Richard Stark’s Parker Vol. 1: The Hunter / Darwyn Cooke

『悪党パーカー/人狩り』の伝説的コミカライズ!

今回はDarwyn Cookeによる『Richard Stark’s Parker Vol. 1: The Hunter』。言わずと知れたリチャード・スターク/ドナルド・E・ウェストレイクのパーカー・シリーズ第1作『The Hunter(邦題:悪党パーカー/人狩り)』(1962)のコミカライズとして、2009年IDW Publishingより出版された作品です。

ハードボイルド/ノワールジャンルの名作中の名作を、2016年惜しまれつつ亡くなった『DC: The New Frontier』などで知られるDarwyn Cookeがコミカライズした伝説作品!原作含め、あまりに好きすぎてとにかく読めよ!ぐらいにしか言いようがないところもあるのだが、何とか頑張ってここがスゴイ!というところを極力詳しく伝えて行く所存です。

あーと、なんか後々引っかかってくると面倒なので、先に言っとく。本当は言及するのすら嫌なので一度だけ。
原作である『The Hunter』は、映画化作品として、リー・マーヴィン主演、ジョン・ブアマン監督による『Point Blank(邦題:殺しの分け前/ポイントブランク)』(1967)があるのだが、なんか1999年にメル・ギブソンが主演した『ペイバック』とかいうパロディにも値しないクソがあり、世間的には『The Hunter』の映画化作品としてカウントされているらしい。多分時期的にはマーヴィンが亡くなり、彼が持っていた映画化権を買ったとかいうことなんだろうけど。これについてはどこがどう悪いとか批判する価値すらない。世の中、やっていいことと悪いことがあり、誰にでも絶対譲れないところというものがあり、自分にとってはそれがこれである。以来面見ると殺意ぐらいの気分が沸き起こってくるので、メルの出てくる映画は一切見ないし、こんなクソを一言でも褒めている奴は全て自分の敵だとさえ思っている。1980年代ぐらいに『ゲッタウェイ』のリメイクと称するものが作られ、現在はそんなもの存在しなかったぐらいに扱われているのと同様に、こんな映画は少なくとも自分の中では存在していないし、一切言及するつもりもないんで、ということです。

んーまあ、どうしてもハードボイルド物を扱うと荒れてしまう可能性が多々あり問題なんだが、ここは切り替えて進めて行こう。まあそんくらいの奴が、絶賛するのがこのDarwyn Cookeによる『Richard Stark’s Parker Vol. 1: The Hunter』というわけですので。

Richard Stark’s Parker Vol. 1: The Hunter

■キャラクター

主要キャラクター。翻訳のある原作小説に合わせて日本語表記にしてあります。

  • パーカー:
    プロの強盗。裏切りで奪われた金を取り戻しに来る。

  • リン:
    パーカーの妻。

  • マル・レズニック:
    パーカーの昔の仲間。

  • ワンダ(ローズ):
    コールガール。

  • アーサー・ステグマン:
    「アウトフィット」のタクシー会社のボス。

  • フレッド・カーター:
    「アウトフィット」のニューヨーク幹部。

  • ジャスティン・フェアファックス:
    「アウトフィット」のニューヨーク幹部。

■Story

なんか自分的にはこの名作を一から紹介するような日が来るとは思わなかったぐらいなんだが、やはりこれを読んだことがない人も世の中には存在するのだろうから、ちゃんとやって行こう。注目点などについては、随時挟んで行く。あー、あと色々ネタバレするので注意してね。
原作小説では、シリーズ一貫して全体を四部に分ける構成になっており、うち三部がパーカー視点のもので、残る一部がその他の登場人物からの視点のものとなっている。その他の人物からのパートが作中のどこに入るかは作品ごとに変わる。
このコミカライズ版もそれに従っており、まずパーカー視点からのBook Oneから始まり、続いてレズニック視点のBook Two、そしてあとはパーカー視点に戻りBook Three、Book Fourと続く。

●Book One

物語は、主人公パーカーが便乗をすすめてくれた車に、「クソくらえ」と吐き捨て、ジョージ・ワシントン橋を渡ってニューヨークに行くところから始まる。
画面に現れるのはまずパーカーの手、そしてボロボロの靴、そして手。
原作小説序盤でも彼の風体はまずその手から描写される。

指を曲げるようにして両わきに振っている手は、彫刻家が茶色の粘土からこねあげたように見える。

ハヤカワ・ミステリ文庫『悪党パーカー/人狩り』(小鷹信光・訳)より

『Richard Stark’s Parker Vol. 1: The Hunter』より 画:Darwyn Cooke

うわ、小説に書いてあったパーカーのあの手だ。
そしてパーカーは、地下鉄にタダ乗りし、交通局のあるチェンバース駅(駅名はコミックにはなし)で降り、彼を浮浪者と思った通行人が投げたコインで食堂に入りコーヒーを一杯飲む。
交通局に入り、免許証を偽造し、近くのバーの洗面所でそれを本物らしく見える仕上げをした後、洗面台で顔を洗う。そして鏡に向かったとき、初めて彼の顔が読者に明らかにされる。

『Richard Stark’s Parker Vol. 1: The Hunter』より 画:Darwyn Cooke

これがパーカーだ!

そしていくらか身なりを整えたパーカーは、銀行を回り、偽造免許証に使ったごくありふれた名前、エドワード・ジョンソンの名義の口座を見つけ、そこから盗んだ金でスーツ、靴、腕時計一式をそろえ、レストランで食事し、ホテルに部屋を取る。
ここから原作小説とはちょっと違う描写が入るのだが、なんかここがコミック作品として描かれたDarwyn Cookeのパーカーをよく表しているシーンだと思うので、原作の引用の後、コミック版の方を引用しよう。

入浴がすむと、裸のままベッドに坐り、遠くの壁をニヤニヤ見つめながら、ウォッカをびんごとゆっくり口飲みしはじめる。びんが空になると、屑かごに投げすてて、倒れるように眠り込んだ。

ハヤカワ・ミステリ文庫『悪党パーカー/人狩り』(小鷹信光・訳)より

『Richard Stark’s Parker Vol. 1: The Hunter』より 画:Darwyn Cooke

ここまで長い道のりをたどり、遂にここにたどり着きこれから反撃、というパーカーがニヤニヤ笑うのは心情的にわかりやすいところだが、画的には少し意味が出過ぎるので、Cookeとしては人物を陰にして表情を隠したのだろう。
ここで一つ注意しておきたいのは、例えば凡庸なクリエイターがパーカーのようなキャラクターをヴィジュアライズ、または演出するとき、多くとられるのが常に無表情なロボットのように描く、あるいは演じるという方法だ。これは単にキャラクターを理解する、掘り下げるという行為を安直に放棄しただけのものである。Cookeがそのような低レベルに組しないことは、もうひとつ前に引用した初めてパーカーの顔が読者に示されるシーンで明らかだろう。この恐るべき目力!ここでは表現されなかった恐るべきパーカーの「笑顔」は、後にそれを必要とする場面で現れることとなる。
ここでCookeオリジナルとなるのは、窓の外、向かいの建物の壁にウォッカの空き瓶を投げつけるシーン。窓から直線的な勢いで投げつけられるシーンは、その動作自体を描かなくとも、いや、逆に描かないことでか?パーカーが瞬間的に恐ろしい力を行使する暴力機械へとシフトできる人間であることを見せつけてくる。唯一点灯していたパーカーの部屋の明かりが消されることで、その壁が全て黒に変わるクールな演出も見事!

えーと、このようにDarwyn Cookeがいかに見事にこの名作をコミカライズしているかというシーンを片っ端からあげて行きたいのは山々なのだが、ホントにきりがないんで少しペースを上げます。

次のシーンでは、パーカーがドアを開けたリンを突き飛ばして部屋に入るところから始まる。唐突に見えるが、原作通り。
彼を裏切った妻であるリン。彼女の処遇以前に、裏切りの首謀者であるマル・レズニックの居所を問い詰めるパーカー。
この部屋の家賃や生活費を払っているのはレズニックだが、彼はここには住んでいない。レズニックの居所はリンも知らない。毎月初めに使いの男が金を持ってくるだけだ。
パーカーはその男が来るまで、彼女のアパートに滞在することを告げる。
せめてもの安心を求めてパーカーを誘うリン。だがパーカーはそれを拒絶する。

翌朝、パーカーがリンの部屋のドアを開けると、彼女は睡眠薬の多量服用で自殺していた。

『Richard Stark’s Parker Vol. 1: The Hunter』より 画:Darwyn Cooke

パーカーが自殺したリンの死体を発見するシーンは、原作では結構長いのだが、ここは必要以上に感情的になるのを避けるため、このくらいで描くしかなかったというところかとも思う。Cookeもこのシーンを重要だと思っていることは、カバー画がこのシーンであることからもうかがえるのだが。
なんかもうどっちを紹介してるのかわからなくなりそうだが、コミックでは描かれていない、原作小説にあるこのシーンでパーカーというキャラクターを大変印象付ける描写を引用しておく。

パーカーは、部屋に入り、ベッドをまわって、ナイト・スタンドから、空の睡眠薬のびんをひろいあげた。ラベルには、ドラッグ・ストアの住所、名前、電話番号が印刷してある。白い余白に、タイプ文字で、リンと医師の名前、錠剤の数が記され、必要時、睡眠前一錠、それ以上は危険、と注意書があった。
パーカーは、唇を動かしながら読んだ。
彼は、全文を二度、ドラッグ・ストアの住所、名前、電話番号、彼の死んだ妻と医師の名前、錠剤の数と注意書を、全部くりかえして読んだ。そして、スタンドのわきの半分つまった屑かごにびんを落とし、死体に眼を戻した。

ハヤカワ・ミステリ文庫『悪党パーカー/人狩り』(小鷹信光・訳)より

パーカーはプロの犯罪者であり、行動者である。時にアクシデントで大きく計画を変更せざるを得なくなる場面にも多々遭遇する。そんなときに必要とされるのは、まず冷静な状況把握。パーカーという男にはそのような行動が習慣となっている。
ここで睡眠薬を手に取り、ラベルを読むのは彼自身に習慣づけられた状況把握の行動なのだが、また一方で彼が妻の死に動転している様子が、無意味に何度もそれを読み返すところに現わされている。
パーカーというキャラクターと、表には現わされない内面を表現する大変印象的なシーンである。

前述の通り、この描写はコミック版では省略されている。だが、これは単純に小説の方が、コミックよりも表現の幅が広いなどということではない。例えば更に上で引用したCookeオリジナルのウォッカの空き瓶のシーンを、これほど誰の目にも明らかなシンプルな形で表現することは、文章では少し難しいかもしれないということ。
オリジナルの本質というべきものを理解し、それをコミックというフォーマットに合わせ、時には省略、あるいは別の表現を加え、過不足なく表現したものこそが優れたコミカライズであり、このDarwyn Cookeによる『Richard Stark’s Parker Vol. 1: The Hunter』は、その最高レベルの作品である。

夜を待ち、パーカーはリンの遺体を泥酔し意識を失っている体を装い、抱きかかえて外に運び出し、今後の行動に影響が出ないよう非情な方法で身元が分からなくなる状態にし、始末する。

三日後、リンのアパートに金を届けに来た男が現れる。パーカーは男を締め上げ、タクシー会社のボスであるアーサー・ステグマンの指示で来たことを吐かせる。
パーカーはタクシー会社に向かい、ステグマンを呼び出す。社内で揉め事を起こされるのを嫌ったステグマンに従い、彼の車で近くの浜まで行く。
車内でマル・レズニックの居所を問い詰めるパーカー。
ステグマンは、レズニックは昔からの知り合いで頼みを聞いてやっているが、現在の居所は知らない。銀行口座に送られた金を、100ドルの手数料で渡しているだけだ、と答える。
パーカーはステグマンを信用したわけではないが、この場で口を割らせるのは難しいと見て、先に繋がる手掛かりとして生かして帰す。

地下鉄に乗るパーカー。尾行者を見つけ、そこからレズニックの居所を探る腹だったが、それもいないようだ。手がかりは断たれた。
そして、ここまでに至るパーカーの回想が始まる。

『Richard Stark’s Parker Vol. 1: The Hunter』より 画:Darwyn Cooke

仕事は、太平洋上の小島で行われる南米ゲリラ組織との密輸武器取引の金の横取りだった。
発案者は、密輸商売に関わりこの情報を聞きつけたチェスターという男。チェスターは、知り合いだった、不始末で8万ドルの大金を失い組織から追放されていたマル・レズニックにこの計画を持ち掛け、レズニックはたまたま出会った、昔一度だけあったことがあるパーカーをこれに引き込んだ。
更にパーカーの知り合い二人を加え、計画は実行に移され、成功を収めた。
隠れ家として用意していた、裏に自家用機用の滑走路を持つかつて映画スターが所持していた空き家へ戻る一同。
パーカーは計画の初期からレズニックの人格に懸念を抱き、後の問題がないよう仕事の後に彼を始末するつもりでいた。
だが、深夜レズニックを始末すべくベッドを出たパーカーを、妻リンの放った銃弾が襲う。

パーカーが目覚めた時、屋敷には既に火が放たれていた。
銃弾はベルトのバックルに当たって、身体に入ることはなかったが、その周囲は紫色に変色し激しい痛みを引き起こしていた。
よろめく足で下の階に降りると、他の三人は殺されており、レズニックとリンのみが姿を消していた。
何とか火災現場からは脱出したパーカーだったが、徒歩で逃げるうちに浮浪罪で逮捕されてしまう。
偽名を名乗ったが、顔写真、指紋はとられ、刑務所に収監されることとなる。
出所を待たず、時期を見て農作業中に看守を殺して脱走。そして大陸を横断し、ニューヨークへとたどり着いた。

『Richard Stark’s Parker Vol. 1: The Hunter』より 画:Darwyn Cooke

小説作品を原作にしていても、全体的にはセリフ以外の書き文字は少なく、セリフすら入らず動きのみで表現されるページも多いこの作品なのだが、例外的に回想シーンではこのように極端に多くの書き文字が入れられる。ナレーションを背景に描かれるという感じなのだろうか。元々小説なんだからこんくらいは読めよな。

●Book Two

やっとBook Twoか…。ここからはもっとペース上げるんで。
前述の通り、ここでマル・レズニック視点の物語に切り替わる。

独り占めした強奪した金で損失を埋め合わせし、組織-アウトフィット-に返り咲いたマル・レズニックは、一級幹部として豪勢な組織のホテル暮らしを送っていた。
そこに、部下のフレッド・ハスケルから電話がかかり、タクシー会社のアーサー・ステグマンがレズニックを探す男に脅された話を取り次いでくる。
レズニックは直感的に、それがパーカーであることを悟り、ただちにステグマンと会う段取りをつける。
ステグマンが話す「手のでかい男」の容貌は明らかにパーカーのものだった。レズニックはステグマンに、奴をもう一度見つけろ、と命ずる。

レズニックは組織のニューヨーク幹部の一人フレッド・カーターに会いに行く。原作小説では、その前にカーターの下のレズニック直属の上司に会う場面があるが、そこはコミック版ではカット。
レズニックの話を聞いたカーターは、それを組織とは関係ないレズニック個人の問題として処理するよう指示し、問題が片付くまでは、現在住んでいる組織のホテルから住居を移すように告げる。
別のホテルに部屋を取り、パーカー捜索の指示段取りをつけ、人心地着いたレズニックは組織直属のコールガール派遣に電話し、特上の女を呼びつける。
そこから、レズニック視点による回想が始まる。

組織に返り咲くため、当初から強奪した金を独り占めするつもりだったレズニックは、最大の障害となるパーカーを排除するための策を図る。
まず、眠っていたチェスターの喉を切り、殺す。、その後、後から仕事に加わった二人のうちのライアンに、パーカーともう一人の男シルが裏切りを図っていると話す。チェスターの遺体を見て、ライアンは説得され、二人でシルを殺す。
その後、パーカーとリンが使っている部屋のシャワールームに、反対側の部屋から忍び込み、入ってきたリンを二人で押さえ、パーカーを殺さなければこの場で殺す、と脅す。
言われた通りにリンがパーカーを撃った後、リンを連れ、屋敷に火を放ち脱出。そして脱出に使う小型機に乗り込む前に、ライアンを射殺し、レズニックはリンのみを連れ逃亡する。

奪った金で組織へ復帰したレズニック。
だが、パーカーから奪ったつもりだったリンは、その後魂を抜かれたようになり、何をやっても反応しない人形になり果ててしまった。
嫌気がさしたレズニックは、リンを捨て、生活費の面倒は続けながらも、自身は組織の幹部用のホテルへ移る。

宿泊中のホテルのベッドで、高級コールガールの横でまどろむレズニック。
その時、窓が開く音が聞こえ、そこからパーカーが部屋に入ってくる!
レズニックは銃がポケットに入っているはずの、椅子に掛けられた部屋着に突進する…。

『Richard Stark’s Parker Vol. 1: The Hunter』より 画:Darwyn Cooke

なんかもう名画?ってレベルなんだが。
実は原作小説では、レズニックが高級コールガールを呼んだ章の最後に、このパーカーが窓から入ってくる場面があり、そこからフラッシュバックのようにレズニックの回想が始まる。
やはりビジュアル的に訴える部分が大きいコミックでは、このシーンをBook Twoのラストに持ってきた変更は正解だろう。

●Book Three

Book Threeではパーカー視点に変わり、時間も戻り、パーカーがレズニックの居所を突き止める過程から話は始まる。

原作小説では、この第3部はパーカーが貧民街にある犯罪者への連絡を取り持つ雑貨屋を訪ね、昔の知り合いと連絡を取ろうとするところから始まるが、コミック版ではそこはカット。ちなみに原作ではシリーズを通じてこのタイプのシーンは頻繁に登場する。
コミック版では、次のパーカーがあたりを付けたバーから、昔の知り合いのコールガール、現在はローズと名乗っているワンダと渡りをつけるところから始まる。
ワンダの住居へ行き、レズニックの居所を聞き出すのだが、リンとも知り合いであり、基本的にはパーカーの味方ではあっても組織とも商売上の関係が深いワンダとのやり取りは、結構ページを割いて描かれる。ここでは原作の1960年代のファッションやインテリアが見どころ。

ワンダからレズニックが住む、組織のメンバーが多く居住するオークウッド・アームズ・ホテルの住所を聞き出したパーカーは、まず、向かいの喫茶店から建物を見張り、それから上の階の美容院に押し入り、美容師の女性を縛り上げ、そこに陣取り見張りを続ける。
ここで、原作小説では中のオフィスにコーヒーを配達するという名目で、建物に入り込むのだが、コミック版ではその美容室で女性が死んでいると通報し、パトカーが来て見張り達が気を取られている隙に、中に入り込むという形になっている。ちなみに、縛られ猿轡を噛まされていたために呼吸器が使えず、女性が死んでしまい、無駄な殺しをやっちまったとパーカーが少し後悔するところは同じ。
ワンダから聞いたレズニックの部屋にたどり着いたパーカー。しかしすでにそこはもぬけの殻だった。

『Richard Stark’s Parker Vol. 1: The Hunter』より 画:Darwyn Cooke

オークウッド・アームズ・ホテルへの侵入シーン。見張りの段階では回想シーンなどと同様に多くのナレーションが使われるが、続く侵入シーンでは、逆に一切文字の入らないサイレントスタイルで描かれる。

『Richard Stark’s Parker Vol. 1: The Hunter』より 画:Darwyn Cooke

この辺の緩急の切り替えの巧みさも、Cookeのテクニックの見どころである。

そしてパーカーはワンダの所へ戻り、以前より強硬に問い詰める。
ワンダはコールガール派遣の知り合いに電話し、レズニックの現在の滞在先を突き止める。
だが、こうなった以上この街にはもういられない、パーカーが事を起こす前に荷造りをして出て行く、とワンダは告げる。

そしてパーカーは、レズニックの泊っているホテルの窓から侵入してくる。
何とか銃を掴んだレズニックだったが、あっさりパーカーに弾き飛ばされる。パーカーは女を追い払う。
お前は俺に4万5千ドルの借りがある、とパーカー。そんな金はもうない、と答えるレズニック。
ならば組織に金を払わせよう、ニューヨークのボスの名前を言え、と迫るパーカー。

「そんなことをいえば殺されちまう、パーカー。きっと、おれは…」
「そのときまでに、死んでなかったらの話だろう?」パーカーは、やんわりマルの顎に両手をかけたが、まだ力は加えなかった。

ハヤカワ・ミステリ文庫『悪党パーカー/人狩り』(小鷹信光・訳)より

そしてレズニックは、ニューヨークのボスがフレッド・カーターとジャスティン・フェアファックスの二人であることを白状し、フェアファックスが現在は街を出ていて不在であること、最近訪れたカーターの事務所の詳しい様子などをパーカーに話した。

「最近そこに行ったんだな、ええっ、マル?おれが後を追ってることを知ったときに」彼は部屋を見まわした。「ところが、おまえは、あそこを追いだされたってわけか。助けてもらえなかったのか?」
「おれのことは、おれにまかせるというんだ。カーターがそういった」
パーカーは、マルを笑った。「おまえのことを、買いかぶってたのかな、マル?」
そして彼は、両手に力をこめ、マルが息を吸うのをやめるまで、力をゆるめなかった。

ハヤカワ・ミステリ文庫『悪党パーカー/人狩り』(小鷹信光・訳)より

『Richard Stark’s Parker Vol. 1: The Hunter』より 画:Darwyn Cooke

これがここまでパーカーに向き合い、パーカーを描いてきたCookeだからこそ描ける、恐るべきパーカーの笑顔である。

●Book Four

Book Threeの最後あたりで気付いたんだが、こういう作品ではどうしてもこのやり取りは書いとかなきゃならん、という部分があり、そこを書こうとしてよく考えてみたら、自分でそれを訳して書くということは小鷹先生の翻訳に上書きすることやろと気付いた。それはさすがに恐れ多すぎるんで、とりあえずその辺は引用という形を取らせてもらった。ちょっとやりすぎで著作権で怒られたらまた考えます。
Book Fourは、引き続きパーカー視点で、レズニックから取れなかった自分の分け前4万5千ドルを、組織から取り立てに行くという展開である。

パーカーは、フレッド・カーターの事務所へと赴き、マル・レズニックを殺した奴が来たと伝えろ、と言い放つ。
カーターの部屋へ通されたパーカーは、付き添ってきた配下の男を殴り倒し、銃を奪いカーターに突きつける。
俺の4万5千ドルを返せと要求するパーカー。
そんなことは自分の一存ではできない、と拒むカーター。ならボスに電話しろ、できないならお前を殺し、フェアファックスが街に戻るのを待つ。カーターはボスブロンソンに電話する。
パーカーの要求を拒むブロンソン。パーカーは自分に話させろ、と受話器を受け取る。

「このカーターって男は、おまえさんにとって、どれほど重要な人間なんだ?」
相手の声は、鋭く、怒りにみちていた。「どういうことだ?」
「おれに金を払うのと、やつが死ぬのと、どっちがいいかってことだ」
「脅迫されるのは好きじゃない」
「それは誰しもおなじだ。答えがノーなら、おまえさんのところのカーターを殺してから、じきじきにお目どおり願うつもりだ。それからフロリダのご意見とやらをうかがって、もしまた答えがノーなら、おれは、おまえさんを殺して、フロリダへ行く」
「われわれの組織全体を相手にまわす気か?頭がどうかしてるぞ、おまえは!」
「そうかな」

ハヤカワ・ミステリ文庫『悪党パーカー/人狩り』(小鷹信光・訳)より

パーカーは、カーターが引き出しに隠した銃に手を伸ばすより早く、それを奪い取り、彼を射殺する。

『Richard Stark’s Parker Vol. 1: The Hunter』より 画:Darwyn Cooke

ジャスティン・フェアファックスは、カーターがパーカーに殺された件を聞き、予定を早めてニューヨークへと戻る。フェアファックスが自宅へ戻ると、そこには既にパーカーが待ち受けていた。
二人のボディーガードを無力化した後、パーカーはフェアファックスに、自分の要求を呑まない場合は、仲間のプロの犯罪者たちを組織にけしかける、と話す。

「四万五千ドル渡さなければ、組織から盗むということか。そうだな?」
「いや、そうは考えてはいない。おれは、あいかわらず、親玉連中におどしをかけつづける。一方、さっき話した百人の男たちに、手紙も書くというわけだ。シンジケートが、おれから四万五千ドル奪った。できたら、機会がありしだい連中を襲ってくれないか、とね。多分、連中の半分は、知ったことか、というだろう。残りの半数のものは、おれを好いている。そろってことを起こすだろう。おれたちは、そういう人間だ。あんたたちは、手広く商売をやっている。おれたちはその店のひとつに、よくぶらっと入って行って、あたりを見まわし、状況を検討してみたりする。いつもの、おきまりの仕事のようにな。あんたたちが、おれたちと同じ側の人間だと思うから、手こそださないが、考えだけはしてみる。おれ自身、シンジケートの三つの組織を、何年間にもわたって精密に頭の中であたってみたが、手だしひとつしなかった。知ってる連中の大部分も同じだ。そういう連中が、突然青信号を眼にするわけだ。仕事にかかる口実ができた以上、連中は、いっせいに実行に移す、というわけだ」
「そして、あんたと山分けか?」
「とんでもない。おれはおれで、取り分を個人的にいただく。連中は、連中の獲物をとる。そうなれば、四万五千ドルどころの騒ぎじゃおさまるまい」

ハヤカワ・ミステリ文庫『悪党パーカー/人狩り』(小鷹信光・訳)より

フェアファックスはブロンソンに電話し、パーカーの話を聞かせ、ブロンソンも渋々パーカーに金を渡すことを承諾する。
パーカーは、金の受け渡し場所にブルックリンの地下鉄の終点駅を指定する。

というわけで、最後の金の受け渡しへと続くのだが、前述の映画化作品『殺しの分け前/ポイントブランク』ではラストが全く違っており、この地下鉄駅でのシーンは自分的には初映像化!いや、映像ではないけど、ぐらいの感じで大変嬉しかった。
『ポイントブランク』は、もちろん映画なので違っている部分は多いのだが、結末に関しては場所や方法だけではなく、原作小説第3作の『The Outfit(邦題:悪党パーカー/犯罪組織)』の結末をもとにした、組織のナンバー2と裏取引で、ナンバー1を殺すことで手打ち、という展開となっていることでもオリジナルと大きく違っている。オリジナルと全く違ってはいるが『ポイントブランク』のラストは、ハードボイルド映画史に残る名場面なんで、絶対に観とくべし。
自分は映画化作品、コミカライズ作品の評価の第一条件が原作との一致などとは思っていない。話にもならない事情により、阿呆の浅知恵により出鱈目に改変されたものが映画化作品面をして大手を振ってまかり通ることに我慢がならないだけだ。まず必要な条件は絶対に壊してはならない本質を理解し、そこに沿った形で作品を作り上げることだ。
しかしながら、原作というのはそもそもその物語を創造した作者が、その物語に対してベストと考える形で作ったものであるということも言っておく。

パーカーは、まずすべてについてケリをつけるため、レズニックとは連絡を付けられないと嘘を言った、タクシー会社のアーサー・ステグマンを始末する。そして地下鉄駅へと向かう。
駅のホームに立ったパーカーは、周囲を観察する。
コークの自販機の横に立つ男。トイレから流れてくる煙草の煙。弁当箱を横においてベンチに座る男。

『Richard Stark’s Parker Vol. 1: The Hunter』より 画:Darwyn Cooke

パーカーは、まずベンチの男に近づき、弁当箱を押しのけて座り、中に入っていた拳銃を取り出す。
その男を引きずってトイレに向かい、中で待ち伏せていた男をまとめて倒し、二人をホームに停車していた電車に乗せる。
そして、手に持ったコークにまったく口を付けず、同じところに立ち続ける男を後ろから襲い、先の二人と同じ電車に乗せ、発車を見送る。
電車から降りてきた女が、ベンチに持っていたバッグを置いて去ろうとする。パーカーはそのバッグを女に突きつけ、女は怯えた顔で受け取りホームから去る。

パーカーは、フェアファックスに電話をかける。
今のところ誰も殺してはいないが、次に殺し屋がやってくるなら殺す。金が届かないなら次はお前だ。

やがて電車から降りた二人の男が、パーカーの所へスーツケースを持ってくる。
男の一人に開けるように命ずる。男もスーツケースに何かが仕掛けられているかは知らなかったようで、びくびくしながら開ける。
仕掛けはなく、中には札束が収められていた。
パーカーは出口には向かわず、ホームの端から線路に降りる。

操車場を歩いて進み、フェンスの空いたところから外の道に出る。
道路を横切ったところで、外で見張りについていた車に見つかり、発射される銃弾に追われながら工事現場に逃げ込む。
車から降りた数名の男たちが、銃を手にパーカーを追って工事現場へ進む。

『Richard Stark’s Parker Vol. 1: The Hunter』より 画:Darwyn Cooke

だが、パーカーは工事現場を囲むフェンス沿いに回り込み、外の道路に戻る。工事現場の前には見張りの車が一台残されている。
金の入ったスーツケースを一旦隠し、口笛を吹きながら見張りの車に近寄って行く。
通りすがりの酔っ払いと油断していた男たちに、銃を突きつけ、車から降ろし、殴りつけ昏倒させる。
スーツケースを回収し、奪った車で走り去るパーカー。

彼はやり遂げた。
彼の次の予定は整形だ。新しい顔を得て、昔の生活に戻る。過去の暮らしに。
パーカーは、窓の外を眺め、微笑む。
今頃のマイアミはいい気候だろう。
さらに南に下り、フロリダキーズまで行くのもいいだろう。

『Richard Stark’s Parker Vol. 1: The Hunter』より 画:Darwyn Cooke

以上、『Richard Stark’s Parker Vol. 1: The Hunter』全編。
初映像化(?)の地下鉄駅での受け渡し以降は全部見せたいぐらいなんだが、まあこのくらいで。この辺も原作との細かい違いはあるんだが、とりあえずは省略。

というところなんだが、実は原作小説は、この後にもう少し続きがある。
金を手に入れた後、泊っていたホテルに戻り、出発の準備も整えたところで、やってきた刑事に逮捕されそうになる。その原因となったのは、コミック版ではカットされた貧民街の雑貨屋に行った件の関係。何とか逃げ出したが、肝心の金の入ったスーツケースを失ってしまう。
その後、二人の仲間を加え、組織関連の施設を襲い、当初の計画より少ない金額を手にして、そこでコミック版の最後と同様の、顔を変えて元の生活に戻ることを考えながらという感じで旅立って終わる。
まあ、明らかにコミック版のところで終わった方がきれいなんで、違和感を抱く人も多いと思うが、実はこの原作が出版された1960年代前半あたりでは、犯罪小説、ケイパー小説というものがこういうタイプの、まんまと大金を手に入れたが、悪銭身に付かずという感じで最後にツイストが入る、というのがパターンだったのだ。
パーカーの登場により、犯罪小説ジャンルは大きく変わる。このオリジナルの結末に感じる違和感というのが、実はこのパーカー・シリーズがそのジャンル自体をいかに大きく変貌させたか、という実例でもあるのだ。

■Darwyn Cookeのパーカーシリーズについて

この『Richard Stark’s Parker: The Hunter』が好評をもって迎えられたことにより、Darwyn Cookeのパーカー・シリーズのコミカライズは、更に続行されることとなる。
まず原作第2作『The Man With the Getaway Face(邦題:悪党パーカー/逃亡の顔)』(1963)が、2010年に短編ワンショットの形で単独に発行された後、同年グラフィックノベルとして発行された、第3作『The Outfit(邦題:悪党パーカー/犯罪組織)』(1963)を原作とする『Richard Stark’s Parker: The Outfit』の第1章として組み込まれる。
続くコミカライズ第3作は、シリーズ初期の名作として名高い、山間の小さな町全体を獲物とする、原作第4作『The Score(邦題:悪党パーカー/襲撃)』(1964)からの、『Richard Stark’s Parker: The Score』(2012)。
そしてコミカライズ第4作は、原作では第14作となる、パーカーが強奪した金とともに閉鎖中の遊園地に閉じ込められ、まともな武器もないまま単身、金を狙う地元犯罪組織と戦う『Slayground(邦題:悪党パーカー/殺人遊園地)』(1971)からの、『Richard Stark’s Parker: Slayground』(2013)。
Cookeは2016年に亡くなり、パーカー・シリーズのコミカライズは残念ながら以上の4作で終わる。もしかしたらだが、『悪党パーカー/殺人遊園地』がコミカライズされたことから、その作品に直結するパーカー・シリーズ第1期最終作となる大作第16作『Butcher’s Moon(邦題:悪党パーカー/殺戮の月)』(1974)を次に考えてたのかもなあ、と思ったりもする。

作者について

■Richard Stark

犯罪小説の大家、ドナルド・E・ウェストレイクのペンネーム。1933年生まれ、2008年没。
リチャード・スターク=ウェストレイクなんて誰でも知ってる常識なんだが、最後までそれを使い続けたのはいかにパーカー・シリーズが人気があったかということなんだよな、と思う。スターク名義としては、パーカー・シリーズの他に、そっちからのスピンオフ俳優強盗アラン・グロフィールド・シリーズもある。
ウェストレイク名義では名作・邦訳作も数知れずぐらいあるんだが、代表作シリーズとして知られる、『ホット・ロック』などの映画化作品もあるコミッククライム ジョン・ドートマンダー・シリーズが激おススメ。パーカー及びドートマンダー未訳作については、いつの日か必ず本店の方でやるつもりですので。

■Darwyn Cooke

1962年、カナダ生まれ、20016年没。
1985年に初のコミック作品、5ページのクライム作品が採用されDCのNew Talent Showcaseに掲載されたが、経済的にやって行けないと考え、一旦はコミックを断念し、カナダで雑誌のアートディレクターとして働く。
1990年代、アニメーターという形でコミックに復帰。DCのバットマン・シリーズなどを手掛けることとなる。90年代ごろからDCに出していたオリジナルの企画が採用され、2000年『Batman: Ego』として出版され、ここで本格的にコミック作家としてデビュー。
DCでの代表的作品は、エド・ブルベイカーとの『Catwoman』や、自身がライターも務めたDCのゴールデン・エイジとシルバー・エイジの橋渡し的ストーリーである『DC: The New Frontier』など。
2009年IDW Publishingからのグラフィックノベル・シリーズとしての『Richard Stark’s Parker』は、大きく注目を浴び、続いてImage Comicsよりオリジナルのハードボイルド・シリーズ『Revengeance』も企画されていたが、2016年惜しまれつつ亡くなり、出版されることなく終わった。
主に子供向けの行き止まりの作画スタイルと思われていたカートゥーンスタイルに新たな可能性を開いた、本当に偉大なアーティストである。
ちょっとまた事前調査が遅れ、最後の最後になってThe Comics JournalのDarwyn Cookeへのかなりボリュームのあるインタビューを見つけてしまったのだが、読む余裕がなかった。ごめん。以下のリンクより。
THE DARWYN COOKE INTERVIEW

前回の後、今年の猛暑にさすがにもたなくなり早めの夏バテ休みで数日ぶっ倒れ、やっとモタモタ復帰という感じで結構遅れてしまいました。まあ、ここからまた頑張りますので。

Richard Stark’s Parker / Darwyn Cooke

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