Slaine 第1回 【前編】 / Pat Mills

伝説のアウトロー・ファンタジー開幕!

今回は『Slaine』の第1回!英国コミックの巨匠パット・ミルズのストーリーにより、2000ADにて1983年より開始され、英国の伝説級アーティスト達により描き継がれ、現在も続く英国の伝説ファンタジー・コミックシリーズ!その第1回として、今回は第1巻『Slaine: Warrior’s Dawn』を紹介して行きます。
この第1巻全210ページというところで、1回で全部紹介できるかと思ったんだが、以前から書いてるように1話6ページ前後ぐらいと短い英国作品ゆえ情報量も多く、始めてみたらとても無理という感じになってしまい、やむなく2回に分けました。今回はその前編です。

英国名作漫画劇場、とか今思いついた。英国のコミックの歴史も長く、優れた作家・アーティスト・作品を数多く輩出しているんだが、ホント日本には全くぐらいにちゃんと紹介されていない。この『Slaine』もその一つなのだが、まあ英国コミックの中では定番名作ぐらいで、全然浅いあたり。中でも第4巻に当たるSimon Bisley作画による『The Horned God』なんて、世界レベルでコミックの歴史に残る名作ぐらいに知られているんだが。なんかそういう思いもずっとあり、とにかく基本中の基本ぐらいで最初にジャッジ・ドレッドから始めたんだが、そっちも全然進んでなかったり。あっ、また全然できない愚痴モードに入ってきてしまった。うじうじ言っとらんでとにかくどんどん進めて行かなければ。
英国の巨匠パット・ミルズ!本店の方では前に、彼の代表作である『ABC Warriors』を中心とした「パット・ミルズ未来史シリーズ」を始めたんだが、そっちも中断中。「ミルズ未来史シリーズ」については、そのうち過去の記事こっちにコピーして続きやろうかとも考えてるんだが、そっちと並ぶ代表作が、この『Slaine』。

ケルト神話に基づく、ということで巻末には巨匠ミルズによるちょっとした解説もあるこの作品。なんだが、前から時々書いてるんだが、私どうもファンタジー苦手…。いや嫌いとかいうことではなくて、なんかファンタジー音痴みたいなもんかと思うんだけど。
そんなわけで、今度こそ、と思い基本の方から入ろうと考え、少々ケルト神話を、アマゾンでも「大変分かりやすい」と評価の高い、ちくま文庫刊『ケルトの神話-女神と英雄と妖精と-』(井村君江・著)を入手し、読んで勉強してみた。うむ、大変分かりやすい。でも頭に入らん…。お昼休み直後の授業の中学生ぐらいに、なんか右から左に抜けていき、残ってるのは「ボイン川」ぐらいの始末なんだが…。まあ睡眠学習的に頭に入ったところもあるだろうと言い聞かせ、見切り発車にて進めて行きます。

ヨーロッパ中心に各地に断片的に残り、アイルランドに最も多く残っているのがケルト神話ということなのだが、巻末の巨匠解説によると、この作品はまだヨーロッパと英国が陸続きだったぐらいの時代を設定としているとのこと。
元々はレッド・ブランチに属する若き勇者だが、素行が悪く現在追い出されている主人公Slaineが、相棒の金に汚いドワーフUkkoと、そろそろほとぼりも冷めただろうと、元の部族に帰ろうとしながらあちこち彷徨い事件に巻き込まれて行く、という感じで始まり、なんかヒロイックファンタジーというよりは、マカロニウェスタンの『The Good, the Bad and the Ugly』(もう『続・夕日のガンマン』みたいなデタラメ邦題強制すんの勘弁してもらえね?)あたりの感じだと思うんで、勝手にアウトロー・ファンタジーとか書いてみました。まあヒロイック・ファンタジーも自分的にはそれほどお馴染みじゃないんだけどさ…。
まあそんな感じで『Slaine』始まります。

Slaine: Warrior’s Dawn

Slaineの世界

『Slaine: Warrior’s Dawn』より

少し進めたところで、やっぱわかりにくいかと考え、『Slaine: Warrior’s Dawn』冒頭の「Slaine:Guide to His World」パートに掲載されている地図も使わせてもらうことにした。
巨匠の説明していた英国がヨーロッパと陸続きだった時代の様子が、現代のものと重ね合わせた形で大体わかると思う。
Slaineが元々属していた部族が、Tribe of The Earth Goddessというところで、追放中で放浪している今作の主な舞台となるのは、その南のTrieb of The Drune Lordsというあたりになる。

キャラクター

キャラクターについては、アーティストが交替するとそれぞれかなり印象が変わってしまうので、この『Slaine』に関しては毎回変えていかなきゃならんかな、というところ。とりあえず第1回は、第1話のAngie Kincaidによるもので行きます。その他、各話ごとの重要キャラはその都度という感じで。

  • Slaine Mac Roth:
    実力を認められた戦士だったが、問題を起こし部族を追放されている。現在19歳。

  • Ukko:
    Slaineの相棒のドワーフ。何かと助けにはなるが、かなりの守銭奴。

■The Time Monster 1983/Prog330 作画:Angie Kincaid

物語は、Slaineがティラノサウルス風の恐竜、Time Monsterと対峙しているところから始まる。
遠巻きに見守る見物人たち。ドワーフのUkkoは、彼らからSlaineがTime Monsterを倒せるかの掛け金を集めている。金が充分集まったところでSlaineが動き出す。
大きく開いたTime Monsterの口にカエルを放り込むSlaine。Time Monsterが息を詰まらせのけぞったところで、愛用の石斧”Brain-Bitter”の一撃を叩き込む。
見物人からは「汚えぞ!」と文句が上がるが、構わず金を持ってその場を去る二人。

前の王が死んだということで、そろそろほとぼりも冷めたろうから部族に戻る、金も貯まってきたところだし、ここで別れようぜ、と話すSlaine。
見捨てないでくれ、と追いすがるUkko。二人はとりあえず近くの町、Gabalaへ向かう。

Gabalaに入った二人は、まず酒場へ。
そこにいた、先ほどのTime Monsterとの闘いを見物し、金を巻き上げられた三人の戦士風の男たちが、Slaineに絡み始める。
乱闘になり、独りで三人を叩きのめすSlaine。
だが、そこに神聖なTime Monsterを殺した犯人を捜し、Druneの兵士、Skull-Swordsたちが現れる。
Gabalaから逃げ出したSlaineとUkkoは、The Land Of The Youngを北へ向かう。
こうしてSlaineの、故郷を目指す旅は始まる。

『Slaine: Warrior’s Dawn』より 画:Angie Kincaid

作画のAngie Kincaidは、Pat Millsの奥さん。この「The Time Monster」でのクレジットはA. Millsになっている。この作品以外のコミックの情報など見つからないんだが、この作品では結構ダークファンタジーという感じ。『Slaine』のオリジナルキャラクターデザインはこの人ということ。
その他の作品としては、Pat Millsとの共作となるミュージカルにもなった有名な(多分)絵本『The Butterfly Children』のイラストで知られている。

■The Beast in the Broch 1983/Prog331-334 全4話 作画:Massimo Belardinelli

キャラクター

  • Nudd:
    Ukkoが買った牢獄で、以前より牢番を務めていた亜人種の巨漢。

  • Blathnaid:
    Slaine、Ukkoと共に、三人で路上強盗を働いていた女。

●Story

ここで、Slaineが部族を追い出されるに至った経緯などの回想が入る。
3年前、16歳のSlaineは、部族の王が妻に選んだ美女Niamiを、他の男に会わせないために厳重に警備した小屋に忍び込み、彼女と恋仲になる。繰り返し忍び込んでいるうちに遂に見つかり、処刑されるため鎖で繋がれ監禁されたところから逃亡する。
かつてSlaineが暮らしていた、北部Tir-Nan-Ogは、ドゥルイド神官が大地の力を善行のために利用していた。
逃亡後、Slaineが放浪する南部は、Druneにより力が悪の目的に使われている。

自分があまりにもファンタジー音痴ゆえ、ケルト神話知識も底辺レベルで、自分以外の世界中の人が自分よりわかっているような気分になるのだが、普通に考えてみれば、普通に生きていれば自分と同程度に知識がない人も大勢いるわけで、その辺詳しい人から見るとまどろっこしいかもしれんが、正確を期すためWikiを引用したりしながら、用語解説的なこともやっておこうと思う。
ここで新しく出てきたのはドゥルイド神官。ドルイド神官ともいう。

★ケルト神話 豆知識★

ドゥルイド神官:

ドルイド(Druid)は、ケルト人社会における祭司のこと。日本語ではドゥルイドとも表記する。女性形はドルイダス(Druidas)。
ドルイドは宗教的指導のほか、政治的指導、公私の争い事の調停と、ケルト社会に重要な役割を果たしていたとされる。

ウィキペディア 「ドルイド」より

現在Slaineたちがいるのは、Druneに支配された土地なのだが、そこにも祭司としてのドゥルイド神官はおり、後々物語にも深くかかわってくることとなる。
ちなみにドルイド、ドゥルイドの2種類の日本語表記があるようだが、当方では睡眠学習に使用した井村君江先生の『ケルトの神話』の方を使う。

Ukkoがやってきて、安売りされていた牢獄を買ったと話す。
捕まっている罪人を引き取るために、家族が金を払うんで、牢獄は儲かるというUkko。金を払わない罪人は痛めつけてやりゃあいい。
まあ何に金を使おうがお前の勝手だがな、と言うSlaineだったが、Ukkoが金が足りなくておまえの分も使ったと言い出し、怒り狂う。

「俺が付き合うのは、俺の分の金を取り戻すまでだからな」
SlaineとUkkoは、荒れ果てた地の果てにある牢獄塔-The Brochへ向かう。
元の持ち主の男が二人を迎え、牢獄を案内する。「金を払わない囚人は、奴隷に売っちまえばいいんだ」
扉を鎖をかけ厳重に封鎖した房の前を守る、牢番の巨漢の亜人種Nuddを紹介される。
「この囚人は病気なんだ。ここは絶対開けちゃいけない。食事は下から入れるんだ」
「牢獄がそんなに儲かるならなんで売るんだ?」と、元の持ち主に問いかけるSlaine。
「い、いや、俺は引退するんだ。辞め時ってもんがあるだろ?」そして、何故か逃げるように立ち去る元の持ち主。

牢獄の管理を始めるSlaineとUkko。Slaineは囚人の中に、昔の傭兵仲間Bodb of Black Axeがいるのを見つけ、牢から出してしまう。
昔の戦場の話に花が咲くSlaineとBodb。話はSlaineのWarp-Spasmの話になる。

ここで初めてSlaineの特殊能力であるWarp-Spasmが登場する。
Warp-Spasmとはその才能がある限られた戦士のみが使うことのできる特殊能力。大地の力に依り圧倒的な力を持つ戦士に変わる。
Warp-Spasm、直訳すれば歪み-痙攣てとこか。その名前の通り、かなりヤバい感じに身体が歪んで変形し、ほぼ暴走状態となり周囲の敵を一掃する。

『Slaine: Warrior’s Dawn』より 画:Massimo Belardinelli

日本にも特に近年はヤバいぐらいの変身ものも多いが、主人公がここまでなっちゃうのはそうないんじゃないかと思う。ダリのシュールレアリズム絵画レベル。
こちらはMassimo BelardinelliによるWarp-Spasmだが、アーティストによりかなり変わるので、その都度紹介して行きたい。

戦場話の酒宴も終わり、Bodbは「朝になったら出ていくぜ」と言って自分の房に寝に帰る。
だがその夜、Bodbは奇妙な音に目覚める。「何だお前?AAAHHHH!
悲鳴に目覚めるSlaineとUkko。房に向かうと、そこら中で囚人たちがミイラと化している。
Bodbの房に行くと、彼も一気に生命を吸い取られたような姿となり、死にかけていた。やっと外に出られると思ったら、あんなバケモノを寄こしやがって、お前を呪うぞ…、と呟き息絶えるBodb。
「俺たちはモンスター付きの牢獄を売りつけられたようだな。お前騙されたんだ、Ukko」
その時、邪悪な哄笑が牢獄内に響き渡る。その出どころは厳重に封鎖された扉の奥。

「ここには何もない。ドアを開けてはいかん」と遮るNuddを押しのけ、鍵をはずすSlaine。
そこにNuddが斧を振りかざし襲い掛かってくる。返り討ちにし、扉を開けるSlaine。
そこにいたのは、かつて一緒に組んで路上強盗を働いていた美女、Blathnaidだった。

『Slaine: Warrior’s Dawn』より 画:Massimo Belardinelli

一年ほど前、三人は、まずBlathnaidが泥棒に襲われたと路上で助けを求め、馬車が止まったところでSlaineが現れ荷を奪う、という方法で路上強盗を繰り返していた。
ある日、積み荷が酒だったことからそこで酒盛りを始め、酔いつぶれたところを捕縛されてしまう。
Blathnaidが見張りを誘惑し、逃げることはできたが、そのまま別れ別れになっていた。
Blathnaiの話では、その後は小狡いSnorriと組んで、結婚詐欺を働いていたが、逃げる途中で失敗し捕まったとのこと。

そこで意識を取り戻したNuddが、再び襲い掛かってくる。「姫を守る…」
盾ごと脳天をたたき割り、Nuddを倒したSlaine。
「どうやらNuddが殺しの裏にいたようだな」
だがNuddがBlathnaiを「姫」と呼んだことを不審に思う。そこでBlathnaiは正体を現す。
実はBlathnaiだと思ったものは、彼女に化けていた蛇のバケモノだった。

Slaineの身体に巻き付き、精気を吸い取ろうとする怪蛇。だがSlaineの反撃により、逆に囚人拘束用の鎖に縛られる。Blathnaiの姿となり命乞いする怪蛇。ためらわず斧を振り下ろすSlaine。
一方、牢獄には異変を察知した近隣の住民が押し寄せ、闇の力を恐れ手あたり次第に焼き討ちを始める。裏口から逃亡するSlaineとUkko。

牢獄で一儲けする目論見がはずれ、無一文となったSlaineとUkko。
Slaineは近づくSamain(ハロウィン)までに部族に戻り、レッドブランチの一員として戦わなければならないと話し、そこからかつての闘いの回想が語られる。
15歳で初めてレッドブランチの一員としてSamainの戦闘に参加したSlaine。戦いの後の酒宴で、獲った首の数を競い合う戦士たちの中で年長の戦士に絡まれたSlaineは、相手を打ち倒し、勇猛な戦士の一員として認められる。

ケルト神話の中でも赤枝の騎士団・戦士団として有名なレッド・ブランチだが、まあそっちのイメージとはかなり違ってこの『Slaine』ではバリバリの蛮族。まあそういうのより昔のレッド・ブランチ源流的なものということなのかもしれない。と、ファンタジー音痴っぷり発揮しこじつけてるのかもしれんが、とにかくここでのレッド・ブランチはこんな感じです。

『Slaine: Warrior’s Dawn』より 画:Massimo Belardinelli

こちらの作画イタリア出身のアーティストMassimo Belardinelli。見た通り、技術的には高いのだが、前書きで巨匠ミルズも指摘してるんだが、どうも人間の筋肉構造みたいなもんをちゃんと勉強していなかった様子が見られ、肩と胸筋の繋がりのあたりとかが毎度変。画力に問題なくてもこういうことあるんだね。

■Warrior’s Dawn 1983/Prog335 作画:Mike McMahon

荒野を北へ向かうSlaineとUkkoは、途中の休憩所に立ち寄る。
裸馬に乗っているSlaineを見た男が、馬の鞍を売りに来るが、Slaineは男を殴りつける。Ukkoが男にSlaineの部族では馬に鞍をつけて乗ることは恥とされていると説明する。
そこから、Slaineの過去、彼が戦士になるまでの修業時代について語られる。
12歳から戦士の訓練を受け始めたSlaine。訓練所の中でも優れた成績を示したが、それにより妬んだライバルの少年が不意打ちで彼を殺そうとする。返り討ちにして少年を殺したSlaine。だがそれにより遺恨を持たれ、次々と襲って来る少年の血族を何人も殺すこととなる。
15歳になったSlaineは、部族の偉大な過去の戦士たちが眠る霊廟へ、最後の試練のため連れて行かれる。そこで鎖につながれ、三日間生き延びた者のみが戦士として認められるのだ。
三日の後、霊廟から出たSlaineは、指導者から未来の偉大な戦士と予言される。

■The Beltain Giant 1983/Prog336 作画:Mike McMahon

マンモス的な大型獣に乗った裕福らしい男が、通りすがりにSlaineとUkkoについて尋ねているところから始まる。彼は二人を見つけなければならない、と言う。
一方Slaine達は、前話で立ち寄った荒野の中の休息所的なところで休んでいる。
彼らの話は、また過去の回想へ。Tir-Nan-Ogの西、Albionを通った時、そこではBeltain(Mayday)の、地面に巨大な巨人を描いた祭りが開かれていた。

『Slaine: Warrior’s Dawn』より 画:Mike McMahon

「巨大な巨人」にツッコミを入れてる人がいるといけないので言っておくと、「巨人」というのはこの物語内では存在している種族で、それを大きく地上絵として描いたのが巨大な巨人ということ。上の画像参照のこと。
Slaineは気乗りしなかったが、せっかくの祭りで一儲けしようというUkkoに押し切られ、見世物芸をやる。
怪力の持ち主、巨人Slaineの呼び込みで人を集めるUkko。集まった見物人に、魔法の言葉で恐るべき力を発揮し、あんたの馬を持ち上げて見せる、と持ち掛ける。
馬に跨り、両手で木の枝につかまったSlaineの耳元で、戦士を侮辱する言葉を並べ立て怒らせ、Warp-Spasmの力を引き出す。Slaineは両足で挟んだ馬を持ち上げて見せる。

『Slaine: Warrior’s Dawn』より 画:Mike McMahon

あんなことに戦士の力を使ったことを後悔している、と話すSlaine。
そこに武装した数人の男たちが現れる。「見つけたぞ、Slaineとドワーフだ!」冒頭でSlaine達を探していた男の手下だ。
彼らを連れて行こうとした男たちとSlaineの間で戦闘が始まる。Ukkoが止めに入る。
「待てよ、Slaine。こいつらの主人は俺たちの首が欲しいんじゃなく、仕事を依頼したいようだぜ。」
大型獣に乗った男の頼みは、Druneの祭事の地、Drunemetonに捕らわれている自分の娘を攫ってきてほしいということ。
幼いころに連れ去られ、明日に迫ったSamainに生贄にされるのだ。
自分は裕福だ、礼は幾らでもする、と話す男の頼みをSlaineは引き受けることにする。

この話は次から全6話で続く「The Bride Of Crom」の導入話。
ここの2話は英国コミックレジェンドのひとりMike McMahonによる作画。ちょっとそこまで詳しくはないんだが、多分この辺はベタ部分を線を重ねて描くという技法の初期段階なのではないかと思う。この辺りではまだかなり絵が見にくくなっているのだが、McMahonはここからがスゴイ。この『Slaine: Warrior’s Dawn』後半からは英国コミックレジェンドと言われて納得の神画が次々登場し、なるべく多く紹介したいと思うので期待されたし。
この地上絵とかも伝承とかでなんかあるのかな、と思って恐る恐る調べてみたら、やっぱアルビオンの巨人伝説とか、英国の地上絵とか色々出てきた。すんませんがそこまでやってると終わんないんで、一応そういうのに基づいたやつだよというとこまでで。気になる人は自分で調べてください。丸投げ人任せ。

■The Bride Of Crom 1983/Prog337-342 全6話 作画:Massimo Belardinelli

キャラクター

  • Medb/Preistess Of The Badb:
    Druneの巫女として生贄にされる娘。

  • Slough Feg:
    Druneの高位の魔術師。

  • Blind Bran:
    Slaine、Ukkoの昔の仲間。鉱山労働で視力を失う。。

  • Roth Bellyshaker:
    Slaineの父。

  • Macha:
    Slaineの母。

●Story

SlaineとUkkoは、DruneのSamainの祭事が行われるDrunemetonへ向かうため、「神聖なる森」に入る。
父親の依頼により、Druneの巫女-DruinessとなりSamainの生贄とされる娘Medbを救い出すために。
ここで父親から聞いた娘Medbが生贄にされるまでの経緯が詳しく語られる。

彼らの村では、6年ごとにDruneの兵士、The Skull Swordsがやってきて、健康な子供の中から籤引きで選ばれた者を、魔術師Slough Fegの洞窟へと連れて行く。村人たちはThe Skull Swordsから、村へ豊作をもたらすためと言われている。
Medbを含む選ばれた3人の子供たちは、地下へと降ろされ、立って歩くこともできないような迷宮を抜け、Slough Fegの洞窟へと連れてこられる。
壁画が描かれた岩の中からThe Lord Weird Slough Fegが現れる。他の子供たちが恐れ戦く中、Slough Fegの魔術に感嘆するMedbが、Druneの巫女として選ばれることとなる。

「神聖なる森」の奥にある、高い石壁に囲まれたDrunemetonに到達したSlaineとUkko。怪力で引き抜いた木を梯子にして侵入する。
MedbがSamainの生贄としての準備をしている小屋を見つけた二人。だがUkkoが屋根から落ち、侵入が発覚。
取り囲むSkull Swordsを次々と打ち倒すSlaineだったが、背後の壁から出された毒の短剣に刺され、意識を失う。
そして二人はDruneが儀式のために用意したThe Wickermanの中へ入れられる。

『Slaine: Warrior’s Dawn』より 画:Massimo Belardinelli

出た、ウィッカーマン!ケルト神話知識あまりなくても、これだけは知ってる人も多いと思う。

★ケルト神話 豆知識★

ウィッカーマン:

古代ガリアで信仰されていたドルイド教における供犠・人身御供の一種で、巨大な人型の檻の中に犠牲に捧げる家畜や人間を閉じ込めたまま焼き殺す祭儀の英語名称である。
英語でウィッカーマン(wicker man)という呼称は、編み細工(wicker)で出来た人型の構造物を意味する。

ウィキペディア 「ウィッカーマン」より

ウィッカーマンの中で、SlaineとUkkoはBlind Branを始めとする、捕らえられた顔見知りのならず者たちと再会する。その中にはSlaineの父親Roth Bellyshakerもいた。
父に向かって敵意をむき出しにするSlaine。
「お前はまだ俺を許してはくれんのか」「何があったんだ?」とUkko。
「俺はこいつの母親を殺したんだ…。」

Slaineの父Rothはかつては勇猛な戦士であり、そして母Machaも戦場でともに闘う女戦士だった。
戦の後、Slaineが生まれ、彼も勇猛な戦士となるべく、最初の食事は母の剣により供された。
年月が過ぎるにつれ、Rothは多くの時間を酒場で過ごすようになり、太ったその容姿からRoth Bellyshakerと嘲られ、戦士としての名誉も地に堕ちる。
そんなある日、部族の中で戦車によるレースが行われることとなり、日頃から自分の妻は戦車より足が速いと豪語していたRothは、行きがかり上妻に徒歩でのレースへの出場を頼まざるを得なくなる。
安全と思われた戦車の競技コースの縁を、先頭を切って走っていたMachaだったが、先頭争いにエキサイトした馬に踏まれ、幼いSlaineの目の前で息絶える…。

『Slaine: Warrior’s Dawn』より 画:Massimo Belardinelli

神話伝承などに時々現れる、えー…的なしょうもない死に方エピソード。
Slaineの母については、後にも色々な話が書かれるのだが。

「俺はこんなところで死ぬつもりはねえ!とっとと脱出するぜ!」Slaineは吠える。
「だがどうするんだ?俺たちゃ鎖に繋がれてんだぜ」「俺のドワーフはTir-Nan-Og一の鍵開け名人だ」Ukkoはその小さな指で次々と彼らを捕縛する鎖の鍵を開けて行く。
「盗っ人部隊のお出ましだ!とっとと脱獄するぜ!」

儀式のため、Slough Fegが上級女戦士Badb達とともに現れる。
Medbは既にウィッカーマンの頭部部分に死と太陽の神クロム・クルアハへの生贄として寝かされている。

★ケルト神話 豆知識★

クロム・クルアハ:

クロム・クルアハ(Crom Cruach)は、アイルランドで信仰されていたとされる戦いと死と太陽の神。人身御供を捧げる儀式が行われていたとされる。

ウィキペディア 「クロム・クルアハ」より

神話ファンタジー恐るべし…。悪の魔術師がなんか色々言ってて、このわかんないの巨匠の考えたやつかもしれないけど、一応調べとこうと思って検索したら、日本語のWikiまであった。神話ファンタジー・ファンからすると、お前これ一般常識レベルやぞ、ということかもしれんけど。これまでも見落としてるの結構あるのかもな。知識レベル低すぎて、そもそもちゃんと調べるべき言葉なのかが判別できなかったりするからな…。

ウィッカーマンに火が放たれる。拘束を逃れた生贄の罪人たちは、ウィッカーマンから飛び出し、鎖を武器にSkull SwordsやBadbと戦い始める。
Slaineは、ウィッカーマンにはしごをかけ、最上部にいるMedbの救出に向かう。最上部に到達したSlaine。だがはしごには逃げ遅れた罪人たちが次々に飛びつき、遂には倒れてしまい、SlaineとMedbは最上部に取り残される。

ここでまた思いつき、念のために調べてみたら、ありました、Badb…。ここで使われているのは、本来の闘いの女神の名前としてではなく、神官に従う上級女戦士という階級のようだが。いやもうMedbとBadbを混乱し、後から直して回ってたりするレベルなんだが…。Badbについては次の通り。

★ケルト神話 豆知識★

バズヴ:

バズヴ(Badb,Badhbh)あるいはバイヴは、ケルト神話に登場する戦いの女神である。
バズヴの名は「カラス」を意味し、しばしば彼女は物語の中でズキンガラスの姿をとって現れる。バズヴ・カタ(Badhbh Cath)とも呼ばれ、こちらは「戦いのカラス」を意味する。

ウィキペディア 「バズヴ」より

燃え盛るウィッカーマンの頂上。絶体絶命のピンチに、SlaineはWarp-Spasmの力を発動し、Medbを抱えてウィッカーマンから近くの沼へと飛び降りる。
燃えるウィッカーマンの中に息子の姿が消えたのを見たSlaineの父Rothは、仇を取るべくSlough Fegへと切りかかるが、逆に精神を操られ、自分の腹を刺す。
SlaineのWarp-Spasmを見たSlough Fegは、彼が敵対する大地と太陽を信奉する北の部族の者であることを悟り、殲滅すべくハーフ・デッドのグールたちを召喚する。

『Slaine: Warrior’s Dawn』より 画:Massimo Belardinelli

ハーフ・デッドの軍団はSlaineとウィッカーマンから逃れたならず者たちに襲い掛かってくる。
ウィッカーマンからの生き残りが次々と倒れて行く中、Warp-Spasmの力でSlaineはグールたちと死闘を繰り広げる。

『Slaine: Warrior’s Dawn』より 画:Massimo Belardinelli

何とかハーフ・デッドの軍団をすべて打ち倒したSlaine達。
だが、やっと助け出したMedbは、既に完全にDruneの宗教に冒されており、自分は助けなど望んでいなかったと、怒り出す。
滝に打たれ、Warp-Spasmから戻ったSlaineは、Ukko、Blind Branと共にMedbの父に彼女を渡しに行く。
再会を喜んだ父親だったが、完全にDruneの宗教に洗脳された娘の様子にショックを受けて、心臓発作を起こし死亡する。
強力な戦士であるSlaineを、Druneに勧誘しようとするMedbだったが、彼女を蹴り落とし、父親の乗り物だったマンモスに乗って去って行くSlaine。

父親が持っていた宝を見て喜びながら酒盛りをするSlaine達。
だが突如、Slaineが盃を落として苦しみ始める。
彼の身体は、ハーフ・デッドのグールの毒に冒され始めていた…。

■The Creeping Death 1983/Prog343 作画:Massimo Belardinelli

Slaineの身体に緑のうろこが現れ始める。全身がうろこに覆われれば、彼は死に至る。
死んだMedbの父親の私兵が、追跡してくるのを見て、時間稼ぎのためにUkkoとBlind Branは宝をばらまく。
宝を見つけ、奪い合う私兵たち。それは娘である自分のものだと言うMedbだが、兵たちはもはや彼女に従うつもりはない。
Slough Feggaのもとで身につけた魔術を使い、兵の一人の精神を操り、多くの毒蜘蛛に襲われる幻覚を見せるMedb。
その力に恐れをなした兵たちは、Medbの配下となる。

追手から距離を離したUkko達は、荒野の中にあるBlind Branのあばら家にたどり着く。
ドワーフの知識を使い、薬草を集めSlaineを治療するUkko。
だが、Medbの配下となった兵たちの捜索が迫ってくる。
UkkoとBlind BranはSlaineを藁で覆って隠した後、Ukkoが石鹼を使った変装で肌が爛れた病人を装い、病気を恐れた兵たちを追い払う。

■Bull Dance 1983/Prog344 作画:Massimo Belardinelli

Drunemetonに戻ったMedbは、Slough Fegの魔法により、Slaineがまだ生きていることを知る。
Slough Fegは、Slaine抹殺のため、配下の最強の魔術師とSkull Swordsの軍団を送ることを告げる。
更に、Medbには新たな使命が告げられる。北へ向かい、Slaineの属するレッド・ブランチを擁する最強の部族の王の妻となる。すべては彼らが崇拝するクロム・クルアハと敵対する、大地と太陽を崇拝する北の部族を殲滅するための準備だ。
Medbは、その重責に値する者であることを示すべく、訓練場の猛牛を踊るように操って見せる。

『Slaine: Warrior’s Dawn』より 画:Massimo Belardinelli

SlaineはBlind Branのあばら家で快方に向かい、起き上がれるようになる。
鉱山労働で暗闇の坑道にこもっているうちに視力を失ったBlind Branに、Slaineはお前の働いていた燧石鉱山はどうなったんだと尋ねる。
「閉鎖された。Damnallっていう武器鍛冶屋が村に現れてから、誰も燧石の武器を欲しがらなくなったんだ」
俺はすぐ曲がっちまう鉄の武器より石斧が好みだがな、とSlaine。
「そんな人気の新発明なら、俺もそいつに会ってみたいもんだな」と言うUkko。
「奴には近づくな。あれは悪党だ」とBlind Branは警告するが…。

最後の武器鍛冶屋に関するくだりは、続く「Heroes’s Blood」の前振り。
Damnallは、古代アイルランド語で「世界の力強い支配者」というような意味があるようで、Damnall Weaponsmithでなんかの意味を成すのだろうか、と考えたんだが、どうやらその武器鍛冶屋の名前らしいと気付くまで少しかかったり。こういうのが英語で不得手なファンタジーとか読むときにややこしいとこなんだよな。

というところで【前編】終了。
【後編】では空を飛ぶ船での戦闘などが、いよいよ真価を発揮するコミックレジェンドMike McMahonにより描かれる。乞うご期待!いや色々遅れてるんでなるべく頑張るっす。

Slaine / Pat Mills

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