She’s Running on Fumes / Dennis Hopeless + Tyler Jenkins

気鋭のコンビが描く異色クライム。お母さん奮戦記。

今回はDennis Hopeless/Tyler Jenkinsの『She’s Running on Fumes』。2024年にComixology OriginalsからHopelessの個人出版という形で、全6話で出版され、TPB1巻にまとめられています。

マーベルでX-MenやSpider-Man関連など、結構メジャーな部分で活躍してきた印象のあるDennis Hopelessと、Matt Kinditとのタッグも多い、少し特殊・個性的なアーティストに分類されるようなTyler Jenkinsという組み合わせは、少し意外な感じにも見えるのかも。
だが、数少ない初期のオリジナル作品や、女性キャラクターの視点というような部分で評価されて来たDennis Hopelessの経歴を少し探ると、原点回帰的な方向で一つの転機を考えたのがこのオリジナル作品なのかも、というあたりも見えて来たりもする。

とりあえずサブタイトルで異色クライム、というような分類をしたが、事故で大怪我を負った犯罪者気質の夫の不始末に振り回され、犯罪の世界に片足を突っ込んで行く二児の母というストーリーは、文学やインディペンデント映画などで多く描かれているような、現代アメリカのローライフといった方向の作品なのかとも思う。
色々な部分で近年のアメリカのコミックという中で注目点の多い『She’s Running on Fumes』です。

She’s Running on Fumes

■キャラクター

  • Jean:
    Jodyの妻。二児の母。厄介事ばかりを引き起こす夫に悩まされる。

  • Jody:
    Jeanの夫。その日暮らしの犯罪者。

  • Alisa:
    Jeanの娘。

  • Dennis:
    Jeanの息子。

  • Ghee:
    Jeanの母親。夫Ervinとは離婚している。

  • Ervin:
    Jeanの父親。農場経営。

  • Mike:
    Jodyの昔からの友人。バイカーMike。

  • Patti:
    Mikeの恋人。気性の荒い女性。

  • Corn Dog:
    廃車のジャンクヤードで働く。Jodyから盗難車パーツの販売を持ち掛けられている。

  • ボス:
    町の犯罪組織のボス。

  • Clifford:
    親のスーパーを受け継いだ少し頼りない店長。

■Story

1984年の夏、父さんのモンテカルロはフォード・ブロンコとT-Boneクラッシュした。

父さんは辛うじて生き延びたが、大怪我を負い、脳にダメージを受け、働けなくなった。

でも、それはもっと後の話。ここは1983年の冬。

クリスマスで混雑したショッピングモール。一家の車は込み合った駐車場内で身動き取れなくなっている。
「なんでこのアホ共は一斉にまとめてここに来てやがるんだ?」「クリスマスのモールなのよ」「先月に来てこの全部早く買っときゃ良かったんだ」車内で話す父Jodyと母Jean。
「先月にどの金でよ、Jody?」「お前俺に突っかかる気か?ここで今?」「夕飯にタコス食べたい人~?」
母の問いかけに、タコス!と喜びの声を上げる二人の子供たち。

渋滞に業を煮やしたJodyは、駐車場横の斜面を突っ切り外の道路に降りる。
「Jody!何するのよ!」「しっかり捕まってろよ!お前のBodak Sackに!」

僕はそれが何なのか知らない。でも父さんはいつもそれを言い続けていた。

「あんた今逮捕されるような余裕ないのよ」「ハハッ!気楽に行こうぜJean」「Corn Dogとの仕事を失くしたらどうなると思ってるの?」
「仕事って程のものじゃないさ。一緒に車を売るだけだ」「盗んだ車をね。売るって言葉はお金の持ち主が変わるって意味よね」
「前は買い手がいたんだ。Boodieは解体から足を洗いやがった。今度あのクズ野郎を見かけたら…」
「野郎のケツを引っ張り出してやる」そう言いながら外を見るJody。その横を当のBoodieが運転する車が通り過ぎる。

「何してやがる、この野郎!」逃げ出すBoodieの車にスピードを上げるJody。

父さんはまるで海賊船の船長だった。

モラルのコンパスには従わず、素早くせしめ、その日を楽しく暮らす。

個人崇拝のホワイト・トラッシュ…。

「子供が乗ってるのよ!」Jodyの暴走に慌てるJean。「クールユアジェッツ(落ち着けよ)」

そして町の低所得犯罪者連中の中の王様。

車内でもみくちゃにされ、悲鳴を上げるJean。

母さんのジェッツはクールどころじゃなかった。

その爺さんは低賃金労働者でいっぱいいっぱいだった。犯罪の片棒なんて担ぎたくなかった。

「クソクソクソクソッ!」Boodieの車は作業場を兼ねている自宅へとたどり着く。

だが海賊は海賊だ。

そしてボンクラ犯罪者はボンクラ犯罪者として行動する。

Boodieは車から降り、家へと走る。「Jody!やめてくれ!」

連中はヤケクソになり、王様からかっぱらい始める。

あるいは船長から。もしあんたが元の比喩をお好みなら。

「俺がこのドアをぶち破れないと思うなよ、Boodie!」Boodieが立て籠もった家のドアを殴りながら、叫ぶJody。
Jean達が待つ車に、外にいたBoodieの作業員らしき男が寄って来て話す。「Jodyに言ってくれよ。俺、盗んだパーツには何にもしてねえからな」

こいつがCorn Dog。

「あいつに言ってよ!」車の中から叫ぶJean。「あいつらを止めて!何とかしてよ!」

「俺から盗むだと?!」ドアから離れるJody。
「どうなるか見せてやるぜ」BoodieのジープにガソリンをかけるJody。
「Jody?!なんてこと!」Jodyの行動に驚愕するJean。怯むCorn Dog。「うひゃあ」
「今すぐ出てくるか、間抜け野郎?俺の忍耐力をもう少し試してみるか?」
点火したライターを掲げ、家に向かって叫ぶJody。

窓からその様子を窺うBoodie。「おいおい」
「そいつは俺のジープだぞ!」ドアから出てショットガンを撃つBoodie。慌てて飛び退くJody。

その時、母さんは25歳。

「クソクソクソクソクソクソクソッ!」運転席へと移動するJean。

盗品であることを知っているモンテカルロをホットワイアでエンジンをかける。

モンテカルロを発車させるJean。
「そうだ!ぶっとばせ!ここから離れるんだ!」モンテカルロに向かって走るJody。
ショットガンを撃つBoodie。ジープから炎が上がる。

それが母さんにそれに長く関わり続けたことを後悔させる。

それが母さんが逃走車を走らせた話。

二人の子供とクリスマスプレゼントの山を後ろに乗せて。

本当にひどいことになる6か月前に。

車に箱乗りして快哉を上げるJody。「イカす運転だぜ、スィート」
「畜生」罵りながらハンドルを握るJean。
その後ろでBoodieの家が爆発する。

『She’s Running on Fumes』より 画:Tyler Jenkins

画がないと余計にわかりにくいかと思うが、冒頭からナレーションをしているのは、姉弟の二人の子供の弟の方。念のため。

Deepwater, Missouri. June, 1984.

別の家へ引っ越す一家。家の前にピックアップトラックが駐められ、Jodyと手伝いに来たMikeが家具を運び込んでいる。
「ドッグフード工場から安定してトラックを走らせるには、バックバンパーからいくらか重量を落とさなきゃなんねえ。どのドライバーもちょっと重すぎるんで逮捕され、差分を上から掠め取られるんだ」「で、捕まったのかい?」「そんなことじゃ捕まらねえよ。だが例の放火での逮捕の後、上の連中は何か探り始めてるがな」「そうなるもんだよなあ」
「Boodieジジイは告発もしてねえ。俺たちはここで数か月身を潜めてることになるな。連中には俺が存在してることも忘れさせる。冬頃に向けて新しいなんかを企てるさ」「長く待つこともねえだろうな」
「新しいいたずらの方がお前を見つけに来るさ」笑い声を上げる二人の男。
「その通りだぜ」Jodyは言う。
家の中からその様子を眺め、ため息をつくJean。

「すべてはあるべきところに収まるのさ。俺が言ったようにな」家に入りながらJeanに話すJody。
「バイカーMikeが、マリーナに下ったところに新しいバーを建てる手伝いの仕事をくれた。”The Shady Lady”だとさ。次への一段階に過ぎんがな」
「どこだあ?なんでクラッカーぐらい買っとかないんだよ?」棚を探りながら言うJody。「最後のお金もとっくに出てっちゃったわよ」とJean。
「誰の最後の金だよ?」
「後で町に仕事を探しに行くつもりよ。荷物を片付けたらね」Jeanは言う。「分かるでしょう、助けが必要なの。今は子供を見ててくれる人ね」
「お前にとっちゃラッキーなことに、俺は何の助けも必要としてねえ」Jodyは何処かに持っていたカネをばらまいて言う。「とりあえずクラブクラッカーだ、キーブラーのやつな。それがお前の仕事さ」
「どうやってもう払ってもらったのよ?」「気に病むほどのことじゃねえよ」Jodyは外に戻って行く。

*  *  *

子供たちとスーパーに買い物に来たJean。弟Dennisがカートに乗り、姉Alisaが横を歩いている。
「あたしがあんたらの父さんが思う半分ほどでもバカだったらねえ」カートを押しながらつぶやくJean。
「あたしカート押したい。あたしカート押したいー」とAlisa。「グレイスカルの力により!」手に持った何かを掲げて言うDennis。
「クラブクラッカー、キーブラーのね」棚へ向かうJean。
「ようこそ、クラブへ。自己中心主義の空っぽ頭クラブへ」棚に向かって呟くJeanの後ろで、Alisaの押したカートが積んであったコーラの列へと激突する。
「お母さーん!」目を瞑るJean。

子供の横で床に膝をつき、あきらめ顔を伏せてコーラのぶちまけられた床を拭くJean。そこに店員がやって来る。
「いいですよ、お客さん。そんなに大変なの」
「あたしがやったんじゃないと思う」「Alisa」「なんで赤ちゃんがやったんじゃないってわかるの?」「僕は赤ちゃんじゃないよ!」

買い物を終えたJeanは、レジを担当する先ほどの店員と話す。
「新しく町に来たようにお見受けしますが?」「新しくというより戻ったとこ」「おや、ここで育ったんですか?」「んんんまあ…」「それでお子さんをこちらで育てようか、ってところですかね」
「すみません、レジはあまり早く打てなくて。ここは私の両親の店なんですよ」レジの男は言う。
「今は私の店ってところなんですが、私はこのレジを十年ぐらい触ってなくて」
「Beckyが今日の遅番で、RhondaはまたDerekともめてて、彼女がどうなるやら…」
「クラッカーはG8よ」愚痴を言いだした男 -店長に口をはさむJean。

「ソーダはB16、パンはB5、全部の青果物はP-One、でも重さを見なきゃならない」Jeanは続けて言う。
「なんでそれを…?」「5年ほどやってたから」
「それにレジのそこに小さなリストが貼ってあるわよ」
「ああ、本当だ。私は駄目だな」苦笑して呟く店長。
「その経験をさらに増やすことに興味はないですかね?経験のあるレジ係の人手不足に殺されそうなんだ」「フフッ」「それはクスクス笑いで、ノーじゃないよね」
一旦は笑顔を見せるが、振り払うように言うJean。「いいえ、それはノーよ。できないわ。これで会計を済ませて」

『She’s Running on Fumes』より 画:Tyler Jenkins

カートを押して店を出るJean。その後ろで子供たちが騒ぐ。「お母さん!Dennisったらずっと食べ物に触り続けてるよ」「それが何!?」「こいつ全部赤ちゃんゲロにしちゃうわ」「そんなことしないよ!」
子供たちを車に乗せながら、黙って空を見上げるJean。「お母さん、あたしお腹空いた」「スナックだ!」「うるさい、黙れ」
「あたしが最初に言ったんだからね。それはあたしが先に食べる権利があるってゆーこと」Jeanは黙って運転席に座る。横には缶ビールのシックスパック。
「お母さーん!」Dennisが叫ぶ。Jeanは足に挟んだ缶ビールを開ける。

Two Beers Later…

家に帰ったJeanは、外のポーチに腰かけ、夕暮れを見ながらビールを飲んでいる。
家に近づいて来る車。「二人とも見てごらん」Jeanは家の中の子供たちを呼ぶ。
「あれ誰の車かな?」「Ghee!」喜んで走り出してくる子供たち。

母さんの母さん。a.k.a. Lyla。a.k.a. Ghee。

ぬいぐるみと多くの荷物を抱え、車から降りて来るJeanの母Ghee。子供たちが駆け寄って行く。
「誰かがあたしの小さい車にクマとアイスクリームを詰め込んじゃったのよ」「ケアベアだ!」「あなたたち二人で片付けるの手伝ってくれないかしら?」「僕がやる!僕がやる!」
「本当にたくさんのアイスキャンディーが出てるのよ。母さんに忘れさせないでね」言いながら冷凍庫に持ってきたアイスをしまうGhee。
「母さん…。うちの冷蔵庫にお金を入れとくのやめてよ。あたしたち大丈夫だからって言ったじゃない」その後ろで言うJean。
「ムムム、それは実際には、あなたが湖の底の泥に頭を突っ込んで、喉を鳴らして言ってることよね」アイスキャンディーを手に持ち言うGhee。「それにあなたが大丈夫だったとしても、そこの角を曲がったところで、全部が大丈夫じゃなくなるかも」

ソファに座り話すJeanとGhee。
「それで何も訊かないの、母さん?」「何を?」「あたしたちがここで何してるのかを?なんでJodyがあたしと子供たちを連れてこっちに戻ったのかを…」
「そうね、それは…、あたしには関係ないことだから」「あたし、また彼と別れようかと思ってるのよ。子供たちを連れて」
「Jeannie、だめよ」Gheeは言う。「お父さんと別れたのは、私がみんなにやった最悪のことなんだから」「そんなことないわよ。母さんたちはもっとまともじゃない」
「あの人は死ぬまであたしを憎むことでしょうね。そしてあなたの姉さんたちは、あたしが彼女たちの子供時代に火を放ったかのように振る舞ってる」「姉さんたちは成長して出て行ったじゃない。私は実際にそこにいたんだから」「そうね、そしてあたしはそんな悪い見本を作るべきじゃなかった」
「あたしだって目はついてるのよ、Jeannie。あなたがどうやってここまで来たかは分かってる」Gheeは言う。「でも、こんな時に逃げ出せば、あなたはずっとそれを後悔することになる。あなたが愛する男性が駄目になるなら…」
「あなたが全力で彼を支えなきゃ」黙って母を見返すJean。
その時、玄関からノックの音が聞こえる。

玄関に立っていたのは、Jeanの父Ervinだった。「Jeannie、邪魔して悪いんだが…」
「Ervin」別れた夫の来訪に驚くGhee。「Lylaか」帽子を取って応えるErvin。
「遅い時間だけど何かあったの、父さん?」Jeanが言う。「なんでこんなところまで来たの?」
「うまく言う方法が見つからんのだが…」口ごもるErvin。「事故があったんだ」
「Jodyがかなりひどい状態だ」

*  *  *

84年の夏さ。憶えてるかい?

モンテカルロの横腹に突っ込むフォード・ブロンコ。

大型のボルトカッターを操作し、Jodyを車の中から救い出す消防隊員たち。
「彼を出せ!引っ張り出すんだ!」

救命措置を行う救急隊員たち。
「圧力を維持しろ!」「彼を失うぞ!」

それは深い静寂というのとは少し違うと思う。

硬い表情で病院へ向かうJeanと父Ervin。

お爺ちゃんはとても口数の少ない人だった。

そして、その日の母さんはぎこちない沈黙の女王だった。

そんなわけで、今生きている誰もこの時のことの詳細は本当には憶えていない…。

病院の手術室で手術を受けるJody。

『She’s Running on Fumes』より 画:Tyler Jenkins

病院の廊下、Jeanは手術担当医から説明を受ける。
「重度の頭部外傷により、脳がかなりのダメージを受けています。シートベルトにより肋骨及び胸骨を骨折。腕に裂傷があり縫合しました」
「更に肺虚脱。依然呼吸装置が必要となっています」
「それは説明してもらいました」Jeanは言う。「今後は?」
「現在奥さんにはなるべく近くにいていただきたい」

「どこに行けるっていうの?」Jeanは呟くように言う。「あたしが聞いてるのは、例えば…、彼は歩けるようになるのかしら?」
「今言えるのは、奥さんもなるべく離れず容態を見守ってもらいたいということです」ガラスの向こう、様々な医療機器に繋がれ意識不明のJody。
「万一の場合に備えて…」医者は付け加える。
「分かりました」ガラスにもたれ、言うJean。

病院の待合室に座るJean。Alisaは膝の上で眠っている。後ろの窓の向こう、何か話しながら病院の通路を歩いて来る男女。
やって来たのはバイカーのMikeとその彼女のPatti。「やっと見つけた。ここにいたのか」「一体何が起こったっていうの?」
「助手席側からの衝突。運転手は明らかに酔ってた」「畜生」「Jodyが素面だったってわけじゃないけど」
「奴はどこだ?会えるのか?」「他に何か聞いてる?」「そっちのやつは逃げたって…。そういうこと」

待合室のスナックの自販機の前に立つJean。
「それで手術した医者はJodyが生き延びるとは思ってないみたい」「そう言われたのか?」「あたしにそばを離れるなって言い続けてる。今晩ずっと」「警察はどうだ?連中は…、他に何か見つけたのか?」
「何を見つけたって、Mike?これはマーダーミステリーじゃないのよ」振り向いて言うJean。
「そういうことじゃなく、つまり…」「あたしたちはもっと別の話があると思ってたのよ」
「別の?あんたたち何かやってるの?」

画像を見ると、運転席側に衝突してるんだが、セリフの中では「助手席側からの衝突」とされている。これは作画への連絡上のミスなんだろうな。まあ画を描く側からするとページの中での構図上こっちのほうがいいということになるんだろうけど。

Granpa’s North 40. Late…

JeanとMike、Pattiは事故車が置かれているJeanの父の地所にやって来る。
「コカインね…。それが食料品支払いの現金の出どころだったわけね。あのバカ」
「アーカンサスからアイオワまで。彼の仕事は受け取って渡してくるだけだったのよ」
「この手の汚え現金はシートの下に隠してあるもんだが」

バイカーMikeと父さんは、両親がデートしてた頃からの同じ建物に住む隣人だった。彼は父さんが最上のドラッグを手に入れてた理由の一つ。

Mikeは口にペンライトを咥え、事故車の中を探す。
「オマワリはそれを見つけなかったの?」
「外から特定してるんじゃなきゃね。車はあんたらの個人所有物。連中は疑う理由がなければ探すことはできないわ」
「最後に俺が見た時には、コークはここにあったんだ」「彼がもう運んだあとじゃなかったのは確かなの?」「そうよ」
「あいつの運んでたブツが消えたことは、俺たちを面倒な立場に追い込む」「どのくらいのコカインの話なの?」「かなりの量さ。5万ドル相当」

JeanとJodyの家。寝込みを起こされぐずるAlisaをなだめて寝かそうとするJeanの後ろで、家探しするMikeとPatti。「ねえな」「ここのどこかにあるはずよ。カウチの底を引っぺがしてみる」
「そんな大きい場所じゃねえんだ。ここにあるならもう見つかってるはずだ」Mikeは言う。
「そうよ、ねえ、あたしは今は病院に戻らなきゃならないわ、それで亭主が死んだときに書類にサインしなきゃ」Jeanは言う。「でも、ねえ、もしあいつが生き延びたら、あたしは喜んであんたたちの消えたドラッグについて尋ねるわよ」
「あたしたちのドラッグだって?いいえ、そうじゃない。あのコカインはJodyが運ぶことになってたものよ」PattiはJeanに怒りの目を向け言う。
「Mikeはここでできるだけのことをした。あんたの亭主はボスとの契約を破った。これはヤバい奴に対する超デカい借金なのよ」
「それでもしボスが取り立てに来た時、Jodyが持ってるものがあんたの薄っぺらいおケツと二人のチビガキだけだったら…」
険悪な雰囲気にMikeはPattiを急かすように家から出て行く。
「それがボスが持ってくものになるのよ」「だからよお…」「あのコカインを見つけるのが身のためだと思うけどね」
「さもなきゃカネを印刷する方法でも勉強することね」

『She’s Running on Fumes』より 画:Tyler Jenkins

病院に戻ったJean。機器に繋がれ意識のないJodyを見下ろす。
両中指を立て怒りをぶつける。Fuck!You!
ベッドの横に座り、頭を抱えるJean。
「あたしはこれをどうすりゃいいのよ、Jody?」「逃げる?どこへ逃げるの?」「あたしはあんたとは違う。あたしは嘘と誤魔化しで5万ドルを何とかすることなんてできない」「盗む方法さえ知らない…」
そこでJeanは気付いたように頭を上げる。
「…盗む」

Corn Dog’s junkyard

父さんはその晩死ななかった。

でも、起きて答えを話すこともなかった。それで…。

Corn Dogのジャンクヤード。廃車の山が広がる中、流れている音楽に合わせて歌いながら作業をするCorn Dog。
そこに廃車の山の間の通路を抜け、車がやって来る。「ありゃあ誰だ?」
運転しているのはJean。その車のフードに猫が飛び乗る。
「ああ、こいつ何なのよ。あたしここで何やってんの?」車の中で呟くJean。「Jodyが動けないからって、この考えは馬鹿げ過ぎてる。あいつとその仕事がなくなったからって」

「日曜はやってねえんだけど…。どうも俺がゲートにチェーンを掛け忘れた見てえだな」車に近寄って来るCorn Dog。Jeanは車内で呟き続ける。「あたしはなんてバカな選択をしてるの?」
「タンク4分の一のガソリンと、食べさせなきゃならない二人の子供で?」窓の外ではCorn Dogが手を振る。「ハア…。車から出て話すのよ。そうすりゃこいつ手を振るのをやめるから」

Jeanは車から降りてCorn Dogと向かい合う。「ハイ、Corn Dog。ええと…、Jeanよ。憶えてるかしら」「大丈夫か?」
「Jodyが今週こっちに来て話すつもりだったんだけど、だけどええと…、彼事故に遭って、それで私を寄こしたの」
「あなたに言うようにって、その…、ビジネスの提案について…、それを進めるように」
「過ぎたことは過ぎたこと。前の時のことは遺恨を持たないようにしようって」
「パーツ屋よね。彼はそれをやりたがってる。”全力で”って言ってた。マジなビジネスとしてやろうって、あんたが言ってたように。彼は今、それに注力するつもりだから、あなたはここに場所を用意して」
「あと、その…専門技術を」「待てよ…、あんたJodyのカミさんじゃなかったか?」Corn DogはやっとJeanに気付いて言う。
「フフン」笑みを浮かべるJean。

このスマイルが母さんがここに持ってこられた全てだった。

*  *  *

市街地。街角のアイスクリームショップ。「お前なんで俺がアイスクリームが好きか知ってるか、Rip?」ボスが言う。
「ええと…、美味いからじゃないですか?」後ろに立つRipと呼ばれた男が答える。
「いや、違う」ボスは言う「それはお前がアイスクリームが好きな理由だ。だが、俺はお前がそんな適切な比喩で答えたことは評価するぜ」店員からアイスクリームを受け取るボス。
アイスクリームを舐めるボス。「はい?」Ripは途方に暮れたように答える。
「俺が好きなのはこいつが金を作ってくれるからだよ!」ボスはRipの顔面にアイスクリームを叩きつける。
「それで俺はバターブリックルを売れねえんだ!」更にRipを叩くボス。「てめえがそのクソ鼻にそいつを詰まらせてたらな!」

アイスクリームケースの一つに顔を突っ込んで気を失っているRip。そこにバイカーMikeがやって来る。「ボス?」
「こっちへ来な、Mikey。何を持ってきた?」「思ってたより少ないです」「そうなんか?なんでだ?」
「ドライバーが運搬に失敗しました。事故を起こして。かなりひどい。多分駄目でしょうね」「Jodyだな」「あいつです」
「Deepwater。ちっぽけな町で、警察もありません。でも荷物はまだM.I.A.っす…。探し続けてるんですが」「聞きたくねえなあ」
「はい」「金は金だ…。あいつにゃあガキがいたな」
「そうです」「目を離すな。そんで病院にゃあ見舞いの花でも送っとけ」
店の外にPattiの姿。

店の外に出て、Pattiに飲み物を渡すMike。
「なんて言ってた?」「”ビジネスのための必要経費”さ。お前が言った通り。なんでお前があんなにJeanを怖がらせるのか、いまだにわからんのだけどな」
「あいつがおケツの薄っぺらなビッチだけど、絶対に馬鹿じゃないからよ」Pattiは言う。「5万ドル相当のブツはまだあそこのどこかに隠してあるはず。あの女にもう少し病院での眠れない夜を過ごさせてやるわ」
「あたしたちがそれを見つけるために、あいつが逃げ出さないよう見張るのよ」

車のサイドウィンドウの隙間に薄いプラスチックを差し込み、ロックを解除する。
ダッシュボードの下をドライバーで開き、中のワイヤーを繋ぐ。

その時母さんは26歳。

重罪に関わり、

ビジネスを始め、

そこに留まる。

Jeanは盗んだ車を発車させる。

『She’s Running on Fumes』より 画:Tyler Jenkins

以上『She’s Running on Fumes』の第1話。結構テキスト量多くて、ここは外せないなみたいな部分も多く、思いのほか長くなってしまったな。
Jeanはここから、家計を支え、夫Jodyの治療費を払い、無くなったコカインの弁済をするために、唯一自分にできる犯罪として車の盗難に足を突っ込んで行く。
世界は全方向からJeanに困難を与え、報復に一家につらく当たるやつらの車を狙ったり。
やがてJodyは退院し、自宅療養となるが、それが更にJeanに厄介事をもたらしたり。
消えたコカインはどこへ行ったのか?一家はこの苦境から抜け出すことができるのか?

ど田舎の他に当てもなく犯罪に加担してしまうようなルーザーたちの生活が、ときには残酷に、ときにはユーモアを持って描かれて行く。
なんかトイレから大量の蛇が出てきて、便器を抱えて右往左往するみたいな場面も出てくるんだが、もしかするとアメリカど田舎あるあるなのかも?
途中で出て来たスーパーの頼りない店長Cliffordも、作中結構重要人物なので忘れないように。
あとこの作品、登場人物がなんかで名前呼ばれないと、名前がわからないというところがあり、バイカーMikeの彼女Pattiなんて第1話の中じゃ名前わからない。最後の方で出て来たボスとか結局名前わからなかったり。どこか見落としてるのかな?

ともすると重くなり過ぎたりしかねないストーリーに、もう少し年を経て成長した子供が過去を振り返るような形で語られたナレーションを被せることで、客観性やある種の距離感みたいなものを出して、上手い手だと思った。映画とかではよく使われる手法だよね。
上手い手ではあるんだけど、例えば映画なんかだと何か出来事が進行中の中で、ナレーターである子供が背景にいたりアップにしたりというカットを挟むことで、誰によるものだかというあたりが強調されたりするんだが、この作品それがあんまりなくてそこはちょっと失敗してるのかも。
…みたいなことを考えていたんだが、今回やってみてやっとぐらいに大変重要なこの作品の仕掛けに気付いた。
実はこの作品、姉弟の二人の子供が出てくるのだが、どちらのナレーションなのかは明確にされておらず、どちらでも読めるようになってるのだ。つまり、私が浅はかにも欠陥の類いと思い込んでしまったのが意図的な仕掛けだったというわけ。
自分がなぜ男の子の方だと思い込んでしまったかは、作者Dennis Hopelessが男性で、最初本人の子供時代の話なのかなと思って読み始めてしまい、そうではないだろうと考えられるようになってもそこのところを修正することすら考えなかったというところなのだろうけど。
ただまあ、これ一人称「I」の性別を曖昧にできる英語だからやれることで、日本語ではそこのところはどちらかに決めないと無理とは言わないけど難しいところはあるんで。まあ申し訳ないがお姉ちゃんのほうのナレーションで読みたい人は、がんばって頭を切り替えてそっちで読んでみてください。

結構多いテキスト量やら、やっぱり少し癖のあるTyler Jenkinsの作画などで手を出しそびれてる人もいるんじゃないかと思うけど、なかなかに読みどころも多い良作でした。おススメだよ。

作者について

■Dennis Hopeless

生年情報なし。ミズーリ州カンサスシティ出身。本名Dennis Hallum。近年は本名の方も使ってるらしい。
2007年に作画Kevin MellonとArcana Studioから『GearHead』でデビュー。その後2011年に同じくKevin MellonとImage Comicsより『LoveSTRUCK』を発表。その頃からマーベルで仕事も始め、『All-New X-Men』や『Spider-Woman』など結構メインストリームっぽいところやってる。
マーベルファンの間ではそこそこ知られた名前と思われるHopelessなんだが、この間やったJustin Jordan同様、アメリカのコミック全体の衰退という時期にあってもっと大きなスターには届けなかった作家という印象がある。初期のオリジナル作品時代から女性を描くところで高く評価されていたHopelessだが、この『She’s Running on Fumes』は、その辺の原点に返るという感じを強く打ち出した作品なのではないかと思う。

初期のオリジナル作品では、結構評価も高かったと思う『LoveSTRUCK』がまた近年のImageの縮小整理でデジタル版が絶版となってしまっているのだが、デビュー作である『GearHead』の方は、現在Kindle Unlimitedで読むことができる。
基本的にはオリジナルのヒーロー物ジャンル。ヒーロー達により悪が打ち倒された世界に住む主人公のメカニックの女性が、兄の突然の失踪により、亡くなった父が特殊能力を持たないヒーローの一人としてその戦いに加わっていたことを知り、その勝利の中に隠された秘密と陰謀に巻き込まれて行くというストーリー。
…なんだが、全4話のこれ、俺たちの闘いはこれからだ!という感じの打ち切りエンディングで終わっとる…。売れたら続きができるということだったんだろうけど。
作画のKevin Mellonはこの時期Hopelessと組んでた以外はあんまりコミックの仕事はしていない様子。女性の下半身方向へ向かう描き方に独特のこだわりあり。日本のオッパイパンツに特化したマンガ描写が見逃しているエロスなのかもしれないと思った。そんなこと真剣に考えてるの私ぐらいのもんだろうとも思った。

『GearHead』より 画:Kevin Mellon

その他のHopelessの作品としては、Boom! Studiosのプロレス漫画シリーズ『WWE』を2017~19年の間に結構やってる。マーベル以後ということになってるのかもしれないが、2020年からはDCの『War for Earth-3』などもやっている様子。他に色々とオーナーシップが転々としてる感じのValiantでも2020~21年に『X-O Manowar vol. 5』を手掛けている。
2022年にはVaultより『Heart Eyes』全5話。これはオリジナル作品らしい。2023年にはMad Cave Studiosから『The Kármán Line』というグラフィックノベルが出てるが、これはアメリカの『The Morning Show』というTVシリーズのスピンオフ的なもののコミカライズらしい。VaultとかMad Cave Studiosとか、最近何かと引っかかってくる感じで、色々とアメリカのコミック界が変動してるこの時期、もうちょっとちゃんと見とくべきかもと思ったり。
なんか今の時期、やや苦戦というところなのかもしれないが、なかなかに印象的な作品を見せてくれたDennis Hopelessには今後も注目できればと思っています。

■Tyler Jenkins

なんだろう、この人まったく経歴が見つからん?ホームページも形だけあるけど中身全部消してあるし、Xもアカウントだけあるけどポストないし…。なんかやなことあったのかな…?
えーと、出てる作品などから推測すると、2011年に始まったImage Comicsからの『Rat Queens』などで知られるKurtis J. Wiebeとの『Peter Panzerfaust』が最初のよう。こちらは第2次大戦中のフランスを舞台としたピーター・パンをベースとした物語らしい。
その独特で個性的なタッチの作画で、近年はあのMatt Kindtとのコンビで『Apache Delivery Service』、『Fear Case』、『Hairball』など多くの作品を手掛けている。
アナログでの作画に拘っているようで、カラーも水彩でHilary Jenkinsという人がクレジットされている。てっきり奥さんだと思っていたのだけど、経歴がわからないので、お姉さんか妹か、もしかするとお母さんかもしれない。
結構有名なアーティストだけど、なんかもしかしたらあまり探られたくない人なのかもしれないので、このぐらいで。Tyler Jenkins作品についてはまた取り上げることになると思うので、出来るようならその時また詳しく。

She’s Running on Fumes

■She’s Running on Fumes

■GearHead

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