Snow Angels / Jeff Lemire+Jock

今回はあのJeff LemireとあのJockというタッグによるSF作品『Snow Angels』!2021年にcomiXology Originalsにて開始され、全10話で完結し、単行本は『Snow Angels Season One』(4話)と、『Snow Angels Season Two』(6話)の2巻で発行されています。

アメリカのコミックの最前線で次々と作品を発表し続け、新たな作品が始まるたびに今度は何をやるのか?と思わせる、現在最要注目作家であるJeff Lemireですが、今回についてはえ?Jock?あのJock?本物?同じ名前の人じゃなくて?ぐらいの驚きがあったわけですよね。まあJohn Smithみたいにたまたま本名同じなんてことになる名前じゃないし、意図的に別人が同じ名前なんか使えば詐欺レベルになる話なんだけど…。

そんなあのJeff LemireとあのJockという超強力タッグによる注目作!いかなる作品になったのか紹介して行きます。

Snow Angels

■Snow Angelsの世界

高く垂直な氷の壁に挟まれた一本の氷の道。トレンチと呼ばれるその道が主人公たちの世界。彼らはその氷壁に横穴を掘り、そこに住居を作って暮らしている。

主人公たちはそれほど人数の多くない集団の集落の一員として暮らしている。この世界と彼らを作ったのはCold、Colden Onesなどと呼ばれる存在と伝えられ、掟として、そのトレンチの外に出てはいけない、彼らに必要なものはトレンチから得られ、その外では生きて行くことはできないと定められている。また、Coldからの使者としてSnowmanの伝承もあり、子供向けには「悪い子はSnowmanに連れて行かれる」などと話される。

氷の下に広がるのは広大な水。死者は穴を掘りそこに沈められ、Coldに還される。また、氷に穴をあけ、そこから釣りをして魚を取ることで食料を得ている。集落から離れたところには森もあり、そこで狩猟をすることでも食料や防寒衣類、寝具などの毛皮を得て暮らしている。森があるところから、氷の下はすべて水というわけでもないのかもしれない。

氷の道での移動手段は基本的にはスケート。Run!と表現されるところで、Skate!と叫ばれたりもする。氷の道端にはところどころに重機と思われる彼らには使い道のわからない機械が遺棄されている。それらはColden Onesが使っていたものとされ、それらが大型であることから、Colden Onesは自分達よりも大きいと思われている。

■物語

主人公となるのは、父とその二人の娘の三人家族。上の娘がMilliken、妹がMae Mae。彼女たちの母親は、既に亡くなり、Coldに還されている。物語は、Millikenの視点で、そのモノローグにより語られて行く。

氷の上をスケートで疾走する三人。今日はMillikenの12歳の誕生日で、そのために特別な獲物を得るために遠出の狩りをしている。

遺棄された謎の機械の陰から現れた狼の頭を、父親の放った矢が一撃で貫く。よい獲物が捕れた。彼らはキャンプのために荷物を置いておいた場所へと戻る。

獲物を捌き終わり、日も落ちて夜になり、焚火を囲む三人。父親はMillikenに12歳の誕生日の特別な贈り物を渡す。手のひらに乗るサイズの、金属製の丸いコンパクトミラーのようなもの。ある機械の中で見つけたもので、Colden Onesが置いていったものだろうということ。スイッチを押すと、その上に何かのチャートか図形のような立体的なホログラムが現れる。

「Colden Onesはこんな姿をしているの?」「そんなわけないでしょう。」と姉妹が言い争う中、父親が話し始める。

「確かにColden Onesの姿を見た者などいない。でもな、俺は若い頃、兄貴と一緒にあるものを見たんだ…。」

「お父さんにお兄さんなんていたの?」

「ん?いや…、お母さんと言おうとしたんだ。」

何かまずいことを言ってしまったように訂正する父親。話はそこで終わり、三人は眠りにつく。

『Snow Angels Season One』第1話より 画:Jock

翌日、三人は集落へと戻る。集落への入り口で、見張り台に声を掛けるが返答がない。不審に思いながら集落に足を踏み入れると、そこは血の海で集落の人間は全員惨殺されていた。

驚き立ち竦み、何が起こったのか考える時間もないまま、彼らは遠くから近づいて来る滑走音を聞く。父親は娘二人を大急ぎで死体の山の下に隠れさせる。

そこに現れたのは片手にまだ血の滴る刃を構えた、顔面をオレンジに光るプレートで現れた、人間の形をしているが全身を覆ったアーマーの中身が果たしてそうなのかも定かではない、恐るべき襲撃者だった。

あれが…Snowman?

『Snow Angels Season One』第1話より 画:Jock

以上が、『Snow Angels』Season One 第1話のあらすじです。

死体の下に隠れてなんとかSnowmanをやり過ごした三人は、仲間の死体をそのままに集落を捨て逃亡を開始。一本道のトレンチゆえ、とにかく遠くへ早く逃げるしか方法はない。そしてSnowmanも彼ら逃亡者に気付き、追跡を始める。途中父親が森で猛獣に襲われ怪我を負い、一旦はSnowmanに追いつかれるが、氷にあけた落とし穴で時間を稼ぎ、ひたすら進み続けた彼らは、そこに存在するはずのなかったトレンチの終点を目にする。

そしてMillikenたちはトレンチを出て、外の世界へ向かう、というところでSeason Oneが終了し、物語はSeason Twoへ。

Season Oneは、追われる理由すらわからない、絶対倒すことが不可能としか思えない追跡者からの息詰まる逃亡サバイバル劇という展開だったわけだが、Season Twoでは引き続き追われつつ、急展開で意味が解らないまま様々な理不尽状況に翻弄され続ける主人公たち。巨大ロボも登場!それらを越え、進み続ける主人公たちは、最終的にこの世界の秘密の輪郭へとたどり着く。人々は何故あのトレンチに閉じ込められていたのか?そしてあの追跡者Snowmanの正体とは?

出世作となった『Essex County』から一貫して、それこそオリジナル作ではない『Animal Man』に至るまでJeff Lemireの物語の中心となるのは「家族」だ。絶対に切れない繋がりとしての家族の絆。Jeff Lemire作品では常にその絆が主人公を、物語を押し進める。そしてそれは、どんな困難な世界においても、救いへとたどり着く。この主人公たちも絶望的な旅の末、たどり着いた答に従い新たな世界に旅立ち、物語は終わる。

全10話、約250ページで単行本2分冊。物語的には2時間の映画ぐらいのボリュームか。手に取りやすいKindle Unlimitedでは無料のcomiXology Originalsでもあり、Jeff Lemire作品を読んでみたい人、Jock先生の素晴らしいアートを堪能したいという人には絶対おススメの作品。SF感動作ぐらいのこと言ってやろうか?

クリエイターについて

■Jeff Lemire

1976年生まれ、カナダ出身のコミック作家。代表作多数。あまりにも多数。自身が作画も手掛けた『Essex County』、『Sweet Tooth』を始めとするVertigo、Image Comics、Dark Horse Comicsなどからのオリジナル作品に加え、こっちでも代表作に数えなきゃならなくなるようなマーベル、DCのキャラクター作品などなど。日本からは2020年の『Joker: Killer Smile』一作のみ翻訳という大変寒い状況なんだが。ちなみにそちらでは作者名「ジェフ・レミア」となっているが、まだ一作きりでどうなるかもわからんので、こちらでは英語表記のままで当分行きます。

Jeff Lemireについては以前より何とか少しでも書かねばという思いが強く、本店の方でも3回ほど書いているので興味のある方はこちらをご覧ください。最後になっているのが2020年の『Gideon Falls』でその中でかなり気合を入れて経歴代表作などまとめたんで、今回はそちら見てくださいでいいかと思ってたのだが、なーんかその後も『Gideon Falls』のAndrea Sorrentinoとのコンビでは『Primordial』というミニシリーズを出して、その後も『The Bone Orchard Mythos』というグラフィックノベルが出ていたり、『Little Monsters』(作画:Dustin Nguyen)というシリーズがもう12話出てたり、更には『Phantom Road』(作画:Jordie Bellaire)なる新シリーズが先月から始まっていたり。全く止まるところを知らないJeff Lemireさんなんですがね。

当方の今後の予定としてはまずは大物作品『Black Hammer』、『Descender』をなるべく早く!『Sweet Tooth』はもう今更だし少し後回しでいいよね…?新作についてもなるべく早急に、という感じでJeff Lemireを推し続けて行く所存です。

あとJeff Lemire最新情報としては、Netflixで2021年に第1シーズンが配信された『Sweet Tooth』の、第2シーズンが今月27日から始まるとか。日本から観れるのかはよく知らんのだけど。

■Jock

1972年生まれ、英国出身のコミックアーティスト。なんかすっかり大物で、もうScott Snyderとのバットマン以外はカバー画しか描かないんじゃないかぐらいに思ってたJockが、業界では新進のcomiXology Originalsで、あのJeff Lemireと組むというのは大きな事件のように見えるけど、そうでもないのか?もしかするとLemire作画で『A.D. After Death』(2017年)を書いたSnyderの紹介という線もあるのかも。

まあ見れば一目でわかる、全ページイラストののような素晴らしいアート。ダイナミックな動きを基調に正確に描かれた人物を、削るような線で陰影深いタッチで描く。卓越した構図・画面構成。彩度を抑えた色をエッジを効かせてカラーリングした上から、更にスクラッチノイズ的なカラーリングをかぶせる。

英国出身で、デビューも2000ADのJockだが、その先輩方と比べると比較的早いキャリアで米国に上陸しているようだ。『Judge Dredd』でのデビューが1999年で、2003年には『Hellbrazer』や『Losers』を描き始めているようだし。しかし最近でも2000ADの表紙カバー画を度々手掛けるJockは英国のアーティストという気持ちも大きいのかなとも思う。

私が初めてJockの作画を見たのは、『Detective Comics』バットマンの「The Black Mirror」(2011年 ストーリー:Scott Snyder)で、その斬新なタッチや画面構成にかなり魅せられた覚えがある。しかしながら今回の『Snow Angels』にはそこまでの衝撃はなかったように感じた。それはJockの腕が落ちたなどという意味では決してなく、アメリカのコミックに同系統の作画が増えたということ。時代がJockに追いついたというところだろう。しかしながら、現在のアメリカのコミックでそういうタイプの目を惹くアーティストを見つけてよく調べてみると、ヨーロッパや他の国出身ということも多く、そういう単純な見方ではなくもう少し深い視点が必要なのかもしれない。

■comiXology Originalsについて

2018年に開始され、今年で5年目を迎えるcomiXology Originals。作品数もずいぶん増え、昨年あたりはScott Snyder作品の出版で結構注目を集めたようだ。まあ昨年2月以降の完全にアメリカのAmazon.comの一部に縮小してしまいほぼ役に立たなくなってしまった状態やらKindle簡易版ぐらいからあまり進歩のないリーディングアプリなど、comiXologyに文句を言いたいところは大変多いのだが、おそらくはアメリカ国内からでも、小パブリッシャーの出版販売には難しくなっていると思われる現状から、世界中どこからでもAmazon内で読むことができるcomiXology Originalsにはクリエイターからの関心も高まっているのかもしれない、という想像もできる。場合によっては更にScott Snyderクラスの参入もあり得るかも、とちょいと無責任野次馬っぽく考え注目してみるのもありかと思う。とりあえずSnyder作品なるべく早く読むので。

最初に全3回なんてものを持ってきてしまったお陰で、なんかやっと二つ目の記事ができたぐらいの気分。基本これくらいか、もう少し短めぐらいでどんどん出して行きたいというところなんですが。無駄に長くなりかかる時間も余計に膨らむんでくだらん個人的な愚痴はやめようと思うが、やっぱ体調だったりちょっとした雑用の積み重なりだったりで、思うようには時間も使えんなあとぼやきながら、また頑張って行くです。ではまた明後日ぐらいに。

Snow Angels

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