Black Hammer 第1回 / Jeff Lemire + Dean Ormston

Jeff Lemireのオリジナルヒーローユニヴァース!

今回はJeff Lemire/Dean Ormstonによる『Black Hammer』の第1回です。『Black Hammer』はDark Horse Comicsで2016年から開始され、その後多くのスピンオフも派生し、The World of Black Hammerを形成しているシリーズです。

実はこの『Black Hammer』本編だけでも全部読んでからやるつもりだったのですが、途中で疑問がわいてきました。この謎に満ちた物語を一回でずらっとやっちゃうのが正しいんだろうか?そもそもネタバレしないようにとか考えてるなら、精々2巻ぐらいまでしか書けないわけだし。「The World of Black Hammer」ぐらいのものがあるんだから全部説明しないわけにはいかないだろうし。などなど、色々と考えてるうちに、とりあえず「つづく」にしながら何回かに分けてやるのがいいんではないかと思いついたわけです。
で、とりあえず全3回ぐらいを想定しながら始めたわけですが、やって見ると、あーここはちゃんと書いとかなきゃ、ここは後々重要になる伏線だから、とかで結局TPB1巻だけで文字数1万超えてしまう始末…。
例えば、このTPB1巻を3行ぐらいで説明する書き方だってあるだろうし、もっと言えば全体をそのくらいでも書くことはできるだろうけど、果たしてそれでどのくらいの人が本編読むようになるんだろうか?、みたいなところでこれをやっているわけなので、とりあえず自分としてはこういうやり方しかないだろうな、というところです。
しかし、このやり方でやって行くと今のところ7巻まで出ていて、まだ続きもありスピンオフもありで、月イチぐらいを想定してもかなりの長期計画になってしまうのですが…。まあいいか。以前から言っているように自分はJeff Lemireは現在最重要作家であるにもかかわらず、日本的にあまりに紹介が少なすぎると思っているので、Jeff Lemireばっかになっちゃってもそれはそれでありなんじゃないかと。
まあ続き気になって早く知りたい人は、自分で本編ちゃんと読んでください的な宣伝ぐらいのつもりで、いつもの大雑把極まりないどんぶり勘定でこの形で始めてみます。

世の中には色々な作品があり、それぞれに合った紹介の仕方を常に考えて行く必要がある、と常々考えます。これについては最初だけの方がいいかとか、全部書いた方がいいかとか、中にはこれ一話ずつぐらいで全部詳しく書かんとどうもならないのではみたいなのもあったり。色々と試行錯誤してやっていかなければならんのですが、とりあえずはそういう試行錯誤の一つ、『Black Hammer』の第1回です。

Black Hammer 第1回

Vol.1 Secret Origins

■#1.Welcome to Black Hammer

夜明け前、体格の良い老齢の男、Abrahamが飼育している家畜の世話を始める。
作業を進めながら、独り言として自分に向かって話すAbraham。
「全くこれが本当とは思えない。今日で10年だ。我々がここに来てから10年。」
「俺は都会に生まれて、ずっと田舎生活にあこがれてきたが、叶わなかった。それがこんな形で、今俺はここで暮らしている。」

作業を終えたAbrahamは、陽が昇る中畜舎から自宅に戻る。玄関の階段には、フードを被った彼の孫ほどの年の小さな少女が座っている。
「おはよう、Gail。」
「Abraham。」
「昨夜は帰ってこなかったんじゃないのか?」
「それがあんたに何の関係があるの、Abe?」
「お前の行動が我々全員に重要であることはわかっているだろう、Gail?それにお前の年代でその化粧はおかしいだろう。」
「クソくらえよ。」Gailはくわえた煙草に火を点ける。
「煙草は吸うべきじゃないだろう。」
「クソくらえよ!」
Gailはそこから飛び立ち、飛行して納屋の屋根へ移る。

ため息をついて、家に入るAbraham。
「おう、いい匂いがするじゃないか。」
「キッチンに入る前にその泥だらけのブーツを脱いでください。」どこか機械的な声が応える。
「わかった、わかった。」ブーツを脱いでキッチンに入るAbraham。
キッチンではロボットTalky-Walkyが料理をし、ガス台の横からはパラゾーンにいるColonel Wierdが肩から上をのぞかせ、テーブルでは赤い身体の火星人Barbalienが新聞を読んでいた。

WELCOME TO BLACK HAMMER

『Black Hammer Vol.1 Secret Origins』より 画:Dean Ormston

普通に読んでいけば徐々にわかってくるのだが、その辺細かく書くと長くなりすぎるので、省略して説明すると、まずここまででわかるように彼らは普通の人間ではない。そして自らの意思に反してこの農場と近くの町を含む一定の地域に10年間閉じ込められている。彼らの正体などについては、この後、徐々に明らかになって行く。

朝食後、Barbalienは納屋の屋根の上のGailと話しに行く。二人はグループの中でお互いにもっとも気を許して話し合える仲だ。
Talky-Walkyは、納屋にこもり、この閉じ込められた地域からの脱出のためのデータを集める自動探査艇を作っている。
そこにColonel Wierdが現れる。あらゆる時空間にアクセスできるパラゾーンにいるWierdは神出鬼没で、話している内容も時折意味不明だ。
彼らの会話から、二人が以前からのチームであることがわかり、そしてこの自動探査艇以前に打ち上げられたものがあり、それが失敗したことがわかる。

Abraham、Gail、Barbalienの3人は、ピックアップトラックで町へ出かける。Barbalienはその特殊能力で、見かけを普通の地球人に変えられる。
町へ到着し、3人はそれぞれの目的のために分かれる。Abrahamの目的は町のダイナー。彼はその店の女主人Tammyに気があり、足繁く通っている。Tammyの方にも脈はあるようだ。
Barbalienは町の雑貨屋での買い物の後、教会でやっているバザーに目を止める。そこで赴任してきたばかりの神父と出会う。ホモセクシュアルである彼は神父に惹かれ始める。
Abrahamがいるダイナーに保安官Redd Trueheartがgailを連れて来る。煙草を万引きしようとしたのを見つかったということ。保安官はTammyの元夫で、彼女に近づこうとするAbrahamには殊更強圧的に当たってくる。

その夜、Abrahamは森の巨大なハンマーが放置されている場所にやってくる。
最初はAbrahamとTalky-Walkyだけだったが、Colonel Wierdが彼らとは別に暮らしている緑色の肌の魔法使いMadame Dragonflyとともに現れ、続いてGailとBarbalienもやってくる。
それは10年前のこの日、この地で命を落とした彼らの最強の仲間、Black Hammerを偲ぶ集まりだった。

同日、Spiral City。
Black Hammer=Joseph Webberの娘、Lucy Weberは23歳になり新聞社に記者として勤めていた。
10年前、この街を最大の敵Anti-Godが襲い、集結したヒーローたちとの死闘により倒された。
しかし、激闘が終わった後、ヒーローたちも消え去り、遺体という形でも見つかっていない。
Abraham Slam、Golden Gail、Barbalien、Colonel Wierd、そして彼女の父The Black Hammer…。
Lucyは彼らが必ず生きて何処かにいると信じ、探し続けている。

『Black Hammer Vol.1 Secret Origins』より 画:Dean Ormston

■キャラクター

この辺で一旦キャラクター紹介をしておこう。農場に住んでいる閉じ込められている6人。

  • Abraham Slam:
    元筋肉系ヒーロー。対外的には農場の家長を装っている。

  • Gail:
    見た目は9歳の少女だが、実は…?

  • Barbalien:
    火星人。変身能力で普通の地球人を装う。

  • Colonel Wierd:
    あらゆる時空間にランダム不連続につながるパラゾーンの住人。

  • Talky-Walky:
    Colonel Wierdとチームを組んでいたロボット。性別は女性。

  • Madame Dragonfly:
    一応ヒーローチームの一員だが、色々謎の魔法使い。

■#2.THe Curse of Zafram!

Spiral City、過去。ゴールデンエイジ。
孤児院を脱走した少女Gail Gibbonsは、雨の降る街を彷徨いながら今夜のねぐらを探していた。雨宿りをしていた劇場の入り口のチケット売り場にいる男が、不意にGailに声を掛けて来る。
「私は君の友達だ。このチケットを取り給え。」
手渡されたチケットから目を上げると、男は消えていた。
躊躇いながら劇場に入るGail。無人の劇場のステージに、一人のローブを着た老人が立っていた。
「わしは魔法使いZafram!」
「Zafram?」
その名を繰り返した途端、Gailの身体を光が貫き、彼女はマスクとヒーローコスチュームを着けた姿へと変身していた。
「すごい!空を飛べる!力が湧いて来るわ!」
「これでやっと解放される。」魔法使いの老人はその場に崩れる。駆け寄るGail。
「わしはいつでもお前の傍にいるぞ…。わしの名を呼べ。」
こうしてGailはZaframの名を唱えることで、Golden Gailへと変身出来るようになる。

『Black Hammer Vol.1 Secret Origins』より 画:Dean Ormston

Talky-WalkyはBarbalienに手伝ってもらい、完成した新たな探査艇を打ち上げる。
だが、上空の脱出不可能領域を超えたとたん、信号は途切れてしまう。また失敗か…。

Gailが学校のトイレで煙草を吸っているのを見つかり、Abrahamは学校へ呼び出される。
途中、Gailの母を称して入ってきたMadame Dragonflyの魔法により校長の記憶は改竄され、事なきを得る。

Golden Gailの能力を得てから長い年月が経った。本来の自分は年を取り、もうAbrahamと同年代かもう少し上かも。
だがZaframと唱えて変身すれば最初の少女の姿のGolden Gailに変わった。
しかし、Golden Gailのまま、気付くとこの農場に送られていて、そこで魔法の言葉は効力を失った。どんなに唱えても本来の自分には戻れない…。

「あの魔法使いは嘘つきよ。魔法の言葉は贈り物なんかじゃない。呪いよ!」
「農場、町、なんだろうと、本当の牢獄はそこじゃない。この身体なのよ!」
「そして思った。強く信じ続ければ、いつの日かきっと、今度こそと、唱え続けた。」
Zafram。Zafram!Zafram!

■#3.Warlord of Mars

火星に地球からのロケットが着陸失敗し、乗員は全員死亡する。事故現場を発見した火星人の間で討議が交わされる。
早急に船団を送りこの侵略に報復すべきだという強硬意見に対し、Mark Markz(Barbalien)は、ロケットには武器も搭載されておらず、平和目的のためと考えられるので、結論を急ぐべきでないと主張する。
武闘派が多い火星の社会で、父親の代から穏健・平和主義を貫くMark Markzは、その姿勢を嘲笑的に扱われ、地球人を調査する必要があると思うならお前が行け、と単独での派遣を命ぜられる。
こうしてMark Markz=Barbalienは地球へやってくることになる。

『Black Hammer Vol.1 Secret Origins』より 画:Dean Ormston

Mark Markzの乗ったロケットはSpiral Cityの海に着水する。
桟橋から陸に上がった彼は、そこで行われていたギャングと警官の銃撃戦に遭遇する。
ギャングの銃弾に倒れる警官。Mark Markzは逃げるギャング達を制圧、気絶させる。
既に命を失っていた警官の姿に変身し、遺体を海に捨て、彼となり替わるMark Markz。
少し遅れて、パートナーの警官が到着する。
「あいつら火星の戦士、Barbalienにやられたとかわけのわからないこと言ってたぞ。」
そしてフルパワーを出せる本来の火星人の姿に戻るとき、彼はBarbalienと呼ばれるようになる。

現在。
神父に会うため教会のミサに通い始めたBarbalien。だが、そこにはAbrahamへの遺恨を家族全体への悪感情まで広げている保安官Reddも参加していた。Barbalienの姿を見止めると、威嚇的なセリフを浴びせかけ去って行く。
一方、AbrahamとTammyの仲はさらに進展し、Tammyは家族との夕食会に招んでほしいと持ち掛ける。

過去。
パトロールのパートナーと親密度も深まったと思い、更なる接近を試みたBarbalien。
だがホモセクシュアル的アプローチに相棒は激しく怒り、拒絶し、異常者と罵りパトロールカーから彼を追い出す。
悲しみと怒りを、本来の火星人の姿で、犯罪を準備中だった悪漢どもにぶつけるBarbalien。
「俺が何者かだと?異常者だ!バケモノだ!

現在。
かつてヒーローチームに協力していた科学者からの連絡で、辺境の砂漠を訪れたLucy Weber。
科学者はLucyに砂漠地帯への謎の墜落物を見せる。それはTalky-Walkyが作った自動探査艇の残骸だった。
「これはColonel Wierdの宇宙船から発射されたものとみて間違いない。」

『Black Hammer Vol.1 Secret Origins』より 画:Dean Ormston

■キャラクター

ここらでその後に登場している重要キャラクターについて紹介しときます。

  • Tammy Trueheart:
    町のダイナーの女主人。保安官Reddと離婚。Abrahamと関係を持つ。

  • Redd Trueheart:
    保安官。別れた元妻Tammyの関係でAbrahamを憎んでいる。

  • Quinn神父:
    町の教会に新しく赴任してきた神父。Barbalienが想いを寄せている。

  • Lucy Weber:
    亡くなったヒーローBlack Hammerの娘。Spiral Cityの新聞記者として、父の行方を捜している。

■#4.Slam Bam Thank You, Ma’am!

過去。Spiral City The Lower East Side。
愛国心の高い若者Abraham Slamkowskiは、ヨーロッパ戦線で自らも戦うべく軍隊に志願するが、健康肉体的な要件を満たせず落とされる。
落胆し道端に座り込むAbrahamに、近くのボクシングジムオーナーPunch Stocklinghamが自分のジムで体を鍛えるよう勧める。
Punchのジムで鍛え、Abrahamはめきめきと力をつけて行く。
だが、そんなある日Punchのジムに現れたギャング達が、借金返済の遅延を理由にAbrahamの目の前でPunchを射殺する。
怒りに燃え、鍛えたパンチでギャング達を打ち倒すAbraham。
「お前は俺の知る誰よりもハートのある男だ。決して闘いをやめるな…。」そう言い残してPunchは息絶える。
そしてAbrahamはSpiral Cityに巣食う悪と戦うクライムファイターとなることを決意する。

現在。
Tammyが家族との夕食会にやってくる日。Abrahamは準備に余念がない。Colonel WierdとTalky-Walkyには絶対に姿を現さないように告げる。
そして夜、Tammyが農場を訪れる。だがGailはパンク風のメイクとファッションで現れ、その後も夕食会をぶち壊しにしようと行動する。

『Black Hammer Vol.1 Secret Origins』より 画:Dean Ormston

過去。
クライムファイターとして街の悪と戦うAbraham。
だが、彼は何処まで行っても体を鍛え上げた人間であり、特殊能力を持った超人ではない。
街を襲う巨大な宇宙モンスターに苦戦するAbraham。
駆け付けたBlack Hammerにより宇宙モンスターは倒され、街は救われる。
自らの力の限界に落胆するAbraham。

『Black Hammer Vol.1 Secret Origins』より 画:Dean Ormston

現在。
Gailの嫌がらせで夕食会をぶち壊しにされ、落胆するAbraham。だが、そこへ…。
「無作法だぞ、Gail。今すぐTrueheartさんに謝りなさい。」
そこに現れたのは、髭を剃り髪も短く整えたColonel Wierdだった。
父として振る舞うWierdの意外な行動にGailも気を呑まれ、その後の夕食会は平穏に進み、Tammyも満足して帰って行く。

Lucy Weberは、謎の探査艇がどこから来たのかを調べるため、かつてヒーローチームと親しかった高名な天文学者を訪れる。
彼がLucyに天体望遠鏡越しに見せたのは、宇宙空間にあるはずもない光る入り口の様な現象だった。

■#5.The Odyssey of Randal Wierd

パラゾーンの中でランダムに配置されたような時空間を漂流するように漂うColonel Wierdが描かれる。

発端。
まだパラゾーンに入る前のColonel Randal Wierdが、Talky-Walkyとともにある惑星での任務を終えたところ。生物が死滅した惑星のはずだったが、Talky-Walkyが何者かの接近を察知する。
その2体のクリーチャーは近くにある洞窟から出てくる。WierdとTalky-Walkyは光線でそれらを排除した後、その洞窟を調べてみる。
その中には星系のチャートのように見える、原始的な壁画が描かれていた。
WierdはNASAのオペレーターで後に結婚することになる女性Eveに画像を送り調査を依頼し、帰還の途に就く。

パラゾーンの中に空いた四角いスクリーンの外からそれを見ていたColonel Wierdは、再びパラゾーンの中を漂って行く。
パラゾーンの中は、巨大な神経接続のようにも見え、ところどころには目玉様のものがWierdを観察するように浮かんでいる。
Madame Dragonflyの家に入り、会話をする。いつの出来事か。気が付けばパラゾーンに戻っている。
夕食会で自分が話しているスクリーン。
「私は…思い出した…。」と語る女性。
「…まだだ…、もうすぐそこまで来ている…、だが、まだだ…。」

『Black Hammer Vol.1 Secret Origins』より 画:Dean Ormston

Barbalienが地球人Markに変身して、神父の家を訪ねるスクリーン。
傍にいたWierdに気付き、あんたは俺を監視しているのか?と怒りの声を上げるBarbalien。
だがWierdにも自分がなぜそこにいるのか説明はできない。
「すまない…」と呟き、次の瞬間にはパラゾーンへと戻されている。

過去の出来事のスクリーン。
洞窟画を星系のチャートとして解析し、その示す地点へやってきたColonel Randal WierdとTalky-Walky。だがその地点には何かが存在するようには見えず、惑星間の宇宙空間が広がっている。
Randal Wierdは単身宇宙艇の外に出てその地点を探索する。
「何もないが…、奇妙な感じがする。」
Randal Wierdの前に目玉様のものが現れ、次の瞬間それは四角い入り口となる。吸い込まれるようにそこに入るRandal Wierd。
パラゾーンの異様な様子に驚愕するRandal Wierd。傍を浮遊する現在のWierd。
「あんたは誰だ?」
「私は君だ…。」
Randal Wierdの後ろで入ってきた入り口が消滅する。
「閉じ込められた!Talky!…Talky?助けてくれ!」
「彼女には聞こえていない…。」

「Randy?あなたなの?」
声に気付き、そちらに向かうWierd。「これを…待っていたんだ。」
Eveの部屋。スクリーンの中でパラゾーンから現れたWierdは、Eveと向かい合っている。
「どうして?みんなあなたはもう死んでいると思っていたのよ。」
「いや…、まだ死んではいない…。今は何年だ…?」
「1964年よ。あなたが消えてからもう9年になるわ。」
「どうして?なぜ私を置いていなくなってしまったの?」
「そんなつもりではなかったんだ…。私は…行かなければならない…。私には…やらなければならないことがある…。」
「でもあなたはここにいるじゃない!なぜここにとどまれないの?」
「すべてには定められた形があり、私にはそれをどうすることもできず、それに従うしかなく…」
何とか自分の状態を伝えようとするWierd。だがその身体は徐々にその場から消え始めている。
「さようなら、Eve。愛してる。」
最後にそう告げ、Wierdはパラゾーンに戻される。

自室でレコードを聴いているGailの前に突然現れるWierd。
怒るGailに、君が私と話したがっていたからだ、と答えるWierdだったが、なぜそれがわかったのかは自分でも説明はできない。
GailはWierdに彼が出入りできるパラゾーンを使えば、自分達もこの農場から脱出できるのではないかと問い詰める。
自分は定められた時間と時の中でパラゾーンに入ったが、それ以外の方法でパラゾーンに入ることはできない、と説明するWierd。
かつてある女性をそれで死なせてしまった、とも。
全く納得せず、Wierdを非難し続けるGailの前から、再び彼はパラゾーンに引き戻される。

そしてWierdの前に身体がバラバラに分解された女性の遺体が浮かぶ。

『Black Hammer Vol.1 Secret Origins』より 画:Dean Ormston

後ろのスクリーンでは、ともに宇宙服を着たWierdとEveが一緒にパラゾーンに入ろうとしている。
「駄目だ!Eve、やめろ!」
彼らの行動を止めようと叫ぶWierd。だがそれが届くことはない。
顔を背け、近くのスクリーンに逃げ込むWierd。そのあとをEveの悲鳴が追ってくる…。

Wierdが出たのは夕暮れの農場だった。ポーチにAbrahamが座り、夕焼けを眺めている。Wierdの様子に気付き、声を掛けてくる。
「大丈夫か?」
「あ、ああ、問題ない。」
「いいときに来たな。ちょうど陽が沈むところだ。一緒にビールを飲みながら眺めないか?」
美しい夕日に、Wierdもヘルメットを脱いで、Abrahamの横に座る。
「昨夜の礼を言う機会を逃していたな。」
「昨夜…?」
「Tammyとの食事だよ。」
「ああ、あれは昨夜だったのか…。」
夕陽を見ながらAbrahamが言う。
「こうして見ると、ここもそう悪い場所じゃないと思わないか?長い目で見ればと言う話だが。」
「いや、Abraham…。長い目で見ればではないよ…。」

『Black Hammer Vol.1 Secret Origins』より 画:Dean Ormston

■#6.The Cabin of Horrors!

雨の降る中、赤ん坊を抱えた一人の女性が、森を抜けその外れに建つ古い小屋を目指す。
ドアを叩くが応答はなく、女性は鍵のかかっていないドアを開け、中に入る。
「誰かいませんか?助けてください!」
遠くから見た時には窓に明かりが見えたのに、と女性が訝しんでいると、いつの間にか目の前に人影が立っている。
「助ける?誰がお前さんをここに寄こしたんだい?」
それはローブを着た、辛うじて人間の姿をとどめているような老婆だった。太い木の枝をただ切ったような杖を突き、背中からは蜻蛉のような羽が生えている。

「村の女の人たちが、あなたには不思議な力があって、普通ではできないようなことができると言っていて…。」
「そいつらは何か勘違いしているようだがね。とにかくその抱いてるものは何だい?」
「私の息子です。病気になって…死んでしまった…。」
「あなたは魔法が使えて、息子を生き返らせることもできるって…。お願いです、何でもしますから息子を…。」
「お前さんが頼んでいるのは大層なことだ。わかってるのかい?命に対しては、命を支払わなきゃならない。」
「あたしはこの小屋にずっと縛り付けられている。だがもう年を取り過ぎ疲れ果てた。多くの秘儀は弱った老いぼれの肩には重すぎる。」
「で、お前さんに問おう。もしあんたの望みをかなえて、坊やを取り戻せるなら、あたしの重荷を代わりに背負ってくれるかい?」
「この小屋の主となり、そこから来るものを全て引き受けてくれるかい?」

『Black Hammer Vol.1 Secret Origins』より 画:Dean Ormston

「何でもします!それで私のJacobが生き返るなら!」
女は老婆に息子の遺体を手渡す。
「な、何…?」女の背から老婆のものと同じ蜻蛉のような羽が生えてくる。
「その羽根はこの小屋からのものさ。あたしたちの力の源となる。」
そして老婆の身体は子供の遺体を抱いたまま、緑色の霧と化して行き、そのまま小屋の戸口からいずこへか消え去る。
「小屋のそれぞれのドアの後ろには、あんたにとって新しい何かが待ってる。精々楽しむことだね。」
そして女はひとり、小屋に取り残される。

現在。
トラクターを運転するAbrahamがMadame Dragonflyの小屋に立ち寄る。
彼はDragonflyが自分達と離れて暮らしていることについて、自分たちが彼女を拒絶していると思われているのではないかと憂慮している。
「この小屋が私を必要としているから、ここを離れるわけにはいかない。」
彼女は告げる。

屋根の上に座り、神父への想いに悩むBarbalien。そこにGailがやってくる。
Barbalienの恋愛の悩みを自分に向けてのものと勘違いするGail。
取り繕うように言った「君は子供だから」という言葉がGailを深く傷つけ、二人の友情に罅が入ってしまう。

過去。
Dragonflyが小屋に縛られてから100年が経過。雨の夜、二人の男が森を抜け、小屋にやってくる。
近くの森で子供が行方不明になり、男たちは彼女が誘拐して小屋に閉じ込めているのではないかと疑う。
Dragonflyは否定し、帰るように言うが、男の一人が彼女を押しのけ、中を調べようと無理やり小屋に入る。
壁に並んだ奇妙なマークが描かれたドアが次々と開き、中から出てきたクリーチャーが男に襲い掛かる。
慌てた外にいた男がDragonflyに向かって持っていた銃を発砲し、彼女は魔法を撃ち返す。
緑色の炎に包まれ、沼に走りその中に沈む男。
「ごめんなさい…。そんなつもりではなかったのだけど…。」
だが、死んだと思っていた男が、身体が植物でできたクリーチャーとなり、沼から起き上がる。

現在。
TammyのダイナーへやってきたAbraham。
Tammyから町の外への休暇旅行を持ち掛けられるが、Abrahamはそれに同意できず、また行けない本当の理由も話すことはできない。

過去。
植物にクリーチャーへと変わった男と暮らし始め、愛を取り戻したDragonfly。
だが、彼女は近づくAnti-Godとの戦いに自らも参加しなければならないことを予知していた。
そして、戦いの後、予期しない形で送り込まれ、脱出することは叶わなくなったこの農場。
そこには離れることができない運命の小屋も送られていた。
しかし、そこには愛する者の存在はなかった…。

Dragonflyはこの農場に送り込まれた時には、既に愛する者との種を腹に宿していた。
だが、それについてDragonflyから語られることはない。
彼女は今、森にある小さな墓の前に跪く。

『Black Hammer Vol.1 Secret Origins』より 画:Dean Ormston

雨の降る森の中、墓の前に立つDragonflyの横に、Colonel Wierdが現れる。
「この嵐は…君が起こしているのか…?」
「いえ、私は何が起こっているのかわからない。」
その時、彼らのすぐそばに落雷。
二人はその地点へと向かう。落雷のプラズマの中に人影?
「早く!他の者が来る前に!」

その人影は近づいてきたDragonflyを指さして言う。
「あなた!私はあなたが何をしたか知ってる!」
それは、彼らの行方を調べていたSpiral Cityの新聞記者、Black Hammerの娘Lucy Weberだった。
「私はこの場所が何なのかを知っている。」
「大丈夫よ、落ち着いて。あなたの名前は?」
「Lucy…、 Lucy Weber。私はあなたが何者で、何をしたか知っているわ!」
「忘れなさい。」
Dragonflyは魔法の呪文でそう命じる。

『Black Hammer Vol.1 Secret Origins』より 画:Dean Ormston

やがて、Abraham、Gail、Barbalienも、その場に駆けつけてくる。
「何が起こったんだ?」
「それは誰?」
「彼女はLucy Weberだと言ってる。」
「Black Hammerの娘か?最後に見た時にはほんの子供だったが?」
Lucyは呆然と周囲を見回す。
「何が起きたの?ここは何処?」
「大丈夫よ、Lucy。」Dragonflyは彼女にそう言う。

以上、『Black Hammer Vol.1 Secret Origins』全編です。
『Vol.1』巻末にはJeff Lemireによる「The Real Secret Origins Black Hammer」と題された結構長いあとがきが掲載されている。それによると、そもそもこの作品は2008年頃、あの『Essex County』の頃から構想されていたもので、当初は自分で作画も担当するつもりだったそうだ。それがその後多忙となり手を付けられずにいたところで、Dean Ormstonというアーティストを得て実現したのがこの『Black Hammer』ということ。自身によるオリジナルのキャラクターの設定やデザインなども紹介されていて、色々と興味深い。元々は他にもキャラクターがいたり、これとこれはこっちに統合したりみたいな感じ。

こっちの構想も元々は2巻ぐらいまでやるつもりだったのだが、やって見たらとにかく1回1巻が限界となってしまいました。
かなり衝撃的なええっ?というところで終わった『Vol.1』だが、この続きは1か月ぐらい後に。次は『Vol.2』です。まあこんな紹介より、何より本編を読むことをお勧めします。

作者について

■Dean Ormston

1961年生まれ、イギリス ヨークシャー出身のアーティスト。結構個性的で印象的な作風だが、よく知らなかったので割と最近の人かと思っていたら、デビューが1990年代前半とかなりのベテラン。代表的な仕事は英国2000ADや、Vertigo『Lucifer』など。『Black Hammer』についてはTPB4巻までだが、この人の作画があって『Black Hammer』という作品はできたぐらいに思う。

■Dave Stewart

1972年生まれ、米アイダホ州出身。アイズナー賞受賞歴もかなり多い、現代アメリカン・コミックを代表するカラーリストのひとり。代表作は『Hellboy』関連あたりなのかな?DCマーベル作品多数。日本に翻訳あるのではFábio MoonとGabriel Báの『デイトリッパー』とか。

とりあえず第1回完了で、また来月というところなのだが、またえらく時間がかかってしまったよ…。ちょっとこの先、そろそろ短めに書けるもののストックが尽きて、長くなりそうなものばかり残ってる感じだったりするのだが、とりあえずはなるべく早めの更新を目指して頑張って行きますので。

Black Hammer

■Black Hammer: Streets of Spiral

■Black Hammer/Justice League: Hammer of Justice!

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