GhostBox / Mike Carey + Pablo Raimondi

廃屋で見つかった古びたオルゴールの秘密。注目のホラーファンタジー作品。

今回はMike Carey/Pablo Raimondiによる『GhostBox』。2025年に多分Carey個人のプロダクションと思われるKiller Cake ProductionsからComixology Originalsで出版されました。

Mike Careyという作家の知名度もあり、近年のComixology Originalsブランドでは一番の人気作ぐらいじゃないかと思う。最近では各話のモノクロ版なんてのも発売されているくらい。
Mike Careyについて詳しく書くと結構長くなりそうなんで、とりあえずここでは簡単に説明すると、イギリス出身の作家で主にアメリカDCマーベルで多くの作品に関わり、それと並行し多くの小説作品を著し、そちらにも日本にも翻訳されているようなベストセラー作品・シリーズを多く持つ作家。コミック作家としての知名度のみではなく、そちらの小説作品の人気もあっての話題作というところではないかと思う。もしかすると私が疎い方面でよく知らないだけで、このくらいの情報は誰でも知ってる当たり前の事なのかな?
作画Pablo Raimondiもアメコミビッグ2というところで多くの経験があるアーティスト。アルゼンチン出身らしい。最近、アメリカあたりのアーティストって、詳しい経歴を後公開してなかったり、場合によっては後から消したような形跡もあったりするんだが、色々と問題とか起こってるのかなあ。
とにかく一度は見ておくべき話題作ということで今回はこちらを取り上げました。では『GhostBox』。

GhostBox

■キャラクター

  • Chloe Peace:
    主人公。検査研究施設に勤める。よく知らない叔父が遺した家を相続する。

  • Jan Peace:
    Chloeの姉。妹と共に叔父からの家を相続する。

  • Warren:
    コーンウォール警察のパトロール警官。巡査部長。

  • Chris:
    コーンウォール警察のパトロール警官。Warrenのパートナー。

  • Anton Messer:
    アンティーク業者を名乗り、Chloeに接触してきた男。

  • Mary Fields:
    Ghostbox内の住人。

  • Li Xhu Xi:
    Ghostbox内の住人。

  • Sabine:
    Ghostbox内の住人。

  • Gerwais:
    Ghostbox内の住人。

  • Lion-of-God:
    Ghostboxの神。

■Story

Chapter One

主人公はChloe Peace。大学で生物学を学んだ後、そちら方面の研究所に勤めている女性。
その朝、Chloeは寝坊し、Uberのタクシーで急ぐも、遅刻して出勤。その結果解雇されてしまう。「君はこの二週間で3回も遅刻している」
家に帰れば、家主からの遅れている家賃の督促。おまけにドアをこじ開けようとして、爪まで痛めてしまった。
Chloeは軽食堂で、テーブルの向かいに座って食事している姉Janに、自分の立て続けの不運について愚痴を並べる。

しばらくは妹の生活態度の問題を指摘しながら話に付き合っていた姉Janだったが、バッグから封筒を出して言う。
「話を変えていいかしら?Max叔父さんが亡くなったことなんだけど」「ダレ叔父さん?」
実際には彼女たち姉妹の母の叔父ということで、全く面識はなかった。その叔父が亡くなり、彼が住んでいたコーンウォールの土地家屋が、遺産として彼女たちに遺されたという。
経済的に苦しい状況だったChioeは、降ってわいたようなこの遺産話に喜ぶ。二人は週末にその土地を見に行くことに決める。

伝えられた住所はかなり辺鄙なところにあった。長い時間をかけて運転し、周囲には何もないような道の果てに辿り着く。
「グーグルマップによればここのはずなんだけど」だが周囲には何も見当たらない。
その時、Janが地面にほとんど埋まり辛うじて見分けられる丸石の列を見つける。
その列を辿り、草木が生い茂り見分けもつかなくなっていた道の先に、少し開けた土地に建つ目的の家が見つかる。

家の中は荒れ果てていて、電気も止められていた。
居間だったらしい部屋を覗くと、そこには多くの骨董品が、埃を被り蜘蛛の巣が張った状態で積み上げられていた。
辺鄙な場所、荒れ果てた家。期待したような遺産ではないことに少し落胆しながら、姉妹はその辺の骨董品をeBayに出して売ってみるぐらいしかないかと話す。

『GhostBox』より 画:Pablo Raimondi

雑多に置かれている骨董品を、こういうものは欲しがる人もいるかもしれないと、微かな期待を込めて眺める姉妹。
そこでJanが、各面に模様の描かれたアンティークなオルゴールを手に取る。
「この古いオルゴールなんて良さそうね。ちゃんと動けばだけど。キーは回せるんだけど、何も起こらないわ」
スマホで写真を撮って行こうと話すChloeだったが、もう暗くなり始めているので今日は無理と指摘するJan。来週にまた早い時間に来ようということになる。
この家をこのまま売るのは無理だが、改装には相当の費用がかかりそうだ、と話しながら部屋を出て行く姉妹。
その後ろで、テーブルに戻されたオルゴールが、青白い光を放ち始める。

翌週、Chloeは別の研究施設で職を得る。週末も仕事に出なければならなくなり、eBayに出すアンティークの写真撮影にはJanが一人で向かう。
送られてきた写真を、Chioeは直ちにeBayにアップする。
数日後の夜、ChloeにAnton Messerと名乗る男から連絡が来る。
アンティークの業者だという彼は、出品されていたランプを1万ドルで買いたいという。他の品もまとめて5千ドルで買い取ろうとの申し出。
ただし、開催されるアンティークフェアの都合もあり急いでいるということで、翌日雨の中、姉妹は叔父のコテージへと向かう。

車で現地へと向かうと、Anton Messerは既に到着していたが、コテージを見つけられずにいた。二人はMesserを家の中へと案内する。
「できれば私が商品目録を作成したいところですな」室内を見たMesserはそう言い、ここにある全ての物に関心を持ったと語る。
思った以上の利益を上げられそうだと喜んだChloeは、家中を満たすアンティークをMesserに説明し始める。
その後ろで、Janは青白い光を滲ませているオルゴールに目を止め、それを手に取る。
その瞬間、Janの頭の中にイメージが広がる。

あちこちに地面が隆起して出来た小島のような山が並ぶ地形の中に、時代もバラバラな様々な建物が建てられ、そこから長い階段が下に続く幻想的な風景。
甲冑を纏った騎士。複葉機の前に立つ女性飛行士。遠くにはファンタジー世界から出てきたような巨木が聳えている。

『GhostBox』より 画:Pablo Raimondi

Janの様子に気付き、声を掛けるChloeとMesser。「大丈夫、問題ないわ」Janは応える。
「でも販売は終了よ」オルゴールを手にしたまま、振り返り告げるJan。
突然のJanの変化に戸惑い、頭でも打ったの?と抗議するChloe。
「説明できない。ここには何か重要なものがあるのよ。それはランプじゃない」Janは言う。
「まさしく、その通りだ」Messerは言い、ポケットから銃を取り出す。
「ランプは都合のいい口実以外の何物でもない。君たち二人にとって、君がそれを見てしまったのは不運としか言いようがないな」
「今すぐにその箱を渡してもらえないかな」銃を突きつけ、Messerは言う。

「嫌よ、渡さない」「頼むのはこれが最後だぞ」拒むJanに銃を突きつけるMesser。
その後ろでChloeが動き、傍の箪笥の中から金属の重りのリングを取り出し、Messerを殴りつける。
Messerが打撃に動きを止められているうちに、家から走って逃げる二人。
だが、車に辿り着いたところで、立て直したMesserに銃撃され、逃走手段を奪われる。

森の中へ入り込み、回り込んで車に戻ろうという考えで、森の奥へと走って行く姉妹。
だがそこで、背後からの銃弾がJanの胸を撃ち抜く。
倒れたJanに駆け寄るChloe。そこにMesserが歩み寄って来る。「お前たちは殊更に私の時間を無駄にさせている。箱を寄こせ」
「姉さんのために救急車を呼ばせないならこの箱を粉々にするわよ!」泣きながら頭上にオルゴールを掲げ、叫ぶChloe。
「そんなことはできないさ」Messerの左手の五指が鋭利な刃のように伸び、Chloeの腕を貫く。

箱を取り落とし、その場にしゃがみ込むChloe。そこにどこからか声が聞こえてくる。
『ねえ、もう戦いを始めるしかないんじゃないの?あいつを血まみれにしてやろうじゃないの』
「な、何?誰が話してるの?」戸惑うChloe。
『ああ、そこにいるんだね。あんたに聞かせるためにはかなりの時間話さなきゃならないようだね』

『そんなことはどうでもいい。今必要なのはお話じゃない』
『あんたが今やらなきゃならないのは、あんたがそこの指舐め怪人に殺される前に、そいつを殺すことさ。あんたにその気があるなら、あたしが助けてやれる』
『あんたはただ”イエス、マム”と言やあいい』
MesserはChloeを羽交い絞めにして尖った指を突き立てようとする。
「イ、イエス…、イエス、マム」Chloeは辛うじて声を出す。
そして、Chloeに語り掛けていた何者かが、彼女に乗り移り、その目が青白い輝きを放つ。

背後のMesserの首に肘を叩き込み、銃を奪い取るChloeに乗り移った何者か。
Messerの胸に蹴りを入れ、突き放す。「あんたの古臭い手はお見通しだよ、この山羊面のろくでなしが!」
「それにあたしはもっとうまい手を見つけてる」手にした銃でMesserの胸を撃ち抜く。

『な…、何が起こってるの?あたしの身体はそこにある。でも中には別の誰かがいる!』何処からか聞こえるChloeの声。
「これをやり遂げるための唯一の方法なのさ、お嬢ちゃん」Chloeに乗り移った何者かが言う。
「そして、あんたにゃ悪いんだけどね、この野郎そう簡単には死んでくれないんだ」倒れたMesserの上にのしかかる。
「きちんととどめを刺さなきゃね」
そして素手で胸から心臓を掴みだす。

そこで自分の身体に意識が戻ったChloeは、死んだ怪物Messerの上から這い降りる。
『体を返すよ。このウジ虫鼠ゾンビは今夜はEstivalのご主人の元に帰れないだろう』Chloeの身体に入っていた者が、また外から語りかけてくる。
『あたしのためにサタンのケツにキスしやがれだ。この期限切れのクソの切れ端が』
そこで背後から別の声が語り掛けてくる。『Chloe、血が出てるわよ。あいつに切られたのね。大丈夫?』
その声はJanだった。
「Jan?ああよかった、あなた…」涙を流しながら振り返るChloe。

だが、動かなくなったJanの遺体の後ろに立っていたのは、Janと先ほどまでChloeに乗り移っていたガンマンスタイルの体格の良い女性のゴーストだった。
『そうだね、こいつにゃ少々の説明が必要だろう』女性は言う。
『そして今、あんたに言えるのは、時間はあたしらにあんまり親切じゃないってことだ』

『GhostBox』より 画:Pablo Raimondi

Chapter Two

パニックを起こしたChloeは、その場から走って逃げだす。
女性ガンマンは、もはや人間の姿をしていないMesserの死体を見下ろしながら、Chloeが逃げ出すのは仕方ないが、Gohstboxを放り出して言ったのはマズいと話す。
Janは自分の死体にかがみ、のぞき込むが、自分が死んでしまったことがまだ信じられない。

森の中をやみくもに走り回ったChloeは、道へ転げ出る。通りかかったパトカーが、その前で止まる。
Chloeの様子を見て、車内から男女二人の警官が出てくる。
「助けて!姉さんが森の中で死んでる!」Chloeは警官に向かって繰り返す。
「見に行った方が良さそうね」女性警官は言う。

Janと女性ガンマンのゴーストは、Chloeが警官と共に戻ってくる様子を見る。箱は警察が持って行くことだろう。
あたしたちは行くことにしよう、という女性ガンマンに、Janはここに残って妹を見守りたいと言う。
『そうはいかないんだ。あんたはもう箱に属してる』そして女性ガンマンは、そこからは見えない別の誰かに話しかける。
『あたしたちはここでドアをノックしてるよ、Li Xhu。あたしたちを入れてくれるかい?』
『私たちと言ったのかね、Mary Fields?』呼びかけられたLi Xhuの声が応える。
『そうさ、新人がいるんだ。まだ冷たくなってないぐらいのがね』
『そいつは驚きで、喜ばしくない報せじゃな』

地面に置かれた箱が、内部から青白い光を放ち、各面がバラバラに開いて行く。
『だが、もちろんじゃ』Li Xhuは言う。『わしはあんたの謙虚な召使じゃからな、Mary、いつものように』
完全にバラバラに開いた箱から、青白い光が高く立ち昇り、その中に二人のゴーストは消えて行く。

警官と共に現場に戻ったChloe。
残っているのは、Janの射殺された遺体と、もはや腐食し分解した何かの動物の遺骸にしか見えないMesserだったもの。そして箱。
ChloeはJanが撃たれた経緯を説明するが、Messerが犯人であることを証明できるものもなく、疑いはChloeへと向かう。

*  *  *

『GhostBox』より 画:Pablo Raimondi

箱の中に入ったJan。それを持った時に頭に浮かんだイメージと同じ幻想的な風景が目の前に広がり、人種、時代もバラバラな見た目の人々が彼女を迎える。
Mary Fieldと話していたらしい過去の中国の服装の老人が、新来者が来たのは50年ぶりだと話す。
中世ヨーロッパ貴族らしい女性が、Janに名を尋ねる。
「Janよ。Jan Peace。ここは何なの?」戸惑いながら答えるJan。
「ここはGhostboxじゃ、Jan Peace。私は蓮花鎮のLi Xhu Xi。詩人にして外交官」老人Li Xhuが答える。「そして、取るに足らん能力の魔法使いでもある。ようこそ、と言わせて頂こう」

自分に起こったことが信じられず、その場にしゃがみ込むJan。その横で、Maryが迎えた人々に話し始める。
「このピクニックを台無しにする奴にはなりたくないんだがね、あたしは外でドーントレッダーの一匹と出会った。そしてそいつは箱を狙ってた」
「なんてこと、奴ら私たちすべてを吞み込むつもりだわ!」フランス語混じりで慄くヨーロッパ貴族の女性。
「Estivalの手の者か?確かなのか、Mary?」Li Xhuが言う。
「あたし自身で奴の心臓を引き裂いてやったよ。確かさ」Maryが答える。

「そ奴の単独行動だったのだろう」甲冑を着た騎士が言う。
「馬鹿なことを言わないで!奴らが単独で動いたことなんてある?」ヨーロッパ貴族の女性は言う。「大勢のやつらが来るわ!何百もの!」
「本当なの?あんな奴らがもっといるの?」Janが口を挟む。
「ああ、煮えたぎった連中がね」Maryが答える。
「でも…、私の妹がそこにいるのよ。あの子を助けなきゃ」
「あたしたちがやらなきゃならないのは、Lion-of-Godに会いに行くことだね。あいつがこの事態に何を言うか聞いてみなければ」Maryは言う。
「あんたの妹は今のところは安全さ。あんたらのところの官警に護られてる」

*  *  *

警察署に連行されたChloe。事の経緯を必死に説明するが、彼女が犯人だというMesserという人物は見つからず、銃についている指紋は彼女のものだけ。
まだ逮捕ではなく、詳しい捜査が進むまでは参考人という形だが、Chloeは手錠を掛けられ、留置場へと連れて行かれる。
「ああJan。なんてこと…」留置場でうなだれ、失意に顔を覆うChloe。
「その箱を下の証拠保管室に持って行こうか、巡査部長」Chloeを連行した男性警官Chrisが、パートナーのWarren巡査部長に問いかける。
「ええ、そっちに行く都合があるならお願い。ありがとう、Chris」Warrenは答え、箱を手渡す。
「これが何かの忘れ去られていた宝の類いだと思うかい?」「いいえ、ただのガラクタにしか見えないわ」
「でも、私に何がわかる?多分私たちは明らかに明白な何かを見落としてるのよ」Warrenは言う。

*  *  *

『GhostBox』より 画:Pablo Raimondi

Ghostboxの中。Li Xhuを先頭に、一行は壮麗な教会へと向かって行く。
Janは隣を歩くヨーロッパ貴族の女性Sabineに、Lion-of-Godとは何者なのか尋ねる。
「最初にGhostboxの圏内で死んだ者、最初にこの場所に閉じ込められた者よ」
教会の中、奥に座る天使のような羽を持つ巨大な神Lion-of-God。その身体には治癒することのない傷が多く残っている。
「Lion、あんたと話さなきゃならない。Estivalの奴らが、またあたしらのケツを嗅ぎまわり始めた」Maryが言う。
「我々は脅威下にあります、偉大なるお方。我々はあなたからの助言を必要としております」Li Xhuが言う。
「それについては、もう以前にも話したではないか」不満気に応えるLion-of-God。
「ああ、前にずいぶんとね。それであんたはいつもあたしらを助けてくれた」Maryが言う。
「あたしらは、今またあんたがそうしてくれると大いに期待してるのさ」

「私はかなり多くのことを…、忘却している。私は自身を…、素材として…、様々な大いなる創造のために使った」Lion-of-Godは言う。
「私は…、もうかつての私ではないのだ」
「それでもまだ、あたしら以上のもんだろ。そしてあたしらは今、ここでレッグトラップに捕まっちまってる」Maryは言う。
「あたしらがここから抜け出すための仕掛けが、なんか残ってないもんかね?」
「箱は…、既にEstivalの…、手にあるのか?」Lion-of-Godは問う。
「いえ、普通の者たちにより保持されております」Li Xhuが答える。
「何者かがそれを貯蔵庫に向かって運んでいる。それと外の世界の間には多くの鍵がかかった扉がある」
「それでは…、私ははこの鍵をあつらえるとしよう。しばしの間それを鍵の王とする…。さすれば全ての錠はそれに服従する」Lion-of-Godは言う。
「しかしそれでも…、お前たちの一人がまた外へ出ることが必要となる。他者の肉の中へと…、入って行かねばならない」
箱を安全に回収する任務を担うのは、甲冑姿の騎士Gerwaisに決まる。
外で危険にさらされているCloeを心配するJan。だが、Maryは自分たちにできることはないと告げる。

*  *  *

「主よ」暗闇の中で声がする。
そして、松明が灯される。松明を持つ銀髪の男が言う。
「主よ、しもべたちがあなたのお怒りを鎮めます」
石壁に囲まれた光の入らない建物の中。松明を持った男と、それに従う男女が、手すり越しに見下ろす石壁に囲まれた地下に「主」と呼ばれた、人間を含むあらゆる生物を出鱈目に溶かし合わせたような巨大で悍ましい怪物が広がり蠢く。
「明かりを消せ。我には苦痛だ」「主」は言う。
「仰せの通りに、偉大なるお方よ。しかしまず、我々はご指示をいただかねばなりません」銀髪の男が言う。
「Messerは失敗し、箱は再び失われました。我々はどうすればよろしいでしょうか?」

『GhostBox』より 画:Pablo Raimondi

「見つけ出せ、他に何がある?箱が我等のものとなる時、我等は再び自身の肉体の主となるのだ」「主」は言う。
「しかし…、一体どうすれば…?」
「お前にはできまい、だが我には可能だ」
「Messerは非常に近いところまで行き着いた。箱の闘士の一人が借り物の肉を纏い、あ奴を切り伏せた」信者たちの高さまで顔を持ち上げた「主」が言う。
「だがあ奴はその者に自身の血で徴を付けた。我らが辿ることが出来る道筋を残したのだ」
「我等が何をすればよいか言ってください。畏怖たる父よ」銀髪の男は言う。

「お前たちの一人が我が口に飛び込むなら、その者の肉体を我自身により拡張させよう」「主」は言う。
「そしてGhostboxの在り処へと、汝を産み落とす」
「喜んで!」後ろに控えていた男が、手すりへとよじ登る。
「よかろう。自発的であることこそが望ましい」
男は、「主」の大きく開いた口へと飛び込んで行く。

Ghostboxの騎士Gerwaisは、保管倉庫へと箱を運んでいた警官Chrisに憑依し、箱を確保する。
だがその一方で、「主」の力により恐るべき怪物に変えられたEstivalの信者が、留置場の壁を突き破り、Chloeへと襲い掛かる…。

『GhostBox』より 画:Pablo Raimondi

とりあえず第2話の途中というところなんだが、全体的な敵味方関係や、話の道筋が見えてきたこの辺まででよいかと。
こっちの分類としてはHorrorってところに入れてしまったけど、どちらかというとファンタジーなのだろうか。
前書きによると、作者コンビがこの作品を最初に企画したのは15年程前ということ。両者それぞれに忙しかったりというところもありながら、一旦はDC/Vertigoに企画を持ち込んだが、なかなかに実らず、そのうちにVertigo自体も終わってしまった (昨年復活)。そこであちこちのパブリッシャーに打診した後に、今のComixology Originalsからという形に辿り着いたということ。
単行本版の出版は2025年7月なのだが、それに先立ち単話版が一話ずつ順次発行されており、その頃からComixology Originalsの中では群を抜いてぐらいに人気が高かった。先にも書いたが、これはMike Careyのコミック分野に留まらない、小説作家としての人気も加わったが故のことと思う。
前書きを読むと、なかなか企画が通らない作家の苦労話に見えるが、まあ実際のところはアメリカのコミック全体が最も落ち込んでいた時期で、いいときだったらメジャーどころから出版され、とっくにヒット作になっていたのかもしれない。

この作品は、一巻にまとまった単行本版の最後で一応完結しているが、続編がある含みも残している。それなりのヒットという状況はやはり成功として、続編の制作も進められていて、現在出版中の単話モノクロ版はそれまでのつなぎなのだろう。
さらに言えば、この作品まだアナウンスはないが、水面下で何らかの映像化の話は動いているのではないかと思う。あんまりうまく説明できてなかったかもしれないが、ホントディズニー映画方向って感じの説明がぴったりだと思うし。この作品についてはそういう方向でまだ大きくなる可能性はありだと思う。まあComixology Originalsってところから、Amazonからっていうのが一番有力だろうが、Mike Careyのキャリアからするともっと別のところからというケースもあり得るかも。もしかすると、既に作品外でもGhostboxの争奪戦は始まっているのかもしれない。うわ、柄にもない方向でうまくまとめた感じで、こいつドヤ顔だぞ…。

昨年7月に出版され、これは必須でチェックしておかなければならない作品だと思いすぐに読んだんだが、ここまで引っ張ってしまったのは、まあ自分の進行状態が全般的にザコ遅いということもあるんだが、ファンタジーってあんまり得意な分野じゃなくてとかで、上手く説明できないかもというところがあってなんだが、なんか自分以外にやる人もいないまま、この先映像化とかで話題になっても、原作コミックというのはその辺で騒ぐ連中の通例で粗雑適当に扱われるんだろうなという思いもあり、この辺でとりあえずやっとかんとと踏み切った次第。
もう一つ引っかかっていた部分で、この主人公Chloeさんが、あんまり好きになれず感情移入しにくかったということがあるかなあとも思う。ルックスみたいなことではなく、なんかやたら軽くパタパタした感じの、表情も含めたオーバーアクションな感じ。
しかしね、よく考えてみると作中でこういうイラッとするような動きをしているのはChloeだけで、他のキャラクターについてはそれぞれに合った動きとして描かれており、作品全体から受けるイメージではないことに気付く。さらに言えば、紹介した部分での西部の強面ガンマンおばさんが乗り移った状態と、後に出てくるChloe本体でのアクションシーンの動きさえもきちんと区別して描かれている。
つまりこれは、日本の自分のようなひねくれものについてはイラッとさせられるが、英米の大半の人にはかなりストレートに感情移入できるキャラクターとして完璧に描かれているということなのだろう。ここからPablo Raimondiは非常に優れたアーティストだと断言できる。
そんなわけで、個人的な気分で少しもたついて紹介することになってしまったが、この『GhostBox』、今のうちに読んでおくべき作品としておススメです。ただし、もしかすると主人公Chloeさんにはちょっとイラッとさせられるかもね。

作者について

■Mike Carey

1959年、イギリス リバプール生まれ。大学卒業後、15年英語教師として勤めた後、コミック作家としてデビューしたという結構変わった経歴の持ち主。
1990年代初めごろから英国独立系出版社でコミックの仕事を始め、2000ADへの登場は1999年というあたりだが、その一方で同時期からDC/Vertigoで『The Sandman Presents』も手掛け始めている。この『GhostBox』の舞台も英国で、英国人・英国作家という意識は強いのだろうが、その後の経歴の主なところはアメリカでの作品となっている。
代表作としてはVertigoからの、Sandmanスピンオフの『Lucifer』(2000-2006)、オリジナル作である『The Unwritten』(2009-2013)など。2002-2007ごろの『Hellblazer』といったところもある。DC本家の方の作品は少なめ。マーベルでは2006年頃からのX-Menのメインライターぐらいのポジションだった。
2006年からは小説作品の執筆も始め、コミック作家の与芸に留まらない形で現在までに20作以上を出版している。まあコミックの方がさっぱり紹介されない一方で、小説作品が翻訳されている日本では、小説家という印象の方が強いのかもね。なんかミステリ方面の出鱈目さからあの辺の出版社の出版物の宣伝みたいなことしたくないんで、詳しく知りたい人は自分で調べてね。
こうして見ると、アメリカのコミックメジャービッグ2で多くの仕事をしている一方で、なんか独立独歩かもという印象も受ける作家がMike Careyという人なんではないかと思う。そのCareyが、とりあえず個人出版という形で出し、それなりのヒットからもっと大きくなるのではと期待されるのがこの『GhostBox』という作品なのだろう。現在のアメリカのコミックの中での今後のCareyの動向に注目という意味でもこれは押さえておくべし。
というところなんだが、うーん、実は自分的にこのMike Careyという人、ことごとく読めてないところだったりするのでちゃんと説明できたかいまいち自信がない…。理由としては、Vertigoクラシックの『Swamp Thing』や『The Sandman』、『Hellblazer』といったところがなかなか進まず、次に来てるCarey作品までなかなか届かん、みたいなしょうもない理由だったりするのだが…。またVertigoクラシックというところ読んでると、源流の英2000ADに遡りたくなったりとかな。ホントVertigo作品読まなければというのがまだまだ山のようにあるんで、少しずつ崩しながら早くMike Careyに届けるよう頑張りますです。

■Pablo Raimondi

1972年生まれの、アルゼンチン出身のアーティスト。1990年代半ばごろからアメリカで活動を始め、主にビッグ2、どちらかというとマーベルが多そう。マーベルでのブルベイカーとの『Books Of Doom』あたりが代表作らしい。その他には、2018年にKlaus Jansonらと共作で『Sacred Creatures』というオリジナル作品をIllustratedというところから出版している。こちらは現在プリント版ペーパーバックのみで、シナリオの方も担当しているようだが、詳細は不明。この『GhostBox』ではエディターとしてもクレジットがある。

なんかどうにももたついてるので、言い訳的になんか書かなきゃとか思うんだが、まあ今年の猛暑にやられてぐらいのもんでしょうか。なんか熱中症で倒れて、しばらく中断みたいなことにならんよう気を付けて、週に1~2回休みになってたりぐらいでモタモタやっているところです。とにかく熱中症には気を付けてね。

GhostBox / Mike Carey + Pablo Raimondi

■GhostBox

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