Black Hammer 第4回 / Jeff Lemire + Dean Ormston

Black Hammer第1部完結!彼らは地球に帰れるのか?

Jeff Lemire/Dean Ormstonによる『Black Hammer』の第4回。今回で『Black Hammer』第1部の完結となります。パラゾーン内のColonel Wierdの宇宙船で目覚め、遂に自分達が農場に閉じ込められていた真相を知ったAbraham達。その時すでに宇宙船はパラゾーンから地球へと向かい発進されていた。彼らは無事に地球へ帰れるのか?

なんか本店でジェイムズ・エルロイの記事に入れ込み過ぎたり、お彼岸のお墓参りに実家に帰ったり、前回までの『Slaine』の記事がかなり長くなってしまったりの、複合ドタバタで、月刊ペースが大幅に崩れてしまいましたが、『Black Hammer』の第4回です。

Black Hammer 第4回

Vol.4 Age of Doom Part Two

■キャラクター

  • Black Hammer:
    最強のヒーロー。現在は死亡。

  • Abraham Slam:
    元筋肉系ヒーロー。対外的には農場の家長を装っている。

  • Gail:
    変身中はGolden Gailとなったときの9歳の少女のままだが、実は高齢の女性。

  • Barbalien:
    火星人。変身能力で普通の地球人を装う。

  • Colonel Wierd:
    あらゆる時空間にランダム不連続につながるパラゾーンの住人。

  • Talky-Walky:
    Colonel Wierdとチームを組んでいたロボット。性別は女性。農場の秘密を守るためWierdに破壊される。

  • Madame Dragonfly:
    強力な魔法で、架空の農場とRockwoodの町を作っていた。

  • Lucy Weber:
    Black Hammerの娘。父の遺したハンマーでBlack Hammerを継ぐ。

■#6

#6-7は連続したエピソードで、作画は異色作家/アーティストとして知られるRich Tommasoに交代する。

Colonel Wierdの宇宙船で目覚め、真相を知った農場に閉じ込められていたヒーローたち。既に進路を定められた宇宙船は、地球へ向かう。
パラゾーンの出口を抜ける宇宙船。その瞬間、宇宙船内は白い光に包まれる。
まぶしい光に視界を奪われ、再び目を開くと、船内から他の全員の姿が消え、Colonel Wierdただ一人が残されていた。

戸惑いながら状況を把握すべく船内を移動するWierd。船窓から外を見ると、そこは宇宙空間でもない真っ白な空間。
船外の状況を探るためコックピットに座り、探査を試みるがあらゆる計器は反応しない。
Wierdは宇宙服を着け、船外に出てみる。宇宙空間同様に無重力だが、真っ白な空間に宇宙船は静止し、Wierdはその空間を漂う。
下にいくつかの惑星が見えた、と思った次の瞬間には、Wierdはその一つに落下して行く。
だが、彼が着地したのは地面ではなく木の床。混乱しながら室内である周囲を見回すWierd。
そしてその奥にあるドアが開き、二足で立つ服を着たバッタ男が彼を迎える。

『Black Hammer Vol.4 Age of Doom Part Two』より 画:Rich Tommaso

クラシックなハードボイルドの探偵事務所風の部屋で、デスクの向こうに座ったバッタ男は、Inspector Insectorと名乗る。
わけのわからない状況に戸惑いながら、ここは何処なんだと尋ねるWierd。
「その質問には答え難い。ここは何処でもなく、そして常に変化している」
Inspector Insectorがそう話しているうちに、部屋の家具調度、壁が朧げになり、探偵事務所は消え、そこは何もない荒野の真ん中に変わる。

荒野を歩きだすInsector。Wierdもそれに従う。彼らの周りで風景は次々と変化して行く。現代的なビル街が次の瞬間には災害現場へ。未来都市がぼやけて、その下から文明崩壊の悪夢へ。
「この変化は全てボスの気まぐれさ。私にも君にも他のみんなにもどうすることもできない」「他?他にも誰かいるのか?」
その時、どこからともなく大量のモンスターが現れ、彼らに襲い掛かる!
「Hellamentalsだ!奴らに触れられると、存在そのものが消されるぞ!」

InsectorとWierdは持っていた銃で応戦するが、敵があまりにも多すぎる。
その時!彼らの背後から発射されたレインボーカラーのビーム波が、広範囲のHellamentalsを一掃する。
彼らを救ったのはヒーローコスチュームに身を包み、にこやかに微笑む女性だった。「Ms.Moonbeam!」

『Black Hammer Vol.4 Age of Doom Part Two』より 画:Rich Tommaso

えーと…、日本だとここで出てくるのは魔法美少女だよな、と思った人は多いと思う。いや、別にいいんだけどね…。なんか心なしかWierdの表情もそんな風に見えたり…。
簡単な紹介の後、WierdはInsectorとMoonbeamと共に彼らの隠れ家に向かう。
地面にあったハッチを開き、地下へ向かう階段を下りて行く。
「君たちはスーパーヒーローチームの一員なのか?私のものとは別の宇宙の?」と問うWierd。
「スーパーヒーローチーム?そうならよかったんだけどね」とMoonbeam。
「私たちはチームじゃないわ。そしてここへ来たと言うことは、あなたもそうなったということ」
到着した地下の洞窟。そこには様々な時代も違うような物語から出てきたような、それぞれの衣装を着たキャラクター達が集まっていた。
「私たちは決して完成されない物語の、知られることのないキャラクター。そして今、あなたもその一員となったのよ」

『Black Hammer Vol.4 Age of Doom Part Two』より 画:Rich Tommaso

「完成されない物語だって?そんなはずはない。私はAbraham、Gail、Barbalien達の物語に属していたはずだ」そしてWierdはここへ来た経緯を話す。
「思うに、消えたのは彼らではなく、君の方だったのではないか?」
「しかし何故?どうして私は彼らと一緒に行くことができなかったのだ?」
「あなたの友人たちが誰で、どこに行ったにせよ、あなたはもうその一部ではなくなってしまったということよ」
「私は全てを壊してしまったのか…。」落胆するWierd。

その時、彼らの頭上で轟音が響く。急いで地上へ向かう洞窟の住人達。
「何が起こったんだ?」「分からない。こんなことは今までなかった」
地上に上がり、空を見上げた一同は驚愕する。「何だあれは?」
そしてWierdは更なる驚きと恐怖に目を見開く。「そんな…、ありえない…」
彼らの前には巨大なAnti-Godの姿があった。

『Black Hammer Vol.4 Age of Doom Part Two』より 画:Rich Tommaso

■#7

地上から避難し、洞窟に戻った彼らは、それぞれの物語を語り始める。
鎧騎士の姿の男は、太古のSpiral Cityの沼で聖剣エクスキャリバーを見つけ、ニュー・キャメロットの門を抜けSpiral Cityの守護者となるはずだった。
Inspector Insectorは、私立探偵として離婚事件を調査中に、依頼人の夫が密輸に関わっていることを突き止め、倉庫にあった積み荷を調べているうちにファラオのものであった虫の装飾品を発見し、それを目にしたことでバッタの姿に変わり、そこから数々の難事件を解決して行くはずだった。
Ms.Moonbeamは、光学博士となるべく研究を続けていた際、自身が作ったスーパープリズムを通った月光を浴びその能力を得、Golden Gailに対抗する強力なヴィランとなるはずだった。

それぞれのキャラクターに、過去から現在に至るSpiral Cityに関わる、物語として世に出ることのなかった背景があった。
Wierdはその中で、ガチョウ、ウサギ、ブタの動物グループSuper Petsが、唯一Gail達とともにサイドキックとして戦うように想定された、自分の物語に近い存在であることに気付く。
Insectorの通訳を介し、動物たちと話し始めるWierdだったが、まず外に現れたAnti-Godが何なのか説明してほしいというMoonbeamに遮られる。

あれをこの世界に呼び寄せてしまったのは私の責任だ、と沈痛な面持ちで語るWierd。
このままでは全員が危険だ。外へ出る方法さえわかれば、全員を宇宙船に乗せて脱出することができるのだが…。
その時、ガチョウ-Golden Gooseが声を上げる。Insectorによれば、Super Petsの中で彼女だけが例外的に物語に一度だけ出演しており、ゆえに脱出するルートに心当たりがあるとのこと。だが、それはとても危険を伴う、ともGolden Gooseは付け加える。
※Golden Gooseの一度きりの登場は、第2回に紹介した#8。何とかその画像も拾っとけてよかった。

「危険でもやるしかない。ここに私が留まれば、全てが破壊されるだけだ」Wierdは言う。
全員が合意し、洞窟から外に出る。立ちはだかるAnti-God。Golden Gooseは、その背後の山に出口があると言う。
彼らに気付いたAnti-Godが、大量のHellamentalsを襲い掛からせる。
Hellamentalsに掴まれ、次々と抹消されて行く仲間たち。Moonbeamがビーム波でHellamentalsの群れをせき止め、Wierd達に「進め!」と叫ぶ。

Wierd、Insector、Super PetsのみがAnti-Godの足元を抜け、山にたどり着く。
先頭を走るGolden Gooseに従い、彼らは山腹に開いた洞窟へと入って行く。
「みんな死んだ…。我々はそもそもが生きていなかったが、これで何物でもなくなってしまったわけだ。それだけの価値があったならよかったのだが」とInsector。
「もし私が友人たちにたどり着き、警告することができれば、全てを修復することができると願う」Wierdは言う。
まだこれで終わりじゃない!と走り出すGolden Goose。

だんだん滑り出し始める洞窟の床面を、Golden Gooseに従って走ると、不意に開けた空間に出る。
その場所は巨大な耳の上?彼らは巨大な人間の耳の中を通ってきたことを知る。
「こんなところは見たことがないぞ?ここは一体何なんだ?」Wierdは言う。
「彼女が言うには、ここは我々の全ての物語の源…」
「創造者だ!」

『Black Hammer Vol.4 Age of Doom Part Two』より 画:Rich Tommaso

「しかし…、私はパラゾーンの中で、この宇宙の全ての様相を見てきたはずだ。でもこんなところは見たことがない」Wierdは言う。
「私が思うに、これは宇宙の外。宇宙の全てはここで作られたんだ」とInsector。
この人物が我々総てを作ったというのか?と問うWierd。
「いや、そうは思わないな。あれを見ろ」

Insectorが指さす先では、同様に頭を雲の中に入れた多くの男女が並んでいた。
「この物語が生まれる場所では、この男が唯一の創造者ではない」
「ここは全ての数多くの物語の源。そして我々のものはそのほんの一部分にすぎない」

『Black Hammer Vol.4 Age of Doom Part Two』より 画:Rich Tommaso

「何故私をここに連れてきたんだい?」と、Golden Gooseに問うWierd。
「それは君に思い出してもらうためだ、と彼女は言っている」と訳すInsector。
物語は決して終わらない。常に新しいものが作られる。それはあなたにとっても、Colonel。

「しかし、私はここからどうやって元の物語に戻ればいいんだ?」
君の友人はあそこにいる、と雲を指さすInsector。
そして、WierdはInsectorたちに別れを告げ、雲の中へと入って行く。

最後に、「Gail、Abe、Lucy、そしてBarbalienの運命は、次回“Reboot”で明らかに!」の予告キャプションあり。

■#8

Spiral Cityで暮らすLucyは、雪の朝、いつものように目覚め、独り暮らしのアパートで一緒に暮らす黒猫に挨拶をして仕事に出かける。
彼女の仕事はピザレストランのウェイトレス。かつてはジャーナリストを目指していたが、今はその気持ちもしぼみ、退屈で無気力な日々を送っている。この街に新たな光を当てるべき秘密などなく、自分も特別な人間などではない。
夜、眠りにつく時、自分は何か重要なことを忘れているような思いに駆られる。だが、それもすぐに消え去る。亡くなった父がまだそばにいてくれたなら、と思う。

『Black Hammer Vol.4 Age of Doom Part Two』より 画:Dean Ormston

パラゾーンから地球へ戻ったLucy。だが、そこで彼女自身の記憶も現実も書き換えられ、全てを忘れ、自分がそれまでそうやって暮らしてきたと思っている全く別の人生を生きている。
そして続いて、他のキャラクター達の「今」の生活も描かれて行く。

Spiral Cityの博物館で、夜警として働くAbraham。野球中継を聴きながらデスクで待機していたが、ついウトウトしてしまう。
目を覚まし、館内を巡回。異常なし。
すっかり目も覚めたAbrahamは、彼の趣味のゴールデン・エイジのコミック誌をデスクから取り出し、読み始める。

『Black Hammer Vol.4 Age of Doom Part Two』より 画:Dean Ormston

火星で暮らすBarbalien-Mark Markzは、村の井戸へ水を汲みにやってくる。
ホモセクシュアルであることを理由に、彼を追放した評議会メンバーが現れる。自分の所の水源が枯れてしまったので水を汲みに来ただけだ、と応えるMark Markz。
「俺が好き好んでこんなところに来たと思ってるのか?できるものなら火星から脱出したいところだ」
「この星を出て何処へ行く?地球か?そこならお前のようなものでも受け入れられると思ってるのか?いずれにせよ、宇宙航行は禁じられており、無理な話だがな」嘲笑する評議会メンバー。
一触即発の緊張が走るが、Mark Markzはその場を去る。

村から離れた現在の住居である洞窟に戻ると、恋人であるKev KevzがMark Markzを迎える。
「目的のものを見つけたぞ」と、ある部品らしきものを取り出すMark Markz。実は彼はScience Cavesにあるこの部品を盗み出すために、村へ行っていたのだった。
壁面に隠されたスイッチを押すと、扉が開き、そこには更に広い空間の中に建造中の宇宙船が隠されていた。
この宇宙船で地球へ行き、変身能力で姿を変え、二人で暮らすことが現在の彼らの目標であり、願いだ。

『Black Hammer Vol.4 Age of Doom Part Two』より 画:Dean Ormston

Spiral Cityの雪の朝、それぞれに仕事へ向かうLucy、Abraham。そして火星から望遠鏡で地球を見るMark Markz。それらを背景に、この世界でのLucyの父についての思い出が語られる。
彼女の父は警官だった。毎週土曜の休みの日には、母を起こさないようこっそり父を起こし、一緒に探偵ごっこをして遊んだのが、彼女の何より楽しい思い出だった。
彼女が13歳のある金曜日、彼女の父は事件に巻き込まれ命を落とす。翌朝、父の姿はいつものベッドになかった…。

そしていつものようにピザレストランでウェイトレスとして働くLucy。電話が鳴り、受話器を取る。
「わ、私はピザが欲しいです」
「ええ、それならこの番号で合ってるわ。どんなピザが欲しいの?」
「ええと、人間は普通はどんなピザを食べるんですか?」「何なの?いたずら電話?」
「ち、違います。私は大変お腹が空いていて、ピザが必要なんです。そしてあなたに届けてほしいんです、Lucy Weber。」
「私はウェイトレスで、配達係じゃないわ。なんで私の名前を知っているの?」
「ご、ごめんなさい。最初からちゃんと話すべきでした。私は長いことずっとあなたを探していました、Lucy Weber。私たちが会うのは大変重要なことなんです」
「そーゆーことゼッタイ起こんないから、ヘンタイ。さいなら」
「待って!待ってください!あなたのお父さんにも関係あることです!」「何ですって…?」
「私はあなたのお父さん、Joseph Weberを知っています。お父さんからのメッセージを預かっています」

「誰だか知らないけど、これ冗談じゃすまされないわよ」
「冗談でやってるわけではありません。あなたを助けようとしているんです。説得力がないのはわかってます。私があなたのお父さんを知っていて、そして私が…お父さんが亡くなった時そこにいた以外には」
「…わかったわ、あなたに5分だけあげる。ただし人目のある公共の場所でね。」
「それはできません。私の現在の状態では外に出るのは不可能なんです」
そして電話の主のいるアパートの住所と部屋番号を告げ、電話は切れる。

当然ながらそんな話を信用するわけもなく、Lucyは普通に帰宅し、そしてベッドに入る。
だが、そこでいつもの何かを忘れている感覚が沸き起こり、そしてそれはいつまでたっても消えることがない。
Lucyは諦めて起き上がり、そして電話で伝えられた住所へ向かう。

Lucyは指定された番号のドアをノックする。
「Lucy!私を信じてくれたんですね!」「そういうわけじゃないわ」
「入ってください。何もかも説明しますから」「5分だけよ。銃を持っているから。何かしようとしたら…」
「そんなつもりはありません。でも私の見た目には驚くかもしれません」
灯りが点く。そしてそこに立っていたロボット-Talky Walkyの姿を照らし出す。
「Lucy、私です。Talky Walkyです。手遅れになる前に他のみんなを見つけなければいけません!」

『Black Hammer Vol.4 Age of Doom Part Two』より 画:Dean Ormston

■#9

Lucyの前に現れたTalky Walky。だが、記憶を失っている彼女には、もちろんTalky Walkyが何なのかさえわからない。
「なんなのこれ?誰が操作しているの?それとも中に入ってるとか?」
「私は誰にも操作されていません。Lucy、どう説明すればいいのか…。」
そしてTalky Walkyは、そもそもの始まりから話し始める。かつてのヒーローチーム、農場、そして実は宇宙船の中で眠らされていたこと…。
「そしてこの次元に戻るとき何かが起こった。現実は書き換えられ、スーパーヒーローは存在していなかったことになっていた。あなたのお父さんもBlack Hammerではなかった。」
だが、記憶の無くなったLucyにとってはこのような話が信じられるはずもなく、悪質な冗談だとしか感じられない。

「これは冗談などではありません。Lucy、私はあなたが鍵なのだと思っています。現実が書き替えられたとき、私には影響がなかった。多分私が機械だったからでしょう。私は全てを憶えています。ゴミの山の中で再起動され、目覚め、でも私はもうどこに行くこともできない。」
「さよなら、帰るわ」「待ってください。全部本当なんです。あなたのお父さんはスーパーヒーローだった」だがもはやLucyは聞く耳を持たない。
「そうだ、ハンマー。ハンマーを持ってないですか?」「何ですって?」
「お父さんのハンマーです。以前あなたはそれで記憶を取り戻した。今度もできるかもしれない」
かすかに興味を惹かれたLucyだったが、そのまま立ち去る。

火星。住居の洞窟に帰るMark Markzは、その入り口から煙が出ているのに気付き、走る。
中では建造中だった宇宙船が打ち壊され、恋人Kev Kevzが倒れていた。評議会のやつらの仕業だ。
Kev Kevzは、愛している、と告げ息を引き取る。

雨の中、ピザレストランに向かうLucy。バスが遅れ、遅刻する。
遅刻をなじる店長と口論になり、Lucyは店を辞める。

地下鉄でコミック誌を読んでいたAbrahamは、二人の若いチンピラに絡まれる。
コミックを引き裂かれ、怒ったAbrahamはチンピラに殴りかかるが、かつてボクサーだった力も衰え、一発のパンチも当てることができないまま袋叩きにされる。

火星。Mark Markzへの襲撃について報告を受ける評議会の長Lok Lokz。そこに怒りに燃えたMark Markzが銃と剣を手に襲い掛かる。
「この村のやつらを皆殺しにしてやる!」
飛行して逃げるLok Lokzに、簡単に追いつくMark Markz。
「助けてくれ!お前を評議会メンバーに戻し、村にも帰れるよう取り計らう!頼む!」
「戻る?帰れるだと?」Mark MarkzはLok Lokzに剣を突き立てる。
「ここに俺の居場所などない」

ロボット-Talky Walkyの途方もない話など到底信じられないと思いつつ、それが頭から離れないLucyは、二日後、母親の住居を訪ねる。
父の遺品を見て回るLucy。母親にBlack Hammerという名前に心当たりがないかと尋ねるが、何も知らないようだ。
お父さんの大きいものや工具類は、レンタル倉庫にあると言われ、Lucyはそこにも行ってみる。

父の使っていた工具箱の中にハンマーを見つけるが、それに何かの手掛かりがあるようには思えなかった。
そのうちに何かのマークが描かれた大きめの箱を見つける。Lucyは自分はこの中に秘密が隠されていると知っている、という奇妙な感情に駆られ、それを開ける。
そこには大型のハンマーが収められていた。
そしてそれに触れた途端、LucyはBlack Hammerに変身する。

『Black Hammer Vol.4 Age of Doom Part Two』より 画:Dean Ormston

さびれたアパートの空き部屋にただ一人残されたTalky Walkyは、最後となるログを口述していた。
「私は孤独。この宇宙で誰も私を憶えている者はいません。そしてどこにも行くこともできない。せめてColonelだけでもいてくれたなら。せめて…」
「これが最後の私の記録となります。さようなら。」自身の体内の重要な配線を断つべくニッパーを掛けるTalky Walky。
その時、窓にノック。そこにいたのはBlack Hammerに変身したLucyだった。「Lucy!」
「ここを開けて中に入れて頂戴。ドラマクィーンさん」

「Lucy、私を信じてくれたんですね」「すべて思い出したわ。ごめんなさい、疑って」二人は抱き合う。
「まず聞きたいのは、Colonel Wierdは?彼もすべて忘れてしまったの?」
「いえ…、それよりも悪いです。このタイムラインではColonel Wierdは1955年の最初の宇宙飛行から戻って来なく、亡くなったことになっています」
「それは気の毒に…。他のみんなは?居所はわかっているの?」
「もちろんです。すべて調べました。でも、いずれも元の記憶を失っています。私にはどうすることもできなくて」
「私ならできるわ。みんなを見つけましょう。そして元に戻すのよ」

『Black Hammer Vol.4 Age of Doom Part Two』より 画:Dean Ormston

■#10

博物館の夜警の仕事でデスクに座る、先日の地下鉄での暴行の傷も残るAbraham。ラジオからはSpiral Cityを襲っている嵐に関するニュースが流れている。
鍵を掛けられたドアを何者かが揺する音。こんな時間に訪問者があるはずはない。
地下鉄の事件から自信を失ったAbrahamは、やや怯えながら侵入を図る者に警告を発する。
打ち破られるドア。そこに立っていたのはLucyとTalky Walky。しかし、記憶を失っているAbrahamには何者なのかもわからない。
「何だお前ら?こりゃ例のクロスプレイとかいうやつか?」「それはおそらくコスプレだと思います、Abraham。そしてそういう意図のものではありません」とTalky Walky。

「このハンマーを触ればすべて思い出すわ」戸惑うAbrahamにそう告げるLucy。
混乱しながらも言われた通りハンマーに手を載せるAbraham。
「分かった。ほら触ったぞ。じゃあもう出て行ってくれ」だが何も起こらない…?
「どうやらそう簡単には行かないようね。ごめんなさい、Abe」
Lucyはそう言うと、パワーを込めたハンマーでAbrahamを殴る。
そしてAbrahamの頭の中に失われていた記憶が溢れ出してくる。

『Black Hammer Vol.4 Age of Doom Part Two』より 画:Dean Ormston

すべてを思い出したAbraham。だがそれは失われた農場やTammyへの想いを伴うものだった。
「なんでここへ来たんだ?なぜ俺を放っておいてくれなかったんだ?」
「どういうこと?そうあるべきじゃなかったことを正しに来ただけよ」
「何が正しくて、何が現実なんだ?少なくとも俺はTammyのことも忘れて一人で生きてこられていたんだ」
Abrahamの胸ぐらを掴むLucy。「もう泣き言は聞き飽きたわ。シャキッとしなさい、Abraham Slam。私たちにはやることがあるのよ」
苦笑を浮かべるAbraham。「何を笑ってるの?」「お前さん、本当にJoseph Weberの娘だよなあ」

「分かったよ。この世界は本当じゃないかもしれん。だがいくらかましなんじゃないか?ヒーローだのヴィランだのなんていない世界の方が住みやすいんじゃないか?そのままにしときゃいいと思うが」
「外を見た方がいいわ」そしてAbrahamはLucy達に従い、ドアから雨の降りしきる嵐の屋外に出る。
「これはただの嵐じゃない」
見上げた空は、今にも赤黒い雲に覆われようとしていた。
「Anti-Godか」「そうよ、奴が戻って来た」
「他の連中も集めなきゃならんな」

Abrahamの運転する年季の入ったワゴン車で、彼らはTalky Walkyが調べたGailがいるという養護ホームへやってくる。
受付で、叔母のGailを訪ねてきたと言うAbraham。Lucyは自分の養女だと説明する。
「ああ、あのスィートレディですね。身寄りの方がいらっしゃるとは知りませんでした」受付の女性は彼らに部屋番号を伝える。
「スィートレディ?」「現実はどのくらい書き直されたんだ?」Gailの暴れっぷりを知る二人は疑問を持ちながら、彼女の部屋へ向かう。

ドア口から呼びかけても反応しないGailに首を傾げながら近づいてみると、車椅子に座る彼女は既に高齢で、こちらの呼びかけにも全く反応しない状態になっていた。
ハンマーを触らせてみても、効果があったようには見えない。かといってこれほど弱っている相手をハンマーで殴るわけにもいかない。
困り果てたAbrahamとLucyは、Gailの車椅子を押し強引に車に乗せ、制止する養護ホーム職員を振り切り逃走する。
何とか逃げ切ったがこれからどうする?と思っていた彼らの前の路上に、Colonel Wierdと彼のロケットが現れる。

「喋るバッタ探偵がいて…だが彼らは存在したことがなく…。やあ、Abrahamまた会えてよかった」と、いつもと変わらぬわけのわからない状態のWierd。
「Colonel!わ、私…もう死んでしまったと思っていました!」と機械であるTalky Walkyの方が再会に感動している始末。
「今…思い出した…。私は既にここに来たことがあった…。ここで君たちと会って、火星に連れて行くんだ」

『Black Hammer Vol.4 Age of Doom Part Two』より 画:Dean Ormston

火星。亡くなったKev Kevzの墓の前に立つBarbalien-Mark Markzの近くに宇宙船は着陸する。
記憶の無くなっているBarbalienは、近づいてくる彼らのことがわかるはずもなく、変身能力で地球人に化けた村の生き残りだと思い、敵意を向け攻撃してくる。
強力な戦士であるBarbalien相手に、さしものBlack Hammmer-Lucyも簡単には御することができない。
一旦距離を取り、弾丸のようにハンマーを投げつけるLucy。
それに打たれ、地面に墜落するBarbalien。だが、次の瞬間には彼は記憶を取り戻し、友人たちとの再会を喜ぶ。

『Black Hammer Vol.4 Age of Doom Part Two』より 画:Dean Ormston

それまで何にも反応しなかった車椅子のGailだったが、最も仲の良かったBarbalienの姿に意識を取り戻す。
「Barbalien…あなたなの…?」
BarbalienはGailに近寄り、魔法の言葉を言うように促す。
辛うじてGailの口が動く。「Z…ZAFRAM…」
雷光が走り、次の瞬間車いすに座っていたのは、見た目は9歳のタフガール、Golden Gailだった。
「あたしなんで車椅子に乗ってんのよ?」

変わらないGailに喜ぶ一同。だがその時、Lucyの姿がぼやけ始める。
「何…?」そしてそのまま姿を消すLucy。
「彼女どこ行ったの?」「俺に分かるわけないだろ」

Lucyは柱の並ぶ神殿内に姿を現す。かつて彼女の父がBlack Hammerとして召喚されたNew Worldの神殿?
「おかえり、Black Hammer」声に振り向くLucy。
そこには玉座に座る父の姿があった。

『Black Hammer Vol.4 Age of Doom Part Two』より 画:Dean Ormston

■#11

感動の再会。抱き合う親娘。
彼は農場で目覚めた後、パラゾーンに出ることで死亡してしまったが、魂のみがNew Worldへ戻されたのだという。
「お母さんにも知らせなきゃ」と言うLucyだったが、父は首を振る。魂のみとなってしまった彼は、New Worldの外では存在できず、ここに留まるしかないのだ。
Lucyはこれまでにあった様々なことを父に話そうとするが、彼はそれをとどめる。
「ここから見ていてすべてわかっている。Anti-Godが戻って来ることも。そして、それを止められるのはお前しかいない」
「私が?」戸惑うLucy。そこにNew Worldの神Starlokが現れる。
「そうだ。バランスは崩壊し、Anti-Godは戻って来つつある。それを止める唯一の方法は、お前の友人たちの死だ」

Lucyが消えた後、宇宙船に戻り、ひとまず地球に向かうAbraham達。宇宙空間からも地球に迫るAnti-Godの脅威が見える。
この先はどうなるのかと、Colonel Wierdに問うGail。Wierdは自分も知っているのはここまでだと答える。
10年間の農場という嘘、そして戻ってからも現実そのものを書き換えられたこれまでの生活という嘘。彼らは自分の人生が破壊されたと感じている。
Madame Dragonflyを見つけなければ、と言うBarbalien。見つけるだけじゃない、今度は殺す、とGailは言う。

New World。この事態を招いたのは、彼らを目覚めさせてしまった自分の責任だ、と落胆するLucy。
「秘密があればそれを暴かなければ済まないのがLucyだ。それは生来のもので止めることはできないさ」と微笑む父Joseph。
「そして同様にAbraham達もその本質が、生来のヒーローだ。お前が起こさなくとも自力で目覚めたはずだ」
そしてStarlokが宇宙のバランスについて繰り返し語る。もはや残された時間は僅かだ。

自分も他の仲間と一緒に去らなければならないのか?と問うLucy。
彼女は既にバランスの一部であり、新たなBlack Hammerとしての使命が待っている、と告げるStarlok。
「でも、私にはできない…。彼らを殺すことなんて…。」
「殺すだって?誰がそんなこと言った?」Josephは笑う。

『Black Hammer Vol.4 Age of Doom Part Two』より 画:Dean Ormston

Spiral Cityの上空を覆う赤い空は、徐々に人々の間に不安とパニックを引き起こし始め、科学者、宗教サイドから様々な見当違いの憶測が挙げられてくる。
それらの状況を見ながら、Spiral Cityの上空でこれからどうするかを話し合うAbraham達。
Black HammerとMadame Dragonflyの力なしでは、まともに戦うことも覚束ないと悲観的なGailとBarbalien。
たとえ力が及ばなくても自分たちが闘うしかないと力説するAbraham。

そこにLucyが現れる。「立派な演説だし、あなたは正しい。立ち向かい、闘うことこそが英雄的行為だわ。でも最も賢いやり方ではない。」
「では闘う以外にどんな選択肢があるというんだ、Lucy?」Abrahamは言う。
「全てを解決できる人物を見つけるのよ」
Madame Dragonflyを。

アメリカのごくありふれた郊外の家庭の朝の風景。
彼女は、だんだん言うことを聞かなくなってきた娘と息子に少し手を焼きながら、遅刻しないように急かして朝食を取らせる。
そして出勤の準備を整えてきた夫を送り出す。
夫は彼女をDragonflyと呼ぶ。

二人の子供を車で無事に学校まで送り届ける。
帰路、車のラジオからはSpiral Cityで起こっている謎の現象に関するニュースが流れてくる。
彼女は疎ましそうにラジオのスイッチを切る。
そして我が家に帰り、玄関から家に入る彼女。
そこには彼らが待ち受けていた。

『Black Hammer Vol.4 Age of Doom Part Two』より 画:Dean Ormston

■#12

「誰なんですか、あなたたちは?出て行ってください!」
記憶の無いDragonflyを落ち着かせ、話をしようとするAbraham。以前より彼女に遺恨があるGailが強硬に出ようとするが、Abrahamがたしなめる。
記憶を戻すためにハンマーを使うようにLucyに言うBarbalien。だがLucyは、Dragonflyは強力な魔法に護られているため、効果はないのではと応える。
「私の家から出て行って!」と叫ぶDragonfly。その背後の壁が一瞬、不気味なマークの描かれたドアが並ぶものに変わる。
「Abraham、あれが見えたか?見えたなら言ってくれ」「The Cabin of Horrorsだな…」彼らも事情を察し始める。

Madame Dragonflyは、その強力な魔法により地球に戻ったときにも現実・記憶の書き換えの影響を受けなかった。
問い詰められ観念して元の姿に戻るDragonfly。その家もThe Cabin of Horrorsへと変わって行く。
家、そして一緒に暮らす家族、全てDragonfly自身が作り出した幻覚だった。

かつて自分の死んだ子供を助けたいという思いからThe Cabin of Horrorsに捕らわれ、Madame Dragonflyとなった彼女には、普通の生活、再び子供を取り戻すことへの願いが何よりも強かった。
だが、それは全て偽りだろうと言うAbraham。
それがどうしたというの?私は毎日自分を騙し続け、そのうちに自分でもこれが本当だと信じられるようになった。あなた方にとっての農場と同じように。
「あなた方は信じないかもしれない。でも私は農場、そしてすべてをあなた方が幸せに過ごせるように作った。そしてその代償として、私は孤独に暮らさなければならなかった」

とにかく今の最優先課題は、迫りくるAnti-Godをどうするかだ、と話すLucy。
「それはわかっているわ。でも私たちに何ができるというの?Anti-Godをもう一度倒すことなどできないわ」
「確かにそうだ…。Anti-Godを戦闘により倒すことはできない…。だが、他の方法がある…」Colonel Wierdは言う。
「あなたたちがもう一度消えることよ」

LucyとWierdの言う別の方法とは、彼らが再び農場に戻ることだった。
全てを知ってしまった今、もう一度あそこに閉じ込められたら頭がおかしくなってしまうというGail。
全ての記憶を消してしまえば?そうしてもう一度あの農場に戻ることは可能なのか?

「あなたたちは私がやっと築き上げた家族を捨てろと言うの?」The Cabin of Horrorsに捕らえられて以来孤独に生きてきたDragonflyの、何よりの願いは、それが偽りの幻想でも家族を持つことだった。
「農場にいた何年もの間、小屋に閉じこもっていた君はわからなかったのかもしれん」Abrahamは言う。
「だが、我々は本当の家族だったんだぞ」

だが、Gailだけはその決定に承服できない。子供の身体に閉じ込められた苦痛の日々。
「私は絶対に戻らない。何があろうと私を説得することはできないわ」
その時、窓の外から声がする。「本当かい?私が一緒に行くと言ってもかい?」
小屋の外には、Anti-Godとの戦いの後、離れ離れになってしまっていた彼女の恋人Sherlock Frankensteinがいた。

『Black Hammer Vol.4 Age of Doom Part Two』より 画:Dean Ormston

再会を喜び合う二人。
「ずっと君を探し続けていた。止まることなく。しかし現実が書き替えられた時、一旦すべてを忘れてしまい、記憶を取り戻すのに数週間かかってしまった。そしてここで君を見つけた」
Sherlock Frankensteinの説得により、Gailの意思も固まる。
だがその時、一面真っ赤に染まった空に、雷鳴と共に稲妻が走る。「何か起こったようだな」

そして空に巨大な目が現れる。遂にAnti-Godが彼らを見つけた。もはや一刻の猶予もない。
私に本当にできるだろうか、と躊躇うDragonfly。
「私は君を信じているぞ、Dragonfly。私は君ら全員を信じている。いつだってな」AbrahamはDragonflyを励ます。
「しかし、既にパラゾーンは閉じてしまった…。Dragonflyの魔法が完成しても、我々には隠れる場所が…」
「大丈夫よ。他の方法がある。」そして、Dragonflyの身体から光が放たれ始める。

魔法が構成され、巨大な羽の生えた光の柱へと変化したDragonfly。「急いで!」
まず最初に柱へ向かったのはAbraham。「信じて飛び込め!向こう側で会おう!」
「準備はいいかい?」「あなたが大丈夫ならね、ハゲちゃん」Gail、Sherlock、そしてBarbalienが続く。
「あなたにお仕えできたことは、私の誇りです」「君は常に私の一番のロボットだったぞ、Talky」Talky Walky、Colonel Wierdが光の柱へと入って行く。
寂しげな顔で、光の柱に全員が消えて行くのを見届けるLucy。そして叫ぶ。
「今よ!扉を閉じて!」

『Black Hammer Vol.4 Age of Doom Part Two』より 画:Dean Ormston

農場の家のキッチンで食器の片づけをする老齢の男、Abraham。
そこへ愛する妻、Tammyがやってきて、他愛ない冗談を交わす。
やがて、息子Markの運転する車が、町から帰って来る。
車から降りたMarkは、友人Paul Quinを両親に紹介する。
後部座席からは孫娘Gailが降りて来る。
新しく買ってもらったロボットの人形を、祖父に見せるGail。
その時、近所に住むGailと同年代の眼鏡をかけた少年Sherlockがやって来る。
納屋に作った秘密基地で遊ぼう、と言うSherlockと共に走って行くGail。
そして家に戻って行く家族たち。Abrahamはひとりポーチに残り、しばし暮れて行く空を見上げる。
「万事、順調だな」

『Black Hammer Vol.4 Age of Doom Part Two』より 画:Dean Ormston

そこからカメラは後退し、農場の家と納屋を遠景で小さく捉える。
そしてそれは、農場と家を小さく映す無数の六角形の連なりとなり、昆虫の複眼へと変わる。
それは空を飛ぶトンボの眼。
そしてそのトンボが、Spiral Cityを護る、新たなBlack Hammer-Lucy Weberの差し出した指に留まる。

『Black Hammer Vol.4 Age of Doom Part Two』より 画:Dean Ormston

-Black Hammer: Age of Doom END-

■Black Hammerとはどういう物語なのか

ここでBlack Hammer第1部完結ということで、一旦『Black Hammer』とはどういう物語であるのか、というところをまとめておきたい。
まず大枠で言えば、『Black Hammer』はアメリカで伝統的ともいえる、それぞれにシリーズを持つスーパーヒーローたちが共通する世界観の中で共闘するコミック世界の中で、そこを現実として生きるキャラクター達を描いた物語。

ストーリー全部紹介しちゃったんで、ネタバレありで時系列的に並べると、彼らはその世界での最大の敵、Anti-Godを遂に倒すが、その世界のバランスのため、その時点で彼ら自身も消えなければAnti-Godが復活してしまうというジレンマに陥り、別次元であるパラゾーンに送られ、事情も分からないままそこで作られた世界の中に閉じ込められ、偽りの生活を送る。
だが、その世界に綻びが生じ、外部からBlack Hammerの娘Lucyを呼び寄せたことで完全に破綻し、真実を知った彼らは元の世界に戻る。だがそれは必然的に、最大の敵であるAnti-Godを復活させてしまう。
そこで彼らは闘うことを拒み、その世界から消えて平和な架空世界の中へと帰って行く。

これをフィクション世界の外からの視点で見ると、まず最初の最大の敵Anti-Godを倒すというところは、シリーズの最終回である。実はこの物語はキャラクター達のフィクション世界の上から見た表層的な物語が終わったところから始まっているのだ。
シリーズが終わればキャラクター達も消えなければならない。そしてキャラクター達がその世界に戻ればシリーズは再開されたということになり、その敵も戻ってきてしまう。ヒーローたちが存在するためには、敵の存在も不可欠だからだ。

シリーズが終わればキャラクターもそのまま消えるはずだったが、この世界にはイレギュラーな形で世界にアクセスできるColonel Wierdという人物がいた。
事情を察したWierdが、彼らを安全なところへと避難させることで、キャラクター達は物語世界の裏というようなところで存在し続ける。
そして彼らが物語世界の表層に戻った時、世界は「リブート」され、キャラクター達は新たな始まりとして、一旦ヒーロー以前の段階へと戻されるのだ。
「リブート」段階でイレギュラー存在であるWierdが弾かれてしまう状況を描いたのが、実はメタ的な物語でありながらそれを前に出さずに進められてきた中で、最もメタ的な、今回紹介したBlack Hammer: Age of Doom #6-7というわけ。

この物語のそういったメタ的な構造については、第3回で紹介した、LucyがMadame DragonflyのThe Cabin of Horrorsに捕らえられ、様々な世界を巡るときにも暗に示されていたのだが、全体的に見ればそれを前に押し出した実験的なストーリーにはならず、ましてや安直なパロディ展開でもなく、それぞれのキャラクターに深く感情移入させ、ストーリー展開に没入させる、一級のエンターテインメント作品として読ませるのが、現代アメリカン・コミック最重要作家であるJeff Lemireの手腕と言えるだろう。

デビュー以来一貫して「家族」をテーマとして作品を作り続けているLemireだが、今作でもそれは変わらず、家族の絆が中心を貫くテーマとされている。
Black Hammerの父と娘との絆、Madame Dragonflyの家族への切なる思い。そして、疑似家族として始まったヒーローたちの物語は、最終的に本当の家族となることでハッピーエンドを迎える。
なんか、物語の中のキャラクター達が自分たちの「現実」から「逃避」して行く場所が、我々の「現実」に近いヒーローもヴィランもいない世界というのも、まあ今んところはまだ日本で流行ってる感じの異世界転生物とか考えると意味深げかもね。

こうして第1部が完結した『Black Hammer』だか、物語は更に第2部『Black Hammer Reborne』へと続く。
第2部では、この20年後、Lucyが既にヒーローを引退し、2児の母として暮らしているところから始まる。そこに新たに襲い掛かる脅威の正体は?Lucyは何故Black Hammerであることを辞めたのか?
そして更に、既にお気づきであろうが、最後の場面で一緒に光の中に入って行ったのにもかかわらず、ああやっぱりという感じで幸せ家族に参加できなかった、気の毒なあの人の運命や如何に?
ここまでの話を作り上げたJeff Lemireがこの先物語をどう展開して行くのか?こうご期待ナリ。

というところなんだが、この区切りで次回来月『Black Hammer』は一回休み。Jeff Lemireに関してはとにかくなるべく多く作品を紹介して行かなければ、ということで、まあ月刊Black Hammerから、月刊Jeff Lemireという形に考えを広げ、他作品を紹介します。
ということで第2部『Black Hammer Reborne』は、再来月より。
で、来月何をやるかというと、こちらもまたLemireの代表作である『Descender』。こっちも大作で第1回で次回に続く、ということになりそうなんだが、とにかく一つでも多く取り掛かって行かなければといことで。
ところでLemireの代表作ということで、最初ここで『Sweet Tooth』と考えていて、そこで初めてNetflixの調べたんだが、何あれ?なんで主演にあんなかわいい男の子持ってくるかな。なんか「スイート・トゥース かわいい」ぐらいの検索キーワード出てくるし。この状況だとオリジナルのコミック紹介しても、そっちのイメージから「スイート・トゥース 原作 かわいくない」とか「絵が汚い」とか「絵がヘタ」みたいな安直で頭の悪い見当違いの批判に巻き込まれかねん。お前、Jeff Lemireってのは、世界にどこも行き場所のない少年、みたいなの描かせたら右に出る者がいないぐらいのアーティストなんだぞ!まあそんなわけで、『Sweet Tooth』に関しては、その辺が収まった当分先ということで。まあ昨今の出版状況では可能性低いけど、もしかすると日本で翻訳出版とかもあるかもと考えられるけど、なーんかせっかく出てもそういうろくでもない流れになりそうで、考えてる奴いたら今はやめとけ。前から何度も言ってるけどLemireの画について「いわゆるヘタウマ」みたいなまとめ方するやついたらぶん殴りたいぐらいが、当方の考えなんで。
まあ色々と話がそれてしまいましたが、来月は『Descender』の多分第1回、そして『Black Hammer Reborne』は再来月からという感じで、月刊Jeff Lemireでやって行きますので。

作者について

■Rich Tommaso

こういう作画の人選みたいなの、こういう作品でJeff Lemireクラスなら当然編集でなくて本人ということになるんだろうが、やっぱさすがLemireという感じ。アメリカのオルタナティブ・コミックではちょっと知られた存在であるRich Tommaso。
と思ってたんだが、調べてみると意外にウィキペディアみたいなまとまった情報見つからなかったり…。フランス語の書きかけぐらいしかないじゃん…。
1970年生まれ。主に小出版社のプリント版コミックから始めているので、そういう情報ないと初期のキャリアなど分からず…。1940-50年代のクライム系コミックからの影響の多いスタイルが特徴で、その辺は今見られる辺りでは再版された『Clover Honey Special Edition』(Image)、『The Horror of Collier County (20th Anniversary Edition)』(Dark Horse)というあたりなんだろうと思う。個人プロジェクトとして現在も進行中の、個人アンソロジー『Black Phoenix』(Floating World Comics ※プリント版のみ)もそっち傾向なのだろう。
2010年代中頃からは、Image Comicsから『Dark Corridor』(2015)を出版し、『She Wolf』(2017)、『Dry County 』(2018)などが続く。近年はまた『Black Phoenix』に専念している感じ。
クライム系の他に、動物を主人公としたたぶんユーモラス方向だろう作風のものもあり、Imageからの『Spy Seal』(2017)あたりがそういうのだと思うのだが、この『Black Hammer』での作画はそっち傾向のよう。
どうもいまいち中途半端な紹介で申し訳ないんだが、Rich Tommasoについて詳しく知りたい人は、以下の記事を参考にしてください。

Comicbook.com/The 7 Best Rich Tommaso Comics So Far
The Comics Journal/Black Phoenix Magazine Vol. 2, No. 1

Black Hammer

■Black Hammer: Streets of Spiral

■Black Hammer/Justice League: Hammer of Justice!

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