Vampirella姐さんの経歴 -前編-

日本でもかなり多くの人が知ってると思うVampirella。だがそれがどう出版されてきて、今どうなってるのかについてわかってる人はあんまり多くないのではないか?日本のVampirellaウィキって昔の映画のことしか書いてないし。

そんなわけで、今後Vampirellaについても書いて行きたい当方としては、その時々で説明の必要がないようここでVampirella全体を俯瞰したまとめを作っておきたい。あ、言っちゃった。要するに「ヴァンピレラまとめ」で、そう書いた方が人集めやすいんだろうけど、なんかベタ過ぎて恥ずかしいんで、こういうタイトルにしました。

忘れるなよ。おれは気どっているんだ。(矢作俊彦/平野仁『ハード・オン』より。)

やや長くなりそうなんで、全2回で。今回前編ではその歴史と設定。初期のWarren版について。後編ではその後のHarrisとDynamiteについて。あっちもこっちもまだ少しずつという感じでしか読めてないのだけど、どんな感じかぐらいはお伝えできると思います。

出版史とその設定

■出版史

『Vampirella』は1969年9月にWarren Publishingから、先行する同社のホラーアンソロジーコミック誌『Creepy』、『Eerie』の姉妹誌として創刊される。以来1983年3月までに112号を発行するが、版元Warren Publishingの経営不振により、廃刊。

1983年、Warren Publishingの倒産により行われたオークションにより、Harris Publicationsが『Creepy』、『Eerie』、『Vampirella』の版権を取得。だが後にこの版権譲渡にWarren Publishingの社主James Warrenが異議申し立てをして、1999年James Warrenの勝訴により、『Creepy』、『Eerie』の版権は失う。

Harrisは1991年から2007年まで、全26話ほどのシリーズや、短期のミニシリーズ、ワンショットなど、数多くのVampirella作品を出版し、2010年にDynamite Entertainmentへ版権を売却。

以降はDynamite Entertainmentが様々な新シリーズとともに、Warren、Harrisの旧作を出版している。

■設定

Warren版の設定では、VampirellaはDrakulon星に住んでいたVampiriという種族のひとり。Drakulon星では血液が川を流れていて、それを飲んで暮らしていたが、旱魃が続き血液が枯渇し、体内に血液を持つ人間が住む地球にやってきたということになっている。

これがHarris版では変更される。Vampirellaはユダヤの伝承でアダムの最初の妻とされるリリスの娘で、彼女は自身が産み出した多くの悪を滅ぼすためVampirellaを生んだ。Drakulon星から来たというのは、その後ある理由で洗脳され植え付けられた偽の記憶であるということ。

そして、Dynamite版では、とりあえず最初のシリーズでは冒頭にその二つの設定を並べ、双方を不確かな噂という形で正体を曖昧な形で始めている。

全体を通して、その時々で設定も違うようだが、宿敵となるのはドラキュラ。

というところなんだが、とりあえず最初に概要をということで要約した項目だけ並べてみたが、で?Vampirellaってどんなマンガなの?と思ってる人も多いんじゃないかと思う。

Vampirellaというのは、簡単に言っちゃうと、主人公Vampirellaがドラキュラを頂点とする悪の吸血鬼と戦うコミック。

彼女の能力というのは、とりあえず不死身。身体能力、感覚などが普通の人間と比べればずば抜けていて、夜目が利く。などなど。実は結構曖昧。なぜそんなことになってしまったのかというのは、実はもともとそういうストーリーのために作られたキャラクターではなかったということに起因するのだが、それはここまでに書いた出版史やら設定というところに大きく関わるところである。

そんなわけで、ここからはそれぞれの出版社別に、Vampirellaというキャラクターが、どういう理由でどう変化していったかを詳しく見て行きたい。あと、今現在どういう形で出版されているかもなるべく詳しく解説します。

Warren Publishing

■『Vampirella』誌の誕生

『Vampirella』は、先にWarren Publishingから出版されていた『Creepy』、『Eerie』の姉妹誌として、1969年9月に創刊される。

というのがどこでも最初に来るのだが、日本的には『Creepy』、『Eerie』って何?ぐらいのところも多いと思われるので、まずそっちから始める。

『Creepy』は、Warren Publishingより1964年に創刊された月刊のホラーコミックアンソロジー雑誌。50ページほどで、表紙以外は全ページ白黒。内容は、6~8ページか場合によってはもう少し長いホラー短編コミックが6~7本掲載される。作品はすべて続き物ではなく、1本の読み切り作品。ショートショートというところか?

『Creepy』は、それを更に遡る1950年代のEC Comicsのホラー誌をイメージして作られたもので、現在はDark Horse Comicsから復刻されている『Creepy』の2号を見ると、お便りコーナーには、そういった方向を期待する読者の声が多く寄せられていたりする。えーと、EC Comicsについてはまたいずれ。とりあえずここではそういった白黒の短編アンソロジーというようなコミック文化が当時アメリカにはあったということで。

『Creepy』はそのEC Comicsと同様に、当時のコミックス倫理規定委員会を通さない形で出版されていたもので、大人向け、と言うと若干定義が難しくなるが、少なくとも子供を対象に出版されていたものではなかった。

『Creepy』はそれなりに成功を収め、Warren Publishingは1966年に同系統の月刊ホラーコミックアンソロジー雑誌『Eerie』を創刊する。そして更に、同系統のものとして1969年に創刊されたのが『Vampirella』だったわけである。

■Vampirellaというキャラクター

先行する『Creepy』、『Eerie』には、マスコット…と言うには気持ち悪すぎるが、そういう役割をするキャラクターがいた。『Creepy』にはUncle Creepy、『Eerie』にはCousin Eerie。

彼らの役割は、それぞれの作品の冒頭でそれを紹介するMC的なもの。つまりこんな感じ。

Dark Horse Comics『Creepy Archives Volume 1』より 画: Reed Crandall

つまりVampirellaは、そもそもこういう役割を想定して作られたキャラクターだったわけである。

そしてそのキャラクターの設定を考える。

宇宙から来た吸血鬼。

まあ思い付きぐらいのものだったんじゃないかね。「異世界から来たアイドル」みたいな。

しかし、なぜそんなものが必要だったのかはなんとなく推測できる。

まず、新雑誌の企画段階で。新雑誌は「女性」をテーマとしたホラー誌で、先行のものと差別化しよう。キャラクターはどうする?『Creepy』『Eerie』の流れで行くと、グロテスクな鬼婆ってとこだけど、それもねえ…。よし、ここは読者にも受けそうな妖艶な美女にしよう。となると、やっぱ吸血鬼か?

そこで彼らはもしかしたら後に出てくるかもしれないある問題に気付く。ここまで2冊もホラーアンソロジー誌を出してきたのだから、当然吸血鬼ものがこのジャンルの定番だということは知っている。1号に一つぐらいは何らかの吸血鬼ものが出てくるかもしれないぐらいの頻度だ。そこで吸血鬼MCが吸血鬼の話を紹介するのは、読者に突っ込まれるような何らかの矛盾なり面倒が出てくるかもしれない。

そんなわけで、従来の吸血鬼伝説などとは全く無関係の顔ができる、特別な吸血鬼設定を考える。「宇宙から来た吸血鬼」。これでいいんじゃない?

いやまあ、あくまでも私の推測やけどね。しかし、Vampirellaのこの「宇宙から来た吸血鬼」設定が、ここから彼女自身の話を作って行くためのものではなく、色々な作品の前フリをするキャラクターのためのものだったというのは間違っていないと思う。

■キャラクターの変遷

こうしてVampirellaというキャラクターが作られたわけだが、編集部はどこかの時点であることに気付く。いや、このVampirella考えた人ってSFの方で有名なフォレスト・J・アッカーマンという人だそうだから、最初から気付いていたのかもしれないけど。

Vampirellaのキャラクターデザインをしたのは、Trina Robbinsという女性コミックアーティスト。めっちゃ色っぽいコスチュームができる。そしてほぼ伝説級に誰でも知ってるあのフランク・フラゼッタによる『Vampirella』第1号のカバー。(実はフランスのアーティストAslanが予定されていたのだが、都合がつかずフラゼッタは代役だったらしい。Aslanのフランスエロ親父感溢れる素晴らしいアートも紹介したかったのだが、使える画像が見つからないので、見たい人はこちらの画像検索からどうぞ。なお、普通にAslanで検索するとライオンばっか出てくる。本人名義(2014年死亡)の公式ホームページでは、割と真面目なのしか見れない)

ちょっと話逸れちゃったが…。まあこういう表紙の雑誌を見れば、大抵の人はこの表紙に出ているエロい美女の出てくるマンガが中で読めるのだろうと思うだろう。これはコンビニでヤンマガの表紙を見れば、中ではもっとこの巨乳グラビアが沢山見れて、ついでにカイジの逃亡の続きも読めると思うのと同じ心理である。ん?まあ大体あってるよね。

そして編集部は『Creepy』『Eerie』ではなかった、MC役のキャラクターが出てくる作品を『Vampirella』では掲載して行こうと決定したわけである。

第1号に掲載されたのは、Vampirellaというキャラクターを紹介するストーリー。血液の流れる川が旱魃で枯れ始め、苦しむDrakulon星に地球からのロケットが不時着するが…。

『Vampirella Archives Vol. 1』より 画: Tom Sutton

全7ページで、ストーリーはフォレスト・J・アッカーマン、作画はTom Sutton。今から見るとずいぶんイメージが違うと思うかもしれないが、まだこのころは司会の悪いおねえさんのつもりだったわけだからね。第1号にはその他にVampirellaが出てくるものではないホラーのショートストーリーが6本掲載されている。ちなみにこの第1号ではあのニール・アダムスが、鉛筆と多分パステルの類を使って書いたと思われるちょっと変わったタッチの作品が掲載されている。

第2号では、最初に掲載されている怪しい洋館に集まるセレブ達のパーティーが、実は女主人を含む全員が魔界のモンスターで…、という話の最後にホラー事件を解決しオチを付ける役回りで最後に少し登場する話があるだけで、あとはそれぞれの短編の前フリといった役回りのみ。

『Vampirella Archives Vol. 1』より 画: Jerry Grandenetti

基本的には『Creepy』『Eerie』に続くホラーアンソロジー誌として始まっているわけで、ホラー短編ショートショートに司会の悪いお姉さんがゲスト的に登場するとなると、こんなやり方しかなかったというところだろう。

しかし、Vampirellaというキャラクターの人気は上がって行き、この方針は転換される。

第8号からはそれまでのポジションから一転し、カバーストーリーとなる彼女を主人公としたストーリーが掲載されるようになり、第12号からはあの有名なホセ・ゴンザレスも登場し、ストーリーは一話完結の短編ショートショートのみではなく、ある程度連続したストーリーアークも作られるようになる、という風に進化して行くのだが、あいにく私まだ『Vampirella Archives Vol. 1』の半ばぐらいまでしか読んでないので、ここではこのくらいまでで。第8号から先は『Vol. 2』だな。まあいずれ読み進めて行けば書く機会もあるかと思いますんで。

続いてはWarren版Vampirellaの現在の出版状況について、まとめます。

■現在読めるWarren版Vampirella作品について

Vampirella Archives

『Vampirella Archives』は『Vampirella』誌を1巻当たり各7~8号ぐらいで、全112号を15巻にまとめたものです。とりあえずWarren版Vampirellaはこのコレクションで全部読めるはずです。『Vampirella』誌に関しては電子版のみで各号バラでも販売されています。

Vampirella: The Essential Warren Years Vol. 1

『Vampirella: The Essential Warren Years』は『Vampirella』誌に掲載されたVampirella作品のみをまとめたものらしいです。『Vampirella』誌を全部読むのはさすがに大変なので、Warren時代のものはこちらを読めばいいか、とも思われるのですが、『Vol. 1』が結構昔から出てて、『Vol. 2』がいつまでたっても出る気配もないので(多分出ない)、果たしてどのくらいまとめられてるのかは不明。452ページもあるので結構あるとは思うけど。

The Art of Vampirella: The Warren Years

DynamiteからはVampirella関連のアートブックがいくつか出ているが、こちらはWarren時代のみのもの。フランク・フラゼッタやホセ・ゴンザレスなどの作品を集めたアートブックです。

Jose Gonzalez Vampirella Art Edition

ホセ・ゴンザレス関連のアートブックはDynamiteから下のものと合わせて二つ出ているけど、こちらはVampirellaのコミックの制作過程なども見られるものらしい。

Art Of Jose Gonzalez

こちらはホセ・ゴンザレスのみのアートブック。『The Art of Vampirella: The Warren Years』とこれは日本からも買ってる人多くて日本語のレビューもあります。Dynamiteはアートブックをたくさん出していて『The Boys』のアートブックなんかもあります。

さっき見たところDynamiteのVampirellaのWarren時代のものは、復刻のバラ売りのもの以外はアートブックを含めKindle Unlimitedでは無料のようですね。そちらでちょっとどんなもんか見てみるのもいいかも。続く後編はHarrisとDynamiteに行きます。

Vampirella:Warren Publishing

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