Judge Dredd伝 第1回 その3

Judge Dredd The Complete Case Files 01

Judge Dredd伝 第1回 その3は、『Judge Dredd The Complete Case Files 01』の後半。1995年アメリカ製作のスタローン主演の映画の元ネタとなっているドレッドのクローンの双子の兄弟であるRico Dreddの話からです。

■The Return Of Rico

『Judge Dredd』第29話。ストーリーは当時は編集長だったパット・ミルズ、作画はMike McMahon。

その日、ケネディ宇宙空港に顔を隠すようにフードを目深にかぶった男が到着する。モノローグで20年にわたる呪詛を呟き続ける男。だがその正体はまだ明かされない。

男は空港ロビーからジャスティス・ヘッドクォーターへビデオ通話をかける。

「ジャッジ・ドレッドを頼む。」

「申し訳ありません、ジャッジ・ドレッドは現在パトロール中です。そちらのお名前は?」

「ドレッドだ。ジャッジ・ドレッド。」

「は?ジャッジ・ドレッドはこちらには一人だけですが?もしもし?」

通話は男の方から一方的に切られる。

ドレッドは、オペレーターからその不審な通話について報告を受ける。だが、彼にだけはその謎の人物の正体がわかっていた。「奴が帰ってきたのか…。」

男は通話の後、ドレッドの住居へと向かう。応対に現れたMariaを気絶させ排除した後、空調装置にある仕掛けをする。

ドレッドは通話の件を聞いた時から相手がRicoであることを察知し、自宅での待ち伏せも予想し警戒しながらアパートの階段を上る。だが、更にその上を行き、隠れていたRicoに銃を突き付けられ、部屋に蹴りこまれる。

部屋に入った途端、彼はそこが異常に低温で空気も薄くなっていることに気付く。直ちにヘルメットに標準装備されている酸素マスクを装着。だがその機能時間はわずか20分だ。

男はドレッド(Joe Dredd)のクローンの双子Rico Dredd。二人はともに育ち、ジャッジ・アカデミーを卒業し、ジャッジとなる。子供の頃よりほとんど変わらない優秀な成績を収めてきた彼らだったが、常にRicoがほんの少し上回っていた。だが、ジャッジとなったRicoは悪事に手を染めてしまう。犯罪者から賄賂を受け取っていたのだ。

ジャッジの犯罪は重罪だ。木星の衛星タイタンでの20年の刑を宣告される。ほとんど呼吸できる大気のないタイタンでの服役は苛烈を極める。

そしてRicoはフードに隠していた素顔を露わにする。それはタイタンでの生存を可能にするため、鼻、口、顔面全体にわたるまで改造された醜く恐ろしい姿だった。

ドレッドの部屋の極低温・低酸素は、まさにRicoが服役してきたタイタンと同じものだった。そしてRicoは告げる

「さあ銃を抜け、決着を着けようじゃないか。結果はわかってるさ。いつだって俺の方が早かったんだ。抜け!」

だが、一瞬早く、先に放たれたのはドレッドの銃だった。

「何故だ?俺の方が早いのに…。」

「お前は20年のタイタン暮らしで腕が落ちたのさ。」

ドレッドからの報せを受け、ジャスティス・ヘッドクオーターから隊員たちが駆け付ける。まだ立つのもやっとだったドレッドだが、Ricoの遺体を運び出そうとした隊員たちを遮り、自ら抱え上げる。

「彼は俺の兄弟だ。重さなど感じない。」

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『Judge Dredd』第29話 画:Mike McMahon

映画原作となったエピソードだが、実はそれほど長くはなく6ページの単話。映画にはその後出てくるエピソードや、設定なども取り込まれているのだが、その辺についてはまた出てきたところで言及して行く予定。パット・ミルズがドレッドのストーリーを手掛けるのは主に初期の頃のみだが、結構重要な話も多い。

この時点では唯一の肉親であるRicoを失って会いまったドレッドだが、後にはRicoの娘であるジャーナリストのViennaが登場する。えーと、最初のエピソード読んだはずだが思い出せない…。まあ、いずれ出てくるので。Mega-City One全体を襲う近年最大の事件Day Of Chaosの時には、ドレッドが彼女を救出しに行くエピソードもあった。その他、Rico Dreddについては、近年の『Judge Dredd』のメイン作家のひとりであるMichael Carrollが、タイタン時代のRicoを描いた小説『Rico Dredd: The Titan Years』を書いている(2014~19年に書かれた3作の中編小説の合本)。

■Brian Bolland登場

この次のパートとして重要なのは、第40話の英国のコミックレジェンドアーティストBrian Bollandの登場と思う。

だがその前に35~36話。Mega-City Oneの、旧ニューヨーク地域の見捨てられた地下鉄廃墟に潜んでいたミュータントギャングTroggiesが、地上の人間たちを攫い奴隷労働をさせていたという事件。ストーリーはJohn Wagner、作画はIan GibsonとMike McMahon。法の手が届きにくい地下世界は、このエピソードで初登場となるが、以降様々な事件の舞台となって行く

そして39~40話。シティで無法を働くバイク・ギャングとドレッドが対決する話。ストーリーはJohn Wagner、作画の前半はBill Ward(この人についてはほぼ資料なし)で、後半がBrian Bolland初登場となる。

Brian Bollandは、例えばアメリカのニール・アダムスやジム・ステランコと並ぶ、同時代の中でも突出し、まさに時代を先取りしたようなレジェンドアーティストである。アラン・ムーアとの『Batman: The Killing Joke』で世界的にその名をとどろかせるのはここから10年後の1988年。

シャープでスピード感があり、かつ緻密な洗練された線!なんかページをめくると、この人全然違う画材使ってんのか?紙が違うのか?いやそもそもこのページだけ印刷違うんじゃないか?ぐらいに見えてくる。

『Judge Dredd』第40話 画:Brian Bolland

そんなBollandなのだが、てっきりこの『Judge Dredd』初登場の時には既にそこそこのキャリアがあるアーティストだと思い込んでいたのだが、実はこれ以前にはメジャーな仕事はほとんどなかったほぼ新人だったらしい。やっぱ天才は最初から天才なんやね。そしてここからBollandの快進撃が始まるのだ。

■Marshal of Luna-1

続く41話から、58話に亘りドレッドが月植民地の司法官となるシリーズが続く。ある程度長いスパンのシリーズ的な話を作って行くというのはこれが最初になるのかと思う。ここではまだ「Marshal of Luna-1」というようなタイトルが明確につくものではなく、その設定上での1~2話、長いもので4話といったストーリーが連続して行くという形。ストーリーはすべてJohn Wagnerが担当。このシリーズ内の月面オリンピックから、East-Meg One、Sov-Cityが明確に「敵国」として現れるようになる。

41話:ドレッドを月植民地Luna-1の司法官に任命する事例が届く。泣いて(?)同行させてくれるよう頼むWalterを置いて出発したドレッドだったが、荷物用コンテナに隠れてついてきてしまう。月面着陸へ向かうシャトルを、謎のミサイルが襲いあわや撃墜の危機に!無事基地に到着したドレッドだったが、荷を解く暇もなく自爆装置を内蔵した派遣お手伝いロボットが襲い掛かる。どうやらドレッドのこちらへの任地を阻もうとする勢力があるようだ。

42話は、Luna-1のアメリカ開拓時代西部劇のような様子。ロボットもカウボーイハットをかぶっている。

43話は、クリスマスの買い物に出たWalterが、ドレッドへの復讐の機会を窺っていた犯罪者に誘拐されてしまう話。

44、45話は月の地で法を無視して勢力を広げる謎の権力者Mr.Moonieとドレッドが対決する話。

46話は、月の土地開発をめぐる衝突・犯罪にドレッドが介入する話。ここでWalterにロボットのガールフレンドRowenaが登場する。

『The Complete Case Files 01』の後半部の作画は、ほぼMike McMahonとIan Gibsonが交代で担当する体制となっていたのだが、この46話でBrian Bollandが再登場。次の2話構成の話を挟み、49~51話の3話をBollandが担当することとなる。39話でBollandという新たな才能を発見し、最速でスケジュールを組みなおすというとこの辺になったということだろう。

47、48話は、「Oxygen Desert」とタイトルがつけられた2話構成の話。作画は2話ともIan Gibson。植民地ドーム外に逃亡した犯罪者を追ったドレッドは、ミスから犯人を取り逃し、空気のないドーム外の荒野に取り残され、死の淵から辛うじて帰還。責任を感じたドレッドは、司法官とジャッジの職を辞し、街路清掃の労働者となりロボットとともに働く。そして路上で取り逃がした犯人を発見し、独力で逮捕し、司法官に復帰する。

ジャッジの職を辞したドレッドは、ヘルメットも返還するのだが、その後は清掃員のヘルメットをかぶり、素顔はジャッジの時同様に鼻と口しか見せない。今後もこんな感じの展開があったと思うが、その時は帽子とかかぶってたように思う。

49、50話は、Sov-Cityとの対立が表面化してくる話。

49話でLuna-1にて初の月面オリンピックが開催され、Sov-Cityを含む各国がLuna-1のクレータースタジアムへやってくる。競技中にSov-Cityのアスリートが一位ゴール直前で銃撃され、一瞬で灰と化す事件が発生する。先に犯人を見つけたSov-Cityのジャッジがその場で処刑を断行しようとする。Luna-1の法治権はこちらにあるとするドレッドが、制止のため彼らの銃を撃った弾丸が跳弾となりSov-Cityのジャッジ一人を殺してしまう。事故であることを認めないSov-Cityのジャッジは、月面上における宣戦を布告する。

『Judge Dredd』第49話 Sov-Cityジャッジとの対決 画:Brian Bolland

50話はSov-Cityとの月面戦争。と言ってもオリンピックのためにLuna-1にやってきた小規模の部隊との間なので、市外戦規模で1話で終わる。この話では、地球から離れた月面のみで行われる戦争を、まるで娯楽のように報じるマスコミの姿を批判的に描くことがメインとなる。

ところでこの辺りでは、まだ常設ではないのだが最初のページにクリエイターのクレジットが入っており、50話のストーリーはJohn Howardという聞かない名前になっているのだが、これは実はWagnerの変名。Wagnerは『Judge Dredd』で他にもいくつかの変名を使っており、まあ考えられる事情としては、同誌内に他にWagnerの作品が同時掲載されたというのが思いつくのだけど、逆にそんなにいくつもの変名が必要か?一つで十分じゃない?という疑問も出てくる。いや、今出てきた。実際『Judge Dredd』でのWagnerの変名結構多い。もしかすると2000ADには作家がいっぱいいるように見せかけたかったとか、それとも英国人特有のこっちにはよくわかんないユーモアとか?この辺についてはすぐにはわかんなかったのだが、少し調べてみたい気がする。

51話は、3Dプリンター的な技術を使い、顔を変え正体をつかませない強盗団の話。しかし「3Dプリンター的な技術」という言い方でなんとなく伝わるというのは、やっぱ技術の進歩で、これが描かれた1978年から見ると、今は未来なのだなと思う。

52~55話は、ロボットカーElvisが自身は人間より優れていると主張し、Luna-1を暴れまわる話。終盤ではドレッドがElvisに捕獲され、閉じ込められたElvisの周りをグルーピーが取り囲み行進するという70年代的展開に。作画は4話すべてIan Gibson。ここで気付いたのだが、Ian Gibsonって結構Ezquerra-McMahon系の画風だと思っていたのだが、その中でも圧倒的に女性を描くのが上手い。この辺がアラン・ムーア『Ballad of Halo Jones』に起用された所以なのだろうな。

『Judge Dredd』第55話 画:Ian Gibson

56話は、Luna-1に呼吸可能な大気を供給している施設を犯罪者集団が乗っ取り、大気を人質にして大金を要求するという話。Luna-1には毎日地球から大型宇宙船で酸素が運ばれている。まあ、70年代のSFマンガなんだからそこのところはあんまり突っ込むなよ。

『Judge Dredd』第56話 6ページでもこんな画が出せるBolland 画:Brian Bolland

57話、ドレッドが大小様々な犯罪に振り回される一日が描かれ、58話で任期が終了し、地球に帰還する。

あのドレッドが戻ったと、Mega-City Oneの犯罪者たちは恐々とする。だが、宇宙空港から出て自宅へ歩くドレッドの周りでは、様々な違反行為が勃発するが、一切関知することなく通り過ぎる。あのジャッジ・ドレッドも月に行って丸くなったのか?自宅でドレッドを迎えた掃除おばさんのMariaは、自宅でくつろいだ様子のドレッドを見て、やっと彼もまともな人間になったか、と涙をこぼす。だが午前0時、日付が変わりドレッドに再びMega-City Oneでの勤務が開始される辞令が下った途端、前日目にした違法行為も含め、苛烈な取り締まりを始めるドレッド。あくまでも法に従順なドレッドは、Mega-City Oneのジャッジに法的に戻る権限を有するまでは一切動かなかっただけという話。

この『The Complete Case Files 01』最後の話となる59話は、Mega-City Oneで最近度々発生している放火犯を、ドレッドが探索する話。なんか月から帰ったところで終わる方がきりがよいように思えるが、実は次からかなり長期にわたるシリーズ「Cursed Earth」が始まり、『Files 02』をそこから始めるためという事情。本誌掲載の時もその手の何らかの内部事情で挟まれた1話だったのだろうと思う。

というわけで、最初から3回にわたってお届けしたJudge Dredd伝 第1回がやっと終了です。最初からこういう形になるのはまずいか、ということも頭をかすめましたが、私自身のこだわりと、英国コミックの一つの部分の歴史でもある作品の重要性からごり押しいたしました。内容に関してはさすがに全話の内容を書くのは無理で、特に重要な作品をピックアップしつつある程度は飛ばさなければならないにしても、例えば最後の「Luna-1」のような連作的なストーリーになるとなかなかそうもいかず、飛ばすならその理由も書かなければならないのでは、と言った難しさも見えて来たり。まあ今後の課題です。とにかくこれを第1回としてこれから頑張って行こうと思います。

Judge Dredd The Complete Case Files 31~42

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