Arcadiaその後。そして新たなInvisibles登場!
さて、グラント・モリソンの代表作である『The Invisibles』(1996~2000)の第3回です。今回はアーティストがそれぞれに交代するので、そっちの方は各話毎に。
今回は特に、4話ともそれぞれ独立した話となるため、キャラクター紹介なども含めるとかなり長くなってしまうため、前後編に分けました。本当はあまりやりたくはないのだけど。ただまあ、あまり長くなってしまうと作業段階で読み込みが重くなってきて、こりゃ駄目だと思い分けたような事情。でもそっちが普通になってきてしまって、2万字前後ぐらいだとそれほど長くならないで終われたなとか思ってる時点でもうおかしいのかもしれんけど。
やっとTPB第2巻『Vol. 2: Apocalipstick』へ到達!8話収録の中の、今回は前半9~12話をやって行きます。
Dane/Jack Frostを加えた初のミッションとして、フランス革命時の18世紀にタイムトラベルで向かう。だがその最中に敵の襲撃に遭い、何とか全員大体無事ぐらいで風車へと帰還。さらに敵の攻撃が彼らに迫る!新キャラ登場に、敵の一端が垣間見えるストーリーなど、今回も…、えっと今回も注釈満載の謎展開が続きます…。
The Invisibles 第3回 Apocalipstick (前編-1)
第1部
■#9 23 : Things Fall Apart / 画:Jill Thompson
●キャラクター
-
King Mob (過去):
1992年にフィラデルフィアの教会に調査に行ったKing Mob -
John a Dreams (過去):
King Mobとフィラデルフィアの教会の調査に行ったJohn a Dreams。この後消息を絶つ。
-
King Mob:
The Invisibles内の一つのチームのリーダー。 -
Dane/Jack Frost:
元リヴァプールの不良少年。半ば強制的にThe Invisiblesのメンバーにされたばかり。 -
Robin:
King Mobのチームの一員。魔術のエキスパート。 -
Boy:
King Mobのチームの一員。格闘術、ヨガのエキスパート。 -
Fanny:
King Mobのチームの一員。女装者。強力なシャーマン。
●Story
フィラデルフィア 1992年9月。教会。
蜜よ
「なんと、連中ヒキガエルを十字架にはりつけてる」
教会の中。正面のキリスト像を懐中電灯で照らしている男が言う。「哀れなチビ助よ」
「ツァトゥグァのトーテムだ」後ろに続く杖を突いた男が言う。「連中は”The Hand”をヴォルティゲールの定式による結合に使い、B宇宙への割れ目を開こうとしていることを知らせたいようだ。我々はこれを阻止せねばならない」
「ああ、そうだな。地下納骨堂を探ってみよう」手前の男 -頭も剃っておらず現在のような奇抜なファッションでもない、1992年時のKing Mobが言う。
「俺はまだ他の連中を呼ぶべきじゃないかと思ってるんだがね、John。一連のこいつについては、むかついて感じられるんだが」
「他の者たちの到着を待つ時間はない。我々だけでこれに臨むしかない」銀髪に全身白い着衣の杖を突いた男 -John a Dreamsが近付きながらそう応える。
「畜生!なんか実体のある撃てるようなもんの方がありがたいんだが」King Mobは言いながら、地下納骨堂に通じるドアを開ける。
「湿った臭いがするぞ!こいつはまるで…」
「ああ、クソッ。なんてこったい。奴らやりやがったぞ。見ろ」
そう呟くKing Mobの肩越しに部屋の中を窺うJohn a Dreams。
扉の先には、醜怪で悪夢のような巨大な植物が聳え立っていた。
「おお、これは壮大だ」John a Dreamsは声を上げる。
「そんな言葉はまず俺の頭には浮かんでこなかったがな、John」懐中電灯で植物を照らしながら言うKing Mob。「こいつは死んでるな。そうだろう?」
「これはな」周囲を見回しながら言うJohn a Dreams。「恐らく他にもあるはずだ」
蜜よ
「思うにこれらはただの乗り物だ。奴らはここにある種の物理的な形を持って現れるために、地球の物質水準からこれを作り上げた。それは明らかに圧力に耐えられなかったようだ」
John a Dreamsが見回す室内には、奇怪な大小の青いキノコが、床、壁面から生えている。
「これは何の臭いだ?」
甘美なる雫
そしてJohn a Dreamsはさらに奥へと続く扉を指さす。
「この下では何が起こっているのだ?何かを感じるぞ」
黄金色で腐っている
「見てみようではないか」
扉を押し開くJohn a Dreams。
「いや待て。開けるな…」King Mobは躊躇いながら止めようとする。
ねばねばと甘い
そこにあった光景に驚愕するJohn a DreamsとKing Mob。
蜜よ

『The Invisibles Vol. 2: Apocalipstick』より 画:Jill Thompson
このシーンはKing Mobによる回想で、数年前の1992年のJohn a Dreamsとのミッション。この後の出来事でJohn a Dreamsが失踪することになる。
John a Dreamについては、第1回の#1 Dead Beatlesのまだ最初のあたりで、King Mobがパリで老齢の女性Edithを訪ねるシーンで、彼を失ったので新しいメンバーを探している、という形で語られている。第2回でJohn a Dreams/Satanが登場するシーンでも言及すべきだったのだが、忘れてすいません。
第2回でメアリー・シェリーの馬車に乗り合わせ、レンヌ=ル=シャトーに送られたRobinの前に現れるJohn a Dreams/Satanなのだが、どちらでも名乗ることも無く、下手すればそこで同一人物だと気付かない場合もあるのだけど、このシーンでは見かけも違っているし、よく見れば似てるかもぐらいのもので、初見でわかるわけない。というか、もう一人の坊主頭もKing Mobだとはまず分からず、実際最初読んだときには何処かへ繋がる謎のシーンの一つぐらいにしか理解できず、それで繋がらないうちに忘れてた…。ちゃんと読めば続くシーンで少々の言及もあるのだが、それすらもうまくつながっていなかったと思う…
実際にこの事件について再び言及されるのは、第2部の後半ぐらいとかなり先。セリフの中にある”The Hand”も第2部になってから出てくるアイテム。また、第2回Arcadiaでのレンヌ=ル=シャトーでRobinはJohnと会ってもそれが誰かわからない様子だったが、それは後にこの事件の頃はほぼ面識がなかったという形で説明される。
実際のところ第2回のものも含めてこの辺の事はストーリーの現時点では隠されている情報で、言ってみればネタバレの類いなのだけど、この作品このくらい説明しないともうわけわからなすぎない?
その他、フィラデルフィアの教会は、ペンシルバニア州の有名な1695年に建てられたクライスト・チャーチをモデルとしているようだけど、はっきりと特定はされていない。
ツァトゥグァ(Tsathoggua)は、クトゥルフ神話に登場する神。クラーク・アシュトン・スミスの作品に最初に登場している。ヒキガエルに似た頭部を持つ。
風車の中。ここからは前回の続きとなる。
回想から戻るKing Mob。切断された指について文句を言うDaneの声が聞こえる。
「だから俺は言ったじゃないか。奴が食っちまったから、俺の指を縫い合わせることはできないんだって!」
Daneの指を治療するBoy。Fannyがそれを手伝う。
「Orlandがあんたの指を食べたの、Jack?ウエッ!あいつの中何が入ってるのかしら?」
「何にしても指全部じゃなくて、先っちょだけじゃない」
「じっとしてなさいよ。ちょっと痛いわよ」BoyはDaneの手を押さえ、消毒薬を含ませたハンカチを近づける。
「”先っちょだけ”だと?ああ、奴にとっちゃあ先だけ食って、残りは残してよかったなあってか?そいつは…」
痛みに絶叫するDane。
「ドレスを駄目にしちゃったわ」と怒るFanny。「ついてなかったわね」とRobin。
「考えていたんだがな」と口を開くKing Mob。「俺たちは想像してた以上のトラブルに嵌まり込んでいるのかもしれん」
「そうかい、そりゃあんたのトラブルで、俺のじゃねえ!そんでそのクソトラブルを自分のとこに留めとけよ。多分次に指を切られるのはあんただろ!」
手を上げて言うDane。「俺はもうやめたんだ!俺は帰るからな!」
「これを見ろよ!俺の手を見やがれ!」
「こういうのが俺の言うトラブルだ!」
風車の外。暗視装置を通して監視されている風車。
「それほどの困難はないはずだ」謎の声が言う。
風車の前の木々が葉を落とした森。目も空いていない真っ黒なマスクを被った戦闘服の男たちが、木々の陰に隠れ、風車への突入準備をしている。
先頭で暗視双眼鏡で風車を監視する男が言う。「Orlandが到着したのは一時間以上前だ。ターゲットを鎮静化するのに十分な時間だ」
「何の動きもない。故に我々は彼が依然そこに留まり、King Mobとその他のInvisibles工作員を行動不能にしたと問題なく仮定できる」
「Orlandだって?畜生、あの不気味な顔の気持ち悪い奴か」後ろに控える男が隣の男に小声で囁く。「あんな奴らと一緒に働くべきじゃないだろう…」
「そこ、静かに!」先頭の男が言う。「だが鎮静化されていようがいまいが、私は奴ら相手に油断することは望まない」
「奴らがソーホーで我等の仲間にやったことを思い出せ。Brewster伍長のことを。あそこに横たわり、わずかに残った手でやみくもに腸を押し戻していた姿を」
「あの事を考えろ」先頭の男が言う。
「よし」装備を確認し、男たちは風車に向かって走り出す。
「あそこでカルマの返礼をしてやるぞ」
風車の中。King Mobが話している。
「俺は誰が俺たちのタイムトラベルコードと、風車の場所を、敵に報せることができたのか考えていた。それで思いついたことがある」
「お前はJohn a Dreamsと言う奴と交代で俺たちのチームに入ったんだ、Jack。まあ、そりゃあ奴のコードネームだがな」
「それで?そいつに何があったのかと思うぜ。奴らそいつのチンポを切って、食っちまったんじゃねえのか?」Daneは言う。
「俺は誰の代わりでもねえよ!」
King Mobは思い出しながら話す。
「俺たちは盗まれた”Hand of Glory”と呼ばれるアーティファクトを追跡していた」
「俺たちはコミュニティの原型を見つけた…」
「変化した…奴らの」
「俺たちは見た…。奴らが裂け目を開こうとしていたのを…」
「すまん。俺は一月ほどわけのわからんことを言い続ける役立たずになってたんだ。John a Dreamsは…、つまり奴らはその裂け目から連れて行った。あいつは死んだと考えられてる」
「奴は死んでないのかもしれない。奴は向こう側へ行ったのかもしれない。奴は連中の一員になったのかもしれない」
「それはあり得ないわ。Johnに限って」Fannyが言う。
「Johnでないとしたら、誰なんだ?」King Mobが言う。「俺たちの中の誰かか?」
「どうだろうと俺は興味ねえな。俺はここで抜けるから、代わりを探し始めた方がいいぜ」背を向けるDane。
「どこへ行くんだよ、Jack」
「トラブルについては正しいわ」少し離れて何か考えていた様子のRobinが口をはさむ。
「ミュルミドン・ユニットが風車に近付いている。8か9人の兵士。10人かもしれない。はっきりとはわからない」
「何だって?」驚いてRobinを振りむくKing Mobたち。
「ミュルミドンと言ったのよ」Robinは繰り返す。
“ミュルミドン”は、ギリシャ神話のトロイ戦争でアキレスに従って戦った戦士部族。疑いも持たず命令を実行する手下、という意味があるようなのだけど、一般的に使われているのかよくわからないので、そのまま書いて注釈。
「どうやらお前さんそう遠くまで行けそうにないぜ、Jack」King Mobが言う。
「そうかい?そりゃあんたらの考えさ。俺は抜ける。あんたらと何をする気もない」Daneは言う。「それから俺をJackと呼ぶのはやめろ。いいな?俺の名前はDaneだ。クソJack Frostなんかじゃねえ」
「”戦略的撤退”って言葉は、あたしのスペシャル魔法の維持を待ってくれないようね」口紅を直しながら言うFanny。
「Fannyの言う通りね。ここから出ましょう」Boyが言う。
「連中は近づいてる。あんまり時間はないわ」Robinが言う。
「この厄介な風車は、足止めされるにはまずい場所だな」King Mobが顔をしかめて言う。「ここにはいられない」
「下の車まで降りられれば、うまく脱出できる可能性も上がるな」
様子を窺いながら移動するDane。
「俺には銃がある。いくらかはこいつで始末できると思うが…、クソッ、どこへやった?」腰に差していたはずの銃を探るKing Mobだが、見当たらない。「俺の銃はどこだ?」
「Jackが持ってるわ。Orlandを撃とうとしたのよ」Boyが答える。
「Jack?アンタどこに…」振り返ってDaneに声を掛けるBoy。だが、そこに彼の姿はなく、下への階段に続く床扉が開かれたままになっていた。
「あいつ逃げた。逃げたわ」「信じられない」
「追い掛けろ!」叫ぶKing Mob。Boyが階段へ向かう。
「あたしたちここでちょっとモタモタしすぎたみたいね」Fannyが言う。
「ああ、『プロデューサーズ』のセリフが思い浮かぶぜ」King Mobが言う。「”Boy, when zingc go wrong …”」
『プロデューサーズ』は1968年のメル・ブルックス監督の映画。有名なセリフなのかもしれんけど検索では見つからなかったんで、そのままにしときました。意味的には「アドリブがうまく行かない時には…」みたいなもんかと思うのだけど…。
風車の外へ出たBoy。その時、Daneが盗んだKing Mobの車が走り去って行く。「畜生」
風車の中。魔術で周囲の様子を探っていたRobinが呟く。「予測。連中は用意ができている。連中にとって対応は容易」
「よし、銃はない。故に俺たちには即興が必要で、勝ち目を少々均等に上げなきゃならない」対策を考えるKing Mob。「他に使えるものはあるか?」
「ここにいくらか使えそうなものが…」そこでBoyが階段から戻りながら言う。「あいつあんたの車持ってったよ、K. M.」
「俺の車だと?クソッ、アホ野郎め。なんで俺の車なんか盗むんだよ?」顔をしかめ額を手で打つKing Mob。
「俺の車には爆弾が仕掛けてあるんだ。兵隊どもが奴を捕まえなかったとしても、奴はあと四分の命だぞ」
「何ですって?」Fannyが言う。
「あの車のブービートラップだ。俺がエンジンを動かす前に組み合わせ数字を打ち込まなきゃ、すべてが吹っ飛ぶ仕掛けが起動する」King Mobが言う。「機密保持対策さ」
「それはそれ」Robinが言う。「連中は森から出て来たわ。こっちに向かっている」
「わかった」King Mobが言う。「今はJackの心配をしている場合じゃない。俺たちは自分たちがここから生きて出ることを考えなきゃならん」
「あたしが持ってる唯一武器に近いものは、ライターとガスぐらいね」Fannyがハンドバッグを探りながら言う。
「煙草を全部点けて兵隊どもを肺癌にしようとするぐらいかしら」
「Orlandのナイフと剪定ばさみはどう?」
「素晴らしい。良質で頑強なガーデニングツールを持ってるなら、洗練された近代兵器も無用だな?」King Mobが言う。「誰かほかにとびっきりのアイデアはないか?」
「何をするにせよ、あたしたちは急いだほうがいいわ」Robinが言う。「連中が向かっている」
盗んだKing Mobの車で逃走するDane。
その道の先で、敵の一団がバリケードで道を封鎖している。「クソッ」
バリケードに迫るDaneの運転する車。「奴はスピードを落とさないぞ」「連中の一人だ!準備しろ!」「奴は加速してるぞ!」
バリケードに突っ込み、破壊して通り抜けるDaneの車。
「気を付けろ!」「奴を逃がすな!」車とバリケードの破片を躱す、マスクと戦闘服の男たち。
そしてDaneの車めがけて、手にした銃を撃つ。
銃弾がタイヤの一つに命中し、パンクさせる。「やったぞ!奴を捕らえた!」
制御を失った車は、道を外れ樹に激突する。
風車に押し入るマスク、戦闘服の一団。「ドアは開いているぞ」
「きれいに簡単にやろうか、諸君」隊のリーダーが言う。「Orlandは?」
「俺はあのOrlandってやつが嫌いだよ。あんな頭のおかしい奴を信頼できると思わない方が…」隊の一人が小声で言う。
階段を上り、Invisiblesメンバーがいるフロアに上がる。「あんたか?Orland。片付けに来たぞ。手順は分かってるだろう?」
「一人逃した。小僧だ」Orlandの来ていた服を纏い、彼を装うKing Mobが答える。他のメンバーは床に倒れている。
「奴は遠くには行けないさ。一人でも逃がすなんて、あんたらしくないな?」隊のリーダーが言う。「あんたは…その…、King Mobは殺してないよな?奴を連れてくるように命令されてるんだが…」
「奴は死んでない。他の誰もだ」Orland/King Mobが答える。
「そうだといいんだが。さもなきゃお偉方が俺のはらわたをガーターベルトにしちまう」
「どのはらわたかな?」King Mobの手にナイフ。
「こいつかい?」ナイフを男の腹に突き立てるKing Mob。
「隊長!畜生!言っただろう!こいつは頭がおかしいって!」慌てる隊員の足元で、Boyが起き上がる。
素早く前の男の顔面を蹴り上げるBoy。
King Mobは奪った銃で残りの隊員を射殺する。
「四人倒した」起き上がった他のInvisiblesメンバーの前に立ち言うKing Mob。
「よし、煙だ。なるべく多くな。行くぞ」
樹にぶつかり停止したDaneの車に近寄るマスクの男たち。「慎重にな。あの変態どもがいかに意表をついて来るかは分かってるだろう」
「奴は依然危険だ。くれぐれも失着のないようにな」「”失着”ってどういう意味ですか?」
車から這い出すDane。
「大人に聞きなさい、Holroyd」「ハハハハ」四つん這いで逃げるDane。
ライトに照らされるDane。「そこまでだ。そこから動くな!」
「両手を上げてこちらに見せろ!」「俺は何もやってねえ」「見ろよ!あいつ5フィートそこそこのチビだぞ」
「マヌケなチビ助め。Invisiblesもよっぽど余裕がないようだな」「いい車じゃないか」
車に近付くマスクの男たち。King Mobの仕掛けたタイマーが進んで行く。「とんだ無駄遣いだな、こんないい…」そしてゼロへ。
車は大爆発を起こし、Daneは吹き飛ばされる。
「なんてこった」近くの小川の中に横たわり、呟くDane。

『The Invisibles Vol. 2: Apocalipstick』より 画:Jill Thompson
風車。ドアから大量の煙が噴き出してくる。
「どうしたんだ?」「火事だぞ!」外で待機していたマスクの隊員たちがドアに駆け寄る。
マスクの男がドアを開けて出てくる。「あれは軍曹じゃないか?」「あなたですか?」
腹を押さえながら出てきた男は、咳込みながら言う。「撤退だ!」
「撃たれた…、これはガスだ」
「奴らガスを使った…。ここから離れるんだ…。撤退だ、急げ!」
「ガスだって?なんてこった!そんな装備持ってこなかったぞ…」「余計なことを考えるな!軍曹を救うんだ!行け!」
「大丈夫ですか?今行きます!」ドアから出て来た男に駆け寄るマスクの隊員。
「そうじゃない」地面に倒れ込みながら言う男。
「俺の方が来たのさ」マスクで変装したKing Mobが駆け寄ってきた男の頭を撃ち抜く。
「悪く思うなよ。ジャングルの掟ってやつさ」
サブマシンガンを乱射するKing Mob。マスクの男たちはパニックに襲われる。
「何が起こったんだ?これはガスなのか?どうすればいいんだ?俺たちは何をすればいいんだ?」
煙の向こうから強い光が迫って来る。「クソッ!」「撃て!撃つんだ…」
男たちは煙を突っ切って来た車にはねられる。
小川から這い上がるDane。
一息ついたところで、前に人影が立ちはだかる。「頑張ったな、小僧」
「大冒険は終わりだ。立て」マスクの男が言う。「お前は今度こそお終いだ」
「そうか?」顔を上げるDane。
そしてそのまま、持っていたKing Mobの銃を男めがけて撃つ。
「クソくらえ」
車に乗って逃走するKing Mobたち。運転はRobin。
「やっとこれから逃げ出せそうな気がして来たぜ。このアドレナリンがたまらん!」マスクを取って言うKing Mob。
「前を見て!」後部座席のBoyが叫ぶ。
フロントガラスに次々と銃弾が撃ち込まれる。
窓から身を乗り出し、銃を撃つKing Mob。「行け!アクセルを踏め!」
King Mobの銃弾に倒れるマスクの男たち。「命は安くなるばかりだぜ。誰も怪我はないか?」
「大丈夫よ」ガラスの破片を払いながら言うRobin。「誰かあたしのバッグからサングラス取ってくれる?」
「あそこだ。車を停めろ」King Mobたちは、Daneが乗って逃げた車の爆発現場に着く。
「リスクを取ろうとしてるのは分かってるわよね?」運転するRobinが言う。
「今夜のリスクを取るアヴェレージは相当高くなってるよな…。だが俺たちはまだJackが生きてるのかどうか確かめなきゃならない」とking Mob。
車を停めるRobin。「分かったわ。でもこれは狂気の沙汰よ、K. M.」
「狂気の沙汰が俺たちをこんなところまで連れて来たのさ。どのくらい深いところまで連れてってくれるのか見てみようじゃないか」車を降りて爆発現場に歩み寄るKing Mob。
「参ったな!こりゃ酷い!どうやら俺は爆薬を仕込み過ぎたようだ」
まだ火と煙を上げているねじ曲がった焼死体を、足元に見降ろすKing Mob。「この哀れなやつを見ろよ。オゾン層なしで日光浴をするとこうなるわけだ」
「軍に入って、墓場で会おう」
「いい加減おっかないユーモアをやめようとは思わないの、K. M.?あたし人間の焼ける臭いで窒息しそうなんだけど?これは悲惨で、ジョークは何の助けにもならないわ」Boyは言う。「あんたの車はお気の毒だったわね?」
「別のを手に入れるさ」
「行くぞ。Jackの痕跡が見つかるか探そうじゃないか。急げ急げ」
「何を探せばいいの、ダーリン?5分おきに”ファック”って言ってる、小さな消し炭の塊?」Fannyが言う。
「いいや、奴は逃げたはずだ。俺にはわかる。あいつはこんな死に方をするには悪運が強すぎる」燃える車を見ながらKing Mobが言う。
「あたしもそう思うわ。川に向かってる」Robinが言う。
Fannyが、地面にDaneが車から這い出した跡を見つける。「ここよ。あいつ車から出てる」
「これはツイてる以上のもんね。あの子不死身みたいね」Boyが言う。
「今のところはな」King Mobが言う。「だが奴は今逃げてる。奴だけでな」
「そして、もし俺たちがあのクソガキをすぐに見つけなけりゃ、連中が見つけ出す」
「ミスターSixに連絡せにゃならん」

『The Invisibles Vol. 2: Apocalipstick』より 画:Jill Thompson
Daneの前には銃弾で頭を撃ち抜かれたマスクの男が倒れている。
初めて人を殺してしまったショックに呆然とするDane。
やがてDaneの目から涙が溢れ出してくる。
夜空に向かって泣き叫ぶDane。
第9話については、前回「Arcadia」のその後という感じで、アクション主体で最初以外は注釈がほとんど必要なく楽だったな。
ここから消えたDaneと彼を探すKing Mobたち、そして彼らに迫る敵という展開になるのだけど、ここで一旦3話独立したエピソードが挟まれる。
『Sandman』や『Hellblazer』などのVertigo作品ではお馴染みの手法だが、この『The Invisibles』ではこの3話のみとなる。
お馴染みPatrick Meaneyの『Our Sentence is Up: Seeing Grant Morrison’s The Invisibles』によると、モリソンはもっとこういうのをやりたかった気持ちはあったのだけど、商業的なことを考え断念したそう。
■#10 Season Of Ghouls / 画:Chris Weston
●キャラクター
-
Jim Crow:
The Invisiblesのメンバー。ブードゥーのロア、Papa Guedheを名乗る。 -
Lamerci:
シカゴの黒人街に住む女性。ブードゥーの蛇の巫女。 -
Peebles警部補:
シカゴ警察の警部補。 -
Nordau:
シカゴ警察の刑事。Peeblesの部下。 -
Dollimore:
Unitol製薬の重役。 -
Zaraguin男爵:
蠍のロア。
●Story
この話ではInvisiblesのメンバーであるJim Crowについて描かれる。第2回の#5で言及があったぐらいにしか書けなかったのだけど、レストランでメンバーがKing Mobを待っているシーンで、名前だけは出てきている。この後、多く登場して来る重要なキャラクター。
作画は英国コミックの重鎮Chris Weston。正確で力強い描線、緻密な描写で、米国でも多くの作品を手掛けているアーティスト。『The Invisibles』では第2部で多くの作画を担当。
アメリカ。シカゴの路地裏。黒人女性が怯えて身を護るように手をかざす。「ああ、やめて、やめてよ」
彼女の前には三人の男たちが立ち、彼女を路地の奥に追いつめている。一人の男の手にはドライバー。
「こんなことはやめてよ、Danny。あたし怖いわ」怯える黒人女性。「お願い、あたしよ。やめてよ」
三人の男はいずれも白目をむき無表情で、まともな状態には見えない。中央の男、Dannyがドライバーを手に言う。
「あのノイズすべてが、俺らの耳を痛めつけるんだ」
「死んだらお前にもよく聞こえるようになる。甲虫が泥の中でカチカチいう、塗装が割れる音、根っこが捻じれる音。お前にもわかる。こいつは気持ちいいぜ」
壁に追いつめられる女性。「やめて、Danny、やめてよ。あたし、あたしよ」
「誰だか分ってるさ。会いたかったぜ。お前はそうじゃねえのか?俺がいたところは寒かったんだ」
「キスしてくれよ、ビッチ。俺にその温かさを分けてくれ。」
「愛してると言ってくれよ。来いよ」
「キスしてくれよ」Dannyが口から伸ばした長すぎる舌の上には、サソリが乗っていた。
悲鳴が響き渡る。
「俺も異様な事、惨いことはずいぶん見てきたさ、Nordau。だがこいつはクソ場外ホームラン級だぜ」壁に飛び散った血を手でなぞりながら、言う男。
「こいつは”トワイライトゾーン”だよ。”トワイライトゾーン”やら”アウターリミット”かよ。全くなんてこった!」煙草をくわえた黒人警官 -Peebles警部補が言う。
「被害者は17歳の少女。強姦及び死体損壊。…そして俺たちは全く新しい辞書における言語定義上の”死体損壊”について話してる。俺たちは…ああ、畜生…」
黒人刑事の後ろでは、Nordauと声を掛けられた部下の刑事と、制服警官が恐ろし気に事件現場を見下ろしている。
「クソッ!こいつを見てみろ。彼女の内部を分断した刃物なんだぞ」ドライバーの入った証拠品袋を手に言うPeebles警部補。
「どうやったか一分でも考えてみやがれ。よし、悪いニュースを寄こせ」
「主犯は少女の兄です」Nordauが答える。
「それで?他の誰だろうがこのデタラメについて話してることを一度に話してみろ」
Peeblesが手をかざした先には、少女を殺害した三人の男たちが血まみれで折り重なり倒れている。
「それでですね、三人全員の死亡確定時間は、少なくとも少女が殺害された30時間前とのことです。この界隈に出回ってる妙な新しいドラッグによる過剰摂取のようです」Nordauが報告する。「そして…ええと、この連中は犯行時には既に死亡していたということです」
「面白いな。狂ってるとしか聞こえないよ、Nordau」Peeblesは言う。「これにどう対応すりゃいいんだ?」
「近親者への対応をお願いします。あなたの仕事として」笑顔で答えるNordau。「私としましては、テキーラのボトルとのデートですな。忘却。それが私の求める全てです」
「忘却です」笑顔で繰り返すNordau。
「世間が警察に対していかに信頼を抱いているか、一目瞭然だぜ、畜生!」苦々しげに言うPeebles。
彼らの背後で、見物の輪の前に立ち、涙を流す頭にターバンを巻いた年配の黒人女性。
「総ての世界の下と上に在られる媒介たる水の聖霊よ、死と海の聖霊よ、Les Morts、Les Mysteres、Les Marassa (死者よ、謎よ、マラサよ)。私はあなた方にお仕えすべくここにいます」
鶏の首に刃が入れられ、血が噴き出す。
「ああ、光よ、暗闇はなく。ああ、光よ、我等は終わりなき光の前に在ります」
首を切られた鶏から血が流れ落ちる。
事件現場の背後で涙を流していた年配のターバンの女性 -Lamerciが、裸に腰巻のみのアフリカ的装いで、自宅の居間でブードゥー教の儀式を行っている。
床に立てられた蝋燭に囲まれた儀式用の盆に、手に持った捧げ物の鶏の首から血が流れ落ちる。
彼女の前のテレビの上には、神を象った人形が置かれている。
「ここに在りしは、私Lamerci、水女、マンボ、蛇の巫女。Lamerciは、あなた、Papa Guedheに呼びかけます」
「Guedhe Nimbo、十字路の後ろに、Guedhe;Baronの前に、Guedhe。今日私は困難、Gedeviにあり、Guedheに呼びかけています。私は困難に陥っています。掃除、水撒き、農耕をやめています」
「私は困難に陥っています、Baron Samedi」
テレビの上に蠟燭と共に置かれた神を象った人形。テレビ画面には、ジミ・ヘンドリックスが映っている。
「Simbiの名において、川の中の蛇、私はあなたに呼びかけます、Papa Guedhe」
「♪ Papa Guedheは男前 ♪」
何処からともなく歌が聞こえてきて、Lamerciは首の周りから煙に包まれ始める。
「♪ Guedhe Nimboはいかした男、奴は全身黒で着飾る、奴は宮殿へ向かうのさ… ♪」
Lamerciの首の周りの煙が蛇の形を取り始め、周囲の光景が変わって行く。捧げ物の鶏を手に彼女は立ち上がる。
「そこにいらっしゃるのですか、Papa Guedhe?」
「私はここにいるぞ、小さき同胞よ。私はいつもここに」
場所は月光に照らされた墓場へと変わり、十字路の標識の前の墓に一人の男が腰かけている。
肩にカラスを乗せ、山高帽を被り、全身に様々なアフリカ風の装飾を施した異装の男。Papa Guedhe -Jim Crow。

『The Invisibles Vol. 2: Apocalipstick』より 画:Chris Weston
「遠くより訪れたのだな。何があった?」Crow/Papa Guedheは言う。
「私の孫たちのことです、Papa。何者かが孫たちを殺すまで痛めつけさせました。Danielが自分の妹を殺したのです」Lamerciの首の周りに巻き付いた蛇は形を取り、首を持ちあげている。
「そういったことが日常的に起き過ぎています。外にいる何者かが地域全体に悪しき魔法をかけ、私たちの子供たちが死に続けています」
「私はこれを止めたい。報復を求めます」Lamerciは言う。「子供たちの魂を見つけて。私は誰がこれをやってるか知ってると思う。それは白人たちだけど、私には近寄ることもできません。蜘蛛の巣が私の行く手を阻み、それ以上は進めないのです」
「く・も」Crow/Papa Guedheの肩のカラスがたどたどしく言い、鳴き声を上げる。「さ・そ・り」
「そうか!お前は虫の精霊と厄介事を起こしたくはないのだな、小さき同胞よ。私に何ができるか調べてみよう」Crow/Papa Guedheは言う。
「そして見返りに、私にごちそうを用意してくれ。私がどんなに腹を空かせているか知ってるだろう」
「そう致します、Papa Guedhe」Lanerciは跪いて言う。「ありがとう、あなたに祝福あれ」
「ありがとうございます」Lamerciの周囲からは墓場は消え、自宅の居間に戻っている。Papa Guedheのいた場所には神を象った人形。
以下はブードゥー教関連。
マラサはブードゥー教の神。マラサ・ジュモーという双子の神の片割れ。
マンボの本来の語源は、ブードゥー教の女司祭で「神との対話」の意味を持つ。
パパ・ゲデ(Papa Guedhe)は、ブードゥー教におけるロア(精霊または神格)の一人で、死と再生を司る存在。死者の世界と現世の間を自由に行き来し、死者の魂を導く役割を担うとされている。冥府へと向かう道の「永遠の十字路」に立っているといわれる。
ゲデ・ニボ(Guedhe Nimbo)は、サイコポンプ(死者の魂をあの世へ導く存在、またはその役割を担う霊的存在)であり、生者と死者の仲介者。
Gedeviは古代西アフリカでアジャ族に征服・吸収された部族、…でいいんだと思うんだが…。
バロン・サメディ(Baron Samedi)は、ブードゥー教におけるロア(精霊または神格)の一人で、バロンの他の多くの化身であるバロン・シメティエール、バロン・ラ・クロワ、バロン・クリミネルと共に、死者の精霊。
シンビ(Simbi)は、川や泉の精霊。
ブードゥー教に関しては、こちらにあまりに知識がないところもあるのだが、その祭事を主体とするような性格や、独特の世界観から、他の神話伝承のように単純な名称の意味説明ではどうもうまくない気もするのだが、とりあえずこんな感じで。
“UNiTOL”の社名が大きく掲げられたビル。その前にシカゴ警察の警察車両が駐められている。
「疑う余地はありません。鑑識は少女の体内から発見された精液を少年のものと断定しました。奴は死んでいたが、イチモツはファンキーチキンダンスを踊っていたわけですな」
ビルの中、Unitol社の通常業務が行われている中を進んで行くPeebles警部補とNordau。
「こいつは異常すぎますな。上が幽霊を捕まえる誰かを求めてるなら、私のバッジをスクービー・ドゥーにくれてやればいいんですよ」Nordauは言う。「それで我々は何故ここに来たんです?ここは何ですか?」
「もう話しただろうが、Nordau。ここはUNITOL製薬で、俺たちは手がかりを追って来たんだ、分かったな?」Peeblesは言う。
「あのイカレたブードゥーばあさんじゃないでしょうね?また電話してきたんですか?私に替わるべきですよ」Nordauは言う。「街場に流れてるゾンビや精霊の類いの戯言を信じ始めたなんて、言わないでくださいよ」
「いい加減にしろ、Nordau。現状他には何もないんだ」とPeebles。「サイキックはこれまでも有効だった。あのクレオール人たちには伝統がある」
「馬鹿げた拝み屋達にゃあ伝統もあるんでしょうが、私たちが聞くべきじゃあ…」話しながら彼らが向かって行く先には、二人の人物がいる。
「君が今夜の段取りについて正しく進めてくれていることを願っているよ、Pearson」
「はい、順調に用意しております。任せていただき光栄です」
「Dollimoreさんですか?シカゴ警察です。少々お時間をいただけますかな?」Peeblesはバッジを掲げ、上司らしき男に話しかける。
「少々?よかろう、それには数千ドルかかると思ってくれたまえ」Dollimoreは言う。
テレビ画面の中、数人の黒人たちの中に立つJim Crowが話している。
『俺たちが呼びかけているのは、あまりにも多くの不可避的にムスリムに改宗したブラザーたちが急進的になりたがるのかということだ』
『俺はあのブラザーマルコムや、ここにいない誰かになりたいわけじゃないが、例の一神教的戯言は圧政者たちの道具でしかない。言ってることがわかるか?あんなものでお前らは勝てやしないんだ』
テレビの前に座り、それが映し出されている画面を見つめるJim Crow。
『俺たちはそのために道を戻らなければならん。本来のアフリカの信仰という正しい道へと。真実のブラックパワーという場に戻るのだ』
Jim Crowの魔術的記録より:1500 hrs。サイバーグノーシスに入る。TVスクリーン上の自身のイメージに瞑想する。
甘く濃厚な墓の香。ビートボックスはラガのリズムを打ち鳴らす。
『Root Doctazは最初のブードゥー・ラップ・アクトだ。そして俺たちはすべてのブラザー、シスターに告げる。”自身を源流に結び付けろ!”』
張られた蜘蛛の巣の奥に、テレビを見つめるJim Crow。
赤い蝋燭を灯す。
終わりなき時間、墓場の時間へと進入する。冷たい肉のゾンビたちの聖堂。
性的衝動が脊柱へと押し寄せ、霊的階層地点へのパワーに着火し、脳へと昇り詰める。脊柱は黒い岩へと変わる。
TVの男と俺自身を切り離す。現世以上の自身を奴の中に残す。俺の人としての魂はビデオループの中では安全だ。
黒い蝋燭を灯す。
「Myse Guedhe,Ti Malis Kache Bo Lakwa,Papa Te Rekonet Mwen,Gno Zozo… Sil Vu Ple… (こんにちわGuedhe、悪は消えた。Papaは私を認識する、それらのもの…、お願いします…)」Crowはハイチ・クレオール語で呟く。
奴が骨の森を抜けてやって来るのを感じる。骨髄の地に謎が花開き、育つ苦い庭園。奴の肉の赤い熱。奴の骨の影の力。
テレビ画面は墓地の情景へと切り替わり、そこにJim Crowが足元の水たまりの前に立っている。
俺は俺ではない。俺はTVに語り掛ける俺の中に残っている。俺は俺ではないが、俺以上に俺だ。神聖なる騎士が俺に乗り移り、ゴーストランドへと連れて行く。
ゴーストランド。Jim Crowは足元の自身の姿が映る水たまりを見下ろす。
俺は世界の中の彼の反射だ。俺たちは同質のもの。
Papa Guedhe、Jim Crow。この蜘蛛の巣の国で、食屍鬼の季節で、十月の牧草地で。
この別の側で。
「え・ん・じゃ」Crowの肩のカラスが鳴き声を上げる。
「その通りだ、ウジャバード。俺たちは祖先のご近所に入って行くこととなる。俺たちは家族を訪問するのだ」Crowはカラスに応える。
「俺たちがそのために必要としているのはドアだ」足元の水たまりにしゃがみ込みながら、Crowは言う。「この水たまりの縁を掴んだら何が起こるか見てみようじゃないか」
水たまりの縁を掴んで持ち上げると、それは柔らかいプラスチックでできているかのように地面からめくれる。「そして剥がれる。そういうことさ」
そしてCrowはその下にあった穴へと歌いながら入って行く。「♪ リトルホール、リトルホール、リトルホール、ビッグホール、ビッグホール、ビッグホール ♪」
カラスが笑い声をあげるように鳴く。

『The Invisibles Vol. 2: Apocalipstick』より 画:Chris Weston
ちょっとこの部分わかりにくいかと思うので、蛇足的に解説すると、Jim Crowは自身が出ているミュージックビデオの中の自分とシンクロするような形で、その中に入り込み、そこからゴーストランドへと向かうというもの。音楽やダンスによる祭事的な方法で別の世界とつながるというブードゥー的な方法論による応用というようなものだろう。
ここで登場しているRoot Doctazは、このフィクション内の架空のJim Crowが所属するラップユニット。少し先の話で、街角に貼られたポスターが出てくる。
ハイチ・クレオール語の方はなかなか難しくて…。最初ニャンジャ語というので出てきてワクワクしたのだけど、主にハイチ・クレオール語の方。ニャンジャ語というのも同系のアフリカ言語で近いものなのだろうと思う。あっ、『ヤニねこ』に登場するフィクション言語とかボケそこなったじゃん…。
ウジャバード(Ouija Bird)は、19世紀末頃に発売された霊界との交信を行うボードであるウジャボード(Ouija Board)のもじり。
途中で出て来た「神聖なる騎士(The Divine Horseman)」という言葉を検索してみたら、ウクライナ生まれのアメリカ人実験映画作家マヤ・デレンによるドキュメンタリー映画『Divine Horsemen The Living Gods Of Haiti』(1947-51)が出て来た。
ハイチの田舎の村で日常的に行われていた舞踏によるブードゥーの様子を多く記録したドキュメンタリー。地面に図柄を描いたり、鶏などの生贄を使った儀式的なものから、中庭的なところで男女が踊り、トランス状態で何かに憑依されたようになる様子など。ナレーションは同名のデレンによる著作かららしいのだけど、リスニング駄目なんでわかりませんでした。ごめん。全編に流れるクレオール音楽がいかしていてミュージックビデオ的に観ていられたのだけど。
最後に都市部における様々な仮装をした人々が踊り、パレードする様子が少しだけ映されるんだが、そういったコマーシャルなところではない、もっとプリミティブなところでブードゥーの本質に迫るといった感じの、実験映画作家によるアート的なアプローチの強い作品だったのではないかと思う。
約1時間の映画で、インターネット・アーカイブから観られます。下のリンクより。古い作品だけど、保存状態的なところの画質は結構よかったと思う。
Internet Archive/Divine Horsemen The Living Gods Of Haiti
Unitol社。事情聴取のためにやって来たPeebles警部補たちに、Dollimoreは言う。
「申し訳ないが、あなたにはここにいる正当な理由がない。あなたには理解できないと思うが、私は非常に重要な人間であり、忙しい人間だ。そしてなぜあなたが私の行く手を遮り、どこかの死んだドラッグ中毒者について質問しようとしているのか、私には理解できない」
「あなたは私が誰だか、分かっているのかね?」
「ええ、分かっていますよ。だが我々は、あなたの社の誰かが何かを見たらしいと示唆する情報を得ており…」背を向けるDollimoreに話し続けるPeebles。
「少々の時間をいただけないかと、お願いしているだけなんですがね」
「言っただろう、Peebles警部補。あなたに私の時間を使わせる権限はない。ドアマンとでも話したまえ」
「待ってください、ほんの少しだ!あなたが我々が何者かを理解しているとは思えない」Dollimoreの肩に手を掛けるPeebles。
「その手を離したまえ」Dollimoreは言う。
「あんたが自分をなんだと思っていようが、私には興味もない。私に関する限りは、あんたは只の高慢な黒んぼクズのもう一匹に過ぎんのだよ」Dpllimoreは囁きかけるように言う。
「私からの電話一本で、あんたは路上生活者に逆戻りなんだよ。分かったかね?」
「ではよい日を、紳士諸君」去って行くDollimoreの背に呟くPeebles。「クソ野郎」
「あいつが俺をどう呼んだか聞こえたか?」激高するPeebles。「殺してやるぞ。神に誓って、機会さえあればあの人間の屑を殺してやる」
「忘れましょうや。あいつは只のいつでも俺たちを好きなように扱えると思ってる間抜けな金持ちのもう一匹なんだから」NordauはPeeblesをなだめて言う。「行きましょう。ゾンビの方に戻りましょうや」
骨を繋いだ縄梯子を降り、Crowが着いたのはピンク色の空の下多くの骨が散らばる荒廃した大地。彼方には骨で作られた荒廃した都市が広がり、中空には建築物を固めたような、月のような球体が浮かぶ。
骨の階段を下り、暑い夢の誕生する地へと入る。母なる世界へ。
この場では、空は常に変わり続ける。夕暮れから、雨曇り、夜明けの曙光へ。真夜中の星から、激しい雷雨へ。Villa-Aux-Champs、太陽の街の一つの観点が浮かぶ。
Crowの頭上にVilla-Aux-Champsの月が大きく輝き、その下に都市が立ち上がる。
Villa-Aux-Champsの影の中、第2の都市は成長し、そして死に絶える。残すものも無く。簡略化された潰瘍化した塔が建ち上がる。窓には恐ろし気な顔。頭上にそれらを繋ぐ橋が現れ、そして崩れ、腐り果てる。影は過ぎて行く。
そして都市は堕ちる。
残る全てはそこから零れ落ちたもの:古い写真、楽譜、埃をかぶった図書館の本。
腐肉の天使たちの餌だ。
Villa-Aux-Champsと共に移動して行く都市を眺めるCrowの背後を、醜い天使たちが飛んで行く。
「宇宙の最初の理だ」Jim Crowは言う。「誰もが飢えている!」
俺は自身の魔法の鏡を呼び起こす。腹の中から引き出し、呼気する。銀の川のようにすべての開口部から流れ出すまで。
「よし」Jon Crowの目、鼻、口から青い液体が溢れ出してくる。
溶解するイマジネーション、宇宙のレンガとモルタル、終わりなきモーフィング、無限の柔軟。
ガラスのように見える液体。
あらゆる場所への扉。
Jim Crowの目と口から、液体の魔法の鏡が大きな流れとなり溢れてくる。
Le Mirroir Fantastique (幻想の鏡)。
液体はJim Crowの前に立ち上がって広がり、彼の姿を映し出す。
「まったく!この鏡の中の俺を見てみろ!Papa Guedhe、Papa Gudhe!俺は年を取ったのか?若返ったのか?」Crowは言う。
「こいつは俺が最も好きな類いの謎ってやつだ」
鏡の中のCrowが言う。「俺は宇宙が喉の奥を流れ落ちて行くのを感じることができるぜ」
「ワインより素晴らしい。こいつをボトルに詰めるべきだな」
「そいつは本物だ!KeKeKeke」カラスの鳴き真似をしながら、Crowは鏡の中へと進んで行く。
そして俺は彼らを思い描く。Zaraguin男爵、彼の配偶者Mystere Araignee、彼らの息子Ti-Zaraguin、そして娘Mystere Toile-d’Araignee…。まるで虫のタロットの絵札のように。カードは終わりなく開かれ続ける。まるで花のように。
そして俺は進み行く。
波の下へ。Web-in-the-Corner (隅の蜘蛛の巣)と呼ばれる場所、俺の家族の住む場所へ。
Jim Crowの全身が液体の鏡の中へと潜り込んで行く。
Unitol社の会議室。Dollimoreが正面に座る会議テーブルの両側に3人ずつの男たちが座っている。テーブルのそれぞれの前にはバイザーが接続された何らかの装置が置かれている。テーブルの向かいに立ち、Dollimoreの話を聞いているのはPearsonと呼ばれていた男。
「さて、Pearson、君はここに来た。遂に我々が”内輪”と考えているところに参加したわけだ」Dollimoreは言う。
「そしてなにゆえ君がそれを成し遂げられたと思うかね?それは私が君の中に、頂点へ上るためにはいかなることも実行する人物を見たからだ。何にしろな」
Pearsonは、緊張、困惑の中に恐れも入り交じった表情で、たどたどしく答える。
「わ、私は…、私は野心を持っていることは否定いたしません、Mr. Dollimore。しかし、私は…、いかなることも実行するとは…、その、お答えできません…」
「私には…、その…、配慮すべき妻と子がおり、私は…、その…」
「今晩のこれは、ある種の男性限定の集まりというようなものになるのでしょうか?」最後は消え入るような声で言うPearson。
「君の奥さんは何も言わんよ。私は彼女のところに、そこにいるStevensを6か月前から行かせている。君も彼女がそれ以来ベッドで行っている風変わりで服従的な行為については認識しているだろう。君にもここにいる全員がすでに観ているビデオを観せるつもりだよ」Dollimoreは当たり前のような顔で言う。
「君はこれが何だと思ってるんだね?」
「は…?」呆然とした顔で答えるPearson。
「これはクラック、コカインだ。我々が製造している」小さな包みを手に言うDollimore。「ショックを受けているのは分かるよ」
「君がゴルフ会員権や、新しい社用車、昇進と言ったものを期待していたのだろうことは分かっている。これはそういうものじゃないんだ」
「宇宙には特別な力というものがある。もし君がそのために行動するなら、それらは君にあるものを見せる。君が想像すらしていなかったものを見せることができるんだ」
「見給え、このクラックは特別なのだ」
「我々の科学者たちは、ある…、外部の情報源からの特別な情報により、特定の周波数で共鳴するクリスタルを製造する方法を発見した。彼らはまた通常のドラッグの一回分の使用量が神経毒となるようにも設計した」
路地裏、手に入れたドラックを使用しようとしている黒人の若者たち。
「ほとんどの使用者は吸入後即座に死亡する。それらの身体は空虚な状態で残される。クラック・クリスタルはそこで受信機となり信号を待つ状態となる」
次々に倒れる黒人の若者たち。
「そして我々がやることは、発信するだけだ」Dollimoreは青いバイザーを手に持ち言う。「我々はこの装置を脳の電気活動を同調させるために使う。単純だ、ある種のサイキックラジオ放送のようなものだ」
「クラックが体内に残っている間は、我々はそれらの身体を我々の意志により操作できる。我々は彼らにこれまで夢見て来たいかなることでも実行させられるのだ。レイプも殺人も思いのままで、何者もそれを我々の仕業だと知ることはない」
隣の席の男がPearsonにバイザーを掛けさせる。
「黒ん坊どもは常に最良の奴隷となる。連中をかつて属していた場所に戻してみるのはいいことだろう、Pearson」
「少々心地良いところへ潜り込む時間だ、紳士諸君」
会議室のテーブルに並ぶ全員がバイザーを装着する。
「さあ、パーティーだ!」
「♪ アイ・ラブ、ユー・ラブ、ヒー・ラブ、シー・ラブ ♪」
歌いながら鏡を抜けたJon Crowの前にあったのは、人間と昆虫がごちゃごちゃに団子状に固められたもの。「♪ なんでこんなことになってるんだ? ♪」
「♪ L’Amoooooour ♪」歌うJim Crowの背後から巨大な芋虫が近づいて来る。
俺は自身が、夢の脊髄液が希薄な膠の網目の中に捕らえられた幼虫のミルクのエロティック格子構造の心臓部にいることに気付いた。
「おい!俺のケツに意地汚え目を向けるんじゃねえ!」
Jim Crowは手に持った骨の銃で、背後の芋虫を撃つ。
ZOZOポインティング-ボーン・ガンを使うのは、多くのエネルギーを消費させられる。
外では、良いUFOと悪いUFOの艦隊がスローモーションでぶつかり合っている。
Jim Crowの前の空間では、白いUFOと黒いUFOが無数に浮遊し、互いに争い戦っている。
通常なら、注意を惹くだろう寄生的な悪いUFOには何もしないのが賢明だが、今、俺の腹は鳴っていた。
俺は良いUFOを惹き付けるためにオージャス(生命エネルギー)放射を使う必要があった。栄養が必要だ。
それは下降し、へその緒を伸ばし、俺はそこから血液燃料を飲む。子宮の中の胎盤のように、それにより俺たちすべてが生きることができる原初のキリストの死のように、それは自らを犠牲として俺に栄養を与えた。
白いUFOの下から触手のように伸びるへその緒の一つを口に含み、そこから血液燃料を飲むJim Crow。
素晴らしい食事だった!
Jim Crowに栄養を与えたことで力尽き、軟体動物の死体のように地面に潰れたUFOの横を走り、先へと進むJim Crow。
旅は終わりへと近づいている。
Ojas(オージャス)は、インドの古代言語サンスクリット語で、生命エネルギーを意味する言葉。
この辺になって来ると、もうダリの絵を説明しろというようなもんなので、出来れば現物を見てこうなってるんだな、と思ってもらうしかないです…。
俺は蠍の王宮の前へとやって来た。
その開いた穴からは途切れることなく、精を出して動き続ける、多くの体節を持つ身体からの音が聞こえてくる。–“千の小さな足音”の音楽、南部の戸口の精霊。
Jim Crowの前には、巨大な骨と牙と蜘蛛の巣で作られたような構造物が聳え立つ。クリーチャーの顔面のような正面の、中の暗闇へと続く口の部分の入り口に階段が続いている。
最も恐ろし気な形態以下で昆虫のロアに近付くのは賢明ではない。
俺は自身を蜘蛛人間の身体と想定する。顎は折れ、割れて行く。蜘蛛の糸が腹の中で沸騰する。
Jim Crowは徐々に蜘蛛人間へと姿を変えて行く。
そして俺は囁く階段をカタカタと昇る。
蜘蛛人間の姿で、蠍の王宮の入口へと続く階段を上って行くJim Crow。
そして王宮の中へ。
超次元的ムーア風/アラビア風の装飾と意匠。パターンは頻繁に万華鏡のように動いて行く。コカイン中毒で死んだ奴らの魂は、ヴァンパイアの種鞘に捕らわれ、終わりなく自身の甘い魂の蜜の中で溺れ続ける。
無数の男たちが中で眠った様に捕らわれている、蜜の詰まった透明な種鞘の群れの先を進む、蜘蛛人間のJim Crow。
毒と酸が淀みの中で泡立つ…。熱の放射と草の下の蟻が燃え上がる臭い…。蟻酸…。卵室…。多数の面を持つ眼…。
奴が来る。俺には感じられる。俺には奴の投げかける十億の影の風を感じられる。
Jim Crowの進む先から声が響く。
「私の敷居をまたぐのは何者だ?」
Zaraguinだ。
Zaraguin男爵。
「招待されることもなしにここへやって来たのは何者だ?」
Jim Crowの前に、巨大な蠍のロア、Zaraguin男爵が現れる。
「S・H・I・T・!」肩のカラスが声を上げる。
「問題ない、リトル・クロウ。イラつくな」Jim Crowはカラスをなだめ、Zaraguin男爵に向かって言う。
「俺はあんたが手に入れたこれらの魂を受け取るためにここに来た。そして俺はそれを彼らが本来いるべき家へと戻すつもりだ。これはあんたのものじゃない、男爵」
「それらは私に贈られたものだ」Zaraguinは言う。「私は家族のための饗宴を準備している。すべての穴を掘り、刺す小さなものたちのために。そして我等の食事が終わった後、それらの魂の皮と繊維は、より劣った変容に至る…」
「なるほど…、あんたには驚かされたよ…、悪い白人と取引か、従兄弟よ?」ストローを手にJim Crowが言う。「あんたの一族は、それらの哀れな奴らをテーブルに上らせれば、いずれ傾いて行くことになるだろうな。特売のバッドエンドに騙されるとは、あんたらしくもないな」

『The Invisibles Vol. 2: Apocalipstick』より 画:Chris Weston
「騙されただと?」Zaraguinは言う。
「私は奉仕と尊敬の申し出を受け、その見返りとしてゾンビ造りの知識を与えたのだ」
「私にその力が人の世界で如何に使われるかについて、責任があるというのか?」
「このクソは悪い取引だ、あんたがどう見ようとな。あんたがこんなことをやったのが信じられないぜ」Jim Crowは種鞘の一つにストローを挿しながら言う。
「それを良い取引に変えるには、あんたは従兄弟のGuedheからの助言を聞くべきだろう」
「お前はGuedheじゃない。お前は部分的には人間だ。Guedheが乗った人間だ。Jim Crow、The Invisible。お前のことは充分に知っている」
そしてZaraguinは両の鋏の間に粘液でKing Mobの顔を作り出す。Zaraguin。
「こいつが見えるか?お前の仲間の一人だ。こいつに我等が与えた恩恵の支払いをすべき時が来たと伝えろ」
「無には無をだ」Zaraguinは言う。
「奴に会うことがあったら伝えよう」Jim Crowは種鞘に挿したストローに口を近づける。
「では、取引はどうかな?俺はこいつらを家に連れて帰る。そしてその代わりに何か強くて力に満ちたものをあんたの夕食に提供しよう」
そしてJim Crowは種鞘の中の男をストローで吸い込む。
「さあ決めてくれ。意見はあるかな、Zaraguin?」
力無くパイプを取り落とした手。その手に再び力が戻って来る。
路地裏。クラックに仕込まれた神経毒により死亡した黒人の若者たちは、Unitol社の会議室の男たちに乗り移られ、再び立ち上がり始める。
「どんな感じかね、Pearson?大口をたたく老婆を訪問する準備はできたかな?」Dollimoreが乗り移った赤いフードの男が言う。
「これは…、なんてことだ…、冷たい肉体…、死んでいる。心臓の鼓動もなく…、血液の流れも無い…。これは恐ろしい…まるで…」Pearsonが乗り移った帽子の男が自分の身体を見ながらつぶやく。
「私がやって来るように感じる」
「君はそうなる、Pearson。そうなるのだ」[Dollimore]は言う。
路地の先から、更に会議室の男たちが乗り移った四人の黒人たちが合流しにやって来る。
自宅アパートでPapa Guedheへ供える料理を用意するLamerci。
突然玄関ドアがチェーンロックごと荒々しく蹴破られる。
押し入ってきたのはUnitol社の会議室の男たちが乗り移った、死んだ黒人の若者たち。
「この匂いがわかるかね?これはスピリットフードだ。食すれば我等に力をもたらす」[Dollimore]がナイフを手に言う。
「我々がこの老いた女を押さえつける。そして君は妻にやりたいと望んでいたことがこの女にできるのだよ、Pearson」
[Dollimore]の背後で[Pearson]の目が光る。
男たちがLamerciを押さえつけ、[Pearson]が迫って行く。
「やり給え、Pearson。君を止める者など誰もいない」[Dollimore]が言う。
その時、彼らの背後から声がかけられる。
「Guegheの肉と酒に手を付けるのは誰だ?そこにいるのは誰だ?」
「死者を追い出せ!」
Jim Crowが現れ、骨の銃、ZOZOポインティング-ボーン・ガンを突きつける。
「クソッ!」「なんてことだ…。なんだあれは…、燃えてるぞ…。表面から骨が透けて見える…。あれは…」虚ろな目の男たちが言う。
Crowの骨の銃で撃たれた男の顔面が、青白いプラズマの中で骨と化す。
「待て、俺は何も」手を上げた男が撃たれ、ガラスを破って外に飛び出す。
そして[Dollimore]も青白いプラズマが走る中、悲鳴を上げて倒れる。
焼けただれ、炭化して行く死体が倒れ込む部屋。Crowは銃をしまう。
「窓ガラスはすまなかったな、小さき同胞よ」「気にしないでください」
「ほら、お前に渡すものがある」
Crowは蠍のロアZaraguin男爵から回収した死んだ男たちの魂を、胎児以前の胚のような形でシャボン玉の中に吹きだす。
「この子供たちの面倒を見て、安全に行くべき道を進めるよう見守って欲しい」
「美しいわ。キャンドルのように輝いている」部屋の中に浮かぶ、多くの小さいシャボン玉を見て言うLamerci。
男たちの遺体から這い出して来る蠍。その尾が黄色い輝きを灯している。
「ほら、あの小さな火花を見ろ。あれは白人の光だ。子供たちにトリックを仕掛けた奴らについてのお前の見方が正しかったか見てみよう」
蠍の尾の黄色い輝きは球となって離れ、窓に向かって飛んで行く。
「よし、ウジャバード!あいつらを追いかけろ!奴らがどこに隠れているか俺に教えるんだ!」
「追・う・ぞ」鳴き声を上げ、カラスは黄色く輝く球を追って窓から飛び立って行く。
「あいつが戻り、対処すべき者たちがわかったら、警察に知らせて欲しい、小さき同胞よ。そして連中に向かうべき場所を教え、私はそこで持つ」Jim CrowはLamerciの用意した料理を食べながら言う。
「ウム!上手いケーキだ!」
「何が起こったのだ?」
Unitol社の会議室。Dollimoreはバイザーを外し、頭を抱える。「あれは…、ロアの一種だった…。間違いなく…、ああ、あなんてことだ…。蠍は我々に危険は無いと言ったのに…」
意識を取り戻し、嘔吐するPearson。テーブルの男たちの中には、まだバイザーを着けたまま意識が戻らない者も。
その時、Dollimoreの背後から声が聞こえる。
「お前はこれを最悪だと思ってるのか?すぐに、お前はこれをお前らの黄金時代として思い返すことになるぞ」
「何だこれは?」「誰だ?」「そこにいるのは誰だ?」驚愕し、怯えるDollimoreと会議室の男たち。
「知らないのか?」そこに立つJim Crowが言う。「俺はPapa Gay-Day。俺はSamedi男爵、Piquant男爵、そしてCimitiere男爵」
「俺は死だ。そしてお前らは俺のものだ」シルエットとなって立つCrowが言い放つ。
「そんな」恐怖に目を見開くDollimore。
Unitol社の中。
「また別のブードゥー通報ですかい!」Nordauが言う。「いかれてる!俺たち明日には駐車違反切符を渡してることになりますぜ!」
Peebles警部補とNordauは、拳銃を構え、会議室のドアへと向かって行く。
「おい!」そこにUnitol社の警備員が向かって来る。
「おい、そこは立ち入り禁止だ!私的な会合だ!」「黙りやがれ!俺たちゃ警察だ!」Nordauがバッジを示し言う。
「クソッ!何だこの音は?俺が呼ぶまでここにいろ、Nordau。俺の援護だ!」ドアの前のPeeblesが言う。
「あんたどっかのイカレババアの戯言で、そこに押し入るわけにゃあ行きませんぜ」Nordauが言う。
「俺はイカレてるんだよ!Dollimoreのクズ野郎によって何かが進行中なのは分かってるんだ」ドアの前でNordauを押しとどめ、言うPeebles。
「クソッ!何があろうと驚かんぞ…」言いながらドアを開けるPeebles。
そしてその足が入ってすぐに止まり、恐怖の表情で固まる。「なんてこった」
「さあさあ、ご覧あれ!」奥から声が響いて来る。
「俺の黒んぼミンストレルは気に入ってもらえたかな?」
「奴らは夢中で遊んでいるぜ!心は出て行き、俺のバッグの中へ、そして俺の従兄弟のZaraguinの宴のテーブルへ!」
「キャンプタウンから直行だ!」
バンジョーを抱えるJim Crow。その前のテーブルでは、会議室にいた男たちがミンストレルショーの扮装に変わり、Dollimoreを生きたまま引き裂き貪り食っている。
「助けて!助けてくれえ!」悲鳴を上げるDollimore。
ドア口に立ったPeeblesは、銃を構えたまま恐怖に固まり、身動きもできない。
「奴らは私を食ってる!蠍が!私を食ってる!私が悪かった!うわああああ」
「彼が何を一番怖がってるかわかるかね?」Jim Crowが言う。「彼は最終的に死と出会い、そしてその死が黒んぼのクソ野郎だったってことさ」
「Bon appetit (召し上がれ)、警部補」

『The Invisibles Vol. 2: Apocalipstick』より 画:Chris Weston
心を失くし、Dollimoreを貪り食うミンストレルショー姿の男たち。
「わああああ殺してくれ!神の名において!殺して…」
「痛みに耐えられない…。奴らが食ってる…」
目の前の恐怖に身動きできず、立ち尽くすPeebles。
「殺してくれええ…」
俯き、消耗した顔で部屋から出てきて、ドアを閉じるPeebles。
「中では何をやってたんですか、警部補?」Nordauは出て来たPeeblesに尋ねる。「俺たちゃどうするんですか?」
「Dollimore氏は忙しい方だ、Nordau。お前の言う通りさ。ああいう重要人物に対してただ押し入るわけには行かん」Peeblesは煙草に火を点ける。
「俺たちは後でいつでも戻って来られるさ」
「よし、ボケっとつっ立ってるんじゃない。聞こえただろう、Nordau。行くぞ」Peeblesは背を向けて歩き出す。「メシを食いに行くぞ」
その背をあっけにとられながら眺めるNordauと警備員。
最初の話で割と簡単に進められたが、ここでまたとんでもない情報量と、要注釈の山に戻る…。まあこれが『The Invisibles』っすね。第2部ではかなりの作画を担当することになる、Chris Westonぐらいの画力が無いとまとめきれないぐらいじゃないかと思った。
作者について
■Chris Weston
1969年、生まれはドイツだが国籍は英国人。1988年頃から英国2000ADでコミックアーティストとしてのキャリアを始める。代表作は『Judge Dredd』、John Smithとの『ndigo Prime』。活動の場は主に英国だと思う。アメリカでの仕事としては、この『The Invisibles』の他に同じくモリソンとの『The Filth』(Vertigo/2002-03)、ウォーレン・エリスとの『Ministry of Space』(Image/2001-04)などがある。アメリカのメジャーなキャラクター物もいくつかやってるが、ワンショットものが多くまとまってるのはマーベルの『Fantastic Four: First Family』(2006)と『The Twelve』(2008-12)というところか。まあそれでもそこそこのも量だけど。もしかするとトータルページ数ではアメリカの仕事の方が多くなるのかもしれんけど、英国のコミックアーティストって印象が強い。近年では2000ADでストーリーも自身が担当した作品を描いていたり、映画関連のストーリーボードなどもしているらしい。
圧倒的な画力もさることながら、なんかこの人の手掛けた作品を見るといつも、テキストを含めた情報量に対し的確な構図やキャラクターを強く押し出せるレイアウトみたいなもんに感心する。あんまり正しい誉め方ではないのかもしれんけど…。個人的にもかなり好きなアーティストの一人です。
The Invisibles
■Deluxe Edition
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