Rachel Rising / Terry Moore 【前編】

孤高の鬼才による、幻想と怪奇の現代の魔女物語

今回はTerry Mooreの『Rachel Rising』。2011-16年に自身のAbstract Studioより、全42話で出版され、TPB全7巻にまとめられています。TPB版は、現在全巻Kindle Unlimitedで読むことができます。

いや、Kindle Unlimitedだということ以前にTerry Mooreというのは、私が是が非でもぐらいに推したい作家なのだ。
かなり昔、本店の方で前作であるSFアクション『Echo』(2008-2011)について書いたのだが、かなり粗雑な紹介で(まあ昔書いたものはどうしてもそう見えてしまうのだが…)、いつかもっとちゃんとやりたいと思い続けての今回。そんなわけでこの『Rachel Rising』により今度こそはTerry Mooreについてがっちり語る所存であります。

最初の「孤高の」みたいな言い方はちょっと極端で若干誤解を招くかな、と思ったんだけど、とりあえずは90年代のデビュー以来基本的には自身のAbstract Studioからストーリー、作画も自身によるオリジナルの形で作品を出し続け、多くの作品が高く評価されているというところからで、少しだけどマーベルDCというあたりも含むところでも描いているし、作風から見た感じも気さくな人で友達も多いんじゃないかと思います。
作風としては、基本モノクロの線画による丁寧な描写と美しい作画、セリフの流れもうまく、日本のマンガを読んできた視点からも読みやすいというもの。
また、以前も途中で気付いて書いたんだが、かのチャールズ・M・シュルツから深く影響を受けたということで、よく見れば随所にそういった影響が見られたり。
かつてのComixology時代には、前に出やすいときも結構あったのだけど、現在は次々と出る多くの作品に埋もれてしまってなかなか見つけにくいように思われる、日本でも読まれるべき優れた作家として、Terry Mooreをプッシュして行きます。

というわけで、その第1巻『Rachel Rising Vol. 1: Shadow of Death』を、またあんまり考えず無計画に始めたわけなのだが、途中でこれは全6話を半分に前後編に分けるべきではないかと思いついた。
全6話と言っても、多分通しでやっても先日の『Criminal』よりも短く出来そうで、量的な問題ではなく、実は作品傾向的なもの。謎に満ちたストーリーと、衝撃の展開で次はどうなる?みたいなのも作品の趣旨で、ここで一旦区切って引っ張るべきなのではないかと思いついてしまったというわけ。
なんか結局自分の感覚みたいなもんで、これで読みにくくなったら申し訳ないんだが、とにかく今回はこんな感じでやって行きます。

Rachel Rising Vol. 1: Shadow of Death

■キャラクター

  • Rachell:
    主人公。何者かに埋められた森の中の地中で目覚める。

  • Jet:
    Rachellの親友。

  • Johnny:
    Rachellの叔母。葬儀場で働く。

  • 謎の女性:
    町に現れ、謎の行動をとり続ける女性。

  • Zoe:
    郊外に住む少女。

■Story

えーと、最初から言い訳っぽくなるんだが、先にTerry Moore作品は読みやすいと書いたんだけど、この『Rachel Rising』、特に最初の方ほとんど説明のないままシュールというような展開が続き、ストーリー的には少し分かりにくい。だが、丁寧できっちり描かれた描写は何が起こっているかは大変明確である。つまりこの作品については、かなり読みやすい方法で、幻想的、シュールという方向の少し分かりにくいストーリーが展開されていると思って読んで欲しいということ。

#1

一人の女性が森の中の草に埋もれかけた道を奥へと進んで行く。
やがて彼女は枯れた小川の河岸の高台に至る。
空を見上げる。木々の間の空を飛んで行く鳥たち。
そして水のない河床を見下ろす。

河床に落ちた一枚の枯葉。
いきなりその葉から炎が上がる。
河床で燃える枯葉。
そしてそれが燃え尽きかけた時、その下の地面から人間の指が突き出される。

『Rachel Rising Vol. 1: Shadow of Death』より 画:Terry Moore

腕が地中から突き出され、続いて両足。腕は手がかりを求めるように横の地面を掴む。
森を抜けて来た女性はその様子を見下ろす。
無表情に。

土の中の人物はそのスカートをはいた下半身から女性であることがわかる。
女性は突き出された右手で、顔面を掘り出すように覆っていた土をどける。
地中から顔を起こし、荒い息を吐く女性。

地中から脱出し、その場に横たわる女性。その口から謎の煙が流れる。
空を見上げる。
木々の間を飛んで行く鳥。
そして、夜の闇の中で覆いかぶさって来る人影が、フラッシュバックする。
そのイメージを追い払うように、固く目を瞑る。

埋められていた穴から這い上がる女性。
視線を感じ、振り向く。
だが、河岸に立って彼女を見下ろしていた女性の姿は、既にそこにない。

『Rachel Rising Vol. 1: Shadow of Death』より 画:Terry Moore

立ち上がり、よろめきながら森の中を歩きだす女性。
高台に上ると、山の向こうに昇ったばかりの朝日が見える。

車の通る道まで出て、道端の草地を裸足で歩き続ける女性。
通りかかったピックアップトラックが、急ブレーキをかけて停まる。
「大丈夫かい?」言いながら若い男が車から降りて来る。
「事故に遭ったのかい?」言いながら女性に駆け寄って来る。
「家まで送ってくれる?」女性は言う。
「病院に行った方がいいと思うんだが!」心配げに言う男。
「いいえ。お願い」女性は言う。
「家に送って」

家の中。猫がソファの上で、窓から外を眺めている。
家の前にピックアップトラックが停まり、埋められていた女性が降りて来る。
心配げに彼女を追ってくるピックアップトラックの男。
男は彼女を心配して様々に声を掛けるが、女性は一切答えず、家のドアノブを試し、玄関の前のプランターから鍵を取り出し、ドアを開ける。
「ありがとう」とだけ呟き、男を振り返ることも無く、家の中へと入って行く。

家の中、ドアにもたれる女性。
ソファの上の猫に話しかける。「Euclid…。ひどい悪夢を見たみたい」
だが、猫は毛を逆立て唸り声をあげると、その場から逃げて行く。

シャワーを浴びる女性。身体から泥が流れ落ちて行く。
身体を拭きながら、鏡に向かう。その白目は赤く充血している。
そして首には縄で締められた痣。
そして、再び夜の森の中で覆いかぶさって来る何者かのイメージがフラッシュバックする。
その手には細い縄。

『Rachel Rising Vol. 1: Shadow of Death』より 画:Terry Moore

寝室。猫がベッドの下に隠れ、様子を窺っている。
「携帯はどこ?ハンドバッグは?」
ベッドに座り考え込む女性。「昨日の晩、何があったの?なんで思い出せないの?」
ベッドに横たわり、記憶をたどる。「Jetに会いに行った。ワクワクしてた、何かに…。何に?」

回想。女性は友人Jetの働く自動車工場へ行き、作業中の彼女と話していた。
「それでどうかな?あんたとあたしで今夜…。彼らとあそこで会って、それからどうなるか」「行かない。ずんぐりフィリップスを渡してくんない?」
「なんでダメなの?」「ずんぐりフィリップス」
「ずんぐりフィリップスって何?ロデオのピエロみたいに聞こえるけど」「短くて太いドライバー!急いで、あたしクソエンジンが持ち上がるの手で押さえてるんだから!」
言われたドライバーを見つけ、手渡しながら話を続ける女性。「ねえ、Jet。一緒にハイスクールに通ってた連中よ。知らない人たちとのディナーを持ち掛けてんじゃないから」「ダメだって」
「今日は火曜。あたしは火曜の夜はバンド練習があるんだよ。知ってるでしょう」「じゃあ、ディナーの後に練習に行けば」

「Rachel、いつもながら綺麗だねえ」やって来た中年の従業員が女性に声を掛ける。
「こんにちわ、Ray」女性 -Rachellは男に応える。「スペシャルのために来たのかい?」
「相手にしちゃダメよ。ああっ、畜生」作業を続けながら言うJet。「ハア…。なんのスペシャル、Ray」少し呆れ顔で言うRachel。
「あなたのシャーシに19.99ドルで潤滑油を」Rayは言う。
「でも君なら無料だ、カワイ子ちゃん。一晩中さ」
「勘弁してよ、Ray。あんたあたしの父さんと同年代じゃない」とRachel。「そんなことはないさ!君のお父さんの年の離れた弟、さしずめRay叔父さん、それが俺だ」
「オイ!あたしの友達に変態ちょっかい出すのについてどう話した?口を閉じるか、さもなきゃ目に指を突っ込むよ!」Jetがエンジンから顔を上げ、怒鳴る。

目を瞑り、ベッドに横たわるRachel。部屋は既に暗くなっている。
目を開く。赤く充血した目。
「ああ…。一日中眠っちゃったみたいね」起き上がり、ベッドの横の時計を見て言う。
「Jet」Rachelは呟く。「Jetを見つけなきゃ」
「よかった。車は無事みたいね」窓から外を見て自分の車があることを確認する。
「ひどい顔。化粧しなきゃ。…かなり気合入れて」鏡を見ながら言うRachel。

夜道。車を走らせ、急ぎJetを探しに向かうRachel。
ポーチに上半身裸の太った男が座っている家の前で車を停める。
「こんばんわ、Lewis」車から降りながら男に声を掛けるRachel。
「Rachellか」太った男、Lewisが言う。「なんか違って見えるな」

「変かしら?」「いや、ただ…、別人みたいだ」「Jetを探してるんだけど、見なかった?」
「あいつならクラブで演奏してるだろ」「水曜日に?」
「今日は金曜だぞ」「金曜ですって?!」
「そんなはずは…。今日水曜よ。昨日の夜は火曜だったもの」「昨日の夜は木曜さ。火曜は三日前だよ。どこにいたんだ?」
「わ、分からない…」

「Lewis、誰と話してるの?」家の中から赤ん坊を抱いた女性が出てくる。
「Rachelだよ」「Rachel誰?」「見えないのか?Rachel Beckだよ」
「こんばんわ、Rose」Rachelは、出て来た女性に挨拶する。
「あなたRachelじゃないわ」RoseはRachelを見て言う。

※ここに出てくる太った上半身裸の男Lewisなのだが、話の流れからここがJetの家でこの人がJetの父かなんかだと勘違いして一旦出してしまったのだが、そうではないと後ほど気付き修正した。このLewisという人、この町の色々な出来事・情報をこうやって外に座って見ている人らしいんだが、半分ぐらいまで読んでもまだ正体不明。とりあえず敵ではない謎のなんかぐらいに思っといてください。

『Rachel Rising Vol. 1: Shadow of Death』より 画:Terry Moore

*  *  *

以上が第1話。別に埋められていた主人公がRachellであることは最初から言ってもよかったんだろうが、ストーリー的に呼ばれるまで名前が明らかにされないんで、一応それに従った。改めて読むとデイヴィッド・リンチ的な、奇妙な違和感みたいなのを意識してるのかなというような部分も見られるのかも。

#2

Rachelの運転する車は、Underwood葬儀場の看板が出た敷地に入って行く。
車を降り、建物入り口のブザーを押す。
「どなたですか?」「あたしよ、Rachel」
ドアのロックが開く。

Rachelは建物の中に入り、そこで働く叔母のJohnnyを探す。
「Johnny?どこにいるの?」「ここよ」廊下に光の差すドアの開いた一室から声が聞こえる。
室内ではJohnnyが亡くなったTruman夫人の遺体への処置を行っていた。
「もう真夜中なの分かってる?真夜中過ぎに死んだ人に仕事をするの、どうかと思わないの?」Rachelは言う。
「死人は時間なんて気にしないわよ」Johnnyは作業の手を止めずに答える。

「Johnny叔母さん、質問していいかしら?」
「死後の世界を信じる?」
「多分Truman夫人に尋ねてみるべきね」手を止めることなく答えるJohnny。遺体の落ちくぼんだ眼を生きていたころのように見せる処置。
「叔母さんに聞いてるのよ」「Rachel、あたしは生を見て、死を見て来た…。そして沢山のその間も…」
「でも、その後なんてものは見たことはないわ」

「じゃあ、あたしは何なの?」Rachelは言う。
「大事なあなたは、あたしの想像の産物というところかしら」「何ですって?」
「この建物の中で真夜中過ぎに、あたしがどんな人たちと話してるか知ったらあなた驚くわよ」何か憑りつかれたような少し虚ろな目で、作業を続けながら話すJohnny。
「バディ・ホリー、ジャック・ザ・リッパー…。あの美しいニュージーランドの少尉…、ああ、海軍なのを言い忘れたわね」

「さてと、どう思う?」「Johnny…!」「口を閉じるために縫って、少々の化粧を…」「あたしを見て!」
そこで初めて顔を上げ、Rachelを見るJohnny。
「あなた誰?」「Johnny、あたしよ…。Rachelよ…」
「いいえ…、あなたRachelじゃないわ」

「今晩あたしにそう言ったのあなたで二人目よ。みんなどうしたっていうの?」
「あたしが知りたいわ。行って頂戴。Truman夫人の仕事を終わらせなきゃならないのよ」JohnnyはRachelを深夜勤務でよく見る幽霊幻覚の類いと思い、相手にしない。
「Johnny!」「トイレでエルビスを見たわ。行って彼と話したら」

「聞いて、Johnny。誰かがあたしを殺そうとしたの。昨日の晩か、正確には火曜の晩に。あたしは何処かで3日失った…」
「でもあたしは生き延びた、分かる?それで叔母さんに助けて欲しいのよ。何が起こってるのかわからないし、何もかもおかしいから…」
「人殺しが今もどこかにいる…」
「そしてあたしはそれが誰だかわからないのよ!」
必死に訴えるRachelだが、Johnnyは自分が仕事のし過ぎで疲れすぎているのだと呟くばかり。

「叔母さん、おかしくなってるわ!完全におかしいわ!何が現実かわかる?」
「ねえ、20年も死体と過ごしたらこうなるってことよ、おりこうさん」抗議するように言うJohnny。
「いいわ、来て」Johnnyの服を掴むRachel。

Johnnyの腕を掴んで引っ張って行くRachel。「ちょっと!何するのよ?」「あたしが昨日起きた場所を見せてあげるわ」
仕事があるのだからどこにも行けない、と抗うJohnnyに、ここにいる人はみんな死んでるんだからどこにも行かないと訴えるRachel。
そこでJohnnyは、何か納得したような顔で言う。「そうか…、分かったわ…。これはあたしの脳が、少し休んでいい空気を吸って来いって言ってるのね」

何とか説得したJohnnyの運転で、二人は葬儀場から出発する。
「どこへ行くの?」「まっすぐ。Firehillへ」「Firehill?そんなとこまで行く時間ないんだけど」「行って」
そして二人の乗る車は、彼女たちの住む町Mansonの外へと向かって行く。

*  *  *

子供部屋の自分のベッドで眠っている幼い少女。
突然のクラクションの音に目覚める。
カーテンを引き外を覗く。家の前の道に停められた車から、クスクス笑う声。
少女は顔をしかめ、ベッドから降りる。

キッチンへ行き、冷蔵庫を開け、ジュースを飲む。
冷蔵庫を閉めた時、横に女性が立っているのに気付き、驚く。
「ビックリした。あの…、誰?」
無言で少女を見つめる女性。
「家に勝手に入っていい人だと思わないんだけど」
「お姉ちゃんが外にいるのよ。もうすぐ家に入ってくるはずよ」
女性は無言で少女を見返し、そして笑みを浮かべる。

若干髪型が変わってて混乱するかもしれないけど、この謎の女性は1話の冒頭でRachellが地面から出てくるのを見ていた人です。念のため。

『Rachel Rising Vol. 1: Shadow of Death』より 画:Terry Moore

*  *  *

森へ至る高台の草地を歩くRachelとJohnny。周囲の景色を見ながらJohnnyは言う。
「自分がここに来たのをちっとも驚かないわね…。この場所は、あたしたちがハイスクール時代に来て飲んで騒いでた場所として、心に残り続けてたところだから」
「あたしたちも来たわ」「Mansonの伝統なのよ」
「ここがなんでFirehillと呼ばれるようになったか知ってる? -ここは幽霊が出る場所なのよ」「思い出せないわ…」
「連中は彼女たちをここで吊るし、この町から良く見える場所で火にかけた」Jonnyは高台から見晴るかしながら言う。「百人の女が魔女として殺されたのよ」
「時代を経た子供たちが、初体験の場所として集団墓地の上を選んだのには、何か歪んだところがあるわよね」

何かを確認するように立ち止まるRachel。
「何の音?」「こっちよ」それだけ告げ歩き出すRachel。

「あたしは森の中に入らなかったわ。その縁まで来て中を覗いたぐらい」
「聞こえる?」「何が?」「ドラムみたいな…」「叔母さん怖がってるのよ。多分心臓の音じゃない」
「多分ね。今日ちゃんと薬を服んだか思い出せないわ」「Johnny、母さんが亡くなったとき、父さんの土地についてどうするか何か話してなかった?」「あなたかあたしが使うように望んでたわ、先に行った方が。あなたは子供だったから、それはあたしなんだろうと思ってた」
「参ったわ、ここ本当に寒いわね」
そして二人は森の奥へと進んで行く。

二人はRachellが埋められていた枯れ川の河床に着く。
「ここだわ」Rachelは言う。「もう少し先よ」
「この森で1963年に、少年の遺体半分が発見されたのよ」Johnnyは周りの景色を見ながら話す。
「300年前のものだったわ」
「遺体の残りは見つからなかった」

「その時には被害者は熊に襲われたという説が有力だった。でも1982年にあたしは鑑識ラボでその骨を調べて、鋸状の歯の跡を見つけたのよ」
話し続けるJohnnyの後ろで立ち止まるRachel。「何?」
Rachellは顎でその先を示す。
そこには、前夜Rachelが這い出してきた穴があった。
「なんてこと」Johnnyの口から呟きが漏れる。

「誰が埋められてたの?」振り返って尋ねるJohnny。
「あたしよ、Johnny」Rachelは言う。
「昨日、あたしはそこで目を覚ましたの」
半ば夢の中にいるようだったJohnnyの表情が険しくなってくる。

穴の横に膝をつき調べ始めるJohnny。
そして首を絞めるのに使われたロープを見つける。「Rachel?」
慌てて地面を掘り始めるJonny。「そんな、いやよ!Rachel!」叫びながら地面を掘るJonny。
「Johnny、あたしはここにいるわ」「身体は?身体はどこなの?」
「Johnny、あたしは幽霊じゃないのよ。死んでないわ」「死んでない?」
「なんてこと…、何が何だかわからない…」泣きながら泥だらけで穴の中に座り込むJonny。

「Johnny、あたしは現実にここにいる。これは…現実よ。誰かがあたしを殺そうとしたの!あたしをここに埋めて、そのまま死なせようとした」「誰が?」「分からない」
「でもあたしはそいつらを見つける。手伝ってくれるよね」Rachelは言う。
「Rachel…、あなたはいつものあなたには見えない。幻覚を見てるんだと思った…。ああ、あなたのその目、喉…。誰かがやったのね」「そうよ」「なんてひどいこと」
「あなたは私に残された唯一の家族なのよ。もちろん、手伝うわ」Johnnyは言う。
「そして、誰がこれをやったのだろうと、必ず奴ら自身の墓を掘らせてやる」

『Rachel Rising Vol. 1: Shadow of Death』より 画:Terry Moore

*  *  *

「じゃあね」轟音を立てて去って行く車に手を振り、家に入って行くティーンエイジャーの少女。
「あら、あんた何やってんの?」
キッチンには車のクラクションで起こされた、彼女の幼い妹が立っていた。
「覗いてたんじゃないでしょうね、このスケベチビ」
「Rickyの車であたしが何してようが、あんたにはカンケーないことよ」言いながら妹の横を過ぎて行く少女。

「あたしが買った牛乳どうしたの?アンタ飲んだ?」冷蔵庫を開きながら言う少女。「あたしのもんに触るなって言ったでしょう!」
「クソッ、Zoe、あんたにはうんざりだわ」
「このキチガイ病院から出て、Rickyと暮らすのが待ちきれないわ」
「今夜彼と会ってたこと父さんに話したら、ぶっ殺すからね!」後ろの妹 -Zoeを振り返りながら言う少女。

Zoeは両手で持ったフライパンを振り回し、姉の頭を殴る。
床に倒れる姉。
Zoeはフライパンを捨て、ラップを引き出す。
そして倒れた姉に覆いかぶさり、ラップを顔に巻き付ける。

床の上でもがき、やがて窒息する姉。
その様子を見ながら、冷蔵庫からジュースを手に取り、無表情で飲むZoe。

『Rachel Rising Vol. 1: Shadow of Death』より 画:Terry Moore

#3

“The Blue”の看板が掲げられた5階建てのビル。その一階のクラブで演奏するジャズバンド。Rachellの友人、Jetがベースを弾いている。
混雑する店の中を抜け、バーに辿り着いたRachelは、ワインを注文する。バーテンは、少し異様な美しさのRachelを魅入られたように見つめる。
Jetはバーからそちらを見るRachhelの姿に気付くが、少し怪訝な表情を浮かべる。

「事故に遭ったのかい?」Rachelにワインを渡しながら話しかけるバーテン。
「君の首…、目…、何かあったのかい?」
「知らない。起きたらこうなってたの」Rachelは答える。
「そこら中で言われてるだろうと分かってるけど、あんためちゃめちゃゴージャスだぜ、分かってるだろ?」バーテンは言う。「名前は?」
それには答えず、話を変えるようにトイレの場所を訊くRachel。

口を押さえてトイレに入り、洗面台で嘔吐するRachel。
嘔吐物の中にロープの切れ端を見つけ、顔をしかめるRachel。
そこに新たに女性が一人入って来て、Rachelは水を流しながら口をゆすぐ。
入って来た女性は、プレゼントされたらしいケースを開け、中のネックレスを見て微笑んでいる。
「お願いできるかしら?」女性はネックレスを手に、Rachelに話しかける。

「綺麗なネックレスね」女性の背後で手伝いながら言うRachel。
「ありがとう。フィアンセに今貰ったところなのよ。私たち日曜日に結婚するの」女性は笑顔で言う。
「いいえ…、そうはならないわ」Rachelは眉を顰め言う。
「何ですって?」驚いて振り向く女性。
「ご、ごめんなさい。自分でもなんでそんなこと言ったのかわからないんだけど、急に気付いたの」戸惑いながら言うRachel。

「なんて恐ろしいこと言うの」怯える女性。
「分かってる、ごめんなさい…」呟きながら考え込むRachel。
不意に手を伸ばし、女性の肩に手を掛けるRachel。「ちょっと!手を離してよ!」女性は怯えながら抗議する。
「あなた…、あなたもうすぐ死ぬわ…」女性の肩に手を掛けながら話すRachel。「あたしにはわかる!」
「あなたのウェディングベッドは浅い墓穴…。あなたの肺は泥で満たされる」
「何か古きものがあなたを冒し、あなたはそれを感じ…、あなたの中に受け入れる」
怯えた顔でRachelを見つめ返す女性。

『Rachel Rising Vol. 1: Shadow of Death』より 画:Terry Moore

「あたしから離れて。離れてよ!」女性は後退り、トイレから走り去って行く。
「何がいけなかったのかしら?」呟きながら呆然と立ち尽くすRachel。横で個室の鍵が開く。
「あいつ行った?古い手ね」言いながら煙草をくわえた女性が出てくる。
「あんた墓場の結婚式でソッコーあいつ黙らせたわよね…あら!」Rachelを見て驚く女性。
「ねえ、あんた何飲んでるのか教えてよ」「何も飲んでないわ」Rachelは答える。
「じゃあ、あんたレーシック手術したやつ訴えた方がいいわよ。ひどいことになってるよ!」女性は言う。

ネックレスの女性は憂鬱な顔で、フィアンセが待つ席に戻る。
「どうだい、結構いい物だろう?」「ええ、そうね」「気に入らなかったみたいだが」「私飲みたいわ、お願い」
「大丈夫かい?俺のお袋でも見たみたいだぞ」「ワインを何か…、いえ、マティーニにして」「震えてるぞ」「とにかくお酒を持って来てくれない?」
「分かったよ、ちょっと戸惑ってるだけだ。結婚について考え直したようにも見えるんだが。まさか破談とか言い出さないよな?」「ああ、黙ってよ、Noah」

「これあたしのよね?」バーに戻りグラスを手にするRachel。
入れ替わりにネックレスの女性のフィアンセ、Noahがやって来てマティーニとビールを注文する。
ため息をつくNoah。その横に一人の女性が座っている。
地面から起き上がるRachelを見ていた、少女Zoeの前にも現れた謎の女性…。

「彼女、とっても可愛いわね」女性は隣のNoahに話しかける。
「あなたの奥さん。彼女とっても可愛いわ」「ああ、俺たちまだ結婚してないんだ。日曜まではね」「おめでとう」「ありがとう」
「あなた、あんな可愛い人が決して独りにならないの気付いてるかしら?あなたが背を向けたら、誰かがその場に入り込むのよ」
「Natalieみたいな美人が貞節でいるのは容易な事じゃないわ。彼女にはたくさんの選択肢があるもの」「俺たちには強いつながりがあるんだ」「それはよかった」「あんた会ったことあったかい?」「結婚であなたはいくらか時間を稼げるわ」

「でもいつか、あなたが持っているものすべてを与えた時、彼女はあなたを入れ替えるわ。そしてあなたはレンタル料を払っていただけだと気付く。あなたは落ちぶれ、彼女は去って行く。彼女の宝石は大きくなり続ける…」
「正当とは言い難いわよね。結局のところ、あの可愛い顔の後ろで、彼女はただの肉の塊、そうでしょう?黒いドレスを着た動物なのよ」
「あなたはあんな動物に人生を破壊されたりしない、そうでしょ、Noah?」
話し続ける女性の横で、Noahの表情は次第に険しくなって行く。
女性の指から謎の煙が細く立ち昇る。

席に戻ったNoahは、ネックレスの女性Natalieにマティーニのグラスを渡す。
いくらか機嫌の戻ったNatalieだったが、向かいに座るNoahの様子に眉を顰める。「何?」
険悪な表情でNatalieを睨みつけるNoah。

バンドの演奏の合間を見て、Jetに声を掛けるRachel。
Rachellの見た目に戸惑うJet。「Rachelなの?まあ…、入ってきたのを見て、見たことあるような気がしたんだけど…」
「何なのそれ?ハロウィンパーティーにでも行くの?」「えっと、長い話になるんだけど。いつ終わる?朝食を奢るわ」「分かった、ワオ、あんたホントいかしてるよ」
「クールだわ。あんたのやっつけてリップに、やっつけるぞアイ。ホントいかしてるわよ」
「ドラマー、演奏中ずっとあんたのお尻見てたよ」「ミュージシャンってそういう奴。これからどうするの?」
「行くぞ、Jet」メンバーから声が掛かり、演奏に戻るJet。

その時、Rachelは店の奥のドアの傍にいる女性に気付く。
バーでNoahと話していた謎の女性。
女性はRachelを見返し、そしてドアを開きその奥に入って行く。
女性を追ってドアを抜けるRachel。そこは階段に続く通路だった。
階段を上って行くRachel。上のドアを開きそこを抜けて行く女性の姿が見える。

ドアの先は屋上だった。
「ねえ?」声を掛けてあたりを見回すが、女性の姿はない。
屋上から周囲を見回すRachel。
遠くで火事が起こり、煙が立ち昇っている。
同じ方向の離れたビルの屋上に、さっきまで追っていた女性が立っているのに気付く。

『Rachel Rising Vol. 1: Shadow of Death』より 画:Terry Moore

呆然と女性を見つめるRachel。
女性は邪悪な笑みを浮かべて見返してくる。
どうやって女性が移動したのか分からず、戸惑って周囲を見回すRachel。
その時、頭上から重い音が響き、続いてネックレスの女性Natalieが落下して来る。

避ける間もなく、激突するRachel。
そしてNatalieと共に5階建てのビルの屋上から墜落する。
下の路地に駐車していた車の上に激しく落下するRachel。

『Rachel Rising Vol. 1: Shadow of Death』より 画:Terry Moore

地面へ落下したNatalie。
車の上に落ちたRachel。
二人はそれぞれ身動きもせず、血を流し横たわる。

ビルの屋上の更に上、階段部分の屋根には、Natalieを落としたフィアンセのNoahが立っている。
無表情にNatalieが落下した下を見つめるNoah。
やがて顔を上げ、離れたビルに立つ女性に目を移す。

ビルの上の女性はしばらくそちらに目を向けていたが、やがて彼方で煙が上がる火災現場へと目を移す。

*  *  *

炎と煙が上がる家。Rachel達が屋上で目にした火災現場。
燃える家から、Zoeが姉の死体を足を持って引き摺り出す。
死体を車のトランクに押し込むZoe。
身体の小さいZoeは、足が届かないペダルにモップを噛ませ、車を動かす。
消防車とすれ違い、夜の道を何処かへ走って行くZoeの運転する車。

『Rachel Rising Vol. 1: Shadow of Death』より 画:Terry Moore

というところで前編終わりです。
ある種淡々とというリズムで描かれる、不条理なデイヴィッド・リンチ的テイストも含むホラーストーリー。
それほど見かけが変わっているように思えないRachellを、知り合いの誰もがわからないというのは、心霊的というような方向かもしれない認識というのを描こうとしてるのだろうと思う。やや蛇足的に一応解説。

なんか自分の思い込みかもしれない感覚で前後編に分けてしまったが、後編についても継続してやって行くのでそれほどかからずにアップできると思います。あ、ちょっと同時進行のやつとかもあるんだけど。あと、まあ体調不良による遅延にはできるだけ気を付けます…。
作者詳細についても、後編で。なるべく早く進めますんで少々お待ちください。

Rachel Rising

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