Heavy Liquid / Paul Pope

カルトコミック作家Paul Popeの謎の金属とアートをめぐる異色SF冒険譚!

今回はアメリカのオルタナティブ・コミック・シーンで、カルトコミック作家として名高いPaul Popeの代表作である『Heavy Liquid』。1999-2000年にVertigoより全5話で発行された後、TPBとしてまとめられ、現在はImage Comicsより出版されています。

ヨーロッパのコミックの作画スタイルと、日本のマンガのコマ運びのデザインを融合させた、とも評されるPaul Pope。
近年DCのストーリーもPopeによる『バットマン:イヤー100(Batman: Year 100:2006年)』が翻訳出版されている他、1995年にオリジナル作「スーパー・トラブル」が講談社のマンガ誌(誌名わからず)に掲載されたり、『進撃の巨人』のアメリカでの映画公開時の関連で何かのイラストを描いていたり(これについてはどうしてもわからなかった。アンソロジーのカバーと言ってる人いるんだけど現物何処にも見つからず、X(旧Twitter)に画像が一枚あるのみ。ここからリンク張ってもいいものかよくわからないんで、見たい人はFirst Look: American ATTACK ON TITANで画像検索してみて)、と微妙に日本的にも知られていたり関係があったりするが、結局大して情報のないPaul Popeについても、何とか少し詳しく伝えられればと思っています。

Heavy Liquid

■キャラクター

  • “S”:
    Stooge、通称”S”。非合法の私立探偵。依頼されたものは何でも見つけ出し、手に入れる。

  • Luna:
    Sの仲間のプエルトリカンの少女。Heavy Liquidをドラッグへ精製できる。

  • Luis:
    Sの相棒。Sの危機を救い死亡した。

  • Crunchy:
    SとHeavy Liquidを追う三人組ギャングの一人。

  • Kip:
    SとHeavy Liquidを追う三人組ギャングの一人。

  • Drophead:
    SとHeavy Liquidを追う三人組ギャングの一人。

  • Xiao tzu:
    中国系大富豪。アートコレクター。アートギャラリーを経営する。

  • Xiao Tzu Junior:
    Xiao Tzuの息子。アーティスト。ギャラリーの実務担当。英語名Henry。

■Story

Heavy Liquid –
それが一体どこから来たのかは誰も知らない。
宇宙から来たものだとか、政府が秘密開発した化学兵器であるとか、様々な噂が飛び交っている。
常温ではクロームの溶岩のような状態。非常に比重が高く、致死性の猛毒。
だが、熱を加え、加工し黒いミルクへと薄めることで、ある種のドラッグとして使用できる。
通常のドラッグとは全く違った効果。空間・時間への知覚の拡大。
ほとんどの人間は、その存在すら知らない。だがアンダーグラウンドの世界では非常に高価で取引されている。

『Heavy Liquid』より 画:Paul Pope

近未来のニューヨーク。街路はSt. Huck’s Dayの祭りのパレードで賑わっている。
窓からそれを見下ろしながら、Sは沸騰するのを待っていた薬缶を取り上げ、奥の部屋で作業を続けるLunaの所へ運ぶ。
「あんたのためにこれをやるのは最後だからね」と言うプエルトリカンの少女Luna。
「畜生!なんで今晩やらなきゃならないの!」
「奴は俺を救った…」Sが言う。
「黙って、頼むから…」顔をしかめるLuna。「アイツのことは話さないで」

彼らにはもう一人仲間がいた。
イカレた奴、Luis。
彼を救って命を落とすほどイカレきっていた奴…。
そして、もはや安全でなくなったアジトを捨てるため、二人は最後に残ったHeavy Liquidを分けている。

「俺はまだこの街から離れるわけにはいかない。俺の取り分を新たなクライアントに売る段取りをつけている」
「ここは好きに使えばいいわ。月末までの家賃は払ってある」
パレードの人波に紛れアジトから出るために、LunaはSに魚のマスクとブラックのファー・コートを渡す。
そしてネズミ駆除用の空のタンクにHeavy Liquidを隠す。「あまり揺すらないように気をつけてね」
「あんたの眼を見れば言いたいことはわかるけど、それは飛ばしちゃっていいわ」Lunaは言う。
「”さよならはいつも突然に”。誰かが言ってたわ」
「そうだな」そしてSはアパートの階段を降り、去って行く。

外に出たSは、タクシーを止める。「グランド・セントラルまで頼む」
「今何時かわかるか?」Sは運転手に尋ねる。
「7時02分だな」「ありがとう」
「7時02分…、タンジェじゃ午前0時02分だな」「ん?」
「俺はタンジェから来たんだ。かかぁとガキを残して。寒くて悪いねえ、ダンナ。ヒーターが壊れちまって。俺の足もコーヒーも冷え切っちまってるぜ。タンジェじゃこうじゃなかったんだがなあ。」
喋り続ける運転手に、適当に相槌を打つS。

『Heavy Liquid』より 画:Paul Pope

その時、タクシーの中ですでにマスクを外していたSの姿に、横を通り過ぎた車の中にいた3人の男たちが気付く。
SとHeavy Liquidを追っていたギャング達。それぞれが祭りの喧騒に紛れ込むように仮装している。
タクシーを尾行しようとするが、渋滞の中上手く進めない。
業を煮やしたゲルニカのマスクを被った男が、車を降りて徒歩でタクシーに近付く。

『Heavy Liquid』より 画:Paul Pope

「こっちじゃずいぶん寒いが、アフリカにゃあ熱波が来てるらしいよ」タクシー運転手の話は続く。
「サハラじゃ人の皮が玉ねぎみたいに剝けてるらしいし、暑すぎて牛が破裂してるって話だ」
運転手の話を適当に聞いていたSだったが、ふと顔を上げ、バックミラーにこちらに迫って来るゲルニカマスクを見止める。
「ヤバい!行け!走れ!」
Sの様子を見て、スピードを上げ渋滞の間を縫って走り去るタクシー。
立ち尽くすゲルニカマスクの後ろで、クラクションが響く。

しばらくの後、相手を振り切ったと確信したところで、Sは運転手に100ドル上乗せした料金を払い、タクシーを降りる。
再び魚のマスクを被りなおし、Sは徒歩でグランド・セントラルへ向かう。

駅に着いたSは、まずロッカーへ向かう。
しまっておいた大量の現金の詰まったダッフルバッグ。人目を盗み中身を確認し、それを肩にかけ、トイレへ。
個室へ入ったSは、Lunaが加工したHeavy Liquidを、耳の穴に垂らす。

『Heavy Liquid』より 画:Paul Pope

まず、手足が伸びて行く感覚。続いて知覚が拡張されて行く。
スーツに着替え、駅を出てタクシーを拾う。
走行中の車中、後方に消えて行く様々な周囲の音が聞こえてくる。知覚はさらに広がり、足元深くを走る地下鉄の乗客が新聞を読んでいる様子も伝わってくる。自身が二重になった感覚…。
タクシーが目的地に着く頃には、その効果も薄れ始めてくる。
ヒューストン・ストリートを下ったところの、昔ながらのチャイナタウン。The Xiao Tzu And Sons Companyアート・ギャラリー。

受付でXiao Tzuと会うことになっていると告げるS。
「ジュニアですか?シニアですか?」「ジュニアだ。アーティスト、鋳物彫刻家の。」
案内されたカーテンの向こうに座っていた、数人の男の中から、痩せた長髪を後ろで束ねた青年が立ち上がる。
Xiaoジュニア。彼とは先週、仕事の段取りをつけるため、既に会っている。
「またお会いできて良かった。時間通りですね。父からのスレッドが間もなく来る頃です」

ジュニアに別室に案内され、軽い食事と酒が供される。
SはテーブルにHeavy Liquidの包みを置き、二人は床に座り、Xiaoシニアからの連絡を待つ。
「間もなく父からのスレッドが来ます。おそらく彼はあなたに新しい仕事を依頼するでしょう」
「何故あんたがそれを話すんだ?」Sはジュニアに尋ねる。
「私はサプライズが嫌いでね。そして、あなたがそれを受ければ、それは私の仕事にもなる」

「あなたはなぜ彼がこれを買ったかわかりますか?」
「さあ、見当もつかんね」
「あなたと同じですよ。たまたま手に入ったから」
「金を持ってるのはいつも年寄りだ。そして若者は自身のアイデアしか持っていない。」ジュニアは話し続ける。
「私が話しているのは、若いマインドを持った若者のこと。何故かというと、父は若いマインドを持った年寄りだから」
この話は何処へ行くんだ?とSは構える。

「だが彼は既に枯れ木同然だ。若い心で裕福。あなたがそんな汚らわしい金持ちになったら何をします?」
「ぼんやり座ってる俺の歯を磨いてくれる奴でも雇うかね」
「そうじゃない。あなたはその金で買える総てのものに囲まれて暮らすはずです」
「そしてその金では手に入らないものが欲しくなる。凡庸な者なら非合法なものやポルノで満足するかもしれない」
「だがあなたはクリエイティヴな人間だ。あなたは誰も夢想したことすらないようなものを手に入れたくなる」

『Heavy Liquid』より 画:Paul Pope

「前置きは充分だ。あんた一体何を話したいんだ?」Sは言う。
「Heavy Liquid。いったいこれは何なんですかね。本当のところは誰も知らない」ジュニアは包みを手に取って言う。
「これは金属だ」ジュニアは続ける「ある種の奇妙な金属。そして金属とは何か?それは素材だ」
「待てよ、これは金属で、あんたは鋳物彫刻家で…」

「そして、父はコレクターです。ポスト1945の作品においては最大のコレクションを持っている」
「そして、彼は今までに現存するアーティストに新たな作品の制作を依頼したことがあったか?若く、そして斬新なアイデアを持つ誰かに?」
「あんたか…?」
「そう願いたいところですが…私はまだ未熟者で」

「彼はこのミリオンダラーメタルから、偉大な作品を作り出せるアーティストを、あなたに探してもらわなければならない。」
「この量で何を作るっていうんだ?精々歯ブラシと石鹸皿ぐらいのもんだろう」
「合金って、わかりますよね」
「あんたこれを他の金属と混ぜようってのか?正気か?」
「我々は既に成功しています」

『Heavy Liquid』より 画:Paul Pope

「これを見てください」ジュニアは、首にかけていたチェーンの先についた金属プレートを、Sに見せる。
「砒素2%、ブロンズ88%、そして謎の金属10%」
「だが、腐食性は…?不安定に…」
「どういう手段を使うか、いかに取り扱うか次第ですよ。費用についてお話しますか?」
そんなことができるとは想像もしなかった、この奇妙なシロモノは俺が思ってた以上にややこしいらしい。Sは思う。

その時、床に置かれていた手鏡を逆さに置いたような端末から、呼び出し音が鳴り始める。
「どうやら彼からのスレッドが来たようですね」ジュニアは端末を開き、ケーブルを接続しながら応答する。
「ミスターXiao Tzuジュニア?君かね?」「はい私です」
「彼は到着しております。品物の受領も完了しました。すべて問題ありません」
「よろしい。マルチスクリーンへの接続を待て」

そして、壁の前に積み重ねられた大小複数のモニターに、Xiao Tzuシニアのイメージが映し出される。
「やあ、ミスター”S”、ご苦労だった。君は信頼に足る人物のようだな」
「君は芸術のための芸術について知っているかね?」
「君は芸術による死と向かい合う胆力はあるかね?」

『Heavy Liquid』より 画:Paul Pope

※この後からXiao Tzuジュニアは、会話の中で時々Henryと呼ばれ始める。中国系アメリカ人などが使う英語名だと思うが、ここまでその辺の説明なかったりするのだが。なるべく混乱のないようにやるけど、一応憶えといてください。

「君の名はある筋では非常に有名で、高く評価されている」
「こうしてHeavy Liquidを見つける以前より、君は多くの人間を探し出している。そして、私は現在ある人物の捜索を依頼したと思っている」
「誰だ?」
「あるアーティスト、彼女を探し出して欲しい」
「彼女は現在失踪中だ」
「彼女?」
「Rodan Esperella。それが彼女の名前だ」

「君も当然彼女の名は耳にしているだろう?彼女はセンセーショナルだ」
「いや、知らないね」
そう答えるS。だが、彼の表情をじっと見ていたジュニアは、彼が嘘を言っているのに気付く。しかし、それを口にすることはない。

『Heavy Liquid』より 画:Paul Pope

「彼女はRichard Meriworthの教え子だ。その名前ぐらいは知っているだろう?」
「ああ、丸や四角を描く奴だな」
「そうだ、彼もまたエモーショナルな人間の一人だ。過度の飲酒により自滅し、命を落とした。」
「繊細過ぎる人間は、それにより破滅へ向かう、憶えておきたまえ。」
「いかなる基準に於いても、芸術を買うことは、それを創造するよりはるかに易しい」
「だがそれも困難になりつつある。Richard Meriworthが亡くなり、Rodan Esperellaが…、賢明にも23歳で失踪してからは」

「5年前、彼女は今後も作品を作り続けるが、それを発表するつもりはない、と宣告し姿を消した」
「それが彼女を狂気へ走ることを止めているのだろうと考える」
「彼女こそが私の求めるアーティストだ。彼女を見つけたまえ」
一晩考えさせてくれ、と返答を保留するS。
部屋を用意させるという申し出を断り、明朝戻ることを告げ、その場を去る。

場末のホテルに部屋を取ったSは、改めてこの依頼について考える。
ジュニアが彼の嘘を即座に見抜いた通り、彼はRodan Esperellaを知っている。
彼女の失踪以来、何度も彼女を探すことを考えたが、実際にそのために動くことはなかった。
おそらく本気で探せば、いつでも彼女を見つけ出せていただろう。だが、何かが彼がそれを実行に移すことを妨げていた…。
この時点でSのモノローグの中で、彼とRodan Esperellaの実際の関係については、まだ語られない。

同時刻、まだアジトに残っていたLunaは、タクシーで去ったSを逃した3人組のギャングの襲撃に遭う。
機転と行動力でまんまと逃げおおせたLunaだが、この物語中では彼女のその後については語られない。

『Heavy Liquid』より 画:Paul Pope

先に書いたが、この作品はVertigoより全5話で出版された後、単行本形式にまとめられたわけだが、全体で220ページほどになることから、多分それぞれ48ページぐらいの通常のアメリカのコミックの出版形態からのダブルサイズ、という感じで出版されたものだと思う。
明確に区切られていないのではっきりしないのだけど、多分これで第2話の半分ぐらいまでを紹介したぐらい。

最初の設定から、あまり詳しく語られずはっきりしないところも多いと思われるので、若干の補足。
Sと、この物語が始まる時点で既に死亡しているLuisという男が相棒で、そこにLunaを加えてグループを構成していたらしい。
Luisの死亡原因については、詳しく書かれてはいないのだが、後にこのHeavy Liquidが、SとLuisによりギャングの取引現場からかすめ取られたらしいことが語られ、結果Luisは殺され、Sもギャングから逃亡しているということになったということ。
Heavy Liqidが、ある種のドラッグ的なものとして使用できるというのは、Lunaによって発見されたものらしく、広く一般的には伝わっているものではないらしい。加工方法もLuna以外は知らない様子。ギャングにとってはまず、高価で取引できるレアアイテム的な認識と思われる。
Lunaについては、Luisとより特別な関係があった様にも見えるのだが、そこのところはあまりはっきりは書かれていない。

SF設定として、どのくらいの未来を想定しているのかははっきりしないが、やっぱブレードランナー以後、『アキラ』『攻殻機動隊』方向ということになるのだろう。
舞台となるニューヨークがややレトロでヨーロッパ風なのは、作者の趣味なんだろうと思う。
SF的ガジェットとして、ちょっと説明がややこしく話の流れを止めてしまいそうな感じで、省略したのだが、持ち歩いている荷物の中に弁当箱サイズの端末的なものがあり、そこを経由したり貯えられていたりした情報が、左目に入ったレンズに表示されるというシステムを使っている。Sはその端末を5年落ちのモデルだと言ってるのだが、他にそれを使用しているようなキャラクターはなく、デスクトップにしろノート型にしろ、キーボードを操作するようなPCが使われている描写はない。


『Heavy Liquid』より 画:Paul Pope

全体的には、主人公Sのモノローグや、会話の場面も多いのだけど、中盤以降はかなりアクションシーンも増えてくる。序盤はどうしても説明的で動きの少ないシーンが多くなってしまうので、最後にLunaの逃走シーンの画像を入れときました。
Xiaoジュニア、シニアとのアートを巡るやり取りは、ちょっと長いかと思ったけど、個人的にかもしれんけど、大変ワクワクする部分なのでかなりそのまま書いた。まあ車好きの人がそういうところ必要以上に長々と書いてしまうのと同じようなことだと思ってください。
それにしても、ジュニアの英語名Henryわざわざ注釈まで入れたけど、結局そこは書かなかったな。

ここから、なんだかんだでSはこの依頼を受け、ギャングに追われつつ情報を集め、舞台はニューヨークからパリ、ヨーロッパへ。そして最終的には、Sは謎のHeavy Liquidの正体の一端に触れることとなる。
ここまでにも、ゲルニカのマスクのギャングに、中国系大富豪と、そのアーティストでもある息子、と癖のあるキャラが登場してきているが、この後もそれらに匹敵するヤバいキャラが続々登場。
まあオルタナティブって枠に分類されてはいるが、映画にしてもそこそこヒットするかもよ、って感じの堂々たるエンタテインメント近未来SF冒険譚!だと思うんだけどねえ。

そして、更にこの『Heavy Liquid』には続編もある。2002~03年に同じくVertigoより発行され、現在は同じくImage Comicsよりの出版となっている『100%』。
ちょっとこっちにはまだ手を付けてないんだが、新たなキャラクター達によりニューヨークの近未来クラブシーンというところから始まって行くらしい。今作のSやLunaの再登場もあるのか?
何とかなるべく早い機会にこちらにも書けるよう頑張りますです。

作者について

1970年、フィラデルフィア生まれ。
えーと、大抵こういうの英語版のWikipedia頼みになっちゃうんだけど、まあアメリカのコミック作家のものではありがちなんだけど、ビッグ2作品をメインにやるのでそこ以外若干雑。Paul Popeに関しても『バットマン:イヤー100』があるんで、そこだけ詳しいんだが、他はちょっとわかりにくかったりしている。まあ文句言う筋合いじゃないんだけどさ。そんなわけでちょっとこっちで色々整理し直してという感じでやってくので、間違いあったらごめん。
コミック作品を発表し始めるまでの生い立ちなど、ちょっとよくわからないのだが、Wikiの方には影響を受けた作家・アーティストの名前が挙げられているので、まずそこから。初期のTHBシリーズからの引用ということで、作者紹介的なところに書かれていたものと思われる。順に、Daniel Torres, Bruno Premiani, ジャック・カービー, Alex Toth, Tony Salmons, Hugo Pratt, Silvio Cadelo, Vittorio Giardino, エルジェ。こっちも半分以上知らない名前だが、ヨーロッパ、イタリア系アーティストが多い様子。最後のエルジェはタンタンの人。

それ以前の経歴など不明なのだが、1993年に自身の出版社Horse Pressを立ち上げ、76ページのグラフィックノベル『Sin Titulo』を出版。
Horse Pressからは1994年に始まり、現在も続いているらしい代表作『THB』シリーズを出版。『THB』は未来の火星の植民地を舞台としたSFシリーズで、THBというのは主人公の少女のボディーガードのロボットの名前らしい。
長く描き継がれている『THB』シリーズだが、完結に向かっているそうで、2007年に完結の後First Second Booksより完全版が出版されることがアナウンスされたが、現在のところはまだ出ていない様子。

1994年頃からは自身のHorse Press以外でも作品を発表し始めるが、その辺の初期作品を集めたのが、現在Image Comicsより出版されているこちらの『The One Trick Rip-Off + Deep Cuts』。
元はDark Horseのコミック・アンソロジー『Dark Horse Presents』に1995~1996年に連載された後、同社から単行本化された104ページの作品『The One Trick Rip-Off』に、そのほかの短編作品を『Deep Cuts』として追加したもの。
収録作品としては、94年頃からCaliber Comicsからのアンソロジー『Negative Burn』に掲載された短編作品と、『Dark Horse Presents』の短編作品。そして1995年に講談社のなんかに掲載された「スーパートラブル」が英語版で収録されている。
「スーパートラブル」については情報が全く見つからず、掲載紙すら不明で、そういうのがあったというぐらいしかわからんのだが、とりあえず下の画像のような作品。単行本などに収録されるのもこれが初らしい。

『The One Trick Rip-Off + Deep Cuts』より 画:Paul Pope

講談社で描いた経緯とかも全然わからんのだが、この『Heavy Liquid』の巻末には制作中のネームが掲載されていて、そこに「モーニング」のロゴが入ったものも見られる。多分そっちでもらった線の入った漫画原稿用紙が使い勝手がよかったので、コピーして自作したネーム用紙かと思われるが。

その辺の仕事から注目度も上がり、と多分そんな感じで1996年頃から、DCでぼつぼつと描き始め、それからVertigoからの1999~2000年の『Heavy Liquid』、続編の2002~2003年『100%』へと続いて行く。
そして2006年『バットマン:イヤー100』。まあこれに関しては翻訳も出てるし、こっちで書くこともないかと思ってたのだが、『100%』の宣伝説明文読んでたら「『バットマン:イヤー100』と同じ時間軸の~」とか書いてあるのを見つけ、先行するこっちの2部作の世界観ベースに作ったのかも、という興味も出てきて、『100%』やる前までにはこっちも読んどかんとな、と思い始めている。いや、なんだかんだで結局まだ読んでないんだ。ごめん。

同じく2006年頃からはイタリアのファッションブランドDieselでなんかとか、ワシのようなもんには縁遠いオシャレ方面にも活躍を広げる。
2007年にはAdHouse Booksより初のアートブック『PulpHope: The Art of Paul Pope』を出版。こちらからは『THB』シリーズの作品も少し出版されている。AdHouse Booksは、グラフィックデザイナーChris Pitzerにより2002年に立ち上げられた意欲的なコミックのパブリッシャーだが、残念ながら2022年に出版を終了している。
その他には、マーベルからFantagraphicsまで、という感じで、あちこちの出版社でワンショット的なものやカバーなどの仕事もする。

そして2013年にFirst Second Booksより『Battling Boy』。こちらもSFアドベンチャーという感じなのだろうと思う。今のところまとまったものとしてはこれが最新か。10年前やけど…。
『Battling Boy』は続編として『vol. 2: The Rise of Aurora West』、『vol. 3: The Fall of the House of West』があるが、これらはPopeは多分原案ぐらいのポジションで、ストーリーは映像作家、ゲームシナリオ、コミックシナリオなど各方面で活躍するJ. T. Petty、作画は『Black Hammer』でも印象的な仕事を見せたスペインのアーティストDavid Rubínが担当している。
その他、『The Death of Haggard West』というのもFirst SecondからBattling Boy Book 1として出てるんだが、これは32ページの『Battling Boy』のプレビューらしい。5ページほどそっちにないページがあるらしいが、それでこの値段は高すぎるとアメリカの人もご不満です。
他にもImage Comicsより『Monsters & Titans: Battling Boy On Tour』(2014)というのが出てるんだが、これは新作とかではなくてアートブックとかその方向のものらしい。

ここで何度か名前の出てきてるFirst Second Booksについて。2006年に設立され、子供・ヤングアダルト向けや、ノンフィクションなど従来のものとは違う方向でのコミックの出版を進めるパブリッシャー。新興なんだが、アメリカ最大手NYのビッグ5の一つMacmillan傘下という結構固いところ。Paul Pope以外にもティリー・ウォルデンの作品もこちらから出版されている。そういやティリー・ウォルデン今年『are you listening? アー・ユー・リスニング』翻訳されてたの今まで知らなかった。
電子書籍版については、ずっと米国内のみの展開だったのだが、最近(いつか知らんけど今年春ぐらいに見た時はダメで、数日前見たらあったぐらい)日本からでも購入できるようになったんで、ティリー・ウォルデン未訳作とかもそのうちやれるかも。Popeの『THB』完全版もちゃんと出してほしいです。

以上、Paul Popeについて、いくらか詳しくまとめられたんじゃないかと思います。オシャレ方面についてはこんなもんに期待しないでください。あっちもこっちもなかなか進まないけど、オルタナティブ方面ももっと頑張って行きたいと思います。

Paul Pope

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