A Righteous Thirst For Vengeance / Rick Remender + André Lima Araújo

異色のアジアン・ノワール風サスペンス!

今回はRick Remender/André Lima Araújoによる異色サスペンス作『A Righteous Thirst For Vengeance』。2021-2022年に、Image Comics内のRemenderのレーベルGiant Generatorより全11話、TPB2巻にて発行されています。

カバー画を見て、これってアレみたいなやつじゃない?と思った人もいるかと思うのだが、まさにそのアレだ!いや、キャッチコピー的にもう言っちゃってるのだけど…。どうアレなのかについては、後ほど詳しく。

先に全2巻と書いたのですが、実は今回私まだ1巻しか読んでません。本当は2巻読み終わってからやるべきなんだが、今回は1巻のみで書きます。別に2巻読む必要ないとかいう理由ではなく、これサスペンス作品で、あんまり先まで書いてもネタバレにしかならんから。この作品、「ロード・トゥ・パーディション」を思わせるとかいう評もあり、1巻の最後ぐらいで、ああこうなってロード・トゥ・パーディションなるんだな、と推測できる感じになるけど、そこまで書くのもすらネタバレ感あるわけだし。
あとRemenderのGiant Generator最近知ったぐらいなので、Remender作品どんどん読まなきゃとちょい焦っていることなどもあったりもするのですが。
そんな感じで、色々推測したり、ネタバレ注意したり、焦ってる『A Righteous Thirst For Vengeance』です。

A Righteous Thirst For Vengeance

■Story

カナダ バンクーバーのチャイナタウン。
日常風景。買い物に行き交う人達。路上に座り込みカップを差し出し物乞いをするホームレス。
建物の階段から一人の中国系中年男が降りて来る。
煙草に火をつける男。
雨が降り出す。
男は顔をしかめ、フードを被って走り出す。

『A Righteous Thirst For Vengeance Vol. 1』より 画:André Lima Araújo

男は雨の中、停車しているバスに向かって走る。
後ろから傘を差した老夫婦が急いでくるのに気付き、乗車を先に譲ってやる。
老夫婦の傘が上手く閉じず、夫が雨の中外で待っている男を申し訳なさそうに見る。
「気にしなくていいよ。」男は応える。
バスに乗り込むと、席についた老夫婦が感謝の笑みを浮かべて来る。男も笑顔で返す。
席に座った男は、スマホを取り出す。
地図アプリを開き、目的地を確認する。市街地からはかなり離れたところのようだ。
更にスマホを操作し、別の画面を開く。
『アンドリューズ事件容疑者失踪。-FBIは性的人身売買事件の捜査を開始。-』
男は険しい表情で画面を見つめる。
ポケットから煙草を取り出す。雨でびしょ濡れになり、すっかり水を吸ってしまっている。
「傘を買った方がいいよ。」先ほどの老夫婦の夫が振り向き、声を掛ける。
「そうだね。」
男は降車ブザーを引く。

バスから降りようとした男は、構わず乗車してくる人波に難儀し、うんざりさせられる。
ドラッグストアに入った男は、精算を済ませドアに向かってきた男とぶつかる。男の抱えていた荷物が散らばる。パイプ洗浄液、ダクトテープ、豆球セット、アルコール溶液…。
「この野郎、前を見て歩け!」
金髪の男がやや不快気に黙って見返してくる。そして足元に散らばったものを拾い始める。それを見て男に後悔の念が浮かぶ。
「ああ、すまなかった。ろくでもないことが続いてて。」
「そういうやつは隙を見て忍び寄ってくるのさ。」金髪の男も笑顔で返す。
「手伝うよ。」男はパイプ洗浄液を拾い、金髪の男が持つ袋に入れる。
男はレジに向かい、煙草を差し出す。
「これ、置いてるかい?」
「中国ブランドみたいね。」
背景で先ほどの金髪の男が緑色の車に乗り込むのが見える。
「うちにあるのはこれだけよ。」店員が後ろの棚を指さす。
「ちぇっ、じゃあマルボロのハードパックをくれ。」

『A Righteous Thirst For Vengeance Vol. 1』より 画:André Lima Araújo

店を出てバス停へ戻る男。
道端に死にかけて弱々しくもがく鳩が横たわっている。もはや自力で起き上がる力もないようだ。バス停に座った黒人の少年が話しかけて来る。
「ずいぶん苦しそうだけど、どうすればいいのかわからないんだ。」
「映画で見たんだけど、こういう時は首を折って楽にしてやればいいらしい。でも手で触るのは嫌だし。」
「足で踏むのも考えたけど、一回で死ななくて何回も踏むことになるのも嫌だし…。」
「なんで僕がこんな心配しなきゃならないんだろう。」
バスが来て、少年は立ち上がりそちらに向かう。
「たまたまここに居合わせただけなのに。」
少年はバスに乗る。男は路上のハトを見つめて躊躇っているが、運転手に促されてバスに乗る。
バスの窓からなおも鳩を見つめる男。
バスは発車するが、すぐに停車する。
男がバスから降りてきて鳩に歩み寄り、強く踏んで鳩を絶命させる。
また雨が降ってくる。
男はフードを被り、屋根のあるバス停のベンチへ戻る。次のバスを待つ女性がスマホを見ながら座っている。男に声を掛ける。
「傘を買った方がいいよ。」

すっかり暗くなった道。バス停の横の私道から緑の車が出てきて、停車するバスとすれ違う。
停車したバスから男が降りる。スマホを取り出し目的地を確認する。
そして私道の先にある家へ向かう。

『A Righteous Thirst For Vengeance Vol. 1』より 画:André Lima Araújo

玄関のドアをノックする男。応答がない。再びノック。チャイムを押す。
諦めて去ろうとして、立ち止まりドアを振り向く。
ドアノブを試す。開いた。
玄関口で声を掛ける。
「…こんばんわ?Mary Sullivanさんを探してるんですが…。」
返事はなく、男は家に入る。
玄関を入ってすぐに、この家の持ち主らしい夫婦の写真が飾ってある。
奥から何か音が聞こえてくる。たどってみるとケトルの湯が沸騰している音だった。
そのままキッチンに入ると、まだ温かい料理が盛り付けの途中で放置されていた。
あたりを見回すと、近くの部屋の少し開いたままのドアが目に入る。
男は近寄ってドアから室内を覗いてみる。

夫婦は陰惨な拷問の末、殺害されていた。
全裸で手足をダクトテープで拘束され、身体のあちこちに針状のものを刺され、傷に豆球を押し込まれ、夫の口はパイプ洗浄液を流し込まれる形でテープで塞がれ固定され…。
惨状に息をのみ、呆然としていた男は、鳴り続けるケトルの音に我に返り、キッチンのそれを持ち上げる。
その時、男の頭にドラッグストアでの出来事がフラッシュバックする。

パイプ洗浄液、ダクトテープ…

男は我に返り、自分が触った場所を布で拭き、自分が殺人現場であるこの家に来た痕跡を消し始める。ケトル、ドアノブ…。
家の外に出て、震える手で煙草を取り出し、火を点ける。
また雨が降り始める。
男はフードを被り、走り始める。

家の玄関から、車寄せの横を通る短いコンクリートの通路。
そこに男の靴跡は残されていた。
鳩の血の残る靴跡…。

以上が第1話のあらすじ。
一切の説明もなく、淡々と、というぐらいにひたすら主人公の中国系の男の行動を描写して行く。セリフもほとんどなく、書いたのでほぼ全部ぐらい。
主人公の名前は現時点では明かされていないが、それは名前が必要となるシーンがないだけの理由で、後ほど明らかになる。とりあえず、第1話の時点では、その素性もこの家に来た理由・目的も不明。

第2話冒頭で、朝になり、男は自宅へ戻ってくる。
床下の隠し場所からUSBメモリを取り出し、PCに差して特殊な裏サイトにアクセスする。
「JOB」の項目の中に、昨日の夫婦の件を見つける。
Job Status:「完了」。Worker:Blue Jackal。
New Contractsをクリックし、前の件と同じオペレーターMayor Oakをクリックする。
新たな殺人依頼。ターゲットは女性。
男は依頼を受けるボタンをクリックする。

『A Righteous Thirst For Vengeance Vol. 1』より 画:André Lima Araújo

その夜、男は指定の住所へ行き、一緒に依頼を遂行する男と会う。
そしてターゲットの住居へと向かって行くが…。

■作品について

昨年あたりの話題作でもあり、大変印象的なカバーやタイトルからもある種の期待を持って読んだのだが、感想としてはRemenderすげえ。
と言っても今回インタビューの類は見つからず、以下はこちらの想像となるのだが…。

まず、これは明らかにアジアン・ノワール映画に影響を受けたものであることは間違いないだろう。
元ネタとしてはパク・チャヌクの復讐三部作とか、ジョニー・トー作品とか。
これらの映画に感銘を受けたRemenderは、自分もこんな作品を作りたいと考える。
そしてまずそれらの映画の構成や語り方をかなり研究したに違いない。紹介した第1話の主人公の目的なども明らかにしないまま、ほとんど説明なしにその行動を描写して行くスタイルなどからそれが窺われる。
そして、普通の流れから考えて、Remenderはまず主人公を自身と同じような欧米人で考えていたのではないか?だが、うまく行かない。どうしても思ったものとは違う、アメリカ風のサスペンス作品になってしまう。
そこで奴は思いついた。こういう映画っぽいキャラクターをそのまま持ってくればいいのではないかと(なんか色々調べてる過程で出てきたけどこれTVシリーズの『Deadly Class』に出てたベネディクト・ウォンがモデルっぽい)。
そうして出来たのがこの作品である。と思う。
いや、どこまで行っても私の想像なんだが…。

しかし、インタビュー見つからなかったとは言ったけど、考えてみれば2巻までちゃんと読めば、巻末にあとがきとかでRemenderがフランクにオレこう考えて作ったんだぜーと全然違うこと語ってる可能性もなきにあらず…。
やっぱちゃんと全部読んでから書かなきゃだめだなあ、と思う一方で読まねばと思う作品の山と、時間が…というのは何処まで行っても言い訳か…。
アジアン・ノワール映画に関しても、もっと新しいあたりでも色々いいのもあるんだろうな、と思いつつ観る時間作れないのが現状。もっと努力せねば。

『A Righteous Thirst For Vengeance』。正統なる復讐への渇き (韓国映画風!)。
この主人公の謎の行動の動機はそこにあるのだろう。だが、その真相は、この時点ではまだ明らかにはされていない。

作者について

■Rick Remender

1973年生まれ、米ロサンゼルス在住(出身?)。アニメーターとしてキャリアを始め、『アイアン・ジャイアント』などに関わり、1998年にアニメーター仲間と自費出版した『Captain Dingleberry』がSLG Publishingに認められ、同社から出版されたことからコミックの世界に入る。なんかアニメスタジオの仲間と同人誌作ってコミケに…、みたいなの想像してしまった。
やはりアニメーターということで当然画も描け、初期には作画もやっていたほか、ペンシラー、インカーの仕事もあったようだ。
マーベルでの作品、代表作ぐらいのも多いし、マーベル出身かぐらいに思ってたんだが、Image Comicsの『Sea of Red』や『Strange Girl』の方が2005年ぐらいで先のよう。2007~2015年ぐらいの間はマーベルでホント沢山活躍してる。あのJerome Opeñaと最初に組んだのは2008年だから、かなり初期からの付き合いなのか。
2013年頃からはImage Comicsで、『Black Science』、『Deadly Class』、『Low』などのオリジナルシリーズを立て続けに開始し、2017年にはImage Comics内に自身のレーベルGiant Generatorを立ち上げる。
Rick Remender、日本である程度翻訳あるからカタカナでいいのかとさっき気付いたのだけど、今更全部直すの面倒なんで、とにかく今回はこれで。リメンダーとレメンダー2種類あるみたいで面倒だし。面倒おじさんか。
Remender作品、遅ればせながらここから頑張って行かねばというところなんだが、巻数多いの全部一気に読むのは大変なんで、あっちこっち2~3巻ぐらいずつで何回かに分けて行けばいいかな。いや、それなりに期待してて結構本持ってるんだし。『Deadly Class』翻訳一冊だけ出たので、2巻からでいいかなとか。とにかく今後はRemender枠ぐらいに考えて頑張ってきます。

Giant Generator

■André Lima Araújo

ポルトガル出身のアーティスト。生年等情報なし。ポルトガルのUniversity of Minhoを卒業後、すぐにマーベルで仕事を始めたと、自身のホームページには書いてあるのですが、その辺の詳細な事情については書いてない。
この作品を見ると、アメリカのコミックよりバンドデシネとかの方が近そうに見える気はするが、あんまりほかの画を見られなかったのではっきりとは言えないけど。白黒作品も多いようで、やっぱこの人も線にこだわるタイプのアーティストという感じ。この静かで正確という感じの彼の画がなければ、この作品も成立しなかっただろうと思える。
2016年にオリジナル作品『Man Plus』を、英Titan Comicsから出版。現在はブライアン・マイケル・ベンディスとの『Phenomena』三部作を作成中とのこと。これ単行本オリジナルで第1部が昨年9月に出ているが、当分はこれにかかりきりかも。こちらAbrams Booksからプリント版のみで発売中のようだが結構気になるよね。

André Lima Araújoホームページ

■Chris O’Halloran

危うく忘れそうだったが、この作品にはカラーリストChris O’Halloranも参加。
アイルランド出身ということだが、この人も生年等情報なし。各社まんべんなくぐらいで仕事をしているようだが、Twitterのプロフィール画像がHellboyなんで、好きなんだろうなと思う。もちろん『Hellboy』のカラーもやってる。最近の仕事で代表作のトップになってるのが『Ice Cream Man』(Image Comics W. Maxwell Prince/Martin Morazzo)で、華やかなカラーリングが目を惹く感じの作品。

Chris O’Halloranホームページ

A Righteous Thirst For Vengeance / Rick Remender + André Lima Araújo

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