ブルベイカー&フィリップスの伝説的代表シリーズ!
今回はエド・ブルベイカー/ショーン・フィリップスの『Criminal』。2006年にマーベルのインプリントであったIcon Comicsで始まり、後にImage Comicsに移行し、継続され現在は完結しています。
言わずと知れたぐらいのブルベイカー&フィリップスの代表作なんだが、過去現在などに亘る複雑な人間関係や、いくつかのミニシリーズなども含み、シリーズ全体の概要を最初に簡単に書くのはちょっと困難。いやまだ全部は読めてなかったりするし…。
序盤に関しては、TPB1巻で完結という形で描かれているので、今回はその第1回として『Vol. 1: Coward』を紹介して行きます。
とにかくあれもこれもやらなければという状態で、ここから継続して第2回、3回と続けて行く見通しは立っていないのだけど、もはや長らくぐらいのスパンで日本では内容的にはあまり知られていないと思われる、この必読シリーズがどんな作品なのか、その片鱗くらいはお伝えできるよう頑張ってみます。
『Criminal Vol. 1: Coward』は2006年10月よりIcon Comicsから全5話で出版された作品。続く同じく全5話の『Criminal Vol. 2: Lawless』と合わせて全10話がCriminalシリーズのVol.1、第1部ということになっている。とりあえずのところ、両作に主に言及というような形で共通する人物が登場するが、ストーリーとしての連続性はなく、それぞれ単独の作品として描かれている。
70~80年代前半ぐらいのクライム・ムービーのスタイルをベースとして、多くのモノローグを使いつつ、独特のリズムとスピードを持って描かれる、このシリーズというよりはこのコンビの作品全体に通ずるスタイルを確立して行く作品です。
Criminal Vol. 1: Coward
■キャラクター
-
Leo Patterson:
本作の主人公。掏り。優秀な犯罪プランナー。 -
Greta:
Leoのかつての仕事仲間、Terryの妻。麻薬中毒者だった過去を持つ。。 -
Terry:
Leoのかつての仕事仲間。5年前の強盗事件で死亡。 -
Angie:
Gretaの娘。 -
Ivan:
Leoの父Tommyのかつての相棒。現在はアルツハイマーを患い、麻薬中毒でもある。 -
Gnarly:
Leoの父の頃から付き合いの深いバーUndertowのバーテン。 -
Donnie:
Leoの仕事仲間。 -
Red:
Leoの仕事仲間。 -
Seymour:
悪徳警官。Leoとは長い付き合い。 -
Jeff:
悪徳警官。ある計画のためにSeymourからLeoを紹介される。 -
Roy-L:
犯罪組織のボス。 -
Delron:
Roy-Lの配下の凶悪な犯罪者。 -
Jenny:
Leoの古くからの友人。内務調査課の刑事。
■Story
Prologue
いつだろうと、物事が崩れ始めるときには、俺は親父のことを考える。
Leo Pattersonは、柱の陰でマスクを持ち上げ、周囲の様子を窺う。
親父とIvanが、多くの連中と仕事をしていた最初の頃のことじゃない。
違う、俺が考えるのはでかい仕事、親父と彼の仲間が地下室で言い争ってるのを聞いた時のことだ。
銀行の中。Leoと同様に白いつなぎを着てマスクを被った数人の男たちが、行員たちに銃を突き付けている。
その様子を柱の陰から窺うLeo。
計画が脱線し始めるのを聞いたこと、グラスが割れるのを聞いたこと…。
ドアのガラスの向こうには数台のパトカーが押し寄せ、突入の準備を始めている。
親父と仕事をしていた男たちの声に、死を聞いたこと。
ドアを蹴り開ける足。
そして俺とRicky Lawless、俺たちは夜の中へ逃げ出した…。
裏口から脱出し、路地を走って逃げるLeo。
裏路地の中へ。
後ろを振り向くLeo。
ジャンクヤードの犬たちが俺たちを追って来た。
仲間の一人がマスクを投げ捨て、Leoに続いて逃げてくる。
夜の空気は可能性と恐怖に満ちていた。
銀行の中では残った二人のマスクの男たちが、警官隊に向かって銃を撃ち始める。
だが、俺たちにはどうでもよかった。
銃を乱射する男たち。
俺たちはガキで、従うルールなんてなかった。
撃ち返す警官隊。
社会のなんてものは当然のことだった。
複数の銃弾に倒れるマスクの男たち。
ルールは後からやって来た。
路地を抜け、裏道を横断するLeoと仲間の一人。
親父が自身のルールを破り、姿を消した後に。
警官の一人が彼らに気付く。
それがIvanが俺に話して聞かせた時だった。ルールについて、そしてそれがいかにお前を守るかについて…。
次の路地の入口に辿り着いたLeo。続く仲間は道の真ん中で、警官の様子に気付き銃を上げる。
時にはお前自身からも。
発砲する警官。
時が経つにつれ、お前はそれらのルールについて学んで行く。厳しい経験を通じて。
仲間は撃ち返すことも敵わず、道の真ん中で銃弾を受ける。路地の中に走り込みながら、その様子に恐怖するLeo。
そしてお前はそれらを書き記すことはない。だが決して忘れることはない。
路上に倒れ、血を流しながら、助けを求めてLeoを見上げる仲間。
それはお前を世界から遠ざけ続けるルールだ。
脅え、戸惑いながら仲間を見つめ返すLeo。
安全に。
背を向け、走り去るLeo。

『Criminal Vol. 1: Coward』より 画:Sean Phillips
それらはプロフェッショナルと、銃を手にした不良/ポン引き/ギャングスタ/チカーノを分けるものだ。
そんな阿呆どもはシステムのための使い捨て兵士だ。
だが、ルールに従う者、どう安全にい続けるかを理解している者は…
路地の先、自転車が停めてある前でつなぎを脱ぐLeo。その下にはサイクルウェアを着込んでいる。
決して4X5のセメント部屋で死に絶えることはない。
サイクルスポーツの装いに変わり、自転車のサドルから帽子などを取り出すLeo。
時に俺がルールについて話すと、相手は俺が何をそんなに怖れているのかと尋ねてくる。
そして俺は答える。
帽子を被り、ゴーグルを装着するLeo。
俺は親父のように人生を終わるのを怖れているのだと。
路地から自転車をこいで出てくるLeo。
俺に最もふさわしいように思われる場所…、刑務所で死ぬことを怖れているのだと。
何食わぬ顔で事件現場の前を通りかかるLeo。
だが、俺の見るところ…。もし俺たちのような仕事でお前が怖れを抱かないとしたら、それは単に考えていないということだ。
そして俺は、弾丸より前に頭を使わないような連中と仕事をするつもりはない…。
銀行の前では、重武装の警官隊が警戒を続けている。
最低限のルールとして。
無表情にその場を去るLeo。
* * *
このようにページを3等分割したレイアウトで、比較的小さいコマ割りで一定のリズムを保つように語られて行くのが、この『Criminal』シリーズの基本的なスタイル。
進行中の場面の上に、それとは同時制ではないモノローグが被るというのは、映画、マンガ/コミックでは珍しくはないスタイルだが、文章のみで説明しようとするといまいち難しい…。とりあえず第1話分はこの形でやって行くつもりだけど。
Five Years Later The City
「誰だ?あの男か?」
美術館の中。白髪の中年男Seymourと、体格のいい黒人Jeffが周囲を窺いながら話している。
「そうだ、髪の長い奴」とSeymour。
「俺は見えなかったぞ」Jeffが言う。
「近寄ってよく見ろ」
彼らの視線の先では、Leo Pattersonが左手にパンフレットを持ち、右手を展示物を見ている老齢の女性に伸ばしている。
「いや、そんなはずはない」Jeffが言う。「奴の手渡し役はどこにいるんだ?」
「いないんだ」Seymourは言う。
「奴は独りでやってるのか?」
「言っただろう、奴は腕がいい」
周囲を窺うLeo。
「そんなに腕のいい奴がいるはずがない」「Leoがそうだ」
「ああ、俺たちが見たところだな」とJeff。
「奴はもうお前に気付いたぞ、見ろ…」
Leoはパンフレットをゴミ箱に放り込み、出口に向かう。
「あの野郎」
美術館の外。歩き去って行くLeoに、Jeffが警察バッジを掲げながら近づいて行く。
「おい、そこのあんた。ちょっと待て」
「何だい?」素知らぬ顔で振り向くLeo。
「警察だ。壁に向かって立て、マヌケ野郎」
「俺が何したっていうんだ?」「壁に向かって立つんだよ」JeffはLeoを壁に押し付ける。
「なんかの間違いだよ、お巡りさん…、俺は何も…」
「歯は大事か?じゃあ、無くさないように口を閉じてろ」
Leoの身体を探るJeff。そこに声が掛かる。「時間の無駄だぜ、Jeff…」
「こいつはこの中に全部入れて捨てたんだ。俺が言っただろう、こいつは腕がいいって」SeymourがLeoがごみ箱に捨てたパンフレットを手にやって来る。「よう、Leo」
「Seymourかよ」Leoが体を起こし言う。「こいつ、そもそも本物のお巡りなのかい?」
「ああ、そうさ。ちょっと歩こうじゃないか」
路地裏に移動し、駐められた車の前で話すLeoと二人の刑事。
「何なんだこれは、Leo?この財布ほとんど何も入ってないじゃないか」Seymourが言う。
「金持ちが現金なんて持ち歩かないのは分かってるだろう。金持ちってのはそういうもんだ。お前何を考えてるんだ?」
「あんたとそこのキャプテン・バッジに白状しろってか」Leoは言う。
「こいつはむしろキャプテン・ビートダウンってとこだがな」
「それでお前が頭蓋骨を陥没させたくないなら、質問に答えろ」Seymourに続けてJeffが言う。
Jeffの態度に憎悪の目を向け、答えるLeo。
「連中がどれだけの現金を持ち歩いてるかは問題じゃないさ、Seymour。これは身元泥棒ってやつだ」
「旅行者は数百ドル以上持ってることはない、だがこいつらは…」
「連中のカードとIdそれぞれで、1000ドル手に入れられる」
「聞いたろ、Jeff?こいつは頭を使ってる」Seymourは言う。
「何が目的だ、Seymour?」
「俺はチームメンバーを集めてるんだ」
「俺はそういう仕事はやらん」
「Salt Bayの仕事の反省か?」
「どう思うんだよ?」
「俺は、お前と俺が昨今のここらじゃ数少ない利口者だと思ってるんだ。故に俺たちはお前を必要としてる」
「もし俺がまだその手の仕事をやっていたとしても…。俺がオマワリと組まないのは分かってるだろう」目を逸らしながら言うLeo。
「そいつがどれだけ曲がってるかは問題じゃない」
「とにかく話を聞けよ。こいつはでかい儲けだ」Seymourは言う。「そして簡単な盗みだ」
「あるいは、お前次第というところだ」
「話は聞く…。だが答えは変わらん」
「5万ドルのダイヤだったとしてもか?」
「ああ?簡単に盗めるダイヤなんて、あったことがあるのか?」
「裁判所へ向かう警察の証拠品運搬用のヴァンの中にさ」Jeffが笑みを浮かべて言う。
「それでJeffがここにいる。こいつは奴の計画だ」Seymourが言う。「だがお前が必要だ。お前の見方がな」
「あんたこの5年で頭おかしくなったんじゃねえか、seymour」Leoは言う。
「俺にはあんたの警察官としての自殺記事が見えるぜ。そんで、俺の獲物は返してもらえんのかい?」
「クソくらえだ」中指を立てるJeff。
「ああ、好きにしろよ」とLeo。
「おい、とにかく考えてみろよ。一日やる」Seymourは言う。「こいつは本物だ…。そしてJeffのような内部の者の手引きが唯一の成功手段なんだ」
「またな、Seymour」背を向けて去って行くLeo。車の前でそれを見送る二人。
「これで何とかなんのか?一発殴っとくべきじゃなかったのか?」Jeffが言う。
「やめとけ、奴はまた現れる、心配するな」Seymourは言う。「別の手がある」

『Criminal Vol. 1: Coward』より 画:Sean Phillips
混雑した駅のホーム。その一角で黒人の男が連れらしき男を殴りつけている。
Seymourは利口な男だが、ギャンブラーでもある。リスクを上回る価値があると見る、勝ち目のある賭けをする。
それが俺が奴を避ける理由だ。ギャンブラーはお前を儲けさせるか、殺す。
Seymourとやった最後の仕事では死人が出た。
喧嘩騒ぎに気を取られている、電車を待つ人々の間を歩くLeo。
実際には奴の落ち度ではない。だが…、それでもそれは奴の計画だ。
スーツの男の内ポケットから財布を抜き取るLeoの手。
そして奴の面こそが、俺が一番見たくなかったものだ。
立っている女性の背後から、ハンドバッグの中の財布を抜き取るLeoの手。
奴の悪辣なにやけ面…。奴の傲慢な相棒。
奴はこの街のオマワリ共が、俺の仲間たちにやったことを忘れてるんだろう。
鉄道警官が駆け付け、暴れている男を取り押さえる。ホームには電車が入って来る。
だが俺は決して忘れることはない。
俺は今でも連中が見える…。Undertowの空いたバースツールに…。連中の未亡人や子供たちの顔の中に…。
夕暮れの高架上を走って行く電車。
連中はこの世界からいとも簡単に引き抜かれた…。
車内の席に腰かけるLeo。
そしてその後に残った穴…。人生の中の、記憶の中の、夢の中の…。
窓の外を見つめるLeo。
それらの傷は容易に隠せる傷跡になっている。だが、その傷跡はいずれも同じだ。
窓ガラスに映った自身の顔を見つめるLeo。
俺はSeymourの面など見たくなかった…。奴の「簡単な」計画など要らなかった。
俺は既に十分なほどのトラブルを抱えてるんだ。
電車を降り、駅を出て、雨が降り出した街を歩いて行くLeo。
* * *
「嫌よ!もう一日だってごめんよ!」
黒人の恰幅の良い看護婦が、叫びながらLeoに詰め寄る。
「あのヘンタイチビがあたしに何やったかわかる?」
「待ってくれよ…」たじろぐLeo。
「あいつあたしの下着を取ったのよ!それをパッと消しちゃったのよ!」
「Ivan」苦り切った顔で背後の老人Ivanを振り返り言うLeo。
「何だい?そいつならここにあるぜ」下着を振り回しながら言うIvan。
「聞いてくれよ、本当に申し訳ないと思う…」なだめるように看護婦に向かって言うLeo。「彼が時々厄介事を起こすのは分かってるが…」
「時々ですって?あいつには拘束衣が必要なんだわ」と怒りの声を上げる看護婦。
「多分それもあまり効果的とは思えないがなあ」とLeo。
「あたしはそもそも、どうやって彼があたしのパンツを脱がせたか気付いたのさえ話したくないのよ」憂鬱な顔で言う看護婦。
「その…、分かってるさ…なあ?でも彼は病気の老人なんだ」
「何とか来週まで頼めないか?他の誰か見つけるまで…」看護婦を説得しようとするLeo。
「悪いんだけど、Leo…。あたしの手には負えないわ」看護婦は言う。「彼はホームに入れるべきよ…。全員男の看護師の…」
「俺にはそんな余裕はないよ…。彼に合ってると思えない場所の…、彼の常用癖から考えても…」Leoは言う。
「なら彼に薬をやめさせなさいよ、Leo」
「でもどうするにしろ、あんたは明日には別の誰かを見つけるしかないわよ」アパートのドアを出ながら看護婦は言う。「もう一度触られたら、あたし彼を殺しちゃうんじゃないかとおっかないから」
ドアを閉めるLeo。
「行儀よくしてくれよ、Ivan。ホントにさ…」Ivanを寝室に連れて行くLeo。
「俺なんかしたのか、Tommy?」
「何でもねえよ…。あんたをベッドに連れて来ただけさ。あんたの好きな番組が始まるぜ」Ivanをベッドに寝かせるLeo。
「その長い髪を切れよ、Tommy…。オマワリの余計な目を惹いちまうぞ」横になりながら言うIvan。
「明日な…。約束するって…」悲し気な笑顔で言うLeo。
テーブルの上。吸殻の積もった灰皿の横に、ドラッグのための注射器とスプーン。
ソファに腰を下ろし、頭を抱えるLeo。
Tommyは俺の親父だ。
だが、死んでかなり経つ。
Ivanが薬に溺れ、自身を見失う以前…。
アルツハイマーが発症し、彼をさらに遠くへ連れて行ってしまう以前。
もうどうすれば彼に薬をやめさせられるのかわからない。そう望んだとしても。
それは拷問になるだろうし、彼にはなぜそんなことになったか理解できないだろう。
あきらめ顔でソファにもたれ直すLeo。
だが、彼は付き添い看護婦を使い果たしちまう。一切お構いなく。
彼は自分が30歳だと思っていて、見境なく手を出そうとする。
背後の窓の外の街は雨。
傍から見れば滑稽だろうが、そういうわけにはいかない。
ドアにノック音。Leoは頭を上げる。
「ん…、何だ?」ドアを開けるLeo。そこには女性が立っている。
「あたしを憶えてる、寝惚け野郎?」
「Terry Watsonを憶えてる?」苛立たし気に続ける女。
Terry Watson
5年前の仕事で逃げ遅れて撃たれ、路上に倒れて助けを求めて自分を見上げていた男の姿が、Leoの頭に浮かぶ。
「何の用だ、Greta?」Leoはドア口で言う。
「あたしは娘がこの街から出られるようにしたいのよ、Leo」煙草に火を点けながら、Gretaは言う。
「そうすれば彼女はまともな生活が送れるようになる」
「俺は話の最初のところを聞き逃したのかね?」彼女の言っていることが分からず、聞き返すLeo。
「Seymourの仕事よ」Gretaは言う。「仕事にはあんたが必要だけど、あんたはやる気がないって言ってる」
Gretaの言葉に驚くLeo。
「少し歩こう」「雨が降ってるわよ」
「そんなに長くはならない」ジャケットを羽織りながら言うLeo。
道路を渡るLeo。その後を急ぎ足で追うGreta。
「ゆっくり歩いてくれない?もう少し?」
「なんで俺の部屋が分かった?」振り向かず言うLeo。「Seymourは俺がどこに住んでるか知ってるのか?」
「頭働かせなさいよ。Seymourがあんたの居場所を知ってるなら、あたしは必要ないわ。そうでしょう?」
「それで奴ら、俺が美術館にいるのを知ってたのか?お前俺を尾けてたのか?」
「あたしがこの仕事に関われたのは、あたしならあんたを見つけられると約束したから」Gretaは言う。「少々苦労させられたわ。それは認める」
「畜生…。俺はもうSeymourと話したんだよ…。奴はとにかく…、奴はチャンスを多く見過ぎるんだ」
「馬鹿々々しい!あたしを追い出したのはあんたでしょう!」GretaはLeoに詰め寄る。
「もしあたしがあの日Salt Bayにいたなら、あたしはシングルマザーになんてならなかったのよ!」
「俺は言っただろう。俺はジャンキーと仕事はやらん。それがルールだ」
「あんたのルールなんてクソくらえよ!あたしは何年も素面だった!赤ちゃんがいたのよ、馬鹿野郎!あたしは蹴り出されたのよ!」
「実際に誰も蹴り出したわけじゃない…」
「みんながあんたについて言ってることが正しかったというわけよね、そうでしょう?」
雨の中、去って行くLeoの背に怒りを投げつけるGreta。
「Terryはいつも、そんなの戯言だって言ってた。でもそうだったのよ」
「そして彼はそれを支払わされたのよ…」
沈鬱な表情で、振り返らず去って行くLeo。
* * *
2時間後、俺はまともな判断に反し、The Undertowへ向かって行った。
“UNDERTOWN”の”N”の文字が欠けたバーへの階段を下りて行くLeo。
ジュークボックスは、俺が最後に来た時から変わっていなかった。
いや、それは俺が初めてここに来た時から変わっていないだろう。その時、俺は8歳だった。
店のドアを開けて入って行くLeo。
変わらない燻ぶった感傷と憂鬱は、薄暗いバールームをより暗くして行く。
ジュークボックスに挨拶するように手を置き、そしてバーの奥へと進んで行くLeo。
Gnarlyが勤番だ。いつもの通り…。そしていつも通り、俺を常連のように扱う。俺がここに来るのは数年ぶりなんだが…。
カウンターに座ったLeoに、新聞を指さして言う体格の良いバーテンGnarly。
「Leo坊主、今日のFrank読んだか?」
「新聞は読まねえからな」Leoは答える。
「こいつは見とけよ。クラシックだぞ」新聞をLeoの前に置くGnarly。
新聞の下段にはクラシックな連載コミック『Frank Kafka, Private Eye』が掲載されている。
Frank Kafka, Private Eye…。
こいつの意味がわかったためしがない。
FRAK KAFKA, PRIVATE EYE by Jacob K.
「こいつはイカレてやがる…。どうやって彼女を見つけりゃいいんだ?」
手にした写真を見ながら言う、私立探偵Frank Kafka。
こいつはなんかの間違いだ…。失踪した女、そして俺が彼女の唯一の希望…。だが連中が俺に渡した唯一のものが彼女の名前 – H…。
事務所のデスクで、フラスクから酒を呷るFrank Kafka。
…そして一枚の写真。これは間違いだろう。だがそれが俺を止めたことはない。
女の全く顔の見えない後ろ姿の写真。前には大勢の同じような帽子と眼鏡の男たちがいる。
「よくわからねえな」「まあな」
「それでお前の方だが、坊主?Ivanは何とかなってんのか?」Gnarlyは言う。
「手に負えねえな。あいつが潰れてからってもの」Leoは目を合わせず答える。
「わかるよ…。哀れなジジイめ」Gnarlyは呟く。
The Undertowは俺たちの場所だ…。
犯罪常習者たちの。
それはもぐり酒場として始まった。そうだった時代に。だが、禁酒法時代の後も、そのルーツを失っていない。
トレーを持ったウェイトレスにビールを渡すGnarly。Leonはバーの中を眺める。
ここはひとつの安全地帯と考えられていた。
多くの夜、宿敵同士がバーで肩を並べているのさえ見ることができる。そして騒ぎが起きるのは非常に稀だ。
バーの後ろ、酒瓶が並ぶ棚の上には、いくつかの額に収められた写真が並んでいる。
そしてしばしば、自分がどこにいるのかも理解していない駆け出しもやって来る。
あるいは、二度と戻ってこない。
二人の男が店の前に笑顔で並んでいる古い写真。かつての相棒…。

『Criminal Vol. 1: Coward』より 画:Sean Phillips
「最近Donnieを見たかい?」「”痙攣”か?」「ああ、そうだ」
「いや…、奴は昼間に来てるんじゃないかと思うぜ…。Denbyのシフトに」Gnarlyは言う。
「聞いたところじゃ、奴は大抵の夜はLで仕事してるらしい…。例の”痙攣”芸からは足を洗ったってことだが」
「本当のところ、奴は癲癇なんだ」Leoは言う。
「それで奴はその芝居が達者なんだろうな」とGnarly。
「地下鉄を調べてみるか…。Denbyにも話しといてくれ。俺が見つける前に奴を見かけたら」スツールから腰を上げ、去って行くLeo。
「分かったよ、Leo」Gnarlyが声を掛ける。
「あんたあのクズ野郎から注文取らなかったんじゃないか?」バーに座っていた男が言う。
「お前、あいつの事よく知らんだろう」Gnarlyが答える。
「話は聞いてるぜ」グラスを持ち上げながら言う男。
「お前は俺がお前の頭をかち割る音を聞くところだ。それを続けるならな」Gnarlyが拳を固めて言う。
「なあ…、そんなつもりじゃないんだ…、ただの世間話のつもりで…」たじろぐ男。
* * *
夜のチャイナタウンの雑踏の中を歩く、SeymourとJeff。
「あんたのスーパー大泥棒って奴について、何も見つけられなかった」Jeffが言う。「何も追加されてなかったってことさ、分かるか?それは結局、奴がシステムの中にいなかったってことだろう?それじゃどうもならん」
「Jeff、あいつについては保証する。心配する必要は…」Seymourは言う。
「それで俺は時代を遡ってみたよ。野郎、歴史の勉強をさせてくれたぜ。このマヌケの親父が誰だか知ってるか?Tommy Pattersonだぞ」Jeffは調査資料の紙束を手に言う。
「奴がそういった連中と働いてたのは間違いない。おそらくその中で育ってきたんだろう」
「Tommyと相棒のIvanは、この街で最強のスリのチームを動かしてきた」「ああ、知ってるよ…」Seymourは相槌を打つ。
「だがTommyは、15年前に死んでる。ムショのシャワーで殺られたってことだ。収監された罪状はTeeg Lawlessの殺害」Jeffは資料を見ながら言う。
「俺は全部知ってるよ。奴の親父もな」Seymourは言う。「何が言いたいんだ?」
「これは奴があんたの言うように優秀ってことか、あるいはあんたが俺に言ってないことがあるってことだ」Jeffは言う。「どっちなんだ?」
「そりゃ両方だな、実際のところ…。奴は腕がいい、最高だろう…」Seymourは言う。「だが、奴が捕まったことがないのには理由がある」
「奴は臆病者だ」
「奴は厄介事からただ歩き去るんじゃない。逃げるんだ」
夜の薄暗い駅から、地下鉄に乗るLeo。
「そして奴はセキュリティの穴を見つけ、計画を組み立てるのに優れているのと同時に…」
「奴はそこから抜け出すのにも優れてるってわけだ」
Seymourは夜の街を歩きながら、Jeffに話す。
「それが俺たちが奴を必要としている理由だ」
地下鉄の車内で、何かを探すように周囲を窺うLeo。
「言ってる意味がわかるか?」Seymourが言う。
「それじゃあ、あんたらは本当に友人ってわけじゃないのか?」Jeffが尋ねる。
「Leoは友人を持たんよ…」
「あの打ちのめされて、何もわからなくなった老いぼれIvanだけ」
「他に数人の同じような役立たずがいるかもな」
地下鉄の中、一人の男が不意に身体を引きつらせ、呻き声を上げる。
車内に男の意味をなさない苦し気な喚き声が響く。
目的のものを見つけて、笑みを浮かべるLeo。
これはDonnieのオープニングだ。
奴は発作で人目を引きつける…。
意味不明の呻き声を上げながら、床に倒れ身体を引きつらせるDonnie。
心配して周りに集まる乗客たち。「誰か何とか…、この人どうしたんだ…?大変だ!窒息してるぞ!」
…だが、奴の本当の芸はこの後だ。
意識を取り戻し、その場に座り込み頭を抱えるDonnie。
傍の女性が心配げに声を掛ける。「大変だわ…、大丈夫?」
「私はちょっと…、あれ、どうしたんだ…?ああ、またなのか…?」戸惑ったように呟くDonnie。
「聞いてください!皆さんに迷惑をかけて、すみません…。その…、発作を起こしただけなのですが」乗客たちに説明するDonnie。
「それで私は…、ERに行く必要があるんです。あるんですが…。ああ、どうしよう…」
「私は…、私はホームレスなんだ…。保険もない…、どうにもならないんです…」
「病院はお金を払わなきゃ診てくれない…。ERに入れてもらうには、95ドル必要なんです…」
「どなたか助けていただけないでしょうか?」
懇願するように乗客たちに手を差し出すDonnie。
「どうか、お願いします…」
そして、大抵の者はそうする

『Criminal Vol. 1: Coward』より 画:Sean Phillips
Donnieの言うところによると、このお決まりの手順に毎回金を払う連中がいるということだ。
奴が言うには、それは奴が発作の間に発する声に関する何かで、それが連中の潜在意識のある部分を刺激するとか…。
Donnieを取り巻く乗客たちが、次々と彼に金を渡す。
…そして連中は、奴が何度もこの芝居を繰り返しているのを見ているのを、忘れてしまうそうだ。
Donnieは近づいて来るLeoの姿に気付く。
地下鉄のホームに降りるDonnieとLeo。
「Leo…、あんたこんな猿集団の中で何やってるんだよ?」Donnieが言う。
「ただ見てただけさ、Donnie」とLeo。
「お前さん、ERへ行くための助けがいるんだろう?」
「そうだな…、歩こうぜ」
階段に向かってホームを歩く二人。
「なんかあるのか?」と尋ねるDonnie。
「また仕事に戻る気はねえか?」Leoは言う。「マジな仕事だ」
「あんたとかい?」Donnieは言う。「いつ始めるんだ?」
* * *
夜のドーナツショップ。店内に二つの人影。「そうか、よかったぜ」
向かい合って座るSeymourとJeff。Seymourは携帯で話している。
「言うとおりにするぜ。明日だな、分かった」
「それで?どうなったんだ?」Jeffが尋ねる。
「Leoからだ。奴が入った」携帯を内ポケットに戻しながら、Seymourが答える。「言っただろう。俺はこいつをよく知ってる」
「彼女に絶対にノーと言えないのは、分かってたさ」
「ああ、そうかい、あのクズはな。それじゃあ…」Jeffは立ち上がる。
「奴に電話するのか?夜のこんな時間に?」
「クソそうなんだよ」公衆電話の受話器を掴むJeff。
何処かの暗い部屋で、ファンキーなブラックミュージックを着信音にした携帯が応える。
「何だ?」リングをいくつも指にはめた手の黒人が電話を取る。
「いや…、寝てねえよ。イラつきを喰らってたってところさ。なんか話があんのか?オフィサーイラつき喰らい」暗い部屋でサングラスを掛けている体格のいい黒人が、携帯に向かって話す。男の衣服には血痕らしき汚れ。
「パズルの最後のピースが嵌まった。あんたが知りたいんじゃないかと思ってな」公衆電話のJeffが言う。「スケジュール通りだ」
「うまく行きゃいいがな、Jeff」携帯の男が言う。「おめえがこいつを引き起こしたんだ。”ああ、そいつは俺がなんとかできるぜ”が駄目にならないようにな」
「俺は俺のものを取り戻したい、全部だ…。さもなきゃお前とお前の相棒に弾丸を撃ち込むまでだ」受話器からの声に耳を傾けるJeff。「そしてその間に入った他の全員にな」
切った携帯を、テーブルの上に放る男。
男の背後の暗い部屋の中には、椅子に縛られ恐怖に目を見開く男。
「すまねえな、Nelty…。取らなきゃならん電話だったんでな」煙草に火を点けながら言う男。「それで、どこまで進んだんだったかな?」

『Criminal Vol. 1: Coward』より 画:Sean Phillips
ここまでが第1話。
かなりテキスト量という意味での情報量も多いのだが、その一方でアメリカのコミックではお馴染みの、一つのコマの中でセリフが2~3往復するような手法がほとんど使われていないのに気付く。そういった正攻法というような語り方や、先にも書いたページを基本タテ3等分割するようなレイアウトなどが、70~80年代クライムムービー的というようなややクラシックなリズムを作り出してるのかと思う。
そしてその真逆とも言えるのが、ブライアン・マイケル・ベンディスの短いセリフの往復で画面を埋め尽くし、物語を加速させて行くスタイルなのだが、なんだかそういう比較をする以前に、ベンディスがそのベースの部分で、ブルベイカーと並ぶようなクライムコミックの作り手であるという認識を浸透させなければというところで、もっと頑張らないと。
こういったセリフやモノローグは、まあ見てわかるようにこの作品の重要な部分で、本当ならこのまま続けたいところなのだけど、やはりあまりにも長くなりすぎるので、この先は少し簡単にあらすじ的にまとめて、このシリーズ第1作がいかに完成度の高いクライムコミックかというところが伝わるように最後までやろうというところなんだが、結構整理してもかなり長くなりそう…。
Four Days Later…
車の中に座るLeoとSeymour。Leoが運転席。
コーヒーが無くなったので買って来る、と車を出ようとしたSeymourを止めるLeo。
「俺たちは仕事をしてるんだ。車から出たら俺はこの仕事を降りるぞ」
「連中はいつも同じルートを辿ってるだろう」不満気に言うSeymour。
「それが今日は違うってのが理由だ」
暇なら新聞でも読んでろ、とLeoはSeymourに手渡す。
FRAK KAFKA, PRIVATE EYE by Jacob K.
俺は何日もドアをノックし、同じ質問を繰り返した。
「Hという名の女性を知りませんか?肩までの長さの黒髪で、このくらいの背の高さの」
自分の肩の上ぐらいの高さを示しながら、ドア口で相手の老人に話すKafka。
そこでGメンが現れた…。
Kafkaの背後に二人の連邦捜査官が現れ、彼の肩に手を掛ける。
「よう、Frank…。こいつが噂になってるやつか?お前が死んだ女について聞き回ってるって?」
「死んでるだと?」驚き聞き返すKafka。
「俺はそんなことは…」
「前の時と同じだな、Frank。お前は自分が何をやってるのか、全くわかってない、そうだろう?」

『Criminal Vol. 1: Coward』より 画:Sean Phillips
そして、目的の証拠品輸送のバンが動き始め、彼らも尾行を始める。
運転しながら、LeoはSeymourの携帯を借り、誰かと話し始める。
毎日午後4時半、バンは証拠保管施設を出発し、ダウンタウンを2マイル走り裁判所へ向かう。
Seymourと悪徳警官の相棒Jeffの言う通り、輸送車は弱いリンクだ。
なぜならそれが何を運んでいるのか誰も知らない。誰がやみくもに大当たりを狙って警察の輸送車なんかを襲う?
だが、俺たちには内通者がいる。そして5万ドルのダイヤが二日後に運ばれるのを知っている。
アフリカから密輸され、数年前に宝石店から押収された。連中の弁護士は、法廷へのアピールのため、すべてのダイヤを証拠品として提出することを求めたというわけだ。
輸送車の進路で、一台の車が故障し、煙の上がるボンネットを開け、運転者が様子を見ている。
「ありゃあDonnieじゃないか。奴は何をやってるんだ?」Seymourが言う。
「輸送車は決まったルートを通っている。それで…、そこが通れない時はどうする?」
言い争いの後、諦め輸送車は別の道へと迂回して行く。
「Jackson Streetトンネルだ…。そして特に混んだラッシュアワーに」
「あんたの相棒を呼べよ。計画を話そうじゃないか」Leoは言う。
* * *
潰れたオートショップの車庫。「誰だ、そいつらは?」
「俺が雇った誰かさんさ、プロだ。そいつらこそ誰なんだ?」二人の仲間の前に立ち、Jeffに同行した男たちを指さしながら、Leoは言う。
「俺の仲間だ。この街で必要な時に最も役に立つ奴らさ」スーツを着た刑事らしき二人の男。
そいつらを追い出せ、と言うLeoとJeffの間で争いが起こり、Seymourが間に入りなだめる。
「分かった…。なんだろうと、そいつらの配置は俺が決める」
Leoはそう言い、壁に地図を貼り計画の説明を始める。
「計画に漏れはない。全員がそれに従って動く限りはな」説明を終えてLeoは言う。
だが、JeffはLeoの銃を一切使わない、持たないという計画に不満を示す。
「恐らく俺たちは武装警官に対峙することになるんじゃないのか?」Jeffは言う。
「それであんたは俺たちにそいつらを撃たせたいのか?あんたのお仲間だろう?」
「いいか、こいつについては妥協の余地はない」Leoは言う。「この仕事では銃を持たない。終わり。さもなきゃここで解散だ」
SeymourがJeffを説得し、その形で話をまとめる。
夜道を帰路につくLeoをGretaが呼び止める。
「あんたあのクズ野郎どもが、あたしたちを踏みつけにしようとするのわかってるんでしょう?」
「ああ、分かってるさ。奴らはこのダイヤを搔っ攫おうとするか、さもなきゃ俺たちを追っ払う。最後に…。その類いだろうな」
気を抜かないようにするしかない、あんたが抜けたいんじゃなけりゃな、Leoは言う。
「駄目よ、あたしにはこれが必要なの」Gretaは言う。「あたしのAngie…。あの子の医療費。あたしには賄いきれないほどの…」
「母さんもできる限り援助してくれる。必要な時は代わりに見ていてくれる。でも…。あたしは底に向かって沈み続けているのよ、Leo」
「ああ、その気持ちはわかるよ」Leoは言う。
何か対抗策を考えろと詰め寄るGreta。だが、現時点では計画通りに進めるしかない、とLeoは答える。
「なあ、助けになりたいと思うなら、Jeffと連れて来た連中について何かわからないか探してくれ。悪徳警官一匹でも十分厄介なのに、三匹となりゃもう悪夢だ」
* * *
だが、仕事の前日になり、事態を変える何かを探り出す時間は残っていないことは分かっていた。
既にダイスは転がされ、俺たちは奴らがどう動くのか、待ちながら見ることしかできなかった。
もし俺に何かをする時間が合ったなら、もっと早くに…。もしJeffとSeymourが他のやつらを連れてくるのを知っていたら…。
…おそらく結果は違っていただろう。
だが、俺には別の心配事もあった…。
街角の公衆電話を使うLeo。その横では、きちんと服を着せられたIvanが待っている。
LeoはUndertowのバーテン、GnarlyにIvanを預かってくれるよう、電話で頼んでいる。
「ああ、問題ないぜ、そう畏まるなって」快諾するGnarly。
「信頼できる誰かが必要なとこなんだ、分かるだろう?一日か、長くても二日ってとこだ。もしもの場合な」
電話で話すLeoの横で、Ivanは通りすがりの老婆に話しかけ、後ろからハンドバッグに手を伸ばす。
「すまねえ…。これが終わったら、あいつを本当に助けになるところに入れられればと思うんだが…」
電話を終えたLeoは、Ivanから掏り取った財布を取り上げる。「何やってんだよ?それはやめとけ」
「でも、俺たちゃ仕事に来てるんじゃなかったのか?」戸惑いながら言うIvan。
「通りじゃやらねえ」Leoは言う。
落とし物と偽って老婆に財布を返すLeo。どうして落としたのかと悩む老婆。
Gnarlyの家へと向かうために地下鉄に乗るLeoとIvan。
まだ仕事だと思っているIvanに、Leoはこの車両で一番現金を持ってる奴を探してくれと話す。
医者の話では、症状の改善のためには、集中力を維持させることが有効だということだ。乗客を観察するIvanの目には昔の輝きが戻って来ている。
今でも彼はベストだ。もし彼が本気を出したら、この電車の乗客が降りた時にはポケットに1セントも残っていないだろう。
目的地に到着し、LeoはIvanに声を掛ける。
「ここはどこなんだ…?」戸惑ったように虚ろな目で言うIvan。
* * *
The Job
ブロードウェイの市長も訪れることを誇示する人気のデリカテッセンに、不振な包みを置いたDonnieがLeoの車に乗り込む。
「オマワリは特別慎重に、多くの人員を宛てるだろうな」「テロとの戦い様々だなあ、ええ?」「ああ、唯一の勝者は泥棒ってわけだ」
車は次の目的地へと向かう。
証拠品搬送車の出発を見張るSeymourとJeffの乗った車。
最初の角を曲がったところで、Seymourはデリカテッセンの「爆弾」について通報する。
Gretaともう一人の仲間Redの乗った車が、路上でパンクしたタイヤを交換し道を塞ぐ。
証拠品輸送車はJackson Streetトンネルへと迂回して行く。その前には、LeoとDonnieの乗った車。
GretaとRedの車は、証拠品搬送車の後ろに2~3台の車を挟み、トンネルに入る。
トンネル内に30分前に「ガソリン切れ」と書いたボール紙をワイパーに挟み、放置しておいた小型車。
それを調べる風を装い、Jeffの仲間の二人の刑事が車を停めて降り、渋滞した車の流れをストップさせる。
そこでSeymourがトランシーバーで、警官隊と爆弾処理班がブロードウェイを6ブロックに渡り封鎖したと連絡して来る。
行動開始だ。
Leoが車から降りて叫ぶ。「助けてくれ!大変なんだ!俺の友人が死にそうなんだ!」
続いてDonnieが発作の演技をしながら車の外へと倒れ込み、Leoが抱きとめる。
「なあ、なあ!あんたら警官だろ!あんたらCPR使えるんだろ!こいつを助けてくれ!」搬送車の二人の警官に向かって叫ぶLeo。
搬送車の運転をする警官が、助手席の相棒に、どうせ渋滞で動けないんだから見てやれよ、と言う。
どうしたんだ、と言いながら車を降り二人に近付く警官。
「そこら中のやつらがクラクションを鳴らし始めたんで、こいつパニックを起こしたんだ」Leoが言う。
「参ったな…。あんたこいつが舌を噛んでないか確認したか?それで…」
Leoは警官の後ろに回り込み、首筋にスタンガンを押し付ける。
搬送車の警官は、直ちに通信で応援を要請。そして銃を手に車を降りる。
車から降り、搬送車の後ろに近付いていたRedが、スタンガンで警官を気絶させる。
倒れた警官から鍵束を奪い、Gretaに放るRed。
搬送車の後部ゲートを開き、中に乗り込むGreta。「入ったわ。残り時間は?」
「パトカーが向かってる。だが、連中少なくとも2分はかかる」トランシーバーからの声が言う。
「証拠品番号は分かってるな?金属製のブリーフケースを探せ」
「ええ、ちょっと待って…」
「ねえ…、ちょっとおかしいわ…。このブリーフケースって…」Leoの持つトランシーバーから、Gretaの訝るような声が聞こえてくる。
横に立つDonnieが声を掛けてくる。「Leo…、あれ見ろ」
こちらに近付いて来る二人の刑事がそれぞれショットガンを手にしているのが目に入る。「馬鹿野郎!銃はなしだと言っただろうが!」
「警察だ。動くな」刑事の一人が言いながらDonnieを撃つ。

『Criminal Vol. 1: Coward』より 画:Sean Phillips
搬送車のGretaとRedもその様子に気付く。
「何なの?」「オマワリだ…、クソオマワリが」
「警察だ!武器を降ろせ!」そこにやって来たJeffが言いながらGretaとRedを撃つ。
腹を撃たれるGreta、頭を撃たれるRed。
そしてすぐにトンネルの両側はパトカーにより塞がれる。
爆弾騒動に向かったはずの警官。明らかにSeymourは通報しなかった。
奴とJeffを甘く見ていた。
奴らが事を起こすのは、仕事の後だと思っていた。その最中ではなく。
車の陰にしゃがみ、呆然と仲間の死体を見下ろすLeo。刑事がその向こうから回り込んでくる。
ブリーフケースを抱えるように倒れていたGretaが、気絶した警官の銃を取り、その刑事を撃つ。
Gretaに駆け寄るLeo。「逃げなきゃならん、動けるか?」「…かなり血が出てるんだけど…?」
ブリーフケースを持つGretaを支えながら、車の間を抜けるLeo。
「奴らケースを持ってるぞ!撃て!」通信機に叫ぶJeff。
「とまれ!」前に立った刑事に銃を乱射するLeo。
「クソッ!」車の陰にしゃがんで弾をよける刑事。
「何をやってるんだ!」Jeffが通信機に叫ぶ。「奴ら逃げるぞ!」
「ガソリン切れ」で放置しておいた車に辿り着き、それに乗り込み発車するLeoとGreta。
トンネルの出口を封鎖するパトカー。Leoの運転する小型車は、その間をすり抜ける。
そしてそのまま、パトカーが入って来られない細い路地へと進んで行く。

『Criminal Vol. 1: Coward』より 画:Sean Phillips
「ウウ…出血がひどいわ、Leo…。畜生…、痛い…」助手席でブリーフケースを膝に置き、苦しむGreta。
「しっかりしろ、大丈夫だ」
「あの子を…、Angieを…こんな風に置いて行けない…」
「Greta…、お前は死なないから。聞いてるか?」
「これは…ダイヤじゃないわ…、Leo…」苦しい息の下で言うGreta。
「獲物は…ダイヤじゃなかった…」
ブリーフケースを開くLeo。
そこに入っていたのは、整然と詰められたドラッグの包みだった。
「あのクズ野郎」

『Criminal Vol. 1: Coward』より 画:Sean Phillips
* * *
Greta Dreams
「ああ…、畜生、やめて…」
「あたしを引っ張らないで…」
Gretaが目を開くと、そこに巨大な蜘蛛がのしかかるように迫っていた。
そしてGretaは、蝶の舞う光の中へと飛ぶ。
「カワイ子ちゃん…」草原に横たわり娘Angieを呼ぶGreta。
蝶の舞う光に満ちた空を背景に、Angieが現れる。「ママ…、ママ?」
「わたしの足濡れてる。何をしたの?」Angieの足元から血のような赤が昇って来る。
「Angie?どうしたの?」草の上に起き上がるGreta。
そして自分の腹が出血していることに気付く。
「ああ、なんてこと…」自分の手の血を見つめるGreta。
Gretaは見知らぬ部屋のベッドで目覚める。
起き上がろうとして、腹の傷の痛みに声を上げる。
様子に気付いたLeoが、ドアを開けやって来る。「おい、安静にしてろ…。傷が開くぞ」
「あたしどのくらい寝てたの?」「ほぼ一日だ」
家族の友人の、元軍医に手術してもらったと話すLeo。
「あたし生きてるのね」「ああ、大丈夫だ」
母親に電話して、娘の無事を確認しなければと言うGreta。「母さんたちはあたしがどこにいるのか知らないんだから…」
「今は駄目だ、まだ安全じゃない」そう言って部屋から出て行くLeo。
* * *
夕暮れの街。何処かの倉庫の中のような場所。
Jeffは屈強な黒人の男に身体を押さえつけられ、その前で一緒に仕事をした刑事の生き残りが殴られている。「やめろ、Roy!奴のミスじゃないんだ!」
「Marvin、ポリスマンに自分が誰に向かって話してるか思い出させろ」階段の上にソファを置き、玉座のようにしつらえた場所に座るギャング組織のボスが言う。
彼を押さえつけていた男、Marvinになす術も無く殴打されるJeff。
「スーツケースは失くした。だがそれは法廷にはいかなかった、そうだろう?」Jeffは起き上がりながら言う。
「俺はそのことでお前を殴ったわけじゃないぞ、Jeff」ボスRoyは、銃を片手に玉座から降りて来る。「だが、もう誰にも俺のことはRoyとは呼ばせない」
「俺の名前はRoy-L. T.だ。そして俺はこの街の王になる」
「そして王は失敗を許さない」そう言い、Jeffの仲間の刑事Larryを撃つ。

『Criminal Vol. 1: Coward』より 画:Sean Phillips
「イカレ野郎!そこまでする必要ないだろう!」Jeffは叫ぶ。
「その通りだ、必要はなかったが俺はやった。ちなみに…」Royは言う。「他に俺がやる必要のないことはあるか?」
自分は奴を見つけ出し、ブツを取り戻せると必死に主張するJeff。
RoyはJeffに、彼はもう信頼に足りないので自分の腹心を付けると話す。
その言葉に驚愕するJeff。「何だって?俺にDelronと組ませるのか?」
「その通りだ、オフィサー。彼は俺の目だ。だから彼にお前が失敗するところを見せるなよ」Royは言う。
「さもなきゃあ、お前はお前の相棒と同じことになる」
「…死、死、死だ」
* * *
LeoとGretaが隠れている家。陽はほとんど落ちかかっている。
痛む腹の傷を押さえながら、家の中を歩くGreta。
「お前は本当に医者の指示を聞かねえな」Leoが声を掛ける。
もう二日になる、母親に無事を知らせなければ、と言うGreta。
「母さんは強奪のニュースを見たはずよ。もしそこにいた女の似顔絵が公開されていたら…」
「ないよ」Leoは言う。「ニュースにはなったが、詳細は伏せられている。そしてお前も俺も指名手配はされていない」
「あたしたちがブツを持ってるからね」
「そうだ、俺たちは奴らの欲しい物を持ってる」
ここはどこなのか、と尋ねるGretaに、安全なところだ、と曖昧に答えるLeo。
母親に連絡しなければ、というGretaに、Leoは、あの出血量からSeymour達は彼女が死んだと思っているはずだと話す。
「そして今現在は、お前の娘は奴らの関心外だ。それを変えたくはないだろう?」
ジャケットを羽織り、しばらく出てくると言うLeo。
何処へ行くのというGretaの問いには、曖昧に答える。
「少なくとも、タバコぐらいは買って来れるわよね」
* * *
夜の道、車を走らせるLeo。その頭をよぎるのは、状況を正しく見抜けなかったことへの後悔。
ラジオが強奪事件の続報を報じている。その中で、盗まれたものが大掛かりな麻薬密輸事件の公判の証拠品であったことが告げられる。
俺は訴訟事件一覧をチェックし、ダイヤ密輸事件が審理されるのを確認した。だが、その日他にどんな裁判が行われるのかまでは調べなかった。
俺はDonnieとRedを死なせてしまった。そしておそらくはGretaと俺自身も。
多分俺たちの誰も、ここから生きては出られないだろう。
待ち合わせ場所には、既にGnarlyが到着していた。
「すまねえ。尾けられてなかったか?」「俺がわかる限りではな」
Gnarlyは、ほとんど意識のないIvanを抱え、Leoの車へ移す。「それほど問題はなかった。ハイでいられる限りはな。それで、何か必要なものはあるか?」
あんたをこれ以上巻き込みたくはない、と言うLeo。そして続ける。
「一つだけ…。もしGretaが死んだって噂を広められるなら…。少しプレッシャーを下げるのに役立つと思うんだが…。」
「分かった、目ぼしいところに流してみるぜ。何か必要なら連絡しろよ」Gnarlyは言う。
俺に必要だったのはタイムマシンだ。過去に戻り、すべての間違いをやり直す。
…だが、恐らく俺はそれらと同等の、新たな間違いをやらかしていた。
隠れている家へ戻るLeo。
ソファでLeoの帰りを待っていたGretaは、そのままそこで眠ってしまっていた。
「おい、Leo。ソファで女が寝てるぞ。いい女だ」
声に驚いて目覚めるGreta。そこにはIvanが立ち、後から来るLeoに声を掛けていた。
「あなた、Ivanね」事情を察したGretaが言う。
「これが俺の新しい調教師なのかい?」彼女は違うと笑いながら言うLeo。
「こいつ俺を殴るんだよ。でも俺がアルツハイマーだから、誰も聞いてくれねえんだ」「あら、可哀そうに」GretaもIvanに合わせて言う。
やめてくれ、洒落にならねえぞ、と言いながら用意した寝室へIvanを連れて行くLeo。
「わかった、わかった…。俺の道具は持ってるか?」「俺が忘れたことあるかよ?」
その時、Gretaは壁に掛けられた額に入った写真の一つに気付く。
納屋の前に手を繋いで立つ親子三人。その写真に見入るGreta。
Leoが戻り、頼まれていた煙草を手渡す。「ああ、ありがと」
「これはあなたの両親なの?」Gretaは写真について尋ねる。
「ああ、ここは俺の爺さんの農場だ。爺さんはお袋に遺産として遺した。親父のものとなるのを嫌ってな」Leoは言う。「それでここは俺の隠れ家となっている。必要な時のな」
どのくらいここを使っているのか、というGretaの問いに、Salt Bayの仕事の後以来来ていなかったと答える。
「Ivanに薬を打ったの?」と尋ねるGreta。説明する必要はないだろうと、Leo。
その手のものを自分の近くにはおかないで、と言うドラッグ中毒だった過去を持つGreta。
「彼のものも、あのブリーフケースの中のシロモノも…」
「とにかく…、どこか安全なところに隠しておいて。頼むわ」
ポーチに出て煙草を吸うGreta。「あのケースにはどのくらい入ってたの?」「32キロだ」
現在のキロ当たりの単価を尋ねるLeoに、Gretaは純度によるが大体3万ドルだと答える。
「90万ドル以上ってことか」leoは言う。
「ただ嵐が通り過ぎるのを待つってわけにはいかないのよね」
「そうだな…、俺たちはしばらくここに隠れられるだろうが…」
「…だが、すべては吹き飛ぶことになるさ、最後にはな」

『Criminal Vol. 1: Coward』より 画:Sean Phillips
* * *
「ああ、そうだ、お前は見えるところにいた方がいいだろ、Seymour」
路上の公衆電話で話すJeff。電話の相手はSeymour。「Tomが強盗で殺されたんで、俺は一週間オフだ。だが上はLarryのことでせっついて来る。奴から話を聞きたいと」
「だから俺はなるべく長くそっちから離れてなきゃならねえ。わかってるよ…。でもRoy-Lがブツを取り戻せば金は入るだろう」
「俺に泣き言を言うなよ。お前の問題なんて知ったこっちゃない。俺がこれから誰と動くことになってるか知ってるだろう?」
「ああ、あのサイコ野郎だよ。だから例の住所をなるべく早く見つけてくれ」
Jeffの後ろの建物のドアから、白人の巨漢Delronが娼婦に見送られながら、上機嫌で出てくる。
「よう、てめえのケツの閉まり具合はどうだ、Jeffy?」「てめえのババアとハメやがれ」
「クソが…。てめえのチンポでってのはあり得ねえがな」
「じゃあ行くか」二人は車に乗り込む。
* * *
柵の上に並べて置かれた空のビール瓶。一つが銃弾で砕け散る。
怪我が回復し始めたGretaが、銃が下手なLeoに練習をさせている。
「俺は前に銃を撃ったことはあるぞ」「ええ、あんたが10フィート先のやつに当てられなかったのを見てるわよ」
Leoの撃った弾はビール瓶から外れ、柵の一部を削り取る。
「今のは近かったろう?」「近かったねえ…。あんたにはショットガンを手に入れるべきね」
連中がここを見つけるのはそう難しくはないわ、と言うGreta。
「Ivanはあたしたちがしばらく家を空けて町に行ってもも大丈夫なの?」
「ああ、あいつはしばらく意識を無くすよ、あの後は…。まあわかるよな」
二人は夕食に出かけることにする。
夕暮れ。近くのダイナーで話すLeoとGreta。「あれをただ返すだけは可能よね」
「確かにな。まず最初にあれが誰の物だったのか分かればな」「そう難しいことじゃないでしょうね」
「だがまず、殺されないための視点が必要になる。あの手の連中は…。実際のところ取引したい類いの相手じゃない」
「何にも敬意を払わず、ルール無用だ」「ええ、あたしが知ってるほとんどのドラッグディーラーに当てはまるわね」
「あの手のパッケージ。ああいうレンガ型のやつを見たのなんて数回程度しかないわ。多分何かメジャーなところ…、新しい供給元からの最初の荷とか何か」
「畜生、そいつの代金を受け取って逃げる方法は…」
「本気なの?」「俺は金にならない仕事はしねえ。もしそうすべきじゃなかったとしても」
「それもあんたのルールの一つなの?」「ルールをバカにするなよ。そのおかげでお前はここにいるんだからな」
「だが、それはむしろIvanの掟ってところだな…。”金を手に入れる機会を逃すな”」
「俺は奴に借りがある…。返せないほどの」Leoは言う。「あいつは俺をシステムの外に護ってくれた。親父がムショに入った後に」
「その時、彼があんたに仕事のやり方を教えたの?」「いや、俺はガキの頃あいつと親父からそれを盗んだんだ」
「8歳の時だったな、俺が人ごみの中で最初に仕事をやったのは」
「よう、姉ちゃん。ここらじゃ見ねえ顔だな」ダイナーにいた地元の男たちが、Gretaに絡んでくる。そんな海賊ズボンは放っぽってこっちで飲まねえか?
「あたしがそんなことしたがってるように見えたら教えてくれよ」憎々し気に口を曲げて言うGreta。
怒る男を、騒ぎを起こすのはやめてくれ、と下出に出てなだめるLeo。
気を削がれ、時間の無駄だと去って行く男たち。
「まあ、純正の田舎者ねえ」と面白がるGreta。そろそろ戻った方がいい、とLeo。
外に出てショットガンの弾を買い忘れた、店が閉まってると言うLeo。
「あんたあの連中にちょっとでも怖がってたわけじゃないんでしょう?」とgreta。
「でもあんたは引き下がった」「まあな」「なぜ?」
「俺は他のことを怖れているからだ…。多分」
「暴力は、結局…、波及効果ってやつを引き起こす。わかるだろう。そして俺は波風を立てないようにしてる」
「俺の自尊心は、少々の阿呆に奴らを怖がってると思われることに耐えられるのさ」
「あんたはあたしがずっと思っていたのとは違うみたいね」Gretaは言う。
「みんな大抵はな…」「ええ、でも大抵はがっかりさせられる」
隠れ家である農場に帰った二人。
LeoはIvanが問題なく眠っているのを確認する。
Gretaは鏡の前で裸になり、傷の状態を調べる。「ああ、ひどいわね…」
「なあ、Ivanはまだ大丈夫そうだ。お前が何か…」言いながらドアを開けたLeoは、そこでGretaが裸であることに気付く。
慌てて顔を逸らすLeo。「クソッ、すまない…。俺は…」「いえ、大丈夫よ」
「…あたし、ちょうど新しい傷がひどすぎないか、あんたに見てもらおうかと考えていたところだったから」裸でLeoの前に立つGreta。
「いや…。傷はお前の身体の美しさを増しただけさ、Greta」
「唯一俺が心配するのは中身だけだ」
「あんたは違うわね」Leoの胸に手を掛けるGreta。
そして二人はキスし、抱き合ってベッドに倒れ込む。
眠りにつく前のどこかで彼女は囁いた。”無事に終わると言って”。
そして俺は、大丈夫だと約束した。
ここから抜け出す道を見つけると約束したんだ。
* * *
明け方、薬が切れたIvanが起き出し、ベッドから出る。
「Tommy…、打ってくれねえか…。どこにいるんだ?」
Leoの父であるTommyの名を呼びながらうろつき回るIvan。やがてクローゼットの扉を開ける。
「おめえがここでなんかをしまっとく場所ぐらいわかってるんだぜ…」
そして奥の隠し扉の中に、ブリーフケースを見つける。
そして嬉々としてそれをベッドへと運ぶ。「ビンゴだ。それでハズレって言われるところかな」
ブリーフケースを開け、中に詰められたドラッグを見つける。
「おう…、大当たりじゃねえか」
* * *
「これは意味がねえよ。あの女が生きてるのか死んでるのかもわかってねえんだぞ」
JeffとDelronは、Gretaが母親と暮らすアパートに来ていた。
「黙って、バッジを出して俺について来い」文句を言うJeffに告げ、階段を上って行くDelron。
ブザーに応え、頭にカーラーを巻き付けたGretaの母親が出てくる。「何の用なの?今何時だと思ってるの?」
「はい、奥さん。我々は警察です」帽子を取り、慇懃に挨拶するDelron。後ろでJeffがバッジを掲げる。
「まあ…」絶句するGretaの母。
「娘さんGretaのことについて話す必要があります。入ってもよろしいですか?」笑顔で告げるDelron。
* * *
農場。ベッドで目覚めるLeo。隣ではGretaが眠っている。
なぜ彼女はこんなことをしたのか、と考えながらも、久しぶりに静かに眠れたことを喜ぶLeo。
Gretaを起こさぬようベッドを出て服を着るLeo。
そしてその時、俺は何が起こっているにせよ、これは生き延びる以上のものとなったことを知った。
そして、俺はそこで何を感じていたのかさえ思い出すことができなくなった。
ドアを開けて、部屋を出さえしなければ。
Ivanを寝かせた部屋に行くLeo。だが、そこにIvanの姿はない。
そこに永遠に留まっていることさえできたなら。
そして、外の世界を締め出していられたなら…。
階段を上り、上階に空いたドアを見つける。
「おい、爺さん?何を…」
そこで開けられたドラッグの入ったブリーフケースが目に入る。
奥のバスルームで、Ivanは腕に注射器を突き立てたまま、過剰摂取により絶命していた。
「そんな…」
「ああ、Ivan…、そんな…」
そのままドア口に顔を伏せ、座り込むLeo。
やがてGretaも現れ、Ivanの姿に呆然とする。「なんてこと…」
「俺が寝過ごした…」Leoは座り込んだまま言う。「それであいつはなんか射てるものを探しに行ったんだ」
あんたのせいじゃないと言うGreta。「そうなのか?」
「俺があいつを安全に守るためにここに連れて来た…」
「そして俺が混ぜ物のないヘロインの山と一緒に放置したんだ」
「ちゃんと隠したじゃない」「お前からな」
「あいつはこの家を知ってたんだ」
「この家を、よく知ってた…」
「Ivanはジャンキーだったのよ」Gretaは言う。「あんたが彼を好きだったのは分かる。でも、ジャンキーがこんな風に死んでしまうことについて、他の誰かを責めることはできないわ」
「お前にはわからないよ」Leoは言う。
「いいえ、あたしにはわかる…。わかってるでしょ?」「そういう意味じゃない…」
「…あいつはずっとこんなだったわけじゃないんだ」
「誰も他の誰かを中毒にすることなんてできない。そういうもんじゃないのよ」
「あんたのせいじゃないわ」
「お前にはわからんよ」
「じゃあ、説明してよ」
沈黙するLeo。
「無理だ」そしてバスルームから出て行く。
* * *
Leoは家の外で、スコップで地面を掘る。
傍らには、シートの上に寝かせたIvanの遺体。
少年時代のLeo。シャッターの降ろされた作業場のようなところにいる。彼の前にはかつてのIvanがいて、Leoに向かって話しかけている。
「駄目だ。必要が無けりゃぶつからない。ぶつかるのは素人のやり方だ」
「もし俺たちがこいつに仕事の仕方を教えてると知ったら、俺たちMarinaに殺されるぞ」Ivanの後ろで、Leoの父Tommyが言う。
「まあな…。Marinaがまだいたら、やらないだろうな…」
「だがな、Tommy、俺が見るところお前には二つの選択肢がある」Ivanは言う。「新しい仕事を見つける…、またはこのLeopoldに俺たちの仕事を教えるかだ」
「坊主がこの世界で生きて行くなら、どうやって生き延びるかを知ってなくちゃならないだろう」そう言うIvanを、複雑な表情で見返すTommy。
「ねえ、Ivanおじさん、見てよ?」Ivanが後ろを向いた隙に掏り取った財布を見せるLeo。
「おう、こいつはやられた。坊主にゃ天性のものがあるな」
「でも気付いてた、そうでしょ?」抗議するように言うLeo。
「少しな、Leo。ちょっとだけさ。だがお前にゃあ熱意がある」
現在。墓穴を掘る手を止め、横たわったIvanを見つめるLeo。
少年時代のLeo。夜の人ごみの溢れる街。
前に進もうとするLeoの肩を、Ivanが掴み留める。「止まれ、坊主…。駄目だ」
「聞いてくれ、Ivan」手錠を掛けられ、パトカーに連れられて行くTommyが言う。「Leoの面倒を見てくれ。そいつを守ってくれ」
「それだけが俺の心配だ。そいつを危険から遠ざけておいてくれ」パトカーに押し込まれるTommy。
「父さん!いやだ!」叫ぶLeoを押さえるIvan。
現在。墓穴に寝かされたIvan。
スコップを構えたまま立ち尽くし、その顔を見つめるLeo。

『Criminal Vol. 1: Coward』より 画:Sean Phillips
そこへGretaがやって来る。「あんた彼をこんなところに埋めるつもりなの?本気なの?」
「これを正規に届け出ることができるなんて思えねえ…」Leoは言う。「俺にどうしろっていうんだ?」
「ただ…、良くないように思えて…」
「Ivanはこうやって生きて来たんだ。仕組みの外で。そしてこうして死んだ」
Undertowの看板の前でIvanとTommyが並んで写っている写真。店内にも飾られていた写真。
Leoはその写真を、墓穴に入れる。
「大丈夫?」Gretaが問いかける。
「俺は大丈夫さ」Leoは目をつぶったまま応える。
「そうは見えないけど」
しばらくの沈黙の後、Leoが口を開く。「あいつにはこれでよかったんだ。あんなのはまともな生き方じゃなかった」
「あんたそんな風に思ってないでしょう。Leo…。そんな風に思えるはずがない」
「俺がどう思ってるかなんて言うのはやめろ」
「ただ寝たからって理由で、俺のことを分かったつもりになるな」
「でもあたしは…。あんたがどうしようもなくなってるなら、あたしに」
「あたしは助けになりたいのよ」
「俺はお前の助けなんて要らない…。誰からのもな」
「あんたって…。あたしはあんたは違ってると思った。思われてるようなのは間違ってると」
「でも、今わかったわ。あんたは暴力や、銃や、その手のものを怖れてはいない…」
「でも、あんたはあたしを受け入れるのを怖れてる」
「あんたは意気地なしよ」
その言葉に愕然とするLeo。そして言った当人のGretaも。
* * *
車のトランクにブリーフケースをしまうLeo。
「行っちゃうの?あんたただ行っちゃうつもり?」Leoの様子に驚き、家から出て来たGretaが言う。
「もう充分待った。何とかする方法を見つける」
「可能なら、俺はこれから俺たちを解放し、いくらかの金を手に入れるつもりだ…。それで俺たちはそれぞれ別の道を進める」
「お前は娘を取り戻し、望み通り一緒に街を出られる」
「Leo…」「もう一日隠れていてくれ。できるだろう?頼むぞ」
去って行くLeoの車。
その場に立ち尽くし、煙草を吸うGreta。その目に涙。「畜生…」
そして家に戻って行く。
Ivanが倒れていたバスルームに戻るGreta。
そこには開かれたヘロインのパッケージがそのまま残されていた。
「畜生、Leo…。あんた何やってるのよ」頭を抱えるGreta。
煙草を点け、ドア口でヘロインを見つめるGreta。
「クソッ!」そして背を向けて去って行く。
* * *
FRAK KAFKA, PRIVATE EYE by Jacob K.
Gメンどもは午前中いっぱいかけて俺を絞った…。
「言ってるだろう。俺はあの冷たくなってる女については、何も知らん」椅子に縛られたKafkaが言う。
「俺は彼女を探すよう依頼されただけだ」
「分かった、Frank。じゃあ依頼主の名前を教えろ。そして俺たちが確認する。それで問題ないな?」Gメンの一人が言う。
「依頼者だって…?それは…、それは簡単だ…。俺…俺は…」戸惑うKafka。
なぜ俺は誰が自分を雇ったか思い出せないんだ?何が起こってるんだ?
電話が鳴る。数回の呼び出しの後、留守番電話に切り替わる。
「お母さん?いるの?」Gretaの声が聞こえてくる。
現在家に戻れない状況を説明しようとするGreta。
だが、その母親は既に殺され、床に倒れていた。
電話はノートPCに繋がれ、Jeffがそれを操作し逆探知を試みている。
その後ろをシャツに血を付けたまま歩き回るDelron。立ち止まり見下ろすソファには、Gretaの娘Angieがダクトテープで縛られ、口を塞がれている。「見つけたか?」
やがてJeffが答える。「見つけたぞ」「奴らどこにいるんだ?」
「ちっぽけな窪地の農業地帯だ。街から1~2時間のところだな」
「よし、写真を撮って、お前のチンケな雌犬野郎Seymourに連絡しろ」Jeffに向かってポラロイドカメラを放るDelron。
ソファに座り、Angieを抱き寄せるDelron。「笑えよ、お嬢ちゃん。こいつはお前のママ宛てだぜ」
Jeffはシャッターを押す。

『Criminal Vol. 1: Coward』より 画:Sean Phillips
* * *
夜の街。Leoは待ち合わせた場所でJennyという女性と会う。
Jenny Watersの父親はLeoの父親と時々組んで仕事をしていた犯罪者で、Leoとはハイスクール時代からの付き合いだ。だが、彼女はLeo達とは反対の道へと進んだ。
彼女は現在警察の内務調査課に属している。Jennyは彼女を取り巻く世界すべてから孤立し、敵に回しながら生きている。
Leoと彼女は、街中のダイナーに入る。
俺はJennyに自分の抱えている問題を説明した。悪徳警官に関わることになった場合、行くべき最良の場所は内務調査課だからだ。
「Leo、あんた馬鹿よ。なんで先に私の所に来なかったのよ」Jennyは言う。
「さあな、俺がタレコミ屋じゃないからかな?」「馬鹿なこと言ってないで」
「俺には正しく見えてなかったんだよ、Jen。連中は仕事の後、力ずくで俺たちを押し出すんだろうと思ってた。奴らには全く別の計画があったんだ。明らかに…」
「そうね、Jeff Driscollと彼の仲間は、ここしばらく誰かの手の内にあった。私たちはただ、最近までそれが誰なのか確信が持てなかった」
「でも、4か月前、Delron Krumskyって名前のクズが、港湾警察にブリーフケース一杯のクスリを持ってるところで捕まった」
「そして次の日、Jeffのパートナーが朝食に自分の銃の弾丸を食べた。オッペンハイマーを連れて来なくても計算できるわよ」
「DelronはRoy-Lとして知られる男の下で働いてる。彼は明らかに自分のスペシャルヘロインが持ち去られたことにハッピーじゃないでしょうね」「スペシャルだって?」
「高純度。密輸が容易い。そしてその価値を2倍にできる」
「Jeffと仲間は、Delronにセキュリティチェックを通過させるつもりだったんでしょう。…でも、誰かが誰かに支払いを忘れて、そして全てが駄目になった」
「それでJeffは奴がパートナーのような最期を迎えないように急発進したわけか…」Leoは言う。
「そこでSeymourが入って来るわけよ。そしてあなたが格好のカモとして選ばれた」とJenny。
「何だって?いや…、Seymourは仕事のために俺が必要で…」
「そうよ、あなたは確かに優秀、Leo。でもSeymourはあなたについて何を知ってる?」Jennyは言う。「逃げる。あなたは常に逃げる」
「あのクソ野郎」その意味に気付いたLeoは怒りに顔を歪める。
「銃弾が飛び始める。あなたは逃げ出す。連中はヘロインを取り戻す」
「その時に、トンネルの中にいた一般人は、強盗犯の一人が逃げたことを目撃する」
「そしてその男が盗んだものを持って逃げたに違いないと。わかる?」
「もしあなたが実際に盗んだものを持って逃げてなかったとしても、州中の全ての警官があなたを追うことになる」

『Criminal Vol. 1: Coward』より 画:Sean Phillips
「そうして、Jeffは目撃者を個人的に選別する。その結果、唯一の犯人像はあなたと似ても似つかないものが出てくる。…山羊髭以外はね。ちなみに私、これ嫌いなんだけど」Leoのあごの山羊髭を引っ張りながら言うJenny。
「それで?そいつら悪者連中を一掃して、俺の人生を楽なものにしてくれる計画はあんのかい?」
「そうできればいいんだけどね」
「いいえ、警部補からは様子見をするよう指示されてる。この全体がどこに向かうのか注視しろって」Jennyは言う。
「あの人はまだ、これが何らかの形でHydeのビジネスに繋がればと望んでるのよ」
「それで、これからどうするの、leopold?」Jennyは尋ねる。
「分からねえ…。ただ、少なくともこれで俺がどういったところに嵌まり込んでるのかは分かったよ。これで何とか…」
「Roy-Lとその手下には気を付けてね。連中はあなたが例のスーツケースを持ってるってだけで殺す奴らよ」立ち上がったLeoを止めて話すJenny。
「ドラッグディーラーやヒモ連中がどんな人間かわかってるでしょう。奴ら全員偏執狂よ」
「俺のことは心配するなよ。ちゃんと生き延びるさ」Leoは言う。
「分かってるわよ。それはあなたがいつもやり遂げるもう一つのことだからね」
* * *
次の行動を考えたLeoは、Seymourの住居へと向かう。
奴こそがこれを始めた者ならば、これは奴によって終わらなければならない。
銃を用意し、車を降りるLeo。
だが、奴のアパートには灯りがなかった…。俺はもう潰す時間は要らない。もう考える時間も。
それで俺は選択肢を秤にかけた。俺はアパートを調べて、Seymourの帰りを待つべきなのか?
あるいは、今夜はここで終わりにして農場に帰るべきか?Gretaとちゃんと話すべきか…。
…俺がなぜこうも駄目になっているかを説明すべきか…。
LeoはSeymourのアパートを見上げながら考える。
* * *
農場。Gretaはソファに座り、煙草を吸い続けている。
窓の外にこちらに向かって来る車のヘッドライトが見える。
煙草を消し、窓に駆け寄るGreta。「よかった、Leo…」
車は農場に向かって、まっすぐ近づいて来る。
* * *
LeoはSeymourのアパートを調べていた。
Seymourが自宅のどこに金を隠しているかは15分ほどで見つかった。
奴はほとんどの金を巻いてカーテンロッドの中に隠していた。千ドルに満たないほどだ。何にしろ今回の迷惑料としていただいた。
だが、他に重要と思えるものは見つからなかった。電話番号も、手書きのメモも…。
Jeffや、Roy-Lや、その手下がここにいた形跡もない。
そもそもSeymourが最後にここにいたのがいつなのか、いつ戻って来るかの手がかりも無い。
一個の小さな赤いライト以外は。
留守番電話のメッセージがあることを示す赤いライト。
Leoは再生ボタンを押す。一件のメッセージがあることが伝えられる。
『Seymour、Jeffだ』留守番電話からJeffの声が流れる。PM3時47分。
『やっと俺たちが失くした荷の行方の手掛かりを見つけた』
農場。GretaはLeoを迎えるべく外に出る。
『それで、お前と俺と、俺たちの新しい友人は田舎へ旅行に出かけることになった』
「なんだと…」Leoは驚愕する。
『おい、電話を取れよ』
農場。ヘッドライトの奥の暗闇で、車のドアが開き三人の何者かが降り立つ。
『分かった…。携帯の方にかけてみる』
アパートの階段を駆け下りるLeo。
農場。「そんな…」ヘッドライトの光の中、慄くGreta。
車から降りたJeffが銃を構えながら向かって来る。その後ろにSeymour、Delron。

『Criminal Vol. 1: Coward』より 画:Sean Phillips
Too Late
道端に車を停め、双眼鏡を覗くLeo。
どんなに早く車を走らせようが、すでに手遅れだとわかっているときには、時間はただ止まり、死んでいる。
双眼鏡の中の農場は、一つ灯りはついているが周囲に人の気配はない。
Leoは銃を手に路肩から飛び降り、隠れながら徒歩で農場に近付く。
ほんの一瞬、近くに車が無い様子を見て、もしかしたら…、と思った。もしかしたら…、手遅れではなかったのかと。
ドアを静かに開けるLeo。
だが心の中では、真実は分かっていた。
家の中に入ったLeoの顔が歪む。
Gretaの遺体は床の血の海の中に横たわっていた。
拷問の跡。両手は床に釘で打ち付けられ。顔にはいくつもの煙草を押し付けられた跡。
Gretaの遺体の前にしゃがみ込むLeo。
「そんな…、奴らお前に何をしたんだ…?」
「すまない、Greta…。俺は…」
「女のことは悪かったな」その時、Leoの背後から声がかけられる。
そこにはSeymourがLeoに銃を向け立っていた。「Delronは、ここにあるドラッグが2階のバスルームにあった一包みだけじゃ、納得させられなかったんだ」
「この人でなし野郎…。こんなことをする必要はなかっただろうが…」
「おい、俺は彼女を助けようとしたんだぞ、本当に」Seymourは言う。「実際、そこのショットガンで俺の鼻を砕いたっていうのに」
「だがあいつらは…。お前はあいつらがどういう類いのもんか知らんだろう」
「ああ、知ってるさ、Seymour」
「それで、奴らは俺のためにお前をここに残したのか?」
「そうだ、奴らにお前は面倒を起こさないと話したんだ」
「俺がこいつを見せればな」SeymourはDelronとAngieが写ったポラロイド写真を渡す。
「これは…?」「Gretaの娘だ。Angie。Delronがこの子を押さえてる。保険としてな」
「俺はお前が彼女の母親同様にこれに興味を示すって、奴に保証したよ」
「違いはお前がガキと交換にブリーフケースを渡せるってことだ」
「まったく、野郎このドタバタにクソうんざりしてたんだぞ。俺は奴をお前を逃がすように説得までしたんだぞ」
「お前さん、いい友達だな…」
「違うな」Seymourは言う。「俺がこのヘロインの一番美味しいところをいただくためさ」
二人は外に出てLeoの車へ向かう。Leoの後ろを銃を突きつけながらSeymourが歩く。
「それでこれが今のお前の生き方ってわけか、Seymour?お前の同類を背中から刺して?キチガイ野郎と働いて?」
「こいつは只の一つの仕事だ…。その価値に対して面倒になり過ぎたんだ」
「お前、このタタキについて嘘つく必要なかっただろうが」Leoは言う。
「お前はドラッグディーラーのために巨万の混ざり物のないドラッグを盗むっていう仕事を請け負ったか?」
Leoは沈黙する。
「な、俺はお前を分かってるだろう?」Seymourは言う。
道路に上がり、駐めた車に近付いて行く二人。
「お前はそう考える。多くの奴らもそう考える…。だが、お前らは何もわかっちゃいない」Leoは言う。
「お前は生き残るためなら何でもする。断じてな。俺は知ってるさ」
「親父がムショに送られてからずっと、お前が自分に同じことが起こらんよう怖れ続けていることを知ってる」
「分かるだろう、ほとんど滑稽なもんさ。Greta、あいつも知りたがってた…。俺がそこまで怖れていたのが何だったのかを」Leoは言う。
「そして俺はあいつにそれを話すことができなかった。それはつまり…、あの場にいなかった誰にも俺は話すことができなかったからだ」
「お前、何を話してるんだ?」
「トランクの中だ。開けていいか…?」
二人は車に辿り着く。
「開けろ。ただゆっくりとな」銃を構えたままSeymourが言う。
「誰もが俺の親父がTeeg Lawlessを殺したと思ってるだろ」トランクを開けながら、Leoは言う。
「そして俺もTeegは最低のクズ野郎だったと思ってる。奴はああなるべきだったのさ…。だが、もし親父がやったなら、計画的にやったはずだ。逃げる手立てを考えて」
「親父があの場に立ち尽くして、オマワリが来るのを待ってたはずはねえ」
「よし、見せろ。小細工はするんじゃねえぞ」seymourは言う。
Leoはブリーフケースを開け、中のヘロインを見せる。「ほらよ」
「よし。待て、お前何を話してたんだ?」Seymourは言う。「お前がTeeg Lawlessを殺したっていうのか?」
「そんなはずはねえ」
Leoは隠し持っていたナイフで包みの一つを切り開く。
「あったのさ」
Leoはその包みをseymourの顔面に投げつける。
純度の高いヘロインを大量に吸引し、パニックに陥り銃を取り落とすSeymour。
Leoはその銃を拾う。
「それが俺が常に怖れ続けていたもんなんだよ。チンケなマヌケ野郎」
「俺の中にあるものを」
LeoはSeymourの額を撃ち抜く。
怒りは盲目、そして俺は愚か者だ。Seymourが一個の死体となったとき、俺に考えられるのはGretaの娘のことだけだ。
俺は奴を問い詰めるべきだったのだろう…。だが顔中に高濃度のヘロインを浴びた奴にそれが可能かなんてわかるものか?
奴は何にしろ、俺が何か聞きだす前に死んじまったってところだろう。
Seymourの死体を探るLeo。
そしてモーテルの鍵を見つける。
この通り。俺は幸運をつかむ。
幸運。そうだ。
家へ戻り、Gretaの死体の前に座り込むLeo。
俺の幸運は常に呪いでしかなかっただけだ。
Gretaの目を閉じる。
そして農場の家に火を放ち、Leoは去って行く。

『Criminal Vol. 1: Coward』より 画:Sean Phillips
* * *
LeoはSeymourが鍵を持っていたモーテル、The Larkにやって来て、道路の向かいから様子を探る。
Seymourの鍵は9号室。そして11号室の灯りが点いている。
俺の願うところは、JeffとDelronがここで待っていることだ。Angieと一緒に。
部屋の中を覗き様子を確認するために11号室に近付いて行くLeo。
その時、Delronが氷のバケツを手に部屋を出てくる。「ピィピィ泣くのをやめろ!クソチビが!」
Leoは車の陰にしゃがんで隠れる。
Delronは通路の奥の氷の自販機へと向かう。「クソが…。あのガキを売っ払うのが待ちきれねえぜ…」
Leoは銃を手にDelronの背後へと忍び寄る。
だが、Delronは素早く気づき、氷のバケツで殴りつける。銃を落とすLeo。
殴られ、ガラス窓に叩きつけられるLeo。
「クソ野郎が、やれると思ったか、アホが?」蹴りつけるDelron。
「俺を撃てると?」Leoの髪を掴み引き摺り上げるDelron。
「おめえは短いしみったれた人生の中で最大の失敗をしたところだ」Leoの胸ぐらを掴み言うdelron。
「クソアマとおんなじように切り裂いてやるぜ」
腰に差したナイフに手を伸ばすDelron。だがそこには鞘しかない。「どこだ?俺の…?」
それは闘いの隙に掏り取ったLeoの手の中にあった。
痛みに満ちた鋭い記憶の一つの恩恵は、俺は一度何かを見れば、それを記憶できるということだ。常に。
LeoはDelronの首筋をナイフで切る。
そして俺は人間のどこを切るべきか憶えている。どの動脈がこいつを素早く出血死させられるかを。
LeoはDelronの太ももを切る。
こいつはRicky Lawlessの兄貴が、休暇で家に来た時、俺たちに見せてくれたことの一つだ。
これは思うより遥かに簡単だ。だが、それはいつも殺しがそうあるべきよりもいかに簡単であるかということで俺を驚かせる。
血の海の中に倒れる瀕死のDelron。「…おい…」
俺がそれを心底嫌うもう一つの理由だ。
腕に刺さったガラス片を抜くLeo。
銃を構え、慎重に部屋に入って行くLeo。
中にはJeffの姿はなく、Angieがダクトテープで椅子に縛られている。
「大丈夫だ…。叫ぶなよ。お前を痛めつけに来たわけじゃないんだ」Angieに近付くLeo。
「落ち着け…。他のやつはどこだ?黒人の?」Angieの口のテープを剝がしながら、尋ねるLeo。

『Criminal Vol. 1: Coward』より 画:Sean Phillips
「あいつは、行っちゃった…。電話があって…、それで、それで…」
「大丈夫だ…。もう安全だぞ」周囲を窺いながら、Angieの手足のテープを剥がすLeo。
「誰…?でもあなた誰なの?ママはどこ?」
「お前のママは…。俺はママの友達だ、分かるな?名前はLeoだ」Amgieの手を引いて出口に向かうLeo。
「それでGretaと、お前を助けるって約束したんだ」
車へ向かうLeoとAngie。「怪我してるよ…。血が出てる」「ああ…、もっとひどい目に遭ったこともあるさ」
* * *
Leoが助けを求めて向かったのはUndertowだった。
店は閉まっていたが、Gnarlyは掃除片付けのためにまだ残っていた。
血まみれでよろけるように入って来たLeoに驚くGnarly。
「あのすげえ救急セットがまだあるって言ってくれよ。頼むぜ…」「こりゃひでえ…。Leo。お前どうしたんだ?」
そこで一緒にやって来たAngieに気付く。「おい…、この子誰だ?」「Angieよ。誰?」
「Gretaの娘だ…。この子を預かって欲しいんだ、Gnarly」
「何言ってんだお前?どこにも行ける状態じゃねえだろうが」GnarlyはLeoに肩を貸し、店内のブースに運ぶ。
「まだ終わってねえんだ…。ただこの出血を止めてくれりゃいい。少しの間休ませてくれ…」「Leo…」
「この人を助けられるの、おじさん?あたしを怪物から救ってくれたのよ」傍に立つAngieが心配げに言う。
「ああ、こいつはクソ鎧を着けた本物の騎士だからな」Gnarlyは言う。
「よし、傷の具合を見せてみろ」Leoの服を裂くGnarly。Leoは痛みに声を上げる。
「深くはねえ。だがこれで運転はしない方がいいな…。アホタレ小僧が」「あの子の前じゃ口に気を付けてくれよ…。Gretaのお気に召さねえ」
「俺が今後、あいつに会うことはなさそうだがな?」Gnarlyは言う。
「誰もな…。俺以外の誰も…」Leoはそう答える。
* * *
ソファの上で目を覚まし、起き上がるLeo。
そして俺は翌日の午後のどこかで、Gnarlyのオフィスで彼女の夢から目覚める。自動車事故に遭っていた気分で。
上階からGnarlyがあの子と何かの歌遊びをしているのが聞こえて来た。笑うところだが、それがひどく痛みを伴うのかはわかっていた。
ドアを開け、物置に入るLeo。
それで俺は”忘れ物”を漁った。
金も持たずにこの店に来たり、トイレでクスリを売ろうとしたような馬鹿どもから取り上げたすべて。
Leoは棚にあった薬瓶を手に取る。
オキシコンチン2錠と覚醒剤少々が俺を行くべきところへ連れてってくれるだろう。
ここにある他のいくらかの物も役に立ちそうだ。
錠剤を口に放り込むLeo。
Gnarlyが気にしなきゃいいと願うが、モタモタして尋ねているわけにはいかない。
彼に言ったように、これはまだ終わっちゃいない。
服を着て、階段を上って行くLeo。
もはや生き残るだけでは不十分だ。
警察署から出てくるJeff。
駐めてあった車のドアを開けて戸惑う。「何だこりゃ?」
車の中には探し求めていたブリーフケースが置かれていた。
Jeffは容易く見つかる。警官は大抵そうだ。奴のような悪徳警官でもたまには勤務時間通りに動く。
車の中でブリーフケースを開けるJeff。ヘロインの包みが並ぶ上に、一枚のメモが置かれていた。
“全部ある。これでチャラにして別れようぜ。心配ご無用。 -L”
Jeffはメモを握り潰す。「クソ野郎…」
北の小さな保安官事務所が、Delronの指紋から身元を確認するには、少なくとも一日かかるだろう。身元を示すものはすべて片付けておいたがゆえに。
それでも俺には多くの時間は残されていない。
Jeffの車が動き出し、Leoは尾行を始める。
JeffとRoy-Lが、自分たちは何者を相手にしているのか理解するまでには。
Roy-Lのアジトに着いたJeff。見張りが彼を入り口ドアに手荒に突き飛ばす。「とっとと入りやがれ」「俺に触るんじゃねえ」
奴は俺を地獄の門へと案内してくれた。そして俺は、奴がそこに降りて行く間に見張りの詳細を観察する。
腰のチェーンに付けた鍵で、入り口を閉める見張りの一人。
多くの大物ドラッグディーラー同様に、Roy-Lは安全な場所に厳重に閉じこもっている。
だが道はある。
連中の盲点は、奴らが警官隊や商売敵に対抗できる形で守りを固めていることだ。
酒瓶を手に近くの道を歩くLeo。
ただ一人で奴らの砦に乗り込もうとする奴がいるなどと、決して思いつかない。
瓶の口に差し込んだ布に火を点けるLeo。
そいつは狂人だからだ。
路地に駐められた車に火炎瓶を投げつけるLeo。
燃え上がる車。
自殺志願者だからだ。
「おい、あの車燃えてるぞ。あんたらのじゃないのか?」Leoは見張りの男たちに声を掛ける。
「あ…?クソッ!Roy-LのVeeが!」驚く見張りの男たち。
「どけ!白人野郎!」Leoを押しのけて車へ走る見張りの男たち。
そして、Leoの手には男から掏り取った、チェーンのついた鍵があった。
その鍵でアジトに入り込むLeo。
現在の最大の懸念は、中に何人いるかだ。JeffとRoy-Lと一緒に固まっていてくれればいいが…。祝いのために。
「俺をコケにしてる野郎…。お前取り逃がしたのか」Roy-Lが言う。
JeffとRoy-Lの前のテーブルには、開かれたブリーフケースが置かれている。
「時間の問題でしかないさ、Roy-L。いつだって時間の問題にしかならん」Jeffが言う。
「懐かしのDelronはどこにいるんだ?」Roy-Lが尋ねる。
「恐らくはチビガキをIvansに手渡したか、ヤバイお楽しみか…」
「よかろう…。こいつを女たちに手渡して、俺の運用資金からなにがしかの見返りを受け取れ」Roy-Lはブリーフケースを閉じながら言う。
「それについてだが…、この一連の仕事は、俺をかなり追い込んでるんだよ、Roy-L…」Jeffは言う。
「内務調査課が俺について調べ上げてる…。特にLarryが消えてからは」
「昨日は急いで街に戻らなきゃならなくなり、奴らに数時間締め上げられたんだ」
「それで?何が言いたいんだ?」Roy-Lは言う。
「金が必要だ。俺は消えなきゃならない。こいつは熱くなりすぎたんだ」Jeffは言う。
「金だと?お前の間抜けっぷりがこの厄介を引き起こしたのにか」Roy-Lは言う。「お前もっと欲しいってのか?」
「失踪するなんてのよりも…、そうだな」指を銃の形にJeffの顔に向けるRoy-L。
「みんな俺がここにいるのを知ってるんだぞ、Roy」Jeffは言う。
「アホが…、どのみんなだよ?」Roy-Lは嗤う。
FRAK KAFKA, PRIVATE EYE by Jacob K.
500ドルの罰金と、接近禁止命令の後、俺は釈放された…。
「死んだ女に対しての接近禁止命令だと?」街路に立つKafkaは言う。
だが、俺がやった全ては全く理解できず、そしてまだ…。
「なぜ奴らは俺に死んだ女に対しての接近禁止命令を出したんだ?」
…俺はこれまで通り暗闇の中にい続け、出口を探しているだけだ…。
「彼女は生きている、そうなんだろう?この野郎!彼女は生きているに違いないんだ!」拳を振り上げ、叫ぶKafka。

『Criminal Vol. 1: Coward』より 画:Sean Phillips
俺の脳のある部分は、目覚め、俺に向かって叫ぶ。”奴らを殺し合わせろ!ただここから立ち去れ!”
だが、あのドアを抜けた時から戻り道はなくなっているを、俺は分かっていた。
サブマシンガンを手に、棚の陰から様子を窺うLeo。
なぜなら俺は父がやったのと同じやり方でルールを破ってしまったからだ。
頭に浮かぶGretaの姿。
…そして俺は自身を止められなくなっていた。たとえそう望んだとしても。
「おい!この…」Leoの姿に気付いたRoy-Lが声を上げる。
Leoは銃を撃つ。
顔面、胸に銃弾を受けるRoy-L。Jeffは咄嗟に伏せる。
護衛の男たちも銃を抜き、応戦する。
Gretaの言った通りさ。俺は銃が下手だ。
それが俺がGnarlyの”忘れ物”からウージーを持ってきた理由だ。
撃ち続けるLeo。
これなら銃の名手である必要はない。ただ正しい方向を狙っていればいいだけだ。
銃弾に倒れる護衛の男たち。
それが理屈だ。少なくとも。
テーブルの下から銃を撃つJeff。「クソがっ!」
胸と腹に銃弾を受けるLeo。
Jeffは撃ち続ける。
倒れ行くLeoの腕をかすめる。

『Criminal Vol. 1: Coward』より 画:Sean Phillips
倒れるLeo。
「このマヌケなクズ野郎が。お前何考えてんだ?」倒れたLeoを見下ろしながら言うJeff。「お前は俺の命を救っただけだぞ」
「ク…クソ…野郎…」瀕死で呟くように言うLeo。
「結局のところ、お前はアタマよりタマがあったってところだな…。最後には」言いながら階段へ向かうJeff。
「どうしたんだ!Roy-…」外にいた見張りの男たちが階段を降りて来る。
「もういねえよ!」即座に二人を射殺するJeff。
「ゴミ野郎どもが…」外に出るJeff。
車に戻り、警察無線で連絡するJeff。
「派遣要請だ。こちらは警察車両215。救援を求める」
「ドラッグ関連の銃撃戦に遭遇し、複数の被害者が出ている」
「俺にも救急が必要。撃たれた」
階段の下。倒れていたLeoの姿はない。階段へ向かう血の跡。
『警察車両215、所在地を明確にせよ。応援と救急車両は向かっている』通信が応答する。
血の海に倒れる見張りの男たち。
「125丁目、駅の近くだ。火災を目印にしろと伝えてくれ」燃えているRoy-Lの車を見ながら言うJeff。
「おい、何で…」振り向き、驚きの声を上げるJeff。
戸口で身体を支えて立ち、銃を撃つLeo。
胸に銃弾を受け、車の横に崩れ落ちるJeff。
「…クソ…、な、なんで…?なんでお前は…ただ逃げなかったんだよ…?」やっとで声を発するJeff。
「…ルールを…破り過ぎたのさ…」その場に崩れ落ちるLeo。
「…それからあの煙草は…お前のだった…。お前がGretaを焼いたんだ…」Leoは言う。
「…ああ…、俺が…お…れ…」Jeffの意識が遠のいて行く。
死を迎えるのは殺しよりも困難だ。
息絶えたJeff。
さらに大きな痛みさえ伴う…。
立ち上がろうとするLeo。だがもうその力はない。
遠くからサイレンが聞こえる…。俺に帰るように呼び掛ける歌のように…。
近づくパトカー群。
俺はGretaのことを考えた…。彼女が二度とその呼びかけを聞くことが無いことを…。
だがその歌はどんどん大きくなって行く…。俺に向かって叫び始める…。
傷を押さえ、座り続けるLeo。
歌が止まった時、俺はここにいてはいけない…。ここにいることはできない…。
苦し気に顔を上げるLeo。
だが、既に言ったように、死んでゆくのは…、死んでゆくのは殺しより困難だ…。
俺の悪運により。
次々と現場に到着する警察車両に囲まれるLeo。もう逃げ道はない…。
— END

『Criminal Vol. 1: Coward』より 画:Sean Phillips
なんか予想通り…という感じか、無茶苦茶長くなってしまったよ…。少しでも省略せねばと思っても、ここはちゃんと書いとかなきゃみたいなところばかりなんだもん。これで日本で実態が全くぐらいに伝わっていないレベルのこの名作についていくらかでも伝わればと願うばかりであるよ。
■Criminaiシリーズについて
途中であんまり注釈とかも入れられなかったので、ここでこのシリーズ全体に関わるというあたりをまとめて。と言っても実は自分まだ3巻までしか読んでなくて、全体像みたいなところはきちんと把握できてないのだが…。いや、言い訳をすれば、この『Criminal』というシリーズ、ハードボイルド廃人ファンである自分にとっては、もう完璧理想のハードボイルド・コミックで、まあ長年そこそこ飢餓状態で過ごしてきたせいで悪化した持病の貧乏性で、こんなお宝相当覚悟を決めないと読めなかったりとかするもんなので…。
で、まずこの『Criminal』シリーズについて自分が把握してる範囲で説明すると、それぞれに独立した話ではあるのだけど、同じThe Cityと呼ばれる都市が舞台となっている。各作品毎に時代も変わるようだが、この作中でLeoが頼って行くバーUndertowは、常に登場している。
登場人物については、この作品中で言及される部分を少しまとめて整理しておく。
主人公Leoの父親であるTommy Pattersonは、同じ犯罪者社会に属するTeeg Lawlessを殺害した罪で(この真相については終盤Leoにより語られるが)刑務所に送られ、そこで死亡している。
だが、Teegの息子であるRicky Lawlessは、少年時代にはLeoと仲の良い友人だった。
そして終盤に、Leoは殺しの技術というようなものを、「休暇で家に来た」Rickyの兄から教わったとモノローグの中で語っている。
このRickyの兄、Tracy Lawlessが主人公となるのが続く第2巻『Lawless』で、第1巻『Coward』よりも少し前の時間の物語なのだが、とりあえず双方にストーリー的な繋がりはなく、それぞれ独立したエピソードとして描かれる。
そしてLeoが警察の内務調査課に勤める友人Jennyとダイナーで話すシーンで、上司が「Hydeのビジネスに繋がればと望んでる」と話すのだが、このHydeはこのThe Cityで最大の犯罪組織のボスである。実はこの他に、うっかり省略してしまったのだけど、Leoが仕事のためIvanをGnarlyに預けるために地下鉄に乗るシーンで、「この街で一番の金持ちを探してくれ」と言うLeoに対し、Ivanが「Sebastian Hydeがこの地下鉄に乗ってるのか?」というシーンもあったのだが…。
第3巻『The Dead And The Dying』は、また時間を遡った1960年代末頃の話で、このSebastian Hyde周辺で起こった事件にまつわるエピソードで、Teeg LawlessとHydeの関わりなども語られる。
それから、作中4回挟まれた新聞コミック『FRAK KAFKA, PRIVATE EYE』なのだが、実はこの先第4巻『Bad Night』ではこの作者Jacob K.が主人公として登場する。これちゃんと読まなきゃと読み始めたばっかなので、詳細はまだわからんのだけど…。
こっちがシリーズ全作を読んでいない状態なので、中途半端で申し訳ないのだが、なんかこの『Criminal』シリーズがどんな形になっているかみたいなことが、この他へ続く関連みたいなことで少し分かってもらえたらいいのだが。
Icon Comicsで出版されていた時代のTPB1~6巻はそのまま読めばいいのだが、Image Comicsで再開された以後のシリーズは、単行本収録などが少しややこしくなっているので、ここでまとめておく。
Imageからはまず2015年に『Criminal: Special Edition』、2016年に『Criminal: 10th Anniversary Special Edition』がそれぞれワンショットとして出版され、各収録話は『Criminal Vol. 7: Wrong Time Wrong Place』にまとめられている。
続いて2018年に『My Heroes Have Always Been Junkies』がグラフィックノベルとして出版。
そしてImage Comicsでのシリーズ全12話が始まるわけだが、このうちまず2~3話が『Bad Weekend』として、1、5~12話が『Cruel Summer』としてそれぞれ単行本形式にまとめられている。抜けている4話については、現在単話版で読むしかないのかな?以前はこの4話も含む再開後の『Bad Weekend』までが『Criminal: The Deluxe Edition Vol. 3』として出ていたようなんだが、おそらくは近年のImage Comicsの不振による整理で、現在は電子書籍版としては発行されていない。プリント版古書なら入手可のなのかも。シリーズとしてナンバリングされているのが『Criminal Vol. 7: Wrong Time Wrong Place』までで、この辺は単独作品の形でしか販売がないので注意。
というところで、『Criminal』最新ニュース!
なんとこのシリーズ、またしても再開となり、来月8月27日に最新刊『Knives: A Criminal Book Vol. 1』がグラフィックノベル形式で出版予定!
いや、これ書いてるうちに色々調べてる中で発見したのだけど。なんか「Criminal Book Vol. 1」とか書いてあってそこそこの値段なんで、最初はまた新しく出る合本版なのかなと思っていたのだが、一応調べたら完全な新刊!最初に一応完結してるとか書いちゃったんで、修正しようかとも思ったんだけど、まああとで最新大ニュースと言って騒げばいいやと思い直しました。いや、大ニュースだよ!『Criminal』まだ続きます!!
■Criminaiシリーズから見えるコミックのシナリオについての少々の考察
いや、もういい加減長くなり過ぎちまっているのだけど、今後にも色々言って行くことになると思うので、ここで少し書いておきたい。
まず、この『Criminal』という作品、こんなになっちまうところから見ても、セリフ、モノローグなどのテキスト量が途方もなく多い。にもかかわらず大変読みやすい。いや、多発するスラングや色々な言い回しがわかりにくいとか言う意見もあるだろうけど、それは置いといて。
それは何故かというと、コミックをスムーズにストーリーに沿って読ませるための適正なセリフ・モノローグの配置が、シナリオ段階でできているということなのだと思う。
これに関しては、ブルベイカー、ベンディス、Jeff Lemireなどの自分が作画も手掛ける形でコミック制作を始めた作家の方がこの技能に長けていて、必ずしもすべてがそうだとは言えないのだけど、文章によるシナリオのみという形の経験のみの作家が、あまりうまくないというのは以前からたびたび指摘していることである。
これが何に起因するのかというところで思いついたのが、シーンとカットというような考え方なのではないかということ。
まず、アメリカのコミックが伝統的にという言い方が正しいのかわからんけど、ストーリー、作画がそれぞれ別の人間が担当する形になっている、というところから始めた方がいいのかな。ヨーロッパ、その他でも商業的って形でコミックを出版しているところでは、この形が多いわけなのだけど。
で、そのシナリオがどう書かれるかというと、多くは一つのページを複数のコマ(パネル)に分割し、それぞれのコマごとに場面説明とセリフを文章で指定して行くという方法。
この時、自分で作画も含めてコミックを作った経験がなく、コミックの文法というようなところを含めて出来たものをイメージできない作家がやってしまうのが、一つのコマをカットとしてではなく、曖昧なシーンとして考えてしまうと事が起こる。
つまり、例えば二人の人物が会話しているというようなシーンで、映画などで言えばカメラがあまり動かずその画面の中で会話が続いて行き、時間的な長さもよっぽど長くなければそう意識されるものではない。
そういった作家はコミックでもそういうシーンのつもりで書き、読者はセリフを中心にそれぞれのコマをそれぞれ違う時間をかけて読んでくれると考える。でも実際にはそうじゃないだろ?
コミックにはその表現形式に沿った読まれ方があり、そういったリズムを崩すような書き方をすれば、結果かなり読みにくいと認識されるような作品ができてしまう。
そういう書き方がうまく行かないとわかっている作家は、そこでカットを割りシーンを分割するわけだが、スペースの限られたページ単位のコミックという表現形式では、その変更のためのレイアウトや構図といった具体的で詳細な完成予想図が頭にないとなかなかうまくできるものではない。
ブルベイカーやベンディスというような、自身で作画もするという形でコミックの制作を始めた作家には、その辺の勘レベルなのかもしれない読ませる文法みたいなものが、身についていてシナリオが書けるということ。
一番わかりやすそうな例えで言ったけど、実際には音というレベルでの言葉のリズムみたいなもんも含むもので、やはりそのくらいになってしまうと作家が身に付けている感覚ぐらいにしか説明できないもんかもしれない。
またシーンとカットというような言い方で説明を試みたわけだが、実際に映画などのそれに正確に対応しているわけではなく、例えばブルベイカーがこの作品で多用している会話の際にクローズアップのコマが連続するような手法は、映画で言えば短いカットを繋ぎすぎるということになるのだろうし。あくまでもコミック表現としてのシーンとカットというぐらいのもんか。
ややこしく長々と説明してきたけど、実は日本のマンガにおいてはこの辺の問題は大抵の場合はクリアされている。
なぜかと言うと、前述のような商業的なマンガ制作というところで、世界的に見れば少し特殊ということになるのかもしれないが、日本では基本的には、作画のみを担当しているような漫画家でも、自分一人でマンガ制作をした経験がなければその業界に入ってくることもできないからだ。
逆に言えば日本では当たり前ぐらいのマンガを読みやすく描く文法が、海外ではあまり使われていないという事情が、殊更海外のコミックを読みにくいと感じさせる一因となっているのかもしれない。
言ってみれば、この『Criminal』という作品は、日本のマンガを読んできた人たちにとっては読みやすい部類に入るコミックかもしれない。とかいうことも考えるんだが、だからと言ってブルベイカーが日本のマンガから影響を受けたとかいうものではなく、独自に考え自身でコミックを作ってきたうえでたどり着いた結論、というようなものなのだろう。
結局、日本のマンガというものがそういった文法的な視点で考察されたり研究されてる気配ってほとんどないからね。
一般的に言えば、マンガ/コミックにおいてテキスト量が多すぎるものはその時点で欠陥とされる。だが、この『Criminal』は、それを読ませる能力を有した作家の手にかかれば、小説作品にも近づくような多くのセリフ、モノローグを使用して作ることも可能だという実例だ。これはマンガ/コミックの読み物としての可能性を拡げるものだということさえできるだろう。
シナリオという部分を説明するため、ブルベイカーを切り離す形で書いてきたが、こういった作品の完成のためには、やや小さめに分割されたコマの中でも優れた画力、緊張感を持った構図というような作画で表現できるショーン・フィリップスという超一級のアーティストが不可欠であることは言うまでもない。長くチームを組み続けているこの二人は、現在ではもはや切り離すことのできないブルベイカー&フィリップスという連名の作家ぐらいの認識となっているのだろう。
ブルベイカー&フィリップスのもう少し近年の『Kill Or Be Killed』(2017-18)、『Reckless』と言った作品を見ると、この辺のテクニックを踏まえた上で、ページ全体を使って構成された大ゴマのレイアウトなども多く使われるようになってきており、その辺の変化みたいなものも考えながらこのチームの作品についてはもっと書いていかなければと思う。
…のだが、途中でもちょっと触れたように、同様のセリフなどのテキストをどう読ませるかを深く考え、実験的とも言えるようなレイアウトを駆使した作品を作るブライアン・マイケル・ベンディスについてももっと多く書かなくてはという思いも常にあり、あああれもこれもとあって、なかなかままならんもんなのですわ、ホント…。
とにかくこの『Criminal』は、自分的にもかなりこだわりの強い作品でもあるので、いつになるかはわからんけど必ず続きはやりますので。
最後の最後、読み返して修正するだけぐらいになって、熱中症で3日ほど倒れてしまったよ。ホント今年は倒れてばっかだけど、オレもう長くないんか?まあできるだけ頑張りますですよ
Criminal
■Icon Comics / 現在Image Comicsより再版
■Image Comics
●TPB
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