Wytches / Scott Snyder + Jock

スコット・スナイダーのホラーコミック

今回はScott Snyder/Jockによる『Wytches』。2014~15年にImage Comicsより全6話で発行され、TPB1巻にまとめられています。

スコット・スナイダー!スナイダーと言えば2011~16年の『Batman』とVertigoの『American Vampire』(2010~16ぐらい?)。『American Vampire』長いからぼちぼち読もうと思ってるうちに、Imageからもオリジナル作出てきたんだけど、よし『American Vampire』いくらか読んでから読もうとか思ってるうちに、ぼちぼち過ぎて『American Vampire』どこまで読んだかわからなくなったんで、最初から読み直そうかな、と思ったりしていたのが、最近までの私とスコット・スナイダー。
まあ、なんといっても『Batman』だろうな。私の中でそっちのイメージ強すぎて、サスケの山田さんぐらいの勢いで『Batman』のスナイダーさんになってるし。スナイダーの『Batman』も結構持ってるけど、結局大して読めてなくて、スナイダーの新作見るたびにその代表2作に戻って停滞していたのだろう。
そこからやっとスナイダーちゃんと読まなきゃぐらいに意識を変えさせたのが、2021年頃からのスナイダーのcomiXology Originals参戦。8作もの新作を出すと発表。そんなに頑張ってるならスナイダー読まなきゃ、と手にしたのが持ってたこの『Wytches』だったわけです。

この作品『Wytches』は、タイトルから想像できるように欧米ではお馴染みの魔女伝説をベースとしたホラー作品。しかしそこに、予想外ぐらいの意外なひねりが加えられている。作画はスナイダーとは特に関係の深いJock。Jockそれほど作品数多くないのに結構早く再登場になっちまったな。まあいいか。この作品ではJockと数々の受賞歴を持つカラーリストMatt Hollingsworthとのコラボレーションも見どころの一つです。

Wytches

またちょっと難しい。とにかく1巻物のホラーなので、あまり書きすぎるとネタバレになり興を削ぐことになってしまうのだが、また一方でホラーゆえ序盤では謎の部分が多すぎちょっとよくわからな過ぎる感じになりそうだし。まあ、コミックなのでとにかく第1話を絵的な部分もイメージできる感じに紹介し、後はネタバレしすぎない感じで先が少し見えるような書き方で行くかというところ。

■キャラクター

物語の中心となるのはRooks家の親子3人。

  • Sailor Rooks:
    Rooks家の娘。ある事件により転居し、新しい学校に通い始める。

  • Charlie Rooks:
    Sailorの父。児童文学作家。以前にアルコールの問題を抱えていた。

  • Lucy Rooks:
    Sailorの母。交通事故により下半身が不自由になり、車椅子で生活している。

■Story

夜の森。
並ぶ木の中の一本の、幹に空いた穴から目がのぞく。
同じ穴から口。
「助けて!」

『Wytches』より 画:Jock

木の中は空洞になっていて一人の女性が閉じ込められている。どうやってそんなところに入れられたのかもわからない。
女性の鼻は無残に削がれている。
「助けて!誰か!ここから出して!」
「奴らが来る…!」
彼女の足元の狭い地面から、不気味な鳴き声ともつかない音が響いて来る。
必死で穴を広げ、木の中から出ようともがく女性。
「お母さん?」
「Timothy?」
女性は自分が閉じ込められた木の前に、息子のTimothyがしゃがんでいるのに気付く。
「お母さん、どこに行ってたの?なんでそんなところにいるの?」
「ああ、そこの大きな石を拾って!ここから出るのを手伝ってちょうだい!」
Timothyは地面から石を両手で抱えて持ち上げる。「急いで!」
「でもなんでそんなところにいるの、お母さん?」
「誰かが私を奴らに誓約したのよ!誓約よ!ここから出して、Tim!」

『Wytches』より 画:Jock

Timothyは拾った石で母を殴りつける!
「Tim…?」
「誓約は誓約なんだ。」
何者かの手が女性を掴み、木の奥へと引き摺り込んで行く…。
-Cray家 1919年 8月

-Rooks家 2014年 9月
Sailorの転校初日。家の前でスクールバスを待つSailorを、父Charlieは児童文学作家らしくヒッポグリフの話で和ませ、勇気づける。
バスが到着し、不安を隠し乗り込むSailor。だが、もちろん父は気付いている。
彼女が転校してきた経緯は既に伝わっており、噂を囁く声も聞こえる。
無視して窓の外を眺めるSailor。道端の森の木の間に立つ奇妙な人影。髪のないやせた女?
「誓約…?」人影が言う。そしてもう一度。
「誓約?」

『Wytches』より 画:Jock

家に戻ったCharlieは、仕事の続きに取り掛かる。
自身の作品の物語に添える挿絵。かなり絵の多い作品のようだ。
電話がかかり、現在取り掛かっている子供が夜の遊園地を探検する作品について、友人でもある編集者と話す。
妻が車椅子で部屋に入ってきて、黙ったまま後ろを指さす。
「後で掛け直す。どうやら客が来たようだ。」電話に言うCharlie。
いつの間にか、部屋には子鹿が入り込んでいた。

学校。何とか落ち着き、授業を受けるSailor。
隣の席の少女が、親しげに教師の噂話をしてくる。
曖昧に笑顔で応えるSailor。そして最後に隣の少女がこう言う。
「あなたのこと知ってるわ、Sailor Rooks。よろしくね。ところであなた彼女を殺したの?殺してないの?」
そしてSailorの頭に、彼女が転校する理由となった事件がフラッシュバックする。

夜の森。SailorはAnnieという少女に呼び出されていた。
大柄な少女。Sailorを苛め、ことあるごとに嫌がらせを仕掛けて来る。
「で?あたしに謝る気になったかい?」
「何を?なぜ謝らなきゃならないの?」
Annieの言うことは全く道理を得ない。とにかくお前が嫌いだ。存在していることが許せない。今日は徹底的に痛めつけて跡が残るような傷をつけてやる。
あまりの理不尽さに、泣きながら持ってきたナイフを取り出し、Annieに突きつけるSailor。
「クソッタレ!もうあたしに構わないでよ!」
Annieはそれに応え、自分は隠していた拳銃を取り出す。
「裸になってそのナイフの柄でオナニーしろよ。あたしがそれを撮影してそこら中にさらし者にしてやるよ。」
殺すぞ、と脅され諦めて靴から脱ぎ始めるSailor。その時、奇妙な音が聞こえる。
CHHHIT CHHHIT

「なんだ?」
「誰かにこれを話したんならそいつも殺してやる!お前の親だろうと誰だろうと構わないからな!」銃で殴りつけるAnnie。
「あたしは誰にも言ってない!」
銃を構え、音のする方に近づくAnnie。木?
その時、木の中から4本の怪物のような手が突き出され、Annieを掴む!
「助けて!助け…」
手はそのままAnnieの身体を折りたたむようにして、木の中へと引き摺り込んで行く!
後に残るのは、血が流れる木の幹の大きな洞…

EEEEEEEEEEEEEE
Sailorの恐ろしい回想にシンクロするように響く子鹿の悲痛な鳴き声。
Rooks家のCharlieの部屋。夫妻は耳を覆う。
そして子鹿は舌を嚙みちぎる。


『Wytches』より 画:Jock

その夜、Charlieは自室で眠りにつく前のSailorと話す。
「学校はどうだった?」
「大丈夫よ。」
「そうか、よかった。じゃあおやすみ。」
「お父さん…。」部屋から出て行こうとするCharlieをSailorが呼び止める。
「もし…、もし私がAnnieをいなくならせたんだったら?」
「お前は、何もしていないよ。」
「私は、願った!この世から永遠にあいつがいなくなればいいと…、そうしたら…。」
「思うのと実際にやるのとは別のことなんだ。もう考えるのはやめなさい。」
再び、部屋を出て階下に降りたCharlieは妻と話す。
「SailorはAnnieの失踪が自分のせいだと思っているようだ。」
「俺はあそこから距離を置くのが一番だと思ったんだが…。色々良くないことが起こり過ぎた、Annieのこと、事故のこと…。」
「もう考えるのはやめましょう。私たちは自分で選んでこの場所に移ってきたのだから。」
「…しかし、昼間の鹿は何だったんだろう?」
「さあ、病気か何かだったんじゃない?森は怖いから。」

暗い部屋。Sailorは眠れずベッドの上で体を起こしている。
窓の外は雨。近くの木の上から奇妙な物音がする。
「誰かそこにいるの?」
すると、モンスターのような人影が浮かび上がり、彼女に呼びかける。
SSSSAAAAILLORRR
「Annie?」

『Wytches』より 画:Jock

悲鳴!ガラスの割れる音!
Charlieは階段を駆け上がる。
「Sailor!今行くぞ!」
家から少し離れたところでは、Sailorが朝バスから見た髪のない女が雨の中、何かの儀式のように地面に動物の歯を並べていた。

以上、『Wytches』第1話。なのだが、うーむ、どのくらいまで書いていいんだろか?とにかくホラーだからね。あんまりばらすと台無しになりかねん。やっぱり第1話詳しく読み返すと、ミスリード的なものもいろいろ仕掛けてあるわけだし。
まず『Wytches』というタイトル。先に書いたようにこれは欧米ではお馴染みの魔女伝説をベースにしたもののわけだけど、なぜ「Witches」ではなく「Wytches」なのか?
魔女っていうのが何か、というところからなのだけど、多分これは映画『ブレア・ウイッチ・プロジェクト』あたりを例にするのがいいか。魔女を探すドキュメンタリーを作る目的で森に入って行った奴らが次々に姿を消していくというやつ。えーと、ずいぶん昔に1~2回ぐらい観たっきりなんだけど、大体合ってるよね?こういう感じで、森に棲んでいて何か超自然的な力で襲って来るという方向のが、この作品の魔女。
そしてそれが一般的な「Witches」ではなく「Wytches」になってるのがミソ。「Witches」のように森に潜んで超自然的な力で襲って来るが、「Witches」ではない「Wytches」。まあこのくらいがいいのかな。

TPBでは巻末にまとめて入っているが、多分バラで出ていた時には各号の巻末に入っていたのだろうスナイダーのあとがきで、このアイディアが自身の子供時代の体験から来たものであることが語られている。
スナイダーはそれほど田舎の出身ではなかったが、健康とか自然に親しむのが正しい的な両親の方針で、子供時代に結構田舎なところに引っ越して住んでいたことがあるそうだ。そこで友達となった子と一緒に森に魔女探しの探検に行くのが日課になり、森の中に見つけた放置された廃車を基地として探検を広げていったとのこと。そこで、ある日木の奥に正体不明の大きな謎の黒い何かを見たという恐怖体験がこの作品の元ネタとなっているそうだ。
従来の魔女のイメージとは少し違うが、全く無関係なわけではない、森の中に潜む恐ろしい何か。それが「Wytches」ということ。

冒頭、ある女性が木の中に閉じ込められ、更にどこかへと連れ去られるというシーンで、それが「誓約(Pledged)」によるものであることが語られる。
Annieも同様に木の中に引き摺り込まれるという方法で連れ去られていることから、同じものによる行為であることが、えーとこの時点では推測される。まあWytchesなんだが。
「誓約」とは何か?誰がどのようにして誰を誓約するのか?それがこの物語の鍵である。

最初のいきなりどうしてこういうことになるのかわからない、木の中に閉じ込められるなんて言うのは、閉所恐怖症の傾向がある人だとさらに恐ろしいんだろうな。家の中に子鹿が入ってくるというようなほのぼのシーンがいきなり舌を噛んで死んじゃうというショッキングな不条理ホラーシーンになったり。スコット・スナイダーはこういった心理的に来る感じのホラーイメージを出してくるのに巧みな作家だなと思う。
物語はホラー常道の、逃げながら戦うという方向で展開して行き、終わったと思ってあとがきなど安心して読んでいたら?というのもあったりで本当にホラーのツボを押さえていると思う。あ、これネタバレだったかな?でも気付かないで本閉じちゃう人がいるといけないんで一応。
なんかこのジャンルについては、もはや一級とかいうのと、B級とかいうのとどちらが正しいのかもわからなくなっちゃってるのだけど、とにかく大変優れた怖いホラーコミックです。

この作品、第1話が始まる早々に映画化が決まり、その後アマゾンプライムでのアニメーションシリーズ化に変更され、最後(2021年)に発表された時には今年の2月からになっているけど、まだのようです。
また、2018年のハロウィンには『Wytches: Bad Egg Halloween Special』というワンショットが発売されていて、そこではVol.2が予告されているらしいんだが、今のところ始まっていない。多分アマゾンプライムのアニメの方が始まるのと連動してということになってるのかも。

作者について

Jockの経歴については『Snow Angels』で書いたのでそちらを参照してください。やっとこういう手抜きができるようになったよ。

■Scott Snyder

1976年生まれ、ニューヨーク出身。9歳のサマーキャンプで指導員に薦められて読んだスティーヴン・キングの『ドラゴンの眼』が、その後作家を志す大きな原動力となったとのこと。1998年大学を卒業するとディズニーワールドに就職。バズ・ライトイヤーとかやってたらしい。着ぐるみだったんだろうが、本人写真見ると顔出しコスプレでも行けそうな…。肩を痛めたりで一年ぐらいで退職したそう。


2006年に短編小説集『Voodoo Heart』で作家デビュー。スティーヴン・キングにも絶賛されている。ところで、影響された作家としてキングの他に、デニス・ジョンソンやレイモンド・カーヴァーなんて名前もあり、かなり作家スナイダーに興味強くなってきた。
コミックの方では、2009年にマーベルでデビューだが、こちらでは初期の1年ぐらい。2010年にVertigoで『American Vampire』を開始。2011年にはDCのThe New 52で『Batman』と『Swamp Thing』が始まり、ここからスナイダーの快進撃が始まるというところだろう。
スナイダーのオリジナル作品については、とりあえずまたの機会に。これからますますの活躍も期待できそうなスナイダーなので、どんどん読んで行かねばと思っているところなので。しかし、それはそれで今度こそちゃんと『American Vampire』読まんとな。
単に個人的な傾向だけど、この間のRemenderにしても、どうもマーベルDC方面で活躍の多い作家については、セールなんかの機会に作品集めておいたりするのだけど後回しにしてしまう傾向があっていかんなと思う。どうしても読む時間が限られ、例えば個人的な趣味のクライム作品あたりを優先してしまうというようなことが大きいのだけど。そういうところで活躍の多い作家というのは、まずストーリーテリングの才に長けているというのがあるだろうが、それは作家的個性とかとはまた別のもので、そういうものを知るためにもちゃんと読んで行かねばと思うところである。
そういうところで言えば、『American Vampire』やこの『Wytches』を見るとスナイダーはホラー傾向の作家ということになるんだが、そこはまた別の顔もあるのかもしれない。バズ・ライトイヤーとか。

■Matt Hollingsworth

1968年生まれ、カリフォルニア出身。アメリカのコミックアートで有名なThe Kubert Schoolを卒業し、1991年からコミックの世界へ。マーベル、DCで多く活躍し、代表作は『Catwoman』、『Daredevil』など。Matt Fraction/David Ajaの『Hawkeye』などのカラーもやってる。スナイダー作品ではこの『Wytches』の少し前のVertigo『The Wake(作画:Sean Gordon Murphy 2013-14)』のカラーリストも担当。
この作品では、もう時にはJockの画を覆いつぶすぐらいの勢いで、シュール、幻想的なカラーを載せて来る。まあそんなの当然Jockも確認打ち合わせ済みで、Jockくらいのアーティストならどんどんやってくれ言ってるだろうけど。


『Wytches』より 画:Jock

TPB巻末には、インクのみとカラーのみを並べて見せてくれたり、2ページにわたってカラーリングの過程を見せてくれたりする豪華なおまけもあり。一旦紙にペイントしたのを取り込んで加工したり大変興味深い。画が好きな人は必見。

Wytches / Scott Snyder + Jock

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