターのドアは閉じる。
男は無言のままその様子を観察し、閉まったドアの前で上へ向かうエレベーターを待ち続ける。

『Coin-Op Comics Anthology: 1997-2017』より 画:Peter Hoey, Maria Hoey

やがてエレベーターが到着すると、そのドアの向こうには海が広がり、同様にボートが繋がれていた。
前例に従い、男はロープを解き、ボートに乗り込む。
そして男は海上をボートで進む。
やがて霧が晴れると、目的地であろう島がはっきりと見えて来た。

『Coin-Op Comics Anthology: 1997-2017』より 画:Peter Hoey, Maria Hoey

全4ページの作品。シュールな世界の中で、男は社内の業務の一つとして淡々と行動して行く。
こちらはNo.5に掲載されている作品で、No.6も同じ系統の展開だが、そちらは円形のコマを見開きでレイアウトした、もっと凝ったデザインの作品となっている。この本を開いて最初に出てくるコミックが、このNo.6のThe Interoffice Memoなのだが。

『Coin-Op Comics Anthology: 1997-2017』より 画:Peter Hoey, Maria Hoey

クラシックな映画、ジャズ、ブルースがテーマの作品

全部ひとまとめにしてしまうのもどうかというところはあるかと思うが、とりあえず作者のレトロ趣味というようなところで。
映画については、No.6にヒッチコックの『裏窓』とルイス・ブニュエルの『アンダルシアの犬』を組み合わせたシュールな『Un Lune Andalouse』というタイトルの10ページの作品。同じくNo.6には『The People vs. Nicholas Ray』というニコラス・レイについての6ページの作品。No.5には『The Trails Of Orson Welles』というオーソン・ウェルズについての10ページの作品がある。その他、No.4の『An Occurrence At Point Neuf Bridge』というのもなんかヌーヴェルバーグ的なやつだと思う。

『Coin-Op Comics Anthology: 1997-2017』より 画:Peter Hoey, Maria Hoey

音楽については、No.3に『The John Lee Hooker Highway Rest Stop Blues』という1ページもの、イラストと文章でジャズミュージシャンについて語っているものなどがある。先のSaltz and Pepzでは、セロニアス・モンクが登場する回があったり、その辺の音楽が好きだというのが伝わって来る。

『Coin-Op Comics Anthology: 1997-2017』より 画:Peter Hoey, Maria Hoey

In The Beginning, There Was BLAB!

No.6~1の『Coin-Op』の後、巻末という感じで過去の『BLAB!』誌に掲載された作品がいくつか紹介されている。
まず『BLAB!』について説明。1986年にMonte Beauchampにより創刊された、オルタナティブコミック、アート的なイラストレーションなどのアンソロジー誌。最初はMonte BeauchampによるMonte Comixから発行されていたが、後にアンダーグラウンドコミックスの出版で知られるKitchen Sink Pressからの出版になり、その後1997年から2007年にはFantagraphicsに移り、全18号が出版された。Fantagraphicsからのものを含め、出版はプリント版のみで現在は入手困難。
2023年にDark Horse Comicsで復活し、1号のみが発行されたがその後、現在のところ続刊は出ていない。とりあえず、Dark Horse Comicsからのものだけは、電子書籍版でも出版されている。内容的にはレトロ方向のオルタナティブコミックやイラストという感じで、なんかこういうのもいつかちゃんと紹介できるといいんだけど。

こちらのコーナーでは、最初に『BLAB!』のMonte Beauchampによる序文が掲載されており、将来有望な若きアーティストだったPeter Hoeyを、こんな儲からないコミックの世界に引き込んでしまったことを反省しているとか。
こちらに掲載されている作品は、それほど大きく作風が変わるものではないが、後の『Coin-Op』のものよりもややブラックかも。『Coin-Op』掲載と同様のジャズについてのイラストエッセイもある。そっちの初期のころは、レトロなロボットが出てくるような作品も好きだったようで、『Coin-Op』No.4に掲載の「Valse Mecanique」は『BLAB!』に掲載された作品の転載。

『Coin-Op Comics Anthology: 1997-2017』より 画:Peter Hoey, Maria Hoey

作者について

■Peter Hoey, Maria Hoey

Peter Hoey、Maria Hoeyはペンシルバニア州、フィラデルフィア出身。6人兄弟の、Peterが長男で、Mariaが末の妹。Pacific Coin Op Studioを設立し、共同でコミックの枠に留まらない多くの作品を作り続けているが、住んでいるのはPeterが西海岸サンフランシスコで、Mariaがニューヨークのブルックリンということ。
なんかこういうものって、昔こういうちょっと珍しいものがありました、みたいな感じで終わりそうなんだが、このHoey兄妹、現在も精力的に作品を作り続けていて、最新作『The Shadower』が今年2026年Top Shelf Productionsから出版されている他、2020年代に同Top Shelf Productionsから出版された3作がKindle Unlimitedで読むことが出来る。その他の多くの活動をPeter + Maria Hoeyのホームページで見ることもできます。

Peter + Maria Hoeyホームページ

なんかこういう少し変わったものや、変なアンソロジーとかも紹介したいなあと常々思いつつ、どうやったらいいのか思いつかなかったんだが、まあ結局のところ、どうだこうだあまり考えず、とにかくこういうものですとそのまんま出して、周辺情報なんかを加えて行くぐらいでいいのかと気が付いた。自分はこういうものも好きだし、なんか幅広く色々なものを見たいけど情報が無いというような人だっているだろうし。なんかこのくらいのサイズでちょっと珍しいものもなるべく多く紹介して行ければと思います。

なんか、前回3周年についてはあまりにやる気が無くて本当にすみませんでした…。まあ個人的な色々な事情で全く力が出なく、本店ともども一か月ぐらい休んでたという最中の一番底ぐらいのところだったもので…。自分的にはとにかく書いたということで今後も続けて行く意思表示ぐらいのものだったのですが。
とりあえずやる気がなくなったりしたわけでは全くありませんので。ただまあ、やっと再開となったところで、前に書いたように予定していたいくつかのものがなんか途方もなく時間かかるようなものばかりだったわけで、とにかく地道にちまちまやってくしかないなあ、とちまちまやって何とか少し先が見えて来たか、まだまだだけど、みたいなところでこの辺で一旦短く書けるのを、というのが今回というわけだったり。まだまだ先は長いので、次はまたなんか短いのをそのうちにということになるかと思うけど。とりあえずちょっと前にやった『Beneath』くらいのところで、今の動きとして紹介したいようなのもいくらでもあるんだよなあ。
あと、本店の方でちょっと書いたんだが、なんか力出なくて何もできない頃、ひたすら画を描いてて、しばらくやってるうちにそっち楽しくなって軌道に乗り始めたんで、またそっちに時間とられる方向になって来てたり。まあそっちは完全趣味なんでいかなる形でも世に出すつもりはないけど。
またまた一方で、本店ハードボイルドの方は、もうどうにもならんようなところは完全無視して作品紹介に突き進むしかないという感じで、少し以前より力を入れ始めたりとか。なんかあっちもこっちもで、有限な時間の中でこちらもモタモタしがちになりそうですが、日本になかなか伝わらない海外のコミックについて広く紹介して行かなければ、というのを使命のように思ってる狂人なので、これからも何とか続いて行きます。そんなところで。

Coin-Op Comics Anthology: 1997-2017 / Peter Hoey, Maria Hoey

■Coin-Op Comics Anthology: 1997-2017

■Blab! Volume 1 (Dark Horse Comics)

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