今回は南アフリカのコミック作家Joe Dalyによる『Dungeon Quest: Book One』。2010年にFantagraphicsより出版されています。現在のところ『Book Three』まで出版されているうちの第1巻です。
さてどうしたもんか。カバーを見ればわかるように、この作品には大いにユーモアが含まれている。作者に聞けば、小難しく意味を考えるより楽しく読んでほしい、と答えるだろう。だが面白いところ、笑えるところばかり注目してギャグマンガのように伝えるのは如何なものか。例えばこの本が書店に「おバカな大ぼうけん」とか書かれた帯巻いて並んでるの見たらブチ切れかねんし。
実際、この作品にはかのダニエル・クロウズを思わせるようなシュールやバッドテイストな部分もあるわけだし。
そういう作品です。なるべくどっちにも寄り過ぎないよう一所懸命紹介しよう。今回は事前に作者インタビューも見つけてあるんで、悩んだらそこ見てみようとか。
Dungeon Quest
■冒険へ出発
『Dungeon Quest: Book One』より 画:Joe Daly
その日、Millennium Boyは自室で宿題に向かい、そしてうんざりしていた。
「ああ、もう宿題にはうんざりだ!TVなんか見たって気分も変わらない!外に出なきゃ腐っていくばかりだ!僕に必要なのは冒険だ!よし、冒険に出かけるぞ!」
自室の宝箱を開け、冒険の装備を整える。よし、準備は万端だ!
「お母さん、冒険に行ってくる。生きて戻れたら、また会おう!」
「宿題はどうしたの?」
「宿題なんてクソくらえだ!」
そして、Millennium Boyは未知の冒険へと出発する。
歩き始めたMillennium Boyは、すぐに路上に落ちていた一冊の黒い表紙の本を見つける。その表紙には奇妙なマークとともにタイトルが記されていた。
The Lands Beyond The Suburbs of Glendale -Platocrates-
本を開くと、そこには彼の住む町の外に広がる広大な冒険への地図が描かれていた。
「なるほど、興味深い地図だ。東へと向かう旅のために、パーティーメンバーを集めなければ!」
■旅の仲間
Millennium Boyは近くに住むSteveの家へと向かう。
家の地下室の窓から覗くと、30代無職男Steveはパンツ一枚でソファにぐったりと半ば横たわり、ぼんやりTVを観ていた。
「おい、Steve!そんなところでいつまでそうしてるつもりだ!手足はまるで伸びたヌードル、胴体は脂肪ベスト!まるでオッパイの垂れたババアのオランウータンママじゃないか!」
『Dungeon Quest: Book One』より 画:Joe Daly
「Steve!立ち上がれ!お前はそのままじゃダメになって行くばかりだぞ!変化を恐れるな!僕と一緒に冒険の旅に出るんだ!遥かな東の地平へ向かって!すぐに装備を整え、5分以内に外の芝生へ来い!」
Millennium Boyの叱咤激励に応え、Steveはスケボーのヘルメット、バットなどの装備を身に付け、Millennium Boyの冒険に加わる。
■最初のバトル!
そして二人は歩き出す。Millennium BoyはためらいがちにSteveに向かって話し出す。
「Steve…、ひどいことを言い過ぎた。本心じゃないんだ。僕はなんとか君を奮い立たせようと…。」
「わかってるさ、相棒。」
二人は固くお互いを抱きしめ合う。
そこに、路地から出てきたそれぞれバールとチェーンを手にした二人組のゴロツキが通りかかる。
「見ろよ、ホモ野郎だ。ぶちのめして持ってるもん巻き上げちまおうぜ!」
Steveと肩を組んだMillennium Boyは胸を張りゴロツキに向かって言い放つ。
「我々はホモ野郎などではない!これは純粋な友愛表現だ!お前らは自らの抑圧されたホモセクシュアリティを我々に自己投影しているだけだ!」
「俺はホモ野郎じゃねええええっ!」
バールで襲い掛かる男をSteveがバットで迎え撃つ!Millennium Boyはチェーンをダッキングで躱し、装備していたナイフを男の目に向かって投げる!
『Dungeon Quest: Book One』より 画:Joe Daly
ゴロツキ達の死体から手に入れた新たな装備を身に付け、二人は冒険の旅へと戻って行く。
■魔法の書
新たなメンバーの勧誘などについて意見を交わしながら歩いていた二人は、路上にまき散らされた酒の空き瓶に囲まれ、チンポを出したまま自らの小便の上に座り込み、腹の上に魔法の書を乗せた浮浪者に出くわす。
「俺はクズなんかじゃねえ!堕ちた天使…、偉大な詩人だ!」
「なるほど、僕もまた偉大な詩人だ。」
「しかし、せめてそのチンポはパンツにしまうべきじゃないのか?」
「いや、それはできねえ。これが俺に残された最後の詩的表明だ。これがすべてを物語っている。すべてを…。」
「わかった。ところで君の持っている魔法の書、どうすれば譲ってくれる?」
「俺が人生で失ったすべてのものを戻してくれ。」
「うむむ…。残念だが僕の魔法はそれほど強力なものではない。代わりに安物のワインではどうだろうか?」
そして二人は近くの酒屋に向かう。Steveはまだ子供のMillennium Boyの代わりにワインを買ってこようかと申し出る。
「大丈夫だ。偽の身分証を持っている。これは僕と彼の個人的な取引で、全ての手順を僕自身でやり遂げなくてはならない。わからないかもしれないが、これは詩的なことなんだ。」
「いや、わかるよ。俺もまた詩人だ。」
そしてMillennium Boyは、手に入れた安ワインと引き換えに魔法の書を入手する。
『Dungeon Quest: Book One』より 画:Joe Daly
■モンスターとの遭遇
『Dungeon Quest: Book One』より 画:Joe Daly
Steveが戦士候補として名を挙げたLashの家に向かっていた二人は、近道をするために柵で囲まれたKennyの地所に入り込む。
少し進むと、地面にいくつもの大きなモグラの土山のようなものが現れてくる。これは何だろうか、と頭をひねっていると、その中から人間サイズのモグラのモンスター、Molelocosが3体現れる!
「急げ!魔法を使うんだ!」
「Hos Alu! Fies! Fies!」
Millennium Boyは魔法を唱える!
だが覚えたてでまだ弱いMillennium Boyの魔法は、Molelocosの全身の体毛を抜け落ちさせるだけの効果しかなかった!
こうなれば肉弾戦しかない!襲い掛かるMolelocos2体に、Millennium Boyは両手でバールを構えてカウンターアタック!Steveは格闘の末、Molelocos1体を征する。
バトルに勝利した二人は、ドロップアイテムで装備を強化し、更に道を進む。
■アイテム交換所
二人はその先に、白亜の丘とその上に座る男を見つける。
「Kennyのアイテム交換所だ!」
二人はこれまで手に入れたアイテムと、Kennyの持つ装備品とを交換し、更に強化された装備で先へ進む。
『Dungeon Quest: Book One』より 画:Joe Daly
■戦士Lash
Kennyの地所を抜けた二人は、Lashの家に着く。Lashは庭で両手にダンベルを持ち、トレーニングに励んでいた。
「やあLash、僕たちのファンタジーアドベンチャーチームに加わらないか?」
「俺は何をすればいいんだ?」
「我々の良き兄弟として、我らに襲い掛かる敵やモンスターを殺してほしい。」
「よかろう、それは俺の得意なことだ。さあ行こう、ブラザー!」
アスリートと詩人の心を併せ持つといわれたLashは、快くメンバーに加わる。
『Dungeon Quest: Book One』より 画:Joe Daly
「次に我々に必要なのは、優秀なアーチャーだ。心当たりはあるか?」
「Nerdgirlが8年弓道を学んでいると聞いた。弓道というのはジャパニーズ・アーチェリーのことだ。」
「弓道なら知っている!よし、Nerdgirlに会いに行くぞ!」
■アーチャーNerdgirl
Nerdgirlの家に着き、Millennium BoyはインターフォンでNerdgirlのお母さんと話す。
「Nerdgirlのお母さんですか?Millennium Boyです。Nerdgirlに可愛いお尻が外で待ってるとお伝えください。僕たちは東への探検に彼女にもアーチャーとして加わってもらえればと思っています。はい、そして僕らお母さんも可愛いお尻だと思っていますよ。はい?サンドイッチですか?それはうれしいです。有難うございます、Nerdgirlのお母さん。」
可愛いお尻問題についてMillennium BoyとSteveが議論を交わしているところに、装備を整えたNerdgirlがサンドイッチを持って現れ、パーティーメンバーに加わる。
『Dungeon Quest: Book One』より 画:Joe Daly
■海賊の墓場
東を目指し、旅を進める一行。気が付けば墓地に足を踏み入れていた。
「海賊墓地だ!この町は昔、海賊たちによって作られたんだ。」
奥にある海賊の霊廟を目指す彼らの前に、それを阻むように海賊の亡霊、骸骨戦士たちが現れる。
『Dungeon Quest: Book One』より 画:Joe Daly
骸骨戦士たちを倒したパーティーは、海賊霊廟の地下へと続く階段を下りる。
そして、そこから冒険は新たな地平へと広がって行く。
彼らのクエストは、まだ始まったばかりだ!
『Dungeon Quest: Book One』より 画:Joe Daly
これで『Book One』の三分の二ぐらい。作品の方向性をなるべく詳しく伝えたいと思い、結構長めに書いた。
この作品を読んで、「RPGのパロディ」などと雑極まりない要約をする不遜の輩もいるかもしれない。ならお前は例えば『ダンまち』のような作品をドラクエやFFのパロディというのか、という話。
これは、それらの作品と同じように、RPGという素材が、ある作家の創造性を通じてアウトプットされた作品。つまり大森藤ノという作家からアウトプットされたのが『ダンまち』であるのと同様に、Joe Dalyから出てきたのがこの『Dungeon Quest』ということだ。
要するに何でもかんでもまず自分の知ってる枠に押し込めることで理解しようとするなってこと。別にRPGのパロディというような作品を作ることが悪いと言っているわけじゃない。そこからシュールなナンセンスで笑わせようと試みたり、あるいはそれを何か批評的な手段として利用したりということならそれはそういう方向で評価する。だがこれはそういう作品じゃない。
インタビューの中でDalyは、この作品の中のそういった笑える部分についても説明している。
多くの作家がそういった形で作品作りを表現するが、彼も頭の中で自身が考えたキャラクターが生きて話し動き回るのを作品という形にする。その過程で、彼らが面白いことやったり話し始めればそのように描いたということ。意図的にギャグやコメディを構成したことはないということだ。まあこの作品が愉快であるのは、Joe Dalyさんという人が愉快な人だということだね。
ちなみにこの作品のキャラクターたちのおおよその年齢は、Millennium Boyが6歳から16歳の間、Steveが30代、LashとNerdgirlが20代後半ぐらいということ。
この作品についてDalyは、日常的な風景から始まり、それがファンタジー世界にそのまま入って行くような形で作ろうと考えたということだが、どこまでが現実で、どこからがファンタジーなどという考えに意味はない、これは最初からコミックブックというフィクションなんだからな、とも言っている。
引用しているインタビューは、2012年『Book Three』が出た時のもので、そちらの内容など『Book One』しか読んでない時点ではわからない部分も多かったりするのだが、シリーズの今後について、当初の予定では『Book Four』で完結だったがもう少し話が広がってきているとのこと。インタビューの時点で進行中の別作品が完成したら『Book Four』に取り掛かるということだったのだが、現在のところどういう事情かは不明だが続刊は発行されていない(話の中にある次作『Highbone Theater』は既に出版されている)。いつかは続きが出ると信じながら、とりあえず出てる続きをまた楽しく読もうっと。
Joe Dalyインタビュー
The Comics Journal / THE JOE DALY INTERVIEW
作者Joe Dalyについて
『Highbone Theater』著者紹介ページより
作者Joe Dalyは1979年イギリス ロンドン生まれ。
後に南アフリカへ移り、Cape TownのCity Varsity Collegeにて2年間アニメーションを学ぶ。えーと、あんまり情報ない…。
彼の作品はアメリカではFantagraphics Books、フランスではL’Associationで出版されている。
彼の作品については、「内向的な夢のような意識の流れ」とか「最高のポストモダンのヴォードヴィリアン」といった評価があり、「タンタン・ミーツ・フリークブラザース・イン・ケープ・オブ・グッド・ドープ」というのもあるんだが、最後のケープ・オブ・グッド・ドープがどうしてもわからん!なんかラガ・ヒップホップ系らしきコンピレーションアルバムしか出てこないんだが…。フリークブラザース(The Fabulous Furry Freak Brothers)というのは有名なアンダーグラウンドコミックね。タンタンなら知ってるだろ?あの有名なフランスの寝ぐせのチンチンだよ。
なかなか情報も見つからず、近況もわからないJoe Dalyさんなのだが、現状最新作の『Highbone Theater』は2013年からウェブコミックとして公開されています。Fantagraphicsから2016年に発売されている同名作品と同じ内容なのかは不明。なかなか見つからなかった著者写真もそこから借りてきました。
南アフリカの作家ということでどうしようかと思ったけど、Fantagraphicsアメリカだからぐらいの理由で雑にするのもよくないと思ったので、「その他」というカテゴリを追加しました。よそ様の国をその他扱いは失礼なんだが、当面少ない項目のカテゴリをやたら増やすわけにもいかんので。Joe Dalyさん申し訳ない。
以下の著作リストについては、正式と思われるものも見つからなかったため、発表年についてはアマゾン商品ページに書かれている発行年を記入してあります。
■Joe Daly著作リスト
- Scrublands (2006)
- The Red Monkey Double Happiness Book (2009)
- Dungeon Quest: Book One (2010)
- Dungeon Quest: Book Two (2011)
- Dungeon Quest: Book Three (2012)
- Highbone Theater (2016)
Joe Daly
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