Fire / Brian Michael Bendis

ブライアン・マイケル・ベンディス最初期作!

今回はブライアン・マイケル・ベンディスの『Fire』。1993年にCaliber Comicsから全2話(総ページ数約100ページ)で出版され、その後Image Comicsで一冊のTPBにまとめられ、その後、当時マーベルのインプリントだったIcon Comicから再版されたのが、今回紹介する版になると思います。現在見たら、2019年にベンディスのJinxworldから出たプリント版しかなかったのですが、そのうち現在ベンディスのオリジナル作が出版されているDark Horseから出るかもしれません。

ブライアン・マイケル・ベンディス最初期作!ストーリーブライアン・マイケル・ベンディス、作画ブライアン・マイケル・ベンディス、レタラーもブライアン・マイケル・ベンディス、オールブライアン・マイケル・ベンディスの作品です!
91年にCaliber Comicsからデビューし、部分的にはアーティストとしても活動してきたベンディスが、最初に世にその名を知らしめた、いわば出世作ともいうべき作品らしい。
あ、ブライアン・マイケル・ベンディスって当たり前のように書いてるけど、ベンディス知らない人もいるかも。というより、ベンディスわからないぐらいの人にも読ませたいと思ってやっているのだから、少しは説明しないと。ブライアン・マイケル・ベンディスというのは、2000年代から2010年代末ぐらいまでの、マーベルの顔ぐらいだった人。日本でもかなり多くの彼がストーリーを担当した作品が翻訳されています。2017年にマーベルからDCに移籍というのは、コミック界隈ではかなり大きなニュースとなりました。とりあえず、作品紹介の後で、作者については詳しくやります。

Fire

■キャラクター

とりあえず、この物語の紹介する範囲内で重要となるのは、この二人。

  • Benjamin Faust:
    主人公。美術学校の学生。

  • D. D.:
    Benjaminがアートギャラリーで出会う謎の女性。

■Story

ある建物の中の、天井の蛍光灯で照らされた人気のない通路。両側にはドアが並んでいる。
奥から数人の人物が手前に向かって歩いて来る。
近付くにつれ、それが四人の人物であることがわかり、後方を歩く三人は中央の人物を両脇から抱えて運んでいることがわかる。そして前方を歩くもう一人は一つのドアの前に立ち止まる。
前方の人物、スーツを着た中年の女性は、カードキーを使い、ロックを解除しようとするが、その手を止める。
「Benjamin、あなた一体何を考えてるの?本当に知りたいもんだわ。あなた一体、何をどうできると思っていたの?Benjamin、Benjamin?」
両側で支えていたスーツ姿の屈強な男の一人が、俯いていた中央の人物-Benjamin-の髪を掴んで頭を持ち上げる。その顔は殴打の跡が見られ、血を流している傷口もある。
「ボスが話してるだろう。ちゃんと注目して聞けよ。」

「あなたもわかっているように、事はこんな風になるはずじゃなかった。私の意図したものじゃない。これはあなた自身が引き起こした結果よ。」
Benjaminは顔を引き上げ、女に向かって言う。「夕飯はすぐに注文するのかい?俺はピザがいいんだがな。」
「なるほど、あなたは私の見積もりでは文明世界の半分を危機にさらす行動をした。大袈裟ではなく。それに対して、その安い軽口というわけね。」
「あなたにはその口を閉じていてもらうしかないわね。」
「へえ、どうやってそうさせるんだか見せてもらいたいもんだね。」
「あなたたち、彼の口を閉じさせてくれる?」

男の一人がBenjaminを羽交い絞めにし、腹にパンチ。そして顔。
女は再びカードキーを取り出し、横のドアのロックを解除。
「もう充分よ。さあ、Benjamin、ここに入りなさい。」
そしてBenjaminは、その監禁用の独房に放り込まれる。

『Fire』より 画:Brian Michael Bendis

独房。鉄格子の嵌まった一つしかない高い窓。
そこから月を見上げながら、彼はここに至った経緯を語り始める。

それはBenjaminがたまたま訪れた美術館。彼はそこで彼女と出会う。
それは美術大学の美術クラスによる展示。退屈そうに展示や客の様子を冷やかしながらぶらついていたBenjaminは、ある作品の前に立つセクシーな美女を目にとめる。
「おい、こりゃあ素晴らしい作品じゃないか。」
「何?」独り言のつもりの呟きを聞きとがめられ、Benjaminは曖昧に返答し、その場を逃げる。
だが、別のセクションで画を眺めていると、その美女が後ろから話しかけてくる。
「それについては、どう思うの?」
慌てながらも会話を繋ごうとするBenjamin。だが、必死に感想を絞り出しているうちに、いつの間にか彼女の姿は消えていた。
それが、彼女-D. D.-との出会い。

数日後、夜道を歩いていたBenjaminは、強盗に襲われる。
マイナスドライバーを突きつけ、時計を寄こせと迫る男。
反撃するBenjamin。理不尽に暴力に巻き込まれたことへの怒りから、彼は必要以上に襲撃犯を痛めつけ、追い払う。
その場に座り込むBenjamin。陰からその様子を見つめるD. D.。

『Fire』より 画:Brian Michael Bendis

翌日、Benjaminは街で美術館の女-D. D.-を見かける。
車の横に立ち、運転手と何か話している彼女。
運転手をよく見てみると、それは前夜の襲撃者だった。
美術館の女と強盗?「これはどういうことなんだ?」

その夜、Benjaminが部屋で課題に取り組んでいると、ドアにノック。
友人が邪魔をしに来たと思い、嫌々ながら開けたドアの前に立っていたのは、片手に二つのグラス、もう片方にはワイングラスを持った美術館の女-D. D.-だった。
彼女は、そのまま部屋に入ってきてグラスにワインを注ぎ始める。
「話があるのだけど、一休みしない?」
Benjaminは、彼女の前に自分の財布を突きつける。
「俺が持ってる金はこれで全部だ。なんだかわからないが俺にはもう構わず、出てってくれ。」
「私は詐欺師の類じゃないわ。」
「奇妙な話だと思うのは当然だけど、あなたに提案がある。」
そして彼女は意外な話を始める。

彼女はCIAの人間であり、Benjaminに適性があると見込み、観察を続け、工作員としてスカウトすることを決定したのだという。前日の強盗は試験の一環だったとのこと。
そんなバカな話があるか、と一笑に付すBenjaminだったが、熱心に説得する彼女を見ているうちに、乗ってみるかと考えるようになる。
彼には、彼が選ばれた条件の一つだと彼女が言ったように、身寄りもなく、失うものもない。

『Fire』より 画:Brian Michael Bendis

そしてBenjaminはCIAの秘密施設に入り、工作員となるための様々な訓練を受ける。
そして試験にも合格した彼は、実際に諜報の現場へと派遣されるようになる。イギリス、日本…。
だが、様々な任務にも慣れ、工作員としての自信も持ってきた頃、連絡係としてある任務で出会った人物の話から、彼は自分の存在の本当の意味に疑問を持ち始める…。

やはり普通の美術学校の学生がCIAの秘密工作員に、という話には若干の強引さがあり、特にこんな感じで序盤のみを紹介するとそこが目立ってしまうかもしれない。
しかし、そこをクリアすれば、その先は無駄のないエッジの訊いたサスペンスフルな構成など、後に大物作家となるベンディスの片鱗を窺わせうる初期作品と言えるだろう。

この作品は、冒頭、ジョン・ル・カレの『寒い国から帰ってきたスパイ』からの引用から始まる。Wikiで経歴など読んでみたところ、ベンディスはジム・ステランコやJosé Antonio Muñozのクライム・コミックからの流れでジム・トンプスン、遡ってハメットあたりのハードボイルド、クライム作品からも深く影響を受けたらしい。後のマーベル作品などから考えると、ル・カレあたり結構納得したのだけど、初期のクライム作品などもっと読むと結構その辺の影響がみられるのかもしれない。
ちょっと話がそれてしまったが、それはそれとして、この作品を見ると、そういった小説作品や、そのほかにも影響を受けたというフィルム・ノワール的なものを、コミックという形態でやりたいという意志が大変よく伝わってくる。


『Fire』より 画:Brian Michael Bendis

こちらの画像の見開きページ、まあ明らかにやり過ぎではあるんだが、文字のみのメディアである小説では普通であったり、また音声によるナレーションという形で映像作品では画面上には影響がなく取り込めるような情報を、ページフローという形でも強く制限されるコミックにいかに取り込むかというベンディスの試行錯誤の表れである。

『Fire』より 画:Brian Michael Bendis

こちらのページではセリフ、吹き出しの洪水なんだが、こちらも小説や映像作品では無制限とまでは言わないが、かなり制限されるコミックよりははるかに自由、かつ自然に使える、「無駄なセリフ」を含んだ会話のやり取りをどこまで表現できるかという一つの挑戦である。

これらコミック=漫画表現では、明らかにまずいとされるようなものを、私は有名作家の初期作品のお粗末、などと笑うつもりで持ってきたのでは決してない。これは、芸術的実験といったような方向ではなく、エンタテインメント方向に向いた、既存のものとは違う新しいコミックを作りたい、表現の幅を広げたいという果敢な挑戦である。そして現在のアメリカを代表するぐらいに言っても過言ではないコミック作家である、ブライアン・マイケル・ベンディスはこれらの上に成り立っているのだ。

巻末のあとがきでは、この作品が再版に伴い修正されたところを画像例を出して紹介している。
まず大きいところでは、セリフ、ナレーションなどの書き文字を全面的に直したということ。終盤主人公Benjaminの手記というページがあり、結構読みにくい字なのだが、当初は全部そんな感じの文字で書かれていたらしい。修正後のものは普通に読みやすくなっている。
また、こちらは現在のものでも結構残っているのだが、擬音などの書き文字があまり迫力の感じられない、丸っこいなんかサイケデリック調(?)っぽいものだったのを、もう少し今風に直したらしい。当時はそういうデザインが好きだったのだろうね。
その他、現在は当時より簡単にできるグラデーションによる光の効果なども加えられているようだ。
画像以外にもセリフなどの内容も修正したとのことだが、そこについては正確にはわからない。

作者について

ブライアン・マイケル・ベンディスの経歴なんかは、日本で翻訳出てる多くの作品に載ってるだろうが、こっち的には初めてなので、一応最初からやっときます。
1967年、オハイオ州クリーブランド出身。13歳の頃よりコミック作家を目指し始め『Punisher versus Captain America』なんてのを自作してたということ。2次創作!そのころからのマーベルファン。その後、Cleveland Institute of Artへ進学し、地元コミックショップで働いたりもしながら作家を目指す。
1991年頃よりCaliber Comicsより作品を発表し始める。初期の頃はアーティストとしての活動も多かったよう。93年発表の今回の作品『Fire』が、最初に作家として注目を浴びた作品。97年より作品発表の場をImage Comicsに移すが、その辺を通じての初期の自身が作画も担当した作品で代表的なものは『A.K.A. Goldfish』、『Jinx』。実は両作とも一時は映画化が発表されたのだが、今のところは進行していないらしい。

2000年の『Ultimate Spider-Man』からマーベルでのキャリアがスタート。それからはあれとかこれとか色々。2018年にDCへ移籍となるまでに数多くの作品を手掛け、マーベルの顔として活躍した。その辺についてはそっちのほう詳しくやってるとこで見てください。
2004年にマーベルのインプリントとしてIcon Comicsが立ち上げられ、ベンディスのオリジナル作品の発表の場はそちらに移る。こちらでの代表的な作品は、まずImage Comicsで始まりこちらに続きが移った『Powers』(作画:Michael Avon Oeming)、そして『Scarlet』(作画:Alex Maleev)、『Brilliant』(作画:Mark Bagley)など。

2018年からメインストリームの作品についてはDCへ移籍。DCのインプリントとして、DCユニヴァースに属するYoung Justiceなどの過去のキャラクターや、新しいキャラクターの作品を展開するWonder Comicsを立ち上げる。ちょっとこちら2021年ぐらいから止まってるみたいだけど、どうなんのかな?
DC移籍に伴い、ベンディスのオリジナル作品のレーベルであるJinxworldも一旦はDCに移ったのだけど、そっちの出版体制について思い通りにいかなかったのか、JinxworldだけはDark Horse Comicsへと移り、Iconで始まった『The United States of Murder Inc.』(作画:Michael Avon Oeming)や、DCで始まった『Pearl』(作画:Michael Gaydos)といったシリーズの続編や新作が出版されている。その他にもAbrams ComicArtsで『Phenomena』三部作(作画:André Lima Araújo)が進行中。

以上のように、実はそのキャリアを通じて、一貫してオリジナル作品に精力的に取り組んでいて、作品数もかなり多いブライアン・マイケル・ベンディス。自分的には勝手に段落分けたあたりで、初期・中期・後期ぐらいに考えている。なんかいつもの個人的な最初から読みたい癖で、この『Fire』から始めちゃったけど、やはりこれほどあると時系列順にばかりは考えていられないだろう。『A.K.A. Goldfish』や『Jinx』もかなり気になるけど、ベンディスに関しては次は中期『Powers』を考えています。かつてテレビシリーズも作られたりということで、翻訳あるんじゃないかと思い込んでたんだけど、やっぱないみたいなんで。まあこれほどの実力派作家のオリジナル作品がこれほどあるのだから、読まない手はない。初期も中期も後期もどんどん読んで紹介して行きたいところです。しかし、あれもこれも読まなきゃで、ちょっと読む時間書く時間の配分が難しくなってきているのだが…。まあ今はまだサイトをある程度の形にして行くのが最優先なので、書く方になるべく注力というところなのだが。それにしても、いよいよ短めに書けるものが尽きてきてしまった感じなのだが…。ベンディスについても、本来ならオリジナル作品リストぐらい作らなきゃならないところだが、それはまたいずれということで。

Fire

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